第七話 鉄神の目覚め、轟く地響き
二本更新を目指して見たのですが、やはり厳しいですね……。ですが、いつかは出来るよう頑張りたいです
◇夜中、都心のとある地下会議室◇
「ー以上の事から『連中』は確実にコアーズを観察し、動作や対処を研究し始めている。そう断言して構わないでしょう」
自衛隊上層部、および政府官僚等の重役を交えて、頻出を続けるボルガードへの対策会議。その会議冒頭近くで現AMBT司令官、円崎月草の発言したその一言で会議の場は一気に氷点下にまで凍り付いた。
「円崎司令官、そ、それはつまり……いよいよ『連中』が此方への侵攻を始める。そう言う事なのか?」
『……………………』
と、そんな空気の中、一人の官僚が震える声で勇気を振り絞り、落ち着きが無い様子で不安げに自身の白が多く混じった顎髭を撫でながら月草にと質問を投げ掛け、その一言で議会場は重い沈黙に支配された。それが、その場にいる多くの物が月草に問いたい質問だったのだ
ただのボルガードが出現するのも十分な脅威にも関わらず、『連中』が人類に向かって侵攻を開始する。それは、現在未だに月草を含む三人の天才が作り出した現在の所、唯一人類がボルガードと互角に戦うことを可能にする発明『CORE-ゼロシステム』。その適合者たるコアーズの数が世界的に見ても不足している現状では冗談でもなく人類絶滅へのカウントダウンへと押しきられてしまうような脅威としか言えなかった。
そんな張りつめた状況でその場にいる全ての人間のありとあらゆる想いが込められた視線が矢のように突き刺さる中、月草は特に動じた様子はなく無言で会場を見渡すと再び口を開いた
「いえ、その可能性は低いかと。現在のボルガード事件の九割が指揮役もおらず、希に研究施設近く等に現れる事もあるものの、闇雲に下級ボルガード、もしくは中級ボルガードが現れて周囲で暴れるのみ。彼らが『連中』の連絡をしている様子もありまさんし、出現したボルガードを回収する事すら行われなれず放置されたまま。以上の事から『連中』は、現在の所、殆ど活動すらしていないと私は考えます」
『とりあえずは脅威は無い』そんな月草の言葉に緊迫した議会に安堵の空気が僅かに流れ始める。と、その瞬間、月草は咳き込み重苦しい表情である一言を口にした
「ただし、例の一見……三年前の『キングス号事件』で出現した上級ボルガード……『ヒュドラボルガード』のような超特例を除いては……ですが」
『キングス号事件』
その言葉が月草の口から出た瞬間に会場にいた全員の顔が目に見えて青ざめ、発言した本人の月草でさてもあまり思い出したくは無い事件であるのか小さく歯噛みをしていた
それは会議で決められた情報規制の為に世間一般的には大型客船の船舶事故と認識されている出来事。が、その事件の真相こそが、当時開発されたばかりな事もあって、ここにいる多くの官僚や重役達が半信半疑あった『CORE-ゼロシステム』と『ボルガード』の存在を嫌と言う程、それこそトラウマを負いかねる程に強く認識させられる事件なのであった。
逃げ遅れた乗客もいたから余りにも大きな火力の兵器は使えなかった。とだけでは明らかに誤魔化しきれない程にありとあらゆる現代兵器が全く通用せず、冗談ような文字通りの『力』を持つボルガードの凄まじさに世界各国は震え上がり、そしてそのボルガード、偶然にも『連中』とは離反した存在と判明したものの、単機で連中に勝るとも劣らない凄まじい力を持っていたヒュドラボルガードに正面から挑み、見事に撃退して見せたコアーズの力を誰もが求めた
よもや、この場に通されるような者の中でキングス号事件の事を知らぬ人物など誰一人としていなかったのだ
「……ともかく、先程の通り、世界各国のAMBTで出現が確認出来るのは下級ボルガードが大半で中級がほんの一握り。しかし、その殆どが、各国のコアーズが撃破する事に成功しています」
と、そんな重い空気が漂い始めた会場で、月草は軽く咳払いをすると共に声の張り自体はいつも通りの月草ではあったが、どことなく希望が見えるように言葉を選んで語る
「加えて、我が国の5つのコアシステムを、初のコアーズであったコアーズNo.3の『アクア』に続いて、今年に入ってコアーズNo.2の『バーニアス』。No.4の『ウィンダム』も適合者の発見と共に実働可能となっております。アメリカ本部にて調整中のNo.6を除けば、先日我々の開発した新装備により最後となるのNo.5の適合者が見つかるのも、決して遅くは無い。そう私は考えています」
自身に満ちた月草様子の言葉に会場からは、おお、と声が溢れた。特に皆、月草が口にした『新装備』とやらに興味があるらしい
「しかし……話を乱すようで悪いが、一つ良いかね円崎司令官? 君が推し進めてるコアーズの事だが……」
と、そんな風に会議を落ち着きを始めたその時、鈍い輝きの銀髪の髪を持つ、一人の年配の自衛隊官僚が挙手と共に月草に一つの問いを投げ掛けた
「……どうぞ、天和 参謀」
月草は慎重に質問の相手、元からの実力に加えて家柄もあり、この会議でも多くの部下を従えて座っている。天和参謀の様子を注意深く見ながら口を開いて質問を受け付けた。
