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ワールズダスト  作者: Hekuto


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第六十八話 少女の園とユウヒ

 どうもお久しぶりのHekutoです。


 だいぶ遅くなってしまいましたが、修正作業完了したので投稿させていただきます。どうぞ楽しんで行って下さい。




『少女の園とユウヒ』



 時は過ぎ、ユウヒが学園都市に帰って来た翌日、早朝の冒険者ギルド学園都市支部にユウヒの姿があった。その姿は護衛依頼中の垢も落ちずいぶんスッキリした表情である。


「ちょっといいかな? 冒険者のユウヒって言うんだけど、指名依頼って入ってるかな?」


「え? 指名依頼ですか? えーっとランクもいいでしょうか?」

 そんなユウヒは、昨日のクラリッサとの約束を守るためと確認の為にギルドにやってきたようだ。しかしそこにユウヒの知っているギルド員は居らず、仕方なく近くのカウンターまでやって来ると、依頼の確認をする。だがユウヒの言葉を聞いたギルド員の女性は、目の前のユウヒに対してキョトンとした目を向けると訝しげに対応する。


 どうやらここでもユウヒは冒険者らしく、というより優秀な冒険者に見られなかったようだ。元々指名依頼を受けるのに特別な資格は必要ないのだが、その性質上大抵は高ランクの冒険者が受けるものである。その為女性は目の前の冒険者っぽく無いユウヒに依頼が入るとは思えなかったようである。


「む? ランクも必要な「あれ? ユウヒ君じゃない!」ん?」


「どうしたの? 依頼探し?」


「せ、先輩ちょっと!?」

 ランクを問われたユウヒがバッグの中から冒険者カードを取り出そうとすると、カウンターの向こうから突然声がかかる。その女性は小走りでやって来ると椅子に座っている、今まで対応していた女性の頭に覆いかぶさるようにしてユウヒに話し始めた。


「リッテだったか? ちょっと指名依頼の話があってな」


「指名? アリーネから?」

 それはアリーネと知り合い、精霊と知り合う切っ掛けとも言えるギルド員の女性、リッテであった。そんなリッテはどこかわざとらしく話を振り、その下では若いギルド員の女性が目下、覆いかぶさるリッテに抵抗を続けていた。


「いや騎士科の生徒だ」


「せんぱーい」


「あーはいはい泣かないの、知り合いだから私が案内するからね」


「むぅ・・・失礼します」

 リッテに返答しながらもその視線をその下の女性に向けるユウヒ、その視線の先にはすでに涙目の女性が力なくリッテに呼びかけていた。どうやら彼女はリッテの後輩の様で苦笑いのリッテにあやされると、納得のいってない顔をしたまましぶしぶと言った感じでその場を後にするのであった。


「ふむ、よかったのか? ずいぶん強引だったが」


「あら? わかっちゃったかーあはは」

 どうやらユウヒもリッテの様子に違和感を感じていたようで、背中に哀愁を漂わせて去って行く女性を心配そうに見つめながらリッテに問うと、リッテは頭の後ろを手で掻きながら苦笑いを浮かべる。


「まぁな、何か話でもあるのか?」


「ちょっとねー・・・ぶっちゃけランクアップ申請してくんないかなーって」


「らんくあっぷしんせい?」

 眉を寄せながら何かあるのかと聞くユウヒに、リッテはランクアップ申請をしてくれと頼む。しかしその提案を受けたユウヒは口をωと言った感じに歪めると眉を下げながら首を傾げるのだった。


「え? なにその初めて聞きましたみたいな反応!?」


「正確には忘れたの方がただしいかも?」


「・・・説明する?」


「名前で何となくわかるので実践しながらやり方を教えてほしい」

 なんとなく察したユウヒは良いとして、ランクアップ申請について説明しよう。といっても字を読んでそのまま冒険者ランクを上げる為の申請である。申請し簡単な手続きをしランクアップの条件が揃っていれば無事ランクアップとなる。


