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『COREーゼロ』 魂の戦士達  作者: 松ノ上 ショウや
第一部 目覚めた、その「魂」たち
1/12

第一話 誕生!魂賭ける炎の戦士

 ヒーロー物初挑戦!力いっぱい頑張ります!

 暗闇に激しい火花が飛び散り、それと共に爆発音と人間の悲鳴が上がる。



 時おり光る火花で照らされた僅かな灯りで、見えるのは白衣を着た逃げ惑う人々。そして白衣を着た人間を襲う明らかな異形の怪物の影。



 そんな中、異形の影のすぐ近く巨大な機械の物陰を利用して異形の影の主に見つからぬように話し合う二人の人間の姿があった。



「……本当に良いのかい?」



 片方の影、暗闇で顔は見えないが声からして初老の男が自分と向かい合う片方の影に向かって一言一言、しっかりと口に出しながら問いかける。



「博士、僕の事など気にしないでください。この『COREーゼロシステム、No02』をヤツラに奪われるくらいなら僕の命なんて……。」



 初老の男に、もう片方の影、声からして若い青年は右腕に持った銀色のアタッシェケースを大事そうに抱えながら苦笑するように答えた。



霧谷きりや君……。」



 心から相手の身を案じている様子の初老の男の声に、霧谷と呼ばれた青年は表情を苦笑から本物の笑顔に変えて言う。



「大丈夫ですよ博士、僕は破損した空間移動装置の完全修復に成功したと信じていますから。」



 青年は、そう言いながら巨大な機械に取り付けられたキーボードを操作し、機械のモニターに表示された空間移動装置を起動させた。





 その瞬間、静かな機械の起動音と共に青年のすぐ近くの空間が歪みだし奇妙に捻れ始めた次の瞬間、ふっ、と青白く輝く光のトンネルが出現する。トンネルの中は光に溢れており、奥がどうなっているのかは見えない。



「それでは博士……どうかご無事で……。」



 青年はそう覚悟を決めたかのように言い、トンネルの中へと入ってゆく。そして光のトンネルが青年の体、全てを飲み込んだ瞬間、ぷつりとトンネルは消えて無くなってしまった。










 柔らかな朝日が部屋に入り込んで来た時、その部屋の主である。円崎えんざきたけるは目を覚ました。武は目を擦りつつ、軽くあくびをしながら先程まで寝ていたベッドから降り、近くにハンガーで掛けてある真新しい学生服に着替え始める。

 もはや冬の寒さはすっかり消え去っており、武は着替える最中にまるで寒さを感じず落ち着いて着替える事が出来た。

 気持ちの良い朝だな。部屋の姿見を見ながら軽く櫛で自分の髪をセットしながら武は思った。髪のセットを終えると武は通学鞄を持ち薄いクリーム色のドアを開いて部屋から出ると廊下を真っ直ぐ歩き、廊下の突き当たりにある急な階段を一階へと降りてゆく、一階の階段の入り口付近には薄いカーテンがしてあり、武はそれを暖簾でも潜るように片手でカーテンを払う。

 一階は美しい漆塗りの大小様々なテーブルや椅子、カウンター席が立ち並ぶ軽食店になっており、そこの余り大きない厨房では『エトピリカ』と、柔らかい文字で書かれた店の名前がプリントされているエプロンをした三十代程の男がフライパンを手にしハムエッグを焼いていた。


「おはよう、壱圭いっけいおじさん」


 武は料理中の男に気づくと笑顔で挨拶をする。


「おお、おはようさん武。丁度、朝食が出来た所だぞ」


 挨拶をされた男、武が暮らすこの店『エトピリカ』の店長にして料理長である壱圭は手にしたフライパンから武に視線を移し、30半ばの年齢ながら、どことなく七福神の恵比寿を思わせるような穏やかな笑顔を武に向けた。


「ほれ、今日の朝食は目玉焼きに厚切りベーコン、それにトーストにカフェオレだ。ちなみに来週からの新メニューだな」


 そう言いながら壱圭はフライパンで焼いていた目玉焼きを皿に乗せ、その横に同じフライパンで焼いていた、芳ばしい香りが漂う分厚いベーコン二枚をそっと乗せた。 その瞬間チン、という音と共に丁度オープンで焼いていたトーストが完成すると壱圭は慣れた手つきで二枚のトーストを別の皿に乗せるとベーコンと目玉焼きの皿と共に武の目の前に置き、最後にグラスにたっぷりと入ったカフェオレをその脇に置いた。


「いっただきま~す」


 いつもながら素晴らしい朝食を、しっかりと『いただきます』をしてから食べはじめる武。朝食は見た目だけでなく、目玉焼きは白身が肉厚、黄身は半熟で濃厚。ベーコンは香ばしく肉汁が溢れでる程にジューシーでしっかりとした塩胡椒との相性が抜群。トーストは高級羽毛布団のごとく柔らかく、目玉焼きやベーコンとの相性は抜群だった。

 そうして朝食を素早く食べて行く武を、満足気に見ていた壱圭だったが、ふと武を見るのを止めて思い出したかのように口を開く。


「あ、そういえばな武。ついさっき兄貴から電話があったんだ」


「えっ、父さんから?」


 壱圭の話に思わず武は食事の手を止め、じっと壱圭の話に聞き入る。


「今日は、何も問題が無ければ夕方には帰って来れるってさ。良かったな武」


「わぁ……父さん今日、帰って来れるんだ……」


 壱圭の言葉に武の顔からは、みるみる笑顔がこぼれ、やがてそれは満面の笑みにへと変わった。


「確か、5ヶ月ぶりの親子対面だろう?」


 武の笑顔に答えるかのように壱圭を笑顔で尋ねる。武はそれに満面の笑顔のままコクコクと頷いて答えた。


「しかし……兄貴は本当に凄い奴だ……」


 そこで壱圭は少し憧れるように息を吐き、心底、武の父親である自分の兄に心底、感服した様子で語り始めた。


「何か良く分からない仕事が忙しくて滅多に家には帰らないのに……自分の息子とも数ヶ月で1日、2日くらいしか会ってないのに、ここまで愛されてるなんてな……俺なんて自分の店に夢中になり過ぎて彼女すらいないのにな」


