五話 鉄砲矢八は罠を張る
まいど遅れながら更新です。今回は新キャラ登場です!
「ありがとうございました!また、来てくださいね!」
しっかりとお辞儀をしてエトピリカから出ていく女性客を武はそう言って元気良く見送る。あのクラブボルガードとの激戦以来、数ヵ月連続していたボルガードの頻発は不気味な程にピタリと止み、AMBT本部や武自信もまた警戒を怠らないようにしながらも、武はこうして久々にゆっくりと穏やかな気持ちで自身が暮らす場所でもあるエトピリカで叔父の壱圭の手伝いを出来ていた。
「やっぱり、この時と学校に行ってる時が一番安心出来るなぁ……」
顔を上げ、一息付いて背伸びしながら武はそう心底満足毛な表情で言う。命をかけた怪物ボルガードとの戦い、その戦いを勝利へと導くのと同時に身を守るための朝晩の激しいトレーニングと自主練習。そして、その合間を縫うかのように行われる学生生活とエトピリカでの手伝い。一見、過密とも言えるスケジュールだが、学校では友達達と、エトピリカでは常連の客達と話せる時間は武にとっては疲労も忘れてしまう程の癒しの時間となっていたのだ。
と、その時再び店の入り口となるドアに取り付けられたベルが鳴り、店に新たな客が訪れた事を伝えた。
「いらっしゃいま……! あっ……」
その音に反射的に反応して挨拶をしようとした武は、店のドアを開いた人物の顔を見た瞬間、ぱあっと一目で分かるほどに表情を明るくさせた。
「こんにちは武君、お邪魔してもいいかしら?」
「美歌! 本当に来てくれたの!?」
ドアを後ろ手でそっと閉めながら微笑みかける美歌にパタパタと足音を立てながら嬉しそうに美歌の元へと駆け寄った。
「えぇ、司令官や武君からこの店の事を聞いて気になって……勿論、忙しいなら私は日を改めるけど……」
「えっ? あ、大丈夫だよ美歌! えっと……い、今、席に案内するから!」
美歌がそう言いかけた瞬間、大慌てで武は昼過ぎの稼ぎ時で数多くの客が訪れているエトピリカの店内を見渡し、手早く空席となってるテーブルを見つけると素早く美歌をそこへと案内した。
『ねぇ……あの女の子、誰……?』
『さぁ……武君の同級生くらいみたいだけど……初めて見る子ね……』
『何にせよ、必死な武君かわいい……抱きしめたい……』
美歌が訪れてから明らかにいつもとは違う武の態度に、美歌が武に先導される歩く度エトピリカ常連の女性客達から小さなざわめきが巻き上がる。その声が聞こえているのか判別出来ないが、武はそんな女性客達と視線が会うたびに笑顔で小さく手を振り返す。
「(誰も私に敵意を向けてる様子は無いけれど……この店、大丈夫かしら……色々と)」
一方でしっかりと常連客達の呟きが聞こえていた美歌はその内容に思わず苦笑しながら、武に案内されて汚れひとつ木作りの一人用テーブルについた。
「はい、これメニューだよ」
美歌が席に座るのと同時に武は透き通った青のガラスのコップに入った水をテーブルに置き、手書きで書かれたと思われる色とりどりの文字が並ぶメニュー表を美歌に手渡した。
「ありがとう武君、ふふ……」
「……どうかしたの?」
武からメニューを受け取った美歌はそこで、ふと首を動かした事で視線が合った武の姿まじまじと見て小さく笑う。武はそんな美歌の行動に不思議そうに首をかしげた
「武君……お店では随分と可愛らしい格好をしているのね」
そう、今の武はエプロンの下に着ている服こそ動きやすいごく普通の私服姿ではあったが、私服の上から着ているエプロンは中央に可愛らしくディフォルメされたウサギをあしらった薄いピンク色のエプロン。足に履いているのは、これまた可愛くディフォルメされた緑色のカエルのスリッパ。おまけとばかりに首にはパンダがワンポイントとして刺繍された白いスカーフを首に巻き、そしてその三つは共通してとても細かく繊細に作り込まれていた。
「えへへ……このエプロンもスリッパもスカーフも、みんなの常連のお客さんが俺にプレゼントしてくれたんだ……手作りだって。似合ってるかな?」
美歌に言われると武は半分は恥ずかしそうに、しかし半分でどこか得意気な顔をするとその場でくるっと回って美歌に改めてゆっくりと自分の着た服を見せた。
「ええ、とても似合ってるわよ武君。送ってくれた人が武君を思ってる気持ちが伝わってくるし……凄くかわいいもの」
美歌はそんな浮かれ気味の武を微笑ましい物を見るような目で見ながらそう率直に褒めた。
「えへへっ……ありがとう美歌。あ、ところで注文は決まった?」
美歌の言葉に武はにっと歯を見せた笑顔で礼を言いいつ、やんわりとそう聞いた。
「そうね……私はこの店は初めてだし、オススメを頼むわ」
「うちのオススメだね……うん、分かった。すぐ持ってくるからね!」
美歌から注文を受けると武は元気よく返事を返し、息を吸いカウンター席越しに見える厨房で調理している壱圭に注文を告げようとした時だった
「邪魔させて貰おうか」
その瞬間、ベルの音と共に店の扉が開かれ、深緑色の半袖ジャケットを羽織り、繊細にカットされて整えられたであろう短い銀髪の頭が特徴的な、日系ハーフかに見える一人の少年がエトピリカ店内へと入ってきた。
