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ワールズダスト  作者: Hekuto


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第九十五話 変わらぬ王子様

 あけましておめでとうございますHekutoです。


 ちょっと遅くなりましたが、修正完了しましたので是非お楽しみください。



『変わらぬ王子様』


 今僕の見上げている場所には、随分長い間会って無い気がするユウヒがふわふわと宙に浮いて居る。


「ユウヒ・・・空飛べたんだ」

 あの日お城で別れてからしばらく経つけど、その特徴的な服装と雰囲気は忘れたことが無い。そんなユウヒがふわふわと外套の裾を揺らしながらゆっくりと降りてきている。


 ユウヒはすごい冒険者だと思っていたけど、まさか高位の魔法である浮遊系統の魔法まで使うことが出来たなんて、もしかして最初に僕を助けてくれた時も空からやって来たのだろうか。


「いえ、今気にする所はそこではないかと」


「え? でもすごいよ? 高位の魔術師とか魔女とかじゃないと道具無しで飛べないんだよ?」


 僕がユウヒの魔法に呆けていると、いつの間にか隣に来ていたバルカスから呆れた様な声がかかる。確かになんでユウヒがここに居るのかも大事だけど、それ以上に浮遊魔法だよ! 魔法で空が飛べるんだよバルカス!? しかもユウヒあれ道具使ってないよね、昔父上と一緒に見た見習い魔女の人でも箒を使ていたと言うのに! これはすごい事なんだよバルカス。


「それは、そうなのですが・・・うーむ」


「アルディス様、我々はどうしますか?」


「あ、そうだよね、特に問題なさそうだしどうしようか」

 思わず力が入り説明する僕にどこか困ったような笑みを向けてくるバルカス、どうやら僕も少し興奮しすぎたようだ。外交官としての仕事を始めてしばらく経つけど、まだまだ皆みたいに落ち着くことが出来ないな、今も後ろから申し訳なさそうに声を駆けて来た護衛隊長さんの声で我に返ることが出来た僕は、慌てて頭を仕事用に切り替える。


「それでは数人を護衛に残し、後は待機させていただきます」


「そうだね、そうしてくれるかな? また何かあれば連絡するから」

 僕としては一旦皆戻って皆で休憩をとっていてもらっても構わないんだけど、護衛を付けないとまた父上に怒られるだろうし、その前にバルカスから怒られそうだ。 


「はっ!」


「そんな馬鹿な事があるか!」


「うわ!?」

 護衛隊長さんが敬礼したので僕もそれに返礼しようとしたのだけど、急に後ろから怒鳴り声が響き思わず声を出して驚いてしまう。突然の大声に驚く僕の周りをすぐに護衛兵が囲み、彼らの背の向こうではエルフ族の人達で何か言い合いをしているようだ。


「自らの不甲斐無さを誤魔化す為に虚実を申すとは、貴様等は精霊術士隊として恥ずかしくないのか!」


「ですから! 何度も言いているようにですね」


「言い訳をするな!」

 気になるので護衛の人達と一緒に近づきながら様子を窺って見ると、怒鳴っているのは氏族長殿の弟で戦士長と言う役職の男性エルフで、その大きな体からは確かに戦士長と呼ばれるだけの気迫を感じる事が出来た。


「どうしたんだろ?」


「さぁ?」

 状況次第では自分達にも関わってくるかもしれない為、自然と表情も引き締まる。しかし後ろから聞こえた声のせいでその力が緩んでしまう。


「あ、ユウヒ! 久しぶりだね!」


「おう、まぁ大して久しぶりな気もしないのだが」


「そう?」

 僕が誰だか知っていても態度を変えないで接してくれる数少ない友人、ユウヒとは別れてからとても長く会ってない気がするけど、ユウヒはそうでもないみたいだ。ちょっと納得できないけれど今はユウヒと再会できたことを喜ぼう、既に僕の表情はその感情で僕の意志を離れているのだし。





