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ワールズダスト  作者: Hekuto


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第八十三話 新たな相棒と忍び寄る影

 どうも超お久しぶりですHekutoです。


 いろいろあって執筆が遅れましたが、修正作業完了しましたので、投稿させていただきます。どうぞお楽しみください。




『新たな相棒と忍び寄る影』 


 三人の忍者が劇画調の顔で、ユウヒに締まらないサムズアップを見せている頃、ここはアミール・トラペットの仕事部屋。


「良いお湯でしたぁ♪」

 そこには血行の良くなったアミールが、まだ少し濡れた髪を軽く纏めながら通信機の前で幸せそうな表情を浮かべていた。その表情が入浴による余韻なのか、それともこれか行う事が楽しみな為に緩められているかは、アミールのみぞ知るである。


「さて、ユウヒさんに<ビー! ビー!>ひゃわい!?」

 そんな女神様は通信機の前に座り直し鏡を見て前髪を直すと、嬉しそうに通信機の操作を始める。しかし操作を始めて数秒後、突然鳴り響くいつもより大きな着信の音に、腰を浮かし驚きの声を上げるアミール。


 その通信を送って来た相手とは・・・。


「・・・先輩、やっぱり監視してませんか?」

 ステラ・パラミス、通称先輩であった。


 そんな前にもあったような状況に、本気で疑わしい視線を向けるアミール。


「いや、だから第一声でそれはひど、じゃなかった! アミール君急いでいるんだ!」


「は、はぃ?」

 通信画面が開いて早々に、ジト目と不躾な言葉をぶつけられたステラは、表情を引き攣らせながらも何故か頬を赤く染めている。しかしそんな微妙な表情も束の間、慌てた様に話し始め、ジト目のアミールをキョトンとした表情に変えさせる。


「実は、違法プログラムの一つを泳がせといたんだけど、最近使った形跡が有ってね・・・そのデータからあいつらの行動が色々絞れそうなんだよ」


「ほ、本当ですか!?」

 どうやら、アミールが通信機を不通にする原因だった件で思わぬ動きがあったようだ。その知らせにアミールも驚きの表情を浮かべている。


「だからそのデータの詳細を洗い出してほしいんだよ。こちらじゃそっちの中枢区画にアクセスできないからね」


「え! で、でもぉ・・・」

 中枢区画と言うのは各世界ごとに存在する情報空間の事で、所謂真理などと呼ばれ、世界を構成する中心とも言える場所である。


 その区画へアクセスする権限は各世界の担当管理神にしかなく、今回の場合はアミールがその役職に該当する。


「時間がかかれば意味が無くなってしまう。これは最重要緊急案件だよ」

 因みに中枢区画へのアクセスは非常に繊細なもので、特定の情報を取り出すだけでも平気で一日掛かりの仕事になりかねない。


「うぅ・・・わかりました。・・・最速でデータを洗い出しますので」

 それは今からかかったとしても当然、今日中にユウヒと話す事は叶わないと言う事を示し、その事実と乙女心がアミールの心の天秤を揺らすが、珍しく真面目な先輩や重要な仕事がその天秤を強制的に傾ける。


「う、うん? そうしてくれるとありがたいんだが・・・どうしたのかな? 何だか気炎が出てるけど」

 しばらく悩むように俯かせていた顔を徐に上げたアミール、その顔はいつも通りの見惚れるような美しいものであったが、何故かその表情を見たステラは背中に薄ら寒い物を感じ、アミールの背後に漂う気炎に冷や汗を流し始める。


「うぅぅ! なんでもありませんー!」


「ちょ!? 何をおこ―――」

 背後から赤い気炎を上げるアミールは、俯かせていた顔を完全に上げると若干涙目の表情で咆え、モニターの向こうで慌てているステラを無視して通信機の電源プラグを勢いよく引き抜くと、荒々しく仕事机へと向かう。


 因みに、このようにコードを引っ張ってプラグを外すと、コード内部で導線が断線する恐れがあり火事の原因にもなるので、良い子は真似しないようにしましょう。


「ふぅぅ・・・ワークシステム起動! 中枢区画にフルコネクトします!」


<イ、イエスマム!>

 椅子に深く座り込んだアミールは気を落ち着かせるように深く息を吐くと、表情を引き締め仕事に必要な機能を立ち上げさらに指示を出す。


 フルコネクトとは、全神経をワークシステムと接続することで効率よく情報を引き出したり、素早く仕事をこなす事が出来るのだが、その反面身体的、精神的負担も大きい。しかし少しでも早く仕事を終わらせたいアミールにとっては、その程度の負担は些細な事のようである。


「これも、これも全てあのクソ上司のせいです! あのクソ愚物、目に物を見せてあげます!!」

 フルコネクトのために落ち着けた心だったが、ふつふつと湧き上がる怒りに抑えが効かなくなった様で、もう一度大きく咆えて発散するとコネクトを開始するアミール。


<(・・・美人が怒ると怖い、メモリの最重要情報に保護付きで保存しておきましょう)>

 直後眠る様に椅子に座り、彼女を中心に様々な光の帯が目紛るしく回り踊り始める姿に、サポートAIは自らのメモリ内部にたった今学習したばかりの情報を深く刻み込み、それと同時に芽生えた『恐怖』と言う新しい感情をもてあますのであった。





