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ワールズダスト  作者: Hekuto


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第八十九話 道中遭遇、其の者VIPにつき

 どうもHekutoです。


 修正作業終了しましたのでお送りさせていただきます。どうぞユウヒ達の物語をお楽しみください。



『道中遭遇、其の者VIPにつき』 


 ユウヒが自らの信仰神と出会った次の日、柔らかな朝日の下には男が4人。


「・・・」


「・・・」

「・・・」

「・・・」


 何故か疲れた様な表情で森を移動していた。


「昨日は酷い目合ったでござるなユウヒ殿、口は災いの元とはよく言ったものでござる・・・」


「ああ、お前らももうあんな滅びの言葉を使うのはやめとけ? 下手すると、死ぬぞ・・・」

 彼らはあの後、数時間に亘り二柱の神によって物理的にもみくちゃにされたのである。ユウヒは後半、ラビーナも加わる事で挟まれる様に弄ばれ、三忍の方はさらに、良かれとラビーナが呼んだ眷属である巨大ウサギも参加し、締め齧られ、その日は岩場から野宿に適した場所に少し進んだだけで、一日の移動を終えたのであった。


「経験ありそうな口ぶりだが・・・」


「俺は無いが・・・友人がな」

 その時の疲れが今も残っているのか、ゴエンモナビの最短ルートみちなきみちを移動する4人のスピードは、昨日の半分ほどである。それでも一般人から見たら恐ろしく速いペースなのだが、移動する4人からは移動による疲れは伝わってこない。むしろ体力的な疲れより精神的な疲れのほうが大きいようで、今もユウヒは、太く張り出した樹の根を軽く跳び越えながら、昔の記憶に苦笑いを浮かべている。


「俺、なんだか新しい扉開けたかも・・・」


『目を覚ませ!?』


 ただ、最後尾のヒゾウだけはその表情を恥ずかしそうに赤く染め、新しい世界への扉を開きかけているのであった。


 その後、彼らは仲間の曲ってしまった性癖の軌道修正に、数時間を要する事になったのだが、軌道修正したところで、彼の性癖が一般から外れていたりするのは仕様であり、余談である。





 そんな締まらない4人が居る森から場所は変わり、ここはグノー軍暴走ラット討伐西進部隊の本陣。そこでは急激に数を減らした暴走ラットに対し、グノー騎士団は討伐よりも各村落の被害調査と救難者支援を重点的に行っていた。今も討伐を続けているのは、蛇神騎士団と討伐報酬や毛皮が狙いの冒険者がメインである。


「以上が、今の所明らかになっている被害状況です」

 今も本陣では、一人の若い騎士が上官と思われる男性騎士に、暴走ラット被害に関する調査結果の報告を行っている。その若い騎士の表情は不思議と明るく感じられる。


「いくつかの村が放棄されているとは言え、驚くほど被害が少ないな」

 そんな表情も結果を聞けば当然と言えた。


 突発的に引き起こされる災害、『暴走ラット』に襲われれば小さな村など一溜りも無く、大きな村や町だとしても相当な被害が出るのが通例である。それが村の放棄などによる物的被害はあれど、現在の所ネズミによる人的被害は限りなく少なく、大半が避難中の転倒や討伐中の不注意などで怪我をした程度であった。


