第七十三話 素材を求め訪ねるは
どうもお久しぶりのHekutoです。
なんだか最近月一ペースがデフォになりつつありますが・・・七十三話完成しましたのでお送りします。できればノロマだからと見放さず楽しんでいただければ幸いです。
『素材を求め訪ねるは』
ユウヒが大量の失敗物から目を逸らし、睡眠と言う現実逃避を行った明くる早朝、ここはどこかの草原にぽつんとある大きな岩の上。
「・・・朝だ」
「朝でござる」
「・・・・・・」
そこにはどこか疲れきった空気を放つ3モブの姿、真っ黒な頭巾で表情など窺い知れないにも関わらずその姿からは明らかに疲れを感じとれる。
「何故我らは野宿をしているのだろうな」
「それは簡単な話でござる」
「・・・・・・」
彼らの口ぶりから、その疲れの原因はあの巨大イノシシだけではなさそうで、話の最中、何故か二人と視線を合わせようとしないヒゾウと、ヒゾウを見詰めるゴエンモとジライダ。
「ほう? その話を聞こうではないか」
「それはどっかの馬鹿が延々フラグを求めた結果でござる」
「正直すまんかった、次こそは必ずフラグを「「しばらく禁止だ」」ですよねー」
理由が実にアホである。
丁度その頃、ユウヒもまた早朝の空気を堪能していた。
「良い朝だ・・・この廃材が無ければもっと良い朝なんだが」
空を見上げる顔を引き攣らせながら・・・。
「調子にのった結果がこれかぁ」
窓を開け早朝の澄んだ空気を吸い込むユウヒの背後には、まさに産業廃棄物と言いたくなるような物体が山になっていた。その理由はいわずもがな、昨日模索した魔法の結果であり、ロマンを求めた実験の産物である。
「そのおかげでほぼ付与魔法はマスターした感じだけど」
そんな床の上の惨状とは違い、備え付けのテーブルの上には成功品であろうものが並べられている。その中には3モブ忍者隊からの依頼品もあった。
「うむぅ・・・しかし困ったな手裏剣が3セットと苦無が5本だけしか残らないとは」
しかしその綺麗に梱包された袋は、当初の一回りも二回り小さくなっており、そんな現実にユウヒは苦い顔を浮かべる。
「流石にこんな短時間で新しい素材を入荷はしないだろうしなぁ」
難しい顔で廃棄物の前まで歩を進め屈むと、山になった廃棄物を弄りながら今日の予定を声に出しながら考えるユウヒ、どうやら独り言が多いのは癖の様である。実に作者にやさしいしゅじんこ・・・え? メタな発言はするな? ですよねー。
「・・・あそこに頼ってみるか、その後のことも気になるし」
一通り廃材を弄繰り回したユウヒは、今日の予定が決まったのかそんな事を言って立ち上がる。
「でも皆あそこには気を付けろって言うんだよなぁ、いったい何があるんだか」
いったいどこに行こうと言うのか、ユウヒは首を傾げながら呟くと出掛ける為の準備を始めるのであった。
所変わりここはとある研究所の一室、そこには4人の女性が思い思いに過ごしていた。
「主任暇です」
「・・・」
「主任お茶しましょう!」
「・・・・・・」
「しゅに「うっさーーい!」・・・しょぼん」
しかしその実情は暇な様で、主任と呼ばれた女性に三人の女性が延々絡むと言う事を続けていたようである。
「はぁ、しょうがないでしょ」
流石に鬱陶しかったのか叫んだ女性は、巷で少女にしか見えないと噂のエルフ女性アン・ヴェールである。ちなみに噂の発生源が彼女の目の前でだらけている三人の研究員であると言う事実は、未だアンには知られていない。
「材料無いですもんねー紙はあるけど」
「良い紙には良い素材使いたい所ですが届かないですし」
「アレ使っても失敗しか思い浮かばないです」
「・・・アレでも何とかしたい所なんだけど」