「……そのコアーズの一人のアクアとやらが、先程の君の話の通り他国では撃破できた報告のある中級ボルガードとの戦いで大きく負傷し、つい最近まで入院せざるを得ない自体に追い込まれたそうじゃあないか」
「……ええ、その通りです」
天和の言葉を月草はそう小さく呟きながら答えて肯定するのが確認されると、再び会場内はざわざわと騒がしくなる。その殆どがコアーズやAMBTそして月草た対する不安の声であり、それを確認した瞬間に天和はニヤリと小さく笑った
「……運良く偶然にももう一人の適合者を発見し、おかげでアクアの復帰までどうにか凌いだらしいが……そんな事で躓いているようならば、君の愛するコアーズ達がいつ一匹のボルガードによって全滅させられてしまわないか私は心底、心配でならないのだが……本当に大丈夫なのかい?」
トドメを指す天和の言葉に。そして、事実を元に月草の話の隙を付いてコアーズの信頼性を疑わせようとしているかのようにして放たれた一言に
「はい、勿論大丈夫ですよ天和参謀。キングス号事件の個体を除いて未だに姿を見せない上級ボルガードのような例外が無い限り、彼等は例え相手が中級ボルガードであろうとも苦戦はすれど、コアーズが一人しか見つからず『アクア』に負担をかけてしまったあの時と今は違います。今の私達とコアーズならば二度の遅れは取らない。私は、そうこの場で断言できます」
月草は一瞬の躊躇いも無く、まるで息を吐くように当然の事のように迷わず、そう天和に答えて見せた
「……ずいぶんな自身だが、もし仮に君の話どおりに事が進まなかった場合、君一人でその責任は取れる……」
「まぁまぁ、天和君。今日の所は一旦落ち着いて、そこらへんで月草君を許しておいてくれないか?」
月草の答えが自分の望んでいた物とは異なる事に眉を潜めながら天和が新たな刃を振りかざそうとした瞬間、それをごく穏やかに一人の老人が止めた
「『連中』およびボルガードに対しては、有効的な打開策を発見するまではAMBTと月草君に当面の間、任せる事を決めたのは私だ。その件ついては君からも一応の了承を得たはずだが? 天和君」
ゆっくりとした口調だが至極冷静に老人、実質的にこの会議の総纏め役をしている。実相寺防衛大臣はそう言って天和をたしなめた
「……私はただ、この場にいる全員が疑問に感じたであろう事を代表して代弁しただけです」
その言葉に天和は月草を殺気を込めた視線で睨み付けながらも一応は引っ込み、再び深く自身の椅子に腰掛けた
「(天和参謀の反発は予測していた。正直、この程度で済んだのは……運が良かったと言える)」
実相寺に促されて再び説明を続けつつ、月草は内心でそう呟きながら僅かに安堵していた。今のところ特に予想外の問題も起きずに会議を進められている。このまま上手く話が進めば、ボルガードが出現してもコアーズが直ぐ様出撃出来ない。そんな状況に陥る事は防ぐ事が出来るだろう
「(まだ若い子供達が最前戦で戦っているのだ。ならば私達は彼等がボルガードとの戦いに集中出来るように、裏の仕事を全て引き受ける。それが大人として当然の義務だ)」
会議をキッチリとこなしながらも、そんな月草の胸の中には、普段の落ち着いた様子からは想像も出来ないような強く炎のように熱い意志がしっかりと込められていたのであった
◇朝 河原◇
「あっ、おーい、テツ~!」
日曜日、優しい朝焼けの光が照らす川原。その堤防沿いの道を走ってゆきながら、赤いトレーニングウェアに身を包んだ武は、自分より先に堤防で軽く走り込みをしていた鉄雄に手を振って元気に呼び掛けた
「おお武、お前も来たか!」
武に気が付くと、渋いなからも派手さを感じるジャージを上下に着た鉄雄は身長は180cm、体重は最近になって100kgを越えたと自ら語る12才とは思えぬ程に大柄な体で豪快に笑いながら、首を武に向けると手を振りかえすと、そのまま武と並んで走り出した
「それにしてもテツは相変わらず、朝の自主トレは早いね」
「あぁ、まぁ……帰ったらいつも二度寝しちまっておふくろに『遅刻する』って怒られちまうんだがな」
走りは決し手を抜かず、どう贔屓目に見ても誇れるような事では無いような事を、鉄雄は特に気にした様子も無く、そうガハハと軽く笑って言ってのける。そんな所が鉄雄の良さの一つなのだ。と、武は長年『親友』として過ごすうちに感じていた
「でもよ、俺は嬉しいぜ武」
と、ふと何気無く空を見上げると、鉄雄はそう思い出したかのように呟いた
「こうして再びお前が、朝の自主トレに参加してくれる事が俺は嬉しくて仕方ないんだ。全く、『お店の仕事が忙しい』って休みがちだったお前が、どんな風の吹き回しなんだ?」
「えっと……それは……」
そんな鉄雄の真っ直ぐな質問に武は、思わず言い淀んだ。まさか正直に『化け物と戦う事になったから体を鍛え直してる』なんて答えを言うわけにも行かない。しかし、かと言って親友の鉄雄に軽々と嘘をつくことも武には直ぐさま実行する事は出来なかったのだ。