「そうですね、むしろ我々の被害の方が大きいくらいです」

 そんな報告を確認する上官の言葉に、若い男性騎士はその表情を急に曇らせた。


「・・・被害のうちネズミとの戦闘で後方に下がったのは何割だ」

 表情が曇る理由、それは彼らにはそれなりの被害が出たことを示している。しかし、二人の表情はただネズミによる被害で歪められたものとしては、どこか違和感があった。


「・・・3割です」


「・・・残りは」


「2割が体調不良や不慮の事故で・・・5割が、蛇です」


「5割か・・・」

 そう、実は被害の原因として最も多かったものが『ネズミ』では無く、『蛇』と呼ばれるものであったことが、彼らの表情に妙な歪みを与えていたのである。


「ネズミとの戦闘が減少傾向で、体力が有り余っているのではとの報告です」


「くっ・・・バルカス覚えていろ」


「どうしましょうか」

 続く若者の報告内容に、苦虫を噛み潰したような表情でここに居ない者へ呪詛を零す男性騎士。そう、この男はあの日、直接アルディスから西進する部隊を頼まれた男である。


「早めに切り上げるか・・・いやしかしアルディス様の手前、むむむ・・・」


「はぁ・・・どこかにあいつらの悪癖を一日、いえ一夜でも良いので一手に引き受けてくれる奴は、居ないですかねぇ」

 そして今、彼を悩ませている存在は、あの時アルディスにお願いされた時から変わらず。蛇神騎士団と言う同盟国の救援部隊の存在である。


「・・・色欲魔のオーク族すら裸足で逃げ出す奴らだぞ? そんなの居たらそれは伝説の英雄や神か魔王くらいだろ」


「ですよねー」

 事実その悪癖は、性欲の塊などと比喩される事が多い、豚人種のオーク族ですら恐れるほどであった。幾分大げさな物言いに聞こえる彼らの会話も、被害にあった人間からすれば頷かずに要られない内容であった。





 それから数時間が経過し、空は夕暮れに染まりこの時期で一番美しい色合いを見せ始めていた。


「今日はこの辺りで野宿だな」

 その空の下を、人とは思えない速さで移動する三人の忍者と、ポンチョをなびかせるユウヒの四人。


「まさかのペースダウンでござったな」

 道なき道と言う最短ルートを持ち前のチートな能力で走破してきた彼らは、現在ルートを街道に戻し休憩場を目指しているようだ。


「まいったよなーHAHAHA」


「・・・俺は、あれだけ齧られても動ける三人に驚愕だけどな」


『忍者だからな!』


「説明になってねー」

 いろいろあってペースダウンしてしまった事にお互い笑いあう三人、その姿に苦笑いを浮かべるユウヒ、そんな彼の言葉を待っていたかのように、声を揃えて無駄に凛々しい表情で親指を立てる三モブ忍者。


「ふふ、多少毒を持ていたようだが、忍者の前に死角は無かったと言う事だ」

「あ、あのピリピリした感じは毒だったのか」

「ヒゾウは気が付いてなかったでござるか・・・」


「もう、人外だなおまいら」

 ユウヒにジト目を向けられる新人類たる彼らの前では、多少の毒物など何の意味も成さないようだ。その事実に、ユウヒは呆れた様な眼差しでそう漏らす。


『その言葉そのまま返す!』

 しかしその呟きも、間を置かず三忍に熨斗付きで返されるユウヒ。


 実際に普通の人間なら今頃、兎神のベアハッグで全身複雑骨折により人生終了のお知らせである。たとえ身体強化系の魔法を使っていたとしても、二柱からのダブルハグから人体を守るほどの強度を誇る魔法など、人一人で行使できるものでは無く、如何にユウヒが人外染みているかを表しているのであった。


「あんなダブルアタック我らじゃ耐えられん!」

「そうでござる! 巨峰と大平原のダブルアタックでござる!」

「まさに窒息か圧死のおるたなてぃぶ!」


「ぅ・・・思い出させるなよ、くそ・・・ああいう時こそ仕事しろよな狩人の心得」

 そんなとんでも人間であるユウヒは、三忍の大変失礼なツッコミに昨日の事を思い出し顔を赤くすると、何故かこう言う時だけ仕事をしない【狩人の心得】に愚痴を零すのであった。





 一方その頃、顔を赤くしたユウヒが3モブ忍者にからかわれている場所から遠く次元の彼方、とある管理神の私室では、


「くはぁぁ・・・うまい!」


「ほんとねー市販品に無いこの絶妙な味わいと滑らかさがいいわぁ」

 どこかで見た事のある小樽を挟んで、それぞれ違った美しさを持つ二人の女性が、ほんのりその肌を赤くしながら杯を交わしていた。


「これは、もう一樽も楽しみね」

 一人は人形のように整った顔立ちで、可愛いと言った表現が良く似合う小柄な少女にしか見えない、その名も、合法エタロリつるぺぶげら!?


