第六十七話 学園都市にただいま
どうもHekutoです。
投稿速度どんどん遅くなる病にかかってますが無事六十七話出来ましたのでお送りします。楽しんでいただければ幸いです。
『学園都市にただいま』
ここは、ユウヒ達が暴走ラットに襲撃されてから二十時間ほど経過したウルの森学園都市間の街道、そこには数日前と変わらないむしろ以前よりも明るい声と空気で溢れていた。
「この調子なら明るいうちに帰れそうだな」
「ああ、まったくユウヒには感謝してもしきれんな」
どうやらユウヒの治療の甲斐もあり、帰りの行軍も問題なく出来ているようである。現在は1班から5班と班別に別れた状態で行軍しており、その護衛であるユウヒはオルゼと共に2班と3班の担当である。その理由は最も損害の多かった班に一番動ける人員をと言うものであった。
「色々あったけどこれも依頼のうちってとこかな」
「俺ならクレーム出すレベルだがな・・・報酬には色を付けて置くから安心しろ」
「そか、期待してるよ」
オルゼの感謝の言葉に何でもない様に答えるユウヒ、そのまったく気にしていないユウヒに苦笑いを浮かべるオルゼ、そんな二人はすでに友人同士の様な雰囲気である。
「おう! 最低でも3人分は付けるからな!」
「あーなるほど」
和やかな雰囲気に一瞬だけ怒気を感じたユウヒは、オルゼの告げた言葉の意味を理解すると今度はユウヒが苦笑いを浮かべるのであった。
「そういう事だ。こら! お前達前を見て歩かんか!」
『は、はい!?』
そんな二人の会話が気になるのか、将又自分たちを治療してくれた人物の事が気になるのか、2班の生徒はチラチラと後ろを窺いながら歩いている。そんな生徒に気が付いたオルゼは、ユウヒとの会話を止めると大声で注意をし、その大声を受けた魔法士科の生徒は大声にびっくりすると慌てて返事をし、列に戻るのであった。
「ふむ? 元気だな、若いっていいなぁ」
「いやいや、お前も若いだろ?」
何があったのか良く分からないユウヒは、その様子に不思議そうな声を漏らすとどこか爺臭い感想を述べる。しかしその感想にオルゼは何を言ってるんだとばかりに、首を捻りながらユウヒに声をかけるが・・・、
「もう20後半だよ? 爺とは言われないまでもそれな「はぁ!?」おお?」
「・・・俺はてっきり十代後半くらいかと思ってたぞ・・・」
不思議そうな顔をしたユウヒの発言に、ユウヒが喋り終わる前にその言葉を驚きの声で遮った。どうやらオルゼはユウヒの事を十代後半くらいだと思っていたようで、ユウヒを上から下まで凝視すると信じられないと言った声を漏らすのであった。
「んーそうか? (そういえば日本人って外国人に若く見られるんだっけ?)」
「ふむ、髭とか生やせばまだあれだが・・・いやしかし」
どうやら日本人特有の性質は世界の壁を越えた異世界でも、十分通用する性質だったようである。ついでに、未だに信じられないと言った感じ声と目をユウヒに向けるオルゼは、そろそろ三十後半に差し掛かる御年頃であり、昔からの付き合いであるマギーもま「ぁ?」ひぃ!? イエナンデモアリマセン。
世の中不思議な現象と触れてはいけない事実と言うものがあるのでした。
そんなオルゼと、聞き耳を立てていた生徒が困惑する場所からずっと後ろ、最後尾を元気に歩く5班の護衛は、
「はぁ・・・」
「ネリネどうした?」
何か不服な事でもあったのか溜め息を漏らすネリネと、その隣で不思議そうに首を傾げるクラリッサの二人であった。
「あ、いえ何でもないですよ?」
「溜め息多い、疲れた?」
何度も隣から聞こえてくる溜め息に首を傾げて声をかけるクラリッサ、その声に気付かづ漏れていた溜息を止め慌てて返事をするネリネ、そんなネリネの姿にクラリッサは心配そうに声をかける。
「いえ、大丈夫です。クラリッサこそ疲れてませんか?」
「大丈夫、体力は騎士の資本」
「ふふ、そうでしたね」
何かを隠すようにぎこちない笑みを顔に貼付け、何かを誤魔化すように相手の体調を心配をするネリネ。そんなネリネの言葉にクラリッサは胸を張って大丈夫と答え、その子供っぽい仕草からは微笑ましさが感じられ、ネリネもその雰囲気に飲まれたのかぎこちなかった表情を優しく微笑ませるのだった。