 最後に軽くふざけるように苦笑いのような笑みを壱圭は浮かべて見せた。


「さぁ武、そろそろ中学校に行く時間じゃないのか?」


 が、次の瞬間には、雰囲気を変えるかのようにパンパンと自分の手を叩いて武に言う


「うん、朝食を食べて洗ったら出かけるよ」


 武は残り僅かな朝食を食べながら答え、最後にほのかな苦味と甘味のあるカフェオレを一気に飲み干すと、自分が食べた朝食の食器を店のキッチンで洗い、通学鞄を抱えて店の入口から外へと出る。店の入口近くの壁には武の制服同様に新品同然の自転車が立て掛けられており、武は自転車の鍵を開くと自転車にまたがり、二、三回、アスファルトを蹴ると自転車をこぎ始め、中学校へと向かって自転車を走らせた。


 暖かい太陽の光を背中に受け、殆ど直進で道を進んで行くと、やがて正面に武の通う中学校私立 坂上さかがみ第二中学校が見えた。

 武は学校の校門を抜けると、まだ十分な時間が残っている事を確認し、自転車から降りると、自転車を引いて歩き出した。


「よお武、おはようさんっ」


 武が自転車を自転車置き場に駐車していた時、そんな、やたらに野太い声を掛けられた。その特徴的な声で武は直ぐに声の主が分かり、すぐに笑顔で挨拶を返した。


「おはようテツ、今日は早いね」


「おう、今日は珍しく早く起きちまってな、母ちゃんが、雪でも降るんじゃねぇかって言ってたよ」 


 武に『テツ』と呼ばれた少年、岩地いわち鉄雄てつおは、その名にふさわしく顔は非常に男らしく、中学生とは思えないほどに体はガッチリと筋肉で覆われており、背も高く、男子としては身長が低いうえに若干童顔な武とは一見して正反対の見た目だったが、武と鉄雄はそんな事はまるで気にせず、お互いに相手を親友と思える関係で、あった。


「それにしてもさ、テツはおばさんに起こしてもらわないと朝、起きれないでしょ?今日はどうしたの?」


「おう!俺にとっては目覚まし時計なんぞ、単にやかましくて腹立つ機械でしかねぇからいつもはコンマ一秒で止めちまうんだがな、どういうわけか今日に限ってあの音が耳にジャストフィットしてな、一発で起きちまったんだ」


豪快に笑いながら若干、得意気に話す鉄雄に武は、あはは、と軽く笑って答えた。


「ところでさ、俺も聞いていいいか?武」 


 武と鉄雄はお互いに話をしながら歩いていた時、ふと鉄雄は武の変化に気付き即座に尋ね、武はそれを即座に了承した。


「武、何か良い事でもあったか?さっきからいつも以上にやたらとニコニコしてんぞ」


「あ……うん、顔に出てた?」


 鉄雄に指摘された武は恥ずかしそうに頭を掻きながら答える。


「今日、久しぶりに父さんが帰って来れるんだって。それで、つい……」


「おぉ、おじさん帰って来んのかぁ。そりゃ良かったな」


 武の事を自分の事のように鉄雄は喜び、前歯を見せて笑顔を武に見せた。二人がそんな話をしているうちに二人は生徒玄関へと付き、二人が外靴から履き替えた丁度、その時。

 新たに一人の女子生徒が生徒玄関から入り、武達のクラスの下足入れへと近づいて来た。その少女は、余計な整髪料やアクセサリーを全く付けていないと思われる美しくきめ細かな漆黒の黒髪を腰まで伸ばし、体のラインはセーラー服から判断出来るだけでも美しく丸みをおび、それに調和するかのように肌は白絹を思わせる程に白い。顔立ちも、目はぱっちりとして、鼻は品がいい、水気のある桃色の唇は芸術品とさえ感じさせる。

 つまり、その少女はいわゆるかなりの美少女であった。


「おはよう、水原みずはらさん」


「……おはよう水原」


 武はその少女が玄関に入って来た途端に笑顔で挨拶をし、鉄雄を迷うように若干の間を開けながら武に続いて挨拶をした。


「おはよう……円崎君、岩地君」


 水原と呼ばれた少女は、少しだけ確認するかのように武と鉄雄を見ると無表情のまま、あまり感情のこもってない透き通った声で挨拶をすると。さっさと靴を履き替えて二人を通り過ぎ、廊下を歩いてさっさと教室へと向かっていってしまった。


「おい武、間違っても水原を狙うのだけは止めとけよ」


 水原の姿が見えなくなるやいなや、鉄雄は武に忠告するかのようにそういい放つ。


「えっ、どうして?」


 鉄雄の言葉に武は不思議そうに小首を傾げて鉄雄に尋ねる。


「こんな話は好きじゃねーが、あいつ美人のくせに妙に暗いだろ?学校の誰とも無駄な話はしねぇし、誰とも関わり持たなくていつも一人じゃねぇかよ。オマケに入学して2日目に仲良くしようと話し掛けた雪野ゆきのを『私を気にかけないで、邪魔だからほっといて』って言ってたじゃないか」


 その話を聞いて武は、そういえばそんな事もしてたね、と苦笑をしながらも軽く頬杖をついて考え、やがて数秒後には苦笑を自信たっぷりの笑顔に変えると。


「うん、大丈夫だよ!きっと何か理由があるだけで本当の可愛い女の子だと俺は思うな。うん、きっと、そうだよ」


「一応聞くが、その根拠は何だよ?」


 鉄雄の指摘に武は全く迷わず、直ぐ様自信たっぷりに答える


「えっ、だって女の子って、みんな綺麗で可愛いでしょ?」


「…………まぁ、オメーらしいな」


 鉄雄はある程度予測していたのか、軽く唇の両端を吊り上げながら率直な感想を述べた。

 その後、二人はいつものようにTVの話などをし、互いに相手の話で笑いながらも自分達の教室へと入っていく。

 そこまで入って武にとって単なる「良い日」に感じるだけの日常だった。

 彼が日常の安泰から外れ、非日常な戦いの日々を過ごすようになるきっかけは放課後からである


 放課後のSHが終了すると共に教室にいた生徒は下校や部活のために廊下へと出ていく。その集団に混じりながら武と鉄雄は朝と同じく歩きながら、たわいのない話をしていた。


「……でなぁ、頭にきたから全力でTVを殴ったらTVが割れちまってなぁ、おかげで父ちゃんにぶん殴られちまったぜ」


「あはははっテツそりゃあ当然だよ~」


 武は鉄雄の相変わらずの荒唐無稽話な話に口を開いて笑った

「あ、そういや今日は帰り、どこ行くんだ?」

 と、鉄雄が思い出したかのように放課後の予定を尋ねる。

「あ、今日はちょっとスカーフを買いに行こうと思うんだ」

「お、またスカーフコレクションの収集か?」

 ニヤニヤしながら尋ねる鉄雄の言葉に武は純粋な笑顔で頷いた。そう、武は小学校の頃から何に影響されたのかスカーフを収集しており現、自宅の軽食店「エトピリカ」二階の武の部屋のタンスには実に様々な色や模様のスカーフが収納されているのだ。

