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『COREーゼロ』 魂の戦士達  作者: 松ノ上 ショウや
第一部 目覚めた、その「魂」たち
8/12

第八話 曲がらぬ斧れと、減らず銃口(ぐち)

 今回はやや短めの話です、1話完結の予定でしたが……予想外に長くなりそうなので次の話へと続きそうです

「えっと……つまり、淳が調査に言った理由が『新装備』の実験で」


「その『新装備』の正体が、未だにコアーズへと変身出来る適合者が見つかっていないコアシステムを利用して新たな適合者を発見する装置。よ、武君」


「で、その結果、幸運な事に見つける事が出来た新しいコアーズってのが……」


 ボアボルガードをクラッシャーが打ち破り、もう一体の水棲ボルガードもアクアが撃破がしたことで本部に帰還した武と美歌は、月草や白波から聞いた話を合わせて復習するように語り合う。


 そして、その最後には二人の無事の確認と、新しい適合者を見るために駆け付け、全員が集合しているディレクションルームに辿り着いて、新しい適合者の姿を見た途端に不機嫌になった御八が、そう不貞腐れたように言うとじろりと、視線を動かした。


「おお、なんか見知った顔も多いみたいだが……まぁいいや、改めて自己紹介するぜ。俺は岩地鉄雄! 武とは互いに熱い絆を持つ親友だ! そして俺の夢は真の漢になる事だ! これからよろしくなっっ!!」


 そんな御八の視線や、新しい適合者に注目しているAMBT職員達の視線も鉄雄は特に気にした様子は無く堂々と、その大柄の体に相応しい肺活量でディレクションルーム内全てに響いて反響させるような大声でそう挨拶した


「ふん……馬鹿に相応しい、まさに馬鹿のような大声だな」


 鉄雄の凄まじい大声にディレクションルームにいた月草を除くAMBT職員や白波が驚愕し、宇治原が苦笑する中、御八は冷たく鉄雄にそう冷たく言った


「あぁん? 何か言ったかこの全身ガリヒョロ野郎、声が貧弱で弱すぎてマヌケがブツブツ言ってるようにしか聞こえなかったぜ?」


 御八の一言を耳にした瞬間、上機嫌で自己紹介していた鉄雄の額に青筋が走り、鉄雄は鈍く首を動かすと殺気を込めて御八を睨み付ける


「……丁度いい、俺達は互いにコアーズとなったんだ。ここらでハッキリと実力の差ってのを教えてやるか」


 鉄雄の言葉に御八は口振りこそ平静を装っているが、明らかにイライラとした様子で自身の銀髪を弄っている所から見ると本当に冷静であるとは言えないようだ


「ふん、ゴチャゴチャうるせぇ奴だ。要するに俺に喧嘩を挑んでるんだろう? 望むところだぜ」


「ふ、二人とも……」


 以前見た時と同じく、いやそれ以上に強く互いに殺気をぶつけ合う二人を見て武が慌てて割って入るように前に出てきた


「……下がってろ武、あのガリヒョロ野郎、分からねぇが何かを企んでやがる。いくら俺でも下手にこの場で殴りかかったりはしねぇよ」


 油断せずに御八を睨み付けながら鉄雄はそう言って、そっと武をどかすと御八に向かって一歩詰め寄る。それは、たった一歩ながらもそれだけで地響きが起こりそうな程に凄まじい物ではあったが、御八は怯んだ様子も無く、首を動かして月草に視線を移し、静かに口を開く


「月草司令官、ウィンダムが戦線復帰可能かどうかの最終確認、およびクラッシャーの正確なデータ採集の為にウィンダムとクラッシャーの模擬戦を提案しますが……どうでしょうか?」


「ふむ……御八、それは確かに悪くない提案。そう言っても何ら差し支えは無いだろう」


 御八の言葉を月草はじっくりと聞くと、そう言いながら静かに頷く


「良いだろう、ウィンダムとクラッシャーの模擬戦を認める。場所は地下訓練所、時間は今から十分後だ。……一応、聞いておくが鉄雄、先程の戦闘で君に体調の不備は?」


 月草は一気にそう言うと、最後に確認するかのように鉄雄に視線を向ける


「あぁ、問題は全く無しの無傷だぜ月草さん! いつだってあのガリヒョロ野郎を叩き潰せる!!」


 月草の言葉を受けると鉄雄は胸を片手で力強く叩いて自身の好調っぷりを強くアピールしながら大声でそう答えた


「はは……元気が溢れているようで何よりだ。だがな鉄雄、急に変えろとは言わないがここ、AMBT基地では私の事は『司令官』と呼ぶようにしてくれ。友達の父に過ぎなかった男に、いきなり特別な呼び方をするのは慣れないだろうが……示志のような物なんだ。頼む」


