第六十四話 封印開放
どうもいつものスピードでHekutoです。
苦手な戦闘描写が続いてますが頑張ります。それでは六十四話お楽しみください。
『封印開放』
普段は静かな、それでいて生命の息吹を感じるウルの森。
しかし今はその姿を、騒がしい鳴き声と立ちこめる粉塵でまったく違う姿へと変えていた。
「ファイ・ア・サーペント!」
そんな中、次々に侵入してくるネズミに対し、サワーリャとロップは魔法で迎撃を続けていた。
「流入量増えすぎだよ!?」
「おい下がるぞみんな!」
しかし、如何に強力な種族性魔法とはいえ、たった二人の弾幕では圧倒的な物量に対して侵攻遅延効果が関の山である。何故なら前衛を担っていた冒険者科の二人はすでにロップ達より後ろに下がり、更なる後退を開始していたのだから。
「りょっておい! 言いながらあんたらもう下がってんじゃないか!」
「不味いよ! 結界がこわれちゃ!? ・・・た」
後ろからかかった声に、了解の意を伝えようと振り返ったサワーリャの目には、すでに結構離れた位置を直走る二人の背中が映り、思わず叫んでしまう。すでにこの時点で彼女達に隊列を維持して後退するだけの心の余裕は無かったようである。
そんなサワーリャの叫びに続くように、結界に目を向けていたロップが叫び声を上げるも、その声は結界の消失により尻すぼみになる。
「くっ! 急ぐよロップ」
「うん!」
結界の消失は即ち更なる物量が押し寄せてくると言う事、その事実に顔を歪めたサワーリャは、ロップの手を取り防衛用の土嚢壁を放棄し第2結界へと走り出すのであった。
サワーリャの駆ける方向には、即席の柵と土壁から侵攻遅延と後退支援をする生徒達が居た。
「レムリィさん! ロップさん達が!」
「え? わわ!? 不味いよ援護しないと」
その中には後衛魔法士のルニスとレムリィの姿もあった。支援魔法を使った直後、ルニスが目にしたものは、同じ班のロップとサワーリャが必死に後退する姿と、その後ろを追いかける大量のネズミだった。
二人を確認できた理由は、すでに第1結界が焼失した為に、逃げ遅れへの後退支援を優先したおかげであろう。ルニスはレムリィに叫ぶ様に知らせると魔法を使うため集中を開始する。
「行きます! 風よ仲間を守る壁となれウィン・ド・ウォール!」
「ファイ・ア・ボール!」
ルニスは気合を入れると風の魔法を唱えた。するとサワーリャ達の後方で局地的に風が吹き荒れ、体重の軽いウォルラットを吹き飛ばし足止めする。さらにレムリィの放った火球が漏れたネズミを地面ごと燃やした。
「うぅくらくらします・・・」
「ロップー! サワーリャー! 急いでー!! ああ!?」
しかしルニスは慌ててクールタイムをとらずに連続で魔法を使った為、急性の軽い魔力欠乏で眩暈を起し座り込み、その隣ではレムリィが土壁から身を乗り出し必死に叫ぶ。
「ギギー! ギギュ!?」
必死に後退するサワーリャとロップの後ろで、急激に気圧が変動し風が巻き起こり、さらに放物線を描き飛んできた火球によりネズミの叫ぶような鳴き声が聞こえる。
「援護か、たすあ!?」
「サーリャ!?」
その時、魔法による援護を確認し気が反れたのか、サワーリャは足をもつらせ転倒してしまい、それを見たロップが慌てて駆け寄る。元々体力が高いわけでは無い魔法士にとってこの状況は厳しい様である。
「いたた、大丈夫だよ」
「危ない!」
「ギギギー!」
「うぐぅ!」
心配そうなロップに強がるサワーリャ。しかし次の瞬間、何かに気が付いたロップは声を上げると跳びかかり、サワーリャの目の前で何かとぶつかる音と共に、方向を変えると地面に打ち付けられる。