どうやら彼女達の研究題材たる護符の制作は、物資の不足により停滞しているらしく、その為彼女達は強制的な暇を満喫させられているようだ。しかしその話しぶりからは、単純な材料不足とは少し違う様である。
「主任は何してるんですか?」
「これ? 新しく上がってきた発掘品の調査と、アレの有効利用法を考えてるの」
どうやら原因はアレと言われている物の事の様で、その有効利用法を考えていると言うアンの机の上には、いくつかの発掘品の他に萎れた草花や砂利の様な物が置かれている。
「アレのですか?」
「アレのよ」
「出来るんですか?」
「分かんないから考えてんでしょうが、暇なら手伝いなさいよね」
アンの発言にキョトンとした表情をする二人の研究員は首を傾げながら質問する。その表情は言外に正気かと言っている様である。
「素材系はちょっと・・・」
「ふぅ・・・」
そんな二人を見たアンは残る一人に視線を向けるが、その視線の先にあったのは苦笑いを浮かべながら頬を掻く予想通りの反応だけで、思わずため息を吐いてしまうのであった。
「えっと、精製する! ・・・にしても錬金の専門ですからね。あいつ等には頼みたくないですし・・・」
「錬金・・・あ」
「主任心当たりでも?」
そんな溜息に慌て案を出してみるも、何か嫌な思い出でも思い出したのかそのまま自分の案を否定し表情に影が出来る研究員。そんな彼女の案に何か閃いたのか少し表情を明るくするアン。
「いや、でもそんな都合よく協力してもらえる人でもな「失礼します」はい?」
「アン・ヴェール主任にお客様なのですが、どうしますか?」
「「「「お客?」」」」
自分の閃きにぶつぶつと呟きながら思案するアン、しかしその思考も客の来訪を知らせる受付の女性の声で中断することになり。そんな知らせに、お客などほとんど来ない研究室のメンバーは声を揃え首を傾げるのだった。
「ああ、大丈夫よ今ひまだ・・・コホン、忙しくは無いから通して」
「ひまっていったよね」
「いったね」
「みとめたね」
すぐに許可を出したアンだったが、暇だと認める事に恥ずかしさを感じ言い直すも、部下達はさっと少し離れたところに集合すると、獲物を見詰める猫のような視線をアンに向けながらこそこそと話し始める。
「うっさい!」
「「「ふぎゃ!?」」」
そんな三人の部下の反応に怒りかそれとも羞恥の為か、顔を赤くしたアンは手元にあった結構重そうな羊皮紙の束をよく確認もせずに投げつける。
その突然の攻撃に固まっていた3人は避ける事叶わず、顔面で羊皮紙をキャッチすると情けない声で鳴き、その光景を見ていた受付の女性はくすくすと笑いながらそっと部屋を退出するのであった。
それからしばらくして来訪したのは、朝から顔を引き攣らせていたユウヒであった。
「すまない、忙しいだろうにいきなり訪問してしまって」
「い、いえそんな! ユウヒさんでしたら全然!?」
申し訳なさそうに部屋に入ってきたユウヒに、慌てて立ち上がったアンはすぐに駆け寄ると部屋の奥へとユウヒを誘導し今に至る。
「ユウヒの旦那! 大丈夫です今すっごく暇だったので!」
「そうです! ナイスタイミングです!」
そんなユウヒの周りには楽しそうに話しかける3人の女性研究員、彼女達のユウヒへの共通認識は主任の初恋相手だ。勝手な妄想ではあるものの、あながち間違っていないその内容がユウヒに対して親近感を抱かせている様である。
「何します? トランプですか? トークですか? それともわいだ「うっさい!」みゃ!?」
あわよくば主任とくっつけようとも考えていたりするが、その目論見は主任自身の投擲物により排除されるのであった。
「賑やかだな・・・」
「すみません、うちの研究員が馬鹿すぎて・・・」
