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ワールズダスト  作者: Hekuto


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第六十六話 悶えるユウヒと豊穣

 どうもHekutoです。


 やっぱりマッタリな話のほうが楽しく書けるも、その速度が上がらないのは仕様でしょうか、まぁそんな訳で六十六話完成しましたのでお届けします。楽しんでいってください。



『悶えるユウヒと豊穣』



 食事の準備が整ったとネリネに呼ばれ、みんなと昼食を食べた後、ユウヒは一人例の木に登るとステルス結界を張り・・・悶えていた。


「あぁぁぁやってしまったよ、思い出しただけで恥ずかしくなってくるぅぅ。顔から火が出るー!」

 頭を抱えながら激しく動くも木の上から落ちないユウヒ、その顔は苦悶と羞恥の色に染まっていた。


「なんですか? ドヤ顔してませんでしたか? あーもー完治したと思ってたんだけどなぁ」


 どうやら賢者タイムは終了したのか、戦闘時の自分の言動などについて振り返り恥ずかしさで爆発しそうな様子である。


「はぁぁ・・・」


 しかしそれもしばらくすると治まりはじめ、最後は深いため息を吐くことで完全に治まった。これもまた、とある心得のおかげかそれとも人生経験で獲得したユウヒ自身の心得か。


 嘗てユウヒがクロモリを始めた頃、その時のユウヒは黒歴史真っ盛りな御年頃だった。ゲーム内では、様々な迷言を残すロールプレヤーの一人に数えられていた事もあるのだ。大人なら何となく覚えがあるのではないだろうか? ふと過去の自分を思い出して恥ずかしくなることが・・・。


「あの頃は懐かしいが完全に黒歴史だからなぁ・・・」


 今でこそ落ち着いてきているユウヒだが、昔は現実のストレスをゲーム内で発散していた為、ちょっと痛い人間になっていた時期もあったのだ。その頃からクロモリをプレイしている人間にとって、ユウヒは結構有名でいろいろな感情を籠めて『氷殺』と言う二つ名を贈られたほどである。


「うん、忘れようそうしよう。今回は妄想魔法の可能性に気が付いた事とかよかったなっていう記憶で塗りつぶそう」


 さらに独り言を呟き妙な汗を掻くユウヒは、ぶつぶつと自分の脳に言い聞かせるように呟き続ける。木の上でのユウヒには、まさに情緒不安定と言う言葉が似合うのであった。




 しばらくそんな事を続けていたユウヒは完全に落ち着きを取り戻したようで、今では木に幹に凭れかかり頭の後ろで腕を組み空を眺めている。


「はぁ・・・しかし、まさかこんなことになるとは」


「その件に関しては申し訳ないと思っております・・・」


「だれ!?」

 ぼーっと空を眺めながら今回の騒動について思い返し何気なく零した言葉、誰にかけた訳でもないその言葉に、女性の申し訳なさそうな声が返ってくる。完全に気を抜いていたユウヒは、慌ててその声の発生源に振り返る。


「驚かすつもりは無かったのですが。まさかこれほどの結界を張れるとは思いませんでしたので、お探しするのに時間がかかりました」


「おお!?」

 そこには美しい女性がふわりふわりと空中に浮いており、驚くユウヒとは対照的に落ち着いた調子でユウヒに語りかける。


「お初にお目にかかります。私、豊穣の女神ラフィールと申します。気軽にラフィールとお呼びください。そちらはアミール様が遣わしてくださいましたユウヒ様とお見受けしますが」

 そう、その女性とは豊穣の女神ラフィールである。しかしその言葉は神が人に向けるとは到底思えないほどの敬意が含まれていた。


「ラフィール? あなたがアミールの言ってた女神様か、話は聞いてるよ無茶したとか」


「これはお恥ずかしい話を・・・」

 ユウヒはラフィールと言う名前を聞いてアミールとの会話を思い出すと、すぐに落ち着いたのか木の枝に座り直し普通に話始める。そんなユウヒの言葉にラフィールは恥ずかしそうに頬を染めるとその色を隠すように手で覆うのであった。


 もしこの光景をこの世界の神官などの、神を強く信仰する者が見ようものなら卒倒する事請け合いである。何故ならそこには彼らが想定する神との謁見の場とはまったく異なり、普通のどこかまったりといった言葉が似合う空気しか流れていないのだから。