「っ……いらっしゃいませ! ようこそエトピリカへ!」
すかさず武は入ってきた少年へと駆け寄り、礼儀正しくおじぎをして少年を出迎えた。
「……こんな奴が二人目か……」
「……? 今、お客様、俺に何か言いましたか?」
武の姿を一別した銀髪の少年は、小さくは吐き捨てるそう口にする。が、あまりにもそれが小さな声であったために武の耳には届かず。武は頭を下げた体制で少年に尋ねた。
「……何でもない、早く席へと案内しろ。そして、この店で一番の自信のある料理を持ってこい」
だが少年は武の質問には全く答えず、武にそうぶっきらぼうな態度で命令する。
「はい、ただいま案内しますね!あ、オーダーはカレーセット二人前で!」
が、武はそんな少年の態度を全く気に止めた様子は無く。少年を先程自信が片付けを済ませたばかりのカウンター席へと案内すると壱圭の手伝いをしに厨房へと引っ込んだ。
『何、あの子、態度悪くない? ……武君と同じ年くらいに見えるけど……もしかして武君のお友達?』
『うーん、あたし武君の友達……って、あのゴリラみたいな奴しか私、知らないなぁ……』
『でも、さっきの子とは違って武君、面識無いみたいだよ?』
突然の見知らぬ少年の登場にエトピリカにいた常連の女性客がにわかに騒がしくなり始める。
「ん…………?」
と、その騒ぎを耳にした銀髪の少年は既に武に案内されて座っていたカウンター席の椅子にゆっくりと腰かけたまま椅子だけを回して、声が聞こえた方向、つまりは女性客達に視線を向ける。
少年の動きに『気付かれた!?』と女性客達が慌てた瞬間だった。
「はっ……意図せずとも女性の注目を集めてしまうか……やはり俺は素晴らしい人間だな」
『『『えっ?』』』
額に手を当てて目を閉じ銀髪の少年がさも当然であるかのようにそう呟き、思わず何を言われるか慌てていたはずの女性客達、そして美歌をも唖然とさせられてしまった。
「何もしなくても出てしまうのだな……俺の素晴らしきオーラや空気と言うものが……さすがは俺だ」
そんな周囲にもまるで気にせず銀髪の少年は口を開くと自己陶酔するかのようにそう熱く語り始めた。
『ナ、ナルシスト……?』
『それも、今時見ないくらいのね……初めてみたわよ』
『で、でも、実際かっこよくない?あの子』
『まぁ確かに、顔はかっこいいけどさぁ……』
そんな銀髪の少年の一人語りを耳にしながら、女性客達はひそひそと少年について語り始める。
「(一体なんなの……この人……)」
一方で自身の人付き合いが良くないとは言え13年の人生の中で今まで一度も遭遇した事が無いタイプであった銀髪の少年に美歌もまた対処が分からず困惑して動けずにいた。
「はは、はははっ…………!」
「…………………………」
そして銀髪の少年と言えば自信に満ち溢れた表情で店内を見渡し、マメに目が合う女性客一人一人にウィンクを送っていた。それは勿論、半ば呆れながら見ていた美歌に対しても同様であり美歌はますます困惑し、ただ無言で少年を見ているしか無かった。
「はぁーい、ご注文のカレーセットおまたせしました!」
と、妙な空気が店内に漂う中、二つのトレイを手に元気よく厨房から飛び出すと、美歌、そして銀髪の少年へとトレイの上に乗っていたカレーライスが入った大きな器と付け合わせのポテトサラダが入った小鉢、そして曇り無く輝く銀製のスプーンを渡していく。
「……まぁ、ここは軽食店、今は食事に集中するとするか」
突如、注文した料理を持って武が戻ってきた事で興が削がれたのか、銀髪の少年は再びイスを回してテーブルに向き直るとスプーンを手に取ると、じっくりとカレーライスを睨み付けながら静かに手を付け始めた。
「ふぅ………」
美歌もまた、妙な空気の中で動揺していた気持ちを一気に肺から息を吐き出す事で落ち着かせると、少年と同じくスプーンを手に取ると、湯気と共に香辛料の香りがふわりと漂い、丸みを帯びたジャガイモとニンジン、そしてサイコロ状の牛肉が入った茶色のカレーの汁部分を一口分だけすくうと、軽く息を吹き掛けて冷まして口へと運ぶ。
「!? …………おいしっ……!!」
次の瞬間、美歌の瞳は限界まで開かれ、気付いた瞬間には心から思っていた事を口に出していた。
「本当……? 良かったぁ……」
「たっ、武君、聞いてたのねっ?」
満足毛にそう言う武の声が聞こえ、美歌は慌ててカレーに向けていた視線を声の聞こえた方向へと移す。すると、そこにはカレーを運んできたトレイを胸に抱えて笑顔で美歌を見つめてくる武の姿があった
「そのカレーはね、壱圭おじさん……この店のマスターが作ってるんだけど、俺も手伝ってるんだ」
とは言っても、手伝ったのは材料を切ったり下ごしらえの一部だけだけどね。と、武は最後に少し恥ずかしそうにそう美歌に言った。
「美歌にうちの自慢のカレーをおいしいって言って貰って凄く嬉しかった……ありがとう」
「別に……本当の事を言っただけよ」
武は最後にそうお礼を言うと再び美歌の顔を見て嬉しそうに笑いかけた。そんな武の笑顔が眩しくて美歌は思わず頬を染めると視線をそらした。
「ちょっと君、君いいかな?」
と、そこで突如、先程までカレーを味わっていた銀髪の少年が食事の手を止め、武を呼んだ。
