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ワールズダスト  作者: Hekuto


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第九十四話 突入隣のお里は緑色

 どうもHekutoです。


 修正作業終了しましたのでお送りさせて頂きます。楽しんでいってください。



『突入隣のお里は緑色』


 冷たい空気で満たされた日も昇りきらぬ森の中、その森にある巨木の上にもそもそと動き出す影が一つ、


「・・・やっぱり野宿は体に、主に腰に悪いな」

 ユウヒである。


 巨大蝶々に追われ道なき道を走り抜いたユウヒは、半ギレで蝶をあっさり討伐したのだが、探知の魔法で調べると結構な数の巨大蝶がいる事が判明し、その場を全力で後にする事になったのだった。


「とりあえずは、朝飯になりそうな物でも探しながら移動するかな、【探知】【身体強化】【飛翔】」

 その後流石に疲れたユウヒは、いつの間にか雰囲気の変わった森で手ごろな巨木の上に結界(蝶々除けの魔法も追加)を張って早めの就寝をとっていた。その為か起きる時間もいつもより少し早いようで、辺りはいつも以上に暗く感じられる。


「なるべく進みやすくて、俺の探し物方面で食料になりそうな物が採れる方へ・・・ついでに巨大蝶々が居ない方【指針】」

 そんな暗い森の木の上で、すでに習慣になっている魔法を唱え自分を強化したユウヒは、巨木の枝からひらりと地面に降り立つと、手ごろな枝を手に取り【指針】の魔法を唱える。しかしその条件指定が難しかったのか、今まではすぐ倒れて道を示していた枝がフラフラとどこか悩むように動き続け、4分ほど経過してやっと倒れる。


「・・・結構悩んだな、条件難しかったかな?」

 こう表現すると少し変ではあるが、実に魔法使いの荒いユウヒであった。





 それから2時間後、ユウヒと一時的に別行動をとる事になった忍者達はと言うと、


「なぁゴエンモ」

「なんでござる?」


 日の出後ゆっくりと行動を開始していた。


「こっちでいいのか?」

「そのはずでござるが・・・」


 そんな彼らの表情は何故か不安そうな面持ちで、お互いに首を傾げながら何かについて話し合っているようだ。


「地図だと?」

「エリエス方面に向かっているでござるな」


 その議題はと言うと、ユウヒの置き土産である不自然に置かれた枝や、木に書かれたユウヒからのメッセージを辿って来た三人の忍者達であったが、その進行方向が明らかに強欲の森からそれている件について、であった。ゴエンモは辿って来た道順を地図に書き込みながらヒゾウの問い掛けにそう答える。


「でも足跡とか匂いとか所々不自然に置いてある枝の向きとかだと、こっちなんだよなぁ」

「うむそれは間違いあるまい、我の調査でもそうなるしな」

「でもエリエス方面でござる」


 そう、ユウヒは現在エリエス方面に・・・と言うよりは既にエリエスの森に突入していた。雰囲気の変わった森と言うのはエリエスの森に入った為で、精霊の力が豊富なエリエスの森はウルの森以上に、普通の森とは一線を画しているのである。


『・・・・・・』


 互いに視線を合わせ、現在進行形で迷走しているユウヒを想像して引き攣った苦笑いを浮かべる三人、彼らの中のユウヒは延々棒占いで道を選択し迷走を続けているようで、心配しかできないのであった。


「は、早めに合流した方がいいんだろうけど・・・」

「無理だな、我らは無理をし過ぎたのだ」

「流石に忍者でもアレには勝てなかったでござるな」


 そんな心配はあるのだが、現在三人の忍者はユウヒの下に全力で駆けつける事が出来ずに居た。彼らを襲った某褐色美女達なのだが、実は唯単に性的に襲ったわけでは無く、後半まったく衰えない彼らに対して吸精魔法を使っていたのである。



「絶対に負けない! キリッ! ですね解ります」

「おまわりさーん変態はこっちでーす!」

「へ、へへ変態ちゃぅ・・・否定できないだと!?」


 前半はまだキリッと出来る余裕もあった忍者達であったが、吸精魔法を使われてなけなしの魔力を奪われ始めてからは一気に形勢が逆転していた。体内魔力は急激に奪われ枯渇すると、それを補うために体外魔力を取り込み始める。この時取り込むための燃料になるのが体力、ゲーム的に言えばHPヒットポイントである。