「「「主任がナチュラルに酷い!?」」」
4人のやり取りに苦笑いを浮かべたユウヒに、アンは恥ずかしそうにしながら頭を下るも、その言葉に好奇心5割、悪戯心3割、善意2割の三人娘は驚愕の表情で叫ぶ。しかしその口元は二ヤついており、まったく傷ついてない様子である。
「ところで暇と言うのは良い意味でか?」
「えーっと・・・」
そのやり取りにユウヒは、4人の関係性を非常に良好だと感じたのか、楽しそうに微笑むと先ほどの会話で気になった部分に触れるのだった。
どうもユウヒです。素材を分けて貰おうと忙しいであろう研究所のアン・ヴェールを訪ねてみたのだが、予想と違い暇な様子で個人的には少しホッとしたのが正直な所である。
「ふむ、なるほど紙は問題無いが素材に問題があったと」
「はい、粗悪品を掴まされたようで・・・」
話によると、俺が紙を持って来る少し前に冒険者に依頼した素材が届いたらしいのだが・・・。
「箱の中身は上だけが並みの品で」
「下は大半が粗悪品」
「使ってみたけど効果がいまひとつ」
「って言うか種火並み?」
と言った感じらしい。大量に発注した為すべてを調べる時間が無く、各木箱のふたを開けて上の部分だけを確認し受領したとの事だった。
「はぁ、次からもう冒険者には頼まない事にします」
「そうか・・・」
心底後悔しているのかアンの表情は優れず、そんな姿に俺も一緒に肩を落としてしまう。俺も一応冒険者をやってる以上どうしても他人事には感じれなかったのだ。
「あ!? 違いますよ! ユウヒ様はべつですからね!?」
「様はやめてね、しかし冒険者に頼んだのかすまなかったな。ギルドには言ったのか?」
そんな俺に気が付いたのか、慌てて弁明するアン。そこまで慌てる必要は無いと思うのだけど、この手の苦情ならギルドも対処してくれると思うのだが、駄目だったのだろうか。それと背筋がぞわぞわするので様はやめてほしいです。
「いえ、それが直接売り込んで来たのでギルドには・・・」
「直接依頼で文句を言う相手はすでに居ないか、なんて奴らだったんだ?」
どうやら直接依頼、しかも冒険者側からの売込みだったらしい。この場合基本的に冒険者ギルドは間に立つことは無い、しかしそんな冒険者もいるの・・・まてよ。
「えっと確か、オニモテとか言うパーティだったような? 妙に気障っぽいのがリーダーで」
「あ! あとイノシシ族の獣人も居ました!」
「私初めて見たよイノシシ系獣人の人」
「基本北の山脈から出てこないしねぇ」
どうやら俺のふと過った予感は的中したようで、敵前逃亡した彼らは敵前逃亡の前にもやらかしていたようである。しかし、ただ一人残って戦った彼くらいは弁護しておこうと思い、そのあんまりな感想を訂正しておいてあげる事にしたのだった。
「・・・いやあの人は歴とした人族だからね」
『え!?』
しかしその真実に彼女達は心の底から驚愕したような表情で固まるのであった。
驚愕の新事実に4人の女性の顎が外れそうになってから十数分後、ユウヒは例の護衛依頼の話をし、某人族の名誉を回復する事に成功していた。
「そんな! 敵前逃亡だなんて・・・契約違反もいいとこです!」
しかしその反面残る三人の評価が地の底に落ちたのは、しょうがないと諦めるユウヒであった。
「そっかーあのイノシシ真面なやつだったのかー」
「よし、サービスで比較的もつけてやろう!」
「比較的真面、褒めてるのか良く分からなくなったね」
怒りを露わにするアンの隣ではイノシシ顔の彼の評価が見直されている様であるが、何故か上げた後若干落とされているのは世の常であろうか。
「今回の件ギルドに報告した方がいいかもな」
「そうですね、そう言う事なら報告だけはしておきます」
