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『COREーゼロ』 魂の戦士達  作者: 松ノ上 ショウや
第一部 目覚めた、その「魂」たち
4/12

四話 二織りの魂

 何とか、ギリギリ更新です!ヤンデレ愛劇場はもちろんこの作品も人気が出るよう頑張りたいです!

「っくく……とおりゃぁぁぁ!!」


「ギャッ!ギャアァァッッ!?」


 川原でのバーニアスとスクァーレルボルガードとの戦いは既に始まってから数時間が過ぎ、終盤に差し掛かろうとしていた。

 スクァーレルボルガードの両腕の鋭い爪での猛攻にさらされ肩や腕から火花を吹き出しながらも一瞬の隙を付いたバーニアスは繰り出してきた腕を掴んで掛け声と共に担ぐような形で一本背負いを仕掛け、スクァーレルボルガードは受け身を取る間もなく強烈に川原の砂利混じりの大地に叩き付けられた。


「ガ……ガッ……!」


 スクァーレルボルガードは荒い毛皮に覆われた体でもがき、凶悪に吊り上がった目を苦しげに歪ませる。不自然な程に長く伸びた前歯が目立つ口からは吐血しているのかうっすらと血が滲んでいた。


「今だっ!」


 バーニアスはその隙を逃さず胸で赤く輝く宝石のようなコアシステムに触れて意思を伝える。コアスシステムのAIは忠実にそれに答え、バーニアスの体を流れる赤のコアエナジーが脚部へ集中し、バーニアスの足は炎のような赤い輝きに包まれ、バーニアスは静かに構えた。


「ガアアァッ!」


 その瞬間倒れていたスクァーレルボルガードは起き上がり、口を全開まで開くとその巨大な牙でバーニアスを噛み砕かんとばかりに未だに構えているバーニアスに飛びかかる。スクァーレルボルガードは不意打ちで放った自身の最も協力な技でもある牙での一撃でバーニアスを仕留めるつもりであった。


 が、牙が命中する直前、突如バーニアスの姿がスクァーレルボルガードの視界から消え失せた。当然、牙は空振りに終わり、スクァーレルボルガードは地面に四つん這いになるような形で着地した。 


 やつはどこに行った!?、そう言わんばかりの様子でスクァーレルボルガードが周囲を見渡した瞬間。


「フレイムブレイク!」


『フレイムブレイク!』


 真上の空から太陽を背負うように落下してきたバーニアスの放つ拳にスクァーレルボルガードは頭を貫かれ、拳の放つ強力なエネルギーに悲鳴すら上げれずに爆発を起こし粉々に砕け散った。




『スクァーレルボルガードの撃破を確認……お疲れさま武くん』


 通信機からそう告げる白波のアナウンスを聞くとバーニアスはスクァーレルボルガードの爆発後から離れ、迎えにきたAMBTの専用車であるトレーラーに後部から乗り込む。


「はぁ……つ、疲れたぁ……」


『Sat -Out 』


 バーニアスはそこでようやく疲れを吐き出すような溜め息と共に胸のコアシステムを解除した。


 瞬間、赤い光に包まれると一瞬にしてその姿は東洋の龍を思わせる一対の角が頭部に持ち、赤と白のボディに青いスカーフを首に巻いたコアーズ『バーニアス』から、年以上に幼く見える体つきの中性的な優しい顔の少年、武へと姿を変えた。


「勘に近かったけど、『エアステップ』で空中に回避してから『フレイムブレイク』で落下スピードも加えての反撃の連携技。上手く決まって良かった……」


 専用車内のシートに深く座り込み、先程のスクァーレルボルガードとの戦いを思い返し、緊張と疲労が合わさった流れる汗を拭いながら武が呟く。


「何、この短い期間で既に五体目なんだ、十分に順調……君は胸を張ってそう言えるさ」


 そんな武にスポーツドリンクが入った水筒を渡しながら宇治原は純粋に武を誉めるようにそう言う。


 武がバットボルガードを撃破してから既に二ヶ月以上が経過し、月は六月になっていた。


 当然と言うべきかその間も幾度かボルガードは出現し、その度に武はバーニアスに変身して激闘の末にどうにか撃破し、武が撃破したボルガードは今回のスクァーレルボルガードを加えて五体になっていた。



「いやいや、俺なんてまだまだですよ宇治原さん。父さんはアクアを参考として考えても、まだまだバーニアスの必殺技は増えるって言ったけど……俺はまだ『フレイムスマッシュ』に『エアステップ』あと『フレイムアタック』の三つしか使えませんし……」


 宇治原の言葉を柔らかく否定しつつも、どこか悔しさのような物を見せながら武はそう言った。以前、武が月草から聞かされた入院する以前に発覚していたアクアの技の数は15。実に今の武の五倍に近い。


「そう悲観する事は無いさ、そもそも君と美歌では経験時間が違いすぎる。美歌はそうだな……もう1年近くボルガードと戦い抜きつつ毎日のように訓練をしてるんだ。まだ数ヵ月程しか戦闘経験が無い君とは差があって当然だと私は思うよ?」


「そ、そうなんですかね……」


 そう言って武を励ます宇治原の言葉に武はゆっくりとだが下げていた頭を上げて何処か吹っ切れない様子で返事を返す。


 その後も宇治原は武に励ましの言葉をかけ続けたが、結局AMBT本部の駐車スペースに到着しても完全には武の心が晴れる事は無かった。



「えっ、水原さんが!?」


 汗を軽く流し、服を着替えてディレクションルームへと本日のスクァーレルボルガードとの戦闘報告てがら来た武は、月草の一言に思わず声に出して叫んだ。


「あぁ、治療とリハビリも終了……そして本人の希望により美歌は本日から戦線復帰する事が決まった」


 椅子に腰かけつつ改めてそう語る月草。その顔にはうっすらと苦笑が浮かんでいた。


「うーん………」


「うん、どうした武?」


 と、月草の話を聞き終えた直後、武は自分の頭を抱えると目を閉じたまま小さく唸り始めた。そんな武の行動を見て思わず月草が聞くと、武はその瞬間に唸るのを止め目はぱっちりと開け、元気よく口を開く。


「うん、考えてみたら不安もあるけどそれ以上に嬉しい!だって、これからは『バーニアス』と『アクア』の二人で戦っていけるんだもん!それに水原さんの戦い方から俺も何か掴める……そう思うんだ!」