「そこは否定しても良い気がするでござるが、大声出さない方が良いでござる」

「なんでだよ、薄気味悪い森なんだから沈黙に耐えられんぞ!」

「自信持って言うことじゃねぇwww」


 忍者と言う新人類になり体力バカの称号も手に入れた3モブであるが、流石に多勢に無勢であった様で、現在も枯渇した魔力を補うために体力が減少した状態であり、出そうにもまったく全力が出せない状態なのであった。


「あんまり大声出すと魔物とか寄ってきそうでござる」

「なに? お前びびってんのwww俺怖くねぇしwww」


 そしてそれはフラグである。


「・・・あ」

「ん? どうしたでござ・・・」

「おいおい何だよフリか? ったくなん・・・ふ、フラグ回収お疲れ様でーす」


 案の定何かのフラグを確定させてしまったようで、固まる二人の見る方向を笑いながら振り返ったヒゾウは、現れたフラグ回収者に対して思わず陽気に挨拶をしてしまう。


「ぐるるがあ!!」

 そこには大きな、彼ら位丸呑みに出来そうなオオカミが口から涎を滴らせながら3モブを睨みつけていた。そしてヒゾウの挨拶が気に食わなかったのか、大きく咆えると飛びかかる為に姿勢を低くし始め、


「撤退!」

「「らじゃー!」」


「ぐぁう!!」


 オオカミが飛びかかると同時に3モブはスタートを切る。実にお約束な展開であった。





 それから数時間後、ユウヒはエリエスの広大な森で、


「気のせいかな、なーんか目的地が違う気もするけど」

 ようやく自分が強欲の森とは違う方向に歩いているのではと言う現状に気が付き始めていた。


「・・・まぁいいか、一応何かに反応してるんだから何かあるんだろ」

 しかし枝は確実に魔法の効果を表していた為、特に気にすることなく歩を進めるのだった。


「あれか? この辺は虫が多いのか?」

 そんなユウヒは、今日だけで既に3度も森の生物に襲われていたが、そのすべてが大きな虫の魔物である。最初こそ多少の気持ち悪さもあったが、そこは【狩人の心得】の効果なのかすでに慣れており、


「とりあえず襲われたなら狩っても問題無いよね。踊れ【アイシクルフェアリー】!」

 かと言って討伐時に吹き出る体液には触れたくない様で、全て魔法で倒していた。今も槍を一振りすると、【クロモリオンライン】で良く使っていた追尾型の魔法で大きなカマキリの様な魔物を氷漬けにするのだった。





 そんなユウヒと虫が戯れていた日から数日後、ここはエリエス連邦国の85%を占めるエリエスの森、その中にある緑の氏族と言われるエルフの里である。


「おはようございます氏族長殿」


「これはアルディス殿、昨夜はよく眠れましたか?」

 森の中も流石に明るくなる時間帯に、アルディスは緑の氏族の氏族長執務室を尋ねていた。


「はい、あまりに寝心地が良くて少し寝すぎてしまいました」


「あら、うふふふ、それは良かったですわ」

 緑の氏族の里にアルディス一行が到着したのは昨日の夕刻、森の日もゆっくりと落ち始めていた。その為、代表同士の挨拶は本当にあいさつ程度で終わり、ゆっくり話しが出来るのはこの時が初めてであった。


「部隊の者達も疲れていたので、里内で休息出来たのは助かりました」


「それは仕方ないでしょう。これほど大規模な暴走が起きるなど滅多に無いですからね」

 二人は以前にも外交の場で何度か言葉を交わしており、その為か周囲には和やかな空気が流れている。


「それで、我が国の者がエリエス連邦にお世話になっている件ですが」

 挨拶を済ませたアルディスは、早速本題へと移るようだ。


「ええ、何人かはこちらで療養してもらっています。森で迷っていた方々やシルケスに滞在している方々も、各氏族に連絡を入れていますのでしばらく待っていただければこちらに到着するでしょう。ただ・・・」