「あぁ……なるほど、確かにケジメは大事! わかったぜ!月草さ……月草司令官!」


 と、そこで鉄雄の言葉を月草が少しだけ苦笑しながら優しく正すと、鉄雄は素直にそれを受け止めて大きく頷くと月草に向かってどこか不恰好な敬礼をしてみせた


「そうだ……せいぜい今のうちに喚いているんだな。試合後にはお前は俺に風穴開けられて、死にはしないが痛みと屈辱で動けなくなってしまうんだからな……」


 そんな鉄雄の敬礼を小馬鹿にしているような目で見ながら、御八は余裕たっぷりにそう言うと挑発するように指で鉄雄を撃つような仕草をしてみせた


「上等だ! 俺流の大地を震わせる漢道、その細い体の骨の髄にまで叩き込んでやらぁっ!!」


 鉄雄も御八をしっかりと睨み付けながら、そう言うと片腕だけで御八の骨をへし折るようなパントマイムを見せ、二人の間に不可視の、しかし今にも火が付いて大火事になりそうな程の火花がぶつかった


「鉄雄……御八……二人とも……」


 そんな闘志剥き出しでいがみ合う二人を見ながら、困ったように呟く武


「武君、今は司令官を信じましょう……」


 そんな武に寄り添い肩にそっと手を当てると、励ますように美歌は優しくそう優しく告げながら、そっと月草に視線を向ける。


「………………」

 

 月草はそれに対して何も語らず、ただ『任せておけ』とでも言うように、口元に小さな笑みを浮かべると美歌に小さくウィンクしてみせた



 そして、それから月草が定めた通りのきっちり十分後、地下訓練所では互いのコアシステムを構えて闘志全快と言った様子で向き合う御八と鉄雄の姿があった


「さぁて……俺に撃ちまくられてボロボロで負ける覚悟は出来たか?」


「へっ、その減らず口を二度と吐けねぇ程に叩き潰してやるよ……!」


 互いに相手に対して宣戦布告するかのように罵声を浴びせるが御八も、そして短気で頭に血がのぼりやすい鉄雄でさえも相手が投げ掛けて来る言葉など眼中になかった


『相手が何を言おうが、この模擬戦でぶちのめして自分の強さを思い知らせる』


 いがみ合い、互いに相反する筈の御八と鉄雄ではあったが、奇妙な事に今、この場でだけはその一つの考えが共に一字一句逃さず同じだったのだ


『そ、それでは、二人とも同時にセットアップを……!』


 そんな二人を、御八と鉄雄のバイタルやコアエナジーの出力を写し出す観測モニター越しで、心配そうに見つめながら観測室で背中を月草、そして武と美歌に見守られながら白波はそう指示を出す


「セット……アップ!!」


 その瞬間、御八は自身の腰に緑色に光るコアシステム。CORE -ゼロシステムNo.4を起動させてガンホルダーに似た緑と銀のベーシックアームを出現させると即座にアーマーにコアシステムを嵌め込み、音声コードを叫ぶ。


「セッット……!!」


 そんな御八から僅かに遅れて鉄雄をは、乱暴に力強い紫色に輝くCORE - ゼロシステムNo.5を片手で握りしめると腹にかざし、鈍く光る錆色の銀に草書体で『岩』『鉄』『地』『土』と4つの漢字が刻まれたベルト状のベーシックアームを出現させると、勢い良くベルトの中央にコアシステムを嵌め込むと、そのままの勢いで自身の握り拳通しをむねのまえで打ち付け、大声で叫ぶ


「アップッッ!!」


 次の瞬間、耳の鼓膜を大きく震わせ、そのまま脳に到達しそうな程に大声で音声コードを入力すると同時に鉄雄は片足を高く上げて土煙が上がるほどに強く、しかし美しい四股踏みを放った