 特に迷いが感じられないようなハッキリとした口調でそう言う武。  


「ふっ、そう言うのならば……この話をお前がこの話を断る筋は無いな」


 そんな武を見て月草は一瞬だけ頬を緩めるも、すぐに真剣な表情に変え、静かに口を開いた。


「実はな……美歌が復帰の為のコアーズに変身してでの実戦形式の試合の相手にお前を……『バーニアス』を指名している」


「えっ……?」


 月草の衝撃的な言葉に武は思わず口をつぐみ、同時に体の動きも止まった。そんな武を月草は視線を動かして僅かに一瞥するがすぐにまた話を続ける。


「AMBTとしてもコアーズ同士の実践的訓練のデータは是非入手したい所だ……その為に是非にお前には協力して貰いたい所だが……」


 そこで月草は確認するかのように今度ははっきりと武を見つめる。


「………………………………」


 月草の視線を受けながら、しばし武は真剣な表情で考え込むと。


「分かった……その話、俺は受けるよ」


 何かを決意したかのようにゆっくりとそう返事をした。


「ベテランの水原さんには新人の俺じゃあまるで相手にされないかもしれない……もしかしたら俺が一方的にやられるかもしれない。それでも俺は水原さんに見せたいんだ」


 一言一言を噛み締めるように、自分の心を奮い立たせるように静かに語る武。そして次の瞬間、武は握りしめた自分の拳を自身の顔に向けながら誓った。


「俺が水原さんがいない間に皆を守るように頑張ったって事を!その結果、身に付けた今の俺が持つ力の全てを!」


 そう語る武の瞳は情熱、そして本人を気力を表すかのように炎の如く燃えていた。



 それから数時間後、武が『エアステップ』を身に付けるように必死に努力した地下訓練所内で武は美歌と一定の距離の元、相対していた。数ヵ月前は痛ましい程に傷付いていた美歌の体も殆ど治癒され、美歌は自身の両足でしっかりと屹立しており、その他の怪我も少なくとも美歌の私服と見られる服の上からでは片腕に巻いた包帯以外の怪我は見当たらなかった。


「…………………………」


 美歌は何も言わずにただ鋭く、睨んでいるかのような目付きで武を見ていた。


「えっと………………」


 そんな美歌の迫力に押されて、武は上手く口を開く事が出来ず。ただそう小さく呟く事が出来ず、二人の間には奇妙な無言の時間が流れる。


『そろそろ試合開始だけど……二人とも準備はいい?』


 と、そんな沈黙を断ち切るようにスピーカーから白波のアナウンスが鳴り響いた。


「はっ……はい!俺は大丈夫ですっ!」


「私も特に問題はありません……白波女史」


 そんな白波に緊張していた武は少し噛みながら慌てて答え、反対に白波はいつもと変わらない同じトーンの声で返事を返した。


『そう……?それならいいんだけど……』


 二人の返事を聞いた一瞬不思議そうな声を出す白波。武がちらりと見てみると二階の観測室のガラス越しに首を傾げてる白波の姿が見えた。


『……さて、さっき粗方伝えたとおり、これはほぼ実戦形式の訓練よ。コアシステムを調整したおかげでお互いに相手を全力で攻撃しても必殺技を直撃させても相手が大怪我したりする事は無いわ』


 と、直後咳払いと共に気持ちを改めたのか真剣な口調で再び話し始めた。


『……でも大怪我は無くとも攻撃や必殺技を食らえばしっかりと痛むし、打ち所が悪ければ怪我もする。油断はしないようにね。さて……それではカウント3で試合を始めるわ』


 直後、美歌は青い宝石に良く似たコアシステム。

アクアに変身するための『CORE-ゼロシステムNo.03』を取り出して右腕に向けて構える。直後、一瞬の光と共に美歌の腕には銀色のブレスの形をしたベーシックアームが現れた。


「とっ……!」


 初めて見るコアーズ、アクアへと変わる前の美歌の姿に一瞬見惚れていた武だが、すぐにそれどころでは無いと判断し、自身もまたコアシステムを構え、ベーシックアームを出現させた。


『3……!』


 白波のカウントを知らせる声には耳を研ぎ澄まし、コアシステムをしっかりと構えながら美歌は武を睨み付ける。


『2……!』


 武は、少し迷いながらもそれから逃げはせず、正面から美歌を見つめた。


『1……!……スタート!』


 訓練開始を知らせる白波の声を聞いたその瞬間、二人は同時に動いた。


「セット・アップ」


「セットアップ!」


 一瞬早く美歌がコード入力を終えてコアシステムを装着し、女性の機械音声と共に深い海を思わせるような青い光に全身を包まれると、そのコンマ一秒後に武が赤い光と共にバーニアスへと姿を変えた。


「ふっ……!」


 完全に武がバーニアスへと変わり終えたのを見ると一足早く変身を終えた美歌はその姿を、鮫を背鰭を思わせるような特徴的な頭部と、海を思わせるような深い青のボディ。そして纏ってる場所こそ似たものの胸部の鎧にはサメのエンブレムが描かれ、バーニアスとは対照的に鋭角に鋭いエッジ刻まれ、サファイアのように明るく輝く鎧のコアーズ『アクア』に変えていた。


「…………」


 アクアは滑らかな動きで手にした細身で片刃の片手剣『ブルーファング』を横向きに構え、バーニアスへと狙いを付ける。


「うっ……」


 アクアの射ぬくような白く輝く目と、天井の照明が放つ光でその名の通り青銀に怪しく輝くブルーファングの放つ威圧に押され、バーニアスはうめき、若干たじろいだ。


「(ふぅ……対面しただけでこの迫力……今まで俺が相手したボルガード達より断然格上の実力だって事が戦わなくてもピリピリするほど伝わって来る……これが……アクアか……)」


 油断せず一定の距離を取って牽制しつつ、防御を重視した構えでバーニアスは慎重にアクアの様子を伺う。


「(俺が水原さんの、アクアの戦いを見たのは一回きり。しかもあの時の水原さんは手傷を負った状態だった……。全快時のアクアの戦い方は俺は全く分からない……と、なると最初は出方を……っ!?)」


 と、バーニアスが思考してたその瞬間、先手を取って大地を蹴りアクアが一気にバーニアスに一気に接近してきた。


「とっ……!」


 踏み込みつつアクアが放つ、空気を裂くような左上から降り下ろした切り込みをバーニアスはどうにか体を奥に反らして回避する。


「………………」


 が、そこに無言のままバーニアスに体制を整えさせる暇も与えず、更に一歩前進したアクアの右下からの切り上げが襲い来る。バーニアスはこれにもどうにか反応して体を動かし、左足を軸に横にステップしてアクアの剣撃を避けた。が