「・・・で、申し訳ないってどゆこと?」

 普通に恥ずかしがるラフィールの姿に、少し可愛いと思ってしまったユウヒは、その感情を悟られない様に先ほどの話で気になった部分について問い掛けた。


「はい、それは・・・」

 その問い掛けに、ラフィールは事の顛末の説明を始めるのだった。



「なんとまぁ、神様も何だか親しみが持てるな」


「すみません、彼女にはしっかりとちょうきょ・・・しつけをしておきますので」

 一通りの説明を受けユウヒが抱いた感情はそれだけであった。怒るわけでもなくどこか呆れたような、それでいて楽しそうな表情である。そんなユウヒの言葉にラフィールは少し困ったような表情を浮かべると、背後から黒いオーラを洩らす。


「今すごい事言ったよね!? ・・・ラフィールさんも結構人間味が御有りのようで」


「・・・猫被ってるのバレてしまいましたか?」


「まぁ何となく話難そうだったしね」

 ポロリと零れたラフィールの言葉をしっかりと聞き取ったユウヒは、思わずツッコミを入れてしまう。どうやらユウヒはラフィールの話す雰囲気に違和感を感じていたようで、そんなユウヒの言葉に小さく舌を出すラフィール。美人は何をやっても様になるので卑怯だとは、ユウヒ談である。


「オホン、緊張してしまったようですね」


「神様も人間相手に緊張するのか? まぁアミールも似た感じだったけど無理に敬語とかいらないよ? だの一般人とかわ・・・少ししか変わらないんだし?」

 完全に猫を被っていたことがばれてしまい、少し恥ずかしかったのかわざとらしい咳で誤魔化すラフィール、そんなラフィールの言葉にユウヒは言葉に若干詰まりながらも疑問顔で首を傾げる。


「・・・それじゃ遠慮なく、ごめんなさいね人間と直接話すなんて滅多になくて」


「まぁ、神様なんだしそんなもんじゃないのか?」


「下手に立場があるとね、他の子は結構あるらしいんだけど・・・」

 言葉を崩すと、それまでどこか微笑みの中にも張りつめた空気を纏っていたラフィールは、緩い雰囲気に包まれる。どうやら神々の世界にも立場によるジレンマと言うものがある様だ。


「そういえば体調は大丈夫なのか? 何だったら診るけど? アミールにも頼まれてるし」


「まあ! アミール様が・・・ありがとうございます。しかし人に診る事ができるか・・・」


「まぁ何とかなるだろ」

 不思議そうな顔だったユウヒだが、何かを思い出したようで表情を元に戻す。どうやらアミールに言われていた件を思い出したようで、ラフィールの体調について問い掛ける。その言葉に少し感動したようなラフィールだったが、すぐに表情を難しいものへと変えた。そんなラフィールにも、ユウヒはいつも通りの調子を取り戻したようで平常運転である。しかし・・・。


「分かりましたお願いします・・・。」


「おま!? ちょっとまった!? 脱ぐな! 脱がんで良い!?」

 次の瞬間、しゅるりとその山脈を包む薄い素材の服を肩口から肌蹴させるラフィール。慌ててその行動を止めたユウヒ、あと一歩遅ければユウヒの目の前には、その豊満な山から笠雲を取り払った美しい霊峰が姿を現すところであっただろう。


 気のせいだろうか、どこからともなくブーイングが聞えてくるような・・・。


「ほえ? しかし人間はそういう風に体調を診るのでは?」


「だ、大丈夫だ俺の右目は特殊だから・・・流石に焦った」


「確かに感じたことの無い力を感じますね。・・・・・・ちょっと残念、でも可愛い反応ね」

 焦るユウヒに不思議そうな顔で首を傾げるラフィールだったが、ユウヒの言葉を聞いて何かを確認するとボソボソと残念そうに呟く、どうやら一連の行動は計画的犯行の様である。ラフィールの少しだけ朱に染まった頬に免じてそう言う事にしておこう。


「ん? 何か言った?」


「いえいえ、それではよろしくお願いしますね」


「あいよ」

 そんなラフィールの反応も、右目の調整をするユウヒには良く分から無かった様で、首を傾げるユウヒなのであった。そしてユウヒの診察が始まる。





ラフィール ♀ 種族:神族 属性:豊穣 年齢:※※※※ 母性:※※※※


状態:危険度4 早急な治療が必要 

症状:体力低下 魔力欠乏症 魔力汚染 霊体損傷 回復能力低下 微熱 



 母性ってなんだ・・・。


「・・・良くこんな状態で涼しい顔してられるな、辛いだろうに」


「ふふ、淑女は何時でも微笑みを崩してはいけないものですわ」

 妙な項目は置いといて、これはかなり酷い状態なのではないだろうか。人間と神を比べてもしょうがないのだろうが、それでもこの半分ほどの状態で魔法士科の子達は行動不能になるのである。それを我慢しながら微笑みを絶やさない姿勢は、淑女凄いの一言である。


