第七十一話 疾走! 忍者は急に止まれない!
どうもお久しぶりです。覚えてますか? Hekutoです。
かなり遅くなりましたが七十一話完成しましたので投稿させていただきます。どうぞ楽しんで行って下さい。
『疾走! 忍者は急に止まれない!』
ここはグノー王都から北上した森と平原の境界ライン、現在グノー、オルマハール混合暴走ラット討伐隊が布陣する場所の近くである。
「オラオラオラオラ!」
「ムダムダムダムダム!」
「途中からダムになってるでござる・・・」
そこにはまだまだ暴走ラットが我が物顔で闊歩しており、そんなネズミと楽しく戯れているのはジライダとヒゾウ。その拳に嫉妬とストレスを籠め、ただ力の限りネズミを殴り飛ばしている二人に、ゴエンモはどこか呆れたような目でそれでも律儀にツッコミを入れている。
「オゥラ!」
「ダァム!」
「おわ!? ふぉう!? おまいらワザと残骸飛ばしてきてるでござろう!」
しかしそんなゴエンモが気に食わなかったのか、二人は揃って最後のネズミをゴエンモの方向へ殴り飛ばす。殴られ飛ばされ涙目のネズミ、そんな2匹のネズミをギリギリで躱したゴエンモは、すぐに二人の居る方向を向き文句を言うが、視線の先に居たのはクラウチングスタート体勢の二人。
「ソンナコトナイヨ!」
「ソウダヨ!偶然ナンダオ!」
「その言動が全ての答えだよ!」
ゴエンモの文句を合図に、二人はわざとらしい棒読みと妙な片言の言葉を残すと地面を抉る一歩を踏み出す。その動きを見たゴエンモはすべてを察し、背中からナニカを取り出すと二人を追いかけはじめる。
息絶える寸前のネズミ達が最後に見たのは、まるで海辺を走るバカップル? のような三人の声と、そんな声に似つかわしくない、笑顔で怒りのオーラを出すゴエンモが手に持つ先端の赤いL字型の武器と、本気で走る二人の姿であったとかなかったとか。
「こら~まてまて~はははは~♪」
「「やっべぇやりすぎた~www てへぺろ~wwww」」
そんなアホな事を3モブがやり始めてから数時間後、ここは討伐隊の中にあるアルディスの臨時執務スペースである。
「アルディス様報告です」
「うん、どんな感じかな?」
そこにはバルカスに案内された指揮官から、討伐の経過報告を聞くアルディスの姿があった。
「はっ! 怪我人の治療及び近くの村への搬送は完了、死人も出ていません」
「そうかよかった、冒険者の人達も大丈夫?」
「はい、むしろ彼らの方が損害が少ないくらいですね」
「流石だね。それで討伐状況は?」
アルディス自身は前線指揮をとるわけでは無いが、しかしそこは王族である。最終決定権や戦略的な行動の変更などは全てアルディスの了解が必要なのだ。その為、情報は常に最新の物を伝令兵が定期的に報告しているようだ。
「はい、平原はほぼ討伐完了と見ていいかと、周辺の残りは森の中に潜んでいるようで時間がかかりますが、特に問題は無いかと」
「順調だね」
幸先はあまり良くなかったものの、ここに来るまで大きな損害も出てい無いようでアルディスは報告を聞きながら微笑んでいる。
「はい・・・ただ妙な報告が上がってまして」
「妙?」
「はい、狩っても狩ってもどこからか補充される様に小規模のネズミが現れるとかで」
「・・・」
しかしそんな中、伝令兵は眉を寄せてどこか困惑したような表情をつくると、個人的に気になる噂話レベルの話を始める。そんな話にもアルディスは真剣な表情で話しを聞き続ける。
「小規模なので大した事は無いらしいのですが、これまでとは明らかに違う行動ですので・・・」
「注意は必要と言う事だね」
「はい・・・報告は以上です」
通常、このようなはっきりとしない情報を上官に告げるのは怒られても仕方ない行動の為、どこか不安そうな伝令兵だったが、そこはグノー王家である。真剣な表情で聞き続けたアルディスはその表情をいつものニコニコとしたものに変えると、了解の意味も込めて返事をする。実際にこう言ったやり取りが窮地を救ってきたのも、グノー王家の事実なのであった。
「あり「失礼します!」ん?」
「何事だ!」
アルディスは椅子に深く座り直すと、この場の終了を告げようとしたのだが、そこに走り込んでくる別の伝令兵。今まで空気と化していたバルカスが一歩前に出ると大きな声で要件を問う。
「は、はっ! 緊急の報告です!」
「緊急? 何かあったのかな?」
そんなバルカスに若干怯えながらも、敬礼をすると要件を告げる若い伝令兵、そんな一連の流れにアルディスはきょとんとした表情で首を傾げる。
「報告します! 現在森林境界ラインで討伐をしている第三歩兵小隊より、森の奥に入って行く謎の黒い影を確認。調査するも動きが速かった為3体と言う数までしか分からなかったとの事です」