 と、鉄雄が足を下ろした途端に鉄雄の体を砂嵐のように微細で細かい茶色のコアエナジーが包み込む


『ファングス! スタート!』


 そして、先に音声コードを入力したため一瞬早く御八からの変身を終え、若草の木々を思わせるような緑のボディと細い体でハンドガン型の銃、ファングスを構えるウィンダムが姿を表すと、それと同じタイミングで砂煙が晴れ、二メートルに達する見上げるような体格と、菖蒲の花のような鮮やかな紫色が基本の異様な程に巨大で強靭な和甲冑とその上に纏った分厚い茶の毛皮が特徴的な陣羽織が特徴的な鉄雄が変身したコアーズ、クラッシャーが現れた


「さぁて、いつでも来いや。この……」


 銃を向けてるウィンダムに軽く目をやると、クラッシャーは軽く首を鳴らし手招きしながらそう言い


「くたばれ、木偶の坊っ!」


 次の瞬間、鉄雄の言葉が終わらないうちにウィンダムは迷わず、構えてもいないクラッシャーの胸部目掛けて引き金を引き、ファングスの銃口から緑色の無数のエネルギー弾を発射させた



「ちょっと御八君! 私、まだスタートって言ってないわよ!? あぁ、鉄雄君も迎え撃たない! 二人とも話を聞きなさいって!!」


 模擬戦開始早々から、フライングで先制攻撃と言う問題を起こす御八に半ば悲鳴のような声で白波は叫ぶが完全に戦闘体勢に入った二人の耳には聞こえていないようで、一階の訓練所では既にウィンダムとクラッシャーが火花を散らす凄まじい激戦を繰り広げていた


「あぁ、もう……全く二人とも……。司令官、この模擬戦は本当にやるべき事だったのですか?」


 さんざん叫んでも二人がまるで言うことを聞かずに戦いを続ける二人に業を煮やして、制止を諦めた白波は額に滲んだ汗を拭いながら振り返り、背後でさも面白そうにウィンダムとクラッシャーの戦いを見守る月草にそう問い掛けた


「なに、御八に鉄雄その二人ともが見て分かる通りに互いに相手を意識して血気盛んな様子だからな……あのまま放置していたら二人が決着が付くまで私闘を始めかねないのは火を見るより明らかだろう? それがもし、私達の目に入らない所で行われたらたまったものではない」


 そんな確信に満ちた月草の言葉に、その場にいた全員、特に鉄雄という人間を詳しく知っている武は鉄雄ならば間違いなく御八に喧嘩を仕掛けるだろうと確信して小さく苦笑した


「だったら、こうして私達と言う立会人がいる状況かつ、模擬戦と言う形で二人の決着を付けてやる方がこれから先、二人に起こりうるトラブルを未然に防ぐためには最善だと私は思う。……それに、御八の意見にも確かに一部、正論ではあったからな」


「分かりました……司令官。私は、当初の予定通り二人の模擬戦の観測を続けます」


 何やら上手く言いくるめられてしまったような気がしながらも、月草が二人を止めるつもりは無いと言う事を悟った白波はため息を付きながら再びモニター画面に向き直る


「何、そうぼやくな白波君。本当に危なくなったら、御八の提案を引き受けた私、自ら止めてみせるさ」


 そんな白波を励ますような口調で月草はカラカラと笑いながら、しかし伊達や虚仮おどしでは決して無い自身を持った様子でそう言った


「……あぁ、そう言えば武君、少し良い?」


 と、そこで自身にとっては少しばかり見慣れていた月草と白波のやり取りを困ったように笑いながら黙って見ていた美歌がウィンダムとクラッシャーの戦いに視線を戻しつつ、武にそっと尋ねる


「あ……うんっ! 何、美歌?」


 美歌の言葉を聞くと武は、現在進行形で行われている二人の戦いをあらゆる角度から鮮明に映し出すモニター画面を少しだけ何処か名残惜しそうに見ながらも直ぐ様、美歌に体ごと向き直ると無邪気な笑顔を向けながらそう言った


「あぁ、武君。大した話では無いから試合を見ていて構わないわ……よっ?」


「わっ!? みきゃ!?」


 そんな何処か犬のような武の行動を見て微笑みながら美歌は、腕を伸ばして武の肩をそっと掴むと再びモニター画面へと向かせると、最後に冗談のように武の頬を突っつきながらそう言い、その行動を予想出来なかった武は目を白黒させて上ずった声をあげた


