第七十七話 ナル男と愉快な仲間の怪談話?
どうもおひさしぶりHekutoです。
ワールズダスト七十七話を投稿させていただきます。今回はいつもと少し違う物語をお送りいたします。それでは楽しんで行って下さい。
『ナル男と愉快な仲間の怪談話?』
学園都市のどこかで二人の女性が思わぬ事態に百面相をしている夕暮れ時、暴走ラット討伐隊のアルディス専用馬車の車中。
「以上です」
「なるほど、それじゃこの一帯の討伐は完了って事だね?」
「そうなりますね」
そこには一人の騎士から一通りの戦況報告を受けたアルディスが、ホッとしたような表情を浮かべ椅子に深く座りなおし騎士に確認の言葉をかけている。
「それじゃ明日にでも部隊を二つに分けて西と東の討伐にかかろう」
「そうですな、冒険者にも言っておきましょう。どちら方面に向かうかは彼らの自由で構わないと思いますが、どうでしょうか?」
「そうだね、あと蛇神騎士団の方々は西方面に行ってもらうのと僕は東方面なのは決定事項だから」
どうやらアルディス達は、作戦の第一段階である王都周辺を徘徊していたネズミの討伐を無事終らせ、次の作戦行動である残存及び広範囲に広がった暴走ラットの殲滅戦に移る様である。
「そうですか東へ・・・アルディス様、私も東へ御一緒しても?」
「・・・がんばれ、大丈夫だ骨は拾ってやる」
「ちょ!? バルカス裏切るきか!」
しかし今まで表情を引き締めていた騎士は、アルディスの口から出た部隊編成についての言葉を聞くと、苦虫を噛み締めやせ我慢するような表情へと変わり心なしかその額には汗がにじんでいた。そんな騎士とは仲が良いのか、バルカスは口元をニヤリと歪めるとからかい気味に声をかけ騎士を狼狽わせる。
「へ? えっと西は嫌なのかな?」
「うぐ!? ・・・そう、ではありませんが」
「出来れば、騎士団には僕の居ない西方面を任せたいと思ってたのだけど・・・」
そんな二人の騎士のやり取りにアルディスは首を傾げ騎士に問い掛ける、それは騎士を追い詰める行為になっているのだが。アルディスは純粋に騎士の心配と自分の采配の不備を心配しており、そんな感情が丸解りの表情は、さらに騎士を追い詰めるのであった。
「ふふふ」
「ぬぐぐ・・・バルカス覚えていろ、アルディス様その御役目必ずや完遂して見せましょう!」
バルカスの不敵な笑いに表情を歪めた男性騎士は、一呼吸置いて恨み言をつぶやくと姿勢を正し直立不動で、アルディスの願いを全力で全うする事を誓う。
「そうか! ありがとう!」
「勿体なきお言葉! (娘よ、父は必ず帰るからな!)」
そんな心強い騎士の言葉に、花が咲くように表情を明るくすると心から御礼言うアルディス。どこか無邪気さを感じる王子の言葉に、音が聞こえる様な敬礼をする騎士の目尻には様々な感情のこもった涙が滲むのであった。若干心の中で妙なフラグを立てている騎士に幸あれである。
そんなやり取りから小一時間ほど、ここは暴走ラット討伐隊の冒険者用宿営地。そこにはあの男N・Nを含めた冒険者パーティが焚火を囲んでいた。
「だそうだよ? どうする東か西か」
「ふーむ」
「どっちだって一緒だろ?」
どうやらこちらでも隊を分ける為の話し合いがされ始めたようであるが、顎の髭をしごき考えるドワーフの隣でナルシーブは頬杖をついたまま、どうでも良さそうに答える。
「私はダーリンと一緒ならどっちでもいいよー♪」
「だからくっつくな! こら! はーなーせー!」
そんなナルシーブに後ろから抱き着くシュツナイ族の犬耳少女、細い体のどこにそんな力があるのか、ナルシーブがいくらもがこうとがっちり組まれた細腕が解けることは無かった。
「難しい話はわからん、パス」
「んじゃパス2だニャ」
もがくナルシーブを呆れたような目で見ていた鬼族の女性は、その視線を全身真っ黒な毛並みの獣人男性に向けるも、男性はどっしりと座ったままそう言い放ち、ナルシーブの隣で笑っていた毛並みの綺麗なヌコ族の少女は良く聞いて無かった様で同じくパスと手を上げる。
「あんた達も少しは考えなさいよね・・・だから脳筋パーティなんて言われんのよ?」
「「お前にだけは言われたくない!(ニャ!)」」
「あん? 喧嘩売ってんのかい? 言い値で買うよ?」
鬼族の女性は返って来た言葉に頭を掻くと心底呆れた声を零すも、即座に返って来た反論の声に目を赤く光らせ睨むと、口元をにやりと歪めながらゆっくりと二人に迫る。
「「ってナルシーブが言ってました(ニャ)」」
「はぁ!? 僕は何も言ってないぞ!? ちょ! 何で武器構えてんだよ!?」
そんな不用意な言葉で鬼神を呼び覚ました二人は、冷や汗をだらだら流すと即座にその指でナルシーブを差し罪をなする付ける。擦り付けられたナルシーブは驚愕の表情で二人を睨むと鬼族の女性に弁解しようとするも、そこには愛用の得物 金棒『極潰』を手に持った鬼神が目前まで接近していた。
「だぁりーん、死ぬ時は一緒だよ♪」
「馬鹿!? こら離せ! コロサレル!?」
議題はどこに行ってしまったのか、シュツナイ族の少女に全身でトラバサミのようにホールドされたナルシーブは、間近にまで迫る死の恐怖に体が震えるだけでなく言語機能まで低下していくのであった。
「はぁ・・・まったく、今回は東にするぞ」
目の前の荒ぶる鬼と小鹿の様に震えるナルシーブのやり取りに、ドワーフの男性は頭を掻いて呆れたように溜息を吐くと、脱線した本題をもとの路線へと戻す。
「ん? なにかあるのかい?」
「蛇神はどうせ西だろうからな、敢えて危険な方にはいかんでいいだろ」
そんな男性の声に、今にも振り下ろされそうな得物を構えたまま首だけそちらに向ける正気に戻った鬼族の女性。どうやらこの脳筋パーティの頭脳はこのドワーフ男性の様である。
「あーまー男には危険だね・・・特にナルシーブなんて干物になっちまうんじゃないかい?」
「は? なんだそれ?」
鬼族の女性は、男性の説明に得物を下ろすと面倒事でも思い出したような表情で頭を掻き、ナルシーブを見詰めると今度はニヤニヤとしながら楽しそうに笑う。そんな視線を向けられたナルシーブは状況が読めず分けが分からないと言った顔である。
「だめ! ダーリンは私が干物にするの! 「すんなよ!?」」
「んーじゃ東に決定! いいね!」
「「「はーい」」」
ナルシーブと違いこちらは何か分かったのか、シュツナイ族の女性はギュッと抱き着きなおすと頬を膨らませるが、その恐ろしい内容にナルシーブはツッコミを入れるのだった。
「まぁいいけど、なんで危険なんだよ? ネズミが多いのか?」
鬼神から逃げる為に這っていたナルシーブは焚き火の前に座り直すと、自分の意見を聞くことなく多数決で決定された内容に少し釈然としないものの、その理由が気になったのか不思議そうな顔で問い掛ける。
「なんだお前蛇神騎士団の話も知らんのか?」
「・・・悪いかよ」
しかしそんな問いかけはドワーフの男性にキョトンとした顔で問いかえされ、その言葉にナルシーブは拗ねたようにそっぽを向くのだった。
「ほっほ別に悪くわないさ、だからそう拗ねるな」
「拗ねてねぇ!」
「ふむ、それじゃ教えてやるかの・・・冒険者を続けるなら知っておいた方がいいだろ」
「・・・しかたないから聞いてやる」
拗ねるナルシーブを見て楽しそうに笑うドワーフは、恥ずかしさから否定するナルシーブの姿により一層笑みを深めると理由を話し始める。そんなドワーフの言葉に拗ねながらも、やはり気になるのか話を聞く体勢を作るナルシーブ。
「「「ニヤニヤニヤ」」」
そんな彼の様子に周りは静かにニヤニヤと楽しそうに口元を歪め続けるのであった。
「ほんと正直じゃないねあんた?」
「ふん! で? なんなんだよ、その蛇神とか言う騎士団は」
「それはじゃな・・・」
そして、困った子供を見るような目でナルシーブを見詰める鬼族の女性と、恥ずかしさからその視線から逃れるようにそっぽを向くナルシーブの前で、ドワーフの男性の話が始まる。
そんな話が始まる頃、場所は東に移りここはウパ族集落。
『・・・』
ウパ族の住む集落は森の奥、大木同士が生存競争の末に作り出した巨大なマングローブの森のような天然の要塞の中に存在する。家は木の上や太い根の上など地面や水面から離れた場所に作られ、家同士は簡素な橋や梯子、ロープなどで繋げられていた。
「・・・?」
その集落で一番大きな家には今、黒い三人の忍者が静かに座っている。誰かを待っているらしく周囲から注がれる好奇の視線にどこか居心地悪そうにしながらも、珍しく行儀の良い三人。
「・・・!? 何ヤツ!」
「!?!?」
それも仕方ない事か、現在待っているのはウパ族で一番偉いであろう族長である。その身も心も忍者に進化した3人も基本的な所は一般市民、やはり偉い人相手には緊張するようだ。
そんな中ジライダは、急接近してきた背後の気配に気が付くと即座に振り返る。その視線の先では気付かれるとは思ってなかったらしいウパ族の少女が、驚かすつもりが逆に驚かされて涙目で逃げ出していく。
「逃げたでござるな」
「ござるな」
そんな逃げ出す少女の姿をゴエンモは目で追いながら何となく呟き、その隣では道案内の間にすっかりゴエンモに懐いたウパ族少女がゴエンモの真似をする。
「何をびびってるんだよジライダなさけあひ!?」
逃げられてちょっぴりショックを受けたのか、しょんぼりしているジライダにヒゾウはにやにやとした表情でからかおうとするが、気を抜いた瞬間近くまでスニーキングしていた別のウパ族少女に脇を突かれ変な声を上げる。
「♪」
「脇はらめぇぇ!?」
そんなヒゾウの反応が面白かったのかその少女はさらに脇を突き、ヒゾウは駄目と言いつつ両手を上げて脇を晒すのだった。
「遊ばれてるでござるな・・・てか気持ち悪いでござる」
「え? お約束かなと?」
ウパ族少女がさらに増員され両脇を突かれるヒゾウ、ゴエンモがその姿に心底気持ち悪い物を見る目で呟くと、今まで悶えていたヒゾウは両手を上げたままビシッとポーズをとると首を傾げ不思議そうに返答する。
「くっくく、面白い者がやって来たものじゃ」
実質行儀よく待てていた時間10分ほどで、やはり締まらない三人の下にどこかからか声がかかると、それまで居たウパ族の少女達はその声に反応してゴエンモの隣の娘以外は、蜘蛛の子散らすように居なくなった。
「む? 何やら偉い人オーラがするぞこの少女」
「偉い人オーラとかwwwやべ、後光が見える」
「それは唯の逆光でござる・・・でも偉い人な予感」
そんな声がした方向を確認する三人の視線の先には、少し高い位置にある出入口から階段を使って降りてくる小柄な人影が見えた。その姿は外から入る夕焼けの光でシルエットしか分からないが、三人は本能でその人物が偉い人だと感じ取っているようだ。
「ふむ、偉いか・・・どうかは分からんが? 一応族長兼長老と言った感じかの?」
「なるほど、合法ロリですね解ります!」
「その見た目で長老とか犯罪すぎるだろ」
「何故犯罪・・・てか失礼でござる」
3モブの座る目の前まで歩いて来た、少女にしか見えない女性の自らを長老と説明する言葉に、三者三様の反応を示す忍者達だが、その大半が失礼な内容である。
「ふふふ、我等は姿があまり変化しない種族故な、お主らから見たら・・・お主らも中々に面妖じゃの? 真っ黒じゃ」
長老の少女は三人の失礼な言葉にもころころと楽しそうに笑うと、ウパ族の特徴について話し始めた。しかしその言葉も三人の姿を視るなり首を傾げ面妖と告げるとやはり楽しそうな微笑みを浮かべるのだった。
「面妖とな? ・・・解せぬ」
「これは伝統的な忍び装束でござるアイデンティティーでござる」
「確かにこれ脱いだらただのモブだもんな俺達・・・」
そんなストレートな言葉にこちらも特に傷ついてはいないが首を捻るジライダ、忍び装束の重要性を訴えるゴエンモ、ついでにヒゾウの言葉は心情的なもので脱いでも特に忍者としての能力は変わらないし着てても来てなくても3人は自称モブなのは変わらない。
「ふむ、ワシとしては雑談も好ましいが? 何か用があって来たのではないのかの?」
「あ! そうだったでござる、実は・・・」
力説するゴエンモの話を聞きつつ、チラリとその隣の少女を見た長老が本題に入るべく話を振ると、ゴエンモは忘れかけていた本題を思い出し再度説明を開始するのであった。
一方その頃、ここは一通り蛇神騎士団の悪癖について説明し終わったナルシーブ達のキャンプである。
僕はその話を聞いてぞっとした。
「マジかよ・・・」
僕の名前はナルシーブ・ナブリッシュ、誇り高きアクアリアの大貴族ナブリッシュ家の人間だ、今は分け合って妙なパーティと一緒にグノー王家発行のクエスト中である。
「うむ、あ奴らの毒牙にかかって無事でいた者は早々いまいて、途中で逃げ出せたか向こうさんの趣味に合わなかったかぐらいかの?」
「あいつ等悪食だからねー」
正直最初は乗り気じゃなかったが、別にこいつらは悪い奴らじゃない様なので今は最初ほど嫌じゃない。そんな事は口に出来ないけどな、なにせアクアリア貴族は亜人と仲が良くないし・・・何か癪だからだ。
「・・・お前も知ってたのか?」
「興味ないニャ」
そんなパーティで過ごして何日経つのか解らないが、ドワーフの男、名前をガッシュとか言うらしいおっさんの話に僕は正直恐怖した。その恐怖を隠すためにおっさんから目を逸らすと、そこにはいつもと変わらず笑っている猫顔が目に映り、恐怖を忘れる為に話しかけてみた。
「ああ、そうかお前一応♀だったな」
しかし返ってきた言葉にはまったく恐怖が無かった、そこでこのヌコ族が女だということを思い出し、思わず口からそんな言葉が漏れてしまう。
「ニャニャッ!? それは失礼ニャ! 謝罪をようきゅうするニャ!」
「うわ!? こら頭にしがみ付くな!?」
その結果がこれだ、このヌコ族名前をリフと言うらしいが、事あるごとに俺の頭にしがみ付いてくるのがうっとおしい。・・・まぁ体は小さいし見た目以上に軽いのでうっとおしいだけだが。
「ああ! ズルイ! 私もまぜろー♪」
問題はコイツだ! 事あるごとどころか四六時中べたべたと僕にくっついてくる。名前はルフと言ってシュツナイとか言う人犬族らしいが、こう・・・色々と当ってるし僕の周りにこんなタイプいなかったので正直苦手だ、嫌いではないが何か嫌だ。
「やめんかって!? アーー!?」
そんなべたべたと背中にナニカを当ててくるルフを引き剥そうとした瞬間、頭の上で何か不機嫌そうな気配を感じたと思うと思いっきり頭をリフに噛まれた。偶に噛んでくるのだがこれが痛く、思わず僕は情けない声を上げてしまった。
「仲が良いのは良いことだな」
「苦労しそうじゃがの・・・」
何が仲が良いだ、どうみても悪いだろ。この目の前にいるでっかい女は鬼族のヴァラだ、一応このパーティのリーダーらしいが・・・確かに一番強そうではある。
「いてて・・・てかなんでそんな詳しいんだよじいさん」
「爺さん言うな! ・・・なに、そのなんだ」
リフを振りほどいて頭を撫ででいるとおっさんの生暖かい視線を感じ、何かイラっと来たのでじいさんと呼んでやった、おっさんは爺扱いされるのを嫌う節があるので度々使ってるがいつも声を荒げるだけで本気で怒ってこない。しかし今回はそれ以外に何故か居心地が悪そうに口籠っている。
「こいつは逃げおおせた被害者なんだよくっくっく」
「はぁ!?」
「・・・昔の話じゃ」
そんなおっさんを見ていると、隣のヴァラがニヤニヤと笑みを浮かべながらとんでもない事を言ったので僕は驚いてしまう。なんとおっさんが昔、蛇神騎士団に襲われた(性的な意味で)なんて言い始めるからだ。
「昔一時期だけどね、コイツとコイツの兄さん家族と一緒にパーティ組んでてねぇ」
「あれは兄さんが奥さんと付き合い始めた頃だ」
「兄弟いたのか・・・」
「居るニャそっくりニャ」
どうやらその話もしてくれるらしい、正直興味が無いと言えばうそになるが兄弟いたのかおっさん・・・リフも面識があるらしく隣で僕を見上げながら補足説明をしてくる。
「ふん、ある日兄さんが奥さんと旅行したいって言ってな、俺達で護衛しながら各地を旅行して回っていたんじゃ」
「ほーんとあの甘々旅行は疲れたよ」
「傍から見たら親子だったがな」
「は?」
旅行に護衛が付くのはそう珍しくない、長期や長距離ではざらだが親子にしか見えない夫婦? そんなに歳の離れた結婚か、貴族なら珍しくはないけど平民もおなじなのか。
「うおっほん! まぁそんなある日じゃよ、立ち寄った村に蛇神騎士団の遠征訓練部隊が駐留しとってな」
「蛇神騎士団ってのはオルマハールでも屈指の遠征騎士団でね」
「ふーん?」
屈指と言われても僕はピンと来なかった。何せそう言った事についてはあまり興味も無く学生時代もその辺の成績があまり良くない。カステルくんはその方面に詳しかったが・・・今頃彼女はどこで何をしているだろうか。
「その日の夜は兄さんが酒を飲みたいって言ってな、奥さんとコイツら女性陣を宿に残して酒場に二人で飲みに行ったのさ」
「ん? そこの黒いのはいなかったのか?」
少し心がどこかへ行ってしまいそうになったが、おっさんの話で気になるところがあったので聞いてみる事にした。何せこのパーティは僕を含めて現在6名でそのうち女は3人すなわち男は3人、僕の右前方の全身真っ黒な毛並みのやつは最初の頃から居ると言っていたのだが・・・。
「黒いの・・・間違ってはいないな、そして俺は酒が飲めん!」
「なんでそんな自信に溢れてんだよ・・・」
この自信満々のキリッとした顔を向けてくるのは黒豹系の獣人族でルグオンと言う男だ、一言で説明するなら脳筋だ。深く考えないで本能と勘で動くタイプだが、どこかずれている。こいつも悪い奴じゃないが・・・。
「そんなわけで二人でしばらく飲んでたんだがな、そこにアイツらがやって来たんだ・・・」
「その例の騎士団か」
「人数は4人だった、しばらく離れたところで飲んでたんだがいつの間にか俺達の周りにやって来ていてな」
「気づかなかったのかよ」
ルグオンから視線をおっさんに戻すと続きを話し始めたが、そんな接近に気が付かないとかどんだけ酒飲んでたんだ? ドワーフは酒好きと聞いたことがあるが接近に気が付かないって冒険者としてどうなんだよ。
「無理だろうねぇ相手はスニーキングのプロだから」
「暗殺者かよ・・・」
そんな俺の考えてる事に気が付いたのか、苦笑いを浮かべたヴァラが補足説明をする。スニーキング、闇や自然にまぎれ気配を消しながら相手に近づく戦闘技術のことだ・・・それって本当に騎士なのかよ。
「そんな事よりもっと恐ろしいのはここからだ、あいつら俺達を誘い出したんだがな、適当に断ってたんだ、それで何とかなると思ってた・・・」
「なんだ? 欲望に負けたのか?」
「・・・あれはチャームの魔法だ」
「は? 誘惑系統の魔法か? でもそんなの中々効くもんでもないだろ、意志をしっかりもってりゃ回避できる魔法だぞ?」
チャームと言うのは、所謂相手の精神に直接攻撃を仕掛ける魔法で中でもこれは相手の欲望に訴えかける類の魔法だ。しかしこれらはそこまで強い魔法では無い、鬱陶しくはあるが完全にかかるなんてことは早々無く、それこそ色々な状況や薬や不意を突かないとありえない。
「俺もそう思ってチャームと気が付いても余裕があった・・・だが気が付いたころにはベッドに押し倒されておった」
「ぷくくく」
「はぁ!? どんだけ抵抗力低いんだよ?」
おっさんは頭を抱えながらそう話し、その隣では声を押し殺し腹を押えて笑うヴァラ。正直おっさんの精神力の低さに驚き、少し大き目の声を出してしまった。
「くくく、あんたもそんな余裕ぶっこいてると喰われっちまうよぉ?」
「神性魔法なんじゃよ」
「え?」
しかし笑いながら注意してくるヴァラとおっさんの言葉で僕の考えは甘かった事に気が付いた。
「神性魔法じゃ、蛇神騎士団の使う魔法は蛇と癒しの女神メディーナの神聖魔法なんじゃよ」
「女神メディーナ・・・確か蛇神系の魔眼を全て使える女神だったか、てことは」
女神メディーナ、伝承によると大女神ラフィールの娘達の中の一人であり、蛇と癒しの女神と言われるが、癒しは癒しでも安らかな死を意味すると言うのが学生時代に習った内容だ。
「そうじゃ、あの眼で見られたら最後・・・気が付くのはベッドの上しかも束縛の魔法付じゃ」
「いや、確かにそれなら相当抵抗力が高いかチャーム対策装備じゃないと避けようがないか・・・でもどうやって助かったんだよ?」
そんな女神だが、その恐ろしい所は蛇族が使う魔眼と言われる力は全てこの女神メディーナが管理していると言う所だ、様々な種族が使うその力の中でもラミアが使う誘惑の魔眼は強力な事で有名で、伝説ではその昔猛威を振るった魔龍を女神メディーナがその瞳で虜にしたとか・・・。よくそんな神性魔法くらって無事だったなこのおっさん。
「・・・わしらを助けに来たのはアマテルじゃ」
「アマテル?」
「こいつの兄貴の奥さんだよ」
「は? いや奥さんがなんで?」
奥さん? いや、奥さんが助けに来るのは分かるが単独でか? それで騎士団から二人のドワーフを助け出したとか・・・それ護衛する必要あるのかよ・・・。
「アマテルは精霊族とドワーフのクウォーターでな、精霊寄りの体質でそれはもう抗魔力特性がめっぽう高い上に魔法の方も恐ろしいもんなのじゃよ・・・」
「ほんと、いつもニコニコしてるのに怒るとあんなに怖いとはわねぇ・・・アタシも初めてだよあんな恐怖感じたのは」
「・・・」
精霊族と・・・それはもう反則じゃないだろうか、一滴でも精霊の血が入ってるだけでも各国で持て囃されると言うのに・・・。おっさんとヴァラの珍しい表情に、想像も相まってか僕は背筋に薄ら寒い物を感じてしまい声が出なかった。
「兄さんが魅了の口づけをされる寸前だった・・・屋根が部屋の壁半分ごと吹き飛んだんじゃ」
「ふきとんだ!?」
しかしそんな口も続く話で思わず感情のまま叫んでしまう。いやその屋根と壁が脆かっただけかも、だとしても単独での魔法でその威力・・・僕は魔法士として少し妬ましく思ってしまっているのだろう。人族は彼等と違って魔法力に劣る、他の種族も人族より優秀な部分があるのは当然だろう・・・その当然が認められなかったのが昔のアクアリアなんだろうな。
「風系統の魔法だろうな、そして束縛の魔法でほとんど上しか見る事の出来ない俺の視界に・・・鬼神が現れたんだ。」
「きしん?」
「ニシンにゃ?」
「そら魚だろ」
聞いたことが無い言葉だからか、ルグオンが首を傾げているがお前その時何してたんだ? てかリフの頭の中は魚しか居ないのか・・・。そんなバカな二人のおか・・・せいで感じていた恐怖心が少し薄らいだ気がした。
「風を纏い空に浮き、長い髪を風で漂わせギラギラと光る赤い眼で眼下を睨み、その小さな体か発せられる気迫はその体を何十倍にも大きく感じさせた・・・」
「「・・・ごくり・・・」」
しかしそんな薄らいだ恐怖も、おっさんの何故か妙に迫力のある説明でさっきより余計に感じ、リフも同じなのか頭の耳を伏せて僕の背中から顔だけ出している。
「その日の夜、とある騎士団が借りていたバンガローが跡形も無く吹き飛んだ、残ったのは青空の下所々焼け焦げた地面に無傷で転がっていた俺と、一つのベッドに幸せそうに眠るアマテルと抱き枕にされた兄貴だけだった・・・」
「・・・騎士団よりその奥さんの方が何倍もこえーじゃんか」
騎士団どうした、こえーよ奥さんどれだけだよ・・・。僕は今日誓った、蛇神騎士団もそうだけど絶対精霊との混血は怒らせないと、そういえばアクアリアでも似たような事件を聞いたような・・・まさかね。
「にゃー」
おっさんの話のおか・・・せいで、僕の背中に隠れて耳を塞いで尻尾だけ揺らしてるリフに対して、いつもは払いのける所だけど今日だけは寛容でいられそうだ。
「まぁねぇ、伊達に精霊族の血を引いてないって事だけど、今のあんたにはそんな守護者が居ないんだから近づかない様にしときなって事だよ」
「・・・善処する」
「ほっほ、それで良いそれで良い」
上から目線のヴァラも妙にいい笑顔のおっさんも気に食わないが、確かに神聖魔法は厄介だから一応気を付けてやろうと思う。しかしそれ以上に、
「あとそのアマテルって人は怒らせない方が良いて事も分かったよ」
心底そう思った。
「・・・普段は良い奴なんじゃがな」
「一度怒るとねぇ」
「あと年齢は聞かない事だ」
「お、おう・・・」
俺の言葉におっさんは困ったような顔で唸り、ヴァラは苦笑いを漏らしている。しかしここで初めて恐怖を感じ、いや思い出したかのように真面目な声で忠告してくるルグオンおまえ何があった、自慢の尻尾がパンパンだぞ・・・。
そして次の日早朝、昨日の夜は珍しく大人しかったルフが僕のテントに潜り込んできていたので、追い出そうとしたのだが。話を聞くとおっさんの話の途中で恐怖のあまり気絶していたらしく、起きれば皆就寝済みで一人で寝られなくなったとか言うので、その日はそのまま一緒に寝たということもあったがまったくの余談だ。忘れたい。
そんな早朝、ここはエリエスの森の中、そこには森を高速で横切る黒い三つの影。
「素晴らしい体験だったな」
「その上しっかりと目的の物もゲットできたしな!」
「しかし、引き換えに美味しいお酒を要求されたでござるがどうするでござる?」
それはウパ族の集落で今回のミッションを無事攻略した3モブ忍者であった。しかし目的は達成できたものの新たなミッションが追加されると言うどこかゲーム的な展開になっている様である。
「そんなの決まっているだろ」
「勇者ユウヒが何とかしてくれる!」
「他人任せでござる! いや・・・拙者もそれ以外浮かばないけどね?」
そのミッションは既に満場一致でユウヒ頼みの様だ。
「まぁ駄目だったら適当にお酒探して持っていけばいいだろ」
「でもこっち来てからあまりおいしいお酒に会えないな?」
「全般的にでござるがやはり此方のお酒類には負ける感じでござるな」
そんな酒も町で購入するだけで問題無いのだろうが、彼等と言うよりユウヒの世界勢的にこの世界の酒は美味しいお酒に当てはまらないようである。贅沢を覚えてしまうと妥協点が上がってしまうと言う事なのだろうか。
「うでんも何か足りない感じだったしな」
「少女うどんが楽しみすぎるwww」
「どんな物が出来るやらでござる」
しかしそんな少しは真面目な話題も直ぐに怪しくなり、未だ見ぬ少女うどんに思い馳せ始める三人は、
「ところでこのスピードならどのくらいで学園都市に?」
「そうでござるな、ルートは覚えたので四日くらいでござろうか?」
「なら限界に挑戦しようぜwww」
何時ものテンションに戻ると、走る速度を更に加速させエリエスの森から飛び出すのだった。
「そう言えば限界に挑戦したこと無かったな」
「俺は光になる!」
「ちょ!? ヒゾウが先頭じゃ四日じゃすまなくなるでござる!?」
目的の学園都市がある南西へ・・・のはずが若干北にそれながら。
いかがでしたでしょうか?
すでにお忘れの方も居たかもしれませんが、思い出したかのように出してみました。でもナル男で外伝一本できそうな悪寒走ったのも事実・・・そんなことしてたら本編が終わらないですが(ガクブル
それでは今回はこの辺で次回またどこかでお会いしましょう。さようならー