そんな武の迷いは走りにも影響され、武が悩んでいる間に本来は自身より足が遅いはずの鉄雄に武は追い越されてしまった
「おっと、言いづらい事だったら皆まで言うな。前にも言ったかもしれねーが、そいつはお前が俺に言いたいと思った時にこそ言え……よっと!」
そんな武を少し苦笑しながら呆れたように見ると鉄雄は、励ますようにそう言い、武に自身の溢れる気合い注入すべく武の肩に張り手を一発叩き込んだ
「……! うん、ありがとう。テツ!」
武は一瞬、肩を叩かれた事で驚き、一瞬走りを止めてしまったが、直ぐに鉄雄の想いを汲み取ると即座に鉄雄を追い抜くような早さで走り出すと、そのタイミングを予言したかのように差し出して来た鉄雄の手の平に目掛けて鋭いパンチを叩き込んだ
「いいってことよ、何故なら俺とお前は……」
「「親友」」
武のパンチを軽々と受けてみせると、そのまま鉄雄は上機嫌な様子でニヤリと笑って右拳を突き出し、武はそれに左拳で答えながら鉄雄に合わせて同時にそう言うと、そのまま共に笑いながら二人がトレーニングの場として利用している雑木林の中の神社まで楽しげに走っていった
◇
「やぁっ!」
よく掃除された神社の境内の土の上、より正確に言えば本堂横の広場で、準備体操と腕立てふせや腹筋のなどの基礎トレーニングを終えてから、無言のまま向かい合って対峙していた武と鉄雄。その沈黙を破り、先に仕掛けたのは武であった。
掛け声と共に一気に鉄雄へと詰め寄った武はそのままスムーズな動作で身を捻り、鉄雄の胸に目掛けて右で回し蹴りを放った
「ふんっ!」
しかし鉄雄は、その一撃を丸太のように太い右腕で軽々と防いでみせると、僅かなタイムラグも見せずに脚を振り上げて隙を見せた武に目掛けて正面から片手で突っ張りを放った
「うっ…………」
それを、どうにか全力で背後へとのけ反りながら振り上げた脚を引っ込めてどうにか直撃は避けたが、鉄雄の突っ張りが胸を掠めたらしく武は軽く顔をしかめたがそのまま地面へと着地した
「どおりゃっ! そりゃぁっ!」
そんな武に休む暇も与えまいと、鉄雄は今度は両手でさながら嵐の如く怒濤の突っ張りを武目掛けて次々と放っていく
「やぁっ! くっ……せいっ!」
まだ着地したばかりで回避は出来ないと判断した武はその一撃を出来うる限り、剃らし、あるいは避け、それでもどうにもならない一撃のみを上手く受けてやり過ごそうと試みる。が、鉄雄の突っ張りの一発一発は凄まじい程の破壊力を持っており、最大限ダメージを押さえられるように上手く受けたはずの一撃ですら全身が痺れる程の衝撃が武の体に伝わってきた
「(強くなってる……テツは……前より確実に!)」
そう嵐のような鉄雄の連続攻撃に防戦一方とならざるを得ない状況に陥りながら、武はそうどこか自身でも奇妙だと想いながらも、どこか胸の奥に疼く歓喜に似た想いで確信していた。
『俺は、真の漢になる』と常日頃から口にしている鉄雄の事だ、きっとただ毎日ひたすら当然のように、より強くなるべく鍛練を続けていたのだろう。それで、親友の鉄雄が確実に結果を掴み取っている事実が親友として嬉しかったのかもしれない
「(でも、だからと言って……いや、だからこそ簡単には負けられないんだ!)」
と、そこで武は一瞬だけ剃らした思考、その全てを再び目の前の鉄雄に集中させ、迫り来る張り手を直撃も覚悟の紙一重で回避し、右手と左手でそれぞれ鉄雄の両腕を掴んだ
「どっ……うおりゃぁぁっ!!」
「ぬっ……くぉっ!?」
そのまま武は、自身の小柄な体を生かしたスピードで鉄雄の懐に飛び込むと、足払いをしつつその有り余っている体重と鉄雄の放つ突っ張りの勢いを利用して、崩れた巴投げのような動きでそのまま鉄雄の巨体を投げ飛ばした
「いってぇ……!」
鉄雄も、鉄雄でそれなりに受け身をとっていたらしく、巴投げが命中した事で痛がりはしたものの、戦意は全く失った様子は無く、発達した腹筋で身を起こし、片膝をついた状態で、自身の出来る最速の動きで素早く武へと向き直る。その瞬間
「!? ちきしょう……」
自身の顔面に命中する直前で寸止めされた武の脚に気付くと、鉄雄は悔しげな顔をし
「まいった、俺の負けだよ。武」
溜め息と共にそう言うと両手を上げ、武に降伏して自身の敗北を認めた
「うん、今日もありがとう。テツ」
それを確認すると武は速やかに脚を下ろすと鉄雄に向かって手を差し出した
「へへ、この練習試合は相手の実力も自分の実力も分かりやすくて、やりがいがあるからよ。むしろ、こっちから頼みたいくらいだぜ。ただ……」
鉄雄は武の手を借りて起き上がりながらニヤリと不適に笑いながらそう答える。と、ふとその表情を不満げに変えた
「ただ『鉄の男』たる俺が、お前に負け越してるのは不服っちゃあ不服だがな」
「あ、あはは……」
そう、鉄雄からぶつけられる率直、されど瞳にギラギラと闘志を浮かべた不服の声に、武は困ったようや笑みを浮かべる。