 今回の来訪の主目的である強欲の森調査部隊との合流が、緑の氏族の里になったのには理由がある。


 一つにエリエス連邦国で対外的役割を担っているのが緑の氏族であった事、また周囲がある程度開けており里の広さも十分な広さが確保されているおかげで、野営陣地の設営が比較的容易な為だ。 


 もう一つがエリエス連邦国の集落や里の一つ一つが小さく、大量の怪我人を一ヶ所で収容するには不都合な事が関係していた。結果、怪我人は各里や集落に分散させ対応することになり、自ずと緑の氏族の里で合流することになったのだ。しかし、その説明をする氏族長の表情は優れない。


「ただ?」


「実は、現在エリエスの森全体に異常事態宣言がなされていますのですぐには、それからもしかしたらグノー王国の方もその異常に巻き込まれている可能性も・・・」


「・・・異常事態宣言とは穏やかじゃないですね」

 何故ならば十数日前より続く行方不明者は未だに増え続け、怪我人の搬送にも時間がかかると思われるからだ。異常事態宣言、そして最悪グノー王国民にも被害が出ている可能性があると聞き、アルディスも表情を暗くする。


 この異常事態宣言とは、即時対応不能な未知の災害などが発生した場合に発令されるもので、一度発令されれば事態が解決するまでエリエスに存在する各里は、その活動を大幅に制限される。しかしその制限も日々の生活に必要な行動まで制限することもできず、異常事態は今も尚緩やかにエリエスの森蝕んでいる。


「ええ、こちらも手を尽くしているのですが」

 

「我々も同盟国として何か「その必要は無い」え?」


 氏族長の言葉に、アルディスは自国民にも関わると言う事もあり積極的な協力を申し出ようとしたのだが、その言葉は新たに執務室に入って来た男により遮られた。


「グノーの兵士がこの森で役に立つわけが無かろう」


「グジュ!」


「姉上も分かっている筈でしょう。今回は普通じゃない」

 そのグジュと呼ばれた男は氏族長の弟なのか、緑に赤いメッシュの入った髪を掻き上げながら荒い言葉使いでアルディスを睨む。そんな弟の態度に氏族長は語気を荒げるが、グジュと呼ばれた男性エルフの態度は変わらないようだ。


「だからと言ってアルディス殿に対して失礼を働く理由にはなりません!」


「ふん、失礼など働いていないさ、事実を言ったまでだ」


「あなたは!」


「あ、あの僕は大丈夫ですから、それにその言葉にも一理ありますから」

 執務用の机を叩きアルディスに対して礼を失していると言う姉に憮然とした態度を貫く弟、その態度に怒りのボルテージが上がって行く姉。そんな目の前の姉弟喧嘩に何故か苦笑いを浮かべるアルディスは、二人の間に入り仲裁を始める。


「一理だと?」

 しかしその仲裁の言葉が気に入らなかったのか、グジュと呼ばれた男性エルフはアルディスを睨みつける。


「グノーの民は、何も出来ないと言われて納得するほど軟ではありませんから」


「ほう・・・」

 浮かべていた苦笑いをいつもより力強さを感じる微笑みに変えたアルディスは、その視線を真っ向から受け止めるとそんな言葉を紡ぐ。この言葉はアルディスの、グノー王国のあり方そのものであった。


「・・・」


「・・・勝手にしろ」

 その気持ちが伝わったのか、視線を逸らすとぶっきらぼうに言葉を吐くグジュ、そんな彼の様子をいつもの微笑みで見ているアルディスと疲れた様な表情で見詰める氏族長、そのまま次の話をしようとアルディスが氏族長を振り返った時である。


「グロアージュ様!」


「・・・なんだ」

 慌ただしい足音と共に一人の男性エルフが執務室に飛び込んでくる。普通そんな事しようものなら叱責を喰らう所であるが、叱責担当のグジュは今の空気のせいで勢いが出ず、ただ睨みながら飛び込んできた男性エルフに要件を問う。


「森で不審な人間を発見したと報告が!」


「何? それで」


「はっ! 確認できた不審者は1名、現在ナスホップの監視塔を通過し北東に逃走中、監視の兵士1小隊と精霊術士1分隊ほどが追走中との事です」


「北東に、追走だと? さっさと捕まえろ! 多少手荒に扱っても構わん!」

 男性エルフの報告によると、森の中で不審な人間が逃走していると言う話であった。これがただの不審な人物であればよかったのだが、ナスホップ監視塔と呼ばれる場所から北東に真っ直ぐ行くとこの里がある為、グジュは里の安全を考え即時捕縛を命令する。さらに、