「ロップ! クソネズミが!! ファイ・ア・サーペント! ロップ!」
ロップがネズミの体当たりから、自分を庇うために盾になった事実は、彼女の思考を怒りに染めるには十分で、即座に目の前の敵に感情任せの魔法を放つと、ロップに駆け寄る。
「えへへ、失敗しちゃったね」
「大丈夫かロップ!? 血が・・・!」
そこには痛みに耐えながら起き上がり、サワーリャの無事を確認すると笑みを向けるロップの姿。しかしその頭からは血が流れ、サワーリャはそんな親友の姿に、顔を青くし力なく叫ぶ。
「大丈夫だよサ「「「ギギギャ!!」」」」
「くそ! ファイ・・・え?」
心配する親友を落ちつけるため明るい声を掛けようとするロップだったが、その声は複数のネズミの鳴き声に遮られる。慌てて振り返り魔法を使おうとするサワーリャだったが、その振り返った視界はすぐに冷たい青一色で埋め尽くされた。そして・・・。
「・・・なに俺の可愛い護衛対象傷つけてんだ糞鼠共」
「「ユウヒ(さん)?」」
彼女達はその青の中に彼女達が良く知る男性の姿を見つける。しかしその姿に二人は違和感を感じた、何故ならばそこには自分たちの知っている優しく暖かい表情が無かったからだ。
時は少しだけ遡り、ようやく到着したユウヒ一行。
「やっと着いたか、先ずは広域系で」
「ユウヒ! 結界が一つ壊れた!」
休憩場の入口辺りまで戻ってきたユウヒは、大きな岩の上から戦場と化したキャンプ地を見下ろし状況を把握すると、早速広範囲に効果を及ぼす魔法の準備を始める。しかしモミジの叫び声に集中を解くと、一斉に雪崩れ込むネズミと逃げ遅れに目を凝らすユウヒ。
「な、不味いあれはロップ達!?」
「あ、ユウヒまって!?」
「怪我がなんだ! 我らも続けー!」「「おおー!」」
その逃げ遅れがロップとサワーリャだと解ると、岩から飛び降り駆けだすユウヒ。そんなユウヒの行動にモミジは慌てながらも追いかけ、水の小精霊トリオも一人が松葉杖を掲げ鼓舞すると、気合の声と共にユウヒに着いて行く。
「間に合うか・・・な!? ロップ!」
<ぶちっ>
「「「「ぶち?」」」」
先頭を行くユウヒはその顔に焦りを貼付けていたが、次の瞬間サワーリャを庇う様にネズミの体当たりが直撃したロップの姿に、悲鳴にも似た声で叫ぶと不思議な音が響く。その喧騒の中でも不思議とよく聞こえたその短い音に精霊達は揃って首を傾げる。
「ユ、ユウヒ?」
「・・・・・・そうだよな、自重なんてのはすべてを余裕で守れる人間がするもんだよな」
急に立ち止まり顔を俯かせるユウヒに、駆け寄ったモミジが心配そうに声を掛ける。しかしモミジの声に返事もせず、ボソボソと呟いたユウヒの目には冷たい光が宿っていた。
「自重なんてクソ喰らえだ! 逝くぞ相棒! 汝、大地を穿つ一振りの氷槍! 【アイシクルランス】! 【アサルトアタック】!」
一通り呟いた後がばっと顔を上げると、手にしていた魔法槍を空に掲げ妄想魔法を唱える。その詠唱は今まで使ってきたどんな妄想魔法よりも自信に満ちた声であった。
ユウヒが【アイシクルランス】とキーワード唱えると、ユウヒの持っていた槍は氷を纏い巨大な槍へとその姿を変え、さらにユウヒを中心に大小様々な氷柱が姿を現し、その鋭利な先端を敵へと向ける。その槍を脇に固定したユウヒは【アサルトアタック】と言うキーワードと共に猛烈なスピードで突撃し氷の砲弾となった。
「突っ込んだ!」「はや!?」「まってー! おいてかないでー!」
「駄目離れて!」