 ゴフ・・・アミールのずっと上の上司であり、彼女の事を猫可愛がりする四人の管理神の一人であるフェイト・G・フォーチュン、要はユウヒに色々製作依頼を出した管理神である。


「そっちは飲まないの?」

 その正面に座るのは、美しく長い金色の髪を緩く後ろで束ねた美女で、こちらは大人の女性の美しさであるが、ファイトの隣に置いてある別の樽を指さし小首を傾げる仕草からは、どこか幼さを感じる。


「ええ、ユウヒ君の手紙が同封してあってね、飲むならもう少し置いた方が良いらしいわ」


「へー中身何なの?」

 二人が今飲んでいるのは、ユウヒがアミールに渡した二つの小樽の一つで、中身は黄金色の発泡性を持つお酒で、所謂ピルスナーなどに近い麦のお酒である。そしてもう一つ、先ほどから長い髪の女性が気にしている樽には、葡萄の皮から出る色合いを調整して作られたピンク色のお酒で、ロゼなどと呼ばれるワインが入っている。


「ロゼワインらしいわよ? ってその手に持ったシーブスを渡しなさい!」


「ちょっとだけ、ね? 先っちょだけだから」

 フェイトがそんな樽の中身を説明をした瞬間、どこから取り出したのか太く長い管状のガラス製道具を片手に持ち樽に近づく女性、その姿に慌てたフェイトは、彼女を取り押さえシーブスと呼ばれたガラス製の道具を奪い始める。


「あほー! こんなぶっといシーブスで盗ったら、小樽なんて半分は無くなるでしょうが!」

 シーブスとは、樽の中に入ったワインなどを試飲や検査のために取り出す道具で、そのワインを取り出す姿や逸話から泥棒と言う意味の名前を付けられた道具である。


 自分より身長の高い女性を後ろから羽交い絞めにし、なんとかシーブスを奪い取ったフェイトであったが、代わりにワインの入った樽を取られてしまい、シーブスを遠くに放り投げるとそのまま女性に組付く。


「アホってなによ! 上司に向かって!」


「何百億年前の話をしてんのよ! 良いからその樽を返せ!」

 どうやら彼女達は元々上司と部下の関係だったようだが、今現在ワインの入った小樽を奪い合う姿からは、上下関係はうかがい知れない。実際樽を掴み合う中、フェイトはその細い足で地を蹴ると、


「へぶぅ!? ・・・ぶったわね!? アミールにもぶたれたことないのに!」

 女性の頬に容赦なく膝蹴りを叩き込むのであった。


 流石に、小柄なフェイトの攻撃と言えどダメージは大きかった様で、ふらりと床に崩れた女性は頬を抑えると涙目で咆える。・・・いや、大ダメージかと思ったが案外大丈夫なようだ。


「当たり前だあほ! あの娘がそんなことするわけするわけないでしょ」

 むしろ、小樽を抱えて肩で息をしているフェイトの方が疲弊している気がする。


「・・・それもそうね、しょうがないちょっと行って来るわ・・・帰って来るまでワイン開けないでよ?」

 そんな、フェイトにアホと言われ続けている女性は、頬に指を当てながら首を傾げた後、何事も無かったかのように立ち上がると、パタパタと服の埃を掃い部屋の出口へと歩き始め、首だけで振り返るとそう念押しする。


「仕方ないわね、で? どこに行くのよ」


「酒の肴を採って来るわ・・・肉と魚どっちが良いかな?」

 フェイトは、その言葉に溜め息交じりの返答を返すとジト目を向ける。そんな視線を向けられた女性は、ドアノブに手をかけながら酒の肴をとってくると言うが、そのイントネーションからただ持って来るだけではなさそうだ。


