第七十二話 原初の記録
おはようございますお久しぶりですHekutoです。
長らくお待たせしました・・・え? 忘れてた? ですよねー遅くなりましたが七十二話が完成しましたので、どうぞお楽しみください。
『原初の記録』
いきなりだが、実はこの世界の魔法とユウヒが使う魔法には明確な相違がある。詳しくは割愛させてもらうが、この世界には元々現在のような魔法は存在しなかった。しかし遥か古代に一人の人間が創り出したと言われている。
その頃作り出された数々の魔法に、漠然と奇跡を行使していた一柱の神が興味を持ち神々に広く伝わる。しかし古代文明はある時謎の滅びるを迎える事となり、その時から魔法は神だけの奇跡となった。
現在使われている魔法は、古代文明の滅びの後文明を持たなかった人々が、少しずつ成長をする中で神々に教わったものがほとんどである。近年、新しく古代文明の遺跡から出土した遺産によって再生された魔法も存在するが、現文明によるオリジナルの魔法は存在しない。
「どこかなぁっとあった・・・」
しかしそんな世界において、ユウヒが使う魔法だけはユウヒオリジナルである。それもそのはず、すべては異世界人であるユウヒの妄想の海から湧き出た奇跡なのだから。
本来の合成魔法は世界の摂理に沿っている。ただしユウヒが使うとその膨大な魔力で摂理を跳び越え結果を引き出す。
「こうして・・・こうか、ふんふん」
口語魔法の源はこの世界に刻み込まれた古代人の真理、口語妄想魔法の源はユウヒ自身の内にある無限の想像力、よってユウヒが認識し妄想することでどんな魔法も創造し再現することが可能である。
それが創作物の中のものだろうと、すでに忘れ去られた古代の魔法だろうと。
だいぶ前置きが長くなってしまったが、以上の事柄をユウヒが知るわけもなく、これまでの魔法はすべてユウヒが本能的により良い結果を掴みとった結果である。
「ふんふん、なるほど・・・ところで何で全文日本語なんだ? えっと付与魔法概論か」
遥か古代に失われた魔法の一つ付与魔法、様々な魔法の力をモノに宿す魔法で遥か古代に研究開発された魔法、しかし今ではその存在すら知られていない。護符や符術はその研究の副産物で使い捨て魔法であるが、付与魔法は質や量はもちろんのこと魔力を籠め直すことで再利用や作り直す事も出来た。
「ふむぅなるほど、こんな良い物ならもっと早めに熟読しとくんだったなぁ」
しかしそんな付与魔法だが欠点もある、魔法の性質上付与する時に対象へ破損の恐れのある負荷を与えてしまう。その為成功率を上げる方法と法則がいくつかあり、基本的なものには以下の方法がある。
「親切な説明だな、流石総合技術書と言うだけはある」
対象と魔法の結びつきによる付与、対象の魔力耐久力強化による付与、属性を合わせる事による親和性を用いた付与、膨大な魔力による強引な付与である。しかし最後の方法は現実的では無く、また対象が脆い場合失敗の確率が上がるため個人で用いるには向かない。
「付与魔法かぁ妄想魔法で再現できると思うけど、試してみるしかないよねぇ」
一通り半透明の緑の板を指で突いて操作し、現れては消える画面を視ていたユウヒはとても楽しそうな表情を浮かべると、床に置かれた様々な素材に目を向けた。
「でもこれって合成魔法にも似てる所があるんだけど、いっそのこと妄想魔法と同時に使えないかな?」
すでに合成した物を手に取りながら溢れ出る妄想に口を動かされるユウヒ、その姿は傍から見てもウキウキと言う言葉がぴったりな雰囲気を垂れ流している。
「あれだよね、思い立ったが吉日御礼って・・・何か違うけどまいっか」