「黒い影? 人? それとも獣や魔物?」
「小隊長が言うには人のシルエットだったと言っていますが・・・人にしては早すぎ、魔物などにしては体格が小さかったとの事です」
どうやら第三歩兵小隊と言う部隊からの伝令のようで、アルディスはその内容を興味深く聞き取る。
「・・・もしかして、何か良く分からない言葉を喋ってたりしてなかったかな?」
「あ、はい聞いたことの無い単語がいくつかあったそうで、こちらに通じる言葉からも人ではないかと」
アルディスはその伝令兵の言葉に何か引っかかるものがあったようで、しばらく何かを思い出すような素振りを見せると、ぽつりと呟き再度伝令兵に質問をした。
「そうか・・・多分大丈夫だと思うけど警戒は怠らないでください」
「はっ! 了解しました! 失礼します!」
伝令への返答に何か確信したのかアルディスは表情を緩めると、伝令兵に退出を許可した。
「アルディス様・・・もしかして」
「あの人たちかもしれないね」
どうやら限られた情報からアルディスは、とある黒い三人組の姿を思い描いたようだ。
「自由騎士団の、何か見つけたのでしょうか?」
そう我らが3モブ忍者である。バルカスも何となく予想していたあたり二人は気が合う様である。
「んー分からないけど、彼らのことだから無駄に危険な森へは入らないと思うよ?」
「そうですな、現状が好転することを願いましょう」
以前見たとある3人の強さを思い出しながら期待を膨らませるアルディスとバルカス、そんな二人を不思議そうに見つめるメイは、完全に空気だったことをココに記す。「酷いです!?」
そんな期待をされているなど知らないその3人はと言うと、どうやらゴエンモからの制裁はすでに受けた後なのだろう、血濡れの二人とゴエンモがいつも通りの珍道中を続けていた。
「ヒゾウ! そっちは道が違うでござる! と言うより道じゃないでござる!」
「いや! 俺には分かるこっちからフラグの匂いがすると!」
「フラグ立てないとイベントCGが「シャラップ!」・・・最後まで言わせぬか」
ゴエンモの制裁により、いい感じに血の気が抜けたヒゾウはいつも通りフラグ求め道なき道を進み、抜けすぎたのかこちらは若干ふらついているジライダはネタの切れも若干悪いようだ。
「こっちか! っぷろ~~ん!?」
「大丈夫でござるかヒゾウ!」
「忍者になっても躓き癖は直らんものか・・・ん?」
そんないつも通りの追いかけっこはヒゾウの転倒で一時中断された。何かに躓いたのかスピードそのまま、思いっきり顔面スライディングをかましたヒゾウにゴエンモが慌てて駆けつける。尚、ヒゾウは昔から色々なものに躓くとはジライダ談である。
「いてて、いったい何に躓いたんだ? 千両箱か?」
「前はヤの付く自由業の方の財布でござったな」
「あの時は正直殺されるかと思った・・・お礼のお酒が集会の席とか」
本当に色々なものに躓いているのか、過去の恐ろしい出来事を思い出した3人は若干顔色が悪くなる。そんな彼らから少し離れた場所では何かが蠢きそれに気が付いたジライダは目を凝らす。
「今回はネズミに躓いたみたいだぞ?」
「ん? あれでござ・・・気持ちわる!?」
「ん? え!? もしかしてアレって俺のせい!?」
ジライダが指さした方向を見た二人は、蠢く物を確認するとさらにその顔色を悪くする。そこに居たのは今世間をお騒がせ中のシリアルラット、しかしその様相はただ事では無かった。
頭は半分に裂けており、別れた頭は次第に二つの頭になり体も同様に分かれて行き、お尻からは小さな頭が次々に生えそのまま小さなシリアルラットになり、零れ落ちる様にお尻から離れるとすぐに元と同じ大きさのシリアルラットになる。
「うお~・・・あれ再生してるの? それとも分裂してるの?」
「どの道気持ち悪いので焼却処分だな」
「汚物的なって容赦ないでござるな・・・」
ヒゾウが今にも吐きそうな表情で次々に増えるネズミの様子を見ていると、ジライダは前に出ながら懐から黒いナニカを出すと、ゴエンモがネタを呟き終わる前にネズミを高熱の爆炎で周囲の地面ごと焼却する。
そんなジライダの足が、生まれたての小鹿の様に震えていたりするのは、見なかったことにしてあげるヒゾウとゴエンモであった
「さて、先を急ぐぞ。河童少女が逃げてしまう」
「そうだった! 急がないと!」
「だからそっちじゃないでござる!」
ちょっとしたホラーを体験した3人は、ジライダの自身を奮い立たせるような声に本来の目的を思い出すと、再度ヒゾウを追いかける作業が再開されるのであった。
気が付いている方も居そうだが、このホラーシリアルラットは今回の暴走ラットを引き起こすことになったネズミである。