「「「うぇ?」」」
「魔力の高まりが尋常じゃない、援護するなら離れてないと危険よ」
一瞬の出来事で置いて行かれた水トリオは慌てて後を追おうとするも、すぐにモミジの声に制止される。そして、真剣な表情のモミジによる注意に、耳を傾けた小精霊達が見たものは、
「「「うわぁ・・・」」」
一切の容赦なく複数のネズミを串刺しにし地面に縫い付け、その一帯を氷漬けにしたユウヒの姿だった。そのあまりの情景に口をぽかんと開ける水トリオ、声は出さないもののモミジもまたその情景に目を奪われていた。
大きな氷の槍と追従していた大小様々な氷柱で、複数のウォルラットを一斉に薙ぎ払ったユウヒ。その姿はいつものリラックスした優しそうな印象とは違い、怒りの感情を隠そうともせず、見る者に威圧感を与えていた。
「・・・なに俺の可愛い護衛対象に傷つけてんだ糞鼠共」
「「ユウヒ(さん)?」」
「後退するだけの元気はあるかロップ?」
どうやらこの状況がユウヒの奥底に眠る本質を呼び起こしたようである。ロップとサワーリャの呼ぶ声に振り向くと少しだけ怒気を押え声をかけるも、それでも冷たい殺気が目の奥で揺れている。
「うん大丈夫」
「そうか、なら二人とも後退しなさい」
ロップは自分を事気遣ってくれるユウヒに安心したのか、すぐに返答する。ユウヒもその返答に安心したのか口元を緩め、しかしそれも束の間、目を細め接近するネズミを見据えると、横目で二人の少女を見て後退を指示する。
「「は、はい」」
ユウヒの指示に吃りながら返事をすると、お互いに支え合いながら後退する二人、その二人の頬が赤かったのは戦いの為かそれとも別の理由か・・・。
「糞鼠共、てめぇら全て氷殺だ!」
二人の後退を確認したユウヒは、先の一撃で砕け散った相棒の破片を一つ拾い上げ、ポケットに突っ込むと魔力を撒き散らし、覇気の籠った声を上げる。
そしてここに一人の勇者が復活したのだった。
その様子を離れた位置から心配そうに見ていた精霊達は、
「ユウヒが・・・」「いつもと違う・・・」「でもあれはあれで良いかも・・・」
「「・・・ぽ」」
荒ぶるユウヒの姿に驚きながらも、目を輝かせる水の小精霊トリオ。さらにその後ろには潤んだ瞳で頬を赤らめ、ユウヒの姿を見詰めるモミジ、
「「「はっ!? 姉さんいつの間に!?」」」
と、いつの間に現れたのかミズナの姿が。後ろから聞こえた妙な音源が複数あることに気が付いた水トリオは、振り向いた先に居た機嫌が直って、さらに振り切れてそうな姉の姿に驚きの声を上げるのだった。
その頃、結界の中央付近に設営された仮設救護所では、後退してきた負傷者をマギーの指揮の下、数人の生徒達で応急処置を施していた。
「あれは、まさかユウヒ君か?」
そんな中、戦況を確認する為に出てきたマギーの目に異様な光景が映る。逃げ遅れたのであろう生徒に目を向けるも、直ぐにその視線は高速で接近する青い氷の塊に奪われる。その塊は座り込む二人の生徒の前に着弾すると、二人を守るように大地を氷で埋め尽くしたのだ。
「先生! 怪我人です!」
「くっユウヒ君の戦いが見れそうだと言うのに・・・急いで処置するぞ!」
「「はい!」」
しかしすぐに怪我人が増え、何か話をしているユウヒを横目に悔しそうな顔をするマギーは、その戦闘を見たいがために生徒を鼓舞する。救護所に入る瞬間感じた、魔力の波動に期待を膨らませながら。
時同じく救護所から少し離れた場所では、カステル達四人が結界への負荷を少しでも下げようと結界の手前で戦闘を続けていた。
「わわ!? この魔力は・・・ユウヒさん?」
