第七十八話 欲望に塗れた黒い影帰還す
どうもお久しぶりのHekutoです。
七十八話完成したのでお送りいたします。今回のお話はサブタイ通りです・・・え? 分からない? でしたら是非ユウヒ達の物語をお楽しみください。
『欲望に塗れた黒い影帰還す』
学園都市から黒い三忍者が旅立ってから幾日、暴走ラットによる混乱は未だ残っているものの都市の日常は変わらず流れていた。それはとある宿の一室で窓越しに早朝の町並みを見つめる男も同じであった。
「・・・」
ユウヒが開けた窓からはだいぶ気温の下がった朝の清々しい空気が部屋へと流れ込む。
「ふむ、今日は・・・部屋の掃除でもするか」
この宿にユウヒが泊まりはじめてどのくらいの時間が過ぎたであろうか、この世界で一番長い時間を過ごした宿ではあるが、きっとその部屋の惨状を見て正確な宿泊期間を当てられるものは居ないであろう。
「・・・け、結構ここには長居してるが飽きない町だよなー飽きさせないと言うか」
なにせ散らかした本人すら苦笑いを浮かべ現実逃避を模索するほどの惨状なのだから。
「まぁ・・・その結果がこの部屋なんだけど」
しかし現実逃避は一時凌ぎだったようで、振り返ると部屋の奥に山となった失敗品に歩み寄り弄り始めるユウヒ、その量が少し前より明らかに増えているのは気のせいでは無いだろう。
「んー片付けたら売れそうな物に合成して売りさばくか、いやプレゼントするのも・・・は!? 酒が出来てない!」
一般的に既に廃品と言って良い物の数々だが、ユウヒの使う合成魔法を駆使することで価値ある物に変えることが出来る事は数日前に訪れた研究所の件で分かっている為、ユウヒは弄繰り回しながらその方向性を考えているようだ。
「いや、期限は無かったけど・・・早い方がいいよなぁ」
しかしその妄想作業はアミールとの約束を思い出す要因になったようで、がばっと立ち上がり思わず叫ぶと、顎に手を当て難しい表情で考え込み始める。
「・・・うん、浪費も良くないし金策合成で酒の材料を探そう」
しばらく考え込んでいたユウヒだがどうしても混沌とした部屋の中が気になるのか、先ずは部屋を綺麗にする事から始めるようである。その行動は所謂、試験勉強をしようとするとなぜだか部屋を片付けたくなるあの姿に似ていた。
「―--」
「ん?」
袖をまくり廃品の分別を開始したユウヒだったがそれも束の間、どこからか妙な音が聞えたようで、立ち上がると周囲を見回し始めるユウヒ。
「ユウヒどのーーー!」
「あ?」
その視線は窓へと移りそして、その先にとある物体を見つけユウヒは思わず気の抜けた声を漏らす。何故ならその視線の先には、学園都市に広がる色取り取りの屋根を跳び飛び急速に接近してくる3つの黒い影があったからだ。
「いっちゃーーく!」
「二着でござるか・・・」
「つ、ついた・・・」
そう、いつもの如くテンションMAXな3モブ忍者隊である。三者三様の言葉と共にユウヒの部屋に飛び込むジライダ、ゴエンモ、そして崩れ落ちるヒゾウ。
「清々しい朝の空気が台無しだな・・・」
まったくもってそのとおりである。
「勇者ユウヒよ! 水と風の触媒届けに来た! さぁ我らに欲望満たす力を!」
「わぁお、願望ダダ漏れでござる・・・拙者にもロマンあふれる武器を!」
「み、みず・・・」
鼻息荒く戦利品を掲げ欲望丸出しのジライダ、その後ろから突っ込みを入れながらも同じく欲望の溢れるゴエンモ、そしてその足元には暴走しすぎで干からびかけているヒゾウと順繰りに眺めたユウヒは少し楽しそうに微笑むと、
「とりあえず落ち着いてその荷物そっちにまとめておいて」
当然の様に指示を出し始める。その口元は若干意地の悪そうな角度に曲っていた。
「む? これか」
「あとそれゴミだけど合成して使える物にするから一纏めにしておいて」
「凄い量でござるな」
「あと、はい水」
「あなたが神か」
