第八十八話 悲劇? 喜劇? 大きな山と小さな丘
・・・めちゃお久しぶりですHekutoです。
忘れないで来て下さった方ありがとうございます。新規さんゆっくりしていってくださいね。それではユウヒ達のお話を楽しんでいってください。
『悲劇? 喜劇? 大きな山と小さな丘』
とある古代の遺産が広がる岩場で、ユウヒが地面に崩れ去り、それをメディーナが慌てて介抱している頃、ここはとある街道を走る馬車の中。
「・・・!」
「どうしたシェラ?」
その車中には移動中のシェラとガレフ、それと馬車の帆から顔を外に出し風を楽しんでいるヒューリカの姿があった。そんな中、ガレフの向かいで舟をこいでいたシェラが慌てて起き上がり、その突然の行動にガレフは肩に掛けていた戦斧を掴みシェラに何事かと問いかける。
「二つの嫌な予感・・・」
以前にもあったが、彼女は敵や危険を察知する技能に優れており、危険を察知しては今の様な行動を起し度々パーティの危機を救ってきていた。
「うん? 何かあったのかい?」
「何か感じたみたいだが・・・シェラ、敵じゃないのか?」
その為、ガレフは今回も何か危険が迫っているのかと得物を握る手に力を籠めたのだが、その雰囲気がいつもと違う事に気が付くと、頭を馬車の中に引っ込め振り返るヒューリカに首を傾げて見せ、娘に問い掛ける。
「・・・一つは」
いつものとは違う娘の、神官である娘が神託などを受ける時に見せるどこか人形の様な表情を静かに見詰めるガレフ。それはこの乗合馬車に乗る他の客も同じようで、ヒューリカも含め静かに紡がれる言葉を待っていた。
「メディーナ様の御心に乱れが・・・もう一つ、いや両方ともこれは・・・ユウヒ?」
しかしそんなシェラの口から出たのはとある一柱の女神の名と、ガレフ達の心に印象深く残る冒険者の名前であった。
「「はぁ?」」
そんな二つの名前が並んで出て来るなど思いもしないガレフとヒューリカは、思わず変な声を出してしまい同乗していた他の客から不思議そうな目で見られるのであった。
それから小一時間後、場所はユウヒ達の居る岩場に戻る。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
そこにはメディーナの回復系魔法で復活したユウヒが岩の上に正座しており、疲れたようなユウヒの視線の先ではウサミミが、もといラビーナが壊れたレコーダーのように同じ言葉を繰り返しながら土下座をしていた。
「えー、色々理解しました。とりあえずは、ものすごく久しぶりに出来た信者にやっと会えて焦らされた分余計に興奮したと言う事でおk?」
「おけ? まぁそう言う事だね、悪かったね騒がせて」
神様が人に土下座すると言う普通なら有り得ない状況で、ユウヒはどこか可哀想な人を見る様な生ぬるい視線を目の前の兎神に注ぎつつメディーナに確認を取る。まぁ簡単に言えばその通りではあるのだが、それだけ聞けば唯の変態である。
「まぁ問題無い・・・いやまぁちょっと色々問題はあったけど」
メディーナの謝罪にいつも通り平静に受け答えするユウヒの様であったが、その頬は赤く視線を一瞬自分の太ももの間に彷徨わせると、メディーナの視線から逃げる様に顔を背ける。
「ふぅん・・・ふふ、ちゃんと男の反応もするみたいだねぇ」
そんなユウヒの行動ですべてを察したメディーナは、ニヤニヤとした笑みを浮かべると楽しそうな声を漏らす。どうやらユウヒが正座している理由は、神様相手と言うほかに、あるモノを隠す為でもあったようだ。
「あれで反応しないとかありえんだろ」
「そいつは重度のホ○確定でござるな」
「もしくは初心すぎて昇天するパターンでもおk」
メディーナがユウヒの視線に回り込んで遊んでいる横では、ユウヒ達をまるで舞台上の劇として見るかのように、行儀よく手ごろな岩に座る三人の忍者がそれぞれに当り前だと言った雰囲気でそれぞれに感想を述べている。
「はぁ・・・」
「なにがですか?」
メディーナの視線から逃げていたユウヒが、忍者達の声に疲れた様な溜息をつくと、目の前でキョトンとした表情を浮かべ首を傾げているラビーナを、疲れた目で見詰めるのであった。
「なんでもないよ、それよりさっさと加護を与えちゃいな? 人は私たちほど暇じゃないんだから」
「あ、そうだね! それじゃユウヒ君痛くしないから真っ直ぐ立っててね?」
「な、何をするのでしょうか?」
一通り楽しんだのか、ユウヒから離れたメディーナはラビーナに何でもないと告げると、岩の上でベタ座りしている兎神に本来の目的を思い出させる。そんなメディーナの言葉で本来の目的を思い出したらしいラビーナは、跳ぶように立ち上がると恐怖からか若干腰の引けているユウヒの手を取り立ち上がらせる。
「安心しな、信者に加護を与えるだけだよ。敬虔な信者へ神族からの愛ってやつさ」
「はぁ? そんなものもあるん―――!?」
先ほどの事もあり若干腰の引けるユウヒに簡単な説明をするメディーナ、その説明に少し気を抜いた瞬間、視界の隅で瞳を怪しく光らせた白い塊が目にも止まらぬ動きを見せ、
「むーー!? むぐー!」
まるで先ほどの再現のようにユウヒをその懐に飲み込んだ。
「ヒャハー! 俺のHDDで録画開始だ!」
「ビバ爆乳祭りでござる! おっきいは正義でござる!」
「うほwwいいぞもっとやれ!」
目の前で起きた事態に、三忍者達は姿勢を正して座っていた状態から勢いよく立ち上がると、待ってましたと言わんばかりに歓声を上げ、舞台上(板状の岩の上)で起る奇跡の瞬間を目に焼き付け始める。
「ぷは!? なんで度々抱き着いてくるんだ!?」
「「ん? 仕様ですがなにか?」」
「マジかよ!?」
今回はそこまで力強く抱きしめて無かったのか、ユウヒは耳まで赤くするも何とか顔だけは抜けだし抗議の声を上げる。しかしその抗議も、きょとんとして何も分かって無さそうな表情のラビーナと、ニヤニヤと楽しそうに笑いすべてを察しているメディーナに切り捨てられる。
『ごちそうさまでした』
そして三人のやり取りに、満足した様にお礼を述べ親指を力強く立てる三忍者・・・もうぐだぐだである。
「・・・これで加護とかいうのを授かったのか? 実感ないけどどんなものなんだ?」
「えっとね! 先ず兎族と仲良くなれるの!」
「あぁまぁ良い事? なのかな」
その後も、「もう少し、もう少しだけだから」と抱き着き粘るラビーナから脱出したユウヒは、色々と火照ったものを冷ましながら自分の体を確認する。しかしユウヒは加護の実感を感じれないでいるようで、首をかしげていると、その様子にラビーナは嬉しそうに説明を始める。
「ウサギをもふもふし放題ですね解ります」
「なんと羨ましい加護でござるか」
「我にもその加護が欲しい、いや結構切実に」
その一つが兎族に分類される種族との親和性が上がると言う物である。これは兎神ならではの加護なのだろう。特に動物全般に嫌われるらしいジライダにとっては、喉から手が出るほど欲しい加護だとか。
「あとはねぇ子宝に恵まれるの!」
「・・・いらね」
「ええ!?」
「独り身に子宝とか嫌がらせだな」
「遠回しな蔑みでござるな」
「ユウヒ元気出せ? ほらきっと良い事あるから」
二つ目も兎らしい加護と言えるのか解らないが子宝の加護である。一部の幸せな人にはもってこいの加護であろうが、ここに居る独身童貞野郎共にとっては唯の虐めともとれる加護だ。
「・・・」
そんなどこか背中に影を背負う男共の評価に、ラビーナはショックを受け若干涙目になり、メディーナはどこか意味ありげな笑みで唇を舐めている。
「えっと!? あとこれはとっておきなの! 豊穣の力が宿るの! すごいんだよ!?」
「ほうじょう?」
「相模の戦国大名でござるか?」
「それは北条だろ」
「だれぞそれ?」
そして最後は、ラビーナ曰くとっておきの加護だと言う、豊穣の力である。因みに、首を傾げるユウヒの隣で三忍者が囁いている様な戦国大名とは、何も関係は無い。因みにヒゾウは歴史が苦手と言う事実は完全に余談である。
「豊作を呼び込む力だよ、簡単に説明するなら加護持ちが近くにいるだけで作物なんかが良く育ったり病気にならなかったりって感じね」
「へーそれは農家に大人気な力だな」
「えへへー」
「ラビーナは一応農耕神でも上のほうだからね」
この加護は、豊穣の女神ラフィールの娘として上位農耕神の地位にあるラビーナだからこそ与える事の出来る力で、農業などでその力を大いに発揮する。そんな現代人にも大助かりな加護に、ユウヒは純粋に感心し、ラビーナもやっと喜んでくれたと嬉しそうに表情を綻ばせる。
「なるほどなぁ・・・ところで、お姉さん?」
ラビーナと言う女神が、予想以上に凄い神様だと言う事に感心しているユウヒ、しかしその表情は心なしか強張り、さらに腰どころか体全体が引けている。
「私の事かい? それならメディーナって呼びな、滅多に無いサービスだ呼び捨てを許してやるよ」
「えっと・・・メディーナさんは、なんでじりじりと近づいてきてるのでせうか?」
何故なら先ほどからメディーナがジリジリとユウヒに近づいてきており、ユウヒを見詰めるその瞳に怪しい光を宿していたからだ。その怪しく光る瞳に妙なプレッシャー感じたユウヒは、自然と後ろに下がり始める。
「ふっ・・・愚問ね、神が気に入った人間に加護を与えるのは当然だろ? じっとしてな、あと名前をちゃんと呼ぶまで離してあげないよ?・・・ふふふふ」
身の危険を感じ後ろに下がるユウヒであったが、ふわりと動いたメディーナにいつの間にか抱きしめられており、耳元で囁かれる声に再度顔を赤く染める。
「こ、これは!?」
「ご、ござ!?」
「上から目線良いです・・・でも」
そんな様子に再び立ち上がる忍者達であったが、ラビーナが見た彼らの表情は今までにないほど驚愕の表情で染められていた。
「うにゅ?」
そして・・・
『か、顔がまったく埋まらないだと!?』
「・・・(だめだ、それは滅びの言葉・・・)」
その表情のまま、彼らはユウヒ曰く滅びの言葉を口にした。
「・・・・・・ヤレ」
『ぎゃーー!? 蛇ぃ!?』
滅びの言葉を聞いたメディーナは、ハイライトの消えた冷たく淀んだ瞳で三つの黒いナニカを見詰めると、ぽつりと何かに呟く。その瞬間3モブ忍者の周囲に複雑な魔法陣が浮かび上がり、中から三つ首の大蛇が飛び出してくる。
「・・・メディーナ、ほどほどにね」
ユウヒの視線の先では、まさに『口は災いの元』と言う諺を体現したような三人が蛇に巻き付かれ、足は地面から離れている。そんな同朋の姿に、ユウヒは呆れた様な視線を送りつつ、女神の名を呼ぶ。
「・・・ちっ、わかったよ善処してやるよ。・・・あんたもこんな胸じゃ、抱き着かれたくない口かい?」
ユウヒに名を呼ばれたメディーナは、3モブを射抜く縦に割れた瞳孔を元に戻すと、小さな舌打ちをし、善処すると言い胸に抱いたユウヒに視線を戻す。その表情は、早々に名を呼ばれた為か心なし寂しそうだ。
「いや、そうでもないので・・・そろそろ離してください」
「ん? ははぁん? あんた良い子だねぇ!」
しかしその表情も、顔を赤く染め視線を外すユウヒのとある状態に気が付くと、一瞬キョトンとした後に、ニヤニヤとした笑みに変わる。
「ああ!? 止めて当ってるてか、あたるからぁ!?」
「何がだい? いってみなぁ? ほらほらほらぁ」
ナニがどうしたとは言わないが、先ほどまで顔を胸に押し付ける様に抱きしめていた腕を、ユウヒの腰に移動させ、今度は下半身を押し付ける様に抱きしめるメディーナ。
「らめぇぇぇ! そんなに締められたら身が出ちゃうぅぅ!」
「ぬお!? こらガジガジ噛むな!? 我は犬ガムではないぞぉぉぉ!?」
「この場合は蛇ガムでござるか!? いたたたたでござるぅぅ!」
そんなメディーナに抱きしめ直されたユウヒが視線を逸らした方向では、現在進行形で三つ首の大蛇に遊ばれている三忍の姿。
「ふふふふ」
「(絶対この人ドSだよ・・・)」
そしてチラリと視線を戻した先にある、とても楽しそうな表情。ユウヒはこの瞬間メディーナと言う女神の印象を、ドが付くサディストに決定するのであった。
「みんな楽しそうだね!」
そしてこの状況で、ニコニコとした表情を浮かべそう告げる自らの信仰神をド天然で固定した。このユウヒと言う人物は、存外失礼な奴なのかもしれない。
いかがでしたでしょうか?
えー今回の話はサービス回なのでしょうか? 忍者達は最終的にカミカミされてましたが・・・。
それでは今回もこの辺で、またここでお会いしましょう。さようならー