「何を言っているのですかあなたは! はっきり何者なのか確認もせずに!」


「姉上こそ何を悠長な、それだけの戦力を出して即時捕縛出来ないのであれば危険度はそれだけ高いのです。迷う暇は有りませんな、行くぞ!」


「はっ!」

 エルフの一小隊20人前後と精霊術士一分隊5人前後、それだけの人数が居ながら報告は追走中。さらに相手が何者か分からないが、森の加護を得ているエルフを相手に逃げることが出来るだけの実力を考えれば、グロアージュの判断も間違いでは無い。


「・・・バルカス、うちから3分隊と衛生兵を」


「了解しました」

 険しい表情のグロアージュ達の退出に合わせる様に入室してきたバルカスに、アルディスは振り返り真剣な顔で指示を出す。 


「アルディス殿」


「僕らは出来る事をやるだけです」


「感謝を」

 このままいけばその侵入者は高い確率で彼らに捕縛、さらにグロアージュの気質から言って相手は怪我を、最悪死ぬ可能性もあった。その為の対処としてアルディスは指示を出したのだ。


 グロアージュの判断も悪いわけでは無い、しかし相手の情報が少ない中でも最悪の結果だけは回避しなければならない、このアルディスの行動は外交を担う者として、相手が何者か知らずに殺めてしまう事の危険性を知っていたからであった。





 過去の経験からアルディスが即座に判断を下した頃、問題の不審者はと言うと・・・。


「俺って何か悪い事したかな?」


「そこの不審者止まれ!」

 木々の間を縫うように、後方からの追跡者と威嚇の為か飛んでくる矢に注意して森を走り抜けていた。


「いやぁ敵性反応が出てる相手にそう言われても止まる気はしないんだよなぁ」

 その者の名はユウヒ、【探知】の魔法による表示を確認しながら引き攣った笑みを浮かべる顔からは余裕すら窺える。


「止まれと言っている!」


「しかもエルフっぽいし、オタクとしては怪我させるわけにもいかないしなぁ」

 しかしその表情の理由はアホみたい理由であり、冷静さの大半は【狩人の心得】のおかげである。


 そんな彼が何故こんなことになっているかと言うと、ユウヒはエリエスの森に入ってからも【指針】と木の枝に無理な注文を付けつつ移動していたのだが、中々到着しない為、【指針】と『枝』に近道を頼んだ結果、ナスホップ監視台の索敵範囲に入ってしまったのであった。


「止まりなさい!」


「・・・いかんいかん、金髪エルフ美女の言葉で止まるところだった。あれかな? シラーとは別のチャームでも使ってるのかな? 風系? 言霊系?」

 普段の監視台であればここまで大事になることはなかったのだが、異常事態宣言の影響によりピリピリしていたエルフ達の前に不審者、しかも明らかに人族であるユウヒが現れた為、慌てた数人のエルフがつがえた矢を放ってしまったのだ。


 【探知】魔法の表示上の敵対反応の無い相手から、まさか矢が飛んでくるとは思わなかったユウヒは驚き慌てて逃げたのだが、その逃げた方向が里のある方向だった。監視部隊の隊長も逃げるユウヒと既に放たれた矢しか確認しておらず、誰何の一つも行っていない事を知らずに命令を出した結果、この追走劇を開始する事になったのである。


 この時点で全てのエルフは【探知】に敵対的と判断され、ユウヒの視界に赤く表示されることになったのだ。


「何をい「隊長! 攻撃許可が出ました!」そうか! これ以上は手加減できんぞ! 大人しく止まるのだ!」


「うおっと、マジの撃ってきやがった。まぁ最初から弓で威嚇攻撃されてるんだけど、どうすっかなー」

 金髪女性エルフのチャーム攻撃に若干揺らぎながらもいろんな意味でドキドキしていたユウヒ、そんな彼の背中に一本矢が迫り当るかと思われた瞬間、鉄同士を擦り合わせる様な音共に矢は軌道をずらされる。その現象に、ユウヒは久しぶりに役立った【大楯】の魔法に感謝しつつこれからどうするか悩むのだった。