敵前逃亡の件でギルドでも彼らに対しては何らかの措置を講ずると共に、それらで生じた被害に対する補填をするとギルドで聞いていたユウヒは、それとなく話しを付け加え。その言葉にアンは真剣な表情で頷き答えるのであった。
「しかし現実は変わらないのであった」
「「ねー」」
アンの隣では二人の話を聞いてウンウンと頷いていた三人が、それでも変わらない現実に肩を落とす。しかしその仕草のせいか話し方のせいか、何故か大して困って無さそうに感じるのは不思議である。
「・・・それでその、ユウヒさんにいくつかお願いが・・・」
「・・・まぁ、聞いてしまったしな」
そんな三人に目を向けていたアンは、しばらくして意を決するとそろそろとユウヒの方を向くと上目使いで助けを乞う。ユウヒとアンの身長差上、彼女の上目使いは意図したものでは無い、しかしその攻撃はユウヒの心にしっかり届いており、いつもの如くユウヒは卑怯だと心の中で呟き了承するのだった。
「本当ですか!? 粗悪品の有効利用法とか精製とか製錬とか未解読で上がってきた発掘品の解読とか!?」
「主任落ち着いて!?」
「からだちっさいのに何処にこれだけのちからが!?」
ユウヒが了承した瞬間、おどおどとした目の色は希望に満ちた色へと変わり、ユウヒに抱き着くかのごとく迫り、息する事も忘れた様に言葉を紡ぐアン。そんなアンの行動に即座に反応した二人の研究員は彼女を後ろから抱きしめ止めるも、予想外の力にアンの細い指をユウヒの襟から引きはがせないのであった。
この時咄嗟に動いてしまった二人だが、後に止めなければもっと面白い事になってたのではと後悔したとかしなかったとか。
「てか最後のって完全に主任の仕事じゃ・・・」
「な訳ないでしょ! 解読なんて専門外よ!」
普段見せない上司の行動に普段から一緒の研究員も流石に苦笑いを浮かべ諌めるも、アンはストレスが溜まっていたのか、中々興奮が収まらない様子である。
「まぁ落ち着こうか、話はそれからだってか顔近い近い」
「へあ!?「「ぎゃん!?」」」
しかし超至近距離、詳しく説明するならばユウヒの口から横を向いて部下に言い返しているアンの耳までの距離は2.5cm。それだけ近いとユウヒの喋った時の吐息も耳に入るらしく、変な声を出して手を放すアン。
その結果必死に引きはがそうとしていた研究員は後ろに倒れ、そのままアンの下敷きになり、こちらも別のタイプの変な声を出すのであった。
「・・・///しゅ、しゅみません!?」
「「「かんだ! 主任が噛んだ!?」」」
耳への吐息攻撃により若干冷静さを取り戻したアンは部下二人を下敷きにしたまま呆けると、すぐに顔を真っ赤に染めユウヒに謝罪する。しかしその謝罪も焦った為か噛んでしまい、普段見れないレアな姿で部下達を喜ばせるだけであった。
「う、うるさい!」
「あはは」
恥ずかしさで攻撃的になったアンは下敷きにした部下の背中を踏みつけるも、軽い彼女ではマッサージにもならない程度の威力しかないらしく、そこには三人娘の笑いが溢れ、ユウヒも思わず笑い声を上げるのであった。
中継のユウヒです。現在私の目の前では、三人の女性の手でとある荷物の運搬作業が行われています。
「うわぁ・・・」
「主任これで最後です」
それは例の粗悪品の入った木箱らしいのだがその量が凄い、と言うよりよくこれだけの粗悪品を集めた物である。その力をもう少し違う方に使えば何の問題も無かったのではないだろうか・・・。
「発掘品持って来ましたー」
「あと解析班から追加で未解読品が来ました」
「また!?」