「・・・氷の柱?」
カステル達魔法士の様に魔力を扱う者は自ずと魔力に敏感になり、優秀なものはその魔力から個人を判別できる。特にユウヒの魔力は覚えやすかったのか、それとも別の理由で覚えていたのか、急に感じた大きな魔力に遠くを見詰めぽつりと呟くカステル。
そんなカステルの反応にクラリッサも釣られて丘の下を見るとそこには、離れた場所から分かるほどの氷柱が、大地に突き刺さっていた。
「氷? ユウヒさんは土系統だから、違う?」
「ユウヒ、水の魔法つかってたよ?」
「え?」
しかしカステルの知るユウヒの魔法は石を加工して撃ち出す魔法で、普通に考えれば土属性の口語魔法である。しかし目の前に見えるのはどう見ても氷であり、その事がカステルの思考を混乱させる。その上キョトンとした顔のクラリッサからの情報でさらに混乱を深めるのであった。
「「ほえ~」」
「「ぎぎ~」」
「あ・・・えーとファイ・ア・ランス!」
と言ってもそこはプロの冒険者である。すぐに意識を切り替えると、武器を構えたまま呆けた顔で凍りつく大地を眺めるラッセルとキリノ、さらにその前で同じように呆けているウォルラットに気が付くと、若干戸惑いながら魔法を放つカステル。
「「ギギーー!?」」
「カステル・・・」
「ほ、呆けてないで! まだ戦闘中よ!」
「「は、はい!」」
二匹のウォルラットはいきなり攻撃されびっくりしたのか、叫び声を上げると仲良く丘の下へと転がるように逃げて行くのであった。その様子に、クラリッサはジト目でカステルを見詰めながら名前を呼び、カステルもなんだか悪い気がしたのか、その感情を誤魔化すように大きな声で指示を出すのだった。
俺は大地に突き刺さった氷柱の上からネズミの進行状況を確認する。
「予想は正しかったようだな・・・本当は広域殲滅から行きたかったんだけど」
「「「ギャー!」」」「「ギギギギ!」」「「「「ギッギー! ギッギー!」」」」
予想は正しかった、クロモリで魔法を使っていた感覚で妄想魔法を発動させた結果、初めて使った魔法にもかかわらずミリ単位での制御に成功しネズミだけを攻撃することが出来た。そんな状況に不思議と心が高揚するのを感じていると俺の周りをうっとおしいネズミ共が囲み、威嚇してくる。
「何言ってるか知らないが、今日の俺は優しくないぞ?」
今は【意思疎通】の魔法を使ってないので何を言っているか解らないが、かかってくる以上今はその言葉を理解する必要は無い。
当初の作戦とは最初から違ってしまったが、予想通りの魔法が使えた以上この程度の状況変化など些細な事、俺の魔法ならどんな状況でも対応できるのだから。異常に高揚する感情に流されるまま俺はあの頃を思い出し魔法を行使する。
「厳寒の地にて生まれ、我と共に歩みし者よ、我が声に応じよ! 【スニールコンパニオンズ】」
「くすくす」「くすくすくす」「ふふふふふ」「あははははは」
俺の言葉により現れたのは、クロモリで一番使っていたフリーズソルジャーの限定魔法で評判は死にスキル、何故なら極めなければ戦力にならず極めるには条件が厳しく、後の修正により同等のスキルが簡単に手に入るようになったからだ。
極めたのは一部の古参のみ、氷の大地に人柱として生き埋めにされた少女達の願いを聞き届け、生み出された俺の娘達、青白い素肌に氷のような青の髪、細くしなやかな肢体に纏う青い法衣。
「総員掃討開始!」
『イエス! マイマスター』
俺の言葉を受け少女達は空中に身を翻しその身を戦場に繰り出す。彼女達は辛い時も笑い声を絶やさない。それは笑う事すらできなかった母の代わりに笑うため。