「あっ……はい!なんでしょう?」
少年に呼ばれた武は一瞬、名残惜しそうに美歌を見たがすぐに小走りで少年の元へと向かう
「改めて聞くが、このカレーとポテトサラダがこの店一番の自信作なんだな?」
「……はい、このカレーセットがこの店の自信作です。何かありましたか?」
何故か神妙な雰囲気でそう言う銀髪の少年に、店の料理に関して譲れない者を持っている武は全く怯んだ様子も無く堂々と返事を返した。すると、次の瞬間少年は武を睨みつけた。その二人の緊迫した雰囲気に再び店内の注目が集まる。と、その瞬間
「実に素晴らしい味だ……そう、まるでこの俺のように素晴らしいカレーとポテトサラダだこれは!」
一言一言に妙に自信が溢れるような態度でそう言うと、銀髪の少年は武に向けビシッと言うような音が出る勢いで手で一回転させたスプーンを突き付け、椅子に座ったまま華麗にポーズを決めた。
「は、はぁ……ありがとうございます……」
そんな微塵も恥ずかしさを見せない少年の態度にに思わず圧された結果、武は苦笑いをして曖昧な返事を返した。
「気に入った……これからも時間があればこの店に来てやろう」
少年はそう言うと既に半分ほど食べていたカレーとサラダを素早く、しかし音を立てぬように上品に食べきると最後にもう一度店内の女性客達を見渡してウィンクを決めると鼻歌を歌いながら、この一連の状況に特に同様を見せていない壱圭から会計を済ませてエトピリカから出ていった。
「あ、ありがとうございました……また来てくださいね……はぁ……」
そんな銀髪の少年を武は困惑しながら頭を下げて挨拶し見送ると、一つ大きなため息をついた。
「それにしても……変わったお客さんだったなぁ……」
『『『(それは、全く本当に)』』』
瞬間、武の呟きに、壱圭を除く店内の全員の人間の心の声が一致したのであった
◇
そんな、妙な休日を終えた翌日
「たあっ! やぁっ!!」
「ふうっ……はっ……!」
先手を打ったバーニアスから放たれた二段蹴りをアクアは一段身を捻って避け、二段目をブルーファングの刀身で弾き飛ばして防いだ。
「……はぁっ!」
「うわっ……と!?」
と、瞬間、アクアはバーニアスが振り上げた脚を戻すより早く懐へと踏み込み、左上から袈裟切りを放つ。バーニアスはそれを胸の前でクロスさせた両腕でタイミングを合わせて刃が当たる範囲を出来るだけ低くして受け流すようにブルーファングの一撃が逃れる。が
『スタップファング!』
アクアはまるでバーニアスの行動を予測していたようにブルーファングを受けられた瞬間、滑らかな動きで腕のコアシステムに触れると、美歌の意思を受けて青のコアエナジーが収束されるブルーファングを胸元に引いて、コアシステムの電子音声と共にアクア必殺の突き、スタップファングをバーニアス目掛けて放った
「……っ!! フレイムアタック!」
『フレイムアタック!』
が、バーニアスも負けてはいない。迫り来る鋭いアクアの突きに冷や汗を流しながら、しっかりと両足を大地に踏みしめて構えると、胸のコアシステムに触れて現在拾得した必殺技の中で最も隙の少ない技、赤のコアエナジーを右腕に集めて相手へと叩き込むパンチ、フレイムアタックをアクアのブルーファングの剣先に狙いをつけて正面からぶつける。
コンマ一秒の間もなく次の瞬間、空気が張り裂けるような激しい激突音と共にバーニアスとアクア、両者の必殺技が炸裂し、辺りには青と赤、花火のようなまばゆいコアエネルギーの光が飛び散った。
「きゃぁっ……っ!?」
「くっ……はぁはぁはぁ……」
それぞれ互いに自分の必殺技で打ち消す事が出来なかった分の相手の攻撃の余波の直撃を受け、全く同時のタイミングでアクアは崩れるようによろけて背中から倒れ、バーニアスは倒れこそしなかったものの余波を受けた胸部の装甲を右手で押さえ、片膝をついた状態で荒い呼吸をしていた。
『そこまで! 今日の試合は引き分けよ!』
と、そこで白波の声が二人が模擬戦をしている場所、AMBTの地下訓練所の室内に響いた。
『おおおおぉっ!! やったな武!ついに美歌と引き分けたか!』
「ううん淳、今の試合は俺が運が良かっただけだよ」
『Sat - Out 』
クラブボルガード線後も、幾度か行われたバーニアスとアクアの訓練試合を研究者としての血が騒ぐのか(今はニホンサルだが)一度たりとも見逃してはいなかった霧谷は妙に高いテンションでバーニアスの健闘を讃えるが、バーニアスはそれに首を横に降ると静かに変身を解除して武の姿へと戻ると、小さく苦笑した
「それに俺はまだ一回も美歌に……バーニアスは一回もアクアには勝ってない。今日の引き分けだって10回に1回あるかないような確率を偶然、引き寄せたものだよ」
「いえ、たとえ10回に1回の確率でもそれを実際に今日この場で引き寄せられたのは武君の実力……私はそう思うわよ?」
と、武が霧谷との会話に既に変身を終えた美歌が歩みよりながら加わって来た。
「武君、あなたはバーニアスの適合者と判明するまで全くの一般人……にも関わらず私が復帰するまで多くのボルガードと戦い抜いて見せた。しかも、その事を奢らずにいつも一生懸命にトレーニングを続けて、少しでも差を縮めようと私とも手合わせしている……少しは誇りと自信を持ってもいいと思うわ」
