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ワールズダスト  作者: Hekuto


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第九十二話 早朝マラソン

 どうもHekutoです。


 修正作業完了しましたのでお送りさせていただきます。どうぞお楽しみください。



『早朝マラソン』



 どうもおはようございますユウヒです。


 現在私はシラーのテントの中でベッドに座り、現在進行形で寝息を立てるシラーを膝枕しています。事後の雰囲気を醸し出してますが、昨日の夜は何も無く私は変わらずDTですが、何か? ・・・まぁどうでもいんだけどね。


「さて、シラーが起きるまでもうしばらくはこのままなのかな」

 昨夜魔力回復茶を入れた後もおしゃべりは続き、むしろお茶のおかげか話は弾み、人と神の話にメディーナの姉妹や母親であるラフィールの話、シラーの故郷であるオルマハール王国の話や蛇神騎士団の話など、興味深い時間は遅くまで続いた。


 気が付けばシラーは疲れて今にも寝てしまいそうになっており、退出を申し出ると寝ぼけていたのか何故か膝枕を要求され、仕方なく膝枕をしたがそんな状態で寝れるわけも無く、俺は魔法や合成品を作りながら暇をつぶしていたのだ。


 そんな数分前までのことを回想していると、テントの隙間から白み始め色合いの変わり始めた空が見え、その空が完徹を告げる知らせのように感じ思わず苦笑いを浮べてしまった。


「シラ・・・流石にまだ起こすには忍びないか、寝に入ってからまだ2時間経ってないくらいだもんな」

 妙に気持ちよさそうに眠るシラーに若干言いたいこともあるが、その寝顔を見たら何か言えるわけも無く、暇つぶしで出来た製作物をカバンに入れながら独りごちる。


「しかし、メディーナがくれた加護がラビーナと同じで上から二番目とはなぁ」

 荷物の整理が完了しなんとなしにテントの天井を見上げると、昨日の話しを思い出し自然と口から一番びっくりした内容が零れ出た。


 シラーの話によれば、神の加護にもランク付けの様なものがあるらしく、その中でも直接接触にて授かる加護は最上位の加護であり、さらにその中でも抱擁を持って与えられる加護は一番上から二番目、要は第二位の加護なのだとか。それは即ち、ラビーナとメディーナの二人はあの時、俺に二番目に凄い加護をくれたと言う事である。


「まぁ契の加護じゃなくてよかったと思うべきなのだろうか? なんだってそこまでしてくれるんだろなぁ?」

 さらに一番上のランクも有るのだが、これは加護と言うよりも結婚申込みであった。契の加護と言われるこれは、まぁ何となく予想できるようにマウスtoマウスのキスで、その加護を受けた者はその神と夫婦関係になるらしい。


 俺の世界では想像できないが、この世界では誰でも知っている話の様で、特に男神はこの加護を授ける事が多いそうだ。しかし実質的な加護の強さでは俺が受けた二番目が上らしく、契の加護は神が守ってくれると言う以外は特に何も無いとか、むしろ下手な神と契りを交わせば恐ろしく束縛される事もあるとか。


「今度聞いてみるか・・・でもちょっと怖い気も」

 膝の重みから意識を逸らすように現実逃避と言う名の情報整理をしつつ、二人の神様の事を思い出した俺は何故か背筋に寒い物を感じた。ついでに、何故か膝枕しているシラーが俺の足を抓って来るのだが、変わった寝相である。





 一方その頃、ユウヒと同じく女性騎士に連れられて行き、ユウヒとは違う末路をたどった三人はと言うと。


「もう、だめ・・・」


「はぁはぁ・・・最高ぉ」


「こんな、腰が、がくがくするの・・・初めての日、以来だわ」

 おっと失礼、こちらは蛇神騎士団の女性騎士達でした。張りのある美しい褐色の裸体を惜しげも無く晒し、羽織られたうす布は複数の液体でしっとりと湿り女性達の肌に張り付いている。