「くそ! 何者なんだあの男は」


「精霊魔法行きます」


「よしやってくれ!」

 そんなユウヒと違い、当ると思われた矢を逸らされた監視部隊の隊長は、忌々しそうにユウヒを睨むも、精霊魔法士の言葉に喜色を浮かべるとゴーサインを出す。何故なら矢が逸らされたとしても、精霊の力が強いエリエスの森で精霊魔法まで逸らされる事は先ず有り得ないからだ。


『猛き大地の精霊よ、我等が敵に怒りの礫を【ストーンバッシュ】』


「面制圧かよ!? えーっと、ああ!【氷壁】」

 しかし、その散弾の様に大量の石礫を飛ばしてくる精霊魔法も、ユウヒが咄嗟に作った妄想魔法の氷の壁で遮られてしまう。この魔法もユウヒが過去『クロモリオンライン』で使っていた魔法である。


「魔法士か!? だがエリエスの森で魔法士が精霊魔術士に勝てると思うなよ! もっと大きいのを放て!」

 ユウヒの必死の抵抗に、まるで嘲笑われている様な気分になった男性エルフは、大きな声を張り上げると精霊魔術士に更なる指示を出す。


「こっちが手を出さないからって・・・ん? 前方に複数の生命反応? 人って事は集落かな、入るの不味いかなぁ結構大きいなぁ」


「くそ! もうこんな近くまで! 絶対に奴を里に入れるな!」


「ふむ、里とやらに入れば少しは話の分かる人・・・いたらいいなぁ」

 手が出せないのは自分で決めたルールのせいなユウヒは、前方に集落の様なものが有る事に気が付くと、一縷の望みをその反応に託し【飛翔】の魔法で加速するのだった。





 丁度ユウヒが里へ加速した頃、里を守る塀の内側にはグロアージュが数人のエルフ兵士を引き攣れ、不審者対策の為の指示を出していた。


「騒がしいな」


「グロアージュ様! 敵は既に里のすぐ手前まで来ているとの事です!」

 指示を出しているさなか、塀の上に居る監視兵の騒がしさに気が付いたグロアージュは塀の上を見上げる。そこに弓を持った男性エルフが駆け込み最新の報告を告げる。


「何!? 数は」


「一人との事ですが高レベルの魔法士の可能性があるとの事で」


「くそが、何が何でも捕まえろ! 里内で魔法を使われれば被害はどうなるかわからんぞ!」

 報告で伝わってくる不審者の異常な移動速度に、グロアージュは当初複数犯と思っていたのだが、最初の報告のまま一人だけと言う報告と魔法士と言う言葉に警戒度をさらに上げ、再度急かすように指示を出す。


 その時であった。


「はっ! 了解しうあ!?」


「!? 馬鹿野郎が自分の里に精霊魔法ぶっぱなすやつがあるか!」


「グロアージュ様あれです! あのフードを被った奴です!」


「あいつか!」

 里を守る塀が爆発するように破壊され、精霊の力が大量に込められた土砂と一緒に一人のフードを被った人物が、里内に宙を舞いながら土砂や瓦礫とともに飛び込んで来る。飛んできた瓦礫に怯んだエルフの男性はすぐにその姿を確認するとグロアージュに大きな声で知らせ、その知らせを聞いたグロアージュは険しい表情でその人物を睨みつけるのだった。


 空を舞う様に飛び込んできたのは、当然ユウヒである。


 次々に飛んでくる石礫やその影響で飛んでくる木切れや土砂から頭を守るためにフードを被ったユウヒは、【飛翔】の重力軽減作用の影響と土砂の雪崩のような精霊魔法による風圧に吹き飛ばされ、予期せず壊れた塀を跳び越えたのであった。


「んー悪手だったかにゃ? 敵性反応が増えただけっぽいんだけど」

 その先にはさらに増えた赤い表示のエルフが目に映り、選択のミスに嘆く。


「よくも里を!」


「いやいやまてまて!? 明らかにそちらの魔法でしょうにっとっと!」

 しかし足下から聞こえてくる言葉は完全な濡れ衣である。文句を言いつつ身を翻し何とか地面に軟着陸することが出来たユウヒは、慣性の法則で滑っていく体を近場にあった巨大な樹木の根で強制停止させる。