某女神が落した薬品を被ったこのネズミは、一分間に数匹前後のペースで自分のクローンを生み出すことになり、どんどん増えるクローンは過密状態によってストレスを溜めて行きそして・・・。
あの時のジライダが降り注がせた一条の光が一匹の目に入った事で、その一匹が暴走状態に入りそれは連鎖的に周りのネズミのストレスを急激に上げる事になり結果、大規模な暴走ラット災害が発生したのである。
そんな事実など知らない3人は結果的にではあるが自分達が最後の引き金を引いた災害に、自分たちの手で幕を落とすことが出来たのである。それは経緯がどうであれ英雄的行為だったのであろう、しかしそれは誰の目にも触れる事の無い語られる事の無い物語である。
実際内容が色々と情けないので彼等的にもその方が良いのかもしれない。
そんな忍者が予期せず分裂するネズミの本体を焼却してからしばらく後の事、再度ここはアルディスの執務スペース。
「アルディス様報告です」
「何かまたあったの?」
席を外していたバルカスが、お茶をしていたアルディスの隣までやって来ると大きな声を上げる事無く報告があると告げる。そんないつもと違うタイミングでの報告に、きょとんとするアルディスと首を傾げるメイ。
「はい、どうやらアルディス様の読み通り黒い影は彼等だったようです」
「やっぱり、それで?」
「はい、森の奥から何か話しながら出てきた三人の自由騎士は、しばらく討伐作戦中の部隊内を周った後進路を東にとったそうです」
「東に・・・」
どうやらバルカスは個人的に黒い影の情報を調べてきた様で、その結果を報告に来たようである。実際のところ、森から出てきた三人の忍者はヒゾウを追いかけて戦場をしばらくうろうろした後、ジライダの黒い爆発する何かとゴエンモのすっかり全体が赤く染まったL字型の何かによって、ヒゾウを捕縛し正しい道へと戻ったのであった。
「はい、それと彼らが森から出てしばらくしてからですが、謎の散発的なネズミの襲撃が無くなったそうです」
「・・・それじゃ彼らはその原因の排除に」
「かもしれません。しかしすぐに去ってしまったようで話は聞けず、顔? を覚えていた騎士が姿を確認しただけの様です」
「また助けられたんだね」
「そうですな・・・しかし不思議な者達です」
予期せず彼らの英雄的行為はアルディスに知られる事となり、本来なら語り継がれることも無いはずだったのだが、お人よし王子のアルディスの手により闇の中から掬い上げられる事となる。後にこの時の話はアルディスの伝記の一節に書かれ、長く密かに語り継がれることになるのだが、当然三人は知ることは無いのだった。
「ふふふ、流石ユウヒの知り合いだね」
「まったくです」
そんな不思議な話も、ユウヒの名前が間に入ると全て解決と言った感じのアルディスの笑顔に、心の底から納得した表情を浮かべるバルカスとやはり首を傾げているメイなのであった。
そんな噂話をされている頃、ここはユウヒの合成工房になりつつある宿屋の一室。
「へっくち!」
そこでは噂の電波を受信したのか、ユウヒが合成中の集中状態にも係らず盛大にクシャミを零している。
「うわさかな?」
突然のクシャミに首を傾げるユウヒの手元では、いつもの淡い光を放つ合成魔法が歪に揺れると、ぽすん! と言う音と共に弾けた。
「む、合成失敗したかな・・・風の漢字がひらがなになってるし、まぁ使えるかな?」
光の中から一枚の護符がヒラヒラと床に落ち、その護符を視たユウヒは眉をひそめる。どうやら集中切れにより合成魔法が上手くいかなかったようで、ユウヒは使えるかどうか右目でチェックを始める。
「おお、魔力もちゃんとこめられた、三人が帰って来たら試させよう」
現在ユウヒが作っているのは護符を使った忍術用触媒、これは途中まで作った護符に魔力を籠めた物である。研究所では各種魔法を籠めているが、ユウヒの調査結果では魔法だと使った時の効果に魔法が影響してしまうため、忍術の触媒には向かないと判断した結果このような作りになったようだ。
「それじゃ次は・・・」
そんなユウヒの周りには合成した物が溢れており、その中には先ほど予期せず出来た触媒護符? も置かれている。護符には招来の記号と中央には丸っこいひらがなで『かぜ』と書かれているのであった。
一方その頃、とある天幕の中では、
~ 討伐隊の証言 ~
騎士A
「あれは確かに自由騎士団の方だった。以前見た時もそうだがあの素早い身のこなし只者では無いな・・・」
冒険者B
「俺が最初に見た時は凄かったぜ? 何か雄叫びみたいな声が聞えたと思ったらさ、そこからネズミが吹っ飛んできたんだよ」
吹っ飛んできた?