「【ターゲットマルチロック】我らに意志貫く力を【ウェポン・フリーズランス】その手に砕けぬ意志を【シールド・フリーズバックラー】」
「アハハハハ!」「くすくすくす・・・」
そんなクロモリの悲しい物語を思い出しながら、慣れ親しんだ魔法を順序良く唱え続ける。戦巫女を呼び出し、その右手に武器を与え、左手に盾を与え、共に戦場へ身を投げ出す。
そんなユウヒを遠くから見つめる精霊ズ、しかしそこに流れる空気は先ほどまでとは違っているようだ。
「ちょ!? ちょっとなにあれ!?」「浮気!? うわきなのユウヒ!」「私と言うものがありながら!」
「ななな! 「ちがう」・・・へ?」
水トリオが慌てるのもしょうがない、スニールコンパニオンズの姿は十代の少女を縮尺そのままで縮めたような姿であり、それは水の小精霊の姿形に近いものであるからだ。しかし、彼女達と一緒にミズナも声を上げそうになるも、モミジがそれを否定する。
「精霊に似てるけどあれは違う・・・」
「え? ええっと・・・本当ね? 微妙に違うみたい」
よく観察すると精霊とは明らかに違う所があるのか、モミジの言葉に目を凝らしたミズナも、彼女達精霊にしか分からない違いに気が付き落ち着く。
「一番近いのは精霊、でも魔法生物や別の精神生命体にも近い・・・意志ある命を創りだす人間なんて聞いたことない」
「たしかに召喚魔法では、なかったわね・・・」
「・・・ユウヒを見ていると退屈しないね、ミズナ」
「助けなら私は呼んでほしいのだけど・・・でもそうね」
自分なりに考察しているのであろう、その普段より喋る量の多いモミジの姿に、ミズナはキョトンとした顔で共にユウヒの魔法を分析する。モミジはミズナを見上げると楽しそうな声を上げ、見上げられたミズナは釈然としない表情をつくりながらも、口元を緩めるとモミジの言葉に同意した。
「ぐぬぬぅ・・・まけてらんないよー!」「ちょっとまってよ! ずるいぞ!」「水のせいれいなめるなよー!」
「・・・楽しそうね」
しかしそうはいかないのが幼き水の小精霊、スニールコンパニオンズに対抗意識を燃え上がらせて元気よく突撃していく。そんな彼女達の姿にその場に座り込むとポツリと呟くモミジ。
「あら? あなたは行かないのってそうだったわね・・・」
「どうかした? 行かないの?」
「別に・・・抜け駆けとか思ってないわよ?」
小さな呟きが耳に入ったミズナは不思議そうな顔をするも、モミジが動かないわけを思い出すと、膝を抱え座る彼女の横にそっと腰を下ろす。そんなミズナの行動に今度はモミジが不思議そうな顔で問いかけると、ミズナは少し頬を染めるとそっぽを向きボソボソと呟く。
「・・・・・・そうね飴は私が先だものね」
「ぬぁ!? ・・・・・・ふん!」
ミズナの呟いた内容に目を丸くしたモミジは、しばらくすると口元を緩め悪戯っ子のような瞳でそんな事を言い出し、その言葉にミズナは視線を戻すと悔しそうな顔でもう一度そっぽを向くのであった。
「・・・ありがと」
「んふ?」
「ほら、またユウヒが何かするみたいだよ」
「・・・次は何かしらね」
そんなミズナの姿をチラリと横目で見たモミジは小さく呟き、良く聞こえなかったのか振り向くミズナの視線をユウヒの方へ誘導する。ミズナの視線から自分の嬉しそうに綻んだ表情を隠すように。
そんな甘い空気が流れる空間からだいぶ離れた丘の中腹では、ユウヒを中心に凍えるような空気が流れていた。
「範囲指定、総員射程範囲より退避・・・退避確認、喰らい尽くせ! 【アイシクルガスト】!」