「もう……からかわないでよ美歌」


「ふふ……ごめんね武君」


 そんな意表を付いたかのような美歌の行動に困った様子でそう言うと、美歌は微笑みながらもごく自然な動きで肩から手を動かすと武の頭をそっと撫でてそう言った


「もぅ……」


 まるで反省した様子の見えない美歌のその行動を見て武は少しだけ頬を膨らませて剥れた様子を見せながらも、それ以上は何も言わず黙って美歌に頭を撫でられていた


「それで美歌、用事は何?」


「うん、それはこの模擬戦なんだけどね……」


 そう言って美歌は武が制止しないので頭を撫でたま、モニターに視線を向ける


 そこに写し出されているのは、壁を蹴り、必要とあらばクラッシャーの足元をすり抜けながら素早く訓練所内を移動し、手にした銃を次々と変化させながらクラッシャーに新緑のような鮮やかな緑に光るエネルギーの弾丸を一方的浴びせてゆくウィンダムの姿であり、一方でそれを追いかけるクラッシャーは時折リーチの長い斧の先端が移動するウィンダムの装甲を掠める事があるものの、それ以上にまさしく雨霰の如くウィンダムのエネルギー弾を全身に受け常に装甲から火花を散らしていた。


「……正直に言って武君は、この模擬戦で勝つのはどっちだと思う?」


 そんなウィンダムの独走のようにしか見えない戦いを見ながら、美歌は何気ない様子でそう問い掛けた


「う~ん……そうだね……俺の見た感じだとこの試合は、このままだったら……」


 そんな問いに、武は顎に手を添えて考え込むと、少し悩んで一つの答えを口にした





「このままだったらクラッシャー……鉄雄の勝ちかな」




 武がそう口にした瞬間、モニター画面の中では飛び散る火花と土煙で覆われていたクラッシャー。その仮面の奥に隠された桜色の目がギラリと輝いて自身に発砲を続けるウィンダムを睨み付けた




「くっそ……いい加減に倒れやがれ!」


『ニードルズ! スタート!』

                      

 イライラした様子でウィンダムは腰のコアシステムに触れ、一瞬にして手にした銃をサブマシンガンに似た姿、ニードルズに変えると直ぐ様トリガーを引き、鎧の重量等などまるで気にせずに突進してくるクラッシャーの仮面の奥の目、戦斧を掴むグローブのような巨大な手、そして頑丈な装甲の中で唯一隙間が見える腕と足の関節に狙いを付け、次々と凄まじい勢いで発射される針状の形をした緑色のエネルギー弾を放った


「おぉっ……!?」


 瞬きする間も無くその弾丸は全てウィンダムの狙い通りの箇所に命中し、クラッシャーの紫の装甲からは火花があがる。が


「ハハッ……効かねぇってんだろ……! そんな豆鉄砲みてぇな一撃がよぉお!!」


 クラッシャーは関節にエネルギー弾が命中した事に驚いてはいたものの、まるで攻撃に怯んでいないかのようにそう豪快に笑い飛ばした。その言葉が確かな事を頷けるように、クラッシャーの紫の装甲には僅かに火花による焦げ目がある以外は傷一つ無く、それはエネルギー弾が正面から命中した筈の仮面の奥の目までもが同じことだった


「ちっ……この馬鹿装甲め……っ!!」


 フライングをして初手に弾丸を当ててから、ずっと自身が攻撃を命中させているものの、まるでダメージが通った様子も無く、それどころか疲労すらしていない様子のクラッシャーを見てウィンダムは乱れ始めた息を整えながら舌打ちし、悪態を付いた


「今度はこっちから行くぜぇ……漢気! 怒土涛鬼利(どとうぎり)ぃ!!」


 そんなウィンダムの様子などまるで気にした様子は無くクラッシャーは豪快にベルト状のコアシステムを触れ、自身の意思をコアシステムに伝える


『ドトウギリ!』


 クラッシャーの意思を受け取ったコアシステムは電信音声で必殺技の名前を叫んでそれに答え紫のコアエナジーをベルトからクラッシャーの体を伝わらせて構えた戦斧に流し込む


「行くぜ、モヤシ野郎っ!!」


「ちっ………こうなれば……」


 まるで軽い錫杖でも手にしているように軽々と変幻自在にコアエナジーの光で紫色に輝く重い戦斧を回転させながら、接近してくるクラッシャーを見てウィンダムは軽くだが再び舌打ちをすると手に持った銃を目にし、自身に残されている体力を考えると、どうにか逃走しようとしていた足を止め、静かに立ち止まると腰のコアシステムむ手を伸ばした


