俺の後輩はアイスが大好きです。
溶け始めてますよ、とアイツはちょっと屈んで俺のアイスをペロリと舐めた。それはちょっとしたお節介なんだろう。
ジュースの回し飲みもする気の置けぬ仲だ。ちょっと舐めるくらい構わない。
が、何食わぬかおして一口食べてったのは確信犯。唇をペロリと舐める舌を引っ張ってやりたい。「間違って食べちゃいましたテヘペロ」じゃねえよ。
「お返し」と一口アイツのアイスに噛み付けば、アイツが焦った様に俺のアイスに食らいつき、競争の様に瞬く間に棒だけになった。
余計暑くなった気がする。
「不毛だな」
当たり棒を物欲しそうに見つめる視線を無視し、汗を拭って空を見る。雲一つない快晴だ。別の季節なら気持ちいいんだが、夏場は寧ろ辛い。
「人間って小さい生き物ですね」
ぎらつく太陽を顔にかざした手の指の隙間から二人で睨み、当たり棒を握りしめて再びコンビニにとんぼ返りした。
「おごりとか、先輩漢前ですね。見直しました」
「自分で買え」
「人間って小さい生き物ですね」
「さっきと同じセリフなのに一語変えるとスゴく毒感じるな! つか、ついさっきおごっただろ」
ついさっきだけじゃなく、割と頻繁におごっている。
「ハー○ンダッツが食べたい」
「おごられる側なら遠慮しろ」
真顔の要求を真顔で棄却する。
「ではバン○ーテンで」
「譲歩の意味辞書引いてこい。ガ○ガリくん一択だ。他は認めん」
「喜んでゴチになります!」
何だかんだ言いながらコイツは結構ガ○ガリくんが好きだ。犬が尻尾を千切れんばかりに振る様に上機嫌で付いて来る。先程までのだるそうな様子はどうしたと言いたくなる。
「先輩、早く早く!」
プリーツスカート、振り返ったアイツの膝上で踊る。アイツの手が俺の腕を掴み、急かして引っ張る。
無邪気で、柔らかくて、熱い。
嫌な具合に暑さが増した気がした。
「そう急かすなよ。アイスに足なんか生えてねえから逃げやしねえから大丈夫だって」
「生えてたら大脱走ですね。超怖い。だが全て仕留めてハントしてみせる」
無駄にキリッとしたアイツに、バカ、と呆れ顔で憎まれ口を叩きながら、内心ほっとする。腕を捕まれて上がった体温に気づかれた様子はない。
「ったく。夏は暑いな」
「だからアイス!」
「わかったよ」
アイスで頭がいっぱいなアイツの笑顔がそれでも可愛いとか、俺、終わってんなあ、と溜息に諦念を紛らせ吐き出した。