『どうやら、テツのこの様子だともう一試合、いやいや、テツの体調が良ければあと二試合は模擬戦を申し込まれるかもしれないなぁ』と、武は苦笑しながらも何処か冷静に判断し、そして同時に、鉄雄ならば冗談でも無くそれが可能な程のスタミナを体に有している事をも知っていた
「それで、早速なんだが武。もう一戦……始めないか?」
と、その瞬間、立ち上がった鉄雄が構えを取り、早くも準備万端と言った様子で武にそう問いかけてきた。ここで、武が一言さえ模擬戦を断れば鉄雄は嫌な顔一つせずあっさりと構えを崩し、朝のトレーニングは終了となるだろう
「……うん、分かった! やろうかテツ!」
が、しかし、武は自身も再び構え、そう勇ましく鉄雄に答えてみせる
「(美歌に御八……今の俺には心強い二人のコアーズの仲間がいる。一緒に戦ってくれる力強い仲間がいるんだ!)」
そんな武の胸に浮かんでいたのは、自身がAMBTの中で特に『大切な仲間』と認識している二人
武自身が訓練の度に見とれてしまうほどに美しい、それこそ流水のように流れる剣捌きと武より長くボルガードと戦っている故への知識。そして、どこか鮫の背鰭に似た兜が特徴的な青のコアーズ『アクア』。それに変身し、いつも自分を思いやってくれる長い黒髪の少女、美歌。
そして、八つの形態に姿を変える銃を持ち、確かな銃撃の腕といつも驚かされるようなトリッキーな戦法で戦い、蜘蛛の脚が重なったような身軽な装甲を縺う緑色のコアーズ『ウィンダム』に変身し、やや自意識過剰な部分もあるけれど、普段の口調に反してその胸にはしっかりと揺るぎの無い強い決意を込めている。そう、話すようになってから武が理解した、銀髪の少年、御八。
この二人の事を、御八が美歌に謝罪した事により、少しぎこちない部分がありながらも晴れて三人で力を合わせて戦うようになったその日から、武は一層強く意識していたのだ
「(……『バーニアス』はアクアみたいに剣を振るう事も、ウィンダムみたいに銃を使う事も出来ない。それどころかバーニアスは武器が無く、どんな相手でも蹴りや拳で勝負するしかない……)」
アクアの美しいながらも鋭い斬撃や、ウィンダムの強烈ながらどこか優雅さを感じる銃撃を思いだし、武は静かに目を閉じた。二人のコアーズを鮮明に思い出しても尚、武はバーニアスが決して二人に比べて劣っているなどと感じてはいなかったし、そもそもそんな事は考えすらもしなかった
「(だから……俺は、自分の特技の格闘技を精一杯磨くんだ! 二人の脚を引っ張らない為に……いつでも皆を助けれるように! そして、どんな敵が相手でも恐れずに飛び込んで必殺の拳や蹴りで倒せるように!)」
そう心で誓う武の瞳には熱く、それこそ迷いの無い、炎ような強く明るい意志が込められていた
「へへっ、武よ、そっちもやる気マンマンか……」
そんな武の瞳を見て自身もまた、胸の中でいつも爆発しそうな熱い情熱に火が付いたのか、鉄雄は先程まで取っていた攻防一体の構えから、まるでその情熱を武に全てぶつけるような攻撃に特化した前面よりの構えに変えた
「それじゃあ、今度はこちらから行かせて貰うぜ―」
「…………」
互いの闘気により張り詰める空気の中、それを破るように鉄雄が一歩踏み出し、いざ本日二度目となる二人の模擬戦が始まろうとしたその瞬間
本堂の軒先に置かれた武の鞄、その中の武の携帯が桁ましく鳴り始めた。そして、その着信音は
「!? ごめんっ……!! テツ!」
AMBT本部からの着信、それも緊急を要するような事態、つまりはボルガードの出現を示す物だった
。それを耳にした瞬間、武は鉄雄に素早く謝罪すると背を向け、鞄に向かって走り出すと少し息を切らせながら携帯を通話状態にすると耳に押し当てた
「もしもし……!? 円崎です!」
『……武君ね!? 休日の所、悪いけどつい先程、ボルガードが現れたわ! 迎えの車をそこによこしたから直ぐに向かって!』
「……分かりました白波さん!」
電話から聞こえてきたのは切迫した様子の白波の声、そして、その内容を耳にすると武は電話を耳に当てたまま鞄を抱え、そこで先程までしていたはずの攻撃的な構えを崩し、半ば棒立ちにも見える姿で視線を向けてくる鉄雄に気が付いた
「ごめん……テツ……今日は……!!」
互いにバッチリと気持ちが整った、ベストコンディション状態での二回目の模擬戦。それを台無しにしてしまった。その申し訳なさで胸が苦しくなりながらも、まさかボルガード討伐に赴かない訳にもいかない為、武は鉄雄の視線に気が付いた瞬間に突然のボルガードの出現の焦りにより震える体を動かし、深く頭を下げて謝罪した。
そんな事情を知らなければ身勝手としか受け取られないような行為に、頭を下げながらも武は鉄雄には悪態を付かれるのも覚悟した。
「いいよ、俺は気にすんな。行ってこいよ武」
武の考えに反し、鉄雄の口から放たれたのは穏やかな口調の武に対する許しの言葉。そんな予想外の鉄雄の言葉に『非常事態だから急がなきゃ』と、頭では分かっているが武は一瞬、驚きのあまりに忙しくなく動いていた体の動きを止めてしまい、その間にも鉄雄は話を続ける