「しょうがないなー優しいお姉さんがしっかり教えてあ・げ・る」


「・・・・・・」


「ちょっと何その顔!?」

 妙なセリフにユウヒが表情を硬直させているが、さらに説明を続けよう。本来冒険者ギルドで受けられる依頼は、冒険者ランクによって制限が掛けられているわけだが、その辺は現場の判断でどうとでもなるのが現在のギルドの姿勢である。


 ぶっちゃっけそんな規定を守っていたら処理できない依頼が大量に溜まってしまうため、ランクによる規制が厳しいのは死亡率の高い初心者の時だけであり、ある程度落ち着いた対応のできる人間に対しては現場判断で多少のランク差関係なく依頼をしているのが現状なのだ。


「いや、前会った時と印象が」


「まぁあの時は初対面だったし、君が良い人だって話は方々からね」


「まぁいいけど」


「それじゃ冒険者カード出して♪」


「ほい」

 最初の印象と違う雰囲気に戸惑うユウヒに対して、リッテは笑顔で答える。どこか納得のいかないながらも、スル―することにしたユウヒは大人しくカードを渡すのであった。


「なるほど更新みたいなものか」


「そうね大体同じかな」


「時間かかるのか?」


「地方なら時間かかるけどここなら、はい出来た」


「早いな」

 カードを渡してしばらく、リッテはカウンターの中で何か作業をしながら簡単にランクアップ申請について説明をする。その説明にユウヒは以前最初の更新をした時の事を思い出し、時間がかかるのかと問うもその返事と共に更新が完了し、早いなと心の中の声を零す。


「そりゃ高い物使って・・・ユウヒ君? これは更新しなさすぎなんじゃない?」


「ん? 以前更新して一月も経ってないぞ?」


「そうなの? でもFから一気にDランクってあまりないのよ?」


「・・・Fランク以上の依頼ばかりを受けてたような気がするからなぁ」


「あー・・・実際に受けさせたから何も言えないわね」

 出来上がった冒険者カードを機械から取出したリッテは、その結果に機械の自慢も止め、ユウヒを見詰めると呆れにも似た言葉を放つ。どうやらランクの上がり方が異様に早い事にびっくりしたようだが、ユウヒの言葉に苦い顔をするリッテ。


 実は先ほど言った現場判断なのだが、その判断が間違っていた場合のペナルティーは冒険者側がランクなどを偽った場合を除いて、全てギルド側の責任になるのである。今回の急なランクアップの依頼も、後からユウヒのランクを知った彼女なりの苦肉の策であり、その心情はそのまま少し居心地の悪そうにしているリッテの表情に現われているとおりである。


「俺もあまり気にしてなかったからな」


「それにしても、調べたら未だにFランクだって知ってびっくりしちゃったわよ」


「調べた?」

 ユウヒはどこか危機感を感じない表情を浮かべるも、リッテの調べたと言う言葉に首を傾げる。どうやら何か調べられるようなことしたかと不安になっているようだ。


「あ、ちょっとねー君について調べてる人が多いみたいでその情報整理の為にね・・・悪く思わないでね? 一応規約内のレベルだし悪用はしてないから、ね?」


「う、別に気にはしないが、調べるね?」

 要らぬことを言ってしまったのか、しまったと言った表情を一瞬浮かべたリッテは顔の前で手をぱたぱたと振ると、何があったのか簡単に説明する。ユウヒはカウンターの向こうから上目使いで見詰めてくるリッテにピクリと反応しながらも、調べられていることが気になったのか顎に手を添える。


「うん、ユウヒ君って何かしたの? いろんな人が情報提供依頼して来てるみたいだよ?」


「特に悪事に手を染めた覚えは無いんだけどなー」

 どうやらユウヒの噂は着実に広まっている様である。リッテが聞いたユウヒの為人をあらわすような噂話から、眉唾な話まで結構な情報が噂や依頼と言う形でギルドに提供されている様だ。そんなことなど知らないユウヒは終始首を傾げるばかりであった。