「そう言うもんか・・・まぁとりあえず魔力と体力の回復からか、人間用でいいのかね?」


「試したこと無いから分からないけど大丈夫じゃないかしら?」


「ふむー神様なら多少効果が高くても大丈夫か? 全体的に人のキャパシティよりは上だろうし」

 根性理論だろうがやはり辛いのは変わりないようだ、そんなわけで俺はラフィールに質問しながらバッグの中から使えそうな物をピックアップしていく。


「まぁそうでしょけど? どんな症状なのかしら、教えてくださる?」


「そだな、体力低下に魔力欠乏症、魔力汚染と霊体損傷に回復力低下と微熱だな」


「・・・・・・どおりで辛いはずですね。しかしそれだけ酷いと数年じゃ直らないかしら」

 ラフィールは自分の症状が気になる様で、荷物を漁る俺の手元を覗き込みながら聞いてくる。ラフィールの問い掛けに荷物を取り出す手を止めず説明すると、顔は見ていなかったが明らかにその声からは驚愕と暗い雰囲気が伝わってきた。


 しかし詳しく調べるに相当ひどい状態のはずなのだが、それでも時間があれば治ると言っているあたり、流石神なのかそれとも流石異世界なのだろうか。


「まぁ、幾つか異常に効果の高い薬があるから試してみて駄目ならまた作るさ」


「作る?」

 またも実験みたいだが、毒と言うわけでもないだろうし何とかなるかと考え、俺はあの魔法士科の少女達にも飲ませた魔力浸透茶をマグカップに注ぎラフィールに渡す。彼女達も症状が改善している訳だし少しは効くだろう、違うと言えば人と神と言う違い位なのでとりあえず処方量を変えて渡す。


「まぁとりあえずこれ飲んでみてよ・・・ちょっと苦いけど」


「・・・とっても緑色なんだけども、大丈夫なのかしら?」

 ラフィールは手渡された木製のマグカップの中身を見詰めている。今回はしっかりその顔を見ているので解る。その美しい顔から微笑みが消え去り青い顔で引き攣っている事が、量にして魔法士科の子の十倍以上。そして色はまさに青汁、嫌がるのも分かりはするがここはラフィールの為、心を鬼にして飲んでもらう事にした。


「良薬口に苦しだがんばれ」


「・・・うん、がんばってみるわ」


「・・・・・・」

 そして俺の見守る中、手に持ったマグカップを一気に傾け飲み干すラフィールは、


<・・・ごくり>


「・・・・・・・・・・・・にがぁいぃぃ」


「いやそんな涙目、いや泣かんでも・・・」


 泣いた。


 飲み干す音がやけに良く聞こえ、そのまま訪れる長い静寂。しばらく飲み干した体勢のまま硬直していたラフィールはスッとマグカップを持っていた手を降ろすと、絞り出すような声と共に目を潤ませ、そのまま涙のダムを決壊させた。正直泣くとは思わなかった。


「わたしむかしからにがいのだめなのぉ」


「そりゃ悪かったな、そいじゃこっちで口直ししてくれ」

 逃げる事の敵わない苦味から逃げる様に口を動かし喋っているのだろう。その声はどこか幼さを感じるイントネーションであった。


 べ、別に平静を装ってなどいませんよ? 別にドキッとなんてしていないよ!? ギャップ萌えとか思ってないし頭を撫でたくなどゲフンゲフン。すこし心を乱してしまったようだ・・・こんな時こそしっかり働け【狩人の心得】。


「まぁ! 飴玉ねおいしそう!」


「味は保障するよ、一番の出来だしねって・・・その体勢は」


「アーン・・・ふぅ~ん~♪」


「なんだろう・・・最初の印象より凄く若返ったな」

 なんだろう、とても心が癒されるんだ。これが豊穣という者の力か・・・。


 苦味に苦しむラフィールに、俺は蜂蜜で作った体力回復効果の高い飴玉を一つ取出しラフィールに渡そうとしたのだが、何を考えたのかラフィールは手で受け取らず目を閉じ、そのまま口で受け取ったのである。先ほどから俺の中でラフィールに対する第一印象がガラガラと音を立てて崩れていっているのだが、これが素なのだろうか。