「・・・・・・!」
「あれ? どうしたんですかクラリッサ?」
「ちょっと、ユウヒに行ってくる」
しかしそんな胸を張っていたクラリッサは、何かに気が付き軽快な足音を上げ何かを拾ってくる。そしてその急な行動にキョトンとした表情を浮かべるネリネに、妙な一言告げると颯爽と隊列の前の方へと駆けだすのであった。
「へ? ちょ!? クラリッサー!? ずるいですよー!」
すでにクラリッサが駆け出し背中が小さくなる頃、ようやく事態を把握したネリネは若干本気でクラリッサに声をぶつける。どうやら彼女の溜め息の原因は乙女心と理性の葛藤が原因だったようである。
尚、ネリネを最後尾に推薦したのは悪戯っ子な笑みのマギーと、どこか底冷えするような笑みのカステルだったとかなかったとか・・・。
そんなネリネの叫ぶ少し前、4班の隊列の中に背中を丸めたイノシシ顔の男ニオウが居た。
「はぁ・・・」
「あの、ニオウさん元気出してください」
その隣には本来なら1班に居る筈の少年が二人、そのうちの一人は実習開始からずっとニオウの隣を歩いていた少年である。どうやら仲間に置いて行かれて若干落ち込んでいるニオウを元気付ける為に来ている様だ。
「そうですよ! きっともっといい仲間に出会えますって」
「やさしいニオウさんなら間違いないっすよ」
さらにその周りには、昨日の戦闘時工作部隊としてニオウと共に戦場を駆けまわった少年たちが同じくニオウを励ましている。ニオウ工作部隊の人員は1班から二名4班から二名の計5人であったのだ。
「・・・おまえら、優しい方がモデるのか?」
「そりゃまぁそうじゃないっすかね?」
「だいたい優しくて頼りになるほうがモテるんじゃないっすかね?」
ニオウは自分を励ましてくれる少年たちの声に思わずその厳つい顔の目元を潤ませる。しかしモテると言う言葉に反応したニオウは少年たちに質問を始める。そんなニオウの反応に、元気が出て来たと感じた少年たちは、キョトンとしながらも話の流れを明るい話題へと変えていく。
「そっが・・・他にはなにかないが?」
「そっすね紳士的とか? 清潔とか? ニオウさん髪ぼさぼさだから伸ばすなら縛った方がいんじゃないっすか?」
「いいなそれ! ウルフテイルみたいな感じか」
「・・・ニオウさんそうしましょ! そっちの方がワイルドでかっこいいです!」
その流れに、ニオウはゴツゴツとした手で自分の顎を掻くと少し表情を明るくしながら他にはないかと貧欲にモテる方法を聞きだす。少年たちはその質問に対して自分達も楽しくなってきたのか次々と案を出しはじめる。若干一名頬を染めながらどこか興奮した様に鼻息が荒くなっているのは気にしない方がいいのかもしれない。
「そ、そっが?」
『はい!』
妙に興奮気味の少年たちに少し戸惑いながらも内容自体には興味があるようで、その心情は少しにやけた口元に現れているニオウであった。
「そうしてみるがなぁ・・・? あれは、まさがおでに会うために走って!?」
「え!?」
「まじか!?」
「モテ期か!?」
そんな風に少年たちと話しながら歩くニオウ、そんな彼がふと後ろを振り向いた時その目に遠くから駆けてくる少女の姿を捉える。彼の様な人種がもつ特有の脳内フィルターは、その情景を瞬時に自動変換した。
その内容は、ニオウがこれ以上かっこよくなりモテモテになる前に告白しようと、少女が慌てて駆け出してきた・・・と言う内容である。よくもまぁ一瞬でそこまで妄想を膨らませる事が出来るものである。
「どぅふふぅ♪ さぁおでの胸に「邪魔」げぶ!?」
『ニオウさーん!?』
しかしそれも所詮妄想、その自らの妄想に正しく従い両腕を広げ出迎える体勢に入ったニオウ、その結果がこれである。
ユウヒに用があり駆けていたクラリッサ、彼女にとっては前方で両腕を広げるニオウは唯の邪魔な障害物である。道を塞ぐニオウを確認した彼女の行動は迅速であった、腰に差している騎士剣の柄を握るとそのまま加速しすれ違いざまに思いっきり前方に突きだし、その柄でニオウの鳩尾を正確に射抜いたのである。抜かなかったのは彼女なりの情けなのだろうか・・・。
