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電車─7/18/AM→PM

 「それで?」


 そんなことを考えていたら、ひなたが質問してきた。視線が僕ではなく、僕の足下………大きなリュックに向いているような気がするのは、恐らく僕の勘違いではないだろう。


 「な、なに?」


 あえて、その視線には気付かないフリをして時間を稼ぐ。


 そうだった……。僕は完全に失念していた。そもそもなぜひなたが来る前に家を出ようとしたのか。


 ひなたの目は、既にリュックを離れて僕に移っている。


 僕は冷や汗をかく。……だって柔らかくなったと思っていたひなたの目が、また詰問するように鋭くなっていたから。


 その目をどう誤魔化そうか必死に考えていると、ひなたが突然ニコリと笑った。


 「どこか、出かけるの?」

 

 怖い……。何が怖いって、顔は笑っているのに、目が全然笑ってない。


 二度目はない。ひなたの目はそう言っているようだ。


 冷や汗の量が倍くらいになる。


 「う、うん…」


 どうにか絞り出した声。ひなたは間髪入れずに聞いてくる。


 「どこに?」


 「…遠いところ」


 「どれくらい?」


 「…すごく」


 「何しにいくの?」


 「…色々」


 「誰と?」


 「……………………………」


 わかるだろうけど、語彙が少ない小学生が、言い訳してるみたいになってるのが僕だ。答える度に、ひなたからの怒気(オーラ)が濃くなっていく……ような気がした。


 「だ・れ・と?」


 ひなたが質問(て言うより詰問)を、わざとらしく区切りながら繰り返す。


 「ひ、独りで…」


 答えた瞬間、ひなたの怒気(オーラ)がとんでもない事になった。


 コップで例えるなら、中に注いだ液体が、表面張力でぎりぎり零れずにすんでいるような状態だ。あと一滴でも液体を注いだら溢れ出してしまう。


 「……いつまで行くのかしら?」


 口調が丁寧になった。返答次第ではただじゃすまないだろうな……。


 でも、僕は正直に答えるしかない。嘘をついたところで見破られて無駄に怒らせるだけだからだ。僕は自殺願望は持ってない。


 ある種の覚悟を決めて僕は答えた。


 「夏休み中は帰ってこない………と思う」


 「………………」


 ひなたに最後の付け足しが聞こえていたのかは解らない。


 しばらくの沈黙があった後、ひなたは笑った。


 いや、元から笑っていたんだけど、質が変わったって感じだ。まるで子どもが悪戯を思いついた時みたいな、そんな笑顔だ。


 僕は、一層油断ならないと思って気を引き締める。


 「ねえ」


 「は、はい」


 「私を連れてくか、今ここで学校の先生に連絡されるか……どっちがいい?」


 

 ───電車───



 そんなことがあって、僕の隣にはひなたが座っていて、ぐっすり寝ている。


 最初は指定席で買っていた切符も、ひなたと座るためにわざわざ、自由席に買いなおした。正確に言うと買い直された。そのおかげで、一時間くらい立ちっぱなしになった。


 「まったく、あそこで《親》とは言わないところがひなたらしいよ……」


 ボソッと独り言を呟く。


 ひなたは僕が嫌がることをよく知っている。


 あそこで親に言うと言われても、僕はひなたを連れて行こうとは思わなかっただろう。バレたところで反対するような親じゃないのは僕がよく知っているし、母親に至っては、ご飯の作り置きをしなくて済むとかで賛成しそうだから。


 でも、教師だとそうはいかない。


 未成年で、しかもまだ中学生の《子ども》が独りで電車に乗って、1ヶ月以上に、渡って外泊するのだから、当然止められるし、親にも報告される。うちの親も世間体はある程度気にしているから、そうなってくると行かせてくれないだろう。


 それを見越して、ひなたは《親》ではなく、《先生》と言ったのだ。まったく、(したた)かな幼な

じみだ。





 しばらく、ぼうっと外を見ていると、放送が聞こえてきた。


 『まもなくー、△△です。お出口は右側になります。足下にお気をつけて御降車ください。……………』


 降りる駅だ。


 荷物を上の棚から下ろし、ひなたを起こす。


 「んー? ……ついたの?」


 「もうすぐつくよ。起きておいて」


 まだ、寝ぼけた様子のひなたに言いながら、僕は内心、昂ぶっていた。


 やっと、旅が始まる。今から降りる駅からはまったく、未知の世界なんだ、と。


 都会育ちの僕としては、電車から見える、緑の風景は新鮮だった。


 でもだからこそ、電車ではなく、自分の足でじっくり歩きながら、自分の速さで見たかった。


 今から降りる駅周辺だと、まだまだ都会だ。でも、ここからは徒歩や車、自転車を使い回しながらの移動になるだろう。


 でも、僕にはそれが楽しみで仕方なかった。


 たとえ大変であろうと、そうであることこそが、僕がしていることが、旅であることの証明のような気がしてならなかったからだ。 

 


読んでくださってありがとうございます!

サブタイトルに、日付を付けてみたのですが、物語がいかに進んでないかよくわかる………。

このペースでいって、夏休み最終日には、何万字なるのやら……と、作者も不安になってますが、頑張って書き上げる所存です!

温かい目で、見守ってください。

では、また次回会える事を祈って!



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