「うわぁっ!?」


 瞬間、まるでバーニアスの動きに合わせたかのようなタイミングでアクアの三撃目、横一文字の斬撃がバーニアスの装甲を切り裂き、バーニアスは切られた箇所から火花を上げながら大きくバックノックしてしまった。


「ふっ……!」


 怯んだバーニアスにさらに追撃とばかりにアクアがブルーファングを手元に引き寄せると、瞬時に勢いよく突きを放つ。


「うわっ……とぉっ!」


 間近にまで迫った刃を、ブルーファングの刃身の部分を弾くことで軌道を反らして回避し同時にバーニアスはアクアのブルーファングを持つ腕に向かって右足で前蹴りを放った。しかしこれを読んでいたアクアは余裕をもって腕を下げ、これを回避する。


「やぁっ!はぁっ!」


 バーニアスも避けられる事は思慮に入れていたのか前蹴りが空を切ってもなお、アクアに踏み込みながら単発で次々とアクアに向かって蹴りを放つ。アクアは冷静に迫り来るバーニアスの足の軌道を見切って避け、時にブルーファングの刀身でキックを受け止めバーニアスの連撃をも寄せ付けない。


「たあぁっ!」


 と、再びバーニアスがアクアに向かって鋭い蹴りを放った。バーニアスの攻撃のスピードに目が慣れてきたアクアは当然、半ば余裕と言った様子でブルーファングで蹴りを受け、完全に防いだ。そうアクアは思っていた。


「今……だあっ!!」


「……っ!?」


 その瞬間、一瞬の浮遊感と共にアクアは空中に投げ飛ばされた。


 そう、先程バーニアスが放った蹴りはアクアに受けさせてる為のフェイント。本当の狙いはアクアにあえてガードさせ、その隙を付いて攻撃。その事にアクアが気付いた時には。


「フレイムスマッシュ!」


『フレイムスマッシュ!』


 燃えるような赤い輝きを右足に纏ったバーニアスが眼前まで来ていた。


「っ……スラッシュウェーブ!」


『スラッシュウェーブ!』


 近付けば火傷してしまいそうな程の迫力で迫るバーニアスに一瞬アクアは圧されたが、すかさず右腕のブレスに触れ、コアシステムから送られる青い水のようなコアエナジーをブルーファングに集めるとそのまま空中で青い光を纏った斬撃を放ってバーニアスに対抗する。


「とぉりゃあああっっ!!」


「はあぁぁっ……!!」


 そして次の瞬間、二人の掛け声と共に空中でフレイムスマッシュの『赤』とスラッシュウェーブの『青』互いに違う輝きを持つ二つの必殺技が花火のように激しく炸裂した。


「うおおおおっっ!」


 アクアのスラッシュウェーブの放つ青い光に正面からぶつかり、それを押しきらんとバーニアスは気合いの声を上げながらフレイムスマッシュを放っている右足に更に力を込める。アクアは攻撃するスピードこそ早いが、素の体力は自分の半分しか無い。ならこの同条件での押し合いなら勝てるはずだ。バーニアスは先程のアクアとの攻防でそう考え、少なくともその判断は至極正しい考えのように見えた。



 次の瞬間、正面からぶつかっていたフレイムスマッシュの赤い光が飲まれるようにスラッシュウェーブの青にかき消されてしまうまでは。


「!?……しまっ……」


 そして……バーニアスが驚愕した時には既に防御も出来ないような距離にまで青い斬撃は迫っていた。


「うわあぁぁぁっ!!」


 スラッシュウェーブが直撃し、バーニアスはブルーファングで斬り付けられた胸部から大量の火花を噴き出しながら落下して地上に叩きつけられるとコアシステムが解除され、その姿は一瞬にして元の武の姿に戻ってしまった。


『はい、そこまで!この訓練試合はアクアの勝利で終了よ』


「…………」


『Sat - Out 』


 その瞬間、白波からのアナウンスが鳴り響くと、丁度同じタイミングでアクアは地面へと着地し、コアシステムを解除すると美歌の姿へと戻った。


「痛ったた……」


 武は痛む体を押さえながら外れたコアシステムを拾い上げふらふらと立ち上がる。と、起き上がった時ちらりと美歌と目があった。


「…………」


 見事バーニアスを打ち負かして勝利を掴み取った美歌ではあるが表情に全く変化は見られず、額から流れ落ちる汗を取り出したタオルで拭いながら確認するように開いた方の手を開いたり閉じたり手首を回していたが、武の視線に気付くとじっと武を見つめ返してきた。


「え、えっと……水原さん……」


「……何?円崎くん」


 何か美歌に言わねば、とばかりに武は少しどもりながらも口を開く。その武の態度がとても真摯に感じられたアクアは今だ止まらぬ汗に構わずタオルで拭き取るのも手の動きも止め直立のような体勢で武に続きを促す。すると、武は小さく咳払いをし


「うん……やっぱり水原さんは凄く強いんだね。俺は負けたけど……本当に驚いちゃったよ!」


 悪意の欠片も感じないような屈託の無い笑顔でそう美歌を称賛した。


「えっ……えぇっ!?」


 そんな武の純粋で真っ直ぐな言葉は完全に予想してはいなかったのか、密かに脳内で武の言葉にどう反論しようか試行錯誤していた美歌のシュミレートは瞬時に粉微塵に砕け、慌てて口を押さえようとしたものの時は既に遅し。美歌は年頃の少女らしい高い声を空間内に響かせていた。


「(やっぱり私はこの子が苦手だ……)」 


 冷静差を失い、妙な声を上げてしまった事を顔を押さえて後悔する美歌。例え二人で戦う事なったしても自分は馴れ合うつもり等無く、いつでも冷静さを保とうと心に決めていた。それなのにどうも彼、円崎武が相手だと自分の調子を崩されてしまう。


「(改めて考えて見ても我ながら情けない……)」


 この間の病院の一件と言い、覚悟していたつもりで武にリードを奪われてしまう自分の現状を思い返し、美歌は小さく溜め息をついた。だから


「あの、それでね水原さん、1つ聞いてもいいかな?」


 接近してきた武に全く気付かず、話しかけられた瞬間、美歌は心臓が口から飛び出そうな程に驚愕した。


「……なに?円崎くん」


 動揺を決して見せないように顔面の筋肉を総動員して必死に平常を演じながら美歌は答える。


「あのね、さっきフレイムスマッシュとスラッシュウェーブがぶつかった時の事なんだけどね……」


 美歌の許可が得られると武は確認するかのようにゆっくりと話し出した。


「あの時、当然だけど水原さんと俺じゃ経験の差や技量の差もあったと思うんだ。でも……明らかにそれだけじゃ説明出来ない差、そんなのを感じたんだけど……水原さんは何か分からない?」


『あぁ、それはだな武……』


「それは、円崎君。あなたのコアエナジーの集束にばらつきがあったからよ。だから私のウェーブスラッシュに密度で負けて打ち消された」


 武の質問に、白波と同じく試合を観戦していた霧谷が答えようとする。が、それより先に美歌が口を開き、答えを口にした。


「コアーズの力は想いの力……つまりは、必殺技を放つ時でも、より正確に攻撃方法をイメージすればコアエナジーの流れは円滑に動き、必然的に必殺技の破壊力も上がることとなる。円崎君、今日の結果から見て判断すると、あなたはまだ戦いに慣れてはいない……精神力が不足しているとも言えるわね」


「俺が……精神力不足」


 沈んだ顔で美歌の言葉を繰り返す武。そんな武に対し、これ以上見る必要は無いとばかりに武に背中を向けて美歌は立ち去って行く。が、ふと足を止め


「……まぁ、それでもあなたが不慣れながらも私の怪我が完治する間、懸命にボルガードと戦った。それだけは高く評価するわ」


「えっ……?」

 

 一瞬、そう一瞬だけ武は美歌の言葉の意味が分からず呆けていたが、理解した瞬間に美歌の元に向かって走り出した。


「あ、ありがとう水原さんっ!俺、すっごく嬉しいよ!」


「えっ、円崎くんっ?」


 興奮した様子で美歌の手を握り、満面の笑顔で礼を言う武。そんな武の積極的な行動に不意を付かれた美歌は上ずった声を上げ、頬を赤く染めた。


「あ……いきなり女の子の体に触るなんて嫌だったよね……ごめん、水原さん」


 そこで武はハッと気付いたような顔になると、握っていた美歌の手を解放し軽く頭を下げた。


「べ、別に私は……嫌という訳では……」


「えっ?み、水原さん……今、なんて……」


 と、武の手が放された瞬間、美歌は本当に小さく聞こえないような声でそう言い、中途半端にそれを聞き取った武は思わず美歌に聞き返そうとした。そう、まさにそんな瞬間だった。


 緊急事態、つまりはボルガードが出現した事を知らせるサイレンが鳴り響いたのは。


「…………!」


「あ、水原さん!」


 その瞬間、緩んだ表情を引き締めると美歌は地面を蹴って真っ直ぐにディレクションルームに向かうべく訓練所の出口に向かって走り出し、その後を慌てて武が付いていく。


「(水原さんは一体何を俺に言おうとしたんだろう……)」


 美歌と共に走りながらも、武の心の中ではふと先程の美歌の態度が気にかかっていた。あの時、美歌は武に見せていた他人を寄せ付けないようなクールでストイックな態度を崩し、ほんの一歩、一歩だけ自分に近寄ろうとしてくれているように感じた。あれは一体……


「(いや、ボルガードが現れてるんだ。考えるのは後でいい……後で俺から直接水原さんに聞けばいい!)」


 そこで武は思考を中断し、1つの決意を決めるとディレクションルームに向かって走る事に意識を集中し、武の心にはふつふつと熱い想いがみなぎろうとしていた。


「ボルガード……私が倒すっ!」


 一方、真っ直ぐに前を見ながら走る美歌。静かに呟いたその言葉には一切、容赦のしないであろう冷たい殺気が混じった覚悟が確かに込められていた。


 全く違う心構えの武と美歌、だが奇妙な事にそのディレクションルームに向かって走る二人の足並みは合わせたかのように全く同じであった。




「今回、沿岸部にて観測されたボルガードは先程説明した通り2体。その2体が共に別個体だ」


 武と美歌がディレクションルームに入ってくると、月草は自ら室内の巨大モニターの前に立ち二人に説明を始めた。


「先程の訓練の様子は私もここから見せて貰ったが、武を撃破したことから美歌の戦線復帰は十分に可能だと思えた」


 そこで月草は一旦、モニターの画面から目を離すと武と美歌をじっくりと見つめた。


「そこで今回の作戦だが、バーニアスが未だ体験した事は無い複数個体とのボルガードとの戦闘になる。よって今回はバーニアスとアクア両名でボルガードとの戦闘を行う事に決めたが……何か意見や質問はあるか?」


「え?えっと……」


 最後に月草はふっ、と緊張を解き柔らかい口調でそう言った。その急な変化に一瞬ついて行けず武が言いどもってしまった。


「司令官が決めたのならば、私からは何も言うことはありません。バーニアスと共闘してボルガードを撃破してみせます」


 と、言い方を悪くすればその隙を付いたかのようなタイミングで美歌はそうだ心底迷いの無いような口調で月草に返事を返した。


「お、俺も何もありませんっ……!あ、俺と水原さんで一緒に頑張りますっ!」


「ふむ……」


 美歌の言葉に送れて武も慌てて返事を返す。月草そんな二人の様子をじっくりと見て少し考えるように瞼を閉じ……数秒程で再び開けた。


「……出撃だ、場所は本部からはそう遠くは無く私達も支援しやすいが、注意を怠るなよ」


「「はい!」」


 目を開いた月草は息も付かずに一気に二人にそう告げ、武と美歌は今度はぴったりと同じタイミングで返事を返すとディレクションルームを出て、宇治原が既に待っているであろうAMBT専用車両がある駐車スペースに向かって走り出した。


「司令官……一つ良いですか?」


 ディレクションルームのドアが閉じ、二人が立ち去ったのを確認すると白波は忙しげに自分のデスクで作業を続けながら月草に問いかけた。


「今回の作戦……2体のボルガードにこちらも二人のコアーズで対抗する。確かに筋の通った話ですし間違ってないと私は思います。……ですが」


 無言で白波の問いを聞く月草。白波は月草が止めようとしない事を確認すると一旦、作業の手を止めて息を吸い込み、椅子を回して月草に向き直ると少し迷ったような表情をして再び口を開いた。


