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ワールズダスト  作者: Hekuto


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第七十四話 回避

 どうもお久しぶりです鈍足中のHekutoです。


 七十四話が完成したのでお送りいたします。楽しんでいただければ幸いです。




『回避』


 ここはグノー学園都市のとある研究室、そこでは研究室には少し似つかわしくない香りと光景が広がっていた。


「うん美味しかったよ」


「いやー得意料理何ですよ、御口に合ってなによりです!」


「得意っていうかそれしか作れないが正確だねー」


 本来であれば多数の実験器具や素材が置けれているであろう大きな木製の作業台の上には、大きな鍋その中に入ったいい香りを漂わせるビーフシチューの様な料理と木製のボールに盛られた黒パンの様な丸いパン。どうやら既に食事は終わったようで、皆食後のお茶を楽しんでいるようだ。


「そして理由が元彼のこうぶべら!?」


「うっさい! うっさい! うっさい!」

 そんな料理は、三人娘の一人で目元のホクロとウェーブのかかった髪が特徴的な女性の唯一作れる料理であり過去、彼氏の為に必死に覚えた料理らしい。そんなユウヒ命名ホクロさんは、手元にあったクッションでばらそうとした女性に対し連撃をくり出して誤魔化すが、ユウヒは何となく察しており隠せ通せてはいないのだった。


「あんた達はいつも楽しそうね・・・」


「「「まぁそれが取り柄なんで」」」

 騒がしい二人を見て楽しそうに笑い声上げている、三人の中で一番小柄な女性に目を向けていたアンは呆れた様に呟くと、三人の女性はぴったりと息を合わせ自信ありげに答える。


「はぁ、そうだ! あの・・・そろそろユウヒさんのアレを、見せてくれますか?」

 そんな返答は何時もの事なのか呆れた様に溜息を零すアンだったが、何かを思い出したのかはっと顔を上げると、急にモジモジし出しユウヒに恥ずかしそうに上目使いで誤解を招くような発言を繰り出す。


「ぶふ!?」


「主任が積極的!? いや痴女に!」

 その発言は的確に? 誤解を招き小柄な女性、ユウヒ命名ちっこいさんは飲みかけのお茶を口から吹き出しホクロさんは驚愕の表情で固まりクッションで叩かれていた女性、ユウヒ命名Yさんはガタッ!っと腰を浮かせると大声で叫ぶのだった。


「誰が痴女だ!」


「「アダァッ!?」」

 部下の反応にどう誤解されたのか即座に理解したアンは、急激に顔を羞恥と怒りで赤くすると手元にあったロール羊皮紙(重さ3キロ長さ2メートル)を掴みYさんへと投げつけ、その投擲は見事Yさんとホクロさんの顔面に直撃するのだった。


「あぶなかった・・・大丈夫?」


「なんで、巻き込まれたし・・・いたい」

 ちっこいさんは身長の関係上少し首を引っ込めるだけで避けれたが、ホクロさんは位置の関係上完全に巻き込まれただけである。


「まったく、ユウヒさんが製作した物を見せてほしいと言ったの! 変な勘違いしない!」


「おやおやー? 何をかんちが・・・ひぃ!?」


「空気よもうな」


「これ以上は危険だよ」


「ウン、ウン」

 荒ぶるアンは先ほどの投擲で怒りは抜けたようだが、羞恥は残っているようで赤いままの顔でユウヒをチラチラと気にしながら三人娘を叱る。そんなアンの様子にYさんがまだいけると思ったのか再度弄ろうとした瞬間、アンから濃密な殺気の籠った視線を向けられ、恐怖で言葉を失ったYさんはホクロさんにしがみ付き、二人の注意に目元を涙で滲ませコクコクと壊れた機械のように頷くのだった。


「あー、まぁ落ち着いてくれアン」


「あ、すいませんつい・・・」


「あはは、とりあえずこれが今日製作した分だね。まだまだ満足行く感じではないけれどそれなりに使えると思う」

 4人の様子に、とりあえずこのままでは空気が悪くなると思ったユウヒは、アンを宥めながら足下に置いていたバッグから今回作った物を取出し、食器がどかされた作業机の上に陶器製の瓶や布束、結晶などを広げ最後に護符を数枚机に置いていく。