「迷う位なら両方で良いじゃない」


「それもそうねぇ、一狩り行って帰りにポセイドンの所寄って来ようかな、それじゃいってきまーす」

 普通なら考えられない様なセリフだが、二人の女性の間では何の問題も無い会話として成立している様である。


「はぁ・・・それにしても美味しいわね、ちょっと本人に会ってみたくなるじゃない・・・ふふふ」

 騒がしかった部屋もフェイト一人になったことで静かになる。そんな部屋の主であるフェイトは、ソファーに座り直すと一つ溜息を吐き、新しく注いだ黄金色のお酒に口を付け微笑む。


 その微笑みは嬉しそうな微笑みから次第に変化して行き、どこか妖艶な空気を醸し出し始める。その小さな舌で自らの唇を舐める姿には、その容姿とのアンバランスさでどこか背徳的な美しさがあった。





 一方、偉い女神に目を付けられたユウヒはと言うと。


「は!? ・・・何か背筋に寒気が」

 持ち前の感により、遥か遠くから自らに忍び寄る怪しい気配を感じとったのか、肌寒い早朝の空の下で急激な目覚めを体験していた。


 その時、ユウヒの背後で蠢く三つの黒い影。


「どうしたでござるぅ?」

「んが? もうあさかぁ」

「うぐぅ・・・はらへったんだよ?」


 それはもぞもぞと寝袋から這い出してくるゴエンモ、まだ寝惚けているらしいジライダ、そして起きた瞬間から空腹による腹痛に見舞われているヒゾウの三人である。


「あーわり、ちょっと変な夢見てな」

 どうやら、ユウヒが起きたことに反応して目が覚めたようだ。そんな彼らが寝ていたのは寂れた小さな休憩場、その中心で小さな焚火を囲んで野宿をしていたのだった。


 普通なら夜番などを交代でしなければいけない野宿なのだが、ユウヒが護衛依頼の時に見た結界石をヒントに作った即席の簡易結界石もどきにより、その必要なく熟睡していた様である。と言っても、新人類たる三人の黒い忍者は、大抵危険が近づくと体が勝手に起きるので普段から野宿で熟睡しているのだが・・・。


「夢見でござるかぁよくあるでござるなぁ」

「そうか? あまり夢とか見ないけどな」

「おまいに夢が無いからじゃねwww」


 三忍は本格的に目が覚めはじめたようで、ゴエンモはつい最近見た悪夢を思い出し、ユウヒの言葉に苦笑いで同意する。その後ろでは寝袋から出てきたジライダが首を傾げ、その言葉を未だ寝袋の中から出てこないヒゾウが笑い飛ばす。その言葉はジライダの何かに触れたのか、ヒゾウの位置から見えないジライダの表情を引き攣らせる。


「ふむ、まぁ丁度いいし飯食うか」

 