「お前がそんなに焦っている……しかも、俺との朝トレーニングよりも優先するって事は、そいつは絶対に今、お前がやらなきゃいけない事なんだろう? そして、そいつは俺の漢の感だと人命に関わる事だ」
「テツ…………」
武を見て得た、僅かな情報を組み立てて、話の真相へと近付きかけている鉄雄を見て、武は思わず時間も忘れて驚愕し、感嘆にも似た声を漏らした
「俺はな、知っての通り勉強なんかさっぱり出来ねぇし、難しい事を考えるのも苦手だ。だがな、それでも俺は『親友』の武の事は良く分かってるつもりだぜ?……勿論、最近、様子がおかしいのもな」
そんな武を真っ直ぐに見ると、次の瞬間、鉄雄は大きく息を吸い込み
「それでも、俺はお前を信じてやる! だから、大事な事があるなら俺に構わずさっさと行きやがれ馬鹿野郎!!」
と、周囲一体の空気が震え、本堂の襖が震える程に莫大な声量で鉄雄は武へと活の一言を入れた。その、響は武の腹の底にまで到達し、血液を循環して全身へとその力を伝えながら流れて行くのでは、と武が思う程にどこまでも力強く、大地のようにがっしりとした実に鉄雄らしい物であった
「……ありがとう鉄雄。俺、行ってくるよ!」
そんな鉄雄の心の籠った活を受け、すっかり吹っ切れた武はお返しとばかりに、こちらも力強く、燃えるような熱意を込めた礼を鉄雄にすると、トレーニング後とは思えないほどに素早く鉄雄に背を向けて立ち去って行った
「……頑張れよ武」
そんな武の背中を見送りながら小さく呟く鉄雄。実の所、その内心では腹をわって話せる親友と信じている武が、具体的に言えないような何かを隠しているのが全く気掛かりでは無いかと聞かれればそんな事は無かった
だが、先程武に言った通り、疑う以上に鉄雄は武を信用していたし、何より『漢がやたらと詮索するのは格好悪い』と鉄雄は思っていた
「さてと……」
だからこそ鉄雄は武が完全にこの場から立ち去ったのを確認すると武にも内緒にしている秘密おトレーニングを始める事にした
友が自分に隠れて何をしているかは頭が良くないと自覚する自分では分からないが、それを成す為にいつも以上に努力しているのはハッキリと分かる。なら、自分がすべきなのは余計な詮索などでは無くいつも以上に奮闘して体を鍛え、少しでも友の心を解ろうとする事だ
そんな実にシンプルな、鉄雄独特と言える思考がそれを選ばせたのである
「……『アレ』でもやるか……」
自身の持つ鞄の中から、トレーニングによや土まみれとなった太いロープを見つつ、鉄雄はニヤリと笑った
◇武が出るより十分前 山奥◇
「うわぁぁぁぁっっ!!」
その施設の大半が破壊され、事実上廃墟と化している山奥の研究所壊れた入り口から髪をまだらな金髪にした一人の若い男が、悲鳴を上げながら飛び出してきた
「な、なんなんだよ、ありゃあ……っ!!」
決して背後を振り返らないようにしながら金髪男は、自身が運転し、座席には仲間達を乗せてここまでやって来た愛車を目指して走りながら、軽い肝試しにも似た興味本意でここを訪れた自分達が『見てしまったモノ』の事を思い返し、恐怖で歯を鳴らしていた
時間にしてつい五分前、廃墟同然となっていた研究所内部を自分を含めた四人の仲間達と騒がしく喋りながら進んでいたその時、人間とは思えぬ程に巨大な1つの影が懐中電灯の光を照らそうとした暗がり。その奥から唐突に姿を表したのだ。
音もなく姿を表した異様なモノに四人全員が呆然とする中、その何かが真っ直ぐに接近して来たために四人それぞれが持つ懐中電灯の光に姿の一部を表し始めた瞬間、先頭を歩いていた一人がタワシのような粗い毛が生えた丸太の如く太い腕にさらわれ、そのまま2本の太い牙を持つどこか猪に似た怪物の巨大な口に頭から飲まれた
余りにも唐突に起きた異様な事態に身動きすら出来ずにただ怪物の姿を懐中電灯で照らしながら呆然としていた彼等は、次の瞬間聞こえた仲間の押しつぶれるような断末魔と怪物によって骨が噛み砕かれる音を聞いた瞬間、悲鳴と共になりふり構わず一目散に出口へと向かって逃げ出した。
逃走する三人のうち一番足の遅かった一人が怪物の大牙に背中から貫かれ、怪物の怪力で空中へと持ち上げられて、さながら踊り食いでもするように乱雑に補食されても二人は背後から響く悲鳴と咀嚼音を必死に聞かないようにしながら脚を動かし続け、そしてついに今、仲間達の中で一番足が速かった金髪男が研究所の出口を抜け、車へとたどり着いたのであった
「はぁはぁ……」
全力疾走を続けた為に止まらない激しい呼吸と、恐怖による痙攣を起こしながらも金髪男は車の運転席へと乗り込み、エンジンをかけた。幸いな事にエンジンは何の問題も無く一発でかかり、サイドブレーキも解除して、車はいつでも発進出来る状態になった
「おぉ~い! 待ってくれ!!」
と、その時、金髪男の耳に聞きなれた一つの声が聞こえてきた。ふと、バックミラーを見てみればつい先程、自分が出てきた研究所の出口から仲間の最後の一人であり、バンダナが特徴的な一人の男が手を大きく振りながら、大声を出して金髪男の乗る車へと近付いてきた
「急げ! アイツが来ないうちに早く乗れ!!」