 ちなみに、コレクションしたスカーフを武は必ず私服に身に付けており、日替わりやその日のスカーフ色や柄を変え、鉄雄曰く謎のアピールをしている。

 そして、予定が決まった二人は通学路にある武オススメのスカーフの品揃え抜群の洋服店に行き、そこで武は目当ての少し高級なスカーフを購入し、現金を持っていなかった鉄雄をもまた、値下げされていた紫色のジャージの上下を武から金を借りて入手した。

「じゃあね鉄雄、今日はここで」

「おう、また明日な」

 武と鉄雄は店を出ると互いに別れ、それぞれの帰路を鉄雄は徒歩で、武は自転車に乗って帰って行った。


 朝通った、曲がり勝との殆ど無い道を自転車のペダルをこぎながら緩やかに進む武。が、その顔は先ほど出た店との距離が開く旅に何やらソワソワと落ち着きが無くなり、視線までもが明らかに不自然にあちらこちらに動き回り始めた。

 と、言っても武は後ろめたくなるような行動をした訳では無い。答えはしごく単純に。

「あぁ……もう我慢出来ないや、一回、一回だけ家に帰るまでにスカーフを見てもいいよね!?」

 自身が購入したスカーフを改めて見たいと言う感情を押さえきれなくなった武は、まるで自分に言い聞かせるかのようにして、若干強引に納得させると、自転車を右にカーブさせ、帰路とは違う方向、近くの森林と一体になった自然公園へと自転車を走らせた。


 まさに、この瞬間、この選択によって、平凡な筈の彼の人生を大きく変化させるとは夢にも思わず。



 自転車を駐輪場に置き、武が公園の広場に付くと珍しい事に武以外は人間は誰もおらず、時折、野鳥の鳴き声と木々のざわめきが聞こえるだけであった。若干、興奮したまま武は広場に複数あるベンチの一つに腰かけ、心臓を高鳴らせながら紙袋から梱包された箱を取り出し、箱の包装紙を箱の表面に傷を付けぬように剥がして行く、と、やがてスカーフを製造している会社、『シュトローム』の名がプリントされた黒塗りの美しい箱が姿を表した。憧れのブランドに武はさらに胸の鼓動を高めながら慎重に、敬うように箱を開いた。

「うわぁ……すごい……これがあの『シュトローム』のスカーフ……」

 瞬間

 澄みきった青空を切り取ったのでは、と、そんなメルヘンチックな事を想像させてしまう程に美しく、透き通るかのような鮮やかさを持つ青いスカーフに武は思わず、深いため息と共に感嘆の声をあげる。

「買って良かった……本当に買って良かった……」

 武が、ぼうっとした表情で感動の余韻を味わっていた時だった。


「だ、誰かぁ、頼む、助けてくれ!!」

 突如、武の座っているベンチの正面、武から数10m程先に見える森の中から、鬼気迫った様子の男の声が聞こえてきた。

 その、ただならぬ様子に武は黙っておれず、素早くスカーフを箱に戻して紙袋に突っ込み、声が聞こえた方向へと向かって森に突入した。


「大丈夫ですかーっ!?」

 武は、声の主を探すべく制服が汚れるのも構わずに森の中を走り続ける。

「ひぃいいいいっ!!」

 と、再び男の声、それも今度は恐怖に怯えた様子の声が聞こえてきた。どうやら声の主を襲う状況は以前、危ういようだ。

「……そっちか!、今、助けに行きますっ!!」

 武は声が聞こえた方角から声の主代々の居場所を割り出し、その方向へと向かって勢い良く走り出す。と、やがて武の前方にうごめく人影らしきものが見えた。

「大丈夫で………………!?」

 その人影に声をかけようとしてさらに近より、武は『気付いた』。その人影が『おおよそ普通の人間の姿から大きくかけ離れ』ている事に。

「っ!!」

 直感、動物的反応で武は近くの木々に隠れる。

「(何!?『アレ』は一体、何!?)」

 未知の者に対する恐怖心をいだきながらも武は、気づかれぬよう、そっと、慎重に『アレ』を観察する。


 一言で言えばそれはまさに文字通り『蜘蛛人間』だった。二本足でしっかりと地面に立っている事は確かに人間らしいが、その足は僅かに白い毛が生えており、両足や不気味な緑色で筋肉でゴツゴツとした上半身から生えている六本の腕は完全に節足動物のそれであった。しかし何より注意を引くのはその顔で宝石が埋め込まれているかのように不気味に光る丸い紫の八つの目、そして口元からは蜘蛛である事を主張するかのように二対の巨大な鋏角が飛び出ていた。

「(あ、『アレ』は絶対にこの世界の生き物じゃない。別の何かだ……)」

 恐ろしい迫力を漂わせる蜘蛛人間を見つつ、武は恐怖にふくれあがった。幸いな事に蜘蛛人間は武にまるで気付いた素振りを見せず、ある一点のみを睨み付けていた。

「(いったい何を……)」

 そう武が思った瞬間、

「ガグゥウウッ!!」

「く、来るなぁ!!くそぉ……」

 不気味な声と共に怪物が激しく吠え声をあげて威嚇する蜘蛛人間。そして、それに怯える青年の声がすぐ近くで聞こえた。

「(もしかして、この声の人もアイツに襲われて……)」

 武は、そう思った瞬間、危険は承知の上で少しずつ身を乗りだし、注意深くさらに様子を伺う。すると僅かに木々の間から地面にへばりつき大きすぎて明らかにサイズが合ってない白衣を着た何者かの姿が見えてきた。もしや相手は何処かの研究員か?そう思った武がさらに身を乗り出した瞬間。

「(えっ?)」

 武は再び驚愕のあまり硬直してしまった。何故なら。

「くそう!!俺の命はどうにでもなるがコイツは……コイツだけは本部に届けないといけないのに!!」

 そこで、白衣をまとい両手で大事そうにアタッシェケースを抱えながら悔しそうに呟いているのは人間では無く一匹のニホンザルそのもの、そう、このニホンザルが白衣をまとい日本語で助けを求めていたのだ。