 良い所にアルが居てくれて助かったユウヒです。最悪空を飛んで逃げるしかなかったが、アルのおかげで何とかなりそうである。あとで何か御礼でもした方が良いだろうか。


「グジュ、いい加減にしなさい。それ以上は越権行為です」


「しかしだな姉上! どう考えてもこいつら真面目にやってなかったんだぞ!」


「我々を侮辱するか!」

 目の前のほんわかとした笑みを浮かべるアルと、周りの兵士さんの妙な視線とで妙に温い空気の流れるこの場とは違い、少し離れた場所では数人のエルフがエキサイトしている。俺の描くエルフ像とかけ離れた筋肉ボデーを持つ男性エルフの気迫もさることながら、美人な緑髪の女性エルフが見せる冷たい視線もゾクゾク来るものがある。これはヒゾウ辺りが喜びそうだ。


「緑の氏族の誇りをわ「はいはいはーい!」ぬ、術士長か・・・」


「精霊術士隊は私の管轄なの、この意味解るかな坊や?」


「ぐっ・・・」

 すでに完全な観戦姿勢に入っている俺とアル達グノー王国勢、そんな俺達の前に更なるエルフが登場した。その風貌はまさに隣の出来るお姉さんと言った感じであろうか、家の隣には居なかったがその女性エルフが現れた瞬間、筋肉エルフさんの勢いが目に見えて衰えた。もう完全に手玉に取られていると言った感じであろうか、坊やって事は歳も・・・なんだろう? これ以上は考えられない、これが世界の意志か・・・。


「セーナ、後は頼める?」


「ええ、こちらでやっておくわ。ほらあんたも自分の仕事に戻る!」


「ちっ」

 む、どうやら俺が世界意志について考えている間にエキサイトタイムは終わったようだ。セーナと呼ばれた女性が指示を出すと周りのエルフさん達はテキパキと動き始め、その様子からも出来るお姉さん予想は当っていたようだ。


「・・・うんうん、と言うわけでそこのお兄さん」

 そんな事を考えていると、振り向いたお姉さんと目が合ってしまう。鋭い目で俺を凝視したお姉さんは何か納得した様に頷くと、にこにこと微笑み俺に声をかけてきた。


「ん?」


「え?」


「・・・」 

 予想していない事態に思わず首を傾げ疑問の声を漏らすと、冷たい視線だった女性エルフさんも先ほどとは違うキョトンとした視線を俺に向けてくる。正直美人さんに見詰められるのは今でも慣れない、そしてアルよその視線は何ですか? お兄さん何もしてないですよ。


「悪いんだけどさ、精霊達に戻る様に言ってくんないかな? 家の子達も自分の契約精霊が言う事聞いてくれなくて困ってんのよ」

 ん? 精霊? もどる? 契約・・・なるほど、俺にまとわりついてくるこの綿毛精霊達は契約社員だったのか! と馬鹿な事は良いとして、どうやら彼らは絶賛お仕事おサボり中らしい。とりあえず確認の為に本人? 本精霊? 達に聞いてみることにした。


「・・・そうなのか? 仕事を放棄してきたのか?」

 お仕事の放棄はだめだぞ? 俺もそれで酷い目に合わされたからな? どうなんだ。


<あ、忘れてた!><蔦も出しっぱなしだ!><お片付けしないと!><それじゃまたねーモミジ様のいいひむぐぅ!? むーむー!!><ばいばーい!>


 どうやらセーナと言う女性エルフの言った通り仕事を放棄していたようで、俺が問い掛けに、はっとした様な感情が伝わって来たと思うと、一体一体が一言残して去って行く。何故か一つの綿毛だけは蔦に捲きつかれて連れ去られるように居なくなってしまったが、モミジの知り合いだろうか。


「ありがと、それにしても驚きね・・・」


「セーナ」


「後で話すわ・・・こんなとこで出来る話しじゃないし」


「・・・」

 セーナと言う女性は蔦が地面に戻って行く姿を見て頷くと、俺に向かてお礼を言ってくる。それに会釈で返したのだが、すぐに深刻そうな顔で隣の美人エルフさんと話し始め、冷たい視線だった女性エルフの人も深刻そうな顔で、蔦の消えていった地面を見詰めていた。


 やはり精霊の仕事放棄は深刻な問題であった様である。確かに昨今、俺達の世界でも社会人の仕事に対する緩いと言って良い姿勢は問題視されているし、こちらの世界ではそれが精霊に該当するのだろう。ところでエルフと精霊との間ではどういう雇用体系がなされているのだろうか? と言うか契約と言っていたが精霊魔法って精霊を雇っているのか? うん、わからん・・・分からんと言えばだ。