手にした槍で次々とウォルラット刺殺していくスニールコンパニオン達、そしてその隙に妄想魔法を完成させ、大地諸共ウォルラットを凍らせ、穿ち、砕くユウヒ、その姿こそユウヒ本来、いやクロモリオンラインの世界で昔、『氷殺のユウヒ』と呼ばれた頃のユウヒの戦闘スタイル。
「「ギギー!」」「「「ギギギギギ!」」」
「得物が無いから近接戦が出来ないと思うなよ! 武器無き兵士に戦う力を【氷乱舞装】はぁ! せぇい!」
一見近接武器を持たない固定砲台のようにも見えるが、たった一人で戦ってきたユウヒにとって、敵の接近は日常茶飯事である。当然近接用の魔法も用意しているとばかりに新たな魔法を唱えると、手と足に纏わせた冷気で格闘戦を始めるのであった。
急いで戻ってきたのであろう、少し息を乱したマギーは支援をする後衛魔法士の土嚢壁までやって来ると、目の前の状況に絶句した。
「あれは、精霊? まさかこれほどとは・・・」
「・・・きれい」
「うわぁ、ユウヒすごい」
「・・・・・・見てるだけで凍死しそうだよ」
大地の所々は凍りつき、あちこちに大きな氷柱が突き刺さっている。その丘の中腹を小さな青い人影が縦横無尽駆け巡り、次々にウォルラットに襲い掛かり刺殺して行く。
その瞬く間にウォルラットが数を減らしていく状況に誰もが目を奪われ、それは5班の魔法士達にとっても同じの様で、土嚢壁から身を乗り出し目を輝かせ見詰めていた。ただサワーリャだけは若干青い顔であったが。
そこからだいぶ離れた第2結界前の土嚢壁では、オルゼがその顔に苦笑いを貼付け呆れたような声を漏らしていた。
「おいおい・・・」
「先生、前方のネズミ全滅です・・・」
それも仕方ない、先ほどユウヒが放った【アイシクルガスト】は、100m以上離れた位置に居るオルゼ達の前方までその効果を及ぼし、丘を駆けあがっていたウォルラットを尽く氷漬けにしてしまったのだから。
「頼りになるってレベルじゃないぜまったく、まぁこれなら無事帰れそうだな」
「はい!」
呆れたような声とは違いその顔に嬉しそうな、ホッとしたような表情を浮かべたオルゼは、隣に居た冒険者科の男子生徒の頭に大きな手を置く。男子生徒も安心したのか嬉しそうに返事をする。
「私もあんな強くなれるかな・・・」
「あー・・・努力しだいだが、一歩づつ前に進みなさい。上ばかり見ていては足元が疎かになるからな」
『はい!』
その隣では土嚢壁から顔を出し、遠くで宙に飛ばされるネズミと、撥ね飛ばすユウヒの姿に羨望の眼差しを向ける冒険者科の女生徒。そんな言葉に生徒と暴れるユウヒを見比べ苦笑いを浮かべたオルゼは、生徒達にはあまり無理をしてほしくないと言う思いから言葉を選ぶのであった。
「うむ、では安全が確認されるまで気を抜かず監視を続けるように」
『はい!』
オルゼの声に元気な返事を返した生徒達は、未だ遠くから響いてくる戦闘音を聞きながら、静かになり冷気が漂う周囲の警戒を続けるのだった。
想像通りに、そしてあの頃の感覚のまま自由自在に使える魔法。そんな解放感に、俺はあの世界に初めて降り立った時の感情を思い出し、感動で心を震わせていた。
【探知】の魔法に映る敵対反応は、その数を減らし今も尚スニールコンパニオンによって駆逐されている。俺は周囲にネズミが居ないことを確認し、被害状況を調べる為【探知】の範囲を広げたのだが。
「粗方片付いたな、生徒も護衛も減って・・・? 3人ほどえらく遠くに居るな?」
遠く離れた場所を、ココから離れる様に移動する3体の緑色の光点に気が付く。