「くらいやがれぇえっっ!!」


 そんな無防備な体勢のウィンダムを見てもクラッシャーは空気を裂いて不気味なうなり声を上げ、土煙を巻き上げる戦斧を止めようとはせずウィンダムに向けて躊躇無く降り下ろした


「今だっ……!!」


『キャッチャーズ! スタート!』


 その戦斧がクラッシャーとは対照的に細く薄いウィンダムの装甲に迫った瞬間、ウィンダムは銃をコアエナジーの力によりサブマシンガン状の『ニードルズ』からフックランチャーのような形状の『キャッチャーズ』に変化させると直ぐ様ランチャーから細く強靭なワイヤーが取り付けられたフックを射出し、訓練所の壁にフックが刺さったのを確認するや否や直ぐ様フックを巻き取りながら空中へと飛び出し、ウィンダムはあわや数センチに迫った所でクラッシャーの戦斧を空中に逃れる事で回避した。が


「まだまだぁっ! 逃がすかよ!」


 クラッシャーは訓練所の床に大穴を作りそうな勢いで力強く床を蹴って、流石に鎧の重量でウィンダムより低いものの豪快に空中に飛び上がり、再び斧をウィンダムに向ける


「なっ……!!」


 キャッチャーズを手に空中を移動していたウィンダムは無防備な自身に投擲された砲丸の玉のように迫るクラッシャーに目を見開き


「……って、俺が言うと思ってでもいたか? 脳筋野郎」


 次の瞬間、まんまと自身の目論見にクラッシャーが乗った事を嘲笑うように意地悪くそう言った


「なにぃ……?」


「いくらお前が馬鹿みたいな鎧を持っていても……」


 戦斧を振るう手を休めないながらもウィンダムの言葉に訝しげな声をあげるクラッシャー。そんなクラッシャーを無視するかのようにウィンダムは空中で静かにキャッチャーズの側面に取り付けられたスイッチを押してフックに取り付けられた刃を引っ込めて壁ならフックを取り外すとそのまま、ワイヤーを右腕で握り締める


「拘束された上で……っ!」


 ワイヤーが戻ってくる勢い、フックの重量、そこに更にワイヤーを円を描くように回転指せる事で勢いを付けたしながらウィンダムは迫るクラッシャー目掛けてワイヤーを放り投げた


「ぬおっ……!? このっ……」


 投げられたワイヤーはまるで意思を持っているかのようにクラッシャーの体をがんじがらめにするように絡み付き、強制的に斧を振るう手を止めさせる。それをクラッシャーが咄嗟に引きちぎろうとした瞬間にはウィンダムは既にコアシステムに触れ、キャッチャーズはワイヤーだけを残して緑の光に包まれたかと思うと瞬時にその姿を変える


『オーガーズ! スタート』


「この一撃が防げるかなっ!?」


 キャノン砲を思わせる姿をした超大型銃、『オーガーズ』をクラッシャーの脳天に目掛けて構えながら叫ぶとウィンダムはコアシステムに再び触れ、大量のコアエナジーをオーガーズへと注入する


『オーガーズ!! ジェノサイドキャノンズ!』


 エネルギーが充填されると共にオーガーズの砲口がモニター越しに見ている武や美歌でさえ目が眩んでしまいそうな程に激しい光が溢れ、それは性格にワイヤーを自身の怪力で強引に半分ほど引きちぎったものの未だに満足には動けていないクラッシャーの脳天に正確に狙いを付けていた。しかし『それがどうした』と言わんばかりにクラッシャーは全く闘志を失わず、絡み付いている残りのワイヤーを無視して片手で戦斧を振りかぶりウィンダムに向ける


「これで終わり! 宣言通り俺の勝ちだ!」


「土俵際上等ぉ! こんな程度の不利なぞぶち破って逆転勝ちしてやらぁああっ!!」


 そして、そんな互いに全快の闘志が隠った声と共に一瞬、ウィンダムとクラッシャー緑色と紫色の二色コアエナジーの光が交差するように重なり


 次の瞬間には一気に空中での大爆発と言う形で爆ぜ、爆風に伴う爆煙で周囲の視界が効かなくなるとやがて二つの物体が訓練所の床に落ちる音が響き、それと同時に換気装置が作動された。