「ふむ、ところでアル」


「なんだい?」


「・・・ここってどこ?」

 ここが何処だかわからないのだ。その疑問を解消するためにアルに教えてもらおうと思い問い掛けたのだが、


『え?』


「え?」

 返って来たのは多方向からの疑問の声と、様々な感情の籠った視線の群れであった。


 あれ? ここってそんなにわかりやすい場所なのか? それとも知っていないと駄目な場所か? むぅ地理は苦手なんだよな、迷子には滅多にならないけど地図があっても真っ直ぐ付いた試しが無いし。





 ユウヒが驚きと苦笑の混ざった視線を注がれている頃、ここは騒ぎのあった場所とは里の反対にある多目的な用途の為に用意された広場。そこには今、グノー王国軍と冒険者達のテントが設営されており、普段の里には無い騒がしい印象をエルフ達に与えていた。


「やっと静かになったか・・・なんだったんだ?」

 そんなテントの一つ、冒険者が使うにしては妙な豪華さのある個人携帯用テントの中から一人の男、ナルシーブが顔を出し、先ほどから感じていた大きな音と魔力のざわめきが止んだ事に気が付き、首をかしげている。


「魔物でもでたんじゃなーい?」

 しかしテントの中に居たのは彼だけでは無かったのか、ナルシーブの独り言に答えるようにテントからもう一人女性が顔を出す。彼女の名はルワ、絶賛ナルシーブに片思い中な人犬シュツナイ族の女性である。彼女曰く、子供が出来るのは時間の問題だとか・・・。


「魔物か・・・・・・」

 ルワの魔物と言う言葉に嫌そうな表情を浮かべたナルシーブは、何か妙な違和感に気が付いたような表情を浮かべると、ゆっくり後ろを振り向く。


「っておまえなんでテントの中にいるんだよ!」


「いやぁんダーリンだいたーん!」

 背後でニコニコと笑みを浮かべるルワを認識したナルシーブは慌てた声を上げると、ルワの両肩を後ろから掴んでテントから押し出そうと試みる。どうやらルワは招かざる客だったようで、追い出そうとしているようだが純粋な力でルワに叶うわけがないナルシーブは陽気に笑うルワに逆に押し倒され始める。


「その言葉そのままお前に返すから!?」

 ルワと対照的に必死さの伝わる表情のナルシーブ、完全に男女の情事が強制的に始められる5分前である。テントのせいで中の様子が分からず、ルワの完全犯罪成立と思われたその時、テントの入口をめくる人物が現れる。


「おーいナルシーブ仕事だよ、手伝い・・・御邪魔だったかい?」

 それはココルムクランのリーダーである鬼族の女性、ヴァラであった。彼女は寝てると思っていたナルシーブがルワと抱き合ている様子に少し固まると、日に焼けた肌で分かり辛いが少し頬を赤くすると首を傾げた。


「全然大丈夫だ! 問題無い!」


「そ、そうかい? なら行くよ、ちょっとしたいざこざがあったらしくてね」

 ヴァラの出現でルワの力が緩んだ瞬間、妙に俊敏な動きでテントから跳びだしたナルシーブはヴァラの後ろに隠れる。


 問題無いと言いながらルワを警戒するナルシーブと、テントの中から爛々と輝く瞳を覗かせるルワの姿に、何となく状況を察したヴァラは苦笑いを浮かべながら呼びに来た理由を話し始める。


「いざこざ? 仲裁なんて俺らの仕事じゃないだろ?」


「あぁ、そっちは終わったけど北門のあたりの壁が壊れたらしくて人手を募ってるのさ」

 この『いざこざ』の原因は当然ユウヒである。要はエルフ側が壊れた壁の修理と瓦礫の撤去の手伝いを冒険者に依頼したのであった。


 現在グノー王国から雇われている冒険者達が何故、貴重な休憩の時間でもこの依頼を受けるのか、それはエルフの里からの報酬が基本的にお金では無く、他国で珍重され高額で取引されるエルフの里の特産品などで払われるからである。


