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ワールズダスト  作者: Hekuto


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第七十五話 エリエスの森と駄目忍者

 どうもお久しぶり鈍足のHekutoです。


 えーすでにお気づきの方もいるかもしれませんが、新作出しました。実はこの更新速度遅さはリアル忙しさとは別にその影響をかなり受けてます。

 まぁそんな言い訳とご報告はこの辺で、それでは今回はユウヒとは別の視点で送りいたします。



『エリエスの森と駄目忍者』


 日も沈み夜の帳が落ちる頃、生き物達が眠る地上の遥か上空に何者かの姿があった。


「ったく廃送システムが謎の停止とかありえねーよ」

 その影はどうやら男性の様で、何かに対して悪態を吐きながら一昔前の折り畳み型携帯電話の様な物を操作している。


「しかも俺がゴミ捨てに来ないといけないとか、もう最悪!」

 イライラしながら端末を操作していた男性が最後のボタンを最悪! と叫びながら押すと、男性の足元に黒い穴が拡がり中から何やら一抱えほど有りそうな物体がズルズルと出て来るのだった。


「はぁこの辺でいいか・・・そーれあばよー、これで俺らの決定的な証拠は見つからず最悪の事態は避けられるっと」

 ゆっくりと空を移動していた男性は足元に広がる広大な森を確認すると、何やら嬉しそうに独り言を呟きながら謎の物体を軽く蹴る。蹴られた謎の物体は星の引力に引かれゆっくりと加速して行き光りながら大地へと落ちて行く。


「てかなんで残してたんだか? ・・・ん? マズ!? もう歪みだしやがった! これだからこのゴミの塊は嫌いなんだ!」

 不思議そうな表情で星へと落ちて行く物体を眺めていた男性は、何かに気が付くと悪態を吐きながらその場から消える。その男が消えた場所は瞬く間に空間が歪み、亀裂が走り何も無い場所にもかかわらず暴風や火炎、吹雪がしばらくの間吹き荒れているのであった。





 そんな謎の物体が光りながら落ちて行くのと同じ頃、広大な森の大きな木の上では小さな人影が数人空を眺めていた。


「あ! 流れ星だ!」


「ほんとだ! あれ? 森に落ちてくよ?」


「星が落ちてきたんだ! 見に行こうよ!」


「面白そう!」

 その人影達は、空に流れ森へと落ちて行く眩い箒星に目を星の様に輝かせると、次々に背中の透けた羽をはためかせ輝く鱗粉を散らすと木から飛び立っていくのであった。





 一方その頃、幻想的と言う言葉が似合わない三人組が同じ様に空を見上げていた。


「ん? 流れ星でござるか、風流でござるな」

「おーってか長くないか? 彗星か?」

「三倍速い奴か! ・・・青いな」


 そう、残念3モブ忍者である。さきほどの小さな人影同様木の上に居るのだが、木の幹に寄り掛かりだらける姿はとても見苦しい。


「それでは巨星でござろうか? ・・・落ちた?」

「ふむ、この世界の流れ星は地上まで落ちるのか」

「普通に考えてこれはフラグだろう! 流れ星が俺達の目指す方向だ!」


 だらけた姿勢のまま空をぼーっと見上げ森へ落ちて行く星を見ていた3人は、互いにネタを含んだ会話を楽しんでいるようだ。ジライダが異世界の流れ星事情に感心していると、ヒゾウは立ち上がり星の落ちた方向を指さしながら熱く語り出す。


「おお、珍しいでござるな? 正解でござる。あっちがエリエス連邦のはずでござる」

「ヒゾウが方向を当てる? 嫌な予感しかしないな」

「まったく否定できない・・・だと!?」


 そんなヒゾウの言葉に心底珍しそうな声を上げるゴエンモと、その内容に嫌そうな顔をするジライダ。二人の心無い言葉に勢いよく振り返るヒゾウだったが、否定しようにも全く否定できる要素が無い為、振り返り驚愕の表情のまま固まる。


「じゃ諦めるでござるか?」

「・・・いや、隕石の武具とかかっこよくないか?」

「・・・いいでござるな」


 心底嫌そうな顔のジライダに止めるかと聞くゴエンモだったが、一拍おいて返って来た言葉の内容にキリッとした表情で賛同する。


「拙者隕鉄で刀とか作ってほしいでござる」

「決まりだな」

「そうと決まれば今日はさっさと寝るでござる」


 どうやら方針は決定したようで、お互いにサムズアップし良い笑顔で笑いあうと木の上で器用に横になり寝始める二人、その隣では固まったままのヒゾウがぽつり一言呟くのであった。


「・・・解せぬ」と・・・。





 星の降った夜も明け朝露が斜光で輝く森の中、そこには窓辺に立ち朝の空気を楽しんでいる綺麗な深緑の髪が映える女性がいた。


「族長、失礼します」


「あら、おはよう。朝早くから何かありましたか?」

 しかしそんな一人だけの時間は急な来訪者により終わりを迎え、来訪者に女性は嫌な顔一つせず微笑みかける。その視線の先には窓辺脇にある木々で出来た足場に、膝を着き頭を下げる男性が居た。


「はい、昨日の夜から各地で行方の分からない者達が数名出ているようで、話を聞くにどうやら昨夜の落ち星を探しに行ったようなのです」


「そうですか・・・好奇心とは恐ろしい物ですね。すぐに落ち星の落下地点と思しき場所を封鎖するように、何があるかわかりませんからね」

 族長と呼ばれた女性はその報告を聞き少し困ったような微笑みを浮かべると、それまでとは違った真面目な表情で報告に来た男性へ指示を出す。


「はっ! すでに封鎖の準備は出来ております」


「そうですか・・・それでは探索隊は、とりあえずうちから出しましょう。各氏族長への連絡は私の方からしておきます」

 出した指示に流れる様に返って来る返事を聞き、女性は嬉しそうに微笑むとまた目元を引き締める。


「了解しました。失礼します!」


「・・・森の精霊が落着かない感じですね。何も無ければいいのですが」

 男性がふわりと眼下の町へと飛び降りる姿を眺めていた女性は、その視線を森の木々に向けると少しだけ不安そうに表情を歪めるのであった。





 そんな不安な空気の流れる森の入口に、三つの黒い人影が佇んでいる。


「むむむ、エリエスの森まで来たものの・・・道が分からんでござる」

「なんだ使えないマッパーだな」

「お前が言うか」

「ですよねー」


 お馴染み、地図と思われる羊皮紙を広げ難しい声を漏らすのはゴエンモ、その隣で茶々を入れるヒゾウはジライダから即座に突っ込みを入れられ何故か照れている。


「ふむ、ここから先は地図に載ってないでござるよ」

「細い道はあるから適当に進んでみるか?」

「確実に迷子になると思うでござる」


 どうも手持ちの地図にはここから先の道は描いていないようである。


「我も流石に疲れた、まともな寝床で寝たい所なのだがな」

「んーもう少し向こうに砦があるらしいでござるがそこで聞いてみるでござるか?」

「大丈夫か? 明らかに怪しまれる自信が「そこの者達! そこで何をしている!」・・・ほら」


 それもそのはず、エリエスには実に多様な種族や部族が住んでいる。その中には隠れ住む者もいる為、保護や不要な争いを起こさないように詳しい地図を外に出すわけにはいかないのである。


「いや拙者らはあや・・・」

「どうし・・・」

「ん? ・・・おお!?」


 そんな多数の種族が住むエリエス連邦においてもっとも多く、また発言力を持つ種族それは・・・。


「ここはエリエス連邦の国境ラインだ、何のためにここまで来た!」


「ジェスだめよ! そんな脅すような言い方、シャドーシーカー族は臆病なのよ?」


「知るか! こんな忙しいと「金髪エルフキターーー!!」なんだ!?」

 そう、金髪エルフ・・・じゃない、いや間違ってもいないけどもエルフである。ちなみにシャドーシーカー族とは、夜行性で背格好は人間と変わらないものの、生まれつき紫外線に弱く常に全身を隠す黒い服を着ている妖精族である。彼の種族を知っている者なら3モブ達を見てそう見間違っても仕方ない、のかもしれない。


「え、えっとあなた達は誰かしら? 私はエリエスのシルケス氏族でミディール、国境警備をしているの」


「せっせせ、拙者ゴエンモでござる!? 握手してもらっていいですか!?」


「え? あ、うん挨拶ね? よろしく、ゴエンモさんですね」

 そんな勘違いをされていることなど興奮して気が付かないゴエンモは、綺麗なエルフ女性の前に出ると服の綺麗な所を探し両手を摩擦熱で煙が出る勢いで拭き握手を求める。そんなゴエンモに少しびっくりしながらもミディールと名乗った女性は微笑みながら握手に答える。


「貴様ぬけがけとわ!? 我はジライダと言う者です! あの握手を・・・」


「はい、ミディールですジライダさん」


「わ、私はヒゾウと言います! よろしくお願いします!」


「えっと、はいよろしくヒゾウさん」

 ゴエンモの素早い動きに怒りながらも目元を緩め握手を求めるジライダとヒゾウ、その後ろでは感動に震えるゴエンモ。そんな3人の姿にミディールは、どこか嬉しそうな微笑みを浮かべ、


「な、なんなんだこいつら?」

 その後ろではジェスと呼ばれた男性エルフが顔を引き攣らせていた。


「あら、ちゃんと挨拶してくれるんだから礼儀正しい方達じゃない」


「そ、そうなのか? 何か違うような・・・」

 後ろから聞こえた言葉にミディールは不思議そうな顔で首を傾げ、ジェスはさらに困惑するのであった。


「これが、これが生エルフ・・・何たる柔らかさ・・・」

「我がこれほど心動かされるとは・・・流石伝説の金髪エルフ・・・」

「サラサラと流れる金髪ロングにエルフ耳・・・完璧だ何というディ「「それはだめだヒゾウ!?」」ト」

 困惑するジェスの視線の先では感動で涙を流し、握手した手を神々しそうに見つめる3モブの姿、普通に考えて怪しすぎである。


「・・・」


「きっとここまで三人でさびしかったのよ、見てあの人たち泥だらけだし返り血も浴びてる、この臭いはシリアルラットだわ」

 そんな怪しさ満点の三人に固まるジェス、しかしミディールの目には違って映っているようで慈愛に満ちた表情で見詰めている。


「なに? と言う事はネズミに追われてきたのか? おい! そうなのか!」


「は!? ネズミでござるか? 確かに道中襲われたので撃退しつつ来たでござるが」


「ほら、たいへんだったでしょ? 大丈夫よエリエス連邦内は暴走ラット侵入してないから」

 あまりのショックに固まっていたジェスは、ミディールの言葉で我に戻ると確認の為ゴエンモに声をかけ、その声でゴエンモも我に返ると首を傾げながら返答する。そんなゴエンモの言葉にミディールは優しく声をかけ微笑むと再度ゴエンモをトリップさせるのだった。


「そうか・・・怒鳴ったりして悪かったな」


「我は特に気にしていない、それに逃げて来たわけでは無い」


「え?」


「ん? ならばエリエスに何か用なのか?」

 ゴエンモの返答にジェスは申し訳なさそうな表情で謝罪する。その声にやっと現実に戻ってきたジライダが返答するも、その言葉に今度はエルフの二人が首を傾げる。


「ハイ! ちょっと欲しい素材があって白い魔法の帽子をした種族に会いに来ました!」


「ウパ族にか?」

 ジライダの説明を奪う様に、ハイテンションなヒゾウがビシッと手を上げながらジェスの疑問に答える。どうやら3モブの目的であるカッパ? の特徴に合う種族が居るようである。


「おお、ウパ族と言うのでござるか!」

「ふん? カッパと印象違うな」

「まぁ異世界だし名前も違うんじゃね?」


「彼女達に会うのは構わないけど、森で問題を起さないようにね?」

 ウパ族と言う名前に首を傾げるも、三人はゴールが見えてきたため嬉しそうである。そんな3人に許可を出すミディールは、森で問題は起さない様にと人差し指を立て注意し、めっ! よ? と言った感じの仕草を見せると微笑む。


「は! 誓ってそのような事はしないであります!」

「我の信仰する神(金髪エルフ)に誓って!」

「死ぬ気で守ります!」

 そんなミディールの注意に頬を赤くした三人は、すぐに背筋を伸ばしビシッと綺麗な敬礼やポーズをきめ、元気よく返事をする。


「そうですか、それなら安心ですね」


「・・・(何故か心配にしかならないのだが)」

 しかし、その返事を聞いた二人のエルフは全く対照的な表情を浮かべるのであった。


「それで、出来れば道を教えてもらえないかと・・・」

 エリエスのエルフに入国の許可を貰えた3人であったが、道が分からないのは変わらなかった為、敬礼を解きながら申し訳なさそうに道を聞き始めるゴエンモ。


「案内が必要ですか?」


「いえいえいえ!? 場所さえ教えていただければ拙者等で勝手に行くでござる!」


「そうですか? わかりました、それなら今の場所がですね・・・」

 そんなゴエンモの言葉にミディールは森の方を指さしながら案内を申し出るも、恐縮しまくっている3人にとってこれ以上美人との会話はもたないらしく慌てて拒否する。そんな3人の様子に不思議そうにするミディールだったが、何か納得が行ったような顔をすると、前髪を耳にかけながら地図を差し説明を始める。


「「「(女神や! ここに女神が降臨しなされた!)」」」


「・・・・・・大丈夫だろうか?」

 そんな何でもない仕草だったが、地図を見るため前屈みになったミディールのたわわに実る二つの果実と、耳にかけられた金色の束から数本の髪の毛がはらりと離れきめ細かい白い肌を撫でる光景は、彼等3人のツボに直撃したようで、ミディールの姿を恍惚とした表情で見詰める。そんな3人の姿を色々な心配が混ざった色の瞳で見つめるジェスは、誰にも聞き取れない程度の声で一人呟くのであった。





 そんな幸せいっぱいの3モブ達の居る場所から遠く離れ、ここは自由騎士団のアジトである。


「・・・御頭、帰ってきませんね」


「そうだねー・・・何となく面白い事になってそうな気はするけど・・・心配かい?」

 そこには机に座りゆったりとお茶をすする二人、3モブに御嬢と呼ばれる女性と御頭と呼ばれる自由騎士団のリーダーである。御嬢は誰がとは言わず呟くも御頭は分かっているようで、楽しそうな声色で返事をするとにやりと口元を歪めからかうための言葉をかけた。


「・・・そうですね」


「おや? やけに素直じゃないかい」

 しかし、返って来たのはお茶を一口飲み一拍おいた冷静かつ素直な返事であった。それは御頭が望んでいた答えとは違ったようでその表情は少し残念そうであり、楽しそうでもある。


「・・・あいつらが何かしでかして多方面に迷惑を掛けてないか心配で・・・」


「なんだ、そっちかいつまんないねー」

 御頭の少し残念そうにも見える表情をチラリと見た御嬢は、湯呑みを持っていた手を片方だけそっとお腹に当てると、俯き何かを我慢する辛そうな表情で低くどこか弱い怒気をはらんだ声を絞り出す。その答えに御頭は今度こそ残念そうに姿勢を崩す。


「まぁ多少の心配もありますが、あの三人の身体能力なら大抵の事は鼻歌交じりに何とかしてしまいそうですから」


「そうだね、身体能力だけなら私なんか足元にも及ばないだろうね」

 俯いていた姿勢を正した御嬢は、湯呑みを持ち直しながら冷静に答えその言葉に御頭は湯呑みの中のお茶を眺めながら何かを思い出しているのか苦笑する。


「まさか手合せで早々すっころぶとは思わなかったよ、あれがもし態となら相当な策士だねぇ結局手合せは流れたんだから」


「それは無いですね」

 思い出していた内容は3モブが自由騎士団のアジトへやってきた時の話の様で、力量を量る為に行った手合せは某ヒゾウの開幕全力転倒によりお流れとなったのだった。その行動は計算などされている訳も無く、御頭の想像に即座に否定の言葉を告げる御嬢。


「・・・ふふふ」


「?」


「何でもないさ・・・(変わったねぇ、この良い変化もあの子達のおかげかね?)」

 そんな昔では見られることの無かった、即答をしてくる御嬢の姿に御頭は面白そうに笑い出し、首を傾げる御嬢に何でもないと言いつつ楽しそうに湯呑みの中のお茶に口を付けるのであった。





 一方そんな事がアジトで行われていることなど知らない3モブは森の中・・・。


「ぶうぇっくしゅれでぃんがー!」

「なんだその猫を毒殺しそうなクシャミは・・・」

「汚いでござるえんがちょでござる」


 ヒゾウの珍妙なクシャミに突っ込みを入れるジライダと、珍しく全力で毒を吐くゴエンモ。


「ずず・・・ひどくね? 誰か噂してんのかな?」

「なんの噂だよ」

「確実に笑い話でござる」


 鼻を啜りながらしょぼんとした顔で二人を見詰めるヒゾウにやはり毒を吐くゴエンモ、どうやら結構虫の居所が悪い様である。


「・・・ひどくね?」

「方向音痴は黙ってるでござる」

「正直すまんかった」


 ゴエンモの機嫌は、エルフ萌えでテンション上がったヒゾウが起こしたいつもの迷走が原因の様である。


「それでどうなんだ、もう着くのか? 昼になってしまうぞ」

「もう着いて良い頃でござるが? 丁度川もあることでござるし昼飯にするでござるか?」


 しかしそんな不機嫌も長く続くことはなく、毒を吐いてスッキリしたゴエンモはジライダの質問に地図を確認しながら答えると、そろそろ昼食にしないかと提案をする。


「「さんせー」」

「ういういでござる」


 機嫌の直ったゴエンモの提案は、明るい二人の返事で了承されるのであった。



 それから十数分後・・・。


「シェフ、今日のメニューはなんだね?」

「良く分からない魚の塩焼きと良く分からない芋の焼き芋でござるよ」


 川辺には焚火の細い煙と香ばしい香りが漂っており、シェフゴエンモにより本日のランチ説明がされていた。しかしその内容は非常に心配になる内容である。


「現地調達はいんだが・・・ちゃんと食えるのかその魚」

「舌は痺れないので大丈夫でござろう?」

「「こえーよ! 何このショッキングピンクな魚」」


 彼ら曰く、自分たちは忍者と言う概念で進化した新人類・・・らしい。当然その進化の内容には忍者らしく毒への耐性もあるとか、その為大半の毒は無効化する体ではあるらしいのだが・・・ジライダとヒゾウ的にはそう言う問題では無いようである。


 そんな二人の魂の叫びに答えるのは首を傾げるだけのゴエンモしかいない・・・はずだった。


「ピクルルだよ?」


 しかしどこからともなく、どこか耳を優しく擽るような音が聞えた。


「ほうピクルルでござるか面白い名でござるな」

「いや問題は名前じゃなくて食えるかだから」


 その音にゴエンモはなるほどと頷くも、ジライダはそう言う事ではないからとツッコミを入れる。


「食べれるよ?」


 そんな流れる様なツッコミに、その心地よい音は律儀に答えた。


「食べれるそうでござる・・・」

「ならいいか・・・」

「なら早速・・・」


 そして三人は異変に気付く、そう・・・その音は確実に理性ある第三者の声であると・・・。


「・・・?」

「「「だれ!?」」」


 急に静かになった三人に不思議そうな雰囲気を出す背後の存在、ちょっとドキドキしながらも目で打合せをした三人は、一斉に後ろを振り向くと同じ言葉を叫ぶ。


「ぴぃ!?」


 目の前で起こった異常事態に謎の第三者は心底驚いたのか、短い叫び声を上げると体を硬直させて一歩後ずさる。そこにいた者とは・・・。


「桃色がかった乳白色のコートの民族衣装・・・」

「頭に白い皿の様な帽子の民族衣装・・・」

「・・・ウパ族でござる?」


 薄桃色の乳白色の髪の毛、こちらも薄い赤色の瞳と白い肌に映える健康的な唇そして情報に有った白いお皿のような魔法の帽子を被った少女。ウパ族であった。



【ウパ族】

 水陸両生で女性体だけの亜人種族。

 身長は平均150cm 体重は30~40㎏ 人間の少女の様な姿をしている。特徴は全体的に薄い色素と指の第二関節から付け根にかけて生えている薄い水掻きであり、逆に行ってしまえばそれ以外は人と変わらない。

 過去、その少女然とした姿や温厚な性格から一部の特殊な性癖の貴族間で売買された過去を持ち、その為か今では非常に警戒心が強く、また人の感情を読み取る魔法の力が高い種族となった。



「・・・? だれ?」

 そんなウパ族の少女は、目の前の真っ黒な存在から自分たちの種族名が出た為、警戒しつつも何者なのか問い掛ける。この時この少女が逃げなかった理由や近づいて来た理由は、先ほど説明した様に人の感情を読み取る魔法の力によって、3モブから敵意や害意を感じなかったためである。決して香ばしい香りに釣られた訳では・・・たぶん無い。


「おお! 聞いた通りの出で立ちだな・・・しかし河童じゃねー」

「でも可愛いので許す!」

「拙者この姿を見ていると何かを思い出すような・・・」


 ジライダは聞いた通りの姿に喜ぶも自分の思い描いたカッパとは違ったのか、若干残念そうな声を漏らすが、隣のヒゾウが叫んだ感想を聞き賛同するように親指を立てる。しかしそんな二人と違って、ゴエンモは一人顎に手を添え首を捻っている。


「あーなんだったか・・・昔流行った両生類」

「ん? ウーパールーパーのことか?」

「そうそうそれ、それでござる」

「正式名称メキシコサラマンダーだな」


 そんな良いのか悪いのか判断に困る評価を受けるウパ族の少女が着ている民族衣装は、どこか合羽の様な印象を受ける薄桃色をした乳白色のフード付きコートで、襟の周りには短冊状の飾りが何枚か付いていて、その一枚一枚は赤くふちどりされている。


「・・・?」

 若干失礼な三人に観察されている少女は、何を話しているのか理解できていないようで終始首を傾げその黒い生き物を観察していた。


「ふむしかし、こんな幼気な子を泣かすなどできんな」

「いや、すでに若干涙目でござる」


 一通り観察を済ませたジライダは、予想以上に可愛いウパ族に当初の目的があまりに残酷だったと計画を断念するようだ。なにせゴエンモが言う様に、少女の目は既に潤んでおりそれだけでも彼らの良心はズキズキとした幻痛を伴っているのである。