「いい加減めんどくさくなって来たんだけど飛んでにげ・・・囲まれたな」


「貴様が不審者か、何の為に我らが里に侵入したか知らぬが生きて帰れると思うな」

 急な攻撃から続く理不尽な状況にユウヒも流石に疲れてきた様で、このまま【飛翔】の真の力を使い飛んで逃げようかと考えていると、目の前に体格の良いエルフ男性が大剣を手に現れる。大剣を軽々と扱いユウヒに切っ先を向け威嚇する男はグロアージュだ、ユウヒ睨むその目は完全に遣る気であった。


「いやー何をしにって言うと探し物なんだけど、ここが何処だかも分かんないんだよね?」

 そんなヤル気の溢れる視線で睨まれるユウヒは、腕を組むと困ったように笑いそう告げる。


「戯言を! 詳しい地理も分からずに、我等緑の氏族の里に入れる分け無かろうが!」


「ちょと!? あれだよ、話し合いって重要だと思わない!?」

 しかしその言葉を相手からの挑発と受け取ったグロアージュは大剣を両手で振り上げると、腕力と剣の重みを使い鋭くユウヒを切りつける。普通の人間なら既に体が立てに二分割されてそうな攻撃だが、魔法で身体能力を上昇させているユウヒは慌てながらも余裕を持って回避に成功する。


「今更命乞いか! コソ泥が!」


「えー!? なんで泥棒扱い!? トレジャーハンターでもないのに!」


「くっ・・・ちょこまかと」

 ユウヒが本来もつ武術の心得は回避がメインである。そこに身体能力を向上させる魔法が組み合わされれば、回避に専念するユウヒを捉えるのは異世界であったとしても至難の業と言える。その為グロアージュの攻撃も当らず、彼をさらに苛立たせていた。


「グロアージュ様を援護せよ!」


「精霊魔法士隊詠唱開始!」


『深き森の精霊よ、我らが森の敵に戒めの縄を打て【ソーンバインド】!』


「うお!? 蔦がいっぱいって拘束系統か? それとも締め殺しの木か? よっと!」

 そんな回避能力を披露するユウヒだが、流石に四方八方から魔法の蔦で攻撃されれば回避など出来る分けも無い。しかしそれも彼が元の世界の理の下で、さらに誰からも【力】を貰っていない事が前提であり、その前提に当てはまらない今はその逃げ道を空に求めることが出来る。


「なに!? 空を飛んだだと!?」


「はいはいごめんよーっと! ほっ! はっ!」

 空に舞い上がったユウヒに驚愕するグロアージュ、しかし精霊魔法で動かされる蔦は何処までも伸び、相手が空を飛ぼうが関係なく追いかけてくる。そんな精霊力により動かされ、どこまでもついてくる蔦くらいは想定内と言った感じのユウヒは、まるでじゃれつくように飛びかかってくる蔦を次々と槍で払いのける。


「ちょっと、遊ぶ暇ないから! あとにしてくんないかな! っと・・・あれ?」


 うまい具合に払いのけ続けるユウヒは少し楽しくなってきたのか、飛びかかって来た蔦に語りかけるように掌で蔦の先端を叩き落とす。するとどうだろうか、今までユウヒを絡め取ろうと動いていた蔦達はユウヒの周りに停滞し、まるで餌の前で待てと言われた犬のようにふらふらと蔦の先端を揺らしている。


「何? 精霊魔法士何をやっている! 真面目にやれ!」


「やってます! やってますけど精霊達が言う事を聞かないんです!?」


「バカな! 精霊を封じられたとでも言うつもりか!?」

 急に蔦が動きを止めると言う予想もしない状況に、グロアージュは一瞬呆けそうになるも直ぐに精霊魔術士達を叱責する。しかし叱責する為に振り返った先では、必死に魔法を行使しようとする精霊魔術士がおり、グロアージュの言葉に反論の声を上げる。