流れる様に指示を出し、最後に死にかけのヒゾウに水筒を渡すユウヒ。そんなユウヒの指示にこちらも流れる様に従う2人と、神に会ったかのように恭しく水筒を受け取るヒゾウであった。
それから小一時間後・・・。
「は!? なぜ我らは清掃活動を!?」
「ござ!? まさかこれはあの時の清掃活動が習慣に!?」
「キレイニスルッテスバラシイナ! スバラシイナ!」
そこにはあの混沌とした部屋が無かった事の様に綺麗になった部屋の中で掃除をする3人の姿があった。正気に戻った二人は自然と清掃をしていた自分達に若干の恐怖を感じ、
「「ヒゾウ帰ってこい!」」
未だこちら側に戻らぬヒゾウを慌てて正気に戻すのであった。
「ただいうお!? 部屋が輝いてる!?」
尚、この時の事を後にユウヒはこう話したと言う「あの3人、実は忍者じゃなくてプロ家政夫なんじゃないか?」と・・・。
ユウヒです、今日私は奇跡を目の当たりにしました。あの混沌とした・・・もとい俺がさせた宿の一室が、何と言う事でしょう匠(3モブ忍者隊)の技術によりまるで神殿のような清浄な空気が流れているではありませんか。ただ汗水流す3人の周囲だけ空気が淀んでる気がするけど・・・気にしてはいけないのです。
「それじゃ飯でも食べながら話をしようか」
「旨そうな串焼きだな・・・何の肉ですか?」
「安心しろ、鶏肉みたいなもんだからうまいぞ?」
ここまで綺麗にしてくれるとは思わなかったが、掃除をしてくれる3人の為にとお昼ご飯を買って来ていた俺は綺麗になったテーブルに料理を並べていく。そんな不安そうな目をしなくてコッケルだから大丈夫だぞジライダ、何かあったのか知らないけど。
「こっちの白身魚も美味いでござる」
「腹が満たされる・・・」
こちらは既に食いついている二人、よほどお腹が空いていたのかその目には涙が浮かんでいる。どれだけお腹へってたんだか・・・。
「えーっと・・・何? まともに食事出来てなかったのか?」
「バカの二人のせいでござる!」
「「てへぺろん♪」」
俺の言葉に人がコロセそうな視線をジライダとヒゾウに向けるゴエンモ、その視線の先ではまったく悪びれた様子の無い二人、正直むっさい男が自分で頭を小突きながらてへぺろやっても気持ち悪いだけである。
「・・・・・・まぁくいなよ」
「「ツッコミが無いのはそれはそれで辛い!?」」
とりあえずこのパターンはスルーした方が面白そうなので、じっくり間を置いた後すっとおすすめの串焼きを勧めておく。やっぱり俺にはこういう風に馬鹿をやっている方が似合っている気がするんだ、最近の戦闘やら依頼やらがちょっと俺らしくなかったのかもしれないな。
「そうだ、実はカッパじゃないけどカッパに見えなくもない種族に会えたでござるよ」
「あー聞いた聞いた、白い魔法の帽子かぶってるやつだろ?」
高等つっこみ【スルー】をくらった二人は大人しく串焼きを齧り始める。そんな二人と同じ串焼きを手に取るとゴエンモがカッパに会えたと話しを始める。どうやら無事ミッションは達成されたようであるが、完全にやり遂げたのだろうか。
「そうそう、そこの族長に頼んで素材を分けて貰えたんだよ」
「へーよかったじゃないか目的も果たせたみたいで? 泣かせたの?」
「「「そんな勇気はありませんでした・・・」」」
「ん?」
報告を聞きながら俺はどうしても気になったので、屋台で言っていた事について聞いてみたのだが、返って来た言葉はこのとおり何故か妙に苦しそうな表情だが何があったのか、気になるがその表情からは聞かないでくれと言った声なき声が聞き取れた。
「それでその、素材をくれる代わりにお願いをされたんですけど・・・」
「うん」
そんな3人は何故か急におとなしくなると、何故かおずおずと言った感じで話を続ける。
「ユウヒ殿、美味しい酒とか持ってないでござるか?」
「酒?」
「うむ、通貨は使わないらしくてな、酒なら交換に値すると言われて・・・」