「んふ~?」


「はぁ・・・効き目はどうだ? 人の世で使うには勇気の必要な効能だったんだが」

 当人はあまり気にしていないのか美味しそうに飴を口の中で転がし首を傾げている。とりあえずこの感情は脇に置いておくことにして効果を聞いてみる。処方した二つ共非常に高い性能である。その為人に使うと考えると悩むのだが、しかしそこは神である。きっと普通に処方しても問題無いと思うがこの効果まで大したこと無いとなると困ったものである。


「人体実験!?」


「この場合は神体実験では?」


「なるほど確かにそのとおりね・・・じゃなくて!?」


「ふむ、大丈夫みたいだな」

 どうやら大丈夫の様だ、俺の質問内容に口を押えながら慌てるラフィール。強ち間違っているわけでは無いので、俺は肯定の意味も込めて返答すると、一瞬納得した様にその豊満な胸の前で両手の指同士を合わせるが、またすぐに驚愕の表情に戻る。なかなか忙しい女神様である。


「・・・確かに、神の身にこれほど効果があるのなら人の身には注意が必要でしょうね」


「ふむふむ、やっぱりA+は危険っと」

 しばらくして効果が表れ始めたようで、ラフィール戦々恐々と言った感じの声色で自分の体をあちこち触って効果を確認している。やはり神族が驚くほどの効果を出すA+と言うランクは、人に対して無暗に使わない方がよさそうである。俺はそんな実験結果・・・事例を心のメモ帳に刻むのだった。


「・・・やっぱり実験でしたのね」


「いやまぁ・・・似たような効果の物をアミールにも贈った事あるから大丈夫かなと」

 俺の呟きに気が付いたラフィールは若干じっとりとした目を俺に向ける。確かに実験に近かったが確証が無かったわけでは無い、何せアミールに贈った茶葉の中にも同じランクの物があったのだ。神違いであっても大丈夫ではないかと予想することは容易いと思う・・・たぶん。


「アミール様に?」


「そ、お茶とか送ってみたんだが物が良すぎると驚かれたよ・・・飲んでいくか?」


「あの、私は大変ご迷惑お掛けしているのですが・・・気になさらないのですか?」

 俺の言葉に首を傾げるラフィール、何となく気になったがアミールの方が上司に当るのか様付けである。そんな事はまぁどうでもいい、折角お茶と言う話題も出たので飲んでいかないかと誘ったのだが、何故か急に恐縮するとチラチラと上目づかいでこちらを窺うラフィール。


「ふむぅ・・・別に悪意があってやったわけじゃないんだろ?」


「それは、そうですが・・・」


「なら良いじゃないか特に今回は被害も少なかったしな・・・・・・」

 神様がいっぱい居る日本の住民として神の話はよく聞くが結構わがままな神が多い、そんな中で今日の出来事は可愛い方ではないだろうか、それに今回は被害も少なかったし俺的には問題無い。若干俺の歴史に余計な項目が増えた気がするけど・・・。


「その割にはお顔が優れませんが」


「う・・・まぁなんだ、昔の事を思いだして精神的に疲れてるだけだよ」


「・・・そうですか」

 そんな俺の一瞬の思考を読み取ったのか、ラフィールは心配そうな表情で問いかけてくる。その表情に俺は先ほどまでの醜態を思い出し吃るも必死に誤魔化したのだが、ラフィールの表情からは腑に落ちないといった感情が読み取れるのだった。


「まぁどちらも癒す必要のある者同士、ゆっくりしようじゃないか」


「ふふふ、私の様な者で良ければ」

 そのままの勢いで俺が茶葉を取出しお茶の準備を進めると、観念してくれたのかそれとも空気を読んでくれたのか、ラフィールは最初の様な微笑みを浮かべ木に座り直す。


「いやいや、こんな美女とお茶出来るなんて嬉しい限りさ」


「あら嬉しい♪ でもそんな事言ったらアミール様に怒られますわよ?」


「ん? なんでそこでアミール?」

 正直美人とお茶を出来るのは嬉しい、是非ともこの嬉しい気分で嫌な気分を上塗りしたい。なので正直な感想を述べたのだが、なぜここでアミールが出てくるのであろうか? あれかな新しくできたお茶を先に飲んじゃうからとか、いやしかしアミールはそんな事で怒らないと思うんだが・・・。