「まぁいい残りは、あそこか【ターゲットマルチロック】切り裂け! 【アイスエッジ】!」
休憩場から離れていく3体の反応を見て、誰かまでは調べなかったが特に負傷もしていないなら問題無いと判断すると、未だ暴走ラット状態の数匹をロックし周りの氷を鋭利な刃に変え射出する。
「マスター掃討完了しました」「ご命令を」「褒めてくれてもいいのですよ?」
「うんご苦労様・・・まさかここでも会えるとは思わなかったけど来てくれて嬉しいよ」
すべての敵対反応が消えたのを確認していると、スニールコンパニオンズが戻ってくる。彼女達はクロモリオンラインで世話になっていた魔法生命体である。
彼女達を呼び出す魔法を手に入れるには、なかなか面倒な上物語の内容が結構暗く、さらにプレイヤーの評価は使えないスキル扱いと、ゲーム内でもなかなか出会う事の出来ない存在である。設定上俺は彼女達の半分を与えた存在で、父親扱いされていたのを覚えている。
「我らはいつでもマスターの御側に」「感激の極み」「それは愛の告白ですね?」
「でも妄想魔法って召喚は出来ないはずなんだけど・・・」
彼女達のセリフはゲーム内でもよく聞いたものだが一部可笑しいのが混ざっているのは何故だろう。それに本当に彼女達はゲームの存在なのだろうか? 妄想魔法は召喚などの魔法は作れないはずなんだが。
『私たちは生まれたばかりですが?』
「・・・・・・え? いやしかし無から有を生み出す事も・・・」
そんな事を考えている俺に、彼女達は爆弾を落とした。今生まれたと・・・。しかし無から有を生み出すことも召喚同様に妄想魔法では不可能なはず、ならば彼女達は何を元に生まれたと言うのだろうか、しかし、その答えは意外にすぐ解った、予想外の答えとして。
「いえ我らはマスターから生まれたのです」「マスターの膨大な魔力と心の中にある強き意志によって」「厨二って言うのですよね?」
<ピシッ!!>
凍った、凍りついた、今も尚周りに転がっている氷柱のごとく俺の体は思考ごと凍りついたのだ。彼女達の説明によって・・・。
「流石は『氷原の魔王』です」「『厳寒の魔龍』ではなかったか?」「『氷殺』と呼ばれていたのでは?」「いやたしかエターナルf「ゲフゲフ!!」」
『???』
そして咽た、その理由は彼女達の言葉の中にあった忘れたい記憶のせいである。
クロモリ、正式名称『黒い森オンライン』。そのゲームを始めたのは10代の頃、思春期特有の病を患い自分が特別な存在だと疑わなかったあの頃、しかし現実と理想との狭間に俺の心は多大なストレスを溜め込んでいた。
その頃クロモリに出会った俺はどっぷりとのめり込み、現実で溜め込んだストレスをゲームの中に発散させていたのだ。理想の自分を恥ずかしげもなく振る舞い、その為ならどんなに辛くともゲームを続け、そんな俺は現実で若干ぼっちだったのは言うまでも無く、始めた当初はクロモリの中でもぼっちだった。
そんな俺に一条の光を与えたのが彼女達だった、彼女達を従え難関クエストを制覇し様々な迷言を残した俺は、いつしか様々な二つ名を付けられ、その事に俺自身喜んでいた。しかし、当然病を患う以上病が完治するのも道理であり、それまでの自分を振り返る時期になった俺は、あまりの恥ずかしさに過去を黒歴史とし封印したのだ。
「・・・イヤダイジョウブダ、マタヨロシクタノム」
「はい♪ 我らはいつも御側に」『失礼します』
「・・・・・・」
俺は今真面に喋れている自信が無かった。しかし彼女達は嬉しそうに返事をすると俺の体に溶ける様にして消えて行った。