「およ? 襲ってこない・・・ん? このふわふわした光は、精霊か」

 足下ではそんなやり取りがされているが、ユウヒの周りではさらに異変が起こっていた。それは蔦の周りに光る綿毛のようなものが現れ始め、ふわふわとユウヒに近づいてくるのだ。


 ユウヒは左目のおかげか直ぐに気が付いたが、実はこの光る綿毛は樹の小精霊である。某水の小精霊と違いその姿は小さく一体一体の力はそこまで強くは無い、その理由は水と樹の性質の違いが影響している。水は形を成さず不定形で集まれば際限なく大きくなり、大きな存在であればあるほどその生存確率を上げることが出来る。


 そんな水と違い、樹の生存戦略はより多くより広い範囲に自らの種を残すことで絶滅を防ぐものである。その為樹の精霊は最も個体数が多く、小精霊に至っては初期の状態からの成長もゆっくりである。


「ふむ、水の小精霊達と違って喋らないのかな?」

 


 ユウヒの周りをくるくるふわふわと舞い続ける樹の小精霊達、そんな綿毛にしか見えない姿にユウヒは首を傾げ、一向に喋らない姿にどこかの小精霊と比べる。もしかしたら喋る事が出来ないのかと手を差し出し納得しようとした瞬間、手に触れた綿毛達から一斉に声が上がる。


<遊ばないの?><だめなの?><今暇じゃない? いそがしい?><だめならやめるよ?>


「おお! なんだ喋れるのか・・・いやテレパシー的な感じだろうか? 変な感じだな」

 その声は小さく囁くような声で、声には遊んでほしいけど待てと言われてそわそわと落ち着き無く待ち続ける子犬の様な感情が籠っていた。やはり小さな精霊だけありその思考形態も幼い様である。


「くそ、何者なのだあの男。弓兵隊撃ちお「止めなさい!」・・・ちっ」


「そこの御仁! 我らが里にな「あれ? アルディス?」え?」


 小精霊がよく見えるようにフードをとったユウヒが新しい発見に喜んでいると、突然足下から大きな声が届く。その声の主は緑色の綺麗な髪を後ろで結ったエルフの女性で、空中に浮かぶユウヒへと話しかける。しかしユウヒはその女性よりもその隣の男性に気が付くと不思議そうな声を漏らした。


「え? ユウヒ!?」


「おー! ちょっとぶり! てかなんで居んの?」

 そう、その男性とは氏族長について来たアルディスであった。アルディスも一瞬キョトンとした表情でユウヒを見上げると驚いた様に声を上げており、手を振ってくるユウヒの姿に何が何だか分からないと言った顔である。


「アルディス殿? あの方とはお知り合いなのですか?」


「あ、はい。命の恩人、いえ友人です。ユウヒ! よくわかんないけど降りてきてー!」

 混乱するアルディスは氏族長の声で我を取り戻すとユウヒを命の恩人と説明するが、すぐに改めて友人だと説明する。その事で混乱も多少治まったようで、再度ユウヒを見上げると降りてくるように声を上げる。


 この時点で既に大半のエルフは敵愾心が混乱に入れ替わっており、攻撃の意志は無くなっていた。急な精霊魔法の使用不能から氏族長が現れての対話、と思われたらグノー王族の恩人で友人だと言うのだ。急展開過ぎていくらエルフでも頭が付いて行かず混乱してもおかしくは無いだろう。


「あいよー! 攻撃しないでくれよー!」


「何を勝手な! やつを「グジュ!」姉上!」


「グジュ、黙りなさい」


「!? ・・・くっ」

 そんな中、侵入者であるユウヒは陽気ともとれる声を上げゆっくりと降下してくる。その姿に最後まで敵愾心を持っていたグロアージュであったが、自らの姉である氏族長が見せる魔力の宿った本気の目を見せられ言葉を詰まらせる。今までの経験上、また本能でこれ以上は許されないと言う事を理解したからである。


 それでも怒りが収まらないのは、彼の気質故だろうか・・・。



 いかがでしたでしょうか?


 ユウヒ、盛大にやってくれましたね、そして忍者はこれが平常運転でした。


 自分的にはめっちゃがんばってこの更新速度ですが、いつか底辺を離脱できる事を夢見て今年最後の更新とさせて頂きます。


 それでは来年もここで絶対お会いしましょう。さようならー

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