仲間の背後に、あの怪物がいないのを確認すると金髪男は助手席のドアロックを解除し、ハンドルを握りながら窓を開けてそう叫んでバンダナ男を急かす
「す、すまねぇ……今……」
その声を聞いたバンダナ男は軽く謝りながら車へ向かって一歩踏み出し
「そっちにい……!」
その瞬間、待ち構えていたかのように突如、そうとしか言えないほどに急激に開いた巨大な穴。そこにバンダナ男はその体をすっぽりと吸い込まれる飲まれ、不自然に途切れた声と土煙を辺りに漂わせた
「…………えっ?」
ドアを開き、バンダナ男が乗り込んでくるのを待っていた金髪男は思わず硬直し、そんな声を漏らした。
「グフォォ……ッ!」
その瞬間、巨大な穴から先程まで『生きていた』バンダナ男の上半身を口から覗かせた怪物が飛び出し、金髪男がべったりと血に濡れ、苦悶の表情で息耐えているバンダナ男の無惨な姿を見て悲鳴をあげている間にロケットのような勢いで怪物は金髪男が乗り込んでいた車を二本の牙で玩具のように軽々と空中へと吹き飛ばした
「うわあぁぁあぁぁ……っっ!!」
宙を飛ぶ車内からは暫し、金髪男の悲鳴が聞こえてはいたが重力に従い地面に車が叩き付けられ、その姿を凄まじい衝撃によって大きく変えたのと同時に
ぐちゃり
そんな鈍く、怖毛の立つような音が車内から聞こえ、それっきり声は全く聞こえなくなり
猪のボルガード、『ボアボルガード』は蹄の付いた脚を動かして車に近付くと、人の手のように発達した前足を割れた窓から車内に突っ込み、ゆっくりと砕けて『食べやすくなった』獲物の破片を口に運んで行くのであった
◇現在、研究所から北西た数キロ程離れた山中◇
「うわ……っ!!」
息をつかせる間もなく再び突進を放つボルガード。その強烈な破壊力がギリギリで直撃をかわした脇腹の装甲を掠め、バーニアスはその強大な衝撃に激突した装甲から火花を散らしながらバランスを崩して地面に倒れた
『武君! 大丈夫!?』
起き上がりながら、突進の手を止め、再び自身へと狙いを定める相手。AMBTにより『ボアボルガード』と名付けられたボルガードを睨むバーニアスの耳に白波からの通信が入った
『美歌も向こうでのボルガード討伐が終わり次第、直ぐに駆けつけるわ! 頑張って武君!』
緊張した様子で白波はバーニアスを鼓舞するようにそう告げる。
今回もまた例によって全く法則が無く、異なる場所に各1体ずつ、計2体のボルガードが出現しAMBTはこれに対して先日のドラゴンフライボルガードとの戦いで負傷したNo.4コアーズ『ウィンダム』である御八を本部で待機。沿岸部に表れた詳細不明の海洋生物型の下級ボルガードにNo.3コアーズ『アクア』の美歌。そして山中……単なる偶然なのか、狙っていたのかAMBTの研究所後に出現し、監視の目を掻い潜って研究所後へと侵入した若者達を食い殺したボアボルガードにNo.2コアーズ『バーニアス』の武を向かわせる事で対処、していたのだが……バーニアスは現在、強力な突進と自身と同等かそれ以上のパワーを持つボアボルガードを相手にして苦戦を強いられていた
「うわっ……! ぐうっ……!!」
と、再び弾丸のように向かってきたボアボルガードからの突進の直撃を受け、その衝撃が全身に響気渡るとバーニアスは苦悶の声を漏らす。が、今度はボアボルガードに押されていた先程までとは少しばかりバーニアスの勝手が違っていた
「……おぉぉりゃあっ!!」
しっかりボアボルガードの突進のタイミングを予測していたお陰で体で受ける面とダメージを最小限にしてガードが出来たバーニアスは、ボアボルガードが突進のエネルギーの殆どを使いきった瞬間、一瞬の隙を付いて脚を払い、ボアボルガードの広い両肩を掴むと、掛け声と共に渾身の力を持ってその場で一回転するかのようにボアボルガードを背後の岩場に向かって投げ飛ばした
「ビブガ……ッ! グ……!」
自身の力をも利用されて強烈に岩場に叩きつけられたボアボルガードは悲鳴をあげてもがき、地面にのたうち回る
「今だっ!」
それを自身の『必殺技』を放つ最大のチャンスと判断したバーニアスは首に巻かれたスカーフを揺らし、すかさず自身の胸部を守る装甲の中心で赤く輝く、宝石に酷似したコアシステムに触れ頭の中で必殺技をイメージする。と、その瞬間、その想いに答えるべくコアシステムは反応し、炎のように赤く輝くコアエナジーの光がコアシステムからバーニアスの体を伝わって右足と流れてゆき、バーニアスの右足は風に吹かれる炎のように静かに揺らめく光で輝き出した
「フレイムスマッシュ!」
『フレイムスマッシュ!』
その瞬間、掛け声と共に走りながら一気にボアボルガードへと近付くとバーニアスは必殺技の名前と共にボアボルガードの頭部に向かって必殺の跳び蹴りを放ち、コアシステムをそれを復唱するようにバーニアスと同時に電子音声を発した
ボアボルガードの隙を付いて放たれ、コアエナジーのチャージも十二分な状態で放たれた必殺技の一撃で決着が付いた。と、ずっとこの戦いをAMBT本部の大型モニター見ていた白波も、フレイムスマッシュを放った武でさえも一瞬、思った。が
ガキンッ!