「うふふふ、秘密ですわ(アミール様・・・前途は多難ですわよ)」


「ふむ?」

 良く分からないがラフィールは楽しそうなので気にしない事にしておく、こう言う時は下手に藪を突いては危険なのだ。


 俺は今までの人生で学んだ経験を活かし危険なフラグを回避すると、今はお茶でリラックスする事だけを考え取り出した茶葉と器、それから妄想魔法を操り樹上で器用にお茶を入れるのであった。





 ユウヒがフラグの影を緊急回避している頃、遅めの昼食を終えたキャンプ地では皆思い思いに休息を過ごしていた。


「カステル君ちょっといいかな」


「はい? 何かありましたか?」

 その一角には休憩しているカステルの姿があり、丁度マギーが話しかけてきた様である。


「ユウヒ君を知らないかい?」


「ユウヒさんですか? お昼食べた後監視ついでに休憩してると言ってどこか行きましたけど」

 どうやらユウヒに用があったのか、マギーは同じ5班担当だったカステルを訪ねたようだ。しかしユウヒは今樹上でお茶をしている為ここには居ない。ところで、この二人ともう一人がユウヒの現状を知ったらどんな顔をするのだろうか・・・。


「あれだけの戦闘をやって元気なものだね」


「そうですね、魔力枯渇起しておかしくないくらいの魔法だったのに」

 カステルの説明を聞いてマギーは思わず苦笑いを浮かべると呆れたように呟き、その言葉にカステルも苦笑しながら同意する。


「あんな高火力の魔法を連発できるとはね、驚かされるばかりだよ・・・その上あの治療だ」


「治療ですか?」


「うん、ユウヒ君に診てもらった魔法士科の子がだいぶ良くなってね。礼を言おうと思って探してるのだが」

 つい先ほどまで行われた戦闘を思い出させる、凍りついた大地を見詰めながら話すマギー。その視線に釣られる様に壊された氷柱が転がる風景を見ていたカステルだが、治療については知ら無かった様で不思議そうな表情でマギーの説明を聞く。


「何人か倒れたと聞いてましたが・・・」


「うん、重度の魔力欠乏症を起していてね、最悪の事も考えたのだが」


「・・・ユウヒさんが治したんですか?」

 マギーの説明に辛そうな顔をするカステル。それだけ魔法士にとって重度の魔力欠乏症と言うのが、重大な症状である事はその表情が物語っていた。しかしそれも束の間、キョトンとした表情で顔を上げるとマギーに聞き返す。


「ああ、彼女達が言うにはユウヒ君が処方した薬を飲んでから楽になった、と言っていてね」


「ユウヒさんの底が見えません」


「同感だ」

 カステルの質問にマギーは腕を組んで生徒に聞いた話をすると、その内容にカステルは両頬に両手を当てると難しい表情で俯く。そんな彼女の姿にこちらは頭を抱える様に頭に手を当てると、どこか疲れた表情を浮かべるマギーであった。


「怪我の方も薬で治してくれたらしいですよ?」


「おや? 君はラッセル君だったね、それはどんな話かな?」

 しかしそんな二人の空気など読んでいない犬耳少年ラッセルが更なる情報を提供する。どうやら焚火用の枝を拾ってきたようで、その両手にいっぱいの枝を地面に置きながらマギーの質問する声に耳を動かし聞いている。


 ついでにこの時集めていた焚火用の枝や薪は、ユウヒの魔法の影響で気温が下がり焚火の需要が増えた為、ラッセルが気を利かせて個人的に集めた物のようだ。


「えっと、すっごく沁みる薬を塗られたらすぐに痛みがひいたとか、顔の切り傷も直ぐに塞がったとか」


「・・・それが本当だとするとその薬って」


「魔法薬だろうね、そんな高価な物惜しみなく使ってくれるとはね」

 首を傾げながらマギーの質問に又聞きの内容を思い出しながら答えるラッセル、そしてその内容に予測を立て見つめ合うカステルとマギー。


 ここで説明しておくと一般にこの世界で薬と呼ばれる物も、現代日本で薬と言われる物も、その薬の品質や効果などを除いて使われ方は変わらず劇的に症状が改善される物では無い。


 それに対して魔法薬と呼ばれる物は飲んだ瞬間から目に見える効果が表れる物がほとんどで、代表例として振りかければすぐに傷口が回復し始めるポーション類などの液薬や、特定の物質を強制的に体外に排出する解毒薬類と呼ばれる物などである。その製法には必ず魔力を使い大半は秘伝とされている為、生産量も多くなくどれもこれも高価なものなのだ。