「……もう美歌、からかわないでよ。トレーニングを一生懸命やるなんて当たり前の事じゃあないか」
軽い微笑みを浮かべる美歌にそう言われると、武は恥ずかしそうに頬を少し染めて、変わらず笑みを浮かべてくる美歌から少し視線を外して反論した。
「あら、からかって何か無いわよ、正統な評価よ武君。当たり前の事が『当たり前』に出来るって事は世間では立派に人の長所と言えるのよ?」
が、美歌はさも当然のようにそう言い切ると、逆に『私、何かおかしい事を言ってる?』とでも言うかのように微笑んだまま首を傾げて見せる。それは、美歌の美しい顔立ちと滑らかな黒髪と合わさる事でさながら絵画のような美しさを醸し出し、武も思わずそれに見惚れてしまっていた。
「ううう……美歌ずるい……」
結果、武はそれ以上、美歌に何も言うことが出来ずに顔を赤くしたまま最後にぼそりとそう呟いた。
「否定はしないわ……これは、あなたより前からボルガードとの戦いをしていた事でが私が身に付けた戦闘知識以外のテクニックの一つよ」
そんな武の発言もしっかりと耳にしていた美歌は、未だに恥ずかしがっている様子の武にだめ押しするかのように最後にそう付け加えた。
「(美歌に誉められるのは嬉しいけど……考えたくは無いけど俺って、もしかしたら美歌にからかわれているのかな……?)」
自身、バーニアスの必殺技にすら耐え、一撃の攻撃でアクアを気絶させてしまうような強敵であったクラブボルガードクラブボルガーとの戦い、それをアクアと共に戦う事で会った当初からは考えられない程に変化し、積極的になった美歌の真意が汲み取れず、思わずいけないと心では思いつつも小さく、そんな勘繰りをしてしまっていた。
「(また、やり過ぎてしまった……どうして私は武君と話すと楽しくなるのだろう? どうして心が暖かくて安心する事が出来るんだろう? 私自身の事なのにどうしてもそれが分からない、判断出来ない。……私は一体……)」
一方で美歌も、無意識に武に対して行っていた先程までの自身の行動をよく頭で理解できておらず、黙り混んで考え込んでしまい。武と美歌二人が並んで一言も話さなくなってしまった。
『えっと……あぁ、そ、そう言えば二人に良い報告があるにょよ!』
その険悪では決して無いが気まずい沈黙を何とか解消しようと白波が少々噛みながらも無理矢理に明るい声を出して話し出そうとする。まさにその時だった
「おいおいおい、No.2とNo.3の二人は訓練してるって聞いたから来てみたが、何なんだ雰囲気は……」
武と美歌がいる訓練室の電子扉が音を立てて開き、軽く靴で床を蹴って軽やかなステップを踏みつつ、そんな事を言いながら一人の少年が入ってきた。
「ま、例えどんな状況でも100%の力を発揮して見せる……何せ俺は素晴らしい人間だからな」
武と美歌、二人を交互に見ながら少年は胸を張り得意気な表情でそう言った。
「き、君は…………」
訓練室へと入ってきた少年の姿を見た瞬間から驚愕して言葉を詰まらせた。
「おっと……そういえば先日は俺とした事が自己紹介を忘れていたな」
武の事に気が付くと、待ってましたとばかりに少年は銀髪の髪をさっとかき上げ、ニヤリと笑うと口を開いた
「俺は、神に山より高く愛され御使わされし八手先をも読む男! そう、俺は御八……CORE - ゼロシステムNo.4の適合者、神山御八だ!」
「「!?」」
羽織っていたジャケットをはためかせて自信に満ちた顔で宣戦布告でとするかのようにそう言う少年、御八に対し、武と美歌の表情は御八の放った驚きの言葉により驚愕一色に染められ、驚きの余りに言葉を話す事すら出来なかった
「え……えっ……ええっ!?」
「三人目のコアーズ……まさか……っ……あなたが……!?」
一呼吸程おいて数秒後、ようやく言葉を発せられるようになった武と美歌がそれぞれ驚きの言葉を御八に向けた
「ふふ、当然だと思ったが、やはり驚いたようだな……何せ俺だからな。その言葉は受け取ってやるとしよう……さて」
二人の言葉を御八は目を閉じてじっくりと聞きつつ得意気にそう返事を返す。と、話終えると同時に御八は目を開いて改めて美歌と武に視線を送りつつ二人の視界の中心に立つように歩み寄った
「……コアーズNo.3『アクア』の水原美歌。そしてコアーズNo.2『バーニアス』の円崎武、お前達が二人だけで複数のボルガードを撃破した事実は知っている……その奮闘は認めよう。特に負傷したアクアの代わりに初心者にも関わらず奮闘したと言うバーニアスの大活躍は俺でさえ初めて聞いたときは自分の目を疑った程だ」
「そ、そんな……大活躍って……美歌はともなく俺なんて……そんなこー」
御八の口から発せられた美歌と武を誉めるような言葉に、全く予想出来ていなかった武が思わずそう言った時だった
「だが、しかし! その栄光は今日までだ!」
突如、御八は急に声のトーンを高くし、ポーズを決めながらそう言った。
「えっ……?」
『あっ、え、えっと御八君?』
「訳が分からない、って感じの顔をしているから教えてやろう。その理由は、今日から俺がこのAMBT日本支部でコアーズNo.4としてボルガードと戦うからだ」