「(ななななななな、何で!?何でサルが日本語を喋ってるの!?)」

 あまりにも常識はずれな出来事ばかりが次々と起き、脳がパニックになったのか武は軽い頭痛を感じていた。と、その時

「ググゥウウ…………」

「う、わぁああ……た、頼む……誰か助けてくれ……」

 蜘蛛人間が不気味に吠えると威嚇を止め怯え、震えている白衣を着たニホンザルへと向かって歩き出す。白衣を着たニホンザルは、これから先の自分の運命を悟ってしまったのか目から涙を流し、後ろに、ずずずと後ろに下がる。

「(!……っ、悩むのは後でいい、今はあのサルを助けないとっ!)」

 そんなサルを見ておれずに助けるべく武は、出来る限り体を木の影に隠しつつ足元に落ちていた拳程の石を力一杯、サルに迫る蜘蛛人間の背中に向かって投げつけ、見事に直撃させた

「グガァッ……!」

 石をぶつけられた蜘蛛人間は腹立たしいような声を上げ、ゆっくりと白衣を着たニホンザルの前から背後に振り返る。

 その隙に武は素早く身を隠し、それと同時に自分とは真向かいにある一本の木の枝に向かって石を投げつけて命中させた。

「グガゥゥ………」

 振り向いた時、風も無いのに一本の木の枝が不自然に揺れた事で自分に攻撃をした者がいると判断し蜘蛛人間は人間で言えば『殺してやる』と言う感じに、ゆっくりと木に向かって歩き出す。

 その間に武は足音を立てぬように素早く回り込み、アタッシェケースごとニホンザルを回収すると、蜘蛛人間とは正反対の方向に向かって全力で走り出した。

「大丈夫?ケガとかしてない?」

 走りつつ腕の中のニホンザルに向かって問いかける武。

「あ、ああ、大丈夫だ。助けてくれてありがとう」

 武の腕の中でニホンザルようやく冷静さを取り戻したらしく、多少どもりながら答えた。

「俺は霧谷 じゅん。今はこんな姿だから信じられないと思うけど……一応、人間で研究員だ」

「よ、よろしく……俺は武。円崎武だ」

 やはりサルの姿が慣れず多少、顔を引き付けられながらも自己紹介する武。

「え、円崎!?もしかして10円、100円の『円』に純粋の『純』で円崎かっ!?」

「そ、そうだけど、それがどうかした?」

 武の名を聞いたとたん、淳と名乗ったニホンザルは急に目を見開き、もの凄い勢いで武に詰め寄る。その迫力に軽く怯み、軽くのけ反った。しかし淳はそれに気付かず何やら口の中で小さくブツブツ言い、再び口を開く。

「じゃあ武は……」


 淳が何かを武に言おうとした、その時。

「っぅ!まさか……!?」

 突如、武は背後から底冷えするような殺気を感じ、一旦走るのを止めて後ろを振り返る。

「グガアアァッ!!」

 見れば、激しい怒りに満ちた様子の先程やりすごした蜘蛛人間が凄まじい速度で走りながらまっすぐ武と淳の元に向かって来ていた。

「う、うわっ!!」

 それを見た武は直ぐ様、地面を蹴り再び全力疾走を始めるものの蜘蛛人間の走る速度は森林にも関わらず、グラウンドを走る短距離走選手を思わせるような驚異的な早さで武に迫っていく。

「は、早すぎる!降りきれないっ!!」

 首だけを後ろに向けて、みるみる迫ってくる怪物を見て驚愕する武。と、腕の中で武の代わりに前方を見ていた淳の目が再び見開かれる。

「た、武、前に道が無いぞっ!!」

「えっ……うわぁああああっ!?」

 淳の警告が終わらないうちに武は足元の段差から落下し、走っていた勢いのまま武の体は宙を舞い、武は何とか地面に落ちるまでに受け身をしようと試みるものの両手が塞がっているため中途半端な受身しか出来ず結果、武はあまり威力を軽減出来ずに堅いコンクリートに背中を叩きつけられた。

「うっ…………がはっ……」

「た、武、大丈夫かオイ!?」

 体を襲う激しい痛みに思わず、濁ったうめき声と共に背中を丸める武。そんな武を武がクッションがわりになった事でダメージをかなり軽減出来た淳が腕から抜け出し、心配そうに言う。ちなみに、その手には余程大切な物らしく、しっかりとアタッシェケースが握られていた。

「う、うん…………な、何とか大丈夫」

 武は多少、腰を擦りつつ、そう言って起き上がり辺りを見渡す。

 錆び付いたシャッターで閉ざされたコンクリ製の建物に、古びた青緑のタンク。どうやら走りすぎて武は森林近くの閉鎖された工場まで来てしまったらしい。

「そ、そうだ……急がないとアイツが……!!」

 と、武はぎょっとし言葉を詰まらせる。

 どうやら先程、自分達が落ちたと思われる上が森へと続いているコンクリートの石垣。そこから邪魔な木を軽々となぎ倒し、蜘蛛人間が飛び降りて来たのだ。

「ち、ちきしょおお!!」

「う、うわぁああ……」

 再びゆっくりと近づいてくる蜘蛛人間に怯えながら悔しげに叫ぶ淳、武はいよいよ追い詰められた事でハッキリした恐怖を感じ、一歩、また一歩と後ろに後退を始める。と、その時

 パパバッパパバパパバンッ

 と、連続して乾いた音の銃声が響き、それと共に蜘蛛人間の頭や足、体からは次々と煙が発生し、蜘蛛人間は崩れ、声もなく倒れた。

「こ、これは…………?」

「あ、武見ろよ、自衛隊だぜ!!」

 と、武が言われるがまま淳が指差す方向を見てみると、そこには迷彩服を着た自衛隊員らしき人々が、列になって小銃を蜘蛛人間に向かって構えている光景が見えた。よく見ると後ろには隊員達が乗ってきたらしきジープが見える。