木箱は一つが蜜柑箱段ボールより一回り大きいサイズで15個ほど、さらにいくつか小さな木箱には発掘品とやらが入っているらしい。しかしその箱は、走って部屋に入ってきた女性が新しいのを持ってきた為、数がさらに増える。あまり好ましい物ではないのだろう、その箱を見てアンは嫌そうに叫んでいる。
「すごい事になってるな、しかしよくもまぁこれだけ量を集めたなあいつ等」
「量だけですけどね。それにしてもこの未解読品は嫌がらせかしら・・・」
「あ、でもそれ正解かも」
俺はその大量の箱にどこか感心にも似た感情を籠めてアンに話しかけると、心底疲れたような声が俺の左斜め下から返って来る。声の返ってきた方を見下ろしながら、こんなに小さいとたぶんあの荷物持ち運べないだろうなと思ったのは秘密だ。
「なんでよ、私別に悪い事してないわよ?」
「ほらほら、護符完成の目途がたったって噂になってるじゃないですか」
「あぁどこから漏れたのかそんな噂になってるわね」
彼女達の話によると、どうやらあの発掘品とやらは解析が出来ていない物らしく、その解析を一部アンに任せる為ここに持ってきてあるらしい。それは嫌がらせじゃないかとアンが呟くと、一人の研究員が肯定し説明を始めた。
「そ、それはいいとしてですね! それを聞きつけた前任者の派閥が研究遅延の為に何かしてるらしいですよ!?」
「ふーん(なるほど、噂の発生源は彼女達か)」
どうやら嫌がらせは前任者の派閥が仕掛けているらしいが、その原因たる噂話はどうも彼女達三人の仕業の様だ。たぶん良かれと思ったか何かなのだろうが、3人の目が完全に泳いでるあたり確定であろう。
「・・・まったく、そんな暇があれば研究してなさいよ爺共がいっぺんやきい・・・・・・」
「研究所も大変だな、ふーん木に鉄に石に色々あるなぁ」
「あ、すいません変な話聞かせてしまって」
隣でボソボソとアンが何か言っているが何やら黒い気配を感じた為、俺は聞かない様に木箱の方へと歩いて行き中身を調べ始める。すると一通り愚痴をこぼしたのか、すぐにアンが駆け寄ってきて謝罪してくる。
「・・・(なるほどこれがエルフの魔力と言う物か・・・)」
「?」
そんな上目使いで照れくさそうに謝罪されたらなんだって許してしまいそうである。げに恐るべきはエルフの魔力であろうか。
「完成なんて言ってないのにねぇ」
「いつの間にか完成してるって噂まで広まってるし」
「ふしぎだよねー」
俺がエルフの魔力に恐怖していると、そんな小声が少し離れた場所から聞こえてくる。
「あんた達、何してるのよそんな隅で?」
「「「いえ!? ナンデモアリマセン!」」」
「・・・? 変な娘達ね?」
しかしその声はアンの耳には入ら無かった様で、挙動不審な三人の女性研究員の姿を見て不思議そうに頭を傾げるのであった。
「・・・(確定だね、しかしこれは中々面白いな招来以外にもこんなに色々あるとは)」
「ところで?」
そんなやり取りを聞きながらも、俺の興味は発掘品の入った箱へと移る、その中身の内容に好奇心が湧くのを感じていると、アンより少し身長の高く3人の研究員の中で一番小柄な女性がずいっと近づいて来ると俺に話しかけてくる。
「ん? 何?」
「つかぬ事をお聞きしますが、ユウヒ殿は冒険者でよろしいのですよね?」
「んー? そうだね一応冒険者だね」
「冒険者って解析班みたいなことまでするんですか?」
その質問に俺は、脳裏を掠める自分への評価に一瞬苦笑いが漏れそうになりながら返答すると、そんな質問が飛んでくる。どうやら俺が発掘品を調べているのが気になったようであるが、ところで俺の隣に居るアンから何故か焦った気配がするのだがなぜなのだろうか、気にしない方がいいのだろうか。
「んーあーいや、これはほら趣味みたいなものだよ」
「趣味とな・・・」
「趣味に負けただと・・・」
