第七十六話 ユウヒ とは?
どうもHekutoです。
ここのところ寒いですね、そんな寒さに負けながらも七十六話完成しましたので投稿させていただきます。それではユウヒの物語をお楽しみください。
『ユウヒ とは?』
ゴエンモの腕が少女に握り潰されそうになった次の日の早朝、とある宿の一室にてもぞもぞと動き出す影があった。
「ふぁ・・・んーよく寝た」
ユウヒである。秋も深まり遠くから冬の足音も聞こえて来ているのか、早朝の空気は涼しいを通り越して冷たくなりつつある。
「・・・ところであいつ等どこまで行ったんだろ? 本気でエリエスまで行ったなんてことは・・・」
そんな朝の空気で目覚めたのか、それとも単にいつも通りの習慣なだけなのか。目を擦り起き上がったユウヒが眠気を覚ます為に窓を開けると、自然と室内にこもった空気は涼やかな風を伴い、新鮮なものへと入れ替えられるのであった。
「ただ待ってるのもなーでも働きたくはないなー」
冷たく気持ちのいい風のおかげで目の覚めて来たユウヒは、どこかに行ってしまった3モブの事を考えながら今日の予定を考え始める。
「・・・うーん、よし今日は学園近くの商店に素材探しに行くかな」
少しずつ明るくなって行く街並みを眺めていたユウヒは、街の中から聞こえる明るい子供の声を聞くと今日の予定が決まったようで、予定を声に出しくるりと部屋へと振り向くと身支度を始めるのであった。
そんな早朝から大分時間も過ぎたここは、学園都市冒険者ギルド。様々な冒険者が居る中に一人の女性が荷物を手に依頼受け付けカウンターに向かっていた。
「およ、アリーネじゃないどうしたの? また何か依頼?」
「いえ、今日はお仕事お休みなので町に出て来たんです」
カウンターでだらけていたリッテが首を傾げる先に居る女性はアリーネ・フォフィスン、ユウヒが遺跡まで護衛した女性である。どうやら今日は仕事が休みだったのか、朝から街に繰り出していたようである。
「それでわざわざここまでねぇ? ・・・ユウヒ君なら今日は来てないわよぉ?」
「そ、そんなんじゃないです! ・・・今日は?」
アリーネの説明に違和感を感じたのか、リッテは首を傾げるもすぐに何かに思い至りニヤニヤと意地悪そうな表情を浮かべ、右手で口元を隠すとユウヒの名前を出す。その言葉に慌て否定するアリーネだったが、その慌てっぷりはリッテを喜ばせるだけであった。
「そそ、ついこの間依頼を受けに来たのよ」
「そ、そうなんですか・・・」
慌てながらも『今日は』と言う部分が気になったアリーネにリッテが先日の事を伝えると、先ほどまでとは一転急にしょんぼりするアリーネ、どうも彼女は分かりやすい性格なのかそれとも相手がリッテだからなのか、表情から内面の感情が読み取りやすい。
「なに残念そうな顔してんよ、まったく」
「もーそんな意地悪する人にはお土産上げませんから」
「え? なになに何かお土産?」
コロコロと変わるアリーネの表情を見て呆れたようなに脱力するリッテだったが、アリーネの口から出たお土産と言う言葉に目を輝かせると、カウンターから身を乗り出しアリーネに顔を近づける。
「古代料理研究室から貰ってきたんですよ」
「・・・・・・それ食べれるの?」
しかし続く説明にリッテの顔はその表情を180度変え、全力で不審がるのだった。
古代料理研究所とは、古代遺跡から出土する文献や伝記、伝説などから、飽食の時代とも呼ばれた過去の数多ある料理の数々を復活させようとしている研究者の集団である。しかしその研究の段階では、味云々以前に毒物まで作っておりその研究内容はあまり信頼されていない。
「とっても甘くておいしいんですよ?」
「うーん見た目は丸いパンみたいだけど・・・研究所が付くと何故か不安になるのよねー」
「あはは、否定したいとこですが・・・できないのです」
アリーネの残念そうな顔から分かるように、リッテの感想は世間一般の評価と大して変わりは無いのである。
ちなみに、古代料理研究所が毒物を作った事件【狂喜のポイズンクッキング】事件で作られた物は発酵製品であった。製作段階で何らかの危険な細菌が混ざっていた様で、それを食べた者は腹痛、嘔吐、発熱、幻覚症状などを引き起こし死人こそ出てはいなかったが軒並み隔離病棟送りになったのであった。
「でしょ「あの、すみません」ほい?」
「お話し中すみません、情報提供依頼なんですけど・・・」
どこか悔しそうに唸るアリーネに何故かドヤ顔を向けていたリッテ、しかしそれもアリーネの後ろから聞こえた声によりドヤ顔は一時中断となる。
「はいはい、えっと私に回されるって事はたぶん結構お値段しますが大丈夫でしょうか?」
「はい大丈夫です。えっと、ごめんなさいお話し中に」
「いえ!? 依頼では無いので大丈夫ですよ」
その声の主は、別のカウンターからリッテに回された依頼者の様だ、このギルドの中でもリッテはベテラン扱いに入り、重要な案件や扱いに注意が必要な事柄は大半彼女に回される。リッテ的には勘弁してほしいらしいが他に任せられるのはギルドマスターや秘書くらいらしく、これは若いギルド員が多い学園都市らしい問題であった。
「えーっと、お名前とあと所属があればお願いします」
「はい、学園都市魔法研究所所属のアン・ヴェールです」
そんなベテランギルド員リッテの目の前に現れたしょう・・・女性は何を隠そうあのエルフしょうじ・・・女性研究員アンである。何故か彼女は度々虚空を睨むがそちらに私がいるなんてことは決してアリマセン。
「あら? 研究所なんだ、アリーネと一緒ね」
「あはは、私は薬学のほうなんで多分接点は無いと思いますが」
アンの自己紹介にキョトンとした表情を浮かべたリッテは、そのままアリーネに話題を振るも、どうやら魔法研究系と薬学系の研究所間ではあまり接点が無いようである。
「薬研の方ですか、初めまして古代魔法の方で主任をしてます。気軽にアンと呼んでください」
「はわ!? は、初めまして! 薬学研究所で薬師とたまに学園で講師をしてます。アリーネ・フォフィスンと言います!」
「・・・」
二人の会話を聞いて興味深そうに視線をアリーネに向け丁寧にあいさつをするアン、そんな丁寧なあいさつに何故か慌てながら自己紹介をするアリーネ。二人のそんな様子にリッテは微笑ましそうに笑みを漏らす。
実は研究所に所属する人間でアリーネやアンの様なタイプは少なく、どちらかと言えば自己中心型や自己完結型、または野心家などが多い、その為丁寧なあいさつをしてくる人間はそんなに多くは無い。ついでにそれらと競い合う様に多いのが、俗に変態と呼ばれる部類だったりするのは完全に余談である。
「まぁ! 薬師に講師まで、優秀なんですね」
「い、いえそんなこと!?」
「・・・・・・」
そんな研究所でも希少な二人であるが、どうやらアンはアリーネに興味を持ったようで、目を輝かせるとその小さな体でアリーネに詰め寄る。
「そんな謙遜しなくていいのに、私薬学ちょっと苦手で・・・是非お話し聞きたいです」
「わ、私の話なんて・・・」
アリーネが言った講師とは、専門的授業などで学園教師では手に負えない様な場合に呼ばれる人を差し、その分野において実践的かつ優秀な人間であることが選ばれる条件である。その為アンの反応もいたって普通の反応であるのだが、アリーネにはそこまでの自覚は無いので、アンの反応に照れてしまうのであった。
「・・・まぁね、仲良くなるのは良い事よね」
「「あ!? ごめんなさい!」」
「なんだか似てるわね二人とも?」
「ええっと・・・」
「あ、ははは」
研究所繋がりの二人が交友を深める姿に、最初は微笑ましそうな表情だったリッテであったが、話が弾み蚊帳の外状態になっていることに気が付くと、微笑みを引き攣らせ思わず言葉に棘を含めてしまうのであった。
「・・・それで? 何が知りたいのかしら? アリーネが聞いちゃダメな話なら席外してね?」
「は、はい!」
しばらく二人をジト目で見詰めていたリッテだったが、気持ちを切り替える為に少し長い瞬きをするとアンに要件を訪ねながらアリーネにも注意をする。
「はい、実は人物情報なんですが・・・ユウヒと言うぼうけ「え?」ほえ?」
真面目モードのリッテに、アンは一つ頷くと要件を伝え始めるのだが、その依頼内容に思わずアリーネが変な声を漏らし、その声に驚いたのかアンは音源に目を向けると小首を傾げる。
「あーまたか、ほんとユウヒ君は人気だねぇ」
「「え?」」
さらには、リッテまで先ほどまでの仕事口調を崩すと頭を掻きながらため息交じりにぼやき、二人の研究員の表情をキョトンとしたものに変えるのであった。
リッテが少し困った顔を浮かべる少し前アンがユウヒについて尋ねた瞬間、ここは学園の正門からにほど近い場所にある商店通り、そこでは一人の男が、
「へっぷし! ・・・噂かな?」
盛大にクシャミをしていた。ユウヒである。
「ふーむ、この辺りの店と市場の店では雰囲気が違うなー」
鼻を擦りながら首を傾げるユウヒは、どうやら活気のある市場とは違うゆったりとどこか暖かい空気の流れる商店通りを物色して回っているようだ。
「やっぱり学生が来るから危なくない様になのかね?」
そんな中、目に留まった一軒の店に立ち寄ると、店先に並んだ商品を右目で視ながら中央市場との違いに気が付き、顎に手を添えると独り言を呟き考え始める。何故ならどの商品も品質が均一で、かつ性能に棘の無い物が並んでいるのだ。
「んーこの辺りは触媒ってのが多いけどなんでだろ?」
「ん? あんた学生さんじゃないのかい?」
どの店もそんな感じであったが、この店では乱雑と色々な物が並べてあった市場と違い、同じような商品ばかりが並べてある。そこにも疑問を持って見ていたユウヒに頭の上から声がかかる。
「そう見える? だいぶ前に学生時代は終えたんだけどね」
「おや? そりゃすまないね、と言う事はここの卒業生じゃないんだね」
近づく人に気が付いてユウヒは商品を見る為屈んでいた姿勢のまま声の人物に顔だけ向けると首を傾げながら返事をする。そんなユウヒの視線の先には、悪びれた感じのしない笑みをした恰幅の良い女性が腰に手を置き見下ろしていた。
「なんで?」
「そりゃーここの学生なら必ずこの辺りの店にお世話になるからね? ここのこと知らないならそれしかないさ」
「なるほどねー」
この店の店員であろう女性の言葉に、何故わかったのかとユウヒが問うとそんな回答が返って来る。
「ここらは魔法科系の学部が近いから品揃えはそっちに偏るのさ、わかったかい?」
その回答に納得がいったユウヒは、ゆっくりと立ち上がるとコクコウと頷く。この辺りの通りは近くに魔法科系の生徒がよく使う門があり、その為自ずと品ぞろえもそちらに偏っている様だ。
また余談であるが、体力が資本の兵士科や騎士科などが使う商店は門から遠く離れたところにあったりする。
「へぇーそれなら納得かな、品質も学生用って所?」
「あらぁ目は良いみたいだね! そうだよ、あまり品質がバラバラじゃあ授業に影響が出るからってね学園からある程度支援してもらってるのさ」
ユウヒの言葉に答える女性の言う様に学園から近いこの商店通り一帯は、学生の利用がほとんどでありその為品質にあまりにバラつきがあったり、危険なモノを置かれると学園としても困るため、学園からの援助の代わりにその品ぞろえを一定に保ってもらっているのである。
「ふむふむ、てことはここの商品は平均的な品質ってこと?」
「そうだねー、まぁ難易度低めってところかね」
「ふむぅ・・・なるほどね、おおこれが水の触媒か」
予期せず聞けた学園都市特有の事情にユウヒは何かを考えるとそんな質問をし、帰って来た言葉に一瞬だけ難しい表情をすると、すぐに表情を戻し最近聞いたことのある商品をしげしげと見つめ始めるのだった。
「それは水生成魔法の「あ! ユウヒだ!」おや?」
「んあ?」
しかしそんな知的好奇心を満足させる観察も束の間、店員の説明を遮るように大きな声で名前を呼ばれ、ユウヒは吊るされた水の触媒から視線を外し振り返る。
「ユウヒ!」
「おっとと、あんまはしゃぐと怪我が開くぞ? ロップ」
名前を呼ばれた方に振り向いたユウヒを直後、衝撃が襲う。といってもそれはそこまで強い物では無くまた腰から下だけであった。何故ならその衝撃はまだ小さなウサミミ少女のロップが抱き着いて来たことで起きた衝撃だったからである。
「治ったから大丈夫!」
「お久しぶりです」
ユウヒの困ったような声に、腰に抱き着いたままのロップは嬉しそうに顔をユウヒに向けると元気に大丈夫と声を上げる。そんなロップを追いかけて来たのか小走りでやってきた暖かそうな服装の少女もユウヒに声をかけて来た。
「おーサワーリャも体調はよさそうだな、ロップ本当に治ったのか? 無理はするなよ?」
「えへへ」
暖かそうな服装の少女はサワーリャである。種族的特性で寒さに弱いだけあり着込み方はロップより一段階以上多そうだ。
そんな二人の少女の元気そうな姿にどこか安心したような微笑みを浮かべるも、頭に怪我をしたロップの事を気遣う様に腰に抱き着いたままのウサミミ頭を優しく撫でるユウヒ。
「傷はもうしっかり塞がって傷後も残って無いみたいです。ユウヒさんの魔法薬のおかげだそうで、ありがとうございます」
「・・・あれは凄く沁みたの・・・」
その傷もユウヒが冒険者科生徒の生傷に問答無用で塗っていた薬が効いたようで、既に跡形も無く治っているようだ。しかしそんな生傷とは別で、塗り薬はロップの心に若干の精神的ダメージを負わせていた様で、塗り薬の話題にロップはそっとユウヒから離れ青い顔で頭を押さえると、プルプル震えるだすのであった。
「ん? ・・・うん、傷も残らなくてよかった(あれぇ? 効果が思ってたより高い? いや完璧に治るのは望んだことだけど、早すぎる・・・)」
ユウヒはサワーリャの説明に、震えるロップの髪の毛を手で梳きながら傷の状態を確認をするも、そこには健康的な頭皮が見えるだけで傷後は全くなかった。ユウヒは一通り確認すると少し強めにロップの頭を撫でると内心を隠すように微笑む。
「あうあう・・・えへへ」
そんなユウヒにぐりぐりと頭を撫でられ、されるがままのロップは頭をふらつかせながらも嬉しそうに笑う。
「なんだい、兄さんロップちゃんと知り合いかい?」
「ええ、この間の野外実習で護衛をしましてその時に」
「あんれま、冒険者さんかい? みえないねー?」
「あははは」
女性店員はロップ達と知り合いだったようで、目の前のやり取りにきょとんとした目でユウヒに問いかける。そんな女性店員に苦笑いを浮かべながら答えるユウヒだったが、返って来たお約束になりつつある言葉には、もう笑うしかないのであった。
「ユウヒはね! すっごい魔法士なんだよ!」
「へぇそうなのかい、人は見た目によらないもんだねぇ」
女性店員の言葉にユウヒが何か言うよりも早く、ロップが力強くユウヒの事を話し始め、そんなロップの様子に女性は感心したような雰囲気でユウヒを見詰める。
「ユウヒさん今日はどうしたんですか?」
「んーちょっと素材系を見にブラブラとな、市場の方は今一でなぁ」
「そらしょうがないよあんた、暴走ラットのせいで交易が滞ってるからね」
ロップが興奮してユウヒの凄さを話す隣で、サワーリャが少し眠たそうな目でユウヒに話しかける。そんなサワーリャにユウヒは頭を掻きながら答えると、店員の女性がロップから視線を移ししょうがないと話し始める。女性店員の店でもネズミの影響が出ているのか、その言葉はどこか疲れた空気を纏っていた。
「・・・あれは怖かったね」
「ああ、もう勘弁してほしいな」
「まぁあんなことは早々無いから大丈夫だろ(たぶん・・・神様次第だけど)」
店員の困ったような疲れたような言葉に、襲撃時の事を思い出したのかロップは頭の耳を押え、サワーリャは肩を落としながら疲れた様にお互い見つめ合う。ユウヒは元気付ける意味も込めて言葉をかけたものの、二対の不安そうな瞳に真相を知る者であるが故に若干の不安を感じざるを得ないのだった。
「そういえば暴走ラットに襲われたんだってね! ほんとみんな無事でよかったよぉ」
「うん! みんなユウヒがたおしちゃったからもう大丈夫だよ!」
三人の会話で思い出したのか女性店員は大きな声を上げ、心底安心した声を漏らす。そんな女性に先ほどまで不安そうな瞳をしていたロップは少し前までの元気を取り戻すとユウヒの話を再開する。
「まぁ・・・うん、そのことは忘れような?」
「「むり!」」
「・・・そっかー」
そんなロップの激しく上下するテンションを微笑ましく感じるユウヒだったが、その姿に自らの黒歴史が広まる予感を感じるとロップにとある提案をするのだが、その提案は明るい少女達の一言で拒否されるのであった。
「はぁ・・・じゃあんたが噂の凄腕冒険者さんかい! みえないねー」
「あ、ははは・・・(あれぇ? 妙な噂が広まってないかなこれ?)」
ロップが語る熱の入った説明に女性店員はユウヒを見詰めると感慨深げに溜息を吐き、その言葉にユウヒは嫌な予感が当っていることに気が付くと乾いた笑いを漏らす。
「ん?」
「どうかしました?」
そんなユウヒの引き攣った笑みに、不思議そうに首を傾げるロップとサワーリャ。
「んーとね、この間の事はあまり広めないでくれると嬉しいなぁと」
「・・・無理かも? もうだいぶ広まってるよ?」
「はい、ユウヒさんの名前までは広まってないと思いますが、凄腕魔法士で冒険者って内容が・・・」
「おそかったかぁ・・・」
頑張って笑みを維持するユウヒの悪足掻きにも似たその願いは、あっさりとした少女達の言葉で脆くも撃沈するのであった。
「隠さなくったっていいだろうにねー?」
「面倒事がついてこなければいいのですけど・・・」
力なく肩を落とすユウヒの姿に不思議そうな顔で首を傾げる店員の女性、そんな女性に首だけ向けると力なく呟くユウヒ。
「ふーん? 冒険者も大変だね?」
「大変だね!」
そして返って来る今一理解できないと言った感じの言葉と、理由は分からないけど元気の無いユウヒを励まそうとするロップ、
「・・・頑張ってください」
「はは・・・ありがと」
そんな二人に目を向けた後、こちらは察してくれたらしいサワーリャの励ましの言葉にユウヒは御礼を言うと、その心遣いに誰にも気づかれる事無く心で涙を滲ませるのであった。
ユウヒが器用に心だけで涙を流している頃、場所は戻って学園都市冒険者ギルドのカウンター、そこでは情報提供依頼により一通りの話を終えたリッテの姿があった。
「というわけ、こっちで出せる情報はこのくらいね」
「それって・・・ほとんど無いに等しいですよ」
「依頼関係も半分以上見れないし・・・少ないですね」
話を締めくくるリッテの言葉に、どこか不完全燃焼感を感じるアンとアリーネは唸るように話しながら、ユウヒに関する情報の記載された羊皮紙を睨むように見つめている。
「個人から受ける方が多いとこうなったりするけど・・・回覧許可が無いのは王家からの直接依頼だからよ」
「お!?」
そんな二人の様子にリッテは困ったような笑みを向けると、二人だけに聞こえる小さな声でそんな事を話す。本来なら話してはいけないところギリギリの内容になるので、リッテも辺りを窺いながら話すが、その言葉は効果抜群だったようでアンは驚き叫びそうになる自らの口を押える。
「あ、そうか」
しかし隣のアリーネはその話に何か思い出すとぽつりとつぶやく。
「あらアリーネ何か知ってそうね? 教えなさいよ内容によっては買うわよ?」
「え? あ、いえユウヒさんが妹の事を知ってたので、気になって妹に連絡して聞いたんですよ」
妙な反応をするアリーネの姿に気が付くと、リッテはカウンターから身を乗り出しながらアリーネに迫る、リッテのその時一瞬だけ見せた瞳の輝きは得物を狙う肉食獣の様であったとは、小柄エルフ女性談である。
「妹? なんだったかグノーに居るのよね?」
「はい、バトー様に才能を認められそちらで師事してるんですけど、王宮の食事会でユウヒさんに会ったらしく」
「ええ!?」
アリーネの説明に、依然聞いていたアリーネ妹の事を思い出しながら首を傾げるリッテ、その言葉に補足するようにして話しを続けるアリーネ。その隣話しを聞いていたアンは、次々飛び出るビッグネームや社交場の名前に驚き思わず驚愕の声を漏らしてしまう。
「・・・なるほど、道理で王家や貴族絡みからの情報提供依頼が多いわけね」
「バトー様って王宮魔術師顧問のバトー様よね!? そこに師事・・・さらに王家の食事会」
「だ、だいじょうぶですか?」
アリーネの話でなにか納得のいったように頷き続ける腕を組んだリッテと、頭を抱えながらぶつぶつと呟き続けているアン。二人の様子を見てアリーネはニヤニヤと笑みを浮かべるリッテに苦笑いを浮かべるとアンを気遣う様に話しかける。
「ええ、想像以上の事だったから驚いてしまって、あなたの家系はきっととても優秀なのね」
「そ、そういうわけでもないと思いますが・・・」
アリーネの気遣いに無理矢理笑みを作り微笑むアン、そんなアンの言葉に頬を掻きながら苦笑いを深めるアリーネ。
「アリーネちょっと待っててね、今情報提供の書類用意するから!」
「ええ!? 駄目ですよリッテさん!? してません私してませんよ情報提供なんて!?」
「あっはっはアタシに聞かせたのが運の尽きよ!」
「あぁぁぁ」
しかしその表情はリッテの嬉しそうな声で驚愕に染まり、引き留めようと上げられたアリーネの手は虚空を彷徨った後、体ごとカウンターに突っ伏し言葉にならない嘆きの声を上げる事になった。
「えっと、ご愁傷様で良いのかしら?」
「うぅ」
冒険者ギルドでは、その性質上日々大量の情報が集まるため、その情報が乱用及び悪用されないように各国合意の下、様々な管理体制や法整備が成された。その中で冒険者から仕入れられる情報に関しては、その情報の希少性、有効性などから査定され報奨金が支払われる事になっている。
これは基本、冒険者側がお金の為にギルドへ売り込むのだが、今回の様に雑談でポロリと出た情報にもギルド員が聞いた以上否応なくお金が支払われ、情報提供として扱われるのだ。その際に何時、誰が、どんな情報を、といった感じの書類を管理上作る必要があり、価値ある情報の場合はアンに慰められるアリーネの前で嬉々として書類を作るリッテといったような構図が出来上がるのであった。
「それにしてもユウヒさんって何者なのかしらね」
「へ? そうですねー私には凄いと言うよりは、優しい人と言う印象の方が強いですね」
「確かに、こう言っちゃ失礼だけど冒険者っぽくは無いわね」
カウンターに突っ伏しているアリーネを慰めていたアンは、苦笑しながら謎の深まるユウヒについて何と無しに呟く、その言葉はアリーネの耳にも届いたようで視線を上に向けながら何か思い出すように考え始める。
「ゴツゴツしてませんでした」
「ええ、ギラギラもしてなかったわ」
しかし、二人のユウヒに対する評価も、これまでユウヒが出会ってきた人々と大した差は無く、同じような評価に落ち着くのである。
「えっとね二人とも? 冒険者ってそんな人ばかりじゃないのよ?」
「でも・・・多いです」
「まぁ研究所はモヤシの方が多いしね」
「うちの研究所もそっちの方が多いですから」
リッテの言う様に冒険者全部が全部そういった者達ばかりでは無いのだが、そういった人間が多いのも事実であり、そこに輪をかける様に二人の周辺環境には筋肉質な人間がいないのである。逆に怪しかったり変態だったりは多いのだが・・・。
「まぁ反論はできないか・・・。それよりはい、これが情報提供料ね」
「へ? あ、意外と多い・・・じゃなくって!?」
そんな事実もある為、強く否定し続けることが出来ないリッテは困ったような顔をするも、話題を変える為アリーネの掌に報奨金袋を乗せる。急に渡され咄嗟に受け取ったその袋の中には、一般的な情報提供報奨金より多くのお金が入っており、ずっしりとした重みをアリーネの腕に与えていた。
「手に取ったわね! もう返せないから契約は成立よ! ほほほほほ」
「リッテさんの意地悪!」
アンの目の前では、渡されたお金を慌てて返そうとするアリーネと、それを楽しそうに拒否する悪徳? ギルド員ことリッテの高笑いが響いており、そのあまりにあまりなやり取りにその表情を引き攣らせてしまうのであった。
「安心しなさい誓って悪用はしないから」
「それは信じてますけど・・・」
「ならいいじゃ・・・あら?」
頬っぺたを膨らませ恨みがましそうに精一杯睨むアリーネを、困ったような笑みで頭を撫でるリッテの姿は、まるで姉妹の様だとアンが考えていると、リッテが突然話の途中でアンとアリーネの後方に目をやり少し驚いたような顔をする。
「「え?」」
「ん? やぁひさしぶり?」
そんなリッテに釣られた二人は、キョトンとした表情で同時に後ろを振り返る。するといつの間にか彼女達に近づいていた男性は、三対の瞳に凝視されたせいか動きを止めると片手を挙げて挨拶をする。
「「ユウヒさん!?」」
そうその男性とは、朝から町を歩き回ってウサギ耳少女に抱き着きタックルされたり、毎度恒例の評価を受けたりと言った事を行っていたユウヒである。
「はいユウヒですよ? 何だ賑やかだな、何か楽しい話でもあったか?」
「うふふ、いつもこの位華やかならいいんだけどねー」
そんなユウヒは何か用事が出来たのか、冒険者ギルドまでやってきたようである。来て早々リッテの所までやってきたユウヒだが、目の前の賑やかな様子に首を傾げながらリッテに話しかけ、その言葉に両手に花状態を楽しんでいたリッテは嬉しそうに答えるのだった。
「そうか、それは男臭を持ってきて悪い事をしたかな?」
「ユウヒくんはいいのよーそれで? 今日は何かな? 依頼かなそれともデートのお誘いかな?」
「「デ、デート!?」」
リッテの言葉を聞いて、面白そうに笑いながらカウンターに近づいて来たユウヒに、リッテもカウンターに身を乗り出しながら楽しそうに笑うと、要件を聞き始める。しかしそんな軽いノリの会話も二人の女性にとっては軽くなかったのか、驚愕の表情で叫び固まる。
「聞きたいことがあるんだが、あまり心にもない事言って純粋な男心を傷つけるなよ?」
「あら、強ち冗談でもないかもよ? それで、聞きたいことって何かな?」
軽口の言い合いをしながら要件を進めるユウヒとリッテ、どうやらユウヒにとってこういったノリの良い女性は話しやすいようで、心なしかいつもより自然な笑みを浮かべており、そんなユウヒの表情にこちらは心なしか表情に余裕の無いアリーネとアン。
「はぁ、何か最近俺の噂を色々聞くんでな、その辺の話とあとどんな人が俺の情報聞きに来るのか気になってね」
「「!!!?」」
しかしユウヒの口から出た次の言葉で二人の顔から表情が消える。なにせつい先ほどまでユウヒに関する情報を聞いてた二人である、その上アリーネに関しては予期せず提供までしてしまったのだ。
「あらぁ~それはなかなか良いチョイスねぇ」
「ゆ、ユ、ユウヒさん!? 私用事があるので失礼します!」
「わ、私も!? えっとお金は後日必ず! 失礼します!」
少なからずユウヒに対して好意を抱いている女性達である、もし自分達がその聞きに来ている中の一人だと知られれば、どう言う風に思われるかと顔を青くするのも仕方がないだろう。そう思ってからの行動は迅速そのもの、口早に別れの挨拶済ませると急いでギルドを後にする二人であった。
「お? おぅ」
「ぷ、くくく・・・くるしぃ」
そしてその場に残されたのは、知り合いの女性二人の突然の行動にキョトンとしたまま、二人の小さくなっていく背中を見送るユウヒ。そして一連の出来事がツボにはまったのか、カウンターの向こう側にお腹を押さえ苦しそうに笑い沈んでいくリッテ。
「・・・なにがなんだかわからないよ」
しばらくそのままの体勢で固まっていたユウヒはそう呟き、その呟きはリッテの苦しそうな笑い声をBGMに空しく虚空へ消えていくのであった。
余談だが、後日とある情報提供依頼と情報提供に関する話を、とある男性冒険者に対して秘匿したリッテの下には、二人の女性の連名で贈り物が贈られることになるのであった。
いかがでしたでしょうか?
あっちこっちでフラグを立ててそうなユウヒですが・・・これもハーレムになるのでしょうか? まぁどっちでも良いですね。
それではまたここでお会いしましょう。さようならー