困惑する武に対して御八は不適に笑い、腕を組みながら、困惑した様子の白波に『任せておけ』と言うような視線を送ると、武にそれがさも当たり前であるかのようにそう御八は答えた
「それで……? どうして、あなたがコアーズとして戦うと私達の栄光が今日までと言う結論に達する事になるのか教えて貰えるかしら、素晴らしい人間さん?」
現れて以来、ずっと上から目線で自分達を見てくる御八が気に入らないのか美歌が武と和解して以来、ほぼ見せていなかった鋭い目付きと気迫で睨み付けながら馬鹿に丁寧な態度で御八にそう問いかける
「あぁ勿論だとも、男としてそして素晴らしい人間である俺として、女性の頼みは聞くものだからな」
そんな美歌の態度も意に介さず御八は軽く指をふり、当然とだけ答えて何事も無かったかのように話を続ける
「…………」
その様子を見て美歌は、無言のまま不快と嫌悪を一切隠さない視線で御八を睨み付けたのだが、これもやはりと言うか通じた様子も無く、御八は更に話を続ける
「つまり、結論は簡単。これから現れる全てのボルガードは俺が変身したコアーズの力で一体残らず倒される。よってバーニアスとアクアには俺の万が一の時の補佐以外では出番は無いって事だ……分かりやすかっただろ?」
改めて武と美歌に視線を送りつつ、一切の悪気が無い笑顔でそう言う御八。と、その時だった
「ふざけるのも大概にして……」
乱暴に足元の床を蹴りつけると、美歌は語気を強め御八を睨み付けながら詰め寄った。
「いきなり現れて、ボルガードを全て一人で倒す? 私と武君に自分の補佐に付け? 殆ど初対面のあたにそんな事を言われて『はい、そうですか』と私達が素直に聞くとでも思ってるの?」
「み、美歌、落ち着いて…………」
興奮した様子の美歌を押さえようと、武が慌てて前へと飛び出し怒りを宥めようと試みる。が、美歌はそんな武に殆ど視線を向けず、御八を睨み付けたまま更に足を進めて歩いていく
「まぁ……そう簡単に理解するとは思ってない。が、丁度いい事にここは訓練室。そして皆がそれぞれのコアシステムを持っている。と、なればレディを傷付けるのは趣味では無いが……後は百聞は一見にしかずって奴だ。分かるな?」
「いいわ……この場所で、私自身がこの目であなたの実力を確かめてあげる!」
御八の挑発するかのような口振りに乗り、美歌がアクアのプレートアーマとなるブレスを出現して電灯の光で青く煌めく自身のコアシステムNo.2を構え、同時に御八もまた無言で笑みを浮かべるとジャケットの内ポケットからエメラルドに似た緑の輝きを持つコアシステムを取り出した
「ちょ……ちょっと待ってよ二人とも!!」
一触即発の状態で互いに睨みあい、今にも激突しそうな美歌と御八を止めようと咄嗟に武が間に割って入るように飛び出した時だった
『……! 三人とも、模擬戦をするかどうかは今は後にしておいて!』
どうにか二人を落ち着かせようとしていた白波の息を飲むような声が響き
直後、ボルガードの出現を知らせる警報が訓練室内を含むAMBT基地内に桁ましく鳴り響いた
◇数分前、とある陸橋近く◇
「はぁ……どうしよう……」
陸橋の下、コンクリで出来た川岸に座り込みうつ向いて座り込む背中に背中に背番号が無く、学校名だけが書かれたユニフォーム姿の一人の少年、宇田川は頭を抱えて目下の小石が並ぶ川原、更にその先で静かに音をたてて流れる川の流れを見ながら深く溜め息を付いた。
「勢いでこんな事をしたけど……流石にマズいよなぁ……今からでも返しに行くか?」
宇田川はそう言いながら手に持っていたかなり使いこまれた赤い野球のグローブを見つめる。ユニフォームを着た宇田川は野球をやってはいるが、このグローブは自身の物ではない。自分と共に野球を始めた親友、北永が両親から送られた大切な物だと愛用しているグローブ。それを宇田川は休憩している北永の隙を見て盗み、ここまで逃げてきたのである。
「でも……あいつだって悪いんだ。俺を差し置いてレギュラーなんて」
そんな悪しき行為へ走った自身を責めていた、宇田川ではあったがふと思い出したかのように、先程まで悩みを浮かべていた表情を憎しみの色へと変化させてそんな事を口走る
そう、彼、宇田川がこんな行為をした理由は一つ。彼と北永が所属する野球部。そのレギュラー選抜試験で先週、北永が紙一重の差で宇田川を抜いてレギュラーへと昇格したのである。その事が内心では単純な実力で負けたと言う事が理解していても宇田川は心に押さえる事が出来なかったのだ
「……決めた、これはここに置いていこう」
宇田川の心に甦った憎しみが親友である北永を想う心や絆を上回り、宇田川が北永のグローブを振りかぶり川原に繁っている草むらへと無造作に放り投げようとした時だった
突如、大きな水音が川から響いた
「…………今のは?」
川に住んでいる魚等が出したものにしては明らかに大きすぎる音に、宇田川は振りかぶった手を下ろし音のした方向へと視線を向ける。そこには、先程まで緩やかな流れで少々平面的だった様子の水面に、ついさっき、そうまるで宇田川が視線を向けるまでは水面から何かが顔を出していかたように大きな波紋が広がり無音で円を作っていた