そんな腹部を強打し、しかし何故かその表情は安らかなニオウが少年達に介抱されている頃、隊列の先頭にはネリネを最後尾へと推薦した二人が居た。
「ふむ、気が抜けているのか結構騒がしいな」
「あれだけの事を切り抜けた後ですからね」
後方から聞こえてくる様々な声に眉をひそめるマギー、その隣では後ろの様子に微笑むカステルが来るときよりも幾分リラックスした調子で話している。
「帰ったらその辺の注意も授業に組み込むか」
「教師も大変ですね」
「まぁな、それ以上に面白くもある。どうだいカステル君? うちは何時でも募集しているからね」
マギーは胸の前で腕を組むと少し疲れた顔で今後の授業内容について考え始める。その様子に苦笑いを浮かべるカステル、苦笑いを向けられたマギーは溜め息交じりに返事をすると、すぐに口元をにやり曲げいつもの彼女らしい表情で勧誘を始めるのだった。
「あはは、今は皆が居ますから」
「ふむ、仲間か・・・それに冒険者やっていた方がユウヒ君に会いやすいか」
「そそ、そんな事考えてません!」
そんなマギーの勧誘に笑いながらやんわりと断るカステルだったが、ユウヒの名前を出された瞬間慌てだす。その姿はマギーにからかわれるネリネに似ていたとは、後ろを歩く魔法士の少女達談である。
「無理する必要は無いぞ? 昨日の君は中々に恐ろしかったからね」
「そんなことありません普通です! 普通!」
「ふむ(あれが普通なら本気の彼女は想像を超えそうだね)」
いったい昨日何があったのか、マギーの言葉に普通と返すカステルだったが、マギーは何時もの表情の裏でカステルの本気がいったいどこまで行くのか・・・冷や汗を流すしかなかったのであった。
「もう、変な事言わないでください・・・」
「あのー」
「え?」
若干頬の赤いカステルは腕を胸の前できつめに組むと、心で冷や汗を流すマギーから顔を背ける。そんなカステルに怖い物知らずの魔法士科の少女が声をかけた。
「カステルさんってユウヒさんと付き合い長いんですか?」
「え!? 付き合いとかそんな、一緒に依頼を達成したくらいで・・・」
その少女はユウヒについての話が聞きたかったようで、直接ユウヒと話す勇気が無くカステルの居る先頭までやってきた3班の少女である。どうやらすでにこの隊列は各班ごとに並ぶと言う事が事実上出来ていないようだ。
「ああ、イノシシ狩りの話だね」
「イノシシ狩り? 冒険者ってそんな事もやるんですか? 何だか狩人みたいですね」
そんな隊列の状況などすでに気にしていないマギーは、なにやら面白い事になりそうだと少女達の話に入り出す。
「えっとあはは、狩人かぁ」
「狩人で狩れるイノシシに冒険者が出張るわけないだろう。相手はアサルトボアだ」
『えぇ!?』
この場での狩人は猟師のことで、町に獣肉を卸したりする人々の事である。しかしその狩人が狩るイノシシは動物のイノシシであり、魔物のカテゴリーには入るわけも無く、話を聞いていた生徒達は対象が魔物の中でも上のランクに入る相手だと解ると驚きの声を上げる。
「正直私達だけなら苦労したと思います」
「そんなにか・・・」
そんな生徒達の驚く姿に苦笑いを浮かべたカステルはそのままの表情であの時の事を語る。その話をある程度聞いていたマギーは、自分の想像していたよりも大変な相手だったことをカステルの表情から読み取るのだった。
「はい、あれはユニークだったようですから」
『ゆにーく?』
「突然変異の一種だな大抵は通常より強力な能力を持っているものだ」
マギーの声に返事をすると話を続けるカステル、その言葉の中に聞きなれない言葉があったようで、生徒達は声を揃える。そんなキョトンとした表情の生徒を見て説明を始めるマギー、その状況はちょっとした授業風景のようである。
「私の魔法もあまり・・・邪魔も居ましたし」
『ん?』
「あ、いえ何でもないんですよ?」