「こ、これは・・・」


「これってもう完成してない?」


「こっちは何? 水薬? 結晶? 他にもいっぱい」


「すごい! この布すべすべで柔らかい! これ何で出来てるの?」

 しかしそれは空気を良くする効果を跳び越え、驚愕で染め上げる事になるのだった。そんな4人の反応に、ユウヒは心の中で「あれ? またやっちまった?」と呟くのだった。


 そう、そこに置かれた物はユウヒが集中し自重を忘れ、妄想するままに作り上げた物なのである。


「ユウヒさん・・・先ずこの、護符は使えるのですか? いったいどんな効果なのですか?」


「お、おう・・・これは解読した情報でとりあえず作ってみたんだがな、『操風の護符』ってところか」

 アンは目の前に広げられたものの中から、一番気になるものをそっと手に取り真剣な表情でユウヒに問いかける。そんなアンの反応に、ユウヒは心の中で開き直るとしっかりと説明を始めるのだった。


「そうふう?」


「うん招来の図と風の字を操作の図で囲ってみたんだ、これで使用者が自由に風を操れるはずだよ」

 聞きなれない言葉にアンは首を傾げオウム返しに呟き、ユウヒは一つ頷くと説明を続けた。


 今回ユウヒが作った物は発掘品に見られたある特徴からヒントを得たようで、発掘品はその大半が使用済みや破損により欠片の状態であったのだが、ユウヒが右目を使って詳しく調べると、元は大きな石版だったであろう護符は複数の図形や字を使い複雑な制御を可能にしたものであったのだ。


 流石にユウヒも欠損した石版をそのまま複製することは出来ないまでも、記号の配列などの断片的なヒントを繋ぎ合わせると、その結果から一つの作品を完成させたのである。


「す、すご「すごい! スカートめくり放題だば!?」いっぺんしね!!」


「だから空気よめと・・・」


「成仏しろよ・・・」


「・・・主任の・・・愛が、痛い・・・ぐふ」

 簡単な説明だけで即座に反応するYさんの発想に、ユウヒはこの場に居ない三人の忍者達の姿を幻視して苦笑いを浮かべてしまう。


「まったく、あなたはもう少し女性としての慎みを持ちなさいよね」


「むりだろなー」


「そんなの有ればフラれないよねー」


「ぐ、同僚の悪意が・・・心にささる」

 しかしその苦笑いも、目の前で楽しそうにじゃれあう4人の女性達の姿に自然と微笑みに変わり、


「仲が良いんだな」

 どこか羨ましさの感じられる声色でぽつりと呟くのだった。


「「「その感想は想定外です」」」


「はぁ・・・」

 しかし、そんなユウヒの感情に気が付かなかった彼女達にとって、その感想は想定外だったのか驚愕の表情で声を上げ、アンはその様子に溜め息を漏らす。


「ふむ?」

 本心からそう思っていたユウヒは、返ってきた女性陣の反応に首を傾げ不思議そうな声を漏らすのだった。





 一方その頃、ユウヒ達の姦しい空気とは違いそこは何か作業をする音だけが聞える静かな部屋、その部屋では一人の美しい女性が大量の資料に囲まれていた。


「・・・はぁ、なんですかこの妙に厳重な防壁プログラムは?」

 彼女、アミールは山のような仕事の中この世界について調べていたようで、その中でもこの世界を構成する妙なシステムが気になっており、怪しい部分を見つけた彼女は厳重にロックされたプログラムを次々に解除していく作業を続けているようだ。


「それにこれ明らかに公式の情報にのってないですよね、いったいあの元上司は何をしていたんでしょうか?」

 アミールは手に入れた資料とモニターを見比べながら、本来あるはずの無いそのシステムに元上司の顔が浮かび嫌な表情を浮かべる。その間もその手と指はロックを解除する為に忙しなく動きそして・・・。


「あ、開いた。えっと秘匿ステルス転送網? 質量データ自動改竄プログラム? 登録外廃棄物自動転送システム?」

 解除の瞬間は意外とすんなりと行き、どこか拍子抜けした声を漏らすと開かれたフォルダ内のシステムを一つ一つ読み上げ始める。


「・・・あ、明らかに不正なものばかりです。え、えっと先ずは警察に電話、じゃなかったえっとえっと」

 そこに入っていたシステムはどれも本来有ってはいけない物ばかりであり、さらには現在も活発に動いているのであった。その事実にアミールは顔を青くすると若干のパニックを起こしているようで、電話と電話帳を持ってあたふたし始める。