「なんだありゃ……?」
そんな巨大な波紋に興味を引かれた宇田川が一歩、また一歩と川原へと向かって足を踏み出す。そして水面に浮かぶ波紋が弱まり宇田川が更に近付いて川の様子を見てみようとしたその瞬間
激しい水音と共に細い何かが川の中から飛び出すと、宇田川の腹を拘束し地面に引きずり倒した
「うっ……あっ……げ、げぇぇっ!? ……い、痛っ……!」
余りにも突然の出来事だった為か宇田川は困惑したまま地面に叩きつけられ、背中と頭を襲った鋭い痛みでようやく寝転がったまま痛みにもがき苦しんだ
「一体何が……そ、そう言えば腹が……うっ!?」
痛みに苦しみながら起き上がろうとした宇田川はそこで自身の腹部を見て驚愕した。
宇田川の腹をベルトのようにガッチリと拘束していたのは茶色く水に濡れたクワガタムシの大顎を思わせるような奇妙な物体。しかもそれは、宇田川の体を拘束したまま少しずつ引きずり、宇田川を川へと引きずり込もうとしていた
「うっ……うわあぁぁぁぁあっっ!!」
その異常な自体に恐怖を感じた宇田川は懸命にもがき何とか奇妙な物体の拘束から逃れようと滅茶苦茶に暴れ出した。が、拘束する物体はまるで鋼鉄かのように固く宇田川が渾身の力で殴り付けても石が砕ける程強く叩いても傷一つすらつかず、川原の大地に爪を立てて堪えようとしても宇田川を引っ張る力はそれを何も無かったかのように突破して宇田川の爪は剥がれ落ち、引きずられる宇田川の後に沿って血のラインを作っていく
「い、嫌だ……誰か助けてくれぇぇ!!」
血のラインを作りながらも必死で川に引きずり込まれないように堪え、顔には涙を浮かべて喉が裂けそうな程の強さで必死に救いを求める宇田川。しかし、その声は丁度陸橋を通りかがった列車の音へと書き消されてしまう
「助けて、北な……!!」
それでもなお助けを求めようとした瞬間、宇田川の体は完全に川の中へと引きずり込まれ、派手な音と共に水しぶきが上がる
水しぶきが収まった瞬間、水面に浮かんできたのは恐ろしい力で千切られたユニフォームの一部、そして川原の小石を僅かに赤く染める鮮血だけであった
◇
「ふむ御八……もう一度、より詳細に私に説明してくれ」
静かにゆっくりと、しかし気分を害している訳でも無いような口調で月草は自身の指示で作戦指示の為にディレクションルームへと呼び出した三人のコアーズ適合者。その一人である御八にそう尋ねた
「ええ、月草司令官。改めて言います、この作戦は俺一人でボルガードとの戦闘を行わせてください。理由は……そうですね、俺の戦い方を知ってもらってその実力を証明する為ですかね」
隣で無言のまま睨み付けて来る美歌も意に介さず、御八は特に臆した様子も無く月草にそう言って見せた
「ふむ……」
月草はそんな御八と、相変わらず御八を睨み続ける美歌、そしてどうにか二人の間に出来ている溝を埋めれないかと思案している武をみながら小さく、考えを纏めるように唸り
「いいだろう御八、今回のボルガード討伐はお前に任せる」
「司令官っ!?」
月草がそう言った瞬間、やや険悪なムードに入り込めずに傍観する事しか出来なかった白波が思わず声を上げ、美歌と武もまた驚愕に目を見開いた
「ありがとうございます月草司令官……この俺が必ずご期待以上の活躍をしてみせましょう」
そんな中、御八だけがさもそれが当然だったかと言うように月草にそう礼を言うと仰々しくお辞儀をして見せた
「ただし、お前に万が一の事態が発生した時の為にバーニアスも現場に同行させる。お前の実力はデータ上の数値でしか私は知らないが……何にせよ、まだ新人だ。その事を忘れるな」
そんな御八の態度も月草は特に気にした様子は無く、ただ若干警告するかのような口調でそう告げた
「承知しました月草司令官。……尤も、バーニアスの出番は無いでしょうがね」
御八は最後に小さく呟きながらも、目を閉じながら頷いて月草の忠告を受け入れた。
「では、今話した通り今回のボルガード討伐は、御八を作戦の要として行動する。武はその補助、美歌は本部にて待機。異論は無いか?」
御八が自分の提案を受け入れたのを見ると月草は確認するように三人に向かってそう言い、その言葉に御八は当然とばかりに了承し、武は多少狼狽えながらも頷き、そして美歌は
「司令官がそう決めたのならば……」
と、言いつつも明らかに納得していない表情で月草の話を受け入れた
「それでは早速、『月草司令官の作戦通り』出発してきます……」
話が終わると御八は手早く敬礼し、やたらに今回の作戦が月草のよる物と強調すると、早足で優雅に歩きながらディレクションルームを後にした。
「あぁ武……ちょっと待て」
「…………?」
と、一瞬遅れてその後に続こうとした武を月草が呼び止め、武は不思議そうな顔をして足を止めた
「……今回の御八の戦い、目を離さずしっかりと目に入れておけ。それこそ文字通り隅から隅までな」
足を止めた武に再び御八に関するデータに軽く目を通しつつ、囁くような小さな声でそう武に指示を出す月草。その口元には小さな笑みが浮かんでいた。
◇
「ヴヴヴゥゥ……」