「おう! 一匹や二匹じゃねェ十匹はいたかな? 黒い暴風に吹き飛ばされたネズミ野郎は全滅だったな・・・どうやったらあんな殺し方ができるのか」
女冒険者C
「私は助けられたんだよ、早すぎて目で追えなかったんだけどね」
助けられた?
「ちょっと孤立したところを囲まれてね、怪我覚悟で突っ切ろうとしてたら急に黒い風が現れてね、周りのネズミを残らず切り飛ばしたのさ」
それで?
「その時『女の敵は拙者らの敵でござる』て声が聞えて、助けられたんだって気が付いてね」
その後は?
「黒い風が去って行ったあと、遠くから『美味しいとこもっていきやがって! リア充氏ね!』って声が聞えて来たくらいかな?」
兵士D
「自分は何が起きたのかさっぱりでした。目の前に迫って来ていたネズミの大群が轟音と共に粉々になってました」
粉々に?
「はい、あまりに酷ったらしくて隣の同僚は吐きそうになってました」
何か気が付いた事は?
「そうですね・・・あ、爆発の後遠くから『火薬の量間違えた』って声が聞えてきました。あれは火薬だったのでしょうか? あれほどの威力があるなんて魔法だと思っていたのですが」
冒険者N
「訳が分からん! いきなり後ろから頭を殴られたんだ!」
頭を?
「ちょっと怪我をしたから、な・・・ぱ、パーティの奴に治療をしてもらっていたら後ろから奇声と共に、そこまで痛くは無くて音だけだったけどさ」
奇声? 音?
「ああ、『イケメン氏ね!』って聞こえた後、頭の後ろで軽い衝撃と『パスン!』って言う軽い妙な音がしたんだ。イケメンって誰だよまったく・・・」
女獣人族の治療師
「びっくりしたよ、ナルシ・・・冒険者Nを治療してたらさぁ、目の前から黒い影が迫って来て白いナニカでナブリ・・・冒険者Nを叩いていったんだ」
大丈夫でしたか?
「私は叩かれてないしね。あ、でも叩かれたナル・・・冒険者Nが私の胸に顔を突っ込んできたときはちょっと発情しそうだ「ばっか!? お前何言ってんだよ!?」もう照れちゃって~♪「照れてない!」」
・・・他にはナニカありましたか?
「えっと、そういえばそのままナ・・・めんどくさいなぁ、Nの頭を胸と腕で抱えてたら後ろから妙な殺気と低い声が聞えた気がしたけど、私胸の中の事で頭いっぱいd「だから黙れー!」もう、ナルシーブったら妬いちゃってん♪」
・・・・・・・・・ご馳走様でした。
と言った様な報告がアルディスに対して、とある騎士によりされていた。
「以上だそうです・・・」
「そうか、僕達の事を影ながら助けてくれてたんだね。最後のは良く分からなかったけど」
「気にせずとも良いかと(・・・何となくわかるけどアルディス様にはなぁ)」
バルカスの報告の後、アルディスが部隊内でも彼らがかかわった事例が無いか調査させたようで、ジャンケン勝負の末勝ち残った一人の騎士がその報告に来たようである。
「そう? わかった。また何か聞いたら教えてね」
「はっ! 了解しました。それでは失礼します!」
「ふむ、少し調べさせただけでもこんなにですか・・・」
アルディスにとっては唯のお願いだったのだが、王子直々のお願いなどされれば騎士は励むものである。そんな背景があったとしても、30分ほどでこれだけの報告が出てきた辺り彼らがどれだけ戦場で駆け回って(あそんでいた)いたかが良く分かるのであった。
「バルカスは見てないの?」
「私はアルディス様の護衛ですから、あまりここを離れてもいませんし」
「メイは?」
「アルディス様・・・私ずっと御側に居ましたよ?」
「だよねー」
他には何か無いかとバルカスとメイに聞いてみるアルディスだったが、二人ともほぼアルディスのそばに控えている為、彼らに遭遇はしていないようである。それはアルディスも分かっていたようで、首を大きく傾げながら笑う。
「あ、でもメイドのお友達が躓いた時に誰かに支えてもらったけど、すぐに居なくなったって」
「それじゃ結構近くまで来てたのかな?」