 再びの急展開に武が平静を取り戻せず、呆然として眺めていると列になっている内、二人の隊員が武の方へと走って来た。

「大丈夫か君、怪我は無いか?」

「あ……はい、大丈夫です」

 一人の隊員が武を助け起こす間、もう一人の隊員は倒れている蜘蛛人間へと銃を向けていた。

「これで仕留められたか……?」

 一人の隊員が慎重に蜘蛛人間の様子を見ながら、そう呟いた時だった。


「グゥウウ……ガァアアアアッ!!」

 倒れていた蜘蛛人間は急に立ち上がり、近くで銃を構えていた隊員を片手で数m程、吹き飛ばした。

「なっ!民間人の避難を確認すると共に第二射撃開始!!」

 自衛隊員の指揮官らしき言葉に、武を助け起こした自衛隊員は武を淳ごと背中に背負うと仲間達の元へと走り出す。

「だ、駄目だ……アイツらに……『ボルガード』に通常兵器は通用しないんだ……」

 武に抱えられている淳の警告は銃声にかき消され、誰の耳にも届く事は無かった。


 一人の中年程の男がディレクションルームで自衛隊員と蜘蛛型の『ボルガード』、『スパイダーボルガード』との戦いを巨大なメインモニターで見ていた。その額には、焦りが生じているのかうっすら脂汗が滲んでいる。

「司令官、『コアーズ』の出撃命令が出ています!それも大至急にとの事です!!」

 緊迫した様子で男の近くの席に腰かけ、何やら忙しくパソコンを操作していた若い女性が男に告げる。女性の顔には男以上に焦りと緊張感がにじみ出ていた。

「分かっている。だが、今は美歌みかの応急処置すら終わって無い。せめて……応急処置を終える時間まで陸上自衛隊には堪えてもらうしか現状は無いんだ……」

「…………………」

 男の重苦しい一言に若い女性は思わずうつむいて、口を閉ざし黙りこんでしまう。と、次の瞬間、司令官と呼ばれた男が見つめていた巨大なメインモニターの右端に赤字で『緊急通信』と書かれた文字が映ると共にメインモニターの一角を切り取り小さな画面が出現した。小さな画面は暗闇に緑字で『発信場所 医療センター』とだけ一瞬だけ映し、次の瞬間には医療センターからの映像に切り替わった。

『司令官、私なら平気です!今すぐ出動させてください!!」

 切り替わった画面、そこに写されていた病室のベッドに腰かける一人の少女、美歌が叫ぶ。しかし、その少女の顔は出血のせいで青白く、体の大部分は包帯で包まれており、包帯の一部からは真っ赤な血がにじみ出ていた。

「美歌、分かっているのか?そんな状態で戦えばどうなるか……」

 誰の目にも明らかな無理をしている美歌に脅しを加えつつ睨みながら言う男。

『……司令官、出動させてください!』

 しかし、美歌は一瞬迷うものの決意は変わらず、今度は男を静かに見つめながら言った。

「分かった……行け、美歌。ただし……危なくなったら退却しろ……死ぬな」

『はいっ!!』

 男から許可を貰った事で美歌は直ぐ様ベッドから立ち上がる。と、それと同時に通信が切れ、小さな画面は消えて再びメインモニターは画面いっぱいに映像を映し出した。

「くそっ……!」

 通信が切れた事を確認すると男ははっきりとした感情を表し、悔しげに呟く。

「足りない……『コアーズ』の数が足りなすぎる。せめて……せめて、もう一人だけ『COREーゼロシステム』の『適合者』がいれば……!」

 そんな様子の男に若い女性は何も言えず、ただ男に視線を向ける事しか出来なかった。


「うわぁあああぁぁっ!!」

 再び蜘蛛人間、『スパイダーボルガード』に一人の隊員が捕らえられ、片手で数m上空へと放り投げられた。投げられた隊員は重量に引かれるまま地面に叩きつけられると体を痙攣させ、動かなくなってしまった。

 今、現在、現場は散々たる状況であり、乗って撤退を試みようとしたジープはスパイダーボルガードの怪力で原型が無いほどグチャグチャに破壊され、自衛隊員たちも怪物によって命の危機になるほどの重症を追い、すでに戦える隊員は3分の1ほどしか残っていない。

「大丈夫ですか?しっかりしてください!!」

 そんな中、武は自衛隊員達に守られながらも、必死で怪我をした隊員達の手当てを手伝っていた。武の医学についての知識は所詮は学校で習ったものと素人知識の付け焼き刃だがなにもやらないよりは何割かマシだと言えるだろう。が、今の状況はまさに最悪だった。いよいよ決着をつけようとしているのか、スパイダーボルガードはまっすぐにこちらに向かって来る。その体に向かって大量の弾丸が発射される。が、怪物は少しのけ反るだけで全く歩みを止めない。

「野郎……本当に化物だな。ヤツの目に弾丸をぶち込んだ場所がもう再生していやがる」

村上むらかみ二佐、もう弾丸が……残りの武装も、もう。」

「くっ……万事休すか!が、せめて民間人だけは……」


「そ、そんな……待ってくださいそれじゃあ皆さんが!」 

 村上二佐が悔しげにそう呟きつつ自分達の命と引き替えに武と淳を救おうとし、武が慌ててそれを止めようとした時だった。


「ハァアアッ!!」

 

 そんな声と共に何者かが武達を飛び越し、上空から下降しながらスパイダーボルガードを切りつけた。

「ギャアッ!?」

 切られたスパイダーボルガードは悲鳴をあげ無様にも地面にひっくり返る。


 さっきまでスパイダーボルガードが立っていた場所、そこには頭の先から足の先まで、全身をどこまでも青く、サファイア色に煌めく美しく芸術的な鎧に身を包み、青い鎧の鉄仮面に真珠のような白く大きな目の『戦士』がたっていた。

 戦士の青い鎧には無駄な飾りは殆ど無く実用的に優れた姿で体を防御しており、ただ、胸部を包む鎧には鮫を思わせるエンブレム。戦士の右腕には銀に青い宝石が埋め込まれたブレスレットをしているだけだった。

「グゥウウ……」

 多少、ふらつきながらも再び起き上がるスパイダーボルガード。それを確認した戦士は右手に持った、白銀に光る細身の剣を構え再びスパイダーボルガードに攻撃を始めた。


「あ、あれが本物のコアーズ……『COREーゼロシステム No3』のコアーズ……コードネーム『03 アクア』」

 誰もが謎の戦士の登場に唖然としている中ただ一人、淳だけが戦士の正体を知ってるらしく驚きながらも戦士の正体を言う。

「コ、コアーズって……何?」

 『コアーズ』と言う名を聞いた瞬間から自衛隊員達が口々に「あれが噂の……」、「まさか、こんなに早く見れるとは……」などと呟く中、一人だけ上手く話を理解出来ない武がヒソヒソと淳に尋ねる。