低い音階のノイズ音を思わせるような声と共に『食事』を終えたボルガード、ナイアドボルガードと名称されたヤゴに酷似しているボルガードは三本爪が付いた太い4本の足でのろのろと水中から陸上から上陸していく。歩くたびに腐食した木のような色の体からは水が滴り落ち、大型の水中メガネのような複眼の目に付着している水を歩行用に使う4本足とは違う、手の役割を持つ長い二本の足で拭き取りつつ、ナイアドボルガードは昆虫等に多い横に広がる口を開くと、口の中からはぽとりと骨だった白い塊が一欠片こぼれた
「おでましか……ボルガードさんよ」
「ヴヴ……!」
と、直後そんなナイアドボルガードの視線の先からコンクリの川岸を一気にかけ降りナイアドボルガードが上陸する一足先に現場に駆け付けた御八がナイアドボルガードに向かってポーズを決めながらそういい放ち、御八に気付いたナイアドボルガードは低くうなり声をあげて御八へと向き直る
『ちょっと御八! 勝手な行動は止めなさい!!』
そんな御八の行動を咎め、白波が通信機越しに御八にそう怒鳴り付けるように言う
「以後……気を付けます……っ!」
白波にあまり反省の色が見えない様子で御八はそう返事をしながら、懐から左手でエメラルドの色に輝くコアシステムを取り出し、右腰に構える
と、その瞬間、御八の腰が光に包まれ、一瞬で銀とメタルグリーン二色のチェーンと牛皮に似た奇妙な黒い皮で出来たガンベルトのような形のベーシックアームが出現し、それを確認すると御八はニヤリと笑い、そのまま音声コードを入力すべく息を吸い込んだ。
「セット……アップ!!」
『Sat - Up !!』
「ヴヴヴヴッ……!!」
と、御八が音声コードを入力しコアシステムをアーマプレートたるガンベルトの右に空いたくぼみにはめ込んだ瞬間、ナイアドボルガードが腹部の巨大な気門から一気に空気を噴射し、さながらロケットのような勢いで周囲に土埃を撒き散らしながらまだコアーズへの変身を終えていない御八へと向かっていく。
「神山くんっ!!……セットアップ!」
『Sat - Up 』
同行した宇地原の話も聞かず、先攻して先に行ってしまった御八にまさに今、追い付いた武が、直ぐ様その危機に気付き慌ててバーニアスへと変身を遂げて御八を助けようとした瞬間だった
『ファングズ!!スタート!』
「ヴヴ……ッ!?」
突如、電子音声と共に土埃の中から飛んできた緑色の光がナイアドボルガードへと直撃し、飛んでいたナイアドボルガードを地面へと叩き落とした
「残念、もう少し早ければ俺に先制の一撃を与えられたかも? ……なんてな」
地面に落ちてもがくナイアドボルガードに土埃の中から御八の声が響き、一瞬後、土埃が吹いてきた風によって晴れ、変身を終えた御八、緑色のコアーズが姿を表した
「まぁ……どちらにせよ貴様などは、この俺のコアーズ『ウィンダム』の敵にはならない」
それは、コアーズ『ウィンダム』は全身を迷彩色のような緑と茶の色で全身を包み、ガンベルトの装着された腰、そして肩と両腕両足のみを守る蜘蛛の足のような格子状の鎧は翡翠の如く濃いながらもどこか済んだ緑。両肩、そして両腕と両足の首にはそれぞれ大きさが違う茶の毛が生えたファー。目の色は深い青に彩られ頭には巨大なゴーグルをいつでも着脱出来るように装備してあった。
そして何よりウィンダムが特徴的なのが
「銃…………!」
ウィンダムを確認したバーニアスはウィンダムが手にしていた武器を見て思わず息を飲んだ。そう、ウィンダムが手にしているハンドガンに良く似た小型の銃、それこそがナイアドボルガードを地面に叩き落としたものであった。
「……くらえっ!」
「ヴヴヴッ…! ヴッガッ!?」
倒れたナイアドボルガードが起き上がるのを確認するとウィンダムは再び発砲し、ハンドガン状の銃器『ファングズ』から放たれた数発のエネルギー弾は全てナイアドボルガードへと命中し、ナイアドボルガードは全身から火花を出しながら苦悶の声をあげた
「まだまだっ!」
『ニードルズ!!スタート!』
追撃を続けながらもウィンダムは、一瞬、ファングズを片手撃ちにし、もう片手でコアシステムに触れる。と、その瞬間、緑色のコアエナジーがファングズを覆ったかと思えば瞬時にしてその姿を今度はサブマシンガンのような形態、『ニードルズ』へと変える。
「おおおおっ!」
ニードルズへと形態変化を終えた途端、ウィンダムは直ぐ様その銃口をナイアドボルガードの腹部に狙いを付けてトリガーを引いた。
「ヴヴヴッ……!! ガッ……ヴガァッ!!」
一発のエネルギー弾の太さや威力は先程のファングズよりも劣るものの、名前の通り針状の形をしたエネルギー弾がそれをもって有り余る程、さながら豪雨のような勢いで次々とナイアドボルガードへと直撃し、腹部に風穴を次々と作りあげ、目に穴を開けて、腕の一本をも吹き飛ばし、ナイアドボルガードは身体中から緑色の体液を撒き散らしてもがき苦しみ悲鳴を上げた
「これで、トドメだ」
そんなナイアドボルガードに必殺技の一撃を叩き込まんとウィンダムは一反、トリガーから指を離して銃撃を止め、右腰のコアシステムに触れようと手を伸ばして触れた
「ヴヴッ!」
突如、その瞬間、怯んで弱っていたナイアドボルガードは起き上がり、折り畳み式の下顎を噴射するとウィンダムの手に握られていたニードルズを弾いて吹き飛ばした