「マギー先生」


「む、ネリネ君休んでなくて大丈夫なのかい?」

 底の知れないユウヒと言う人物に頭を悩ませる二人の下に、マギーを探してネリネがやってきたようである。


「はい、ユウヒさんから貰った飴を舐めたらだいぶ良くなりましたので、結界修復の方も一段落です」


「・・・飴でかい?」

 マギーの名前を呼びながら歩いてくるネリネは、肌の血色も良くなり、先ほどまで一人で歩くことも辛そうな状態が、嘘のように元気なものになっている。その元気になった理由を楽しそうに話すネリネに、マギーは疑問を覚えたのか首を傾げる。


「はい、なんでも魔力を回復する飴だとかで、魔法士科の子にもって貰ったんですよ」


「魔法薬・・・いやこの場合魔法菓子か? 彼は本当に賢者か何かかね」


「あはは、私はもう気にしない様にしてますが・・・無理ですね」

 マギーの疑問に答える様に飴の入った袋を取出し楽しそうに答えるネリネ、その話に引き攣った笑みを浮かべるマギーと渇いた笑いを零すカステル。


 魔法薬の中でも体内魔力を直接補充、回復する薬は数も少なく高価な物しかない。また『優れた料理には魔力を回復する力がある』と言う学説が一部で研究されているが、未だ明確な結論は出ていない。そこでユウヒの飴である・・・彼女達のこの反応も仕方ないのだろう。

 

「でもとてもやさしい人だと思いますよ?」


「ほう・・・」


「む・・・」

 しかしここで、それまでの感情を消し去るに十分な威力をもった一言を洩らしてしまうネリネ、その自然と出た一言に二人の女性は表情を一変させる。マギーはその口元を面白そうに吊り上げ、カステルは一瞬目を見開いた後鋭く目を細める。


「あら?」


「ちょっと色々詳しく聞こうじゃないかネリネ君?」


「そうですね、私も久しぶりに先輩とオハナシしたいな♪」

 急に変わった空気に首を傾げるネリネ、しかし時すでに遅く。心底楽しそうな笑みのマギーはネリネの左腕を自分の左腕でガッチリと掴み、反対の右腕は張り付けたような笑みのカステルがガッチリとホールドする。当然その目元は先ほどのままであるが・・・。


「あ、あれ? あれぇぇぇ!?」

 妙な展開に頭が追いつかず慌てるネリネに、ステキなエガオを向ける二人。その後方では野生の感で危険を察知したのか、毛を逆立てたラッセルがその場から一目散に逃走する姿があったとか。


「「ふふふふふ」」


「にゅぁぁぁぁ!?」

 哀れネリネは静かに荒ぶる二人によって、ずるずるとどこかに引き摺られていくのであった。その後彼女の姿を見た者は・・・。





 いやそれバッドエンドのテロップだから・・・あれ? 何か妙な電波を受信したような・・・。


「うん?」


「どうしました?」

 今俺はラフィールと言う結構偉いらしい女神様と、新作のお茶を飲んでまったりしていたのだが、気を抜いていたせいか妙な電波にオートで反応してしまったようだ。そんな俺にキョトンとした表情で首を傾げ聞いてくるラフィール、この人を見ているとどこかアミールと似ている気がする。この金髪美人な所とか、そこにギャップのある可愛い仕草とか、本当に卑怯極まりない。


「いや、誰かの悲痛な叫び声が・・・後でまた救護所覗いてみるかな」


「やさしいのですね」

 不思議そうに見つめてくるラフィールに返事をしながら、遠くに見える救護所の方を見た俺は、もしかしたらまた怪我人でも出たか、病状が悪化した生徒がいると言う報せかもしれないと思い、この後の行動を口に出しながら決める。そんな俺にラフィールは微笑みながら、やさしいと言う。


「いや、ただの自己満足さ・・・」


「ふふふ」

 似てると思ったが、その微笑みはアミールのものとは違い母親の様であった。その微笑みに家の母親を思い出した俺は、理想と現実の狭間に思わず苦笑いを零し、ぎこちなくうそぶくのであった。



 いかがでしたでしょうか?


 楽しく書ける=執筆速度が速いではなく、妄想が広がりすぎて遅くなるが正解な今日この頃、ユウヒは平常運転を取り戻せそうです。


 しばらくはまったり話を書きたいですが先はどうなるか、楽しみです。是非また読みに来てください。では今回はこの辺でまたここでお会いしましょう。さようならー

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