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一人目の犠牲者

 イェダーニスは眠りに就くところだった。長い髪を乾かし、部屋の扉を閉め、ベッドに潜り込もうとしていた。

 ふと窓の外で影が動いたように見えた。慌てて窓に駆け寄ると、家の壁をトントンと叩く音が聞こえた。すると、窓の隅から黒い帽子に黒いマントの男が現れた。そして、イェダーニスの顔を見ながら再び壁を叩いた。警戒しながらそっと窓を開けると、小声でイェダーニスに話しかけてきた。


「お嬢さん、良ければしばし家に入れてはくれんかね。泊まる所が無くて困ってしまって」


 暗いので、イェダーニスからは男の人の表情をよく見ることが出来なかった。少々怪しい雰囲気を漂わせているが、全く信用出来ない人では無さそうだ、とイェダーニスは感じた。人の往来の少ないこの村には確かに宿泊施設は無いので、泊めてあげてもいいかなと思った。けれどやはり両親に許可を得なければならないとは思った。


「ちょっと待っていてもらえますか?」

「出ろと言われれば直ぐ出ていく。それでも駄目かね」


 悪い事をするわけでも無いし、親に見つからなければ構わないかと思い直し、イェダーニスは窓を更に開けた。


「それならいいですよ。但しお静かに」

「勿論。では失礼する」


 男は器用に窓から家の中に入り込む。

 そして、まっしぐらにイェダーニスの方へ近づく。身の危険を感じた次の瞬間には、イェダーニスの両腕は男の左手でがっちり押さえられていた。


「止めて……」


 声を上げるも、すぐに右手が口を塞ぐ。男がのし掛かって来るのに耐えられず、イェダーニスはベッドに倒れ込んでしまう。男は右手を離して、口を開きかけたイェダーニスの耳元で囁く。


「静かにしていなさい。そうだ、それでよい」


 そして口を閉じたイェダーニスの顔を左に向けさせると、髪を払って首元を露にさせた。恐怖に染まった顔を一瞥(いちべつ)すると、鋭く尖った犬歯を見せニヤリと笑った。

 触れそうなくらいに顔を近づけると、その尖った犬歯を首元に突き立てた。真っ赤な血が流れ出して首筋に線を描いていく。数滴さえも惜しむように、男はその滴る血を舐めとる。そのまま音を立てずに血を吸い尽くしていく。抵抗しようにも、既にイェダーニスには悲鳴を上げる力さえも残っていなかった。イェダーニスは、血と共に体温も奪われているのを感じていた。

 いつしか首筋から唇が離れた。僅かに意識が残っている間に、男は

「おやすみなさい、お嬢さん」

と呟き、家の奥へと入っていく。

 声を聞いたのを最後に、イェダーニスの心臓は完全に動きを止めた。



**************************



 イェダーニスの行方不明が発覚したのは、男が家に入った日から一ヶ月ほど経った後だった。大した事件も起きない村なので、そのニュースは瞬く間に全員へ伝わった。家族で同じ家に住んでいるのに気付かないなど変かと思うかもしれない。

 けれども事実、周囲の人は気になっても、家族は全く気付きもしなかったのだ。イェダーニスは虐待でも受けていたのか、いや違う。違うことは確かだが、何故か家族の誰一人としてイェダーニスがいないことだけでなく、存在していなかったかのようにイェダーニスについて記憶していなかったのだ。


「娘さんはお出かけですか?」

 母親に聞いてみた人がいたが、

「あらあら、家には一人息子しか居ませんよ」

と笑って返されるだけだった。


 それでも、イェダーニスの友人等が必死に説得した甲斐あって、やっと母親だけは思い出した。イェダーニスの部屋を探しても布団が乱れているだけで無くなっている物は何もないし、イェダーニスを見たと言う人すら現れない。

 母親は三日三晩、村中を探し回ったが、とうとう手掛かりすら見付けることは叶わなかった。母親は

、イェダーニスは死んだものと思おうと決心した。母親の願いを聞き入れ、村人達も探すのを止めた。





 だが、これはほんの始まりに過ぎなかった。

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