「・・・力仕事か?」


「嫌そうな顔すんじゃねぇよ、お前さんはもう少し筋肉付けねーとな」

 普通の冒険者であれば、中々お目にかかれないエルフの特産品に飛び付くものであるが、ナルシーブには力仕事をやってまで欲しいとは思えないのであった。それは彼が大貴族でそこまでお金に困っている訳でもなく、またアクアリア王国民である為なのだが、


「まじかよ・・・ぅ、仕方ないか」

 そんな事よりも、テントの中から爛々と輝く視線を向けてくるルワに恐怖した彼は、ガッシュやヴァラと共に力仕事になりそうな依頼の方を選ばざるを得ないのだった。





 それから数時間後、既に日も落ち始めた緑の氏族の里。その里にある貴賓用の建物の中にユウヒの姿はあった。アルディスと思わぬ再会を果たし、周囲の空気を固まらせたユウヒは、アルディス付添いの元事情聴取をされた後、一人この来賓用の談話室に通されていた。


「暴走ラットがそっちにまで・・・それでどうなったの?」

 部屋から出ない様に言われたユウヒが、ここに来るまでの間に採取していた荷物を整理して暇を潰す事2時間後、ノックと共に入室してきたのは少し息を切らせたアルディスであった。聞くとユウヒと話がしたくて急いで仕事を終わらせて来たと言い、荷物整理から合成に移ろうとしていたユウヒを呆れさせたのだった。


 因みに後から追い掛けてきたバルカスとメイに、アルディスはお小言を貰う羽目になったのだが、そこはグノー王家男子の仕様である。


「とりあえずネズミは何とかして冒険者科の子はみんな無事でした。めでたしめでたし」


「ええ!? 今凄く時間が飛んだよね!?」


「ですな、暴走ラットはいったいどうなったのだ?」

 アルディスの催促でユウヒはグノー王都を出た後の事を話しており、今は丁度ウルの森で別口の暴走ラットに襲われた時の事に差し掛かっていた。彼らに話せそうにない所は伏せて話しているのだが、あまり思い出したくない部分を無理矢理飛ばした事にアルディスから不満の声が上がり、バルカスからは現状を把握するために詳しい内容を催促される。


「・・・冒険者と冒険者科の子達と魔法士科の子達が協力して、あとちょこちょこっと俺も手伝って撃退したよ?」

 じっとりと見詰めてくる三対の瞳から目を逸らしたユウヒは、平静を装いながら簡単かつ自分の事は誤魔化しながら説明するも、明らかにその声は嘘を吐く時の声で、


「嘘だな」


「嘘だよね」


「嘘なのですか?」

 それは当然アルディスもバルカスも見抜いており、唯一騙せそうだったメイも二人の反応で今の話しに嘘があると理解したのだった。


 大体にしてユウヒの魔法の威力を知っている二人からしたら、ユウヒが活躍しない方がおかしいのであり、ばれるのは当然の結果である。


「・・・まぁ、ちょっと派手な魔法を使ったりしたけど、概ねそんな感じだよ?」

 アルディスから突き刺さる追及の眼差しに変な汗を掻くユウヒは、苦笑いを浮かべながらそう答える。これ以上話しは引き出させるのは無理だと解ったのか、アルディスは前のめりになっていた姿勢と視線を戻す。


「むー・・・派手な魔法? 前見せてくれた黒くて太くて硬くて長いの?」


「「ごふっ!?」」


「うわ!?」

 それでも派手な魔法と言うのがどんな魔法か教えてもらえない事に不満が残っているようで、以前ユウヒが王城の訓練場で見せた魔法を引合いに出し探りを入れるアルディス。しかし純粋かつ天然なアルディス、その魔法の表現方法があまりアレだったため、バルカスとメイが飲んでいたお茶を吹き出してしまう。


「変な言い回しするなよアル・・・あれは単体用だから数の多いネズミには使わないな」

 運よくお茶を口にしていなかったユウヒは、咽る二人を心配するアルディスに呆れた様な視線を送る。


「他にもあるんだ、派手なの・・・みたいなぁ?」


「いや、ドリル以上に広域魔法はおいそれとは、なぁ」

 この世界の常識をしっかりと持っているアルディスにとって、ユウヒの様に強力な魔法を複数扱える魔法士が居る事は驚きに値した。


 老練の魔法士や他種族の魔法士であれば話は別だが、ユウヒと同じ年代で人族の魔法士ならば【ドリルピラー】レベルの魔法を使える事だけでも驚きであるのに、さらにまだ同程度以上の魔法があると言うのだ。その事実はアルディスの好奇心を膨らませるには十分すぎた。