あの時の事を思い出すカステルは、自分の魔法もあまり効果的では無かったと反省しながらも、最後の方はボソボソと誰かに対する苦情をを漏らす。その呟きに、聞き取れなかったのだろうマギーも含めて、表情に影のあるカステル以外皆一様に不思議そうな顔をするのであった。
「カステルさんもっと話聞きたいです!」
「え? えーっと」
「まぁいいじゃないか先輩として後輩にためになる話をするくらい」
しかしそれも束の間、好奇心旺盛な生徒達は更なる話を求めているようで、そんな生徒達からの視線に困ったようなカステルはマギーに視線を向けるも、どうやら逃げ道は無いようである。
「ユウヒさんはどんな戦いをしたんですか?」
「昨日の戦闘は見れなかったので・・・」
「気が付いたら氷だらけだったよなぁ」
「あはは、ちょっとだけね? (ユウヒさんじゃ凄すぎてためになるかどうか・・・)」
生徒達の興味はやはりユウヒにあるのかそんな質問が飛んでくる。その質問に乾いた笑いを上げるカステルはその後、学園都市に帰るまで生徒達と楽しく過ごすのであった。
ちなみにユウヒの戦闘風景はカステルも詳しくは分からず生徒達と情報を交換しながら推察することになり、それが更なるユウヒの噂を増やすことになるなど、当のカステルもユウヒ本人も知る由は無いのだった。
そんな姦しい隊列の先頭から少し後方、そこには沈黙が流れていた。
「じー・・・」
「・・・」
「・・・」
妙な沈黙の中、荷馬車と歩く音に混じって擬音を口に出すクラリッサ、そしてその凝視する先には黒っぽい何かを手に持つユウヒと、その手元を面白そうに覗き込むユウヒより少し身長の高いオルゼ。さらにその周りにはユウヒ達の雰囲気に釣られたのか、興味深そうな視線を向ける同じく無言の生徒達。
「・・・だめなの?」
「んー、一応食べれるけど・・・」
「面白い物拾って来るな、騎士科も中々どうして見込みのある奴がいるじゃないか」
「んん?」
その雰囲気に耐え切れなくなったのかそれとも単純に我慢できなくなったのか、すこし悲しそうな目でユウヒに問うクラリッサ。どうやら最初の行軍時のリベンジだったようで、ユウヒの口から食べられると言う言葉が出た瞬間明るい表情を浮かべるも、オルゼの評価にキョトンとした顔になり小首を傾げる。
尚、周りの生徒達もクラリッサとまったく同じ動きをしていた為、ユウヒの脳裏に動く物を一緒に目で追いかける子猫の集団がよぎったりしたのは、ユウヒだけの秘密である。
【原石茸】
菌界
イワタケ科
内包種
鉱石や原石などを内部に取り込むように成長し、扁平な葉状地衣を球体状に密生させ、成長すると一つの球体となる。内包する鉱石の大きさは、大きくとも手のひらに乗る程度のもので全体でも数cmから十数cmほどだ。
ただの石ころや鉄鉱石などから、宝石の原石までどんなものでも取り込み成長する。ちなみに適度な歯応えはあるが味はほぼ無い
性質: 歯応え B、味 E、見た目 E
と、以上がユウヒの解析結果である。想像しやすい所なら木耳に似ているかもしれないが、その独特の形状や特性はやはり異世界ならではと言ったところだろうか。
「こいつは偶に宝石の原石が入ってるからな、運試しで拾った覚えがあるぜ」
「と、言うわけだ。料理するなら中の石をとってからだな」
「・・・料理・・・」
食べれると言う情報にオルゼが補足した様に、冒険者の中では一種の運試しの道具にされることもあり、過去このキノコの中から大粒の宝石を見つけたと言う逸話もあるらしい。しかしクラリッサにとってはそんな話より、ユウヒの口から出た言葉の方が大問題だったようで、あまり表情の無い顔に解りずらい驚愕の表情を張り付けるとぽつりと呟く。
「「どうした?」」
「料理出来ない・・・そうだ、ユウヒなら料理できる?」
「俺か? まぁ出来なくはないと思うが」
挙動不審なクラリッサに揃って声をかけるユウヒとオルゼ、そんな二人にどこかしょんぼりした雰囲気で話し出すクラリッサ、どうやら彼女は料理が出来ないようである。しかしすぐに表情を戻すとユウヒに料理が出来るか聞いてくる。