「ああ、コアーズってのはな今、戦っている怪物『ボルガード』。それに対抗するために作られた戦闘システム『COREーゼロシステム』に適合して変身した人間の通称なんだ。まぁ……本物は俺も資料とかでしか見たこと無くて、今、始めて見るけど……」

「人間……なんだ」

 淳から告げられた言葉を聞き、感慨深げに呟くと武は改めてコアーズ、アクアとスパイダーボルガードとの戦いを眺める。

 アクアは手にした剣で素早くボルガードを切りつけ確実にダメージを与えて行く、が、何故かの足腰は時々おぼつかなくなり、ついには回避が遅れアクアは腹にスパイダーボルガードの反撃の蹴りを食らった。

『くうっ…………!』

 アクアは小さな悲鳴と共に体を大きくのけ反らせながらも倒れる事はせず、後ろにバックステップをして距離を取ると剣を横向きにし、いわゆる八相の構えを取ると、左手で腕輪の宝石に触れる


―スラッシュウェーブー

 その瞬間、腕輪から機械音声で女性の声が響き、それと共に腕輪から包みこむように青い光が流れ出し、その光が手首を覆いつたいながら徐々に剣を青い光で包み込もうしてゆく。やがて、剣が完全に青い光に包みこまれようとした時だった。

『うっ……ぁぁ……』

 突如アクア、苦しげに先程スパイダーボルガードに蹴られた脇腹を押さえ、構えが崩れてしまう。

「ガァアアッ!!」

 当然、スパイダーボルガードはその致命的な隙を見逃さず、がら空きなアクアの胴体にタックルを決めた。

『う、あああああぁぁぁぁっっ!?』

 タックルが完全に決まってしまったアクアは10m近く吹き飛ばされ、工場のコンクリートの壁に叩きつけられると、そのまま地面に落ち、青い光に包まれて変身が解除され、全身が包帯まみれの少女の姿に戻る。

 それを見ていた武は驚愕のあまり思わず、呼吸が止まってしまった。なぜなら、今、目の前で血のにじむ包帯まみれで気絶している少女は。

「み、水原さんっ!?」

 そう、部長に無理を言って出動し、今、現在、ダメージで気絶している少女は水原 美歌だった。

 そんな水原を見た瞬間、スパイダーボルガードに対する恐怖がたやすく吹き飛び、武に強い感情が生まれる。

「水原さんを助ける!!」

 武は気付いた時には自衛隊員の静止を振り切り、今、まさに気絶している水原にトドメをささんと再び歩みを始めるスパイダーボルガードに向かって走り出した。

「やめろ武!死ぬ気か!?」

 その後を武を止めるべく二本足で走って必死に追いかける淳。

「うおりゃああっ!!」

 そうしている間にも武は、落ちていた小銃の銃口をつかんで持ち上げるとハンマーのように振りかぶり、背後からスパイダーボルガードの頭上に思いきり降り下ろす。が、

「うあっ!?」

 スパイダーボルガードの体はまるで鋼の塊のように強靭で、武の方が衝撃でダメージを受けてしまった。

「ガァアアア……」

 スパイダーボルガードはそんな武をうっとおしそうに見ると、左足を後ろに引く。

「!!」

 それにギリギリ反応した武は素早く銃を引き寄せ銃の銃身で体をガードした。

 と、次の瞬間、まるで自動車が激突して来たのでは、と思わせる程の衝撃を持ったスパイダーボルガードの蹴りが武を襲い、なすすべなく武の体を空中へと吹き飛ばす。

「うわぁああああぁっ!?」

 スパイダーボルガードの蹴りで武が手にしてた銃は真っ二つに折れ、それでもまだ止めきれず武は空中に吹き飛ばされてしまう。

「武!って、うおおぉっ!?」

 そして吹き飛ばされた武は自身を止めに来た淳と共に並ぶように地面に倒れた。

「が……ここまで力の差があるなんて……」

 口内を負傷し、口から血を流しながら起き上がれず呻く武。近くで倒れている淳も悔しげに言う。

「だから……うっ、言っただろ?ボルガードには通常兵器が通用しないって……気持ちは分かるけど今の俺達じゃ何も出来ない……くそっ!」


 そこで淳は余程悔しいのか鋭いサルの歯をむき出し、自身が手にしているアタッシェケースを睨み付ける。


「コイツに……この『COREーゼロシステムNo02』に適合出来る奴さえいればっ!!」


 そう叫ぶと淳は拳を勢い良く地面に叩きつける。


「……なぁ、淳」

 その瞬間、武は決断した。

「あぁ……早く避難するぞ」

 武が次に言わんとする言葉を取り違え、苦い顔をしながら立ち上がる淳。が、次の瞬間、武が口にしたのは。


「その、ゼロシステムNo02って俺にも使えるか?」


「なっ!?」

 武が口にした言葉に耳を疑い、思わず叫ぶ淳。一方の武は、淡々と淳に心境を伝えてゆく。

「俺、やっぱりどうしても水原さんを助けたい。その為に出来る事はやれるだけやりたいんだ」

「な、何を言っているんだ武!!COREーゼロシステムはな!変身出来ても適合者じゃないと機能を満足に使えないうえに体に多大な負担をかけてしまうんだぞっ!お前は『自分が適合者』と言うどれくらいかも分からない低確率に自分の体を賭けられるのかっ!?いや、たとえ変身出来て、『お前が適合者』だとしても、いつ命を失うか分からない戦いに参戦出来るのかっ!?」

 まくし立てるように怒気を込めて言う淳。そんな淳を見て武は軽く悩み

「うん、俺にはまだハッキリとは分からないけど……これだけは言える」

 そう言うと、武は淳を見つめ。

「いろいろ考えてみると怖くて動けなくなっちゃうけど今、俺は、水原さんも、俺達を助けてくれた自衛隊の人達も、助ける為に力が欲しい。この選択を人のせいや自分のせいにして後悔したくないんだ。それこそ『魂に賭けて』ね」

