ちょっと長かった自己紹介(プロローグ)
その日の放課後。
ひなたのおかげでなんとか学校を乗り切った僕は、ひなたと二人で一緒に帰っていた。
一応言っておくと、一緒に帰ろうと誘ったのは僕だ。
誘った瞬間、ひなたは目を丸くして驚いていたけど、関わるなって言ってきたくせに、と笑いながらうなずいてくれた。
「ひさしぶりだね。一緒に帰るの」
「うん」
「付き合っていた時以来じゃない?」
ちょっと、意地悪く笑いながらひなたが言う。
「そうだね。3ヶ月ぶりだ」
僕とひなたは中学二年のときから、三年の四月まで付き合っていた。
別にどっちかから告白したとかそうゆうことはなかった。
ただ、学校でも、放課後でも、休日でも当たり前のように一緒いた僕らは、当然、周りにも付き合っていると思われていたから、なんとなく自分たちでも付き合っているんだろうな、と思っていた。
「そっかー、もう三ヶ月も経つんだね。早いなー」
その関係を唐突に変えたのは、僕だった。
僕が小説家になりたいと思ってから、変わってしまったモノの中でも、特に僕にとってマイナスだったのが、ひなたとの関係だった。
僕が孤立していったってことはさっきも言ったよね。そこに、ひなたと別れた理由もある。
「あっという間だったな」
本当にあっという間だった。友人だった人たちが僕から離れていくのは。
だが、当たり前だろう、とも自分でも思っていた。一緒にいて楽しくない奴と無理に一緒にいる必要はない。要は、その程度の関係だったと言うだけだ
でも、僕が、その中でも離れていってほしくないって思ったのは、ひなただった。
全くもって、身勝手な考えだと自分でも思う。いろんな人がどんどん離れていくのは放っておきながら、ひなただけはそばにいてほしいだなんて。
でもね、同時にこうも思ったんだ。僕が孤立するのは仕方ない、でも、ひなたも引っ張ってしまったらだめだ、ってね。
「もうすぐ夏休みだねー。中学最後の」
だから、僕は彼女に別れを宣言した………つもりだった。だけど、実際に僕が言えたのは、『学校では、話しかけない方がいいんじゃないかな』と言う言葉だった。『学校では』なんて限定してしまうところが、我ながら情けない。
そう言ったとき、ひなたはおとなしく、『わかった』っと言って、その日から学校では話しかけてくることはなくなった。お互い、まだクラブも引退していない時期だったので、相手のクラブが終わるのを待ってから一緒に帰ることもなくなった。
でもその日、家に帰った瞬間、先に帰ったらしい、しかも当たり前のように僕の家(部屋)にまで入っているひなたに『なんであんなことゆったの!?』と、激しく詰問を受けた。学校での、大人しかった態度とはまるで違う、いつも通りのひなただった
「そうだね。ひなたはなにか夏休みの予定あるの?」
僕が必死に質問に答えると、ひなたはしぶしぶながらも納得してくれたようで、学校以外では、それまでと同じような関係が続いた。
唯一変わったことといえば、ひなたが、休日になったらほぼ必ずと言っていいほど僕の部屋に来るようになったことか。
僕が休日になると部屋から出なくなることから、引きこもりにならないよう心配していたのかもしれない。
「まだ、なーんにも考えてないよ。そっちは?」
「僕もだよ。なにも、考えてない」
「ふーん」
「興味なさそうだね」
僕は、ひなたのその反応に思わず苦笑したんだ。
「ねえ」
「なに?」
「……なにか言いたいことあったんじゃないの?」
「あったけど、いまはやめとこうかな」
「なんで?」
ひなたが、言えよっとせっつくように僕を見ていた。
「だって、言うのはいつでもできるから」
「…そっか」
そこからは家に着くまで、たわいもない話をして別れた。もう何を話したのかも覚えていないな。
けど、当時……いや、もう今でいいかな。
家に入り、階段を上って、部屋の扉を閉めたとき、僕は笑った。いつでもできるだなんて、よく言ったものだって。
さて、明日から何しようか。学校は終業式だろうけど、もちろん僕は行かない。
今日のことで、みんなとの距離を修正するのは困難だとはっきり解った。この状態で、夏休みなんか挟んだら、もう本格的に修正不能だろう。
だからって、明日だけで修正出来るようなモノにも思えない。
なら、独りで先に夏休みとさせてもらおう。
僕の物語を書くのに、学校はいらない。
いるのは、僕だけだ。
やっと、この長い自己紹介を終えることが出来る。
え、一番大事な事が買いって無いって?
僕の名前?
そういえば、こんなにページ数を使っているのに、僕の名前を書いてなかった。
なら、この長い、自己紹介の最後に書いておこう。
僕の名前は高梁翔太。
これから始まる物語の、語り手兼主人公だ。