「持ってくると約束してしまったでござる・・・」
どうやら後先考えず返事をしてしまったようで、その酒を俺に依頼しないといけない為こんな雰囲気だったようである。同郷のよしみなんだからそのくらい気にしなくてもいいのにね。
「なるほど、一応今お酒を合成魔法で作ってる所だから一緒に作るよ? 量はどの位?」
「「「おお! 流石勇者ユウヒ!」」」
俺の返事に目を輝かせる3人、やはりこいつらはこうでなくては調子が狂うというものだ、しかしそのキラキラ輝かせる瞳に若干の欲望が揺らいでるのが少し笑えてくる。ちゃんと味見もさせるつもりだから良いんだけどね。
「出来たら味見もしてもらうとして」
「「「流石ユウヒ大明神わかってらっしゃる!」」」
「うん、そのお酒の材料を買うためにあそこの廃品を売れるものにするから、すこし時間かかるんだけどね」
お金はまだあるけど節約するに越したことはないだろうし、それに失敗品の処理もしないといけない。やってみないと分からないけど、一度廃品になったものを使ってある程度手を抜けばそこまで性能が高くなったりしないと思うので売れない物にはならないだろう。
「ふむ? ところで勇者ユウヒ」
「あの廃品は何でござるか?」
「やけに鋭利な物とかあって地味に手切ったんだけど?」
俺がそんな廃品の事を考えていたからか、3人が揃って廃品を指さし聞いてくる。嘘を吐くことは簡単だけど、元々彼らの為に作っていた物だしこんなつまらない事で嘘をついても仕方ないだろうと思うが、やはり話し辛いのと言うのも事実である。
「あーえーっと・・・ちょっと実験して失敗した・・・」
「「「失敗した?」」」
俺の話し辛そうにしている姿を不思議に思っているのか揃って首を傾げる3人。
「忍者グッズとか?」
「「「・・・ほわ!?」」」
そんな3人は俺の最後の言葉を聞いて俺の苦笑いを浮かべた顔と廃品を見比べた後、驚きの声を上げるのだった。
「ごめんね? 君らに頼まれてた武器とか触媒用の素材も使っちゃってね・・・特に今金属系素材が枯渇中なんだよ」
「それはまさか武器が作れな・・・い、いやまだ慌てる時間じゃないぞ!?」
「そ、そうでござる!? 町に行けば素材くらいいくらでも」
「す、すぐに買って来るよ!」
どうやら俺の言葉から現状を正しく察した3人は、よろしくないの結末に思い至ったのか慌てはじめる。しかしその打開策も同時に閃いたのか3人して立ち上がりやる気をみせるのだが、
「それがネズミの影響で良い素材が出回ってないんだよね・・・三級品でもいい?」
今の俺にはそんな3人に妥協案を提案するしかなかった。合成魔法と俺の妄想力を駆使すればあの廃材だけでもDランク程度まではいけると思う。取って置きの素材も足せば総合でCいくか・・・なぁ。
「「「スペシャルがいいです!」」」
「だよねー・・・一応その袋に入ってるのは試行錯誤の結果中々ユニークな一品に出来たけど」
結果は解っていたが求める者は誰でもそうであろう。俺だって自称生産職の端くれ、つまらない物を使ってほしくないからこそあれだけの廃品を作り結果少ないなりにも良い物が出来た訳だ。
「「「あれ? それはそれで不安?」」」
こいつら地味に失礼だな、良くギルドメンバーにも言われていた言葉だけど。
「あ、ちゃんと説明書も入れといたから読んでね? 読まないでクレームはお断りです」
「・・・そ、それはいいとして」
「どうしたらいいでござろうか・・・武器は是非とも作ってもらいたいでござる」
「この間のイノシシのせいで今の武器は廃棄寸前だしな・・・」
話を逸らされたんですが・・・まぁいいか、この3人も結構色々やっているのだろう。この3人の力量で武器を壊されるくらいのイノシシだ、相当厄介なイノシシだったに違いないし。俺もちゃんと作りたい、ならばこれしかないであろう。
「やっぱここは直接掘りに行くしかないかなぁ」
「どこか鉱山があるでござるか?」
「しかし勝手に掘って怒られないか?」
「利権者マジおこぷんぷんですねわかります」
市場とかで聞いた話しで、この辺りは昔良質な鉱石が手に入る地域だったらしいのだ。しかしまぁ普通に考えたらそう思うよね、日本でも勝手に掘ったら捕まるだろうし。
「んーいくつか聞いてるんだけど、どれも魔物のせいで廃鉱山になってるらしいから勝手に掘る分にはいいらしいんだよね」
そう昔の話なのである。理由は複数あるのだが主な原因は魔物の増加のせいらしく、何年か前からは魔物の進入と繁殖で廃鉱山となり、現在では他国や別の地域から仕入れているとか。
「ほう、クロモリ界のマイナーとしては血が騒ぐ話だな」
「ああ、クロモリの廃工場荒しの腕が鳴るぜ」
「クロモリとか、拙者昔を思い出したら涙が・・・」
しかしこの3人・・・。
「なんだ、3人もクロモリプレイヤーだったのか」
どうやら俺と同郷だけでは無く同胞でもあったらしい、この親しみやすさはそう言う事も関係があったようだ。
「ぬ? 勇者ユウヒもなのか、なら元の世界に戻ったらオフ会だな」
「そだなーもうクロモリ出来ないし、その位しかないもんな」
「ユウヒ殿、はてクロモリでも同じ名前を聞いた覚えが・・・」
「そうなんだよな、帰ってもクロモリ出来ないんだよな・・・オフ会か悪くないな」
色々と流されてこんなところまで来た俺だが、元はと言えばクロモリが終わったのが原因である。その事をすっかり忘れていた俺は3人の言葉でその事を思い出し、少しだけ寂しい気持ちがこみ上げてくる。
でも3人が言ったようにオフ会と言うのも悪くない、あの世界での仲間とはよく現実でも会っていたわけだし、そろそろ俺も気持ちに整理を付けないといけないかな、クロモリのユウヒと言うもう一人の俺について。
「まぁこの時点で軽くオフ会みたいなものだがな、はっはっは」
「職業までほとんど一緒って所が悪意を感じるけど・・・あ、俺アサシ「あああ!?」なんだよゴエンモ急に?」
「どうした?」
そんな感傷に浸る俺の目の前では既にオフ会のような空気が広がっていたが、ヒゾウが自分の職を晒そうとした瞬間ゴエンモが大きな声で叫ぶと立ち上がり俺を凝視する。
「思い出したでござる! ユウヒと言ったら氷原の魔王ユウヒでござる!?」
「・・・」
それは黒歴史、触れてはいけない歴史。
「いやいやいやそんな有名人がこんなところ・・・に?」
「・・・・・・」
ゴエンモの叫ぶ二つ名、俺を見て不安そうに固まるヒゾウ。
「まさか、本当にあの魔王ユウヒ? 勇者じゃなくて魔王だっただと!?」
「・・・・・・・・・ふふ」
俺を見て魔王と呼ぶのはジライダ、知ってしまったのはこの3人だけ・・・。
「ゆ、ユウヒ殿?」
「黒歴史を知る者はケサネバ」
ケサネバ! リアル割れしかも黒歴史を知っている古参プレイヤー、ワタシの安寧の為の礎とせねば。
「ちょ!? まてまて落ち着くのだま、ユウヒ君!」
「そうだよ!? 俺達みたいなのは多かれ少なかれみんなそう言う歴史を持ってるものだよ!?」
「そ、そうでござる! 拙者等は唯のモブじゃなく理解ある訓練されたモブでござる!?」
「・・・この話、拡散するようなら」
俺の中から溢れる黒いナニカは、捨てたはずの卒業したはずのアレを呼び戻しそうになる。その事に気が付いた俺は必死にソレを押しとどめ、自然と変わってしまう表情筋に力を入れると絞り出すような声で3人に話しかける。
「「「す、するようなら?」」」
「くすくす、串刺しですわ」
「マスター風に氷漬けでもいいですね?」
抱きしめあい震える涙目の3人にあの頃の俺が嗤った気がした瞬間、俺の中で溢れた黒いナニカは我愛しき娘を呼び覚ま・・・いかん、厨二病が再発しそうになってる。
「す、スニールコンパニオン!? 本当に本物!?」
「シナイシナイ、ボクラオトモダチ」
「ヒゾウが恐怖で片言に!? しっかりするでござる!」
あの森でもそうだったけど、この世界に来てからどうもその辺に違和感を感じる。今は目の前で楽しそうに3人の忍者を脅している家の娘達に引いたことで正気に戻れたようだが、これはまた何かの拍子で現れかねないな・・・てか娘達よお父さんはその楽しそうな姿にドン引なのでやめてください。
「・・・まぁいいや信じる事にするよ。昔は昔・・・今はただのユウヒだからね」
「・・・やべ、我ちょっと漏れたかも」
「ブーストスニールとかまじこえー」
「世界は狭いでござるなぁ」
原因が分からないものの俺は肩の力を抜くと目配せで娘を戻し3人に声をかける。どうやら3人の言葉から俺の事を結構知っているらしい、俺=ブーストスニールを知っているなら第四大型アップデート前からのプレイヤーだろうか。てか人の泊まってる部屋で漏らすなよ・・・。
「ところで話が反れちゃったけど、どうする? 今ある物で武器の下ごしらえと、廃品錬金でお酒の材料購入は出来ると思うけど」
まぁオフ会の事は今度で良いとして、今ある材料や廃品からでも武器用部品位なら作れるだろうし、高い性能を求めなければ武器も作れるからそれを品薄な市場に売れば資金も多少出来るだろう。
「おお! そうだった、ではお腹も膨れたことだし早速採掘に行くか」
「準備する物はなんだ? つるはし、スコップ、照明に食料と」
「それより場所を聞かないとまた迷子でござる」
「もう行くのか? ふむ・・・それじゃちょっと待っててよ、廃材と素材で道具作るから足りない分は市場で買ってね」
ついさっき帰って来たばかりなのにもう採掘に行くと言い出す三人、その行動力には驚きである。三人がやる気を出しているのに止めるのも無粋と思った俺は、せめてもの選別にと廃材の中から金属素材と木材を取出しバッグから風の魔石を取り出すと、とある採掘道具を作り始める。その際どうせならと、3人が喜んでくれるような能力を付加することにしたのだった。
それから一時間後、ここは学園都市近郊にある廃鉱山。そこは多種多様な鉱石が眠っている優れた鉱山地帯であるが、それと同時に数年前から魔物の巣にもなっていた。
「ふん、聞いてた通り雑魚がうじゃうじゃ居るな」
「これは、一般人にはムリゲーでござるな」
「うはwwトレインし放題ですねwwwwうぇ」
鉱山の麓は大きな露天掘りにされており、その壁面に所々横穴が開けられ山側へと掘り進められている様である。そんな露天掘り内には、全長1~3メートルほどの固い甲殻を持った大量の蜘蛛型魔物が我が物顔で鉱山施設を占拠していた。
「しかし・・・勇者ユウヒが数分で作ってくれたこのつるはし、もうこれが武器でいんじゃね?」
「確かに、これはちょっとしたチートつるはしでござるな」
「衝撃波付きつるはしとか過剰戦力すぎる件について」
一般人なら顔を蒼くするような光景を余裕の表情で眺めていた三人、しかしそんな余裕の表情もユウヒから貰ったつるはしの話になると思わず引き攣ってしまう。それもそうだろう、ユウヒの善意? が全力で込められたそのつるはしはちょっとした凶器を超えた性能なのである。
『破砕せし魔鉄のつるはし』製作者ユウヒ
ユウヒがノリと勢いで作った無骨なつるはし、だがその性能は既に良質なつるはしの範疇を超えている。
一度鉱石から精製した魔鉄に再度大量の魔力を練り込みながら精製し直したことで、性能が増した魔鉄のつるはし。さらに中央部にはめ込まれている風系統衝撃魔法の付与された風の魔石により、インパクトの瞬間衝撃波が発生するようになっている。
長さ:鍬部510㎜ 柄850㎜ 全重量4200g
品質:良質 新品
性能:物理D+ 採掘C+ 耐久力D
特性:刺突 衝撃(風)
このように異常な・・・以上のような性能のつるはしであり、彼らが言う様に下手な武器より高い性能を持っている。
しかし何時ものユウヒならこのような性能のつるはしを作ってしまえば、やってしまったと悩みそうなものだが今回は嬉々として作っていた。何故ならこれは市場に出したり一般人に渡すわけでなく同胞である3人に渡す為に作ったからで、それはそれだけ彼らの事を信用しているとも言える。
「まぁ楽に越したことはないでござる、駆除もこのつるはしで行ってみるでござるか」
「今宵のつるはしは体液に飢えておるわ」
「そこは血だろwwいや、虫だから体液でいいのか?」
基本ユウヒと言う人間は仲間に甘いところがあるのだ、もしアルディスが性能の良い薬や武器を必要とするならユウヒは気にせず全力で創り上げるだろう。それが自称生産職と自らの事を語るユウヒの本質なのである。
「拙者が一番槍でござる!」
「あ!? ズルいぞ!」
「ちょww置いてかないでああぁぁぁぁ!?」
そんなユウヒ作のつるはしを見詰めていたゴエンモはひょいとそれを肩に担ぐと、急な斜面を駆け下りながら露天掘り内に犇めく魔物へと向かう。そんな急な行動に不満を声にしたジライダはすぐに追いかけ、その後ろから二人を追いかけはじめたヒゾウは自らのつるはしに足をとられ、
「ちょwwげばぁぁ!」
「その動き想定済みでござる! な!? まがったわばぁ!」
器用に二人を巻き込みながら落ちて行くのであった。
「「「うわぁぁぁぁ!?」」」
所変わってこちらは学園都市の市場を見ているユウヒ、サクサクと廃材から短剣や槍の穂などを作り売りさばいたユウヒ。作った物はいつも通りなユウヒのズレと供給が減っていた事も有り十分な資金に変わったのであった。
「・・・ん? 男の悲痛な叫びが聞こえたような?」
そんなユウヒはどこかで響く3人の悲痛な叫びを受信すると、空を見上げ首を傾げている。
「そこのお兄さん寄って行きなよ、今日のは粒ぞろいだよ! 買って損はさせないからさ!」
「麦、穀物の店か・・・お姉さんいっぱい買うから安くしてくれる?」
首を傾げていたユウヒに声をかけたのは、大きな袋に様々な種類の穀物類を入れ並べている店の年輩女性で、腰に手を当てながら胸を張る姿はどこか肝っ玉母ちゃんを彷彿とさせる姿である。
「あらやだお姉さんだなんて! そんな事言っても半額にしかしないんだからぁ」
「ちょ!? かーちゃ駄目だって!」
その女性は何気ないユウヒのお姉さん発言に頬を赤くしてクネクネと体をくねらせると、大声で半額だと言い始める。店の奥から慌てて出て来たのは女性の子供であろうか、青年とまでは言えないくらいの少年は大きな声で女性を諌める。
「いんだよ! こんな良い目をした男そんな居ないよぉねぇ? どお今晩?」
「あはは、それは魅力的なお誘いだけど少し割り引いてくれるだけでいいから、それとそれと、あとそのも麦一袋ずつ売ってくれる?」
しかし少年の声も女性の意志を動かすには足らず、少年を適当にあしらった女性はユウヒに向かってウィンクを投げかける。そんな女性の行動に微笑み妙に慣れた感じであしらったユウヒは、右目で鑑定しながら必要になりそうな物選んで行く。
「あらそう? 大量買いだから大目に割り引いてあ・げ・る♪」
「かーちゃん!」
「あはは(がんばれ少年)」
少し残念そうな表情を浮かべた女性だったが、大量に買ってくれるユウヒに投げキスを贈ると叫ぶ少年を後目に商品をまとめ始める。
その日の市場では大量の食品を買い込むユウヒの姿が何度も目撃され、大量の荷物を担いで走り回る姿で周囲の人々を驚かせた。さらにとある宿のきれいに掃除されたばかりの部屋を食料と木材などの素材で埋め宿の主人まで驚かせるであった。
楽しんでいただけましたでしょうか?
今回はこのように仕上がりました。いつも通りな彼らとユウヒはこの先どんな物語を作っていくのか楽しみです。
それでは今回もこの辺で、またここでお会いしましょう。さようならー