まさか右目の事を話すわけにもいかないので適当に誤魔化してみたのだが、どうやら誤魔化し方が悪かったようで、このやり取りを聞いてた二人の研究員がかたまりこちらを見て呟く、その表情は『解せぬ・・・』と言った感じであろうか。
「あー・・・」
俺に質問してきた女性も「なるほどー」とどこか間延びした声を零しながらコクコクと頷いているが、若干表情が乏しくなっている気がした。
「気にしないでください。そのうち復活すると思うので」
「そ、そうか・・・ところでこれ少し調べてもいいかな?」
俺がその状況に苦笑いを浮かべていると、呆れたような表情のアンが気にしないで良いと言ってくる。そのどこかなげやりな感じの言葉尻からは、言外にいつもの事ですと言っている様に感じた。この状況に何とも言えない気分になった俺は、別の話をしようと手元にあった発掘品を一つ手に取ると調べる許可を貰おうとアンに話しかけた。
「解読してもらえるのですか!?」
「あーまー興味あるし分かる範囲なら」
するとアンは俺に詰め寄りポンチョを掴むと嬉しそうに確認をとってくる。どうやら本気で解析が嫌だったようだが、俺的に興味もあるので許可してもらえるなら喜んでと言ったところである。しかしその時、背後で何かが動いた・・・。
「負けてられるか!?」
「わたしたちだってやればできる!」
「やってやるー!」
そう、先ほどまでその顔から表情を失っていた研究員三人娘である。どうやら俺の言葉に気に食わないところでもあったのか、燃え上がらせるところでもあったのか、そう叫ぶと発掘品を一箱抱えると少し離れた場所に有る大き目の作業机に三人で走って行くのであった。
「・・・重ね重ねありがとうございます。あの娘達もやる気を出せば優秀なんですが」
俺が三人の女性を眺めていると、アンが何故か俺に御礼を言ってくる。俺は特に何もしてないのだが、どうやら俺の言葉が彼女達を発奮させるに至ったようで、今も時折聞こえてくる気合の籠った声にアンは楽しそうに微笑んでいる。
「いや、俺何もしてないから・・・それにしても元気だね」
「それだけは取り柄らしいですからね・・・」
まぁ良い事のようだからとりあえずこのままでいいのであろう。しかしそれだけって・・・。
「ふむ、こんなものか」
俺は今、研究室の一室を借りて護符の調査と復元を試みている。何故か俺の事を高く評価してくれているアンは、俺の提案に嬉々として今は使ってない部屋と発掘品と、例の粗悪品の素材を無制限に提供してくれた。
「予想通り漢字を変えたり組み合わせで色々と効果を変えてるんだな」
そんな一人っきりの部屋の隣では、アンと三人娘達があーでもないこーでもないと解読に挑んでいる様で、そんな時折聞こえてくる声に少しだけ寂しさを感じたのは俺だけの秘密である。
「ふぅ、招来の他に使役や式神ねぇ実に興味深い」
そんな寂しさを誤魔化す為、調査に集中しているのだが、調べれば調べるほど非常に興味深い。
「しかしどれもこれも日本の匂いを感じる特にアニメっぽさを」
そう、どれもこれもがどことなく日本っぽさ、特にサブカルチャーなどと呼ばれる部類の匂いや創作物の匂いを感じるのである。
「気にしても所が無いか」
この護符の技術を作った古代人にどうしてこれを作る気になったのか直接聞いてみたい所であるが、そんなこと出来るわけも無く俺はなるべく気にしない様に調査を続ける。
「次はこの粗悪品とやらか、なんとか必要な要素だけ抽出できないものか?」
次に取り掛かったのは例の粗悪品である。その大量の素材に俺は塵も積もればでおなじみの諺を思い浮かべ、何とかならないかと考え始めた。
「そういえばバグは対応する素材になる事で正常になるんだったな」