「あ! こんな時こそ先輩の出番じゃないですか! さっそく<ピーッピーッ>ひゃわ!?」

 数分そんな事を続けていたアミールは、ふとある人物の事を思い出し頭を上げと同時に大きな声を上げる。そんな名案が浮かんだアミールはすぐ行動に移すべく、通信用端末に体を向け端末を起動させようとするも、それより早く誰かから通信が入ったようで、大きなアラームを鳴らす機械に思わず驚きの声を上げるのだった。


「やあ、アミール元気かい? どうしたんだい?」


「いえ、何か狙ったように先輩から連絡が来たので・・・監視してませんよね?」

 通信用端末がアラームを鳴らし続ける前で数分胸を押え少し落ち着いたアミールが、応答の操作を行うと画面には先輩と呼ばれる女性ステラ・パラミスが映し出され、その狙ったかのような通信相手にアミールは苦笑いを押える事が出来きず、そんな言葉を漏らす。


「わ、私はそんな風に見られてるのかい? 若干否定し辛い所がまたなんとも・・・むむ」


「そこは否定してほしかったです。ところで何かあったんですか? 後ろが慌ただしい様ですが?」

 アミールの零した言葉に、ステラは否定できないと言い顎に手を添え唸り、そんなステラの姿にアミールは力なく肩を落とすとすぐに持ち直し首を傾げながら要件を聞く。


「そーなんだよ、ちょっとアミールにも係る話でね」


「はぁ? なんだか嫌な予感しかしませんが?」

 アミールの質問に、唸っていたステラは顔を上げると少し困ったような表情で要件を話し始める。そんな先輩の表情にアミールは過去の経験から不安を覚える。


「実はAの・・・君の元上司の一族なんだけどね、色々不正の証拠となる物が出るわ出るわでその立証に皆てんてこ舞いさ、何せ数が多くてねぇ」


「不正・・・あの、お忙しい所大変申し訳ないのですが」


「・・・な、何かな? そこまで礼儀正しく話すアミールは久しぶりで嫌な予感しかしないんだけど?」

 ステラがそんな話を始めると段々とアミールの表情も優れないものへと変わり、ステラの溜め息にも似た言葉に少し前に見たデータを思い出すと、彼女がステラに話すにしては異常に丁寧な言葉使いで話し始め、そんなアミールの姿に今度はステラが顔を引きつかせる。


「実は、たぶん元上司が使ってたと思われる・・・不正なシステムなどを見つけてしまいまして」


「ほ、ほほぅ?」

 アミールによって、そっと壊れ物を扱うような話し方で話されるその内容に、ますます嫌な予感が増していくステラは、平静を装うとするも思わず返事を吃らせる。


「それで今確認したところ、今もまだ使用している形跡がありまして」


「ホホウ? そ、それはすぐに停止させないといけないね・・・」


「「・・・・・・」」

 そして最悪の予想が的中したかのような表情を気合で抑え込み、ステラが震える唇で気丈に対処法を告げると、その場に数秒の沈黙が流れ・・・。


「・・・・・・お願いしていいですか?」


「くっ!? なんて卑怯な・・・そんな風に頼まれたら断れないじゃないか!?」

 アミール必殺の【総天然潤んだ瞳の上目使いお願い】が炸裂し、その直撃を喰らったステラは鼻から愛を垂れ流しながら悶え頭を抱えるのだった。


「主任! 頑張って耐えて! これ以上増えたら俺ら死んじゃう!?」


「主任なら出来る耐えられる! 私は信じてます!」


「・・・・・・いや無理じゃろ」

 その後ろでは事態を理解した彼女の部下達が必死に応援をしている。それもそのはず、現状でも既にデスマーチ状態の彼女達にとって、これ以上の仕事増加は到底許容できないのだ。しかしそんな彼女達の後ろでは真っ白少女、もとい彼女達のトップであるイリシスタが現状を正確に分析した結果を呟き・・・。


「ふ、ふふふ、任せたまえアミール君、君の為ならそのくらいなんてことは無いさ」


「ほんとですか!? ありがとうございます!」


「くふ、この笑顔の為なら・・・我一生に一片の悔い無し・・・」

 イリシスタの予想通りに、ステラは口から半分魂を出しながらカクカクとアミールの願いを聞き入れ、その言葉に感激した声を上げるアミールの嬉しそうな姿を確認すると、口と鼻から愛を吹き出しながらどこか世紀末的な事を呟き真っ白になるのだった。


「「主任のあほーー!」」


「予想通りじゃの・・・そこの逃げようとしとる奴ら、逃げる事叶うと思ぅてか?」


『ひぃ!?』

 その後ろでは既に本気泣きレベルの部下達が、灰になり掛けのステラに叫びながら物を投げ、さらにそのずっと後方にある出入口付近ではそっと逃げ出そうとする者達がいたが、イリシスタの殺気が籠った視線に射抜かれ凍りつく。どうやら涼しい顔のイリシスタもあまり余裕は無さそうである。


「あ、あはは・・・えっと必要なデータ転送しておきますね? この御礼は必ず」

そんなステラ達の様子は、アミールの見ている画面からも確認できたようで、その表情を罪悪感から引きつかせ口早に要件を伝えると、


「ならばこの後一緒にほ<プツゥン>」

 ステラが何か言い切る前にアミールは通信装置の電源を元から落とすのであった。


「ふぅぅぅ・・・悪い事しちゃいました。御礼は何がいいでしょうか? お菓子? お酒?」

 通信装置を切ったあと長い溜息を吐き額に掻いた妙な汗を拭うと、若干の後悔を始めるアミール。


「そういえばユウヒさんにも連絡した方が、いやいや余計な事を抱え込ませるのも・・・」

 そんな後悔も直ぐに終えると、すぐに再起動しこの件に関してユウヒにも伝えた方が良いか、それとも心配かけない様に話さない方が良いか考え始める。


「あぁでも連絡はしたいです。なにか話題を・・・」

 しかしそこは恋する乙女か。連絡すること自体は確定事項の様である。


「あれ? そういえば私にも係る話って何だったのでしょうか?」

 そんなどうでも言い事を悩んでいたアミールだったが、ふとステラからの詳しい要件を聞いてないことを思い出し頭を傾げる。


「もう一度通信をするのは、悪いですしまたほとぼ・・・間を置いてからがいいですね」

 しかし、慌てて通信を切った手前すぐにつなぎ直すなど出来るわけも無く、チラリと電源プラグの抜けた通信装置をみてそうつぶやくのであった。


 天然と名高いアミール・トラペットだが、なかなかどうして強かな女性である。





 アミールがそんな呟きと共に通信装置を片付けている頃、


「・・・ほてるでにゃんにゃん」

 とある部署の一室では一人の女性がモニターの前で固まっていた。


「神は死んだ・・・」


「世界の終りだ・・・」

 その後ろでは一人は空を仰ぎ救いを求める様に手を掲げ、一人は両手を地に付き絶望を全身で表している。共通する部分は小さく何かを呟き真っ白になっている所であろうか。


「一応、ワシら全員神ってことになっておるのじゃが勝手に殺さんでくれ、ついでに丁度終端を迎えた世界が一つあるの・・・」

 そんな部下達の姿に呆れたような表情の白少女ことイリシスタは、情報処理の手を休める事無く片手間に淡々とツッコミを入れる。


「にゃん・・・ほてるでにゃんにゃ!?」


「いい大人がいつまでも呆けておるでない!」

 かと言って別に気にならないわけでは無いらしく、先ほどから壊れたレコードの様に同じ言葉を呟き続けるステラがうっとおしかったのか、手を止め彼女の後ろまで歩いて行くと白い蛇腹状のナニカを振りおろしスパン! と言う乾いた良い音を響かせる。


「イタタ、何をするのですかイリシスタ様」


「何をじゃないわい、要件をしっかり伝えられない子へのお仕置きじゃ」


「あ、しまった。えっと再通信再通信」

 その一撃でステラは目を覚まし、頭を擦りながら振り向くと唇を尖らせながら苦情を零す。しかしすぐに返って来たイリシスタの言葉にはっとすると、再度連絡をとるため通信装置の操作を始める。


「・・・はぁ、お前さんらも諦めるのじゃな。どの道やらねばならんことの様だしの」


「マジすか・・・」


「そんなに重要案件なんですか?」

 やっと通常運転に戻ったステラの隣で、送られてきたデータを確認するイリシスタは目を細め疲れたようなため息を零すと、未だに再起動していない部下達に目を向け諦めろと告げる。


「ふむ、これは・・・奴らの尻尾、掴めるやもしれん」


『おおお!』

 素早い手つきでデータを簡単に調べた白少女イリシスタは、疑問顔な部下達に向かって少女らしからぬニヤリとした表情で嬉しそうにそうつぶやく。そんなイリシスタの言葉で三徹明けに残業が決まったような空気は俄かに明るく湧きたつ。