「うがっ……い、いてぇ……ちきしょう……あの野郎……あんなのを懐でぶちかましやがって……」


 と、訓練所内に取り付けられた大型かつ強力な換気装置が作動して爆煙が晴れ、先に見えたのはコアシステムが解除されてコアーズのクラッシャーから元の姿に戻って膝をつきながら腹立たしげに頭を押さえている鉄雄の姿だった


『え、えっと……そこまで!この訓練試合はウィンダムの……』


『いや、待て白波君』


『? 司令官、いったい……』


 その光景を見て、先程までの僅か数秒の間に起きた二人の激闘に気を取られていた白波は慌てた様子で結果を宣言しようとし、それを月草に止められる。


 それを疑問に感じた白波が尋ねようとした瞬間、訓練所に漂う爆風が完全に晴れて視界がクリアとなり


「げっ……あがっ……げがっ……!!」


 膝をつく鉄雄から数メートル程離れた所でうつ伏せになり、体を細かく痙攣させながら悶える御八の姿があった



「えっ……えぇっ!? ウィンダムのジェノサイドキャノンズが直撃して鉄雄君が膝をついて変身解除されてるのは当然としても……なんで御八君まで!?」


 モニターに表示される『draw』の表示と、倒れている二人を幾度と無く確認してもなお納得出来なかったのか動揺して白波が叫ぶ


「白波さん……あれは石突きです。鉄雄は石突きを使ったんですよ」


 そんな白波に対して美歌と話してから0.1秒すら見逃さずに試合を見ていた武は落ち着いた様子でそう告げる


「石突き? それって……?」


「石突きは槍や、クラッシャーの使っているような戦斧の刃の反対側……つまりは柄の尻部分にある地に付く頑丈な金具ですよ。白波女史」


 白波にとって聞きなれない物だった武の言葉を不思議そうにオウム返しをすると、それに付き足すようにそっと美歌が告げる


「では、その石突きをあの戦闘の最中でどうクラッシャーが使ったのかを見てみようではないか」


 そんな二人の意見を纏めるように月草は模擬戦開始から現在までずっと記録していたモニタを操作し、少し前、まさにウィンダムとクラッシャーの二つの光が交差する所にまで戻すとそこから映像をスローで再生させた


「ほら……ここからだ」


 まるで教師のような仕草で、自身の体や影で画面を隠さないようにしながらモニタの横に立ち月草は静かに開発を始める


 画面の中では、今まさにウィンダムのオーガーズから極太でかつ激しく輝くエネルギー弾がクラッシャーへと向けて発射された所で、クラッシャーはそれにどうにか対応して反撃をしようと片手で斧を振るうが、ウィンダムのジェノサイドキャノンズのエネルギー流の勢いに押されて流石のクラッシャーでと上手く斧の刃がウィンダムに届かない。あわやそのままクラッシャーが押しきられてしまうかと思った瞬間、クラッシャーが咄嗟に戦斧の刃を引っ込めるようにくるりと一回転させ、戦斧の柄をウィンダムに向ける


「あっ……」


 そんな白波の呟きが漏れた瞬間、戦斧よりエネルギー流に当たる面積が大幅に減った事でクラッシャーの怪力で石突きは既に発射された緑のエネルギー流を突き破り、そのままオーガーズを両手で構えている故に防御が出来ない無防備なウィンダムの腹部に直撃する。


 と、次の瞬間、ジェノサイドキャノンズから放たれる全てのエネルギーがクラッシャーの顔に命中して頭部の装甲が大爆発を起こすのと共に、爆煙の中をどうにか受け身をとりながらクラッシャーが落下してゆき、それと全く同時に石突きの直撃を受けたウィンダムはその破壊力で手にしたオーガーズを吹き飛ばされ、腹部から大量の火花を吹き出しながら身を大きくのけぞらせながらクラッシャーとは違い受け身もとれずに落ちてゆき、二人が地面に激突して同時に変身が解除された事を別カメラが捉えた所で映像は終わった