 そんな艶めかしくも、朝日に晒され絵画にすら見える一室と違い、テントの外には三つの黒い何かが地べたに置かれていた。


「ジライダァァ・・・生きてるかぁぁ・・・」

「ヒゾウか、何とか・・・生き残った、な・・・」

「・・・」


 それは徹夜で夜の蝶達と舞い続けた三忍者達である。その姿は何時もと変わらない黒装束姿ではあるものの、限界まで蝶に蜜を吸われ干からびた為、心なしか黒装束の布地があまり、服が大きく見える。さらにその布地越しに聞こえてくる声は擦れており、まるで長い年月を過ごした老人のような声であった。



「ご、ゴエンモ? ・・・生きてるか、生きてたら、なんか、返事しろ」

「・・・・・・・・・おんな、こわい」

「よかった、いきてた・・・とりあえずにげよう」


 【誘惑チャーム】の魔法で女性達のテントに誘われた三人、彼らは最初こそ操られていたがすぐに術からは逃れることに成功していた。しかし目の前には卒業証書入れを持った女性達、据え膳喰わぬわの精神で自ら罠へと飛び込んだのであった。


 しかし時が過ぎるうちに状況は怪しくなってくる。いくら新人類たる忍者だとしても体力の限界は存在する上に、彼らはある違和感に気が付いたのだった。それは女性達の体力が無くならない、いや正確に言うならば女性陣の数は減らないが、最初に覚えた顔の女の子が次々と減って行ったのである。


 実はその時三人の引き込まれたテントには長い列が出来ており、彼らはテント内に収容できる以上の人数を相手にしていたのであった。因みに、今テントの中で動けなくなっている女性達は二週目三週目以降の強者たちである。これはどちらが化物なのか判断に困るところ、いや流石は忍者であった。


「そうだ、な・・・ゴエンモ掴まれ」

「す、すまないでござる・・・」

「気にすんな、俺達は仲間、だろ?」


 そんな魔法使いの称号を手にすることなく大人になれた三人は、妙な友情を深め合いながら互いに支えあい歩くと男性が集まる宿営地を目指した。その後、途中で力尽き倒れて居る所を偵察に来た兵士に発見され、手厚く看護されるまで1時間ほどかかるのであった。





 それからさらに数時間後、旅支度を済ませたユウヒは朝日の下でシラーと別れの挨拶を交わしていた。


「昨夜はありがとうございました。とても、その美味しかったです」


「そうか気に入ってもらえたなら良かった。なんなら今からでも入れるが?」

 シラーはまだ少し昨夜のレジストの効果が残っている様で、普段騎士達が見慣れた姿よりしおらしく伏し目がちにお茶の感想と礼を述べる。その言葉にユウヒは嬉しそうに笑うと、ポンチョの中、腰辺りにあるカバンに手を添えながらそう提案する。


「いえそんな、昨夜あんなに入れてもらいましたから・・・そのお腹の中がいっぱいで」


「あぁ・・・これ以上飲んだら出しちゃうか」


「はい、折角のものを出してしまってはもったいないですから」

 しかしシラーはその提案を申し訳なさそうに断る。実は昨夜ユウヒの入れたお茶は、ユウヒ謹製品の中でも特に美味しいお茶で、美味しいと喜んでくれるシラーに気を良くしたユウヒは、その茶葉が無くなるまで入れ続けたのだった。


 そんな背景もあり、シラーはお茶で重たくなったお腹を擦りながら恥ずかしそうに頬を染めたのである。


「そうか・・・」

 そんなシラーを見たユウヒは、飲み過ぎによる吐き気があるのかと思い配慮が足らなかったかと、少し申し訳なさそうな表情で頷いている。


「ユウヒ様はもう行ってしまわれるのですか?」

 ユウヒの表情に微笑みを浮かべたシラーは、軽装ではあるものの旅支度を済ませているユウヒの姿に気が付くと、そう問いかける。


「ああ、もっと色々聞きたかったけど目的もあるからね、三人を回収したら行く事にするよ」


「そうですか・・・」

 その問い掛けに表情を戻したユウヒは、頷き答えるときょろきょろと目的の三人の姿を探し始めた。その為、隣で少し寂しそうな微笑みを浮かべるシラーの表情に気が付くことは無かった。