湧き上がる好奇心のまま良く分からないことを言い始めたユウヒは首を傾げると、とある荷物に目を向けた。その視線の先には貼り紙がしてある袋が一つあり、日本語でこう書かれていた。忍者さん依頼品と・・・。
丁度ユウヒが嬉々として袋を広げている頃、ユウヒの居る宿屋の上空をフヨフヨと飛んでいる三つの人影があった。
「ふぅ、ねえさん嬉しいからってあんなに燥がなくてもねぇ」
「しかも自分で貰いたかったとか言ってまた黒くなるし・・・」
その人影は妙に疲れたような空気を漂わせており、気のせいか青を基調にした服はどこか煤け髪の毛も撥ねている。
「ユウヒに癒してもらうぞー!」
「「「おーー!」」」
そう、その人影はいつもユウヒに引っ憑いて騒がしくも楽しい一時をもたらす、青くてちっこい粋なヤツら、水の小精霊達である。
「「「おぉ?」」」
そんな彼女達は、ユウヒに貰った飴玉を姉のミズナにプレゼントすることで、荒ぶる大精霊の怒りを鎮め、しかし仲間の不用意な一言により再来してしまった姉暴走から逃げ出してきたのであった。尚、今日も三人しかいないのは先ほど言っていたように姉の暴走の為である。彼女達3人は他の子達より逃げ足と耐久力が一段階高い様である。
「何アレ・・・」
「うわぁ・・・何か普通じゃない魔力をヒシヒシと感じるんだけど」
しかし、ユウヒの癒しを求めてやってきた彼女達が見た光景は、とある宿の一室から漏れる妙な魔力の波動であった。
「またユウヒ何か作ってるのかな・・・」
「でも何だか懐かしい感じもするね?」
犯人の特定は容易だった様で、この魔力を漏らしているであろうユウヒの話をしながら、フヨフヨヒラヒラとその部屋へと降下する小精霊達。
「DNAが感じ取ってる感じ?」
「DNAって何?」
「「さぁ?」」
その魔力に何か覚えでもあるのか、それともただの電波か、今一明瞭としない会話をしながら目的の場所へと向かうのであった。
現在古代の魔法に挑戦中のユウヒです。
「付与魔法に必要な物はこれでいいかな?」
以前手に入れたタブレット端末のような緑の板に登録してあった、『付与魔術総合技術書』を読み妄想を膨らませ、現在はその魔法の実行段階に移るところである。尚、そのほかに登録してある書物に関してもいろいろと興味を惹かれる為、後々読んでいこうと思う。
「実験対象はあいつ等用に作った刃物類でいいかな?」
そんなことはとりあえず置いておき、現在俺の目の前に広げられている物は昨日作った忍者っぽい武器セットである。四方手裏剣に八方手裏剣、苦無に忍者っぽい黒塗りの刀それと赤と黒色のL字型をした工具っぽい何かだ。最後妙なのが混ざっていた気がするが気のせいだと思う。
「あとは何の魔法にするかだが、切れ味を上げるだけじゃ付与ってより強化魔法だしな」
今回試すのは【付与魔法】と言い、魔法を対象に籠める事で任意にその力を発動させるものらしい。また籠める物によって発動の仕方も様々でどんなふうに力が宿るかは、付与術士の腕次第とか書いてあった。
しかしそこは俺の【口語妄想魔法】で付与する為、きっと俺の妄想に大きく左右されると思われる。
「うーん、アニメっぽい方が喜びそうだよなぁ・・・ビーム○ーベル? ライ○セイバー? 烈光○剣?」
俺は彼らの性格から何が良いか考えると、手に持った苦無を見詰め案を出す。どれもこれも喜びそうだが・・・。
「うー、無理にやればいけそうだけど・・・そうだ氷にしよう! 火だと熱そうだしビームとかレーザーとかもちょっと危なさそうだしね」