「な、泣いてないよ?」

 会話の内容が理解できていなかった少女だったが、ゴエンモの呟いた言葉には敏感に反応し、目元をコートの裾で擦りながら否定の言葉を返す。


「ハァハァもうこれだけでご飯3杯イケル」

「そのくらいにするでござる、それ以上はユウヒ殿に通報されてしまうでござる」


 そんな仕草はヒゾウのツボに直撃したようで、自らの体を抱きしめ何かに耐える様な姿勢のまま息を荒げ、そんな姿にゴエンモは落ち着けようと言葉を漏らす。


「・・・あなた達は悪い人? 酷いことする人?」

 涙の指摘に少し頬を赤くした少女は、未だに敵意や害意を向けてこないけど明らかに怪しい黒い人間に、質問を投げかける。


「む、そう言われてイエスと言う奴もいないだろうが・・・」

「どっちかっていうとダメな人たちでござるよ」

「ちょwwおまwww・・・あれ? 否定できないだと?」


 少女からの直球な質問に、ジライダは少し困ったように腕を組んで悩むも、ゴエンモは迷う事なく的確な返答をする。


「ダメ人間?」


「「「ぐふ!?」」」

 そして返って来るダメ人間と言う鋭く尖った言葉に、3モブは揃って吐血し四つん這いになるのだった。所謂自分で言っても傷つかないが他人から、もとい無垢な少女から言われると予想以上にダメージがきつかったと言う状態である。


「・・・?」

 そんな四つん這いで影を背負う3モブの姿に、少女は分けが分からず首を傾げるだけであった。





 それから彼らが復活するまで小一時間ほどして現在、ここに来た経緯を話した3モブは少女と共に、だいぶ寒さを感じるようになった空の下焚火に当っていた。


「というわけで何か水に纏わる素材など知らないでござろうか?」


「分からないでござる」


「・・・なにこの可愛い反応と真似っ子」

 少女はゴエンモの目の前に座り、ゴエンモの目を見詰めながら問い掛けに答えている。その脇ではヒゾウが恍惚の表情を浮かべて大変気持ち悪い。


「解せぬ・・・なぜ我の時は距離が離れゴエンモなら距離が縮んだ上に興味まで・・・」

「キャラ作りミスった系じゃね?」

「おまえもだろ」


 そんなやり取りを見てジライダは解せぬと呟く、その理由は何故かこのウパ族の少女、ゴエンモにしか近づかないのである。握手をしようとジライダが近づくとすっとゴエンモの後ろに隠れ、息の荒いヒゾウには一定距離より近づこうとしない。


「いやー俺はほら素だし? ・・・あれ? 俺の本質が否定されてる?」

「変態感知センサーに引っかかったんだろ」

「うはwwひどすwwwでも全然否定できないwwwww」


 後者のヒゾウは仕方ないとして、特に何もしていない自分が警戒されてゴエンモが警戒されない状況に、ジライダは本気で自分のキャラ設定の変更を考えてしまうのであった。


「おーい二人とも」

「「なんだよリア充」」


 ぶつぶつと現状への不満を呟き、会話にまったく入ってこない二人にゴエンモが声をかけると、即座に首だけゴエンモに向けその嫉妬に染まった目で睨みつけるヒゾウとジライダ。


「その目はやめるでござる・・・余計に怖がられるでござるよ」


「・・・」


「「は!?」」

 しかしその行動は自分たちの首を絞める結果となったようで、少女は眉を顰めるとゴエンモの背中に回り、忍び装束を掴みながら不安そうな瞳で二人の嫉妬の鬼を見詰め、その二人の心に多大な精神的ダメージを与える。


 その日、秋深まる夕暮れの森の中あの手この手で好感度を上げようとする二人の必死な忍者と、さらに警戒を深めるウパ族の少女に、ギリギリと腕を掴まれる若干顔の青い忍者の姿が見られたのであった。



 いかがでしたでしょうか?


 はい迷走してますねあの3人、いや一応予定通りなのでしょうか? まぁそれでも楽しんでいただければそれでいいのですよ。


 えー次回も遅くなるかもですが必ず更新しますので、是非また読みに来てください。それではさようならー

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