「そうでござるなー」

 ユウヒは、そんな一触即発の空気を感じ取ったのか彼等から離れ、ジライダの表情を見ていたゴエンモもその後に続き食事の用意を始める。



「・・・は!?」


 ユウヒとゴエンモの行動で、ようやくジライダの雰囲気が変わったことに気が付いたヒゾウは慌てて逃げようとするも、すっぽりと寝袋に入っていた為俊敏に動けず。


「まてやヒゾウ! 蠱毒の錆にしてくれるわぁ!」


「ちょwww冗談だってwwっうぇ」


 ゆっくりと振り返ったジライダの、黒い負の感情が漏れ出す瞳にロックオンされると、まるで芋虫の様に地を這い、蠱毒を抜いて追いかけてくるジライダから逃げ始める。


「朝一から元気だな」


「ほんとでござる」

 その動きは意外に俊敏で、焚火の火を起し朝食の準備を始めたユウヒとゴエンモの二人から、生暖かい視線を送ら続けるのであった。


「「(・・・うん、動きがキモイ)」」





 そんな朝のやり取りから十数時間後、ユウヒ達は今日の予定地に到達しようとしていた。


「このまま真っ直ぐ行けば広い草原に出るでござる」

「そこが今日の宿営地か、しかし気のせいか一日が酷く短く感じるな」

「うはwwwぼけますたか? ・・・あれ? 俺もそんな気がしてきた」


「あ、ははは・・・ん?」

 若干メタな発言を零しながら彼らが向かっている場所は、街道から少し外れた位置にある草原で、一年を通じてその緑を絶やすことが無い不思議な古戦場である。そんな目的地に向かう一行であったが、ユウヒは何かに気が付いたのか目を細める。


「どうしたでござる?」


「進行方向、目的地の草原に大量の生体反応・・・人っぽいな」

 目を細めるユウヒに気が付いたゴエンモが声をかけると、ユウヒの口からそんな言葉が零れる。どうやらユウヒの妄想魔法である【探知】の範囲内には、既に目的地である草原も含まれているようで、その草原に存在する複数の人間と思われる反応を捉えたようである。


「む? まさかこの間の奴らか?」

「何!? いい匂いのメイドさんか!?」


 今も進化を続ける【探知】の示す結果を聞き反応するジライダとヒゾウ、彼らの脳裏には水の素材を求めて移動していた時に出会ったとある集団が思い出されていた。因みにヒゾウの発言を聞いた瞬間、ジライダの目には嫉妬の黒い光が灯っていた。


「なにそれ?」


「たぶんグノー王国のネズミ討伐部隊でござる。どうするでござるかユウヒ殿」

 

 二人の会話にユウヒが首を傾げていると、ゴエンモが補足説明を始める。


 実際予想通りで、暴走ラットの被害がまだ終息しきっっていない現在、商魂たくましい商人も被害が拡大しやすい大人数での移動は控えており、現状大人数で移動するのは討伐隊くらいなのであった。


「ふむ、とりあえず目的地な訳だからな。話せば場所を間借りできるかもしれないし?」


「了解でござる。近場まではこのままで、途中から普通に歩いたほうがいいでござろうか?」


「そうだな、【探知】で確認してるからスピードの変更は俺が教える」


『了解』

 ユウヒは与えられた情報と【探知】による詳細な情報から、自分たちの目的地が討伐隊の宿営地になっていると判断し、その一部を間借りする事を考えこれからの行動方針を決定する。その決定に3モブ忍者隊も了解すると、ユウヒを先頭に菱型に隊列を組み直し目的地への移動速度を速めた。


 因みに、それまでほぼ横一列だったのになんで急に隊列を組み直したのかと、ユウヒが気になって聞いてみると、声を揃えて『ノリ?』と言う言葉が返って来たのであった。





 それから数分後、ここは不思議な古戦場に展開している。グノー王国暴走ラット討伐西進部隊の宿営地。


「ふぁぁ・・・」


「お前寝るなよ? 安全な場所だからって寝てたら『蛇』に襲われるぞ?」

 その外周のとある場所では、二人の兵士が周囲警戒の為、暗くなり始めた空の下立哨をしていた。


「怖い事言うなよな! 考えない様にしてんだから」


「半数が帰ったってのにな、まぁ居ないとそれはそれで討伐に影響出るし・・・有能な分始末が悪いぜ」

 彼らが担当している場所は宿営地の西側に位置し、見えるのは遠くの木々と暗くなり見え辛くなってきた草原と踏み鳴らされた細い街道くらいである。そんな彼らの雑談の話題は、どうやら同じ討伐隊の人間の話しのようだ。