「まさか……鉄雄君が技を受ける直前にこんな事をしていたなんて……」


 映像を全て見終えた白波は目を見開き、まだ信じられないと言った様子でそう呟く


「鉄雄は……力が強いだけじゃないんです……特に今みたいに追い込まれた時の、踏ん張りや閃きはいつも凄かったなぁ……」


 その呟きに答えるように、そう言うと武は今までに幾度と無く生身の体で鉄雄と交えた試合を思い出し、しみじみとそう目を閉じて頷いていた


『御八、鉄雄、二人とも意識はしっかりある様子だが一応言っておく』


 と、そこで月草が白波からマイクを借りるとスピーカーと通信機を通じて未だに訓練所の床で立ち上がれないでいる二人に語りかける


『お前達は色眼鏡無し見ても互いに全力で激突したようだが、見ての通り今回の模擬戦は所謂ダブルノックダウンで引き分けだ。この模擬戦により今の自分の実力と相手の強さを肌で理解してくれたのなら、今回の模擬戦は十二分に後々の力になる貴重な一戦と言えるだろう。……それに我々としても御八、君が当初言っていたようにウィンダムとクラッシャーに関するデータを十分に取れたからな』


 そんな月草の話に、鉄雄は膝をついたまま瞑想でもするかのように目を閉じてじっくりと耳を澄ませ、御八は無様な姿を見せないようにするための精一杯の意地なのか痙攣する体を無理やり動かして起き上がると、体育座りのような形で床に座り真っ青な顔で無理矢理平静を装いながら二階の月草に視線を向けてきた


『……ともかく、二人とも今日はご苦労だった。今、そちらに医療スタッフが向かうから、しばらくは休んでいるといい』


 最後にそうとだけ言うと月草は白波へとマイクを返し、静かに観測室から立ち去っていった



「(引き分け……ちっ、俺が、あんなちょいとデカい火花をくらった程度で怯んじまうとはな……)」


 月草から告げられた『引き分け』と言う言葉を、普段あまり使わない頭の中で何回も繰り返し、鉄雄は小さく自身に毒づいた


 両親が鋼鉄のように丈夫で屈強な男になってくれと想って名付けてくれた『鉄雄』と言う名前。頭の悪い自分がそれに親孝行のような気持ちで精一杯答えようとして自ら、どんな攻撃にも耐え、打ち崩れない『鉄の男』を名乗っている自分。そんな自分が戦闘前にあれだけ大口を叩いておいて、予想外の攻撃と銃の一発に負けて引き分けとは格好がつかない


「(まぁ……ともかく、真の漢になるにゃ俺もまだまだ修行が必要って事か。よっしゃ! 明日から更に強くなるためにトラックの荷台に重りでも乗せてみるか………! それで次は俺が勝ってやるぜ!)」


 そこまで考えて、うだうだ悩むのが大嫌いな鉄雄は自身の顔を力強く叩いて思考をストップさせると、そう心で強く誓うとすぐに決意を新たにして心を入れ換える。


 強く、堂々として、決して折れたりはしない『漢』を目指している鉄雄にとってそれ以上悩むなどと言う選択は頭になかったのだ



「(くそっ……くそっ! くそっ! 何故あの時、確実に勝利すると油断していた!? あの筋肉馬鹿が耐えられないと高を括っていた!?)」


 鉄雄が新たな決意を固めていた頃と同じ頃、御八は石突きを打たれたダメージによる痛みを未だに引きずる体で先程の自分の失態を責めていた


 あの時、理論上では最新鋭の重戦車でさえ数台ほど纏めて原型も残らぬ鉄屑に変えてしまうようなオーガーズでの必殺技。模擬戦故に相手を殺す事は無いが、それでもウィンダムが現在使える必殺技の中では確実に最強の破壊力を持っているその一撃で倒す自身があった。決着が付く前に相手を見くびってそう過信してしまった。こんな事態が『素晴らしい人間』に許される筈は無い。


「(クソッ……あの時はやはり、ジェノサイドキャノンズを発射するより先に、キャッチャーズのネットで反撃出来ぬように更に拘束しておくべきだったか……いや、それよりはあの一撃を回避した時にイーターズで……)」


 御八はそうして、最初から終わりまでを鮮明に記憶している先程の模擬戦の記憶を何度も脳内で再生させ、自分の取った行動を見て砂一粒も見逃さぬような細かさで改善点を探る


「(俺は……父様や母様が俺に言ってくれた『素晴らしい人間』で、あり続けなくちゃいけないんだ……!)」


 ほんの一瞬、御八は何時も指にしている翡翠の指輪、両親の結婚指輪だったもので御八にとっては、あの事故で残った両親の形見である一対の指輪が放つ緑の輝きを見て精神を落ち着かせると、再び長い思考へ、自身が勝利するための思考へと意識を埋めて行くのであった



