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ワールズダスト  作者: Hekuto


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第九十話 褐色の魔の手 前編

 お久しぶりのHekutoです。


 時間もかかりましたが、修正作業終わりましたので是非お楽しみください。



『褐色の魔の手 前編』


 ユウヒ達一行がまさかのVIP待遇を受ける事数十分後、ユウヒ達は案内された近くの焚火に集まり、討伐に参加した者達と共に杯を酌み交わし夜の一時を過ごしていた。


「その時、ユウヒが繰り出した鋭い突きは最後の魔獣を穿ち塵へとかえす!」


『おお!』

 しかしそんな平和な時も束の間、お酒の入り始めた三人の黒い影は次第に暴走を開始し始めた。


 ユウヒの武勇伝を聞きたいと言う騎士や兵士たちのリクエストに応えるべく、ユウヒに目で「マカセロ!」と合図を送った三忍は、まるで紙芝居を見に来た子供の様な瞳の者達を前に、大げさな身振り手振りでユウヒの知らない武勇伝を語っていた。


「そのあまりの猛攻に怯んだ氷の女王! その隙を見逃すユウヒ殿では無かったでござる!」


『!』


 舞台は凍てつく大地拡がる氷の国、古の女王であった魔女の呪いにより、性格の反転した現在の女王が猛威を振るう闇の時代。王国民の願いに応えるべく、勇者ユウヒは闇舞う謁見の間にて単身、女王と闇の魔獣に立ち向かう。


「槍を引き絞り放たれた矢の様に踏み込む勇者ユウヒ! 次の瞬間には女王に肉薄しその喉元に一閃!」


『な、なんと!?』


「・・・ん?まてまて!?」

 目まぐるしく動く槍の軌跡は闇の魔獣を尽く打ち払い、一瞬の隙を縫う様にその軌跡は女王の首を切り裂いた。


 そんな三忍の話に沸き立つ騎士や兵士達拳を握りしめる者、赤い顔で叫ぶ者、赤い顔だが瞳を潤ませ何故か色気の漂う女性騎士や女性兵士。そんな彼等彼女等と違い、終始苦笑いを浮かべているユウヒ、どうやら三忍達が作り話をしてくれていると思っていたようだが、何かに気が付くとその表情を疑問で染める。


「しかし、その一撃は女王を殺す為の物では無かったのだ! 呪いにより正気を失っていた女王を救う為、自らが傷つくことも恐れずその首にかかった魔女の首飾りを切り裂くためだったのだー!」


『おおおお!』


 一人が気合を入れて喋る度に、残り二人が<ババーン!>や<シャキーン!>など効果音を出し場を盛り上げ、次第にその話はクライマックスへ近づいて行く。周りの人間達もそんな三忍の話術に取り込まれる様に熱気を上げて行く。


「魔女の首輪とも言える首飾りの呪縛から解放された女王は崩れ落ち、それを優しく支える勇者ユウヒ!」


「瞳に正気の色を取り戻した女王は、ユウヒ殿に願うでござる。過ちを犯した私をその槍で開放してくれと・・・。そんな女王にユウヒ殿は優しく語りかけたでござる」


『・・・ゴクリ』


 熱い展開から急激にシリアスな空気に、忍者達は無駄にそのハイスペックな話術を駆使し会場全体の空気を操る。焚火の爆ぜる音だけが響く中、一人かそれとも全員か、唾を飲み込む音がやけに大きく聞こえた。


『悪夢は終わり、お前の物語はここから始まる。辛い思いをしてきたお前には、その幸福に満ちた物語を綴る権利がある。』


『でも、私は怖い・・・その物語の先がまた悪夢だったらと思うと・・・私は』


『確かに怖いだろう。だがそれは独りだからだ、今のお前は独りじゃない・・・俺とお前で二人だ。二人なら例えどんな恐怖だろうと打ち破れる。・・・さあ、恐れず物語おまえの最初の頁を開くんだ』


 物語の中のユウヒは、まるで御伽話の英雄の様な言葉を紡ぎ、まるで求愛をするかのように王女の心の冬を解いていく。


『きゃー!』

『うおおお!』


 その展開に男達は感涙と共に叫び、女性達はユウヒと王女の関係をどこまでも妄想し黄色い声を上げる。その中で一人ユウヒはその顔を蒼くしていく、それはまるで自分の黒歴史を他人に語られ拡散されている人間の様に・・・。


「そして王女は勇者ユウヒの手を取りか細い声でひとこ「まてまてまて!?ちょーっとまて!」む?」


「おま!? それはどう考えても『イジャル王国開放戦』の話だろ! しかも何で俺の会話内容知ってるんだよ!? 俺あの時一人で行ったはずだし、まだソロ時代の話だぞ!」


「おい今、王国開放戦って」「イジャルって聞いたことないな、異国か?」「きっと大山脈の向こうだろ、あの三人はモーブ忍者らしいからな」「そんな事よりこれ、一国を一人で救ったということじゃないか?」「まさか? 仲間もいたのだろ? いったいその後どうなったんだ。つ、続きが気になる」「もしかしてユウヒ様って・・・お、王様だったりするのかしら」『・・・ゴクリ』


「おや? ユウヒ殿は知らないでござるか? あの開放戦の戦闘シーンとか最後のシーンとか公式のPVに使われていたでござるよ?」


 そう、何かの核心に気が付いたユウヒが跳び上がり、ゴエンモに叫んだようにこの話はある意味実話なのである。


 クロモリオンラインにおける膨大なミッションやイベント、主要コンテンツの中の一つがこの『イジャル王国開放戦』である。ユーザーの中では結構有名なコンテンツのメインストーリーで、このストーリーの攻略時PVをきっかけにクロモリを始めたと言う人間も多いくらいである。


「え!? そんなのしら・・・いやまてよ? 何かそんな感じの許可申請メールがあったような」

 そのPV、所謂プロモーションビデオこそ、今ゴエンモ達が語ったユウヒの武勇伝であった。そんな有名PVに自分のプレイ動画が使われているなど知らんかったユウヒは、驚愕の表情を浮かべるも何かを思い出すと表情を蒼くし俯く。


「公式の発表では許可を貰ったので使用しましたって、許可を出してくれたプレイヤーの名前も出してたよな? しかも当時の二つ名付きで、あれユウヒだろ?」


「ぐ・・・ギフトに目がくらんでよく読まずに許可したかも・・・」

 ゴエンモに続き、ヒゾウがユウヒに残酷な現実を突きつける。どうやら過去のユウヒは、ある日届いたメールの内容をよく読まずに、貰えるゲーム内アイテムだけ確認し許可ボタンを押してしまっていたようである。


 当時のユウヒはまさに廃人と呼ばれるプレイヤーの一人であり、少しでも長い時間プレイする為に、そう言ったメール内容などをスルーしていたのだった。それ故いろいろ失敗もして、現在のユウヒがあるのだが、今更ながらに過去の失敗の一つに気が付いたユウヒは、丸めた背中に哀愁を背負うのであった。


「まぁその気持ちも分からんでもないがな・・・だがあの戦闘シーンのPVでクロモリプレイヤーが急増したのも事実だぞ? 誇っていいと思う。我なら誇ってふんぞり返る!」


「くっ・・・知らないところで黒歴史を知る者が増えていたなんて」

 ゴエンモとヒゾウが生暖かい視線を送る中、妙に優しい目をしたジライダはユウヒの肩に手を置くと、励まし? の言葉をかける。


 因みに当時ユウヒの他にもメールを貰った人間は居るが、許可を出したのはユウヒだけであった。さらに何故ユウヒがその選考に選ばれたかと言うと、数少ないソロプレイ攻略者だったからである。


 多人数で挑んだ方が何かと美味しいこのコンテンツを、一人で攻略した強者ボッチに運営が敬意を表したとかしなかったとか。


「その後どうなったんだ! 教えてくれよ!」

 そんな裏事情があるなど知らないこの世界の者達は、一番いい所で止められてしまった話が気になってしょうがない様である。促されたゴエンモはまた先ほどの語部の様な雰囲気を纏うと、再び話し始めようと口を開いたが、


「それはでござ「あら、良い男が集まってるじゃなぁい?」る?」

 口から出てきた声は、何処からともなく聞こえて来た女性の声によって遮られる。その声はどこか甘く妖艶で、耳に纏わりつくような声であった。


「ひぃ!? へ、蛇神騎士団!?」


「退避! 退避! 一定距離以上近づくな!」


「あらぁ、酷いわぁそんなに慌ててお離れにならなくても、よろしいのに・・・ふふ」

 たき火が照らす夜の闇から現れたのは数人の女性であった。彼女達は一様に褐色の肌と露出が多く頼りなく感じる鎧を身に纏っている。


 そう、彼女達は蛇神騎士団、世の男達を恐怖させる餓えた女豹とは、誰が言った言葉であっただろうか、その姿を認識した男性騎士が即座に立ち上がり、腰の剣に手を添えながら大きな声で指示を飛ばす姿は、その言葉が真実だと言っていた。


「な、なんだ? 何が起こってる?」

「うほwwこれは何と言う褐色美人集団wwっうぇw」

「・・・・・・」


 緊急事態を絵にかいたような状況に、ジライダはキョトンとした顔で緊張した表情の男達を見まわす。その隣ではヒゾウが何となしに後ろを振り向くと、目の前に並ぶ褐色美女達に興奮し鼻の穴を膨らまし、ゴエンモもその光景に目を奪われ無言で頷いている。


「ぁん、こちらの方々はお優しいのねぇ」


「お、おふぅ・・・せ、拙者たちは紳士でござる故」

 騎士達とは違う反応を見せた3モブを見た褐色肌の美女達は、その瞳の奥に怪しい光を灯らせると、先ずは一人が一番近くにいたゴエンモの右腕を自らの両腕で抱き抱える様に持つ。その大胆な行動と、ゴエンモの右腕を包む柔らかい感触、そして極め付けの耳元を擽る甘い吐息。ゴエンモは混乱する頭をフル回転させ必死に受け答えをしていたが、


「あらステキ♪」


「ふぉぉぉ!?」

 反対の腕を別の女性に掴まれ、左右から押し付ける様にして挟まれると、顔を真っ赤にしながら歓喜の叫び声を上げてオーバーヒートしてしまう。


「ぬあ!? 貴様ゴエンモ! また抜け駆けくぅぁあ!」

「ダブルアタックでは足らんかったようだなゴエンモォォ!」


 そんな二人の褐色美人に挟まれる様にしてその身を委ねたゴエンモ、当然面白くないジライダとヒゾウはその身から黒い嫉妬の瘴気を溢れさせると、負の暗黒面に堕ち二匹の黒鬼とか化すのであった。


「き、君達! すぐに離れるんだ! 彼女達は危険なんだ!」

 二匹の黒鬼の背後から男性騎士が必死な声を上げるが、既に嫉妬に染まった二人の頭にはゴエンモを血祭りに上げる考えしかなく、他の思考が入る余地は無かった。しかし、


「あら失礼しちゃう・・・ねぇお兄さん達も今から良い事しない? 私、サービスするわよ?」


「い、いいいい、良い事ぉお!?」

 ゴエンモにゆっくりと近づいていたジライダ、その左腕に全身で抱き着く褐色美女の甘い吐息と感触は、ダークサイドに堕ちた魂を急激に現世に呼び戻し、女性の瞳に見詰められたジライダは怒気に歪んでいた顔をだらしなく緩ませる。


「うふふ、こちらの殿方はとても逞しいのね」


「はふぅ!? ・・・俺、なんだか頭がくらくらしてきたんだお」

 反対側ではヒゾウが同じく褐色美女に迫られており、両腕で首を抱き締められ、耳に女性の唇がほとんど触れるくらいの距離で吐息を吹きかけられたヒゾウは、変な声を漏らし硬直する。


「ふふ・・・あら、こっちも? ・・・ふふふ」


「ほぉぉ!? 「ねぇ? 『行きましょうよ』」|廃! ヒゾウ逝っきまーす!」

 ヒゾウが硬直した事を良い事に、そのすらりとしなやかに伸び、それでいて扇情的な肉感もある足をヒゾウの太ももに絡ませると、その足で筋肉以外の逞しさを感じとり、楽しげに表情を綻ばせヒゾウを誘う褐色美女。


 既にヒゾウの理性はここには無いようで、その喋り方がいつも以上おかしくなっているのであった。


「まったく、お前達! 遊女ではないのだ。誘うなら騎士らしく誘え!」


 いつの何かその数を増やし3モブを連れて行く十数人の女性達、そんな場所に彼女達を咎める者が現れる。しかしその女性こそ彼女達蛇神騎士団のリーダーであり、その顔には3モブを誘惑する褐色美女集団と同じ色の微笑みが浮かんでいた。


『(騎士らしい誘惑ってなんだー!?)』


 彼女の登場でその場に居たグノー王国軍の男達に更なる動揺が広がり、心の中では男達によりまったく同じツッコミがなされるのであった。


「ふふ・・・あら? あなたはあぶれてしまったのかしら?」


 自分から一定距離以上近づこうとしない騎士団に余裕の笑みを向けた彼女は、一人離れた場所で地面に座るユウヒの姿を捉えると、不思議そうに見つめた後すぐにその瞳の奥を怪しく光らせる。


 実はこの可視可能な怪しい光は魔法である。そう、とあるドワーフ兄弟をいつの間にかベッドに押し倒していた蛇神騎士団が使っていたのと同じ、魅了の神性魔法。そして今もどこかへと誘われている3モブ達も、しっかりとその瞳と言霊による蠱惑の魔法で魅了されている状態である。


 本来そう言う技に対する抵抗力もある3モブ忍者ではあるが、本来持ち得る人間としての本質と欲望の前では、忍者の力も砂上の楼閣と変わらないのだ。流石は草食世代無敵の童貞ズである。


「へ? あーいや俺はそう言うの良いよ、遠慮するわ」

 また、ほぼ同世代で過去とある病で黒歴史を育み、さらに元の世界で男ばかりの職場で働くユウヒもまた彼らと同じ属性と言える。しかし、とある理由からある種の女性に対して免疫のあるユウヒは、話しかけてきた女性騎士に対してどこか慣れた微笑みを浮かべる。


「そう言わずに・・・お仲間なのでしょ? あの三人、行ってしまいましたわよ?」

 そんなユウヒの微笑みを見た女性は笑みを深めると、3モブ達を攫って行く女性達同様、ユウヒの腕を体で包み込むと濡れる様な声でユウヒの耳を擽り始める。


「あー・・・逝っちゃったなぁ『ですからあなたも一緒にイキましょう?』」

 なされるまま、ユウヒはその腕を振りほどくことも無く、フラフラと女性達に連れて行かれる三人の後ろ姿を眺め、生暖かい視線を三つの背中に注いでいる。


 その時、女性騎士は気の抜けた表情を浮かべたユウヒを見て怪しく微笑むと、その言葉に魔力を載せてユウヒの瞳を覗き込むように見つめ話しかけた。魔力を籠めた言霊と魅了の魔眼による非常に高度な同時精神攻撃、これで堕ちない男は居ないと言う、彼女の十八番である。


「む?」

 しかし、その魔法はユウヒの瞳と耳に届く寸前で、薄いガラスが割れる様な儚い音と共にその構成要素である魔力を霧散させた。


「・・・うそ」


「・・・ふむ」

 それは、ユウヒだけでなく魔法をかけた側である女性騎士も知覚できた。そのあまりの事態に、女性は今までの微笑みが嘘のように目を大きく開き驚愕の表情を浮かべると、ユウヒの目の前で硬直した様に動きを止める。


 この時、ユウヒは女性騎士を見ているようで、実は鋭敏な反応と大量の警告表示を視界いっぱいに示す【探知】の魔法で、ほとんど女性の顔が見えていなかった。その表示は以下のとおりである。


『!精神攻撃注意!』『!大人の魅力接近!』『!左上腕部にダブルビックマシュマロアタック確認!』『!興奮作用のあるフェロモンを感知!』『この女危険です!! byミズナ』『右に同じ byモミジ』『!危険を回避せよ!』『いや! 据え膳喰わぬは男の恥だ!』『イケイケゴーゴー!』『大人の階段のぼっちまいな童貞坊や』『ど、どどど、童貞ちゃうわ!?』『いや本人は認めてるから』


「・・・(俺の魔法はどうやら斜め上に捻りを加えて成長してそうだな)」


 ユウヒの目の前に広が【探知】の魔法、その表示に彼がもった感想は、クロモリをプレイしていた時にみんなでワイワイと騒いだチャットみたいだなという、懐かしさを含んだものである。そして何故か表示に乱入している知り合いの名前に、首をかしげるしかないユウヒは、


「・・・(きっと俺の影響だけじゃないよな)」


 色の変わってしまった目を気にすると、そう心の中で呟くのであった。


 ついでに、名前こそ表示されていないが、何故かとある神物の楽しそうな笑顔透けて見える文章に、ユウヒ心の中で乾いた笑いを漏らしたとかしなかったとか・・・。



 いかがでしたでしょうか?


 サブタイ通り続きますので次もお楽しみにお待ちください。・・・なるべく早く投稿、したいです。


 それではまたここでお会いしましょう。さようならー

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