「そうだ、また会う事があればまた聞かせてよ、その時は俺もまた入れてあげるから」


「はい! その時を楽しみに待ってます」

 周囲を見回しても三人の黒い影を発見することが出来なかったユウヒが、特に何も考えずにシラーに振り向きそう言葉をかけると、シラーは嬉しそうに笑みを浮かべるのであった。


 そんな自分たちの会話が要らぬ誤解を生みだしているとは知らずに・・・。





 そんな誤解を生み出し深めている者達とは、


「おい、今の話し聞いたか・・・」


「ああ、どうやら朝までコースだったようだな・・・」

 ユウヒとシラーを遠巻きから観察する討伐隊参加者達であった。今も冒険者の男とグノー王国兵士の男が恐ろしいものを見る様な表情でユウヒを見て話し合っている。


「しかもユウヒ様今からって・・・しかもアウール殿それを断ったぞ、明らかに疲弊してるだろ」

 しかし、表情こそ険しいものであったがその瞳には羨望とも思える色を灯していた。どうやらユウヒとシラーが一晩中お楽しみであったと察し、さらにはユウヒの誘いをシラーが断ざるを得ないほど疲弊していると勘違い、いや彼らの認識としては普通に至る結論であった。


「恐ろしいな、あの蛇神騎士団の指揮官を疲弊させたのにあの軽い足取り・・・。勇者と言われるだけはあるな」

 なにせシラーは過去に何度も男達を恐怖に陥れ、事実再起不能にしてきた経歴があるのである。その為話しの流れがそちらに傾いたとしても可笑しくは無く、その女性に打ち勝ったと思われているユウヒが、男達にとって勇者と言う認識になってもそれほど可笑しくは無いのだった。


「本当に居たんだな救世主って・・・あの三人も含めてさ、昨日の夜は今回の遠征で一番安心して過ごせた気がするぜ」

 彼らの中で性技の勇者ユウヒ像は膨れ上がり、それは周りへと伝播していった。そんな彼らの瞳には勇者ユウヒ、いや救世主ユウヒと共に戦った三人の忍者も輝いて見えている様であった。





 そんな男連中の集まる場所とはユウヒを挟んで反対側、そこには複数の女性冒険者やグノー王国女性兵、女性騎士が集まり、男共と同じようにユウヒとシラーを見詰めていた。


「凄いわねユウヒ様」


「ほんと、見てよあのアウール殿の満たされた艶やかな肌! しかも凄い事言わせてるし」

 彼女らが交わす話しの内容も男性陣と大差は無いものの、より想像はディープな様でその顔を赤く染めている。ボソボソと聞こえてくる声の中には、既成事実やらハーレムやらと言う言葉も混ざっていた。


「出したくないとか、完全にそのつもりじゃない。これは蛇神騎士団の指揮官交代もありうるかもね」


「これは報告した方が良いのかな・・・」

 そんな頬を赤くする女性陣の中には、当然と言うかある特殊な派閥に所属するグノー王国騎士や王国兵士も居り、その為今見た内容を上に報告するべきか否か悩む姿がちらほら見受けられるが、


「だ、だめよ!? こんなこと知ったら王女殿下卒倒しちゃうわよ!」


「そ、そうだよね」

 彼女等の妄想はすでに報告する事も憚れる所まで行っているようであった。尚、強く報告を否定したのは王女派に所属する女騎士であり、その勢いに押されているのは文官派に身を置く女性兵士である。


「てかよく恥ずかしげも無くあんな会話出来るわね、やっぱりそこは冒険者なのかしら? それとももう認知まで話しが・・・・・・」

 なんだかんだと言いつつ顔を赤くしながら聞き耳を立てる姿は、戦いに身を置いてもやはり女性と言う事なのか、不満にも取れる女性の言葉に回りも同調し、冒険者の女性達は苦笑いであった。


「これは王女殿下一人では身が持たないかもしれませんね、側室も何人か付けなくて・・・と言うかアウール殿すごく幸せそうな顔してるけどこれって・・・」


「「「王女殿下に他国のライバル出現!?」」」

 因みに、ここに居る女性達の大半は王女派、中でも第一王女であるティーラ派である。若干名アルディス派と言う秘密派閥の腐女子もいたり、ルルイア派と言う少数派閥も存在している辺り、グノーは今日も平和なようだ。





 私の名はシラー・K・アウール、オルマハール王国の騎士である。その中でも特にオルマハール女性の気風を表した蛇神騎士団の隊長を務め、その気風を心地よく感じていた。


「・・・」


 そう昨日までは・・・。


「アウール隊長」


「ん? お前達か・・・辛そうだな」

 先を急ぐと言う神子であるユウヒ様と別れ、お見送りの為にと身だしなみを整えテントを出ると、私を見つけた部下が数人寄ってくる。しかしその姿は満身創痍、肌蹴た服を適当に着直したと言った風貌で、足元もふらついている。どうやら相当夜に頑張ったようだ。


「ええ、あんなに出来たのは初めてでした」


「昨夜は最高の夜でしたわぁ」

 私の言葉に答える部下達は淫らに微笑んでいる。昨日までの私なら彼女達と同じ笑みを浮かべていただろうが、今は何処までも清々しい気持ちで自然と柔らかな笑みがこぼれてくる。


「そうかそれは良かったな、私も昨日の夜はとても楽しい一時だったよ」


「あら、アウール様が殿方相手にそんな言葉を選ぶなんて・・・そ、そんなに凄い方でしたの?」

 私の返事に、部下達は頬を染め好奇心と性欲で彩られた瞳を向けてくる。凄い、確かに凄い方であった。


「そうだな、私は彼に心から礼を尽くしたいと思っているよ」

 私の魔法を完全にレジストし、さらに気分を害した素振りも見せず私の体を気遣う姿は、単純に男性として好感が持てる。その上メディーナ様の神子であり複数の神の神子でもあると言う。そんなユウヒ様の事を思い浮かべると、自然な笑みと共にそんな言葉が零れ出た。


『・・・な、なんですってー!?』


「ど、どうしたお前達?」

 漏れ出た言葉に自分でも少し驚いたが、周りに居た部下達が一斉に叫んだことには驚いた。部下達の表情はまるで有り得ない物でも見たかのような表情で大口を開けており、正直隊長としては、いや今の私としてはもう少し御淑やかな方がいいと思う。


「どうしたもこうしたも! ああ、なんですかその憑き物が落ちた様な瞳の色は!」


「そんな瞳になるほどすごかったんですの!? うぅ私も彼を選んでおけば・・・」


「ぬ? いや、確かに凄い方ではあったが・・・お前達の考えているのとは違うと思うぞ?」

 憑き物? 目の色? 確かにまだ魔力も回復しきっていないし、ユウヒ様のレジストの影響も抜けきっていないので本調子では無い。・・・いやまさか、この子達は勘違いをしていないだろうか? 確かに夜遅くから朝方近くまでユウヒ様と一緒に居たが、特にナニもしていないのだが。


『わ、わたし達じゃ予想も出来ないほどに・・・ゴクリ!』


「いやだからだな」

 だめだ、完全に勘違いしている。いや、日ごろの行いから当然と言えば当然なんだが、だめだ魔法の反動のせいかいつものように対処が出来ない。と言うよりこういう場合の対処はどうしたらいいのだ。


「こうしちゃいられないわ」


「そうね! 是非今日も泊まって行ってもらいましょう!」


「あ! こらお前達! ユウヒ様に御迷惑を掛けるんじゃない!」

 あの馬鹿者共め! ユウヒ様すみません今の私では暴走する部下を抑えられませんでした。と言うかつい先ほどまでふらついていたと言うのに元気なものだな・・・引退か、まだまだ先かな・・・ふふふ。





 一方その頃、狙われているユウヒは、無事? 三忍者と合流を果たしていた。


「なぁ・・・大丈夫か?」

 しかし、目の前に広がる惨状の為かその表情は非常に不安そうである。


「おおぉぉぉ・・・御無事でしたか、ユウヒどのぉ」


 宿営地から少し東側に外れた木の木陰に三人は顔を伏せ座り込んでいた。最初にユウヒの声に気が付いたのはゴエンモで、一晩でかなり老け込んだ彼は顔をゆっくりと上げ、ユウヒの無事を確認すると目を見開き声を絞り出す。


「わ、我等は・・・大人の階段を、上り詰めてしまった、ようだ」

「ユウヒは、誰にも、付いていかなかった・・・のか?」


 そんなゴエンモに続くようにジライダも顔を上げると、プルプル震えながら途切れ途切れに声を絞り出す。その隣では、ヒゾウがユウヒの様子に首を傾げ不思議そうな表情を浮かべると、やはりこちらも絞り出す様な声で問いかける。


「ん? 俺は一晩中オルマハール騎士団長のシラーと一緒に居たが、まぁ徹夜だったからちょっと眠いは眠いな」

 三人の様子に苦笑いを浮かべたユウヒであったが、その苦笑いはヒゾウの質問の為でもあった。口では大したこと無いように装っているユウヒであったが、シラーを膝枕し一睡も出来ていない為、精神的なダメージが結構大きかったのである。


「うそ、だろ!? 一晩中でちょっと眠い程度・・・だと!?」

「く、流石魔王ユウヒ・・・その魔力には底が無いとでも言うのか!?」

「拙者等と、ユウヒ殿では、スペックが、いや次元が違ったでござる・・・か」


 そんな事があったなど知らない三人は、きっとユウヒも自分達と同じ目にあったのだろうと予想し、騎士団長と言う言葉でもっとすごかったのではないかと妄想すると、先ほどまでの疲弊具合が嘘のように驚愕の表情とポーズをとる。


「いやもとから大したことしてないしな?」


『お、恐ろしい子!?』


 妙な言動を始める三人の誤解に気が付いたユウヒは、誤解を正そうとするもその言葉は彼らに更なる誤解を与えたようで、三人にまるで某少女漫画の様な表情で驚愕の声を上げさせた。


「あ、疲れててもネタはしっかりやるのね」


「ふ、我等は訓練された「副隊長居ました!」・・・は?」


 打ち合わせていたかのような三人の行動に、ユウヒは元ネタを思い浮かべながら苦笑を漏らすと、予想より元気そうな三人の様子にホッとする。そんなユウヒの言葉に当然だと言った風に胸を反らすジライダであったが、その言葉は途中大きな声で遮られる。


「既に旅支度を済ませているだと!? 逃がすな! 今晩も泊まって行ってもらわねばならん!」


「・・・・・・三人とも、疲れてるならもう少し休んでから来る? 俺はもう行くけど」

 それは獲物ユウヒを捕まえる為にやって来た野獣、もとい蛇神騎士団の団員達であった。振り向いたユウヒは視界で点滅する警告文に危険を確信すると、接近する敵影から目をそらさずに三人はどうするか声をかける。


 この時ユウヒの視界には昨夜の様に【索敵】の魔法の効果が出ていた。そこには『! 脅威接近中 !』『! 貞操の危機 !』『げいげ、いや撤退を推奨!』『すえぜ、いや撤退を推奨!』『逃げて! byミズナ』『早く逃げて! byモミジ』『敵戦力値なおも上昇中』など多数の警告文が赤く点滅していたのだった。


『いやいやいやいやいやいや!?』


 獣が目の前に現れたら、目を逸らさないで逃げると言うサバイバル知識を元に、接近する騎士団を目で捉える続けるユウヒの背後で、三人の焦りまくった声が上がる。


「まま、魔王と呼んだからか!? あやまる! あやまるから見捨てないで勇者ユウヒ!」

「そ、そうでござる!? 我等は仲間でござる! 仲間は共に助け合うものでござるよユウヒ殿!」


 声を上げると同時に立ち上がった三人は、ユウヒが怒って自分達を置いて行くと思ったのか色々と弁明を始める。これは実際のターゲットがユウヒであった為の言動であるのだが、このままユウヒが三人を置いて逃げた場合、彼らに昨夜のような出来事が起るのは、確実だろう。