ちなみにヴァナディス曰く、クラリッサの料理スキルは絶望的であり、彼女に料理をさせる時は最悪を覚悟するべきである。と言ったとか言わなかったとか。
「これを食べるのか? 味全然ないから茹でても焼いてもたいして美味くないぞ?」
「まぁそこは味付けで何とかなるかなぁ」
二人のやり取りにオルゼは不思議そうな顔をする。それもそのはず、彼らにとってこのキノコは毒ではないが、食用でもないのである。しかしユウヒは頭の中で木耳を使った料理を思い浮かべると、出来ない事は無いと判断して返事をするのだった。
「わかった! 明日作ってくれる? だめ?」
「明日か? まぁ特に用事も無いけど」
「うん! 帰ったらギルドに指名依頼出しておく」
「お、おう」
クラリッサは、ユウヒの返事に普段からは想像できないテンションの高い声で、若干腰の引けているユウヒと約束をすると、そのまま楽しそうに元の場所に戻って行く。その道すがら目敏く原石茸を見つけ拾い集めながら。
「えらく気に入られてるじゃないか、何したんだ?」
「んー? わからん、一緒に商人の護衛をしたくらいだけど」
そんなクラリッサの様子に、肘でユウヒを突くオルゼは口元をにやりとさせながら関係を聞いてくる。しかしユウヒにとっても良く分からず以前出合った時の事を呟く。
「ふむ、女はわからんな」
「まぁ秋空に例えられるくらいだしな」
「何だそりゃ?」
「秋の天気と一緒で機嫌が変わりやすいって意味だったかな」
「あー確かに機嫌が良く変わるもんなぁ」
頭を傾げるユウヒの姿に顎を指で扱きながら一緒に首を捻るオルゼ。そんな鈍感と称される教師と、感は良いはずなのにそろそろ鈍感の称号を付けられそうな冒険者の二人は、不思議な女性の生態について語りながら学園都市への帰路を進んでいくのであった。
そんな姿に一部女生徒達が小さく溜め息を吐いていたが、二人は気づくことが無かったのであった。
それぞれ思い思いに話をしたり観察をしたりと、すでに行軍実習の様相を果たしていない行軍も、太陽がピークを過ぎた頃には学園都市へと到着したようである。
『ただいまーー!』
そして生徒達は大きな門を通ると同時に、一斉にただいまと大きな声で叫ぶ。
「元気だなー・・・」
「恒例行事みたいなものでな」
それはこの学園都市が出来た頃からの慣習の様な物で、曰く学園都市の仲間は皆家族であり、学園都市は皆の家なのだと。故に学園都市に帰って来た時はただいまと言うのだと。
「ふーん、何か良いなそう言うのも」
「今じゃ気恥ずかしくて出来ないがな」
と言ってもその行為は学生時代だけだと、オルゼは笑いながら語る。
そんな小粋な学園都市に住む者には、今でもその精神が残っているようで、ユウヒの見詰める先では、「ただいま」と言いながら門を潜る生徒達に、周りの商店の人間や偶々通りがかった者達が「おかえり」と声をかけるのであった。
「俺の依頼もこれで終わりだな」
「そうだな、今回の働きぶり大いに感謝する。それじゃ依頼書にサインをしよう」
「ああ頼む」
その様子を楽しそうに見つめていたユウヒは小さく息を吐き肩の力を抜くと、依頼の終了に声を漏らす。オルゼはそんなユウヒにいつも通りの男臭い笑みを向けるとサインを書くための道具を取出すのであった。
そんな男同士のやり取りが行われている所から離れた場所ではマギーやネリネなど女性陣が集まっていた。
「お前達! 燥ぐのもいいが帰るまでが実習だ! これ以上怪我を増やさず帰るんだぞ!」
『はぁーい!』
どうやら生徒達はこの場で解散するようで、そのどこか浮足立った生徒の様子に心配そうなマギーは声を上げ注意している。そんな教師の気持ちを知ってか知らずか、生徒達は楽しそうに返事をするのであった。
「・・・クラリッサ、それまた集めたの?」
「うん・・・!」
一方護衛の二人とネリネは荷馬車の上から荷物などを下ろしているようだが、クラリッサの荷物にカステルは呆れた様に声をかける。対照的にカステルに返事をするクラリッサは嬉しそうな空気を纏っていた。