 そんな事が起きている頃、とある宿の一室ではこれからの事について話し合う四人の男の姿があった。

「なるほど、その森に目当ての危険物がある。と言う訳か」


「確定ではないけどな」


「どんな物かも分からないのか?」


「んー危険物とは聞いているんだが、資料が無くて数も種類も特定できないらしい」

 ユウヒは、冒険者ギルドで聞いた強欲の森に、何らかの危険物が存在するのではないかと睨んでおり、他に情報も無い為、一度森の様子を見に行くつもりのようだ。


「それはユウヒ殿の魔法を使って探せないのでござろうか?」

「いやいや、魔法だからってそこまで万能なわけねーだろww」

「出来たら苦労しないわwww」


 そんなユウヒの予定に三忍者達はまるで危機感を感じていないが、これをもしこの国の人間が聞こうものならその正気を疑う事だろう。それは周辺の国々も同様であり、それだけ強欲の森と言う場所は恐れられているのだ。


「ん? あ! ・・・できるかも」


『できるの!?』

 その事実をまったく理解していない四人は、無知故かどこまでも明るい。


「んー正確な位置とかどんな物かは分からないけど、たぶん近くまで行けば方角位なら分かるかも」

 その明るい雰囲気の会話内容によると、どうやらユウヒは探し物である危険物を見つける方法を思いついたようで、驚く三忍の前でこくこくと頷きながら上手くいきそうな予想に頬を緩めている。


「魔法って万能だったんだな」

「凄いでござるなぁ」

「てかなんで今までそれやらなかったのさ?」


「・・・思いつかなかったと言うか、あれで見つかるのかどうか試してみないとなぁ」

 彼等はユウヒの妄想魔法の万能性に感心する手前、何故今まで使わなかったのかと首を傾げ、その三対の瞳にユウヒは少し照れたように顔を背け恥ずかしそうにそう零した。


 ユウヒも3モブ同様『力』をもらったに過ぎない為、どうしてもあちこちで粗が出てきてしまうのは当然だろう。むしろ神様勢に言わせてみれば、ここまで『力』を使いこなす方が異常であり、実に恐ろしきはユウヒの適応力の高さなのである。


 その適応力が何処から来ているのか、についてはまた別の御話である。


「まぁとりあえずは森まで行って、その魔法を試してみるでござる」

「強欲の森とか厨二心を擽られるからな」

「まったくおまえら餓鬼だなwwwさあ行くぞユウヒ!」


 そんな事実があることなど知らない三人の心は、ユウヒの隠された真実よりも厨二病擽る名前の森の方に奪われているようで、今にも跳びだしてしまいそうな勢いである。


「全力だなおい・・・出発は明日で今日は準備だな。新しい武器の慣らしとかもいるだろ?」

 そんな三人にユウヒは苦笑いを浮かべるとやんわりと宥め、その有り余る元気の方向性を変える。この辺の対応力は主に、仕事で身に付けたスキルであるのは、彼だけの秘密であった。


「ですよねー」

「それもそうだな、ふふふ今宵の蠱毒は血に飢えておるぞ」

「まだ昼でござる。ところでそっちの長物なんでござる?」


 方向性を変えたついでに若干テンションも下がったおかげか、ゴエンモは今まで気にしてなかった長物に目がいったようである。というかジライダはやられ役みたいなセリフを吐いて刀を舐めているが、それが毒物だと言う事を覚えてるのだろうか。


「これか? これは俺の新しい相棒だよ」

 毒物を嬉々として舐めるジライダに呆れながらも、自分の新しい相棒の事を聞かれたからか、ユウヒの表情は少年のように嬉しそうである。


「ほう綺麗なショートランスだな」

「そっちの槍の名はあるでござるか?」


「特に付けては居ないけど、そうだな・・・『三界の短槍』と言ったところかな?」

 ユウヒがその長物にまかれていた布を取ると、中からは透き通る様な青を基調にした美しい槍が出て来る。その槍を見た三人は自分の得物を仕舞うと身を乗り出す様にし、ユウヒ曰く『三界の短槍』観始める。


「三? 確かに三色の木目が綺麗だが、何で塗ってるんだ?」


「いや地の色なんだけど、精霊銀と水霊銀それから魔鉄を使ってあってね」


「むむむ、なにやら凄そうな感じでござる。この嵌めこんである石は何でござる?」


「風の魔石だよ、相性は悪くないみたいだったからシャフトと穂の接合部分のカバー的な意味合いも込めて使ってみたんだ。反対の石突には地の魔結晶が余ってたから同じく付けてみた」

 三人も男子だからかこの手の物には興味が尽きないようで、楽しそうに説明するユウヒにあれこれ質問を続ける。彼らが槍に熱中している間にこの槍の事を簡単に説明しておこう。