「なっ……しまった……!?」
空中へと飛んだ自分の獲物を見ながら焦りの声を出すウィンダム。ナイアドボルガードはその隙を見逃さまいと素早く発射した下顎をしまい、本命たる第二派をウィンダムに放つべく狙いを付け
「なんて……俺が言うとでも期待したか?」
『キャッチャーズ!!スタート!』
その瞬間、空中に浮いたウィンダムの銃から放たれたネットに体を囚われて大きく体制を崩した。
「ボルガードは自身に酷似した生物の特徴を、その体に持つ……お前がそんな事をしてくるなんて、最初から計算内。銃はそのクソ顎が当たる前に俺自身がコアエナジーを注入、タイミングを考えて投げたんだよ」
『ファングズ!!スタート!』
ジャンプして空中へと飛び上がりながらフックランチャーとネットランチャーを足したような奇妙な姿に変化して先端には小さな銛がついた自身の銃『キャッチャーズ』を手にしたウィンダムは嘲笑するようにそう言うと、再び銃をファングズへと変形させ、腰のコアシステムに触れる
「今度は本当……これで終わりだ!」
『ファングズ!!クラッシュシューティングズ!』
ウィンダムの声と同時に放たれた電子音声と共に、コアシステムから緑色のコアエナジーがウィンダムの体を伝わってファングズへと流れ、ファングズの銃身は深緑の揺らめきで光輝いてゆく。ウィンダムはそれを無言で確認しながら改めてしっかりとナイアドボルガードへと狙いを付けて、落下しながら構えた
『ヴヴッ……ヴヴヴ……ッ!!』
迫り来る危機にナイアドボルガードはキャッチャーズのネットの中で必死にもがき、川へ逃げ出そうと試みる。が、ネットは鋼鉄を遥かに越える程の強靭さを持ちながらもゴムのように伸縮し、おまけに一本一本が接着剤のように体に張り付いて全く取れず、人間の出せる限界の更に十倍以上の力を持つナイアドボルガードが全力を持って暴れてももぞもぞと、イモムシのようにのろまにしか動く事が出来なかった
「とおらッ!!」
直後、そんな無防備なナイアドボルガードに向けてウィンダムは通常弾とはサイズも、秘めたコアエナジーのエネルギー質量も桁が違う三発のエネルギー弾、クラッシュシューティングズを掛け声と共に放った
「ヴッ……ヴアアアアアァァァッ!!」
ネットで拘束されているナイアドボルガードがそれを防げる筈もなく、クラッシュシューティングの弾は胸に二発直撃、最後の一発でナイアドボルガードの頭に命中し、ナイアドボルガードは断末魔の叫びを上げながら自身が必死で逃げようとしていた川の中へと反動で吹き飛ばされ、バラバラになりながら水中で爆発四散し、そのエネルギーは噴水のような水しぶきとなって着地したウィンダムに
「凄い…………」
そして、月草の言いつけを守り、ウィンダムが危なくなった時は直ぐに駆け付けられるように注意しながらも目を離さず、ウィンダムの戦いを見ていたバーニアスに降り注いだ
「ふっ……見たか。これがウィンダムの……この俺、御八の実力だ!」
戦闘が終了した事で変身を解き、ウィンダムから元の姿へと戻った御八がそう得意気にバーニアスに向かって
「(確かに神山くんの……ウィンダムの戦い方は凄い……ボルガードとは初戦のはずなのにあそこまで圧倒するなんて……でも……)」
バーニアス、武は御八の戦いを見て素直にその実験を賞賛していた。が、同時に別の物を御八から感じ取ってもいた。しかし、それは御八の今までの行動から考えると……。口に出して言うことは出来なかった
「(父さんが俺に御八の勝負を見ておけって言ったのはもしかして……)」
髪の毛と汗を持参したタオルで心地良さそうに拭き取る御八を見ながら、武は静かに思考を纏めつつあった
◇
揺らめく光が上空から僅かに差し込み、敷き詰められた丸い石の上で音も無く踊る。ここはナイアドボルガードが沈んだその川の底。ナイアドボルガードの体はウィンダムのファングズシューティングズを受けて殆どが粉微塵になったものの、一部はかなり原型を残してており、ナイアドボルガードの肉片はあても無く流れのまま川底を漂っていた
「シャッ……!」
と、そんなナイアドボルガードの肉片を茶色の物体が掴み取る。
それはウィンダムに倒された個体とは別個体となるナイアドボルガードであった。
「ヴヴヴ……ッ!」
ナイアドボルガードは肉片を手早く口に入れて補食すると、一声唸って静かに休眠へと入る。その背中にはうっすらと一筋の切れ込みのような線が入りだしていた。
それは、成長したナイアドボルガードが成体へと脱皮をする兆候であった
CORE - ゼロシステムNo.04『ウィンダム』適合者、神山 御八
『素晴らしい人間』を自称する尊大な振る舞いや行動が目立つ少年。が、自分が素晴らしいと思った物事は素直に誉める奇妙な一面と、何か言う度に奇妙なポーズをとる癖がある。銃の腕には高い自信を持ち、それに違わぬ射撃センスを持つ。が、近接格闘は非常に苦手で近距離に迫られると苦戦を強いられてしまう致命的弱点も持つ
ナイアドボルガード
ヤゴに酷似した下級ボルガード。水中と陸上の両方で活動可能で、下顎は数メートルも伸び捕らえた獲物を逃さない。