「ふーんなんだろね? ところで今日は何か依頼受けに来たの?」


「・・・」


「・・・? ・・・! そうだった指名だった、ちょっと待っててね!」

 そんな話をしながら更新の完了したカードをユウヒに渡すリッテは、ユウヒがすでに言ったはずである今日の用事について質問する。そんなリッテに再度口元をωにしながら見つめるユウヒ、何とも言えない空気が二人の間に流れしばらく、キョトンとしていたリッテはすでに聞いていたことを思い出したようで、慌てて席を立つと奥へ消えていくのであった。


「・・・悪い人じゃないんだけどなぁ」


 慌ただしいリッテの姿に、ユウヒは何とも言えない微笑ましい気分になるのであった。





「ふむ、こっちか」


 冒険者ギルドでクラリッサからの依頼書をリッテさんから受け取った俺は、とても完結に書かれた依頼書を片手にとある場所にやってきていた。ついでに依頼書を持った手の反対の手には、ここまで来る間に買っって来た食材の入った手提げ袋が握られてたりする。


「・・・騎士科女子寮、本当に入っていいのだろうか」

 そう、ここはグノー学園女子寮区画内にある騎士科女子寮の正門である。その門にはこの世界の文字で大きく騎士科女子寮と書いてあり、さらにその脇には関係者以外立ち入り禁止と、男子禁制と書かれた看板が置いてある。


 一応手元にある依頼書には、俺が入る許可は得ているのでそのまま部屋まで来てくれ、と言った内容が完結に書かれているが・・・正直入るのに勇気が必要である。


「最悪アルから貰ったアレの出番か?」

 俺はウルの森から帰ってきて中身を整理したバッグを見詰めると、いつもバッグの一番安全そうな場所に入れてある、某王子様からの贈り物を思い出す。最悪の場合は、と考えるがこの状況でそんなものを使うのも何となく情けないと思い、本当に最悪の時だけ使うことにするのだった。


 ついでにパンパンに詰まっていた荷物は、現在宿の床に敷いた布の上に大量に広げられている。正直これだけよく入ったなと思える量だったが、どうもこのバッグ見た目と中の体積が違う気がするのだが・・・気のせいだろうか。





「へぇ結構でかいなぁ、これなら室内にキッチンとか付いてそうだな」

 そんなこんなで意を決するのに数分かかり、クラリッサの部屋があると思われる寮の前までやって来たのだが、外から見た感じ一部屋は小さな1LDKほど有りそうである。俺も一人暮らしを始めるならそのくらいの部屋を借りたいものだ、と場違いな事が頭を過った瞬間である。


「そこの者! そこで何をしている!」


「ん?」

 後ろから少女らしい高い声が大音量で響いたのだった。俺は少しびくりとしたものの、いつも通り不思議と平静な心のままで後ろを振り向いた。たぶん今の俺の表情はきょとんという言葉がぴったりな顔であろう。


「ここは関係者以外立ち入り禁止区域だぞ!」


「あーやっぱりそうなのか、一応依頼でな」

 振り向いた先には、まだまだ少女と言う言葉が似合う女の子がこちらを威嚇するように睨んでいた。しかしそんな風に睨まれても、褐色の肌に肩口まで伸ばしたボブカットだろうか、濃い紫色のヘアスタイルが可愛いく、微笑ましいと思う感情しか湧いてこない。


「・・・冒険者? 依頼と言うのは女子寮に侵入する事がか?」


「侵入って・・・部屋まで来てくれって事だからメモを頼りにここまで来たのだが」


「・・・それは本当ですか?」

 俺の依頼と言う言葉にしばし俺を見詰め、冒険者と当たりを付けた少女は訝しげに質問してくるのだが、侵入する依頼ってあるのかねぇ・・・。一応補足説明をしたのだがやはりその目は険しく、「私全力で怪しんでます!」と言う感情が伝わってくる。これは依頼書を見せた方がはやいだろうか。


「うん、ほら」


「え? あ、はい・・・! ・・・・・・先輩の名前に、先輩の字です」

 俺が差し出した依頼書と俺の顔を交互に見比べていた少女は、警戒しながら近づき依頼書を受け取ると、何か分かったのか食い入る様に依頼書を見詰めるとぽつりとつぶやいた。どうやらクラリッサの事を知っているようだ。


「クラリッサの後輩か?」


「はい、そうですか先輩の・・・解りましたそれでは案内しますので」


「え? いや、別にそんなことしてもらわなくても」


「女子寮内を勝手に歩かれるわけにもいきませんから」

 依頼書を返してくれる少女に質問をすると、コクリと頷き返事をすると何か納得したような、それでいて眉を寄せた悩むような顔をすると、案内してくれると言うのだ。初めて会った子にそこまでさせるのも悪いと思ったのだが、やはり女子寮内を勝手に歩かせるのが嫌だったのだろう、そんなセリフが返ってくる。


「あーなるほどね、それならすまないが頼むよ」


「はい、こちらです」

 この場は彼女に従った方が良いだろうと案内をお願いすると、先ほどよりも少し警戒の色が薄れた表情で案内してくれるのであった。




 それから案内される事しばらく、俺は案内してくれたこの少女にとても感謝していた。それは道が分かり難いとか遠いとかそう言う理由では無かった。


「ここです」


「うん、案内してもらって正解だったね」


「いつもはここまで無いのですが・・・やはり男性が入って来たからでしょうか?」

 それは俺に注がれる大量の視線の数である。肌に感じるだけでも結構な数だが【探知】の魔法に引っかかるものまで入れると恐ろしくなってくる。どうして隠れるようにしてそんな場所からこちらを監視しているのですか御嬢様方。そんな様子に案内してくれた少女が予想した内容になるほどと頷く。


「かもね、あとこれは案内してくれたお礼、良かったら食べてね」


「え? あの、こちらの都合で案内しただけですので」


「それでもこっちは感謝してるからさ」


「・・・そうですか、ありがとうございます。それでは失礼します」


「ありがとね~」

 俺は案内してくれたことと、ある意味ここまで無事来れたのはこの子の存在があったおかげと思い、お礼にと現在試作中の御礼セットをプレゼントすることにした。


 遠慮する少女の手を取り掌に載せたのは白い艶のある磁器製の瓶で、中には試作中の【試作2号驚かれないくらいの飴玉】が入っている。しかしこれは性なのだろうか、試作1号の何の変哲もない飴では面白く無かったので、試作2号は味や効果はだいぶ下げたものの見た目は花柄模様の金太郎飴にしたところ、見た目のランクがC+となってしまい町で見かけた物よりワンランク以上も上がってしまったのであった。


「さて、クラリッサは居るかな? クラリッサーユウヒだけど居るかー」

 まぁもう会う事も無いだろうから問題無いよねと、何の根拠もない開き直りをした後、俺はクラリッサの部屋と思われる扉をノックしたのであった。この時俺は何故か表札をみなかったのだが、何でだったのだろうか。





 そんなユウヒがクラリッサの部屋に招かれている頃、ユウヒを案内した褐色少女は自分の部屋へと廊下を歩いていた。


「・・・本当に冒険者でしょうか?」

 しかしその心の中は現在ユウヒの事が占めており、瞳は手の中に握られた少しひんやりとした綺麗な磁器製の瓶に奪われていた。


「ちょっと! こっちこっち!」


「へ? 何?」

 そんなどこかぼーっとした感じで少女が歩いていると、突然後ろで扉が開く音がし少女を呼ぶ友人の声が聞えた。


「さ、さっきの人と知り合いだったりするの!?」


「は? いや、クラリッサ先輩に用があるそうで案内しただけなんだけど」

 友人の手招きする方へ歩いて行った少女は、若干興奮気味の友人に両肩を掴まれ質問をされるも、その内容にきょとんとした表情を浮かべると首を傾げながら説明する。


「そっか~知り合いなら名前とか色々教えてもらおうと思ったのに」


「そういえば名前聞いてませんでしたね。ところで何でそんな事を?」

 友人の少女はその説明に一気に脱力する。そんな友人の姿に褐色少女はそういえばと、名前を聞いていなかったことに気が付くが、そんな事より今は目の前の友人が起こしたこの行動の方が疑問の様であった。


「聞いてない? ちょっと前に実技実習を手伝ってくれた凄腕冒険者の話」


「えっと、盾の使い手とか言う話?」


「そそ、それがあの人なんだよ! すごくかっこよかったんだから!」

 どうやらこの友人の少女は、ユウヒが立ち寄った騎士科の授業に参加していた一人の様である。褐色少女はその場に居なかったようだが、何があったかを知っている辺り、すでにユウヒの噂はだいぶ広がっている様である。


「へー、それは私も見てみたかったかも」


「惜しい事したよねぇ」


「あの日は別の単位取りしてたから」

 どうやら褐色少女もその話には興味があったようで、その表情からは好奇心の色が見て取れる。しかし噂は噂であり正しい内容が広まっているかは謎である。


「ところでそれ何?」


「これ? 案内したお礼にって貰ったんだけど」


「くそー私が案内したかった!」

 話が一通り終わり褐色少女の手に持っている物が気になった友人は、貰った経緯を聞くと本気で悔しそうに頭を抱える。


「・・・これって飴玉だ、綺麗な飴玉だけどこんな高そうな物貰ってよかったのかな?」


「・・・お金持ちなのかな、冒険者って儲かるのかな?」


「さぁ?」

 そんな友人に苦笑いを浮かべる褐色少女は、何気なく中身を確認する為蓋を開けたのだが、その中身を確認すると驚いた表情で固まり戸惑いだす。友人もまた瓶の中身と褐色少女の顔を見比べながら驚いている。ユウヒの【試作2号驚かれないくらいの飴玉】はまだまだ改良の余地があるようだ。


「・・・なんでそんな早足で帰ろうとしてるの?」


「・・・なんでそんな得物を狙うような目で私の手元を見てるの?」

 そんな花柄の飴玉を見詰めていた褐色少女は何かに気が付き、急いで瓶のふたを閉めるとその場を足早に立ち去ろうとする。背後から早足についてくる、物欲しそうな目の友人から逃げる様に・・・。


「「・・・」」


「あ! まってよ! 情報提供したんだからすこしだけ!」


「私も提供したんだからチャラだ!」


「そこをなんとかー!」

 早足は数秒の沈黙の後走るに変わり、騎士科女子寮の廊下を足音と高い声の言い合いで明るくするのであった。


 ちなみにこの後、友人をまいた褐色少女は無事自室に帰還し、白い磁器製の瓶を大切そうに机に置き、まかれた友人の少女は寮長に捕まり言い訳空しく罰を受ける事になるのだった。





 無事クラリッサの部屋に到着したユウヒです。外から何か追いかけっこをしてるような音が聞こえるが、流石学生寮しかも少女の園だけあって賑やかなのだろう。


「ふむ、学生寮だけあって賑やかだな」

 現在俺は、持ってきた荷物の中から買ってきた食材と自作の調味料などを取出している。酒の依頼の関連で試験的に作ってみた発酵調味料も入っているが、存外上手く作れていて合成魔法の汎用性に驚くばかりである。


「ユウヒ、中から出てきた・・・これはどうする?」


「んー、オルゼが良い物入ってることがあるって言ってたから後で鑑定してみようか」


「できるの?」

 呼ばれて振り向くと、すでにキノコの方は中の鉱石は取外されており、クラリッサが器用にお手玉をしながら鉱石はどうするのか聞いてくるので、後で鑑定して上げようと思う。しかしこの世界にもお手玉とかジャグリングってあるのか・・・。


「まぁね、下処理するからクラリッサは鍋でお湯沸かしててくれ」


「ん、わかった」

 返事を返しつつ料理を手伝うと言うクラリッサにお湯を任せると、俺は食材を持ってキッチンへと移動するのだった。





 ここは学園都市学園寮区画にある騎士科女子寮の一室、そこでは二人の男女がキッチンで楽しそうに料理をしている。その本来ならあり得ない光景を作っているのは、我らが主人公ユウヒと騎士科少女クラリッサである。


「うん、思った通りきくらげとほとんど変わらなさそうだ」

 流し台でキノコを洗っているユウヒはその手触りなどから鉱石茸の調理法を考えているようだ。そんなユウヒの目の前にあるキッチンはなかなか大きく、しかしその内容は異世界らしい物である。


「美味しくできればいいけど」

 そう言いながら石突の部分を洗うためコックを捻り蛇口から水を出すユウヒ、ここだけ見ると日本にもある近代的な水道設備の様だが実はこれ、古代文明の遺産から生まれた魔道具である。


 水を運ぶ水道管があるのは同じだが実はこの水道管が魔法具で、水を一方向に一定の圧力で運搬する性質がある。その為この水道には高低差を利用する必要が無く、またポンプなどを使う必要もない。ただ水源から配管を伸ばしコックと蛇口を付けるだけでいいのだ。


「期待してる!」


「プレッシャーかけんなよ」


「ぷ?」

 そんなことなど知らないユウヒは、なんの疑問も感じず後ろからかけられる微妙なプレッシャーのなか調理を進めるのだった。


 そんなこんなで魔法の水道や魔法のコンロなどを何の違和感も感じず使い、次々に料理を作ったユウヒの目の前には、まだクラリッサが用意した食材が多数残っている。


「しかしえらく食料準備したんだな、こんなに食べるのか?」


「・・・良く分からなかった、だから色々買ってきた」


「予想通りか、とりあえず日持ちしそうな物も作っておいたから」

 どうやらクラリッサは何も考えずとりあえず色々買い込んできた様で、ユウヒは予想が的中し肩を落としながらも、きっちり日持ちする物まで用意する辺り、その料理スキルの高さが窺い知れる。


「流石ユウヒ」

 ユウヒと食材と料理をキョロキョロと見ながら、次々に料理へと変貌する食材に感動しているのか、キラキラした瞳でユウヒを褒め称えるクラリッサ。


「・・・はぁ」


「クラリッサー戻りましたわー・・・美味しそうな香り?」

 そんなクラリッサの様子に呆れの混ざった暖かい視線を向けていたユウヒは、一つ溜息を零すのだった。その溜息と同時にどこかで聞いたことのある声が、ドアの開く音と共に室内に流れてくる。


「料理でもして・・・る・・・ユウヒ、さん?」


「おかえり」

 ここで少し説明すると、この部屋は入り口からキッチンのある部屋まで通路がありキッチンダイニングの奥が二部屋に分かれている構造になっている。


 当然入室してきた人物もその通路を通り、ユウヒ達の居るキッチンダイニングへと入ってくる。しかしその人物は入ってきて早々目の前に広がる状況に固まってしまい、その耳にはクラリッサの平坦なイントネーションのおかえりは聞こえていないようである。


「あれ? 久しぶりだね。今丁度料理が出来たところなんだけど、同室ってナディだったのか」


「・・・にゃ!? にゃんでユウヒさんが!? 料理!? まさか、クラリッサあなた!」

 その人物とは、クラリッサと共に商人の護衛をしていたヴァナディス・ナブリッシュである。ユウヒの姿にまるで彫像のように固まっていたヴァナディスは、みるみるその綺麗な顔を熟れたトマトの様に真っ赤に染め、慌てた様に呂律の回らない声でユウヒの名を呼ぶと、続いてクラリッサに同じく赤いが種類の違う怒りの感情が浮かぶ表情で叫ぶのであった。


「!?」


「とりあえず話をしようか?」

 怒りの表情で叫ばれたクラリッサは、叫ばれるだけの理由に思い当たる部分が有るのだろう。びくっと反応すると、ヴァナディスの視線から逃れる様にユウヒの背中に隠れ、怒りの視線の防御に使われたユウヒは苦笑いを零す。


「反省はしている・・・後悔はしていない」


「だまらっしゃい!」

 そんなユウヒの背中からそっと顔だけ出したクラリッサは、そんな事を若干震えながら言い出すが、怒りのヴァナディスシャウトが即座に返って来ると、またユウヒの背中に隠れるのであった。





 そんなこんなでまさかの遭遇戦? から十分ほど、ナディを落ち着かせることに成功したユウヒです。


「まさか今日部屋に呼んでいるのがユウヒさんだったなんて・・・」


「なんて聞いてたんだ?」

 クラリッサは未だ俺の背中から顔だけ出して、赤みの取れたナディの顔を窺っている。どうやらクラリッサがナディに与えた情報は少なかったようだが一体どう伝えたのやら。


「知り合いが訪ねてくるとだけ、あと私も知ってる人だからと」


「まちがってない、よ?」


「あんな風に言われたら同じ寮の子だと思うでしょうが!」


「なるほど」

 どうやらナディは少ない情報から想定した為の勘違いがあったようだが、どうもこのクラリッサの反応からは確信犯の匂いがする。表情は乏しいものの、その表情からはイタズラがばれた子供の雰囲気が感じられ、再度ナディの咆える様な怒りの声に頭を俺の背中に隠すクラリッサからは、楽しんでいる節すら感じられる。


「はぁ・・・」


「それはそれとして、どうしようか? 一応依頼の料理は完成したわけだが」


「みんな一緒に、食べる」

 そんなクラリッサの雰囲気をナディも感じ取ったのか、深いため息をついている。とりあえずこの場は話を流す為別の話をと思い、料理についてどうするかクラリッサに尋ねると即座にそう返答が返って来る。


「私も良いんですの?」


「最初から、そのつもり」


「し、しょうがないですわね! そ、それなら一緒にたべますわ」

 俺の背中からやっと出てきたクラリッサの言葉に、きょとんとした表情で首を傾げるナディ。その疑問に、当然と言った感じで返すクラリッサにナディは再度頬を別の赤みで染めると、吃りながら了承するのだった。


「まぁ男の料理だからうまいとは限らないけどな」


「・・・そういえばユウヒさんが作ったのでしたね・・・」

 そんなナディの姿にツンデレと言う言葉を脳裏に思い浮かべながら、俺は一応料理評価レベルをあらかじめ下げておくための言葉を呟いたのだが、その言葉にナディは妙な表情で固まる。


「いやか?」


「い、いえ! むしろゴホンゴホン!?」


「「ん?」」

 ナディは貴族の御嬢様らしいので粗野な男の作った物なんか食えねぇ! って言われるかとちょっと心配したが大丈夫そうである。しかし何を言おうとしたのか、咳き込むナディに俺とクラリッサは揃って首を捻るのであった。


「それより準備手伝いますわ!?」


「お、おう? とりあえず皿を出して盛り付けるか」


「手伝う」

 俺達の顔を見たナディは、顔をさらに赤くし慌てたような声で食器の入った戸棚を開ける。いったいあんなに顔を赤くして風邪だろうか? と思うほど鈍感ではないが、何か恥ずかしい事でもあったのだろうか・・・。とりあえず俺はその考えを脇に置き料理の盛り付けをする事にした。





 それからしばらく経ち自称鈍感じゃないユウヒと、二人の美少女と言っても過言では無い二人は食卓を囲んでいた。


「・・・」


「・・・」


「・・・どうした、そんなに凝視されても困るんだが」

 しかしその食卓は現在妙な静寂に包まれ、さらに二対の瞳がじっとユウヒを見詰めていた。


「ユウヒさんは料理人の経験でもおありでしょうか?」


「食べたことない、でも美味しい」


「いや? 料理の経験はあるけど、美味いならよかったよ」

 どうやら予想以上に美味しい料理の数々に女性としての何かと、純粋な驚きで声が出なかったようである。


「とても味が濃くてそれでいてさっぱりしてます」


「歯応えは良いけど味の無いキノコだったからな、調味料と出汁でしっかり味付けしてある」

 それもそのはず、この世界はお菓子だけでは無く料理、特に調味料に関してもその進化が遅れていたりする。この地方はスパイスになる植物もそんなに多く無く、地球の歴史よろしく軒並み高価なのだ。


 またユウヒが今回自作してきた発酵調味料などに関しても、発酵のメカニズムが解明されていないことや、一部の錬金術師の秘術に係る部分もあり、調味料として発展していないようだ。ついでにお酒に関しても国の手が入っている所がほとんどである。


 そんな背景など知らないユウヒは、その頭の中にある様々な日本の味を合成魔法で再現していたのだった。ここは、某出汁の元や旨み調味料に、果ては発酵の奇跡である醤油に味噌まで作ってしまう合成魔法の汎用性に驚くべきか、それともその力を使いこなすユウヒに驚くべきなのだろうか。


「歯応えとふわふわで幸せ」


「そっちは唯の卵焼きにキノコ混ぜてるだけだけどな、簡単だから良く作ってたよ」


「はぁ、あのキノコがこんなに美味しくなるなんて、思いもしませんでしたわ」

 しかし、そんな未知の調味料が使われているなど知らない二人は、ただただ美味しそうにキノコ料理を食べるのだった。


「おかわり」


「もうねぇよ」


「しょぼん」

 それから数十分でテーブルの上の料理は二人の、主に褐色肌のスレンダーな少女の胃袋の中に姿を隠した。テーブルを見回しまだ足りないと言わんばかりにお代わりを要求するも、呆れたような表情のユウヒの即答に口元をωのような形にし擬音を口に出すクラリッサ。 


「よく食べたな、結構量あったと思うんだけど」


「美味しい物はいくらでも食べれる」


「食い過ぎには気を付けろよ?」

 そんな少女の姿にユウヒが呆れ半分感心半分の感想を述べると、胸を張り自信に満ちた言葉を告げるクラリッサ。その姿にユウヒは苦笑いを浮かべ注意を促す。


「ん? 大丈夫、食べても太らない体質・・・だから?」


「・・・・・・本当にその体質が妬ましいですわ」


「・・・・・・(これは、触れたらダメな気配だな・・・)」

 しかしその部屋に満ちた暖かい空気も、クラリッサの口から出た一言により一部で黒い瘴気を出し始める。その発生源にはお腹の辺りを気にしながら食べていたヴァナディスが、心底恨めしそうな目でクラリッサを見詰めており、危険な空気を感じたユウヒはその方向を見る事が出来なかったとかなかったとか・・・。





 そんな場所からだいぶ離れた商店街の一角に謎の黒服集団、もとい3モブ達の姿があった。


「腹減ったでござる」

「我慢しろ節約だ・・・晩飯は少し豪華でもいいよね?」

「それじゃ意味ないだろ・・・今の内に旨そうな屋台でも探すか!」


 どうやら彼等、昨日の酒盛りでその懐の気温を急激に下げてしまったらしく、現在強制断食中の様である。しかし常に本能のままの彼らに節約と言うミッションが攻略できるのであろうか。


「「そこは金策じゃないの!? この状態で屋台散策とか生殺しすぎる!?」」


 今も尚、ヒゾウの先導の元失敗フラグの見える道を選び進んでいるのだから・・・。



 いかがでしたでしょうか?


 まったりユウヒの学園都市冒険です。今回は少女の園と羨ましい限りでしたが、次はどこに行くのか大変楽しみです。あと例の3人は一体どうなるのかも見ていてやって下さい。

 それでは、今回もこの辺でまた会いましょう。さようならー

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