【三界の短槍】製作者:ユウヒ

 水の小精霊から貰った水霊銀を使いユウヒが自分のために作った新たな相棒。穂は変質し辛い水霊銀をベースに作られ、柄部分は中空の魔鉄を芯材に水霊銀と精霊銀を重ね合わせ、美しい木目状に仕上げられている。

 見た目が美しいのはもちろん、その性能はユウヒが本気で作っただけの性能がある。水、風、地の三属性の魔石や魔結晶、霊銀による補助と、普通の製法では在りえないその造りによる純粋な武器としての性能は、国の宝物庫に保管されてもおかしくないレベルである。


長さ1300㎜ 刃渡り290㎜ 重量2500g

性能:物理B- 魔法B 耐久力C+   

特性:魔力の道標 水の理 火精泣かし そよ風の加護 硬化 水気の衣

属性:刺突 斬撃 打撃小 水 風 地 


魔力の道標:魔法を使うときの効率が良くなる。

水の理:水属性の魔法の効果と効率が大幅に上昇する。

火精泣かし:火属性の魔法に対する耐性が大幅に上昇する。

そよ風の加護:風属性の魔法に対する耐性が少し上昇する。

硬化:地の加護により耐久力が一定値上昇する。

水気の衣:常に清浄な水気を纏っており汚れや腐食を防ぐ。



 正直、この世界でこれと同等の武器となると、伝説上のものや神具と言ったものになるだろう。純粋な武器としてはB-と名のある武具程度だがその特性を合わせると、総合的に伝説の武器や神具と同じAランクに達するのである。


「公式チートですね解ります」

「普通にチート武器でいいでござる」

「むぅこの青と銀と黒の木目がなんとも」


 一通りの説明にヒゾウとゴエンモは引き気味の表情を浮かべ、ジライダはユウヒも結構苦労した木目が羨ましいのか物欲しそうな目で見ている。


「さてと、俺も慣らしとかしてくるからまた後でな?」

 そんな彼らから相棒を取り返したユウヒは、背中に背負った槍袋に相棒を収めると立ち上がる。


 ついでにこの木目は重心の調整などでわざと歪な層を作り表面を均一に磨き上げる事で作られているのだが、この工程だけで製作時間の8割を使っている辺り、ユウヒの凝り性な部分が窺えるのだった。


「うむ、それでは我らも行って来るとしようか。夜にまた会おう」

「拙者は先に買い出しでござる・・・二人に任せたらまた餓死の危機でござる」

「信用ねーなー」


 ユウヒが立ち上がった事で三人も行動を開始するようだ。和気藹々と喋りながら、三忍はオジサン臭く立ち上がり始める。


「それじゃ強欲の森への詳しい計画は夜だな、その時には酒も出来上がっているだろうから少し試飲もしてよ」

 ユウヒはゴエンモの言葉に苦笑いを浮かべると、また夜に合流することを約束し酒の入った樽を小突きながらそんな提案をする。


『おお! 流石ユウヒ大明神そこに痺れるあこ「その話、詳しく聞きたい」が!?』


 そんなユウヒの粋な計らいに喜ぶ三忍だったが直後、背後からかかった声に動きを止めると、一斉に振り返る。その視線の先に現れた一体の影に三人の忍者は表情を凍りつかせると、まるで蛇に睨まれたカエルのように動きを止めるのであった。


「・・・(だれ?)」





 一方ユウヒから遠く離れてアミールの仕事部屋では、


「・・・っはぁはぁ、まだ2割ですか・・・すごい汗ですね」

 フルコネクトを一時的に解除したアミールが、荒い息を吐き机の上に用意されていた飲み物に口をつけていた。その姿は少し前にお風呂に入ったにも関わらず、全身に汗を掻き疲労の為か表情も優れない。


「やっぱり、フルコネクトは疲れますね。でもこれなら今日中には終わりそうですし、明日ちゃんとした格好でユウヒさんとお話も出来そうです。そうです前向きに考えましょう」


 両手で持ったコップから少しずつ飲み物を口にし、口元を緩め楽しそうに言葉を紡ぐアミール。その顔には、少し前までの怒りは無く、ただ明日の楽しみのために緩められていた。


「飲み物ありがとう。またコネクトするので着替えとあと軽めの夕食をお願いしますね。それでは、フルコネクト開始」


<イエス、マスター(なるほど、これが恋する乙女ですか・・・情報更新 書き込み 保存)>


 お礼を言われたサポートAIは、光の帯の中コネクト前とまったく違う表情を見せる主人の姿に、新たな情報の更新を済ませると、アミールに頼まれた仕事を実行し始めるのであった。



 いかがでしたでしょうか?


 ユウヒの相棒が復活しました。前回の相棒もそれなりに良い武器でしたが、今回のはユウヒお手製のチートな仕様になっています。かといってユウヒがその性能フルに使うかどうかは不明です。


 それでは次回もここでお会いしましょう。それではさようならー

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