今感じているこの感覚は冷静に自分を見つめ直したあの頃に似ている。どうやら俺の黒歴史に新たな1ページが刻まれたようである。
「ユウヒ! 私たちもてつだうよ! まけないよ!」「もう終わってるみたいだけどね」「・・・あれ? どうしたユウヒ?」
「・・・自重って・・・大事だな」
頬を撫でる冷たい風が、妙に火照っていた体と心を冷やしてくれる。おかげでもう少しここに居れば元の自分に戻れる気がした。そんな事を考えていると、騒がしい精霊達がやって来ていつもよりやや高いテンションで話しかけてくるも、今の俺にはそのテンションに対応する気力は無かった。
「ゆ、ユウヒ?」「疲れたか? 元気ないぞ?」「それとも冷えたか?」
「・・・うん冷えたよ、頭がね。少し熱くなり過ぎたみたいだ」
いつもと違う雰囲気に気が付いたのか、心配そうに話しかけてくる精霊達、そんな彼女達の心遣いに少し嬉しくなった俺は精一杯微笑むとそう返事を返した。
「「「(なにがあったの!?)」」」
しかし俺の表情がぎこちなかったのか、俺を見詰める精霊達はどこまでも心配そうな表情であった。
時は少し遡りユウヒが突撃を敢行した直後、休憩場から離れた遥か上空、そこには三柱の神が人とネズミの争いの様子を見ていた。
「ほぉぇ~」
その視線の先では丁度ユウヒの突撃が着弾しており、フーリーはその姿を興味深そうに見つめ声を漏らしている。
「何者でしょうか? 人の身でありながらあれ程の力・・・それに強力な眷属まで従えるとは」
フーリーの後ろで様子を見ていたこの森を守護するウルは、険しい表情でユウヒを見詰め呟くと、スニールコンパニオンズを生み出した姿を見て、さらにその表情を険しくする。
「・・・どうやら私の認識は甘かったようですね」
「と言いますと?」
何者かと、表情を険しくするウルの隣でラフィールがぽつりと呟き、その声に何か知っているのかとウルが表情を緩め質問する。この時ラフィールは知らず知らず頬に一筋の汗を掻いていた。
「アミール様が遣わしたお方をただの人族と思っていましたが・・・」
「ふぅん、ではあの者が管理神の眷属と?」
「いえ、協力者だそうよ・・・あまり失礼な事を言わないようにね?」
ラフィールはアミールから教えてもらっていたユウヒの人物像等が目の前の青年と一致することに気づき、ユウヒと言う人間が自分の考えていた以上に規格外な人間であると認識したようである。
そんなラフィールの内心を知ってか知らずかウルは興味なさげに聞いて来るが、その言い方にラフィールはウルを嗜める。
この地の神々の中には、人間を低俗な生物だと蔑む者が少なからず存在する。ウルの眷属と言う発言もまたそう言った感情の表れであり、ラフィールなどの人を愛する神から見ればその発言だけでもあまり気持ちよくは無い。
その上ユウヒは、自分たちの上位存在にあたるアミールの対等な協力者である。人間への悪感情云々が無くとも、それだけでウルを嗜める理由になる。
「うぅむ、見た目はただの人族にしか見えないのだが・・・」
そう言った理由をラフィールの放つ空気から察したウルは、表情を険しいものから疑問顔にシフトさせユウヒを見詰める。
「ふぇ~地面凍っちゃったよぉ?」
「な!? 私の森が・・・まぁ、すぐに戻せはするが・・・むぅ」
そんな視線の先ではユウヒの放った【アイシクルガスト】により地面が凍りつき、その魔法の威力にフーリーもウルも方向性は違えど驚いた顔を浮かべるのであった。
「ネズミは全滅しそうね・・・今日あたり直接お詫びに行かなくてはいけないかしら」
「ラフィールが直接か!? