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『COREーゼロ』 魂の戦士達  作者: 松ノ上 ショウや
第一部 目覚めた、その「魂」たち
3/12

三話 空への挑戦

 はい、何とか更新です!何とか予告通り間に合いました!来月も頑張りたいです!

「目が覚めたようだな武」


 耳元から聞きなれた月草の声が聞こえ、武は静かに意識を覚醒させた。少し痛む頭を押さえながら瞼を開いた武の目にまず最初に入ったのはシミ一つ無い天井に洗濯したばかりなのであろう真っ白なカーテン。首を動かして見れば、寝かされているベッド横の丸椅子に腰掛け、安堵した様子でこちらを見ている月草を見つけた。月草は武に無用な緊張感を与えないように配慮してか軍服の上着を脱ぎ、ネクタイを外した白いシャツと少しラフな姿だった。


「はっ……と、父さん!奴は、バットボルガードは!?と、言うか俺が倒れてからいっ……いったた……た……」


 月草を見つけると武は一気に記憶を取り戻し慌てて起き上がると、息を吐くかの如く一気にそつ尋ねる。が、動いた途端に傷がズシリと痛み武は苦悶の声と共にベットに崩れ落ちた。


「お前が倒れて半日と言った所だが武よ、打撲と軽い内出血で済んだとはいえ………動くにはちと早いな。とりあえず今は寝ていろ」


 月草は苦笑しながら崩れ落ちた武の体を起こして再び枕に寝かせると、そっとベッドシーツを残した。


「……バーニアスとの交戦後、バットボルガードは市街の山中にある洞窟へと逃走。そこで現在、戦闘で受けたダメージ回復に休眠しているのが先行したチームによって確認されてる」


 ベットに寝かされた武が落ち着きを取り戻したのを確認すると、月草は真剣な表情をして語り始めた。


「調査を担当した宇治原の予測ではバットボルガードのダメージが完治し、休眠を止めて活動を再開するのは二日後の0時付近。バッドボルガードが突如、バーニアスとの戦闘を放棄し、逃走した理由は入手した交戦現場にて採取したバットボルガードの細胞も利用して現在調査中……との事だ」


「あと二日……」


「そうだ、武。そして、今のままのお前では傷を治して戦っても勝利を掴むのは厳しい」


 言葉を繰り返すように呟く武。そんな武を一別しながら月草は言葉を続ける。


「今日は休息するとして残された時間は一日。その一日が少な過ぎると考えるか、十分と考えるか……それはお前しだいだ。……あぁ、それと当日、私は休養で本部を離れる。お前に指示を出すことは出来ない」


 最後に月草はそう言い残すと振り向き、折り畳んで近くの椅子に置いてあった軍服を手に取ると病室から立ち去って行く。


「(父さんの言う通り、この前の戦いじゃ、俺は空を飛べるバットボルガードに翻弄されて……負けた)」 


 月草が去った後、武はじっと天井を見つめながら考え出す。


「(あと一日で本当にバットボルガードを倒せるような手段が俺に思い付くのかな………?いや……こんなんじゃ駄目だ)」


 武はマイナスな思考で埋め尽くされそうだった考えを自身の頬を叩いてリセットした。


「(やってもいないのに諦める訳にはいかないよ。だって俺が決めた道だから……最後まで責任は俺が取らないと)」

 

 武はそう改めて誓うと、月草に言われた通りに静かにベッドで体を休めつつ、密かに頭の中で対バッドボルガードの対策を考え出すのであった。


 ちなみに思考に没頭し過ぎた武が見舞いに来た霧谷に気付かず、霧谷が目を閉じて唸ってる武を見て緊急事態と早合点しめ慌ててナースコールをし、二人まとめて白波からの説教を受けることになったのは数十分後の話である。




「はぁっ!」


 バーニアスに変身した武が勢いよく大地を蹴り、宙に飛び上がる。飛び上がったバーニアスは空中で体制を整えると視線の先、黄色くペイントされ空中に浮かぶターゲットに狙いを付けた。


「でやっ!!」


 ターゲット目掛けて放たれたパンチは見事ターゲットの中央を貫いて木っ端微塵に破壊し、バーニアスは着地した。


『5mクリア………武くん、次はもっと高く行くわよ!』


 着地したバーニアスに壁に設置されたスピーカーから白波の声が響く。

 バーニアスが首を上げて確認して見ると、二階のコアーズ観測の為に作られた観測室の防護ガラス越しにマイクを片手に持ち、空いたで手を降ってる白波の姿が見え、それを確認するとバーニアスも白波に視線を合わせて手を振り返した。


『ふふ……よぉし、準備はいいわね……発射!』


 そんなバーニアスを見た白波は笑いながら頷き、合図すると頭上に上げてた手を下に降ろす。


 バシュッ


 瞬間、軽い音と共に天井付近に設置されたハッチが開き、今度は赤色に塗られたターゲットが弾丸の如く勢いよく空中に発射された。


「たあっ!」


 再びターゲットを破壊すべくバーニアスは地を蹴って空へと跳び立つ、が。


「……っ……届かない!」


 バーニアスが全力で跳び立ったのにも関わらず、狙いを付けたターゲットは拳から遠く、バーニアスが腕を精一杯伸ばしても届きそうには無い。


「……ええいっ!」


 パンチによる破壊を諦め、バーニアスは一か八か空中でサマーソルト式のキックによるターゲットを破壊を試みる。


「だ、駄目だ……!」


 が、放たれた蹴りは赤いターゲットの縁面を僅かに削り取ったのみで終わり、空中で時間をかけすぎたバーニアスは着地した時に転びそうになりながらも何とか堪えた。


『駄目ね……何度試してみても、今のバーニアスではジャンプは誤差があれど約6mの飛距離が限界……困ったわね……』


  スピーカーから、ため息と共に白波の声が響く。


 ここはAMBT地下に作られたコアーズ専用の訓練所。訓練所の内部はコアーズの持つ強大な力に耐えるべく、床から天井までほぼ全面が非常に強固な防護壁で覆われており、数少ない例外である天井と壁、床に設置された照明やスピーカー。そして二階の観測室の防護ガラスもまた通常とは一線を越えるほど強固な作りとなっていた。

 昨夜一日、月草の指示通りに休んだ武は、自身の強い希望で今日の朝から朝食を取るなりこの訓練施設で迫る戦いに向け、空を自在に飛び回るバットボルガードへの対抗策を得る為の訓練をしていたのである。が、その成果は今もって思わしくない。


「も、もう一度やらせてくださいっ……!」


 白波の溜め息を聞いたバーニアスが強固な床から立ち上がり、慌てた様子でそう白波に告げる。


『……分かったわ、もう一度いくわよ!』


 バーニアスの言葉を白波は一瞬の悩みの間を挟んでから了承し、白波の合図と共に再び先程と同じ場所から赤いターゲットが発射された。


「はあぁっ!!」


 ターゲットに狙いを付け、気合いの声と共に再び地を蹴って跳び上がるバーニアス。


 しかし武の奮闘も空しく、疲れだしたバーニアスが白波から休憩を命じられるまでバーニアスの拳や蹴りがターゲットを捕らえる事は無かった。




「うーん……一体どうすればいいんだろう……」


 休憩てがら医療センターで体のチェックを見てもらった武はセンターの廊下に設置されたベンチに腰掛け、うんうん唸りながら深く考え込んでいた。


 バットボルガードは最初に戦ったスパイダー呆然とは違い、飛行して上空からの立体的な戦いを得意としている。拳や蹴りでしか攻撃出来ず空も飛べない自分がこれに対抗するにはバーニアスもまた立体的な動きを身に付けなければならない。が、バーニアスの跳躍力は散々努力しても6mがやっと、これでは空を自在に飛び回る心もとない。一体どうすれば……


 解決の手段がまるで浮かばず、武がそんな思考の迷路に入り込みそうな時だった。


「………円崎くん?」


 透き通るような繊細な声が武に向かってかけられた。その声に気付いた武は思考を止めて顔を上げる。


「何をしているの、こんな所で」


「水原さん?………っ!」


 武に声をかけたのは美歌だった。美歌の体にはあちこちに包帯が巻かれ、目には眼帯をし、足にはギブスが付けられ車椅子に乗っている。そんな痛ましい美歌の姿を見た武の表情が曇る。


「……この傷の事ならあなたが気にしなくてもいいわ。見た目ほど酷くは無いから近いうちに立てるようになるし、傷が直ればいずれ復帰して再びコアーズとして戦えるようにもなる」


 そんな武を見た美歌は淡々としかし、最後の『復帰して戦う』だけは強く強調するに軽く武を睨み付けながら言い放つ。そんな端から見ればやや手厳しいとも言える態度を取る美歌に武は


「そっか、水原さん大丈夫なんだね。良かったぁ……。前に俺が見たとき、本当に辛そうだから心配したんだ……」


 そう言って心底、水原の無事を喜び祝福の代わりのように柔らかい笑顔を見せた。

 そんな武の行動が想定外だったのか美歌は一瞬、驚愕のあまり硬直してしまった。


「こほん……円崎くん、一つ聞いてもいい?」


 が、直ぐ様咳払いと共に落ち着きを取り戻すと、より真剣な顔で、水原にとっては最も武に問いただしたかった質問をしようとする。


「うん、いいよ水原さん」


 そんな美歌の内心を知らずか否か、武は美歌に笑いかけながら変わらないおっとりとした口調でそう返事をした。そんな年以上に幼く見える武の行動に再び美歌は自分の姿勢を崩されそうになるが、何とか堪えて口を開く。


「あなたは……何で私を助けようとしたの?」


「………………」


 美歌がそう聞いた瞬間、武は朗らかな笑顔を止め、真剣な表情になり美歌に向き直った。それを確認した美歌はさらに武に質問を続ける。


「あの状況……武装した自衛隊がまるで相手出来ないよう規格外の怪物に私一人を助けるために立ち向かうなんてまず考えない。しかも、聞いた話ではあなたは霧谷研究員からコアシステムに適合出来なかったその場でリスクを聞かされたのにも関わらず実行した」


 美歌はそこで一度、言葉を区切ると武に視線を合わせ、突きつけるように言い放つ。


「だから私は知りたいの、何が私を助ける為にあなたをそこまでさせたのか。それで、どんな見返りがあったのか……教えてくれるかしら?円崎くん」


 そう言い切ると美歌は、武の顔や体の動きに全神経を集中させ僅かな動きも見逃さないとばかりに意識を武に向けた。何も言わずに静まり返る武に美歌の緊張が高まり背中に巻かれた包帯がうっすらと冷や汗が滲み始めた瞬間、武が口を開いた。

 

「うーん……それなんだけどまだ俺にもハッキリとは説明出来ないんだ。ごめんね?」


「えっ……?」


 困ったようにそう言う武の答えが完全に想定外だったのか美歌は思わず声をあげてしまった。そんな美歌の姿を見ながら武は話を続ける


「あの時は、倒れた水原さんを見てたら『助けなくちゃ!』と思って……気付いた時には体が動いてたんだ。で、何とか水原さんを助けたくて無我夢中でコアーズに変身したんだけど……でもね、水原さんこれだけは言えるよ」


 そこで武は決意を込めた視線でじっと見つめる。小柄ながらも確かな力が込められたその瞳に押され、気付いた時には美歌は思わず少し体を仰け反らせていた。


「俺はあの時、水原さんを助けようとしなかったら絶対に一生後悔する事になった……。だからコアーズになった事を間違いだと思いたくはない。俺にはこれから先の事は分からないし、これから凄く辛い目とか怖い目に会うかもしれないけど……それでも水原さんを助けた事を後悔しない為に戦う!」


 そこまで言い切るとふっと武は肩の力を抜いて優しく美歌に微笑みかけた。


「それが今の俺の戦う理想……単純だけどそれは間違いないって自身を持って言えるよ」


「円崎くん……あなたは……」


 優しくも一切の迷いを感じさせない真っ直ぐな武の言葉に美歌の心が揺らぎ、表情に一瞬、自然な柔らかさが見えた。


「………っ、あなたは甘過ぎる!それではいつか、あなた自身に取り返しの付かない事が起こるわよ?」


 が、美歌はすぐに頭を振って冷静さを無理矢理取り戻し、忠告するように勢い良く武にそう突き付ける。


「うん……俺、皆に良くそう言われるんだ……。でもね水原さん、これが俺。円崎武という一人の考え方なんだ」


 『ちょっと自分勝手かもしれないけどね』そう最後に付け足しながら苦笑する武は、美歌の言葉を受けてもなお決心は揺るいだ様子も無く、笑いながらも真っ直ぐに美歌を見つめていた。


「……円崎くん、今日は話を聞かせてありがとう。悪いけどこれから検査の時間だから……」


 と、そこで美歌が唐突に話を終わらせると事務的に武に頭を下げ、自力で車椅子を動かして武に背を向けて立ち去っていく。


「あっ、そうだ水原さん」


 と、去り行く美歌を手を振って見送っていた武が思い出したかのように美歌にそう声をかける。


「……なに?円崎くん」


 一瞬の沈黙の後、美歌は背中を見せたまま車椅子を止めて武の話の続きを促す。


「もし……もしもだけど、水原さんの言うとおり俺に何かが起きて……それで俺が皆を傷付けようとしていたら……水原さん、俺を止めてくれる?」


 武の口から若干、震えて呟かれたそれはさっきまで美歌に見せていた強さからまるで正反対の不安と恐怖の入り交じった言葉だった。人より優れた精神と勇気を持つ武の一人の12才の少年としての見せる戦いへの恐怖であり弱さであった。そんな武の弱さに美歌は


「……そうね、あなたがもし人類の平和を乱しえるのなら、AMBTにとっての障害になりうるのなら、司令官の手を煩わせる間も無く私があなたを倒すわ。確実に」


 そう、一度も武を振り替える事もなく言い切り再び車椅子を動かして今度は止まらずに武の前から去りボタンを操作して近くのエレベーターに乗り込んだ。


「ありがとう……水原さん……」


 エレベーターの扉が閉まる直前、そう小さく呟く武の声が美歌には聞こえていた。



「変わった子……」


 上昇するエレベーターの中で先程の武との会話を思いだし美歌は一人呟く。


 円崎武の本性を暴いてやるつもりだった。自分を助けてどんな報酬が約束されてるのか、それとも助けた事を利用して自分を求めてくるのか、学校でよく周囲の人間に見せている呑気な姿の裏で何を考えているのか、全てをこの目で見極ようと考えていた。

 が、結果はどうだろうか。本性を暴くばかりか終始自分に向けられる真っ直ぐな視線と純粋な思いに圧倒されて何も出来ず、終いには互いに約束をし、去り際にはお礼まで言われてしまった。


「はぁ……本当に変わった子」


 溜め息と共に美歌は再びそう呟く。今回は完全に武に丸め込まれたしまった美歌だが、嫌悪感は感じず、かと言って武の感情や心が上手く理解出来ない美歌は武を『変わった子』と表現していた。


 少なくとも今の自身では円崎武を止められそうには無い


 そう結論づけた美歌は、気を取り直して次の診察に集中する事にした。



「えっ……バットボルガードが撤退した理由が分かった?」


 美歌と別れてから幾分かの時間が過ぎ去り、中々現状を打破するような良いアイディアが浮かばず、もやもやとした気持ちのま昼食を食べ終えた武が午後の訓練を始めようと地下訓練室に向かっていた時、そんな衝撃的な言葉と共に武は宇治原に呼び止められた。


「本当ですか宇治原副司令!」


 武のメンタルチェックの為に共に昼食を取り、午前中と同じくサポートの為に武と共に歩いてた白波が興奮した口調でそう宇治原に尋ねる。


「あぁ、勿論だとも。早速これを見てくれ」


 微笑しつつ、そう落ち着いた様子で言うと宇治原は手にしていたレポート用紙を白波に手渡す。

 白波に渡されたレポートを武が横から見てみるとレポートには様々な実験によって起こったバットボルガードの細胞の変化と、それを示したグラフ、そして宇治原による考察が描かれていた。


「判明した事を単刀直入に言えばバットボルガードの弱点は紫外線だ」


 ファイルに描かれたグラフの中の一際変化が大きい部分を指差し、宇治原がそう告げる。


「他のあらゆる事をしても変化する事が無かった奴の細胞に紫外線を投射した結果、急速に焼けただれ細胞は崩壊を始め、その後も再生の気配は見れなかった。これから判断してバットボルガードが紫外線を苦手とするのはほぼ間違いないだろう」


「あっ、宇治原さん、もしかしてアイツが急に逃げ出したのは……夜明けが近かったから……ですか?」


 宇治原の話の中である事を悟った武が、確認するかのように言う。


「そう、奴は夜が明けて登ってくる太陽から放たれる紫外線を恐れ、有利にも関わらず逃走した。そう判断するべきだろうね」


 宇治原はそう言って武の問いに笑顔で返す、が直ぐにその顔を厳しいものに変える。


「……が、紫外線の照射だけではバットボルガードに致命傷を与える事は不可能だ。奴を倒すためには君の力が必須なのだが……状況はどうだい武くん?」


「それが……上手くいかなくて……」


 宇治原の言葉に武は重い表情で、今の行き詰まりに近い状況を語り出す。そんな武の話を宇治原は静かに聞き


「……『コアーズの力の源は想いの力、心の強さが不可能も可能とする。それがコアーズだ』」


「えっ……?」


 そう、ぽつりと呟くように言った。


 上手く理解できず戸惑う武に、優しく笑いかけながら宇治原は続ける。


「司令官……月草が、解決策が浮かばず困っているならそう君に言うよう言付けを受けているんだ。なにせ、ほぼ一日中と言っていい程に月草は忙しいからね……言葉をかけるべきタイミングに言う暇が無いことがしょっちゅうなのさ。だからまだ余裕のある私が引き受けたという訳さ……。おっと」


 と、話の最後で何かに気付き、宇治原は小さく声を漏らすと少し恥ずかしそうな笑みを浮かべて小さく頭を下げる。


「すまん、話が長くなってしまったな。つまり、月草や私が言いたいのは………」


 そう言いながら宇治原はこほんと軽く咳をしてから、武の肩にそっと自分の手を乗せ次の言葉を口にする。


「武君、信じるんだ。バーニアスに変身した君は人間では到底不可能な超人的現象を引き起こせる。君が心の中でそれを信じるならきっと君のコアシステムも答えてくれる……確実に」


「宇治原さん……」


 月草の、宇治原の言葉に訓練が上手くいかない故に重く心にのし掛かって来た緊張や不安がふっ、と軽くなった気がした。そして軽くなった心は頭脳もまた円滑に動かし


「……白波さん、宇治原さん、こんな手ってどうでしょうか……?」


 武は気付けば思考の海から無意識に浮かんだバットボルガードへの対抗策を二人に語りだしていた。


「なっ!?なんて大胆な…………」


 全てを聞いた白波は驚きのあまり思わずずれた眼鏡の位置を直し


「だが……理論上不可能では無い……面白いアイディアだ」


 宇治原は面白そうに心底愉快そうに笑った。


 バットボルガードと言う行き詰まりの道、そこに今、一筋の光が差し込もうとしていた。



『いい、武君?先程の観測からすると奴はまだ休眠から目覚めていないはずよ。でも、これは予想。注意を怠らないで』


 通信機から注意を促す白波の声を聞きながらバーニアスに変身した武は、上下左右全てがバーニアスの拳程もあるゴツゴツとした岩に覆われ、真っ黒で一筋の光も通さない迷路のように複雑かつ狭くて窮屈な作りの洞窟を白波のナビゲートとコアーズの優れた視力を頼りに奥へ奥へと歩いて行く。


『そろそろよ……奴が観測された地点は』


 日が沈んでからどうにか『秘策』を完成させた武が、バットボルガードが潜伏している洞窟に突入してから三十分。緊張した様子で白波がそう告げる。


 見るとバーニアスの視界の先は開けており、数十メートル程の広さの空間を作り出していた。空間内には天井にもさほど大きな岩は目立たず、見晴らしも効いていた。が


「いない……?」


 その空間のどこにもバットボルガードの姿は見当たらない。慎重に空間のさらに奥にバーニアスが足を進めながら周囲を見渡し、天井の岩の影をも覗くがバットボルガードの姿はどこにも見当たらない。


『移動した?……いえ、洞窟の奴が入れそうな出入口全てに設置したカメラには何も映ってはいない……』


 バーニアスからの報告を受けて何かを考え込むかのように言う白波。バーニアスも何とかバットボルガードを探そうと改めて調べた所を調べ直そうとした時だった。


「ん……?」


 自身の右手側にある壁面、そこに真っ直ぐで長くひび割れがあるのにバーニアスは気が付いた。


「(こんな所に傷なんて……さっきはあったかな?)」


 そう思いながらバーニアスが壁面に一歩、近付いた瞬間。




「キキーィッ!!」


 不気味なかん高い声が聞こえ、同時に壁面のひび割れが一瞬にして巨大化したかと思うと瞬時に砕けちり、銃弾のような勢いで発射された岩石がバーニアスに襲いかかって来た。


「こ、これは……っ!?うっ!ぐぅ……」


 不意打ちのその一撃を何とか両腕で上半身をガードし、地面に両足で踏ん張って持ちこたえる。

 

 が、迫り来る岩石が止もうとしたその時、黒い塊がバーニアスに体当たりを命中させマウントを奪う。


「ぐ……バ、バットボルガードっ!」


「キキキッ!」


 マウントを取った状態から襲撃者、バットボルガードは黄色く光る目を輝かせ、狂ったように激しく剣のごとく鋭い両翼を振り回してバーニアスに怒濤の攻撃を仕掛けてくる。バーニアスはそれを何とか防ごうとするのだが、バットボルガードの猛攻に押され、何発かの直撃を受けてしまいバーニアスの体から火花が飛び散った。


「っ……でぇい!」


 これ以上、攻撃を受け続ける訳にはいかない。バーニアスは一瞬の隙を付いてバットボルガードの両翼を同時に撥ね飛ばし、バットボルガードがのけ反った事により少し自由になった足でバットボルガード下腹部を蹴り飛ばし、マウントを取られた状態からバーニアスは脱出した。


「はぁ……はぁ……」


「キ…………」


 荒く呼吸しながら立ち上がるバーニアス。一方のバットボルガードは投げ飛ばされたと同時に飛翔していたらしく壁や床に叩き付けられる事は無く、バーニアスを睨み付けながらゆっくりとホバリングしていた。


「(まだだ……この狭い洞窟じゃあ『アレ』は使えない……!)」


 そう心の中で判断したバーニアスは、拳を構えてバットボルガードに向き直ると


「たぁぁぁぁ!!」


 掛け声と共に地面を蹴り飛ばして小さくジャンプをして一気にバットボルガードに詰め寄ると胸に目掛けて右拳を叩き込む。


「ギギッ!」


 が、バットボルガードは右翼を正面に広げてバーニアスの拳をガードして受け止め、隙が出来たバーニアスにすかさず左翼でバーニアスにカウンターを叩き込もうとする。


「でっ……やぁああ!!」


 が、バーニアスも負けてはおらず、バットボルガードのカウンターに対抗する形で左翼が命中するより先に左足での回し蹴りを放ち、バットボルガードの頭部に命中させた。


「ガァァ……!」


 蹴りが直撃したバットボルガードは、勢いのまま壁に叩き付けられると苦悶の声を上げて地面に崩れ落ちた。


「今だ!」


 その大きな隙を逃さず、バーニアスは起き上がろうとしていたバットボルガードに一気に詰め寄ると両翼を掴み、裏投げでもするかのように壁面に向かって力を込め、全力でバットボルガードを叩きつけた。


「ギャアアアッ………!!」


 バットボルガードが激突したその瞬間、二度のバーニアスの全力の攻撃に持ちこえられなくなった洞窟の壁面は音を立てて崩れ、バットボルガードは叫び声を上げながら壁面の向こう、薄い雲に月が高く登る洞窟の外のゴツゴツした岩場に放り出された。


「たぁっ!」


 岩場で未だに倒れているバットボルガードを追い、バーニアスも直ぐ様、自らが空けた洞窟の穴から飛び出してバットボルガードに更なる追撃を試みる。


 が、バットボルガードはバーニアスの追撃が命中する寸前に起き上がりるとバーニアスに両翼を叩きつけ、空中でバーニアスを弾き飛ばした。


「うわぁっ!」


 追撃が失敗したバーニアスは岩場に叩きつけられ、バーニアスが激突した岩はその衝撃で割れてしまった。


「キキキッ……キキキ……」


「うぐっ……がぁっ……!」


 岩に叩きつけられたダメージでバーニアスが動けないのを狙い、再び空中に舞い上がったバットボルガードが次々と爪で、翼で、バーニアスに攻撃を仕掛ける。バットボルガードの攻撃をどうにかガードしようとするバーニアスだが空中を素早く移動しながら攻撃を放つバットボルガードの連撃に押され、直撃を受けたバーニアスの赤い装甲からは次々と火花が飛び散り、月明かりだけが唯一の灯りである暗闇の岩場を小さく照らした。


「(ま、まだ……まだだ……もう少しっ……!)」


 形勢逆転されて一気に不利にかわったこの状況、その中でもバーニアスは決して諦めずに懸命にガードしながら『秘策』を繰り出すタイミングを見計らう。


「うわぁぁぁぁ!!」


 と、その時、バットボルガードの体当たりがバーニアスをガードごと弾き飛ばし、バーニアスは背中から岩場に叩き付けられた。


「げ、げほっ………!」


 叩き付けられた途端に体に襲いくる衝撃に思わず体を丸め悶絶するバーニアス。


「ケケケ……ギギギギッ……!」


 そんなバーニアスを嘲笑うかのようにバットボルガードは鳴くと、空に向かって一気に上昇すると、そのままを垂直降下で一気にバーニアスに向かってトドメとなる一撃を放とうと、信じがたい速度で迫る。そんな絶望的な光景は当然起き上がる直前のバーニアスの目にも入り込み


「今だああぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」


 その瞬間を待っていた、そう言わんばかりにバーニアスは胸のコアシステムに触れAI に自分の意志を伝え『両足』に力を込める。


「エア・ステップ!」


『エア・ステップ!』


 両足が赤い光のコアエナジーの光に包まれたのと同時にバーニアスは掛け声と共に地面を蹴って空へと跳躍する。空へと跳び立つバーニアスはあっと言う間に自身の限界であった6mを軽々と越え、さらにその先、バットボルガードに向かって跳んで行く。


 それは、正しく『空への一歩』の名に相応しい光景であった。




「フレイムスマッシュのエネルギーを両足に分散し、大幅な跳躍に繋げる……改めて見ても大胆な技だな。それをあの時間でモノにしたのは……流石は月草の実子……と、言っては武君の努力に対して失礼だな」


 バーニアスとバットボルガードの激闘をモニターで見守っていた宇治原はそう言って小さく苦笑した。


『宇治原副司令、準備は整いました。いつでもOKです!』


 と、その時、通信機が鳴り響き、白波が『最後のだめ押し』の準備が終わった事を知らせる。


「あぁ……それでは始めよう」


 それを聞いた宇治原は手元に設置され、奥に倒れた黒いレバーに手をかける。その瞬間、モニターに電子スコープが出現し、自動でバットボルガードに狙いを定める。


「これが……月草が私達が出来る精一杯の補助だ……勝て、武君!」


 そう宇治原はバーニアスの勝利を信じて、勢いよくレバーを手前に引いた。




「ギャアッ!ギギッ!ギギギッッ!!」


 空を飛びながら叫び、無茶苦茶に暴れるバットボルガード。


「うぐっ……離すもんかぁ!」


 そんなバットボルガードの背中にバーニアスは離すまいとしがみつき、振り落とされないように堪えていた。


 エア・ステップで一気に空中へと跳び立ち、垂直降下と共にトドメの一撃を放とうとしていたバットボルガードを捕らえたバーニアスではあったが、バットボルガードは全力を持って抵抗し、必殺技を放とうにもバーニアスは振り落とされないようにバットボルガードにしがみついているのが精一杯だった。


「1秒でも……隙があれば………」


 そうバーニアスが苦しげに呟いた瞬間だった。



「ギャアアアッッ!?」

 

バーニアスとバットボルガード目掛け、三方向から青い光が投射され、光が命中した途端にバットボルガードは苦しみの声をあげた。


「こ、この光は……紫外線!?」


 照らされる青い光に気付いたバーニアスは、青い光の光源、地上へと目を向ける。


 地上では大型の紫外線投射ライトを積み込んだ三機の大型特殊車両が、バーニアスとバットボルガードを取り囲むように並び、しっかりと青い光をバットボルガードに向け続けていた。そして、その車両に印刷された。AMBTのロゴマークを確認した瞬間、何故かバーニアスはこれが月草の手配によるものだと確信した。


 ならば、自分はそれに答えなくてはいけない。


 そう決意したバーニアスは紫外線の光を受けて体から煙を上げて徐々に弱っていくバットボルガードを狙い、右手を離してそのまま胸のコアに触れると思念を伝え、同時に拳を構え、叫ぶ


「フレイムブレイク!」


『フレイムブレイク!』


 瞬間、赤いコアエナジーで炎に包まれたかの如く真っ赤に輝くバーニアスの腕がバットボルガードの顔面に叩き込まれた。


「ギガッ……ギギッ……ギッ……ギィィィッ!!」


 必死で殴られた顔を押さえながら悲鳴を上げ、急速に降下していくバットボルガード。



 バーニアスがバットボルガードから離れて地面へと着地した瞬間、何かがひび割れるような音と共にバットボルガードは空中で爆発四散し、火の粉が空中へと飛び散る。


 夜空の中でも明るく輝くその光はバーニアスの勝利を祝福する流れ星にも、バットボルガードの涙にも見えた。




「そうか……勝ったか。間もなく私も戻る。そう伝えておいてくれ」


 白波から連絡を受けた月草はそう言って電話を閉じると、清潔感のある広々とした廊下を歩きエレベーターに乗り込む。


 ここは砂子自衛官病院、ここに入院しているとある人物に合う為に月草はやってきていた。


 エレベーターから降り、迷うこと無く月草は一つの病室へと向かい、三度ノックしてから病室へと入り込んだ。


「どうも、お久しぶり……に、なりますねAMBT司令官の円崎です」


 病室に入るなり、月草は病室に唯一あるベッド、こに座って新聞を読んでる男にそう言って頭を下げた。


「……わざわざ特殊生物対策組織AMBTの司令官さんが俺に何のようですか?」


 男は新聞紙を下げず、ちらりと月草を見てそう言った。


「では、単刀直入に言いましょう」


 そんな男の態度を特に不快に思った様子も無く、月草は言葉を続ける。


村上(むらかみ)武蔵(むさし)二佐、AMBTに来てはくれませんか?」


「やれやれ……司令官自らスカウトですか?」


 月草の言葉にそう、男はため息を付きながら新聞を下ろす。


 その男はまさしくスパイダーボルガードに襲われた武と霧谷を救った自衛官、村上二佐本人だった。

 バットボルガード

 コウモリに酷似したボルガード。人間の血液とする。飛行速度は時速500kmに達し、刃のような翼の硬度は強度に作られた合金を遥かに上回る。顔の単眼は目としての機能より、超音波の受発信としての役目が大きい。


 フレイムスマッシュ


 バーニアスがコアエナジーを右足に集中させる事により放つバーニアスの『必殺技』の一つ。瞬間的に数千度もの高熱を相手に与える。威力は12t

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