「鉄雄!」


「おお、武か……!」


 それからしばらく時間が過ぎ、宇治原から鉄雄の治療が終わり、鉄雄が軽少のみで無事であった事を知ると武は直ぐ様、鉄雄が休んでいると言う医務室を訪れていた


「まぁ、ゆっくりしていけよ武。……まぁ、俺の部屋でもねぇのに『ゆっくりしてけ』は変かもしれねーがな」


 突然表れた武を鉄雄はベッドに腰掛けたまま、快く受け入れると、湿布が額に貼られた顔でそう豪快に笑った


「あのね鉄雄、模擬戦直後で悪いんだけど少し頼みたい事があるんだ……」


 そんな鉄雄を見ると武は少し迷い、しかし決意を決めた様子で視線を合わせると口を開く


「おっと、それ以上言う必要は無いぜ武」 


 と、そんな武を鉄雄は軽く手を上げて制止すると、軽少などはまるで気にしてない様子でポーズまで決めながら高々に宣言を始めた


「俺は、お前の頼みなら喜んで聞いてやる。だから毛ほども遠慮せずにどんと来やがれ! ……いや、すまんが少し待て武」


 と、突如宣言の途中で鉄雄は顔を一瞬、顔を青ざめる、先程とは打って代わり恐る恐ると言った様子で口を開いて武に尋ねる


「お前に限って、まさかとは思うけどよ……頼みは、頭を使う事が必要な事か? だとしたら……。すまねぇ、俺は力になれねぇかもしれない」


 そう言うと鉄雄はガックリと項垂れ、申し訳なさそうに武に頭を下げた


「ふふっ……大丈夫。心配しなくても他でもない鉄雄にしか頼めない事だよ」


 自身が何も口にしていないのに一人手に想像し、それに自身が力になれない事を心底申し訳なさそうに謝罪すると言う鉄雄の、知らない人が見れば愚かにも見える真っ直ぐな優しさに武は苦笑しながら頭を上げさせると、そんな鉄雄の優しさに一部でも答えようと微笑みながら告げる。そして、言い終えると同時に武は表情を真剣な物に変える


「俺、コアーズとしてバーニアスとして、美歌には劣るけど半人前なりに頑張れてると思ってた……それで良いと思ってた……」


 そう語る武の脳裏に浮かぶのは、今日のボアボルガードとの戦い。その戦闘で自らの力で編み出した二つの必殺技『フレイムスマッシュ』と『フレイムブレイク』その両方をボアボルガードに放つが共に堅い頭骨に阻まれて通じる事は無く、逆にボアボルガードの強烈なタックルを幾度も受けて追い込まれてしまった。


 あの戦いでは鉄雄、つまりはクラッシャーが駆け付けなければ自身は間違いなく自身は負けていた。そう武は確信していたのだ


「俺、今のままじゃ駄目だって、もっと強くならなきゃって思うんだ……その為に鉄雄、俺に協力してほしいんだ」


 迷い無く鉄雄にそう告げる武の瞳には迷いの無い確かな決意が込められており、そして鉄雄は武こその決意は何があろうが決して揺るぐ事が無いと言う事を知っていた


「よし! そう言う事なら是非とも、いや俺にこそ任せろ!! いくらでもどんと来いや!」


 だから鉄雄は当然のように力強く武の手を握ってそれに答え、満面の笑顔でそう答えた


 友の為にならばと、気合いが入った鉄雄にはもはやウィンダムとの模擬戦で負った傷の事などはすっかり頭から消しとんでいたのであった


データベース


 フレイムブレイク


 バーニアスのもう一つの必殺技、コアエナジーを拳に込め、渾身のストレートパンチ相手を殴り付ける。威力はフレイムスマッシュに劣るものの、両拳で放つ事や、コアエナジーを再チャージすれば連発も可能


 時水(ときみず)白波(しらな)


 23歳、AMBTのメインオペレートを担当。情報化大学時代から優れた学力と才能を買われて月草にスカウトされてAMBTに所属。研修期間を経てオペレーターを担当する。優れた知識を持っているものの、反面、実戦経験があまり多くは無いために予想外の事態には混乱してしまう事もある。年下ばかりのコアーズ適合者達には混乱しながらも出来る限り暖く見守るような形で触れ合うようにしている。

 自分をスカウトしてくれた月草には恩義を感じているようだ

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