「ゴホゴホッ・・・そうですな、攻撃系統の魔法と言うだけでも危険なのですから、ご自重ください」


「そっかー」


「まぁ何か機会があればな?」


「うんわかった、楽しみにしてるよ!」

 しかし良い子なアルディスである。ユウヒの難しい表情とバルカスからの諫言に、残念そうではあるものの素直に頷くのであった。まぁ諦めては居ない様であるが。


「・・・ユウヒ様は、攻撃系統がお得意なのですか?」

 渋い表情のバルカスとニコニコ顔のアルディスにユウヒが苦笑いを浮かべていると、新しくお茶を淹れたメイがユウヒのカップを交換しながらそんな事を聞いてくる。この世界の魔法士はどちらかと言えば特化型が多い為、話に出て来る魔法の種類からメイはユウヒが攻撃魔法特化の魔法士だと思った様だ。


「え? いやそんな事は無いけど、攻撃以外は防御系に拠点系に攻城戦用に補助に強化でしょ? 後は特殊なのとか入れると・・・いろいろかな」


「ふあーそんなに使えるのですか、びっくりです」


「それはすごいですな」


「すごいね! 普通の魔法士でも得意分野は二系統くらいなのに」

 攻撃系統が苦手なメイの羨ましそうな視線を気にすることなく、過去クロモリで使っていた魔法を思い出しながら指折り数えるユウヒ、現状からクロモリで使っていた魔法であればぶっつけでもちゃんと再現できる事が解って来たユウヒにとっては何でも無い事であったが、この世界の常識で考えれば異常である。種類であり数を言わなかったからこそ驚きで収まっているが、彼が使用可能なクロモリ由来の魔法がピンからキリまで合わせて三ケタを超えると知ったら大騒ぎになるところだ。


「い、いやほら俺ってソロだから色々一人で出来ないとさ・・・」


「どうしたの?」


「んーちょっと前まで4人だったんだけど、あいつ等大丈夫かな」

 そんな空気を察したユウヒは咄嗟に笑みを浮かべ本当の事を混ぜつつ誤魔化すが、ふととある人物たちの事を思い出し窓の外の暗い空に視線をむけるのだった。


「「「あいつら?」」」





 その人物あいつらとは、


「拙者でござる!」

「オレサマだ!」

「俺だ俺だおr「パクリは駄目でござる!」」


 暗い森の中でたき火を囲んでいる3モブ忍者達である。今は何故か急に立ち上がったゴエンモに続き各々ポーズを決めて自己主張をしていた。


「ちっ・・・で? 何でいきなり自己主張タイムなんだよ?」

「いや、ゴエンモに釣られて」

「どこかで誰かが呼んだ気がしたでござる」


 ゴエンモにパクリ注意でイエローカードを出されたヒゾウは、両手でサムズアップを作ったまま何故急に自己主張し始めたのか首を傾げる。ジライダもノリに合わせただけだったようだが、どうやらこの自己主張タイムはユウヒの電波を受信したゴエンモが原因であったようだ。


「こえーよ! 暗くなってきて余計に怖いんだから自重しる!」

「だが断る!」

「ちょ!? 拙者のセリフとらないでほしいでござる!」


 ゴエンモのセリフに肩を震わせるヒゾウ、いくら焚火を焚いているとは言え森の夜は暗い。強い肉体と技を手に入れたとしても夜の闇は等しく人の心に恐怖を与えるものであった。