「あばばばば!? 奴らが来る! 来ちゃうよ!? そ、総員かけあ・・・ダッシュ! ユウヒ殿を抱えて第三宇宙速度で前進! 前進!」


 そんな現実を余裕で予知できたヒゾウは、恐怖で言語機能に障害を出しながらも本能で動き、指示と共に行動を開始する。


「「ラジャー!!」」


 その指示に、普段なら一ネタ二ネタ絡ませすぐに了解しない二人も、綺麗な敬礼を見せ同じく行動を開始する。


「うお!? 第三ってどこまで行く気だよ、太陽系から出る気か?」

 その行動とは、三人一列に並び頭の上にユウヒを持ち上げると、勢いよく走り出すと言うものであった。そんな持ち上げられたユウヒはと言うと、律儀にツッコミを入れながら、驚きはするものの抵抗はせず身を任せるのであった。


「奴らが来ないところまででござるーー!」


「まてぇぇ!! おいてけーー!!」


「どこの妖怪だよ・・・ん? あれはシラーか、手を振るぐらいの別れの挨拶はしとくか」


 因みに第三宇宙速度とは、地球の地表から飛び立ち太陽の重力を振り切ることが出来る初速度の事である。そんな速度は出ないとしても、オリンピック短距離選手に喧嘩を売るような速度で走る忍者達の頭の上で、ユウヒは遠くに見えるシラーに手を振りながら東へと運搬されるのであった。





 こちらは手を振られていたシラー側である。


「ユウヒ様・・・」

 最後まで手を振り続けたユウヒの姿に、シラーはまたどこかで会えることを願っていた。そんな彼女の後ろからは、騒ぎを聞きつけたグノー騎士団が駆けつけてくる。


「ユウヒ殿は!?」


「大丈夫です! モーブ忍者の方と既にお逃げになられました。あの土煙の辺りです」


「体調のほうは?」


「ぴんぴんしておられました」


「それは真か? あのアウール殿と一夜を過ごされたのだぞ?」

 グノー騎士団の指揮官の男性は、偵察兵の報告でユウヒの無事を確認するも、その内容に懐疑的であった。何故なら一晩の間蛇神騎士団、ましてや騎士団長のシラーと共にいたのと言うのに無事とは考えずらかったのだ。


「安心しろ、ユウヒ様はそこまで疲れて御出ででは無い・・・むしろ私の方が疲れているくらいだ」


「む!? これはアウール殿、そうですか・・・総員! 救世主ユウヒ殿の居ると思われる土煙の方角に向かって剣礼!」


 背後から聞こえた声にびくつくグノー王国騎士団指揮官の男性であったが、本人からの説明に納得すると、同じく駆けつけてきたグノー王国軍の面々に指示を出し、もう既に見えなくなったユウヒへ剣礼と呼ばれる騎士の礼を掲げるのであった。


「・・・うちの騎士団の前でよくそんな事を、まぁいいか」

 そんな腰から抜いた剣を胸の前で掲げる若干失礼な男達にジト目を向けたシラーは、肩から力を抜くとそうつぶやき、未だユウヒを追いかけようとしている馬鹿な部下達の下に足を向けるのであった。





「おーいそろそろ下ろしてくれー」


「まだ危険でござる! もうしばらく辛抱してくだされ!」

「我はいける! いけるぞー!」

「でもあれはあれで・・・いややっぱり怖いお」


 逃げる方も追う方も馬鹿ばかり、本人達は別として、ユウヒの非日常は本日も平和である。


「何があったんだか・・・」


 三人の忍者の上で、何も知らないユウヒはそうつぶやくほかなかったのだった。



 いかがでしたでしょうか?


 どうやら3モブは大人になれたようですね、まぁそれが良かったのか悪かったのかを知るのは本人達だけですが・・・。


 それではまたここでお会いしましょう。さようならー

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