「あれぇ? おっかしぃな繋がんない?」


「・・・大方電源でも落されたのじゃろ、それよりこっちの仕事を始めるぞ」


「電源を!? ・・・アミール君、逞しくなったね」

 そんなどこかのプロジェクト的なBGMが流れそうな後ろでは、気の抜けた声で通信装置を操作し続けるステラ。その姿を見てシリアスな顔から一気に気が抜けたイリシスタはどうでも良さそうにツッコミを入れ、その内容に驚愕の表情で振り向いたステラはもう一度通信装置の画面を見るとぽつりと呟くのであった。





 アミールが先輩の求愛を回避し、ステラがアミールの成長に涙を流している頃、ユウヒは研究所の一室で帰り支度を済ませていた。


「あの、本当に頂いてしまって宜しいのでしょうか?」


「試作品だしかまわないよ? そのかわり俺が作ったのはナイショでたのむよ」

 どうやらユウヒは帰るところのようだが、その際ここで作った物をアン達の為に置いて行くつもりの様である。しかしユウヒの作った物は所謂市場に出せないレベルの品である為、アンは貰って良い物か悩んでいるようだ。


「くはーなんて美しい火属性の魔力結晶なんだ・・・うふふふふ」


「滑らかな肌触りに均等に浸透している魔力のなんと上質なことか・・・くふふ」


「この濃厚な一滴の秘薬でどれだけの事が出来るだろうか・・・ハァハァ」


「なんかすごい事になってしまったようだけど・・・」

 そんなアンとは対照的に、作業机の上では問題の品を観察するマッドサイエンティスト・・・もとい三人娘が、息を怪しく荒くしている。ユウヒはその様子に苦笑いを浮かべるも、若干恐怖を覚えたのかその腰は引けている。


「当然です! あんなすばらしい研究対象が目の前にあるのです! 興奮しない研究者が居るでしょうか? いいえいませんとも!」


「お、おぅ・・・喜んでもらえてうれしいよ」

 ここでアンがユウヒの言葉にテンション高く感情をあらわにする。どうやら彼女も感情を押えていただけであったようで熱く語り出すのだった。いきなりテンションがMAXになったアンにユウヒは確実に引いていたが、折れぬ狩人の心で踏ん張ると引き攣った笑顔で答えたユウヒは頑張ったと言えた。


「ユウヒ様・・・私は今信仰の対象を得ました。」


「えっと? うん?」

 そんなユウヒを見上げるアンは、次第にその息遣いを荒くしはじめ静かに、しかし妙な気迫を纏いながらポツリポツリと話し始め、ユウヒはその妙な様子に首を傾げる。


「ハァハァ・・・私、アン・ヴェールがユウヒ様を信仰することをお許しください」


「・・・ほあ!? いや俺は神仏でもなんでもないのだが!?」

 不思議そうな表情も吐息交じりの彼女の口から出た言葉に、ユウヒはその表情を驚愕のものへ変えると慌てはじめる。この時のアンの目は、ハイライトが消え瞳の奥で何かが揺らめいているようで非常に恐ろしかったとは、ユウヒの後日談である。


「かまいません! 私の信仰心はその程度で揺らぎはしません!」


「俺が困るがな! ってその目は!? その目はあの時のパフェさんの目と同じ!? いかん正気を取り戻すのだ! り【リフレッシュ】!」

 慌てるユウヒに縋りつくような体勢でユウヒを見上げてくるアン。その状況に慌てるユウヒだったが、その瞳の中でグルグルと淀む色に何やら昔の黒歴史トラウマがフラッシュバックした様で、即座に対処できるであろう妄想魔法を編み上げ唱えた。


「ほ?」


「へ?」


「ん?」


「あ」

 その瞬間、部屋いっぱいに青い光が満たされ、変な声を漏らし呆ける4人の女性・・・。


「・・・どうだ? 焦った状態の魔法だったが効いたか?」


「・・・す、すみません!? 私ったらつい興奮してしまっちぇ! ・・・あわわわ」

 妄想魔法発動と共に少しアンから距離をとったユウヒは、身構えたまま魔法の効果を確認する。すると数秒呆けていたアンはユウヒに視線を向けた後急激に顔を赤く染めると、両頬を手で隠し言葉にならない声を漏らす。


「私はいったい? いかん研究対象を壊すところだった」


「やば、涎ついちゃった・・・」


「はっ!? こんな高濃度の水薬一滴でも舐めれば・・・危ないところだった」

 その後ろでは怪しい表情でユウヒの作った素材を観察していた3人が正気にもどり、観察のし過ぎ?で壊しそうになった結晶をそっと机に置いたり、涎の付いた布地を慌てて拭き取ったり、濃厚で劇物にもなりそうな水薬を舐めようとしていた舌を引っ込めるのであった。


「ふぅ・・・落ち着いてくれて助かった、色んな意味で惨事を免れたな」


「すいませんあまりに素晴らしい品々に思わず興奮してしまったみたいで」


「いや、うん何事も無くて何よりだよははは(危なかった黒歴史トラウマがまた増える所だったよ)」

 嫌な汗を掻いた額を拭うユウヒ、そんなユウヒにアンは恥ずかしそうにモジモジしている。一連の行動が彼女達の本質の成せることなのか、それともユウヒの作った物に問題があったのか、たぶん両方だと思うが新たな黒歴史トラウマ回避に成功したユウヒは心の底から安堵の溜め息を吐く。


「えっと、それじゃ俺はこれで」


「あ、はい今日はありがとうございました。お見送りをしたい所なのですが・・・」

 これ以上の長居は危険なフラグにしかならないと判断したユウヒは、じりじりと出口に歩を進めながら帰りの挨拶をする。モジモジしていたアンもその声にはっと顔を上げ礼を言うも、その言葉は歯切れが悪い。


「う? うん、なるほど気持ちだけで十分だよ。研究の続きをやりたいんだろ?」


「あぅはい・・・」


「大丈夫だよ。じゃあ、がんばって」


「はい! 是非また来てください! ユウヒ様」

 そのぼそぼそと尻すぼみになる言葉に言いたいことを察したユウヒは、可笑しそうに笑みを浮かべアンの気持ちを言い当てると、そのまま少し開けたドアの隙間からするりと退出するのであった。


「様はかんべんだよーまたねー」


「・・・流石ユウヒ様です。ひっそりと信仰させていただきます」

 アンの様付けに笑いながら去って行くユウヒ、そんなユウヒが去った後、誰にも聞こえないほど小さな声でアンは呟くのであった。


「うおーやるぞー」


「ああ、でもちょっともったいないかも」


「だねーこんな良い物滅多に手に入らないし・・・でもこれはイケル」

 どうやらユウヒの咄嗟に唱えた妄想魔法は不完全だった様で、研究所の熱い夜はまだまだこれからの様である。





 ここは遠く、ユウヒの住む世界にある大きなお屋敷の一室。


「くちん!」


「あら? かわいいクシャミね、ふふふ」

 そこには二人の女性が暖炉の前でティータイムを過ごしている様である。しかし片方の若い女性が急にクシャミをすると、おっとりとした印象のある女性が小首を傾げた後、可笑しそうに笑う。


「ごめんなさいお母さま、だれか噂してるみたいですね」


「あらあら、誰かしらね?」

 どうやらこの二人は親子の様で、娘は口元に手を当てたまま恥ずかしそうに弁明し、そんな娘に母親は、笑顔のまま手元の御手拭を差し出す。


「一人思い当たる人物が・・・」


「あら良い人?」

 手拭を受け取った女性は母親の質問に、口元をその手拭で隠すとついっと左斜め上に視線を外しながら答え、そんないつもと違う雰囲気の娘に母はからかい交じりに首を傾げる。


「そんな事言ったら逃げられてしまいます。・・・彼は臆病ですからね」


「あら? あらあらあら!? 山本! 今日は御赤飯でお願いね」


「はい、畏まりました奥様」

 母親の言葉に思わず真面目に答えてしまう女性、すぐにしまったと言った表情をするが時すでに遅く、満面の笑みを浮かべた母親は椅子からガタッ! と音を上げ立ち上がるとすぐそばに控えていた執事然とした男性にディナーの注文をする。


「あはは(ユウヒ覚えてなさい)」

 目の前でどんどんと進んでいく状況に、女性は引きつった表情のまま渇いた笑い声を零す。その心の中でとある男性に嬉しそうな呪詛を吐きながら





 そこから遠く離れた異世界の夜道を一人歩く男。


「ふお!?」

 それは何故か背中に感じた悪寒に身震いをすると、辺りをキョロキョロと窺い【探知】の魔法でも周囲を確認するユウヒである。


「うーん、帰るか」

 一頻調べ、異常無い事を確認し首を傾げると謎の悪寒が気になったものの、夜道も暗い為帰り道を足早に進み始めるユウヒであった。




 いかがでしたでしょうか?


 今回も時間がかかっちゃいました。でもまだまだ続きますので頭の片隅にでも『ワールズダスト』を留めていていただければ幸いです。

 それでは次回もここでお会いしましょう。さようならー

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