「ほんと伝説の英雄とか救世主とか現れないものか・・・」


「なんだそれ?」


「騎士の人達がこぼしてたからさ」


「騎士様も悩むのか、俺等じゃどうにも出来ないな・・・」

 その存在は彼等にとって恐怖の対象らしく、一般兵士である自分達にとってずっと上の存在に位置する騎士すら怯える相手に、只々背中を震わせるのであった。


「だよなー・・・ん? 誰か来るぞ」


「お? 本当だな・・・そこの者達何者だ! ここは現在グノー王国軍の宿営地になっている!」

 そんな彼らは、暗い草原の先に動く何者かを見つけると、立哨時の基本装備である2メートルほどの槍を構え声を上げ、マニュアル通りの警戒行動を始める。


 この警戒行動にはいくつか段階的対応が用意されている。


 先ず声を上げこちらの所属と現状を伝えた後、相手が立ち止った場合は警戒したまま再度声かけを続ける。もし相手が無言のまま接近、または接近速度を上げた場合などは、即座に緊急警戒を示す笛を吹き本隊に異常事態を報せる。


「お、当りでござったか」


「俺達は冒険者だ! この辺で野宿の予定だったんだが話をさせてもらっていいか!」

 今回の場合は、声かけに対して即座に返答があった為、警戒を維持したまま一人は少し離れた位置でいつでも動ける様に待機し、もう一人は対象へと近づき直接対応を始めると言う流れだ。これはもし不意を突かれ襲われたとしても、後方及び本隊に異常事態を知らせる事が出来る様にと考えられたものである。


「冒険者か、しかしこんなところで野宿とは珍しいな」


「そうだな、わかった! こっちに来てくれ!」

 ユウヒ達の声色が明るかった為か、さほど警戒の色を濃くしていない二人の兵士は、珍しい場所で野宿をすると言う冒険者に首を傾げながらも、マニュアル通りの対応を始める。


 この一連の行動から、グノー王国兵士の質の良さが窺い知れる。もし質が低い兵士であれば、長く続く遠征によるストレスで無駄に相手を警戒するか、警戒が緩くなってしまい思わぬ事態へと繋がっていたかもしれない。





 それからさらに数分後、場所は変わりとあるテントの中。


 そのテントはグノー王国軍で使用する個人用テントでは大きい方であり、このタイプのテントを使用できるのは、指揮官やその補佐をする騎士などの隊長職である。


「失礼します! 中隊長、報告があります!」


「ん? どうした何かあったか?」

 現在、このテントは中隊長と呼ばれた男性騎士が使っているようで、その室内は簡易ベッドやテーブルの他に、個人の荷物や装備類、報告書なのだろうかいくつかの羊皮紙が積められた箱などが置いてあり、意外と狭く感じられる。


「は! 通り掛かりの冒険者4名が本陣周辺での野営許可を求めています! 同行してもらいましたがいかがいたしましょう」


「冒険者? わかった話を聞こう、入ってもらえ」

 テントの主である男性騎士は、その装備から立哨をしていたと思われる兵士の報告に、少し不思議そうな表情を浮かべると、すぐに了解に意を伝えテント内に入ってもらう様伝える。意外と狭く感じるとは言え、それなりに大きなテントの為、男性騎士以外にあと3~4人は問題なく入れそうである。


「は! 入っていいぞ」


「失礼するでござる」


「忙しい所すみません」

 そんなテントの中に入って来たのは、ユウヒとゴエンモの二人。


 テントまで行われた議論の結果、ジライダとヒゾウの二人に任せるのは危険、でも全員で行っても邪魔くね? かと言って一般人モブであるゴエンモ一人で偉い人の前に出るのは怖いでござる、その結果ユウヒとゴエンモと言う構成になったのであった。


「いやきに・・・ゆゆ、ユウヒ殿!?」

 冒険者にしては珍しく礼儀正しい仕草で入って来た二人の姿に、男性騎士は多少気を良くし視線を二人に向けるも、その姿を確認するや否や驚愕に目を見開き大きな声を上げる。


「ござ?」


「ん?」

 テント内に入って早々、大きな声で名前を呼ばれたユウヒは首を傾げ、ゴエンモも不思議そうにユウヒと男性騎士を見比べる。


「まさかこの様な所でユウヒ殿に会えるとは! 王城での素晴らしい魔法披露、拝見させていただきました!」

 実はこの男性騎士、グノー王国では珍しくない魔法に憧れる人間の一人であり、以前ユウヒが王城の訓練場で披露した自重できてない魔法ドリルピラーを、目の当たりにしていたのである。また彼は王城の広間で開かれた晩餐会の日、ユウヒを女性騎士団の突撃から守るためにバルカス達と共に奮闘した一人である。


「え? おお、あそこに居たんだ・・・」


「あの、中隊長? お知り合いで?」

 若干どころかかなり興奮した様子で話しかけてくる男性騎士に、流石のユウヒも引き気味で、さらにその場の空気で自重を忘れた魔法披露を思い出し、その表情を引き攣らせる。その後ろでは、目の前で珍しく興奮した様子を見せる上官の姿に、不思議そうな表情を浮かべた兵士の男性が、そのまま疑問を問い掛ける。


「バカ者! この方はアルディス様の命の恩人である、冒険者のユウヒ殿だ」


「え、ええ!? あの凄腕魔法士で王女様方のす、げふんげふん! し、失礼しました!」

 現在グノー王国、特に騎士団の中ではユウヒの扱いが貴賓扱いになっている。


 理由はいくつかあるが、単純に王様がユウヒを気に入った事、またアルディスがユウヒに憧れにも似た感情を懐いている事、さらに建国以来ある理由から魔法に対し憧れを持つ傾向のあるグノー王国民にとって、ユウヒの魅せた魔法はあまりにインパクトが強かったようである。


「あー、いや普通にしてください。俺は唯の冒険者ですから」

 他にもいろいろと理由があるのだが、この場では割愛しておくとして、そんな背景もありユウヒに対してこのような貴賓待遇になっているのであった。そんなこと知らないユウヒは、訳が分からず只々その表情を引き攣らせ戸惑いを隠せないで居る。


「いやいや御謙遜を! すぐにテントを用意いたします!」


「何というVIP待遇でござるか・・・」


 あまりに丁寧な扱いに、日本人らしい謙虚な対応を見せるユウヒであったが、どうやらそれは逆効果だったようで、その光景はゴエンモも若干引くほどである。


「あはは、野営地の一角を間借りできればいいので、特別扱いは要りません」


「そ、そうですか? ・・・うむむ、ではなるべく安全で騒がしく無い所をご案内いたします。おい! 隊長に連絡しておけ!」


「はは、はい! 失礼します!」

 引き攣ったまま戻らないユウヒの困ったような表情に、男性騎士は不思議そうな表情を浮かべる。しかしそれでも案内は買って出てくれるようで、ここまでユウヒ達を連れてきた兵士に男性騎士が次の命令を与え、命令を受けた兵士はビシッと音が出る様な敬礼を見せると、慌ててテントを走り出た。


「おーいどうなった? お?」

「お?」


 兵士が駆け出して行ったテントの出入口から顔を出したのは、キョトンとした顔のジライダとヒゾウ。


「それではユウヒ殿こちらです! お連れ様もどうぞこちらに!」


「・・・あれ? なんかVIPな感じ?」

「速報ですね解ります・・・てかほんと何事?」

「ユウヒ殿が予想以上にVIPだった件についてでござる」


「むむむ・・・なんでだろう?」

 出入口に居たジライダとヒゾウの姿から、彼らもユウヒの連れであると理解した男性騎士は、彼等にも同じような待遇で接すると宿営地内の案内を始める。そのあまりに高待遇な状況に、ジライダがポカンとした表情を浮かべ、それでも隣でヒゾウがしっかりボケるもやはり疑問を覚えたのか、隣までやってきたゴエンモに問い掛けている。


「何を言ってるんですか、グノー王都では有名ですよ? 危機に瀕したアルディス殿下を颯爽と現れたユウヒ殿が助けた話は」


「え?」

 そんな疑問に、さらにボケるゴエンモと首を傾げるユウヒ、その声に振り返った騎士は不思議そうな表情で話し始める。どうやらグノー王都では、アルディスが賊に襲われた話が大きなニュースになっていたようで、その窮地を助けたユウヒの話しは美談として語られているらしい。


「しかも、道中で数人の冒険者と共にアサルトボアを無傷で討伐された時の話など感動いたしました!」


「え、いやほらあれは皆が強かったからだし、偶然上手くいっただけなのでそんな感動とか・・・」

 さらに王都までの道のりでの出来事は、アルディスや某冒険者達により語られ更なる人気を呼んでいるようだ。その裏にはユウヒの情報を集める様々な人間の思惑が変の方向に影響しているのだが、そんな事になっているなど知る由も無かったユウヒにとっては寝耳に水であった。


「・・・いや、流石ユウヒ殿言う事が違いますな! はっはっはっは!」


「可笑しいな言葉通じてるよね?」

 妙な噂の軌道修正をしたいユウヒであったが、その言葉は逆効果だったのか男性騎士を喜ばせるだけに終わった。元々アサルトボアを10人にも満たない人数で、しかも無傷で倒せるほうがおかしいのであり、それを顕示しない冒険者など美談を描いた絵物語にしかいないのである。


「流石魔王ユウヒ、氷原を統べたカリスマは伊達じゃないな」

「ユウヒ殿は妙に勘が鋭いのに絶妙に鈍感でござるな」

「絶妙な認識のズレも感じるな」


 これも偏に、この世界の常識からズレたユウヒの成せる技なのかもしれない。因みに三忍のユウヒを怒らせそうな呟きは、若干混乱中のユウヒには聞こえていなかった。


「是非ユウヒ殿の武勇伝を聞かせてください! きっと兵士たちも喜びますので」


「ぶ、武勇伝なんてないけどなぁ」

 軌道修正に失敗したユウヒの困ったような表情に気が付かない男性騎士は絶好調で、ユウヒ達を先導しながらも顔だけユウヒ達の方を向けると、どこか少年の様な笑みをその顔に浮かべている。対照的にユウヒの表情は苦笑いに変わっているが。


 その温度差のある空気を敏感に感じ取った三人の黒い影、彼らはその目を怪しく光らせると邪悪な気配を纏いユウヒの肩に手を置く。


「ユウヒ殿、拙者等に任せるでござる」

「我らにかかれば武勇伝の一語りなど、容易いものよ」

「そうそう晩飯前にちょちょいと語ってやんよ」


 そう、こんな楽しそうな空気、掻きまわしてなんぼが3モブクオリティ。あとでどんな目に合うとか、地雷原だと分かっていても進み続けるのが彼らの生き様である。


「ちょ!?」


「おお! それは心強い!」

 彼らの思惑を敏感に感じ取ったユウヒは、驚愕の声を上げ振り返る。そんなユウヒとは違いこちらは満面の笑みで嬉しそうな声を上げ振り返る男性騎士。


「やめてー!?」

 ユウヒを追い越し、男性騎士にどこか馴れ馴れしく、しかし何故か許せてしまう雰囲気で語りかけ始める三モブ忍者隊。


 その覆面に隠され邪悪に歪められた口から自分にとってよろしくない事が語られそうだと、足早に進んでいく彼らを追いかけ始めたユウヒは、後にこう語った。「あの時、あいつらの背中とお尻に悪魔の羽と尻尾が見えた」と・・・。



 いかがでしたでしょうか?


 女難の相が見え隠れするユウヒにいつでも平常運転の三モブ忍者、彼らが引き起こす事態に乞うご期待・・・していただけるだけの話を書いてきます。


 それではまたここでお会いしましょう。さようならー

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