『なっ…………!?』
フレイムスマッシュがボアボルガードの頭部に直撃した瞬間に聞こえた、コアーズの必殺技がボルガードに決まった時に聞こえる高く響き渡るような音とは間違っても到底思えないような、そんな鈍く低い音に白波は思わず目を見開いた
「か、堅い……っ!!」
フレイムスマッシュを放って着地したバーニアスも、ボアボルガードの頭骨の信じがたい堅牢さに驚愕し、思わず頭骨と激突した時の衝撃による痺れが残る右足を見つめた
「ブゴッ! ブゴォオオォォッ……!!」
フレイムスマッシュを受けたボアボルガードとは言うと、頭部の痛みにもがいてはいたものの、その一撃は致命傷には至らなかったらしく、フレイムスマッシュを放った時にバーニアスの脚からボアボルガードへと流し込まれ、一部が頭部で残留していた赤のコアエナジーは徐々に薄れてゆき、それと比例するようにボアボルガードもまた活力を取り戻し、コアエナジーが完全に消えるより早くボアボルガードは怒りのうなり声をあげながらバーニアス目掛けて鋭い牙を突きだし、突進してきた
「くっ……うわっ! っ! ……フレイムブレイク!」
『フレイムブレイク!』
まさに紙一重のタイミングで、バーニアスは迫るボアボルガードを馬跳びでもするような動きで回避すると、その勢いのまま、ついでとばかりにボアボルガードの頭部。それも先程、フレイムスマッシュを打ち込んだ場所と全く同じ場所に右拳にコアエナジーを込めた渾身の右ストレートの『フレイムブレイク』を叩き込んだ
「グオオ……ッ!」
「くぅっ……!!」
が、この一撃を受けてもなおボアボルガードは怯みこそすれど倒れず。もがきながら頭上のバーニアスを投げ飛ばし、バーニアスは山の斜面に叩きつけられた
「(必殺技が……通じない!)」
痛みを堪えて再び立ち上がるバーニアス。その心中ではクラブボルガードとの戦いを反省して、磨きをかけたはずの自身の必殺技二つを破られた事により、僅かに焦りが見え出していた
◇
「仕方ない……今回の調査は中断! 急いで本部に戻ろう!」
一方、その頃、とある調査の為に運搬車両に擬装したAMBT専用トレーラーで街中をくまなく探索していた淳を中心とした研究チームは二ヶ所に渡ってボルガード出現したとの報せを本部から受け、やむ無くAMBT本部へと帰還する事を決め、淳の一言と共に研究員とその護衛部隊は一斉にトレーラー内に広げた研究機器を片付け、撤収に向けて動き出していた
「くっそぉ……始めた時に一瞬だけ微かな反応があったのになぁ……」
小さなニホンザルの体で今回の調査のメインとなり、月草が作り上げた『新装備』を悔しげに睨みながら淳はそう呟いた。
今回の調査が成功すれば、間違いなくボルガードと戦う美歌、武、御八の……いや、それだけでは無くてAMBT、そして世界を救うための大きな力になったはずだ。が、しかし、だからこそ僅かな間違いで今回のボルガード出現で起きた一件で、試作機で世界に一つしかこの大切な『新装備』を失うなんて事はあってならない。そして、それだけでは無くて、このトレーラー内には……
と、上手く進まない現実に焦れる気持ちで信号で止まったトレーラー。その車外に設置されたカメラから、トレーラー内に外の景色を映し出すモニタの画面を何気なく眺めていた時だった
「んんっ……!?」
突如、モニターに映し出された異様な光景に淳は思わず自分の目を疑い、声に出して驚愕しながら思わずモニターを再度仰視した。
そこに映し出されていたのは、川原で腰に荒縄を巻いて汗を流し、一心不乱に何かを引っ張る一人の大柄な少年。淳が驚愕したのはその引きずっている物だった
「な、何でトラックを……?」
そう少年が引っ張っていたのは、多少傷んだ様子の白い軽トラック。それを少年はまるでトレーニングタイヤを引くように軽々と引きながら川原を走り回っていたのだ
「き、霧谷研究員……これを……」
と、そんな中トレーラー内で淳の助手をしていた一人の研究員が淳に負けない程、狼狽した様子で淳に呼び掛ける
「これは……! まさか……!?」
研究員が指差すのは、今回の探索に持ってきた『新装備』それがかつてない程に強く、トラックを引きずる少年に反応していたのだ。その事実に、トレーラー内の研究員達はにわかに騒がしくなり始める
「は、早くあの少年を……!!」
大きな波紋が広がるトレーラー内に、そんな震える淳の声はどうにか広がっていった
◇
「うわぁ……っ!! はぁ……とりゃあ!」
しつこく放たれるボアボルガードの突進をどうにかバーニアスは回避し、去り際のボアボルガードの背後に目掛けて蹴りを打ち込む。が、その一撃は全速力で突進するボアボルガードの背中を掠めただけに留まり、ボアボルガードはバーニアスの遥か背後へと向けて走り抜けていった
バーニアスとボアボルガードとの戦いは一時間を過ぎて、バーニアスが徐々にボアボルガードへと押され始めていた。先程、バーニアスに組み付かれて必殺技を受けた時以来、ボアボルガードはバーニアスに対して極端なまでに打ち逃げのような突進しか行わず、バーニアスはそれに翻弄されて必殺技はおろか上手く反撃も行う事が出来ずに、体力をじわじわと削られていっていたのだ
「はぁはぁ……」
『武君! 大丈夫武君!?』
長引くボアボルガードとの戦闘の中、徐々に息が荒くなるバーニアスを気使い、白波が必死に呼び掛ける
「(お、俺の必殺技が通じさえすれば……)」
疲労とダメージが徐々に大きくなっていく体を引きずって、ボアボルガードと向き合いながらバーニアスは静かに焦っていた
ここまでボアボルガードとの対決に時間をかけて体力を使い白波を心配させてしまったのは、間違いなく自分の必殺技二つ、その両方がボアボルガードに通用しなかったせいだろう。ならば、せめて自身のフレイムスマッシュがもう少しだけ破壊力を持てば……
「ブゴオオッッ!!」
「!!」
そうバーニアスが思考していた瞬間、ボアボルガードが再びバーニアス目掛けて走り出し、バーニアスはすかさず思考を中断して身構えた。その瞬間
ドゴォォン!!
突如、周囲に地が割れたような激しい地響きが轟いた
「あれは……!?」
バーニアスが音のした方向、自身がボアボルガードと交戦している所からすぐ近くの切り立った岩場に視線を向けると、いつの間にか『それ』はそこに立っていた
一見すればそれは鈍い銀色のベルトの中央に、紫色のコアシステムを身に付けている以外は紫色の和甲冑と茶色の陣羽織を羽織った鎧武者のようにも見えた。が、その甲冑は人間ではとても纏って動く事が出来ない程に異様に分厚い装甲で包まれており、肩の装甲から前に伸びた牙や胸当てや、バーニアスを凌ぐ巨大な体格は象のようにも感じられたが、鎧に羽織った針金のような茶色の毛が生えた陣羽織、そして背中に背負った茶色の柄をした巨大な片刃の戦斧が、ただの象とは異なる事を強調させる。
そう、それを例えるならば
「マンモス……?」
「………………」
バーニアスがそう呟いた瞬間、紫色のコアーズが岩場から動き、バーニアスとボアボルガードの間にとゆっくりと歩み寄る。紫色のコアーズが一歩進むだけで地面は唸り、紫色のコアーズが信じがたい重量を持っている事が分かった
『まさか……あのコアーズは……』
そんな紫色のコアーズを見て白波は何かを確信した様子で呟く、とその瞬間
「ブゴゴゴッッ!!」
ボアボルガードがいきり立った様子で、標的をバーニアスから紫色のコアーズに狙いを変え、真っ直ぐに牙を突きだして突進を放ってきた
「危な……っ!!」
それを見たバーニアスは慌てて紫色のコアーズに警告の声を発し、注意を促した。しかし、紫色のコアーズはそれでも特に動じた様子は無く、ただ面甲冑の向こうから桜色に輝く瞳でボアボルガードを睨み付ける。と、その瞬間、全く衰えない速力で紫色にコアーズにボアボルガードの突進が炸裂し
「……ふん、そんな一撃で……」
「ブゴッ…………」
ボアボルガードの突進が直撃しても全く揺るがず、怯みもすらもしない紫色のコアーズが始めてそう鈍い声を発した。それと、同時に紫色のコアーズは自身の突進が止められた事で驚愕するボアボルガードを尻目にグローブのように巨大な左手でボアボルガードを逃げぬようにがっしりと押さえつけた
「この俺が倒せるかよ!」
そう高らかに紫色のコアーズは言うと、右手でベルト状のコアシステムに触れ、大胆に紫色のコアエナジーが流れる手で背中の戦斧を掴みとった
「漢気、勝地割!」
『カチワリ!』
次の瞬間、紫色のコアーズは左手でボアボルガードを地面に張り倒し、そのまま紫色のコアエナジーが込められた斧をボアボルガード目掛けて振り上げ、コアシステム音声と共に『必殺技』の名を叫びながら降り下ろした
「ブガッッ……! ギッガァァ!!」
その一撃は、あれほどバーニアスが苦戦していたボアボルガードの頭部を軽々と砕き、そのままボアボルガードの体を真っ二つに切り裂いて地面に一筋の亀裂を作ると、ボアボルガードは悲鳴を上げながら爆発して砕けちった
『間違いない……切谷研究員から今、連絡が入ったわ。……武君、その紫色のコアーズの名前は……クラッシャー! たった今、霧谷研究員達によって発見されたNo.5のコアーズよ!』
「『クラッシャー』……」
呆然としたまま、紫色のコアーズ。クラッシャーを眺めていたバーニアスは白波からの通信でようやく我を取り戻したように呟いた。と、クラッシャーはそんなバーニアスに気が付いたようで、ボアボルガードから視線をバーニアスに動かし、斧を再び背中に背負うとゆっくりと歩みより
「よう、大丈夫だったか? 『武』」
「!?」
そう実に親しげな様子で軽くバーニアスの肩を叩き、バーニアスを心底驚愕させた
「あぁ……『コレ』じゃあ、分からねぇよな。そりゃ」
そんなバーニアスを見て、クラッシャーは何かを察したように苦笑しながらベルトの中央にはめ込めれたコアシステムを取った
『Set.out』
すかさず電子音声と共にクラッシャーへの変身は一瞬にして解除され元の人間の姿へと戻り、クラッシャーに変身していた人物がバーニアスの前にその素顔を見せる。そして、その人物は
「テ、テツ!? ……え、えぇぇっ!!」
『Set・out』
そう、それは紛れもなく自身が朝に別れた筈の親友の少年、鉄雄その人であったのだ。その衝撃的な光景を前に思わずバーニアスも変身を解除し、元の武の姿で驚愕の声をあげながら鉄雄を見上げた
「鈍い俺にも、ようやく分かったぜ……お前が今まで俺に何を隠していたのかな」
一方の鉄雄はそんな武の驚きをあまり気にした様子は無く、そう感慨深げに呟くと武の手をがっちりと握る
「これからは、一緒に戦って行こうぜ武!」
「う、うんっ……頑張ろうテツ!」
そんな鉄雄の行動に少々面食らいながらも、武は自身も鉄雄の手を強く握り返す事でそれに答え、二人の間には堅い握手が交わされる事になった。
こうしてNo.5のコアーズ『クラッシャー』の目覚めにより、AMBT日本支部がアメリカ本部で研究中のNo.6を除き、所有しているコアシステム全てに適合者が見つかりコアーズは四人となった。
しかし、武達、適合者達は知らない
月草、白波、淳、宇治原そしてAMBTの職員達が決して語らぬように心掛けているコアシステムNo.2と同時期に作られ、AMBTの手から失われたコアシステム。No.1の存在を
そして、失われたNo.1が既に『目覚めている』事はこの時ばかりは適合者達もAMBTも知るよしは無かった
データベース
クラッシャー 適合者 岩地鉄雄
CORE - ゼロシステムNo.5に岩地鉄雄が適合して生まれたコアーズ。武器は背中に背負った巨大な戦斧『漢鬼』と相撲を基本した格闘。全身を覆う甲冑はあらゆる鉱物の良い特性ばかりを集めたような、言わば半ば反則的な強度をもつ。単純な力もバーニアスを凌ぐ程に優れる。が、その反面甲冑の重さの影響で機動力はコアーズの中でもかなり低い
ボアボルガード
猪に酷似した下級ボルガード。目の前にある食べれそうな物は何でも補食してしまう程の貪欲差を持つ。その体から放たれる突進は鉄筋ビルの分厚い壁すら軽々と粉砕してしまう