俺は基本慎重な方である。初めての魔法であるならば尚更、こんな宿の一室でやりすぎ・・・失敗しようものなら大変なことになってしまう。その為、俺は安全かつ少し前の『黒歴史書ページ増加事件』で明らかになった、妄想しやすい氷の属性にする事にした。
「それなら少し苦無も改良するかな、おいで【スニールコンパニオン】」
さらに安全性を上げるべく、技術書を読んでいた時に見つけた成功率を上げる為の方法を試してみようと思い、俺は娘を一人呼ぶことにした。
「くすくすくす・・・マスター今日はどんな御用ですか? それとも結婚しますか?」
「はぁ、ちょっとお願いがあってね・・・」
クロモリ由来のこの魔法は、人数も調整可能である。しかし、何故一番発言に問題がありそうな子が出て来たのか、その現れて第一声に俺は思わず力が抜けてしまう。
そんなこんなで、彼女達氷の乙女なら何か氷に属する素材を持っていないかと思い相談してみたのだが。
「・・・それはマスターが使うわけでは無いのですよね?」
「そうだね、知り合いの忍者用だね」
コクコクと頷きながら大人しく話を聞いていた彼女は、しばらく何か考える様な素振りを見せた後そんな質問をしてくる。特に隠す事でもないのでその質問に正直に答えたのだが・・・。
「・・・汚い忍者ですか、そんな奴ならこれで十分です。ぺっ!」
「・・・【氷の乙女の唾液】氷属性だ、こんなアイテムもあるんだな」
忍者と言う言葉に、明らかな嫌悪の感情を漏らすと眉を顰め置いてあった苦無に唾を吐く娘。その姿に正直引きながらも右目で確認するとどうだろう、その唾はしっかりと固有の名前があり、なおかつ氷の属性を示していたのだ。
【氷の乙女の唾液】
氷の力を宿す特定の魔法生命体や精霊などの口腔内分泌液。
無色透明の液体で不凍性があり、さらに高い冷却効果などの特性を持ち合わせる。臭いと味については、基本的に無いとそれている。しかし一部の特殊な性癖の持ち主たち曰く、初恋の味らしいが科学的、魔法科学的に立証はされてはいない。
一般的な入手方法は、非常に友好的な間柄で口腔内交換される場合か、対象から非情に嫌悪されることにより吐き捨てられるかの二通りである。
「まぁこれでいいか、それじゃ早速合成させて新しい苦無に作り直してっと」
「マスター見ててもいいですか?」
鑑定の結果品質も性能も良いので、俺はこのまま氷の力を宿した苦無を合成しようと姿勢を正し床に座り直す。すると今までふわふわと浮かんでいた娘が、正面の床にぺたんと座り首を傾げながら聞いてくる。
その姿は小さな子供ほどの身長と、その割には女性らしい体のラインの為、まさにお人形と言ったかわいらしさがある。きっと元の世界で実在すれば大きなお友達は大興奮間違いなしである。
「ん? いい「「あー! お前はあの時のどろぼうねこ!」」登場早々騒がしいな」
「ど、どろぼうねこ? 私は猫ではないぞ!?」
俺はそんな彼女に了承の意を告げようとしたのだが、室内に現れた水球から三体の小さな人影が現れると、俺の声を遮り第一声から部屋を明るく騒がすのであった。水の小精霊の指さし確認の対象になったわが娘は、急な出来事に目を白黒させながらも反論する余裕はあるようだ。
「にゃにおー! ユウヒは私のなんだから!」「おまい何勝手に個人所有にしようとしてる!?」「ユウヒ今日は何作ってるの?」
目の前で展開される漫才を見ながら、俺は最近少し分かってきた三人の小精霊達の個性について考えていた。
彼女達の見た目は身長こそスニールコンパニオンとあまり変わらない物の、どちらかと言えば少女体型である。そんな中で一番騒がしいのが一番ちっこい小精霊、一番行動力がある様でその性格を表すように、服装もどこか活発な印象を与える。お腹を出した独特な文様の短めの上着にショートパンツと言った出で立ちである。
「騒がしいな、今日は知り合いの武器を実験台にして付与魔法を試すんだよ」
「付与魔法? どっかで聞いたことあるよーなー?」
次に、今目の前まで飛んできて俺の手元を興味深げに見ている、少しくせっけのあるフワッとしたロングヘアーの小精霊は、全体的にダボダボとした服を着ており性格もどこかゆったりマイペースと言った感じである。
「だめだもん! ま、マスターは私と結婚するんだから!」
「結婚だと!?」「なら私は子供を作ってやる!」
「「な、なんだってー!?」」
目の前の小精霊に説明しながら、もう随分慣れた合成を始める向こうでは、未だに言い合いしているようで、三人目の一番身長が高くミズナに一番似ている小精霊が、負けてなるものかといった勢いで問題発言を繰り出し、二人を驚愕させる。
子供とかどう考えても物理的に無理、と言うかそんなことしたら俺が社会的に殺されそうな気がするので、却下である。そして娘よ、そう言ってくれるのは嬉しいが俺はお前と結婚する気はありません。
「うむ、いい感じに氷属性の苦無になったな。あとはこれに氷系統の魔法を付与できればいいのだが」
「どんな感じの魔法にするの?」
すぐそばで漫才が続く中、淡く光る俺の手の中からは、俺の妄想と魔力により合成された苦無が一本、真っ黒な刀身と光の反射で青く輝く刃を携え姿を現わす。その姿を右目で確認し俺は口元が緩むのを感じた。
【氷の苦無】
氷の属性と高い親和性を持つ苦無。それにより変質した金属は僅かに冷気を漂わせ高い硬度と鋭い切れ味を兼ね揃える。
ただしその硬度故、衝撃に弱く耐久性に若干の難あり。
性能:物理(切れ味) B 耐久力 E 氷の親和性 B 魔力親和性 D
右目で調べたところだと、元になった苦無より切れ味がワンランクアップし狙い通りの性能も付いていた。ただ切れ味が上がった分が耐久性能に響いたようで、全体的な性能はプラスマイナスと言ったところの様だ。
「そうだな、ここはベターに「「「ねぇ」」」ん?」
『ナチュラルに無視しないで(よユウヒ!)(くださいマスター!)』
「大人しくしてなさい。今初めての魔法の実験中なんだから、失敗して爆発しても知らんぞ?」
その合成結果に気分がのってきたため、目の前の小精霊の質問に気分よく答えようとしたのだが、今まで漫才をしていた三人からの苦情に言葉を遮られてしまう。苦情はともかくとして、丁度これから初めての魔法を使うわけだし、静かにしてもらうために今からやる事に関して注意喚起をしたのだが・・・。
『ば!? 静かにしてます!』
「なんだ仲良いじゃないか?」
「だね~♪」
その注意喚起は予想以上に効果があったようで、驚愕の表情で一瞬固まった三人は同時に床の上で正座をすると、声を揃え背筋を伸ばすのであった。そんな三人の揃った動きに素直な感想を呟くと、一人俺の隣でふわふわ浮いている小精霊が楽しそうに同意する。
『よくないもん!』
しかし当の本人たちはその意見に対して否定的な様で、全く同じ内容の声を張り上げると、無言で睨みあいを始める。その姿はどう考えても仲の良い友人同士のじゃれあいにしか見えず、俺は少し暖かい気分になるのであった。
一方その頃、まったく花の無い黒い三人こと三モブ忍者隊は・・・。
「腹減ったな・・・」
「ゴエンモ非常食無いの?」
「二人が食べてしまったのが最後でござる」
どこかデジャブを感じる様な表情で、空腹に苦しんでいた。
「誰だよちゃんと準備しなかった奴」
「まったくだ食料の準備も出来んとは嘆かわしい」
「・・・なに? ツッコミ待ちなの? ばかなの? 氏ぬの?」
「「サーセーンwwww」」
本来なら少し前に立ち寄った村で残り少ない食料も調達していたはずなのだが・・・。現実は、不平不満を垂れ流しゴエンモを見詰めるジライダとヒゾウ、しかしその視線はゴエンモの冷たい視線と言葉によって即座に逸らされ、一欠片の反省も感じない謝罪だけが返って来る。
食料調達隊長 ジライダ
荷物持ち兼味見毒見役 ヒゾウ
マッパー兼情報収集係 ゴエンモ
と言った具合で村に入ったのだが、調達開始早々河童少女の情報を聞いたジライダとヒゾウは、ゴエンモの両腕を拘束するとそのままテンション高く村を跳びだしたのであった。
「とりあえず先を急ぐより食料調達でござるな」
「ふむ、ならば我は水でも探すか」
「じゃ俺は食べれそうなキノコでも」
「「絶対それ中毒フラグだから」」
そんなネタの応酬も空腹の為かすぐに真面目モードに戻る三人、しかしそこはヒゾウ、妙なフラグを立てることは忘れない。
「大丈夫だって、あれだろ? ちょっと派手でマーブルしてそうなヤツ探せばいんだろ?」
「いや完全にダメだろそれ」
「ここは大人しくイノシシでも狩るでござる」
お腹が空いていてもネタとフラグがあれば騒がしくなれるのが彼らの常、そんな楽しい雰囲気に釣られたのか、陽気な空気の流れる場所にとある影が近づく。
「あーあれかイノシシって言うと・・・そうそう、こんな感じの」
「ぶふぅん!」
ゴエンモの言葉に陽気に答えながら、背後にあったごわごわと毛深い壁に手を伸ばすヒゾウ、そしてどこからともなく聞こえてくる大きな鼻息。
「そうそう、この太くて長くて固い牙はイノシシっぽいな」
「ふん! ふん!」
そこに今度は、ジライダが目の前に飛びだしてきた白くて太くて長い固い物を撫でながら、ヒゾウの言葉に同意する。そして先ほどより幾分荒々しくなる鼻息の音。
「そうでござるな、この荒々しい鼻息を出すブタ鼻はイノシシでござる」
「グルルルゥ」
首筋に当る生暖かい風に後ろを振り向いたゴエンモは、目の前に広がる大きなブタ鼻を見て二人に同意する。そしてお腹に響くような低いうなり声。
「「「・・・はい?」」」
その唸り声で第三者の存在に気が付いた三人は、そっと視線を上に向け呆けたような声を漏らす。
「ぶるあぁぁぁ!!!」
そして彼らの顔面目掛けて轟く轟音。
「て、撤退でござる!?」
その状況に逸早く再起動を果たしたゴエンモが、慌てて叫ぶと三人は同時に駆けだした。
「お、おま忍者だろ!? イノシシ捌くくらい簡単だろ!?」
「あの大きさは本能が拒否するでござる!?」
「あ、熱くなれよ!? お前ならやれるって!?」
走る彼らを追いかけてくる大きな質量体に、三人共顔をひきつらせながらお互いに言い合いを始める。
そう、彼らの陽気な雰囲気に釣られやって来たのはイノシシである。しかし唯のイノシシでは無く、それは魔物などに分類され、ボアなどと呼ばれ、以前ユウヒが討伐したイノシシより・・・デカイ。
「ならジライダとヒゾウがやるでござるぅぅ!?」
「「無理!? うほわぁ!!」」
口論をする三人に、「私、怒ってます」と言わんばかりに太く長い牙を振り回すイノシシ、そんなイノシシに対して三人は紙一重で牙を避けながら口論を続ける。本人達はかなり必死の様だが、傍から見たら余裕がある様にも見えるのであった。
「ぶるおおぉぉぉ!!」
【ヒュージーボア(子供)】
イノシシ亜目
ボア科
ヒュージ種