「司令官はこの戦いで、武くんと美歌……バーニアスとアクア二人のコアーズが『クロス・アタック』を取得するのを目的にしているのでは無いですか?」


「クロス・アタックか………」


 白波の言葉を繰り返すと、感慨深げに宙を見上げて月草は小さく呟いた。


「コアーズ同士が意志をシンクロさせた時に放つ事が出来る特殊必殺技、理論上は一人のコアーズが放つ必殺技の数倍以上の破壊力を生み出す……。が、未だ我が国では成功例が無い……確かに武と美歌がこれを取得してくれたら幸いだとは思う」


 確認するかのようにそう言うと、月草は椅子から立ち上がると白波に歩みより、瞳を静かに見つめる。それは、武が人と真剣な話や心からの言葉を伝えようとしている時の仕草に非常に良く似ていた。


「だが今はその時では無い、あせる必要は無い……とは言えないが、今年に入って二人目のコアーズ……バーニアスが誕生した事でさえ十分に幸運と言えるのにそれ以上を望むのは少々高望みと言うやつさ。我々は二人の勝利を信じてサポートするとしようじゃないか」


「そう……ですね……」


 月草の言葉を受けた白波は軽く頷き、どこか落ち着いたように溜め息をついた。


「さ、そうと決まれば早速、君は二人のサポートをしてやってくれ。……君の事は武や美歌と同じくらいに期待しているからな」


 そう言うと月草は軽く白波の肩を叩き、自分の席へと戻って行く。


「は……はいっ!円崎司令官!!」


 月草にそう勢い良く返事をすると、白波は再びデスク作業に戻った。その顔にはもはや先程見せたような迷いは無く、いやむしろ満面と言って良いばかりの笑顔になっていた。


「……まもなく二人が現場に付く頃か」


 そんな白波の変化に月草は気付いてはいたが、それを口にする事は無くただモニター画面に写し出された地図で移動しながら輝く、ボルガードそしてコアーズの位置を示す光の点を見つめていた。




『武君!美歌!敵の姿は見えたわね!?』


 現場にたどり着いたバーニアスとアクアは既に変身を終え、気のせいかいつもより気合いの入った白波の指示の元、ゴツゴツとした岩場が並ぶ海岸線の中央中で2体のボルガードと対峙していた。


 一体は案褐色のキャタピラーのような段の装甲を背負い、顔には一対の黒く巨大な目と電信柱の電線のような太さを持ち、体長の半分ほどもある太い触覚、幾重にも生えた細く長い足で直立しているボルガード。

 もう一体はぎょろりと顔の左側だけにある目では二人を睨み付け、指を除く関節にヒレが生えたと言う不自然な手足をした黒混じりの茶色のボルガードであった。

 

 2体のボルガードはバーニアスとアクアを瞬きした瞬間に襲いかかって来そうな迫力を持って低くうなりながら並び立ち、バーニアスとアクアもまたいつ二匹が動いても対処出来るよう、油断せずにバーニアスは拳を、アクアはブルーファングを構えて2体のボルガードの様子を窺っていた。


『武君、美歌、丁度今二体の特徴と総本部に記録された過去の観測データから判断してボルガードそれぞれの正体が分かったわ』


 と、そこで通信が入り、二人は構えを崩さぬまま無言で白波の言葉に耳をかたむける。


『案褐色のボルガードはウォーフローチボルガード、フナムシに酷似したボルガードで特徴は移動速度の素早さ。茶色のボルガードはフラウンダーボルガード、カレイのボルガードね。こっちの特徴は刃物のような鋭いヒレでの攻撃を得意とする……と、あるわね。なら、ここは……』


 と、白波がそこで何かを考えるように一瞬黙った瞬間。


「私が2体とも倒します……!」


『ちょっ!ちょっと美歌!?』


 白波からの指示を待たず、それだけ告げるとアクアは一気に2体のボルガード、ウォーフローチボルガードとフラウンダーボルガードに向かって走り出す。アクアが動いた瞬間、2体のボルガードもまた弾かれたように飛び出して共にアクアに襲いかかった。


『あーもうっ……!武君!アクアを援護して!!』


「は、はいっ!!」


 続いて一歩遅れて白波の指示を聞き、バーニアスもまたボルガードに向かって勢い良く走り出す。


「とおりゃああっ!」


 そして、そのまま勢いを利用して助走を付けて飛び上がると、フラウンダーボルガードと対決しているアクアの背後から攻撃しようとしたウォーフローチボルガードの頭部に飛び蹴りを炸裂させた。


「………………」


 甲高い悲鳴を上げて岩場に崩れ落ちるウォーフローチボルガードをフラウンダーボルガードと交戦しつつ片目で見ると、アクアはフラウンダーボルガードの攻撃を読んで正面から切り付けてカウンターの斬撃、そこからさらに連続切りを叩き込んで岩場の下層の波打ち際へと突き飛ばし、ウォーフローチボルガードとバーニアスから距離を取る。


「水原さんっ……とっ……ここは俺に任せてくれるの!?」


「あなたの攻撃に巻き込まれて勝機を逃すわけには行かない、それだけよ……」


 ウォーフローチボルガードの爪での攻撃を両手で受け止めつつ背中越しに問いかけたバーニアスに、アクアは短くそれだけを返し、再びブルーファングを振るいフラウンダーボルガードとの戦闘を続ける。


 多少、荒さを見せながらもアクアとバーニアスのタッグ戦は始まろうとしていた。



「(全く……あの子が相手だと調子が狂ってしまう)」


 迫り来るフラウンダーボルガードの体当たりを回避しつつ背中を切り付けながらアクアはそう思案していた。


「(私が何を言ってもまるで嫌悪の感情を見せない、その代わりにいつも私に笑いかけて来る。余程のお人好しかあるいは……。何にせよ私は)」


 思考をしながらもアクアは戦闘を続け、フラウンダーボルガードの右腕を降り下ろす攻撃に合わせてブルーファングを交差させるように振るい、アクアを斬り付けようとしていた右手のヒレを切り落とす。ヒレが宙を舞い、傷口から体液が噴き出すとフラウンダーボルガードは悲鳴を上げて後ろへと仰け反り背中から岩場に叩きつけられる。その絶大な隙をアクアが見逃すはずも無かった。


「私はボルガードを倒すのみっ……!」


『スタッブファング!』


 腕のコアシステムに触れて青いコアエナジーをブルーファングの剣先に集めると両手での突き、スタッブファングを起き上がろうとしていたフラウンダーボルガード目掛けて放つ。


「………ッ!?」


 次の瞬間、フラウンダーボルガードは集束されたコアエナジーによって破壊力を増したブルーファングに胸を貫かれ、剣が引き抜かれるとフラウンダーボルガードは声にならないような小さな悲鳴だけを残してその場で膝を付き、次の瞬間には爆発して粉々に砕け散った。


「(戦える……私はまた、戦える……!)」


 妥協を許さなかった療養中のリハビリの日々、バーニアスとの模擬戦、そしてたった今フラウンダーボルガードを撃破した事でアクアは自身が復活を果たした事を実感していた。


「(今度こそ私が『ヤツ』を……!)」


 所々にボルガードの体液が付着しながらも大きく傾き始めた太陽に照らされて光輝くブルーファングの刃を見ながらアクアが改めて誓った時だった。


「水原さんっ!?危ないっ!!」


『美歌!後ろよ!後ろにボルガードが……!』


 突如、バーニアスそして白波の切羽詰まった様子の声が響く。その声に気付いたアクアは直ぐ様振り向きながら背後に感じた気配目掛けてブルーファングを勢い良く降り下ろす。


ガキンッ


「……なっ!?」

 

 その瞬間、衝撃音と共にボルガードノ体表にブルーファングの刀身が弾き飛ばされ、隙を付かれたアクアは逆にボルガードの攻撃を受けて火花を噴き出しながら吹き飛ばされ、アクアの意識は真っ白に染まっていった。 

 


「うわっ………!」


 アクアがフラウンダーボルガードを圧倒とも言える勢いで押していたその時、バーニアスはウォーフローチボルガードに苦戦していた。


「は、早いっ……このスピードじゃ……!」


 俊足で周囲を走り回りながら、さながら辻斬りの如く一撃を放っては離脱する攻撃をしてくるウォーフローチボルガードの回避する事も防御する事も出来ず、バーニアスは直撃を受けてダメージにより片膝を付く。


 最初の飛び蹴りこそバーニアスは決めたものの現状はジリ貧と言えた。


 走ってるウォーフローチボルガードには狙って放ってもバーニアスの蹴りや拳はかすめる程度にしかウォーフローチボルガードには当たらず。逆にウォーフローチボルガードの一撃はさほど強力とは言えないが憎らしいほどにバーニアスに命中し、確実に体力を削っていく。


「水原さんはコイツの相手を俺に任せてくれたんだ……俺がいつまでも苦戦して水原さんに迷惑はかけたく無い。なら……!」


 ウォーフローチボルガードから注意を反らさず、そう決意するとバーニアスふっと肩の力を抜き、しっかりと構えていた防御の構えを解いた。


「うぅっ……!……くっ……!」


 当然、隙だらけになったバーニアスに向かってウォーフローチボルガードの情け容赦無い攻撃が次々と叩き込まれ、一発叩き込まれるごとに装甲から火花が噴き出し、バーニアスの体が大きく揺れる。が、それでもなおバーニアスは防御も回避もしようとせず何かを待つように屹立し続ける。



 そして、ウォーフローチボルガードがいよいよ持ってバーニアスを仕留めんとばかりに自身の持つ全ての力で最大の一撃を仕掛けんと真っ直ぐにバーニアスに近より


「見えたっ……!」


 爪が命中する瞬間、バーニアスに腕を捕まれ巴投げによってウォーフローチボルガードは投げ飛ばされた。


「どんな相手でも最大の一撃を放つ時はスピードが遅くなる……その隙さえ狙えば……っ!」


 ウォーフローチボルガードが訳も分からない様子で空中でもがくのを見ながら呟くバーニアスは、起き上がりながら既に胸のコアシステムに触れ、右足へのコアエナジーの集束を終えていた。


『フレイムスマッシュ!』


「フレイムスマッシュ!」


 次の瞬間、自由落下してくるウォーフローチボルガード目がけて助走を付けて走り、そのま勢いを付けてフレイムスマッシュを叩き込んだ。


「………シュグ……ッ!?」


 足から放出されたコアエナジーをまともに受けたウォーフローチボルガードは空中で粉々に爆発して砕け散った。


『はぁ……随分と無茶してくれるわね……武君』


 着地したバーニアスの耳に、そう半ば呆れたような白波の声が聞こえてきた。


「す、すいません……でも、今の俺にはあれしか倒す方法が見つからなくて……ともかく、水原さんと合流します!」 


 白波にそう軽く謝罪しながらバーニアスは岩場を乗り越えアクアが戦っていた岩場へと飛び降りていく。


『……どうやら、美歌も終わったようね』


 と、その白波の言葉が聞こえたのと同時に、バーニアスの視界に数メートル先でこちらに向かって背を向けたアクア。そのアクアが手にしたブルーファングに体を貫かれたフラウンダーボルガードが爆発四散する光景が目に入ってきた。しかも見る限りアクア自身はは殆どダメージを負った様子がない。


「水原さん……」

                       

 拳を交えてアクアが自身より実力が上だと感じていながらも、アクアの無事を確認してバーニアスはほっと胸を撫で下ろした。


「ん……?」


 と、その時、アクアの右隣に立ち並ぶ岩の一つが不自然に動き、バーニアスの視線は思わずそこに注がれる。

 


「ま、まさか……」


 その瞬間『岩に見えた』それは再び動いて、その正体を現した。


「シュウゥ……」


『そんな……三体目!?観測データには二体の反応しか……!』


 白波の驚愕の声が響く。


 それは岩に擬態した蟹のボルガードだった。


 灰色の甲羅を重厚な鎧のように覆い、飛び出た両目と蟹にしても不自然な程に巨大な鋏を両手に持ちながらも、どこか人間に近い上半身を持っているボルガードは、下半身から生えた八本の足で岩場を歩いてアクアに狙いをさだめる。


「水原さん!?危ないっ!!」


 間に合わない、アクアに迫るボルガードの距離からそう判断していながらもバーニアスは叫びアクアに警告しながらボルガードに向かって走る。


 その瞬間、反撃に失敗しボルガードの攻撃の直後を受けたアクアは強烈に地面に叩きつけられた。


「……うおおおっ!!フレイムブレイク!」


『フレイムブレイク!』


 直後、叫びながらバーニアスはジャンプして一気に近付きながらボルガードに目掛けて右拳でフレイムアタックを放ち、その一撃は吸い込まれるようにボルガードの胸に直撃した。