「そうなんですよぉ道中ずっと探し回ってて」
「それどうするの?」
二人の会話に、抱えていた荷物を下ろしたネリネも、どこか呆れと可笑しさの混ざった表情で道中の事を話す。その話にカステルは首を傾げクラリッサの方を向くとキノコの処遇について問う。
「明日、食べる」
「食べるの?」「明日?」
しかし返って来た返事にさらに首を傾げる。どうやらカステルもそのキノコに関する知識はある様で、食べると言う珍しい発想に反応したようだ。それとは別にネリネは明日と言う部分に反応する。
「クラリッサ君も帰って大丈夫だぞー? 単位はしっかり色付けて入れといて上げるからな」
「わかった」
「あ、お疲れさまでしたクラリッサさん」
「うん」
そんなどこか噛み合わない不思議な空気の流れる三人の居る場所に、マギーが声をかけながら歩いてくる。どうやらクラリッサも『補習』は終了の様で、やはり短くマギーに返事をすると続いてネリネの労いの言葉に首をコクリと上下させ答え、キノコが半分以上の荷物を抱える。
「クラリッサそれ本当に食べるの? 味しないよ?」
「うん、大丈夫、ユウヒが美味しくしてくれるから。」
「「え!?」」
今にも鼻歌を歌いそうなクラリッサに、やはり不安なのかカステルが本当に食べるのかと心配そうに声をかけるが、それに対するクラリッサの返事は何倍もの驚きの内容を含んでいたようで、二人の女性に声を上げさせるのであった。
「バイバイ」
「ちょちょちょ!? まってそれどういう事クラリッサ!」
「詳しく! 詳しく話を!?」
そして話すことはもう無いと言わんばかりに手を振るクラリッサは、制止しようと慌てて声を上げる二人をスル―すると、家路へと駆けだすのであった。その軽快な動きからはとても疲れは見えない。
「・・・・・・何をやってるんだか」
「先生、ユウヒって人気者?」
「ん? まぁ人を引きつけるだけの十分すぎる実力は持っているからな」
話を詳しく聞いていないマギーはそんな三人の姿に呆れて言葉を零すと、何故か隣に居たロップに話しかけられる。その話の内容にマギーは腕を組み珍しく素直な感想を述べる。
「・・・敵は多い」
「・・・だね」
そのマギーの評価を聞いて、ロップと一緒に話を聞いていたサワーリャは難しい顔で呟き、その呟きにロップも同調する。
「・・・お前達は先ず立派に独り立ちしなさい。話はそれからだ」
「「はぁ~い」」
そんな二人の少女が胸に抱く感情に気が付いたマギーは、なんとも言えない表情で頭を掻くと、そのままの姿勢で今にも浮つきだしそうな少女達に先達として、教師として忠告の言葉を告げる。その忠告に二人の少女は楽しそうに返事をし、マギーの不安を煽るのであった。
「「クラリッサまってー!?」」
「~♪」
「まぁ後衛魔法士じゃ騎士の足に追いつけくことはむずかしいだろうな」
楽しそうな生徒の笑みから逃げる様に視線を前に向けたマギーの視界には、必死にクラリッサを追いかける二人が映っていたが、マギーの呟きが示す通り鼻歌を歌い走り去るクラリッサには到底追いつけそうにない魔法士の二人であった。
一方その頃、同学園都市内にある一軒の酒場にとある三人の姿があった。
「素晴らしき!」
「楽園に!」
「カンパーイ!」
そう、あの三人の忍者達である。どうやら無事到着できたようで、到着祝いにと酒を飲みにやってきたようだ。まぁそれだけであり、これ以上この場で彼らについて語る事は無さそうである。
『あれ!? 俺達これだけ!?』
うん、台本にも載ってないので諦めてください。
『馬鹿な!?』
いかがでしたでしょうか?
やりたいことや、やらないといけないことが増えるとどうしても執筆速度が落ちてしまいますね。
まぁそんな愚痴はぽいしてですね、どうでしたか?ユウヒ達のまったりパートは楽しんでいただけたでしょうか?
ちょっと不憫な方々もいましたが、常々楽しい空気だったと思います。え?あの三人?・・・きっといいことありますよ・・・。
それでは長々と話しましたのでこの辺で失礼します。またここでお会いできますように、さようならー