 そして武は、深々と淳に頭を下げる。


「お願いだ淳、俺を信じて、一回、一回だけで良いからCOREーゼロシステムを俺に渡してくれ」


「…………………」

 武の言葉を真っ正面から受けた淳。淳は無言のままアタッシェケースに自身の白衣から取り出したカードキーを入れ、特定の番号を入力した。

 ガチャリ

 その瞬間、鈍い音と共にアタッシェケースのロックが解除される。

「あ、ありがとう……じゅ……

「約束」

「えっ!?」

 礼を言おうとした武を淳が言う。

「絶っーーっ対に生きて戻って来い。破ったら男じゃねぇぞ」


「ああっ!勿論!!」

 その言葉に武は強く、勇ましく返事を返す。

「よし……さぁ見ろ、これがCOREーゼロシステムNo02だ!!」

 それを見た淳はニカッと笑い、アタッシェケースを開き、中身を武に見せる。


 そこにはシンプルに一つ、手の平程もあるダイヤモンドカットされた赤色の宝石が中央埋め込まれ、逆さにした台形の、金色に輝く勲章。それだけが凄まじい程の存在感を持ってそこに鎮座していた。

「武、まずはコアシステムを利き手に持って。システムに武を認識させるんだ」

 言われるがまま、右手でコアシステムを取り出して持ち上げる武。金属特有のずっしりとした重みと冷たさが武の体に伝わる。


―COREーゼロシステム No02起動―


 すると機械音声と共に、勲章の中心に埋め込まれていた宝石が赤く光り、コアシステムが起動した。

「次、えーと……確かそれは胸部プロテクターして装置するから……、武!宝石がある方を前に向けて胸の正面にかざすんだ!!」

 武は言われるがまま、コアシステムを胸にかざす。すると一瞬、武の上半身が光に包まれて輝き、次の瞬間には武の胸に、金色のラインが入った銀色のプロテクターが出現していた。

 U字状の曲線をしたプロテクターは太陽の光で銀と金に眩く輝き、プロテクター中央の窪みは丁度、武の手に持つコアシステムぴったりの大きさであった。

「よし、最後!コアシステムをプロテクターに装着して、変身パスワード……『セットアップ』と叫ぶんだ!」

 武は、コアシステムをそのプロテクターに押し当てる、何の反発も無くコアシステムはぴったりとプロテクターへと埋め込まれた。そして武は腕を下ろし、改めて決意するかのように叫ぶ。


「セット、アップ!!」

ーSet Up!!―


 武の力強い叫びが響いた瞬間、赤い宝石が激しく輝き、武の上半身と下半身、両足、両腕と武の全身を鎧で包んで行く、鎧は武の頭部をも兜で完全に包み込み、最後に首に青いスカーフ巻かれて武のコアーズへの変身が完了する。

「ま、まさか………?」

 驚愕し、空いた口が塞がらぬ様子で言う淳。武のその姿は、美歌が変身したコアーズとは、まさに正反対だった。


 武の胴体の大半と両手、両足を包む、熱く、あまりにも熱く近づいただけで燃え尽きてしまいそうな程の赤色の鎧。そして、それとは正反対に腕や太もも、胴体の一部で煌めく汚れなき白。首には風に煽られてはためく夜空の青色のスカーフ。東洋の龍を思わせる二本の角が生えた兜には白と赤のコントラストが美しい仮面に、黄金色に縁取られた鋭くも優しい目が出現していた。


「嘘だろ……こんな事があるのか……ここまで『運命』を感じるような事が現実でっ!!」

 武の姿に大きく動揺し思わず声が震える淳。しかし、それでも何とか震えながらも淳は武に伝える。



「武……お前は完全体に変身した……武、お前は俺が、俺達が探していたCOREーゼロシステムNo02の適合者!!コアーズ、『バーニアス』だ!!」


「淳…やっぱり、やってみて正解だったね」

 武は仮面の下で、そう笑い、地面を蹴って走り出すと美歌に攻撃をしようとしたスパイダーボルガードに横から強烈なタックルを決めた。

「グッ、ギャアアァァァッ!?」

 突然の奇襲にスパイダーボルガードは何も反応出来ず、自身が武を吹き飛ばしたかのように軽々と空中に吹き飛ばされる。

「ハァッ!!」

 ふらつきながら立ち上がろうとするスパイダーボルガードにさらなる追撃を与えるべく走り出す武。


 こうして、ここに武ことバーニアスとスパイダーボルガードとの戦いが始まった。



「な、何、あの子、適合者!?一体誰なの!?」

 ディレクションルームでは、一部始終を見ていた先程の若い女性がモニターに映るバーニーアスとスパイダーボルガードとの戦いの映像を食い入るように見つめていた。

「落ち着きたまえ白波しらな君。心配せずともあの新しいコアーズ、バーニアスの適合者の事は私が良く知っている」

 男はいつの間にか、いや、武が変身した時から冷静さを取り戻し白波と呼ばれた若い女性をたしなめた。彼女が静かになったのを確認すると男は話を続ける。

「彼の―彼の名前は、円崎 武」


「!?―で、では、あの子は……」

 その名を聞いた瞬間、白波はハッとし、何かを悟る。その様子で白波が理解した事を確認し男は頷いて、口を開く。

「彼は……武は、この私、円崎 月草げっそうの血の繋がった一人息子だ」

 そう言う男、月草は苦笑いのような顔をして再びモニターを見始めた。



「でやぁあああぁぁっ!!」

 カウンター気味に放たれたバーニアスの右拳がスパイダーボルガードの上半身に命中し、スパイダーボルガードは大きくのけ反る。バーニアスとスパイダーボルガードとの戦いは場所を工場内に移して、いまだ続行中だった。

「武、めちゃくちゃ強いじゃねぇか……ボルガードと互角以上に戦っていやがる……」

 美歌を自衛隊員に任せ、自らはアドバイスの為に残り、物陰から二人の対決を覗いていた。


「グゥウウッ!!」

 スパイダーボルガードがバーニアスに向かって反撃とばかりに鋭い拳を放つ。

「ぐっ……だぁっ!!」

 武は、それに怯みながらも耐えきり、反撃に左足でスパイダーボルガードの腹に回し蹴りを叩き込むと、バックステップで距離を取った。

「(凄い……自分の体をみたいな一体感……身体中に溢れてくる力……アイツの攻撃を食らっても耐えられる!……これが……これがコアーズ!!)」


 コアーズの持つ力を自らを持って知り、改めて驚く武。

「グャウウッ!!」


 と、スパイダーボルガードが今度は後ろの足も使い、合計六本の手で攻撃を仕掛けて来た。


「うわっ、とっととおっ!」

 バーニアスは、それを何とか両腕をクロスさせたガードで防ぎきり、直ぐ様、反撃に移ろうとガードを下ろそうとした瞬間

 シュルシュルシュル……

 そんな音と共にスパイダーボルガードの口からは大量の糸が吐き出され、見る間にうちにバーニアスの上半身を糸で拘束してゆく。


「ぐっ……この糸、締め付けて来るっ!!」

 スパイダーボルガードの糸の拘束から何とか逃れようともがくバーニアス。

「ガァアアアッ!!」

 その隙をスパイダーボルガードは見逃さず、渾身の力で、動けないバーニアスに右、三本の足全てを叩き込んだ。


「うわぁああっ!!」

 糸で拘束され、ガードが出来なかったバーニアスはスパイダーボルガードの腕が直撃した部分から火花をあげると、空中に吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。

「グオオオオッッ!!