ボアの仲間で最も巨大に成長する種族で、特徴としては巨大な体と、同じくらい長く鋭い牙である。
生まれたばかりの子供でも大きさはアサルトボアより大きく、生まれて三日で独り立ちすると言われており、その最大の大きさは歴史書にある城の城壁から顔が見えた、という記録からその大きさが窺い知れる。
一方その頃、
「・・・む?」
巨大イノシシに3モブが追われていることなど知らないユウヒは、いつも通り何かを感じ取ったようで、没頭していた魔法の手を止めると窓の外3モブが居る方角に目を向けた。
『zzzzz』
しばらく窓の外を眺めているユウヒの部屋は、魔力の残滓が漂う気配以外には複数の寝息が聞こえるだけでとても静かな空間である。
「だいじょうぶかな、それにしても仲良く寝てるな・・・精霊も寝るんだねー」
ユウヒは特に問題なさそうだと視線を戻し、そのままその視線をベッドのある方へと向ける。そこには騒がしかった小精霊達と、スニールコンパニオンが仲良く折り重なる様にして眠っていた。
ユウヒの注意後しばらくは静かに視線での攻防だけで済んでいた彼女達だったが、我慢できなくなったのだろう、後半はキャットファイトに移行し、それまでユウヒの手元を見ていた小精霊も楽しそうな誘惑に負け、じゃれあいに参加その結果が今の状態である。
「よし! 風の魔法搭載型手裏剣3セット完成だな」
ユウヒはそんな彼女達にやさしい微笑みを向けると、完成した手裏剣を12枚づつ紐で縛る。
どうやらユウヒは古代魔法である付与魔法を完全にものにした様だ。しかし、その道には失敗もあったようで、ユウヒの背後には失敗したのであろう割れたり、曲ったり、砂状になったりしたナニカが複数転がっているのだった。
「・・・失敗は成功の母だったかな? まぁうちの母は破壊神だったけど」
チラリと背後に広がる惨状を見たユウヒはそんな事を呟くが、その言葉は誰の耳にも入る事は無かったのであった。
「ん? あ!? あ、あ、あぁぁ」
ユウヒの居ない地球の、日本の某所にあるユウヒの家のキッチンでは、女性の情けない声の後、続くようにパリン! という乾いた音が響く。
「・・・またやったのかい?」
「あ、それお兄ちゃんのマグカップ!」
「あぁん、またユウヒちゃんにおこられるわぁ」
そんな音にまたかと言った表情のユウヒ父と妹の二人、その二対の視線の先にはしょんぼりしているユウヒの母の姿があった。
「怒られたことないだろ」
「あの生暖かい眼差しはとても堪えるのよ?」
二人の会話から分かるようにユウヒは特に怒らないらしいのだが、母曰くユウヒの優しい眼差しは良心に堪えるらしい。
「知らんがな」
「もう! 意地悪~」
「はぁ、そんなことより危ないからさっさと掃除するよ!」
いつもと同じ、甘い空気でじゃれあい始める両親をスル―したユウヒの妹、流華はキッチンに入って慣れた手つきで割れたマグカップを片付け始める。
「るかちゃん、お母さんがやるからだいぁあ!?」
そしてその背後では再度何かが割れる音が響く。
「はぁ・・・(お兄ちゃん、早く帰ってこないとお兄ちゃんの食器なくなっちゃうよ)」
ユウヒの居ない天野家は、一部を除いて平和な様子であった。
いかがでしたでしょうか?
色々ありましたが何とか今回も次話を上げることが出来ました。今回は魔法に触れてみましたが、ユウヒが疑問に思っていた部分に関する時代のプロットも完全ではないもののあったりするんですよ・・・そのうち上げれたらいいなぁ(遠い目)
そんなわけで次回も頑張りますのでまた来てやってください。次回もここでお会いしましょう。さようならー