「「だが断る!」」


 いや、彼らは闇に恐怖していないかもしれない。なぜならば、


「お前ら何て褐色の悪魔に骨の髄まで搾り取られてしまえでござるー!」


 彼らはすでに真の恐怖に遭遇していたのだから・・・。


「「それはシャレにならんて!?」」


 自分のネタを奪われたゴエンモは目元を腕で隠すと、キラキラと光る粒を零しながら闇の中へと走り出し、残った二人の恐怖心を言葉で煽るのだった。





「洒落になってませんぞユウヒ殿」


「え? なんで?」

 一方その頃、ユウヒの冒険談? はつい最近の所まで進んでいた。しかしその話はバルカスの言葉で中断することになる。


「んん! (彼女達の噂を知らんのですか)」


「(あぁ・・・シラーから色々聞いたよ、まぁそう言う事になったのはあの三人なんだけど)」

 険しい表情を浮かべたバルカスは咳払いをすると、チラリとアルディスを見た後ユウヒの耳元に顔を近づけ小さな声で話し始める。内容は純真無垢なアルディスにはとても聞かせられない、蛇神騎士団の裏事情についてであった。


「(ユウヒ殿はあのシラー殿と一緒に居て無事だったのですか!?)」

 バルカスに合わせアルディスに聞こえない程度の小声で対応するユウヒ、既に先ほどシラーのテントにお邪魔した事を知っていたバルカスは、驚きながらも器用に小声で問いかける。彼もまた彼女達が如何に危険か、かつその中でも最恐と言われるシラーの危険性を知る一人であるからだ。


「(う? うん、まぁ朝方まで一緒に居たけど問題無かったよ?)」


 バルカスは過去遭遇している。シラーのテントに消えた上官だった男性騎士が次の日、干乾びやつれた姿で発見され後方に運ばれる一部始終に、一人だけでは無く何人もである。そんな相手を一晩の間軽く熟すユウヒ、それを畏れずして何を畏れるのか。


「・・・・・・ユウヒ殿、恐ろしい子!?」


 ユウヒの耳元から勢いよく離れ立ち上がったバルカスには、驚愕の表情でそう言葉にするしか落ち着く術がない様であった。


「なんでそのネタ知ってんだよ・・・」


「「???」」

 そんなバルカスの様子に、ユウヒは某有名な漫画のネタと完全一致しそうな表情のバルカスに苦笑いを漏らし、アルディスとメイは仲良く首を傾げ固まるバルカスを見上げるのであった。


「バルカス?」


「あ、いえ・・・ユウヒ殿の強さの一端に触れて、少し驚いてしまっただけですので」


「ん? 強さ?」

 思わぬ醜態を見せてしまったバルカスは、アルディスの声で正気を取り戻すと、袖で顎まで垂れてきていた汗をぬぐいながら何でも無い様に誤魔化す。しかしアルディスの質問攻撃が開始され、逃げる事は出来ないのであった。


 その一方、バルカスがチラチラと助けの視線を送っているユウヒはと言うと、メイにお代わりのお茶を注いでもらっていた。


「ユウヒ様、その宿営地の人達は大丈夫でしたか? 何やら西進部隊に行く人は皆表情が強張っていましたので」


「怪我人とかは後方に下がってるし、死人も出てないらしいけど?」

 メイの知り合いは何もメイドばかりでは無い、王子の側付ともなれば容姿もそれなりに求められ、華に誘われた男性騎士や兵士ともお近づきになる事は多い。しかしそこは天然交じりのメイで、男性陣からのアプローチに気が付いたことは一度も無い。


 そんな彼女が心配する中には、『知り合いの騎士や兵士』も含まれており、彼らが顔を強張らせていた理由は当然蛇神騎士団であり、後方に送られた中には毒牙に『ヤラレタ』その知り合いも居たりする。


「そうですか、良かったです。後方支援や給仕の為にメイドの友人も付いて行っているので、危険なのかと心配だったんですよ」


「あぁ、そう言えばメイドさんも居たね・・・そういうのって普通なの?」

 メイの安心した微笑みを見ながら、ユウヒは3モブ忍者隊が『ユウヒ黒歴史劇場』を行っていた焚火の周りでもメイドさんを見たなと思い出すと、先ほどから視線をチラチラと向けてくるバルカスに話を振ってあげる。


「ま、まぁそうだな、流石に最前線にまでは連れて行けないが、後方での仕事は彼女達の方が優れている面もあるからな」


「ふぅむ、メイドさんも大変だな」

 アルディスからの攻勢から逃げてきたバルカスは、後方からの不満が籠った視線に妙な汗を掻きながらユウヒの質問に答え、ユウヒはそんなものかと異世界のメイドも大変だと脳裏で自分の世界のメイド(カフェ店員)を思い浮かべるのだった。


「それでユウヒはここに何しに来たの? 依頼?」


「まぁ依頼って言えばそうかな」

 そんな目の前のやり取りに、アルディスはバルカスへの追及の眼差しを止めユウヒに向き直ると、いつもの表情でユウヒがここに来た理由について問い始める。その隣でバルカスは安堵の表情を浮かべていた。


「どんな依頼か聞いても大丈夫かな?」


「ん? そうだな、探し物だ」


「探し物、ですか」

 冒険者と言う職業も気になれば謎の多いユウヒの行動も気になるアルディス、一般的に依頼の内容を関係の無い第三者が聞くことは褒められた行為ではないだが、王子様は気になってしょうがないようで。そんなアルディスにユウヒは少し考えると探し物とだけ答え、その簡単な答えにメイはエリエスの森で探す物について考えているのか首をかしげる。


「エリエスの森って事は希少な薬草とかかな? それだと勝手に持っていくとエルフの氏族に怒られるかも知れないよ?」


「そうなのか?」

 いつの間にか探し物が何なのか当てる空気になってしまった一室で、悩むメイを見ていたアルディスが最初に解答した。


 エリエスの森はその大半が人の手の入っていない原生林で、その中には希少な動植物やエルフ族しか知らない様な薬草等が数多く自生している。それらの資源や自然が密猟者などに荒されないようにと、エリエス連邦国では森などに複数の保護区を設けているのだ。


 正直アルディスの言う怒られる程度では済まないだろう事は明らかである。


「うん、物にもよるし大抵は保護区なんかにあるから、簡単には採れないと思うけど」


「毎年冒険者が問題を起してますからな」

 実際バルカスの言葉通りに毎年必ず馬鹿をやり捕まる冒険者が後を絶たず、死刑にはならないものの採取物は全部没収され罰金を払い、エリエス国から追い出される冒険者の姿がエリエスとの国境付近で偶に見られる。


 また常習的に密猟している者の中には身包み剝れて素っ裸で捨てられている者も居るが、殺さないのは慈悲では無く単純にエルフ族の法のおかげであった。


「エルフって・・・まぁそれは気を付けないとな、けど俺が探してるのは外からの危険物だから問題無いだろ」


「え?」


「なに?」

 そんな話を聞きユウヒはエルフの印象を脳内で書き換えながら苦笑すると、自分の探し物には関係なさそうだと呟く。その呟きによく聞き取れなかったからか、それとも不穏な空気を感じたからかアルディスとバルカスはユウヒに視線を向ける。


「失礼します。ユウヒ殿のお部屋が整いましたのでお呼びに参りました」


「部屋?」

 しかし二人が何かを言う前に、室内に一礼して入って来たエルフ女性により、この日の歓談は終了となる。


「あ、僕がお願いしたんだよ」


「いいのか? 里を騒がせた張本人なんだが?」


「それはこちらの手違いもありましたので・・・」

 どうやらアルディスがユウヒに一部屋用意してもらう様に、エルフ側に頼んでいた様である。さらに事情聴取の結果ユウヒに非が無い事が分かったからか、エルフ女性のユウヒに対する対応も丁寧なものであった。


「そっか、じゃお世話になります」


「はい、それではこちらへ」

 今日もこれまでの野宿同様結界内で寝るつもりでいたユウヒは、久しぶりに真面な場所で眠れる喜びに頬を緩めると立ち上がり、エルフの女性に会釈する。


「・・・それじゃアルまたな」


「うん、お休みユウヒ」


「お休みなさいませ」

 ニコリと微笑み案内を始めたエルフ女性は他のエルフ達同様美しく、ユウヒの血行を良くするには十分な効果があったようで、緩みそうになる顔の筋肉に活を入れると一度後ろを振り返り、アルディスに手を振り退出するのであった。


 その際、ユウヒの抵抗に気付いたのはバルカスだけであったようで、ユウヒの姿を見送った後口元をニヤリと歪め、キョトンとした表情を向けてくるアルディスとメイの前で可笑しそうに笑うのだった。


 いかがでしたでしょうか?


 どんな場所でも王子様は王子様で、グノー兵士達のユウヒへの憧れは健在でした。


 そんなわけで次回もまたここでお会いしましょう。さようならー

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