 倒れたバーニアスにトドメをさすべく全ての腕を振り上げ迫り来るスパイダーボルガード。バーニアスは未だに糸の拘束が解けずにもがく。


「あ、危ない武っ!」

 今にも倒されそうなバーニアスを見て、思わず淳は叫んだ。

「くっ……とぉおおっ!!」

 スパイダーボルガードの三本の腕が命中する直前、バーニアスは体を捻る事でギリギリ回避した。

 バギバギィッ!!

 その隣でスパイダーボルガードの拳はぶ厚いコンクリートに余裕で風穴をあけ、灰色の煙を辺りに舞わせた。

「グゥウウ……!」

 スパイダーボルガードは直ぐ様その腕を引き抜き、倒れているバーニアスに再び全ての腕を振り上げて追撃を行おうと試みる。


「今だっ……だあっ!!」

 その隙をバーニアスは見逃さず、全ての腕を振り上げたためノーガードになったスパイダーボルガードの腹部に両足でキックを叩き込んだ。

「ギャアッ!?」

 今、まさに腕を降り下ろそうとしていたスパイダーは直撃をくらい、勢い良く後ろに吹き飛ばされるとそのまま転倒し地面でジタバタともがき始める。その間にバーニアスは上半身を拘束している糸を怪力で引きちぎり、再び立ち上がって構える。

「武、トドメだ!まず胸のコアシステムを手で触って!!」

 淳の声に合わせて、バーニアスは右手で胸で輝くコアシステムに触れた。その瞬間、コアシステムの赤い輝きはますます強みをおび、眩しいくらいの激しさで光輝き始めた。


「で、どこで、どうやって相手を攻撃するか、頭でイメージするんだ!」

 と、そこで倒れていたはずのスパイダーボルガードが起き上がり、再びバーニアスに向かって糸を吐き出した。

「ハァッ!」

 バーニアスは、それを大地を蹴ってジャンプする事で回避し、スパイダーボルガードを迎撃しようと『飛び蹴り』を試みた。

 と、その時、輝くコアシステムから大量の赤い光がバーニアスの体を伝わって、右足を真っ赤に変える。


―フレイム・スマッシュ!―


 変身した時以来、一言も発しなかったコアシステムが電子音声で静かに技名を告げた。

 その瞬間、コアーズの力を使い、バーニアスの右足で放たれた飛び蹴り、フレイムスマッシュがスパイダーボルガードに直撃し、バーニアスの右足から発射された炎状の大量のエネルギーがスパイダーボルガードに遅いかかり、スパイダーボルガードをなす統べなく軽く数10mは吹き飛ばし、落ちたスパイダーボルガードの回りが陥没する程の力で大地に叩きつけた。


「(い、今の手応えは……?いつものキックの数倍いや、それ以上はあった!!)」

 地面に着地したバーニアスこと武は明らかに違った手応えの正体を確かめるべく、倒れたスパイダーボルガードに視線を向ける。


「グッ!グゥウウウ……!!」

 スパイダーボルガードはよろけながらも立ち上がろうとしていた、が、あきからに様子がおかしい。スパイダーボルガードの全身は痙攣しているかのように震え、未だに炎で燃えているバーニアスのキックが直撃した場所を震えながら押さえつけていた。

「ガッ……ア、アァァ……」

 しかし、それも長くは続かず、何かがひび割れるような音が聞こえると


「ギッ、ギャアアァァァッ!!」

 断末魔の叫びと共に、爆発四散し、後には炎の燃えカスしか残らなかった。

「た、倒した?」

 それを見て、構えを解きながらバーニアスが呟く。

「ああ……あそこまで行けばいくらボルガードでも再生出来ないさ……」

 静かに安堵の声を漏らす淳。僅かに流れる沈黙。


 ドドドドドドドド……

 と、その沈黙を破るように、突如、エンジンの爆音が響くと共に工場に次から次へと何台もの黒の大型トラックが入ってきた。よく見てみると、全ての車両に、同じアルファベットのスペルのマークが描かれていた。


「A……M……B……T……?」

「やった、AMBTアモブト!!本部だ!!」

 嬉しそうにそう言う淳をバーニアスが尋ねてみた。

「あのさ……アモブトって何?」

「あぁ、大丈夫。アモブトは対・ボルガード用戦闘チーム。コアーズの管理をしていて、武が今、装着しているCOREーゼロシステムNo02も俺が届ける筈だったんだ」

 その声を聞き、武は胸に装着されたままのコアシステムを右手で外した。


―Set Out―


 その声と共に、一緒でバーニアスを包んでいた鎧は光に包まれて消え去り、バーニアスは元の武の姿に戻った。

 ふと、外したコアーズを見つめる武。そこにはしっかりとAMBTの文字があった。


「本部……AMBTかぁ……」

 武はそう呟くと、COREーゼロシステムを手に持ち、ぼうっと目の前のトラックを眺めていた……

データベース

 コアーズ02 『バーニアス』装着者 円崎 武

身長180cm 体重75kg

 武がCOREーゼロシステムNo02と適合し、変身した姿。武器を持たない代わりに凄まじい程、格闘戦に優れている。胸部に光るコアシステムNo02から注がれる「赤色」コアエナジーをダイレクトに拳や足に乗せて放つ戦法が得意。

 コアのタイプは『業炎』


 スパイダーボルガード

 淳と武を襲撃した下級のボルガード。上級ボルガードの支持に従って行動するものの、知能は高くなく、幼児的。後ろに生えた四本の足は10cmの鉄板にも穴を空け、両腕は鉄筋コンクリートをも粉砕する。口から吐かれる糸は拘束用で非常に強靭。人間の力では脱出不能だろう

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