俺は先ずこの世界の理であるバグと物質の状態について思い出す。その理由は素材を解析したところ、本来素材的についてても可笑しくない性能が多数灰色の表示で未対応になっていたからである。
「ふむ、これは品質が落ちてる事で効果や性能がダウンしてると考えれば、未対応によるバグと同じ意味合いになるのか?」
一般的に新鮮な花が枯れてしまうと品質が落ちたと言うだろう。したがってこれもその状態であると考えるならば・・・。
「綺麗な状態に戻せばどうだろうか、いやまてよ合成魔法で品質の良い物に作り変えてもいいかも」
様は、枯れた花を新鮮な生花に戻せばこの灰色の未対応部分が復活するのではと言う事だ。しかしそれよりも別の何かに作り変える事で品質を上げる事は出来ないだろうか、俺には合成魔法と言う力があるのだから、それで出来るなら生花に戻すより良い結果になるのではないだろうか。
「何かよさそう・・・お? これって風属性だな」
俺は試作に作りやすそうな素材を探す為、適当に素材を掘り起こしてみたのだが、すると下の方から微量な風属性を宿した大量の同一素材が出て来たのだ。
【ラージャフヂナの綿毛】
キク目
キク科
フヂナ属
タンポポの一種であるラージャフヂナの綿毛。
ラージャフヂナはタンポポの中でも非常に大きく、太く長い根と3メートル程度まで太い茎が伸び、先端に花を咲かせる。又、綿毛で風に乗せ飛ばす種は、非常に栄養豊富で鳥などに狙われる為、種の入った綿毛の他に大量のダミーの綿毛を飛ばす性質がある。この綿毛はその種の入っていないダミーの綿毛である。
性質: 軽い、 汚れた、 微風の力
未対応性質: 肌触りの良い、 御日様の香り、 超軽量
「綿毛って風属性なんだ・・・まぁ3人が素材とって来た時の為の予行練習ってことで試してみますか」
俺は一通り解析した結果から、問題無さそうだと思わず緩んでしまう口元を気にしつつ、予行練習の意味合いも込め合成してみる事にした。
「綿毛、綿花ほど密度は無いけど一個一個が結構大きいし、大量にあるからって・・・多分これ使って上げ底にしてたんだな・・・」
大きな綿毛の感触を確認しながらまだないかと掘り進めると、なんと底の方は殆んどこの綿毛であった。他の箱も確認しないと解らないが、大方この綿毛を使って上げ底していたのであろう。なんとも悪知恵の働く奴らである。
「よし、見てる人は居ない近くの反応も問題無いよね? それでは合成開始!」
何とも言えない気分に苦笑いを浮かべるも、俺は【探知】の魔法で周囲の確認をすると気分を入れ替えて合成魔法を開始するのだった。
そして数十分後・・・。
「すばらしい! 素晴らしい肌触りだ、そして品質も効果も上がっている」
これが品質による効果アップか大量に使った事で属性値が合計された結果かは分からないがとりあえずは成功である。
「あとは実際に護符を作ってアン達に置いて行けばいいか・・・製作に必要な知識だけ貰っても何だか悪い気がするしな」
この結果に満足した俺は何かスイッチが入ってしまったようで、ここからスーパー合成タイムに突入するのだった。
それから8時間ほど経過した頃、ユウヒは・・・。
「しまった、楽しすぎて時間を忘れていた・・・」
窓からのぞく空がすっかり暗くなってしまった事に気が付くまで、延々合成魔法を使い続けたのだった。この時使用した総魔力量は、エルフの高位魔法使いでも干からびるほどであったとかなかったとか、証言出来る者は誰も居らず真実は夕暮れ時の太陽と共に闇の中である。
「あの、ユウヒさ、さん入ってもよろしいでしょうか?」
「あーどうぞー」
そんな事実など知らないユウヒが、いつの間にか紫色に染まった空を見詰め呆けていると、ユウヒの居る部屋の扉をノックする音の後にアンの遠慮がちな声が木製の扉越しに聞こえて来た。
「失礼します。あの、時間も時間ですし夕餉を用意したので一緒に食べませんか?」
「え? いいの? 助かるけど」
失礼しますと言い入ってきたアンは、どうやらユウヒを夕食へと誘いに来たようだ。実はお昼にもアンは呼びに来ていたのだが、ノックをしても返事が無く、さらに部屋の中から感じる魔力に邪魔をしてはいけないと、大人しく退散していたのである。
若干トランス状態にハイっていたユウヒは、そんな事があったなど知らない為きょとんとした顔で首を傾げるのだった。
「はい、今日はユウヒさんのおかげであの子達もやる気が出たみたいで、今日はこのまま徹夜だって夜食分まで張り切って作ってくれたんですよ」
「あぁ・・・すまんな」
「あ、いえいえ! 私たちは研究者ですから、目的のある徹夜はむしろご褒美です!」
「お、おぅ(あー確かにオンラインゲームならいくらでも徹夜してたがそんな感じか?)」
どうやらユウヒ効果は彼女達に予想以上の効果をもたらしたようで、既に今日の徹夜は決定事項の様である。そんな事態にユウヒは悪い事をしたかと謝罪するも、アンは目を輝かせながらむしろご褒美だと鼻息荒く返答し、ユウヒは苦笑いを浮かべ過去の自分を思い出す。だがその例えもどうなのであろうか・・・。
「さ、お腹空いてらっしゃいますよね? お昼も食べずに没頭してたのですから」
「あー確かに集中してて気が付いたら夕暮れだったからな・・・お腹へったよ」
「まあ! 流石ユウヒ様です! それでこそ研究者の鏡です!」
アンの確認にユウヒはお腹をさすりながらお腹が減ったと答えるも、アンにとっては別の所が琴線に触れたようで、目をさらに輝かせ顔の前で両手を合わせると興奮した様にユウヒを称える。
「そ、そうか(俺は何時から研究者に・・・なんか最近呼ばれ方が増えてる気がする)」
「先ほどの部屋に用意してますので、行きましょう」
「わかったっとその前に、いくつか作った物があるから持っていくよ」
引き気味に答えたユウヒは、最近増える自分の呼ばれ方に何とも言えない気分になるも、そんなユウヒに気が付かないアンは食事の用意された部屋へと木製の扉を開け扇動する。この時、アンに付いて行こうとしたユウヒはここであるフラグを立ててしまう。
「え!? 本当ですか! ど、どれですか! い、いえ駄目です今は食事が先です。うぅ気になりますね、はぁ焦らし上手ですユウヒ様・・・」
「・・・・・・・・・あぁ、うん食事の後ニネ?」
「はい!」
それはただ単に作った物を持っていこうと言う何でもない行為だったのだが、アンはユウヒの作品があることを知るとユウヒに詰め寄りまくしたて、しかし自らの心の葛藤で勝手に板挟みになり、荒らんだ吐息と潤んだ瞳でユウヒを見上げる。
後にユウヒはこう語る。「研究所の何が危険だったのかって? ・・・それは、どんなに真面そうな人でもあの研究所に居る時点でへんじ・・・マッドサイエンティストに片足突っ込んでいるから不用意な発言や行動は注意しないと危ないってことかな・・・」
この時の息遣い荒く潤んだ瞳で見上げてくるアンは、それはそれは妖艶だったらしく、ユウヒの鼓動を早めるには十分すぎる力を持っていたのであった。
いかがでしたでしょうか?
誤字脱字誤用はなるべく修正したつもりです(辞書片手に)が、それよりも物語の内容を楽しんでいただけたか気になるところです。
なかなかクライマックスに近づかないですが、負けないで書き続けますのでまたいらして下さい。
次は、もう少し早く・・・カケタライイナ、それではこの辺でさようならー