「シュシュ……!」


「そんなっ!?必殺技なのに……」


 が、鈍い音と共にフレイムブレイクの直撃を受けたボルガードの装甲には亀裂が入ったのみで、とてもボルガードに致命傷を与えたとは思えない。バットボルガードとスクァーレルボルガードの2体を葬った自身の必殺技が塞がれたと言う衝撃的な光景にバーニアスは動揺を隠せない様子で叫ぶ。


「シュウゥ……!!」


 そんなバーニアスをボルガード、クラブボルガードはバーニアスに付けられた傷口を片方の鋏で押さえながら怒りを込めた視線で睨み付けた。



「うっ……ぐっ………」


 クラブボルガードの攻撃の直撃を受けたアクア は痛みと衝撃で失った意識を今、どうにか覚醒させ、必死に起き上がろうと小さく呻く。


「っぐぅぅ……!うわぁぁ……っ」


「(こ、この声は……?)」


 と、そんなアクアの耳に苦しげに呻く声が聞こえてきた。アクアが目を開き霞み揺れる視界で首を声のした方向に向けると


「うっ……あぁぁ……げほっ……!」


「シュシュ……!シュシュシュ!」


 そこにはクラブボルガードの巨大な右の鋏で首を挟まれ体を宙に持ち上げられたバーニアスがいた。クラブボルガードはバーニアスの首をがりがりと音が鳴るほどに強く締め上げながらも、さらにだめ押しとばかりにもう片方の鋏をバーニアスに滅多撃ちの如く叩きつけていた。バーニアスは何とか両手で締め付けてくる鋏を開いて脱出しようとしているものの、どれ程力を込めても鋏の力は緩まないらしくクラブボルガードの攻撃を立て続けに受けてバーニアスの装甲はあちこちから火花が噴き、ボロボロに傷付いていた。


「え、円崎くんっ……!」


 そんな痛ましいバーニアスの姿を見たアクアは気付いた時には倒れたまま思わず声に出して叫んでいた。


「み、水原さ……ん……」


 声に気付くと、バーニアスは今にも消えてしまいそうな程に弱々しい声でアクアに視線を向けた。


「シュウゥ……」


「うっ………!」


 と、そこでアクアの意識が戻った事を察したクラブボルガードが鋏でのバーニアスの追い討ちを止め、ゆっくりとアクアへと視線を向けた。自分が狙われている事に気付いたアクアは痛む体を何とか動かしてブルーファングを構え、クラブボルガードを迎え撃とうと試みるものの精神に反して体が追い付かずとても間に合いそうに無い


「うっおお……っ!……フレイム……スマッシュ!」


『フレイムスマッシュ!』


 その瞬間、そうはさせないとばかりにバーニアスら一瞬、片手を離して胸のコアシステムに触れて急速に右足にコアエナジーを貯めると首を捕まれたままクラブボルガードの脇腹にフレイムスマッシュを打ち込んだ。


「シュウッ……!」


「うわあぁぁぁぁっ!!」


 が、宙に持ち上げられた状態かつ重いダメージが響いていたフレイムスマッシュはクラブボルガードの直撃しても甲羅に一筋の亀裂を入れて怒らせたのみで、次の瞬間にはバーニアスは激昂したクラブボルガードに放り捨てるかのように岩場に叩きつけられた。


「うっ……ううっ……」


 大きなダメージを受けたバーニアスは苦しげに呻きながらもふらつく足で立ち上がり、アクアを庇うようにクラブボルガードの前に立ちふさがった。


「そんなボロボロになって何やってるの!ここは私が戦うからあなたは早く下がって……!」


 ブルーファングを地面に突き刺し、杖のようにして立ち上がりながらアクアは背中を見せて迫り来るクラブボルガードから自身を守るように立つバーニアスに向かって必死で叫ぶ。自然と口から発されていたそれは、弱味を握られたりしないよう意図して武に見せないようにしていた美歌の心からの感情が込められた言葉だった。


「水原さん……前に言ったよね。俺が戦うのを決めた理由は水原さんを守る為だって……」


 するとバーニアスは、アクアに背を向けたまま、そう自身の体の苦しみや辛さを感じさせないような優しい口調で静かに語り始めた。


「ここで俺が引いたら……その決意が嘘に……初めてボルガードと戦ってから今まで頑張ってきた『バーニアス』の俺が無駄になっちゃう気がするんだ!だから……俺は引かないっ!!」


「あなたはっ……!!」


 そうバーニアスはアクアにはっきりとした口調で迷いを見せなず誓う。その熱く、今にも火が付いて爆発的に燃え上がるような強いバーニアスの魂の言葉に圧倒されて思わずアクアは口をつくんでしまった。


「大丈夫、俺こう見えてそれなりに鍛えているし、結構頑丈だから……」


 最後に一瞬、バーニアスはアクアに振り向いてそう言うと拳を構えて間近にまで迫ってきたクラブボルガードへと突撃を仕掛けんとばかりに飛びかかる。


「待って……!……待って円崎くんっ!!」


 無茶なバーニアスの攻撃を止めようとアクアは手を伸ばして叫び、そして心の中で強く願った。


 呆れる程にお人好しで真っ直ぐで、馬鹿が付く程に正直で熱く優しいバーニアスを。


 円崎武を守りたいと


『『クロス・アタック!!』』


 次の瞬間、アクアとバーニアス二つのコアシステムから全く同時に一つの音声が響くと、岩場は周囲が見えなくなる程に激しく強い赤と青、二つの光に包まれた。



「な……こ、これは……!?」


 つい先程までどうにかバーニアスを説得しようとしていた白波は観測カメラから映し出される二つの光が踊るように動く幻想的で美しい光景に驚愕し、思わず画面に釘付けになり、通信の手を止めてしまっていた。


「……武と美歌、二人が互いに相手を『守りたい』と言う想いに呼応してクロスアタックが発動したか……」 


 手にしていた資料をテーブルの上に置き、今なおまばゆく輝き続けるモニタ画面を見ながら、落ち着いた様子で月草は言葉を続ける。


「互いに相手を想い、助けようと考える……ふふ、武は美歌に実にいい影響を与えてくれたようだな……これならば……」


 月草は心底、嬉しそうにそう微笑みながら言うとちらりと自身が置いた資料に視線を移す。それはAMBTの本部外研究所からの緊急の報告書で、報告書には各種データと共に簡潔にこう書かれていた。


『コアシステムNo4の適合者を発見。身体検査、調査が済みしだい本部へと合流する』


「大変なのは、まだこれからだぞ武?」


 収まりつつある画面の光を見ながら、月草はそっとそう呟いた。




「シュシュ……!」


 目を開けてられない程の光がようやく消えた事に気付いたクラブボルガードは、瞬時に先程までバーニアスがいた場所に勢い良く鋏を降り下ろす。


「シュッ!?」


 が、しかしその鋏は岩を砕いただけでバーニアス、そしてアクアの姿はクラブボルガードの視界から消え失せていた。



 そう、二人は


「円崎くん……あなたもやり方は分かる?」


「うん!何だか頭の中に自然とどうすれば良いか浮かんでくるんだ!!」


 バーニアスとアクア、二人は共に大地を蹴ってぴったりとくっつくように並んだ常態で空中を飛んでいた。そして、クラブボルガードが二人に気が付いた瞬間


「「ふっ……!」」


 シンクロでもするように二人は同時に動いてコアエナジーをそれぞれ右足とブルーファングの刃にチャージし強く、濃く濃縮して集めて行く。


「「ウェーブ・スマッシュ!!」」


『『クロスアタック!ウェーブ・スマッシュ!!』』


 次の瞬間、やはり全く同じタイミングで同じ事を叫んでバーニアスはクラブボルガード目掛けてフレイムスマッシュを、アクアはウェーブスラッシュを放った。


「とぉりゃあぁぁぁぁっっ!!」


 バーニアスの最後の踏ん張りとばかりに強い想いが込められた叫びでフレイムスマッシュの出力は上昇し、さらにアクアの放たれたウェーブスラッシュがバーニアスの右足以外を包み込み速さと破壊力を底上げし、そのまま凄まじい程のエネルギーでバーニアスはクラブボルガードを蹴り飛ばした。


「シュシュシュエ……!?シュギェアァァァッ!!」


 バーニアスの炎のような打撃とアクアの流れる水のよつな斬、二つの攻撃を受けたクラブボルガードの甲羅は粉々に砕け散り、勢いで空へと吹き飛ばされるとクラブボルガードは悲鳴と共に爆発して砕け散った。


「はぁ……はぁ……うっ……!」


「円崎くんっ!!」


 クラブボルガードを撃破し、地面に着地したバーニアス。が、その瞬間崩れるように背中から倒れると変身が解除されて一瞬のうちにその姿は武へと戻ってしまった。


「円崎くんしっかりして!!」


 ほんの僅かに遅れて着地したアクアは、着地するなり走り出して倒れている武を抱き起こした。


「う、ううん……」


 身体中が傷だらけながらも、アクアに呼び掛けられると武は腕の中で小さく呻いた。どうやら、気絶しているらしいが呼吸は安定しており、アクアが腕をそっと握ってみればしっかりと脈もあった。


「円崎くん……」


 気絶している武の体をそっと抱き締めアクアは呟く、今の武には先程までのクラブボルガードで見せていたような気迫は無く、ただの中性的で幼い顔をした小柄な少年でしかなかった。こんな少年が自分を守ると言ってくれたのだ。そして、自分は必死で戦うこの少年を守りたいと想った。そう思うと美歌の心はいつしか武に対する暖かい気持ちで満ちていた。


「ありがとう……」


 アクアは誰にも聞こえないような小さな声でそう武に囁くと、武の体と足を支えて抱き締めた常態で立ち上がり、遠くから駆け寄ってくるAMBTの救護部隊に向かって武を落とさぬよう静かに歩き出した。





「良かった、目が覚めたのね……」


 数時間後、病室で武が目覚めると既に治療を受けたようで患者服に着替えた美歌が目の前に立ち、そう優しく武に言った。


「み、水原さ……」


「起きてはダメ、あなたは私より重症なのよ?」


 気付いた武が起き上がろうとするのを美歌はそっと押し留め、子供を注意するようにそう言った。


「ご、ごめん水原さん……」


「それから……」


 美歌に言われると武は謝り、再びベッドの上に仰向けに横たわる。と、美歌は一瞬何かを言おうとして押し黙る。良く見ればその頬や耳にはうっすらと朱が差していた。が、やがてゆったりと口を開き



「それから……私は『美歌』でいいわ……『武君』」


 そう、はっきりと武に言った。


「えっ?」


 美歌の言った事が一瞬、理解できず呆然とした様子で武がそう言う。


「べ、別に特別な意味は無いわ、あなたは……武君は私を守ると言い、私はあの戦いで武君を守りたいと想った……ならば互いに無用な距離を持つのは妙でしょう?」


 武が知る限り初めて見る少し取り乱した態度で美歌はそう言う。何故、美歌が取り乱しているのは分からなかったが、美歌が自分に近付いて来てくれた。それが武にはとても嬉しかった。


「ありがとう……凄く嬉しいよ、美歌……」


「……どういたしまして、武君……」


 真っ直ぐに美歌を見つめて感謝の言葉を述べる武に、美歌は少し恥ずかしそうに視線を反らしながら返事を返した。


 バーニアスとアクア、武と美歌、二織りの魂は今ようやく共に並んで歩き出そうとしていた。

 CORE - ゼロシステムNo.03『アクア』 装着者 水原 美歌。 身長177cm 体重65kg

 水原美歌がコアシステムNo.03に触れて変身したコアーズ。機動性を重視した為にバーニアスより防御面は劣るが、速さとリーチで勝る。鮫の肌に似た体表を持ち水中ではジェットスキーを遥かに越える速度で動き、半永久的な水中での活動時間を持つ。

 手にした片手剣、ブルーファングはコアエナジーの流れがウォーターカッターの如く流れ、20cmの鉄板すら容易く切断できる


 スクァーレルボルガード

 リスに酷似した下級ボルガード、一飛びで10m跳び、鉄筋コンクリートの壁も容易く砕く牙での奇襲を得意とする。

 

 ウォーフローチボルガード

 フナムシに酷似した下級ボルガード、100mを3.5秒と言うスピードで走り、鋭い爪で相手を引き裂いて補食する。背中の装甲は戦車砲でも傷一つ付かないが火には弱い。


 フラウンダーボルガード

 鰈に酷似した下級ボルガード、水中、陸上でも共に活動可能。獲物を水中に引きずり込み、1m大の岩石をも切り刻む鱗でズタズタに切り裂く戦法を得意とする。


 クラブボルガード

 イワガニに酷似した下級ボルガード。下級ボルガードでありながらウォーフローチボルガードとフラウンダーボルガードを従わせる知能を持つ。体の装甲は非常に固く。両手の鋏は装甲車にも軽々と穴を開ける。

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