メイの話にキョトンとした表情になった後、少し残念そうな顔をするアルディス。彼らの遊びも、助けられた側からすればとてもありがたいのが事実である。一部を除いてではあるが・・・。
その頃噂の三人はと言うと。
「酷い目にあったでござる・・・」
ヒゾウを追いかけながらも、ピンチっぽい女性を辻斬りならぬ辻救助していたゴエンモだったが、その度に嫉妬の炎を纏ったジライダの拳を喰らっていた様だ。
「あのメイドちゃんいい匂いしたなぁ~」
その後ろでは簀巻きにされてゴエンモに引きずられているヒゾウが、何かを思い出しながら鼻の下を伸ばしている。
「糞イケメンが! 我の目の前でいちゃこらした上に、獣耳巨乳少女の胸に顔を埋めるとか!【殺!】」
「「地味に呪詛になってそうだな(でござる)」」
そんな三人の先頭を歩くジライダからはダダ漏れの殺気と黒い瘴気が立ち上り、その口から出る言葉はそのまま呪詛となる勢いである。
「【ファーーック!】」
二人からのつっこみに、今日一番の恨み声を天高く叫ぶ美味しい所がまったくなかったジライダであった。
そんな呪詛がばら撒かれている頃、ここは日も沈んだ暴走ラット討伐隊陣営にある冒険者用テント区画。そこには少し前まで続いていた戦闘の疲れを癒す様々な冒険者達の姿があった。
「ひぃ!?」
「どうした坊主?」
そんな一角に彼、ナルシーブ・ナブリッシュの姿もあった。しかしその顔は青く隣にやってきたドワーフの男性に心配されていた。
「いや、妙な殺気が・・・な、なんでもない!」
「ふっふ、そうかそうか」
どうやらどこかの悪鬼から、断続的に飛んでくる殺気に怯え気が休まらないようである。しかしそんな弱みを見せまいとするナルシーブに、ドワーフの男性は慈愛に満ちた笑みを向けるのだった。
「はぁ・・・(妙なドワーフに万年発情獣人に他にも変なのばかりで何なんだこのパーティは)」
その暖かい視線に耐えられなくなったナルシーブは、自分のテント前に移動し座り込むと少し長いため息を吐き落ち着こうとする。その視線の端に焚火の周りに集まるパーティメンバーを入れながら。
「ダーリーン! 夜も更けて来たから一緒のテントで子作りしましょー!」
「ぶふぉ!? こっちくんな!?」
しかしそんな孤独な時間も束の間一人足りないなとナルシーブが思った瞬間、後方にある自分の個人用テントの入口が勢いよく開く。驚き振り返ったナルシーブの視界には、目のやりどころに困るシースルーのネグリジェを着た獣人族の少女が、とんでも発言をしながら飛び出して来ていた。
「だいぶ慣れてきたみたいじゃないか」
「根は良い子のようじゃからの」
そんな騒がしいテントから少し離れた焚火の前には、このパーティのリーダーである大柄な鬼人族の女性と、対照的に背が低いナルシーブを連れてきたドワーフの男性が火にあたって居た。
「じーさんの見る目もまだまだ枯れてないみたいだね?」
「じじぃ呼ばわりすんじゃねぇ」
跳びだしてきた少女にトラバサミの様にしがみ付かれ、力負けしているナルシーブの姿に、女性はニヤリと楽しそうに、男性は女性に苦情を言いつつやはり楽しそうに目元を緩めるのであった。
「ダァリーン! 子供は村を作れるくらいつくりましょうね!」
「どんだけ多産だよ!?」
その夜は、ナルシーブの驚きの詰まったツッコミと、楽しそうな冒険者たちの笑い声が夜の闇が深まる空を明るく彩るのであった。
ついでにどうでもいいことだが、ジライダ命名、巨乳獣耳娘こと、犬耳のシュツナイ族は非常に多産である。がんばればナルシーブと村を作ることも可能・・・かも知れない。
いかがでしたでしょうか?
最近色々と忙しく執筆時間が取れないのと、熱でたり首がいたくなったりとどうも進みが悪いです。
そんな状態ですがユウヒの冒険はちゃんと進めてますので次回も楽しみにしていてください。
それでは今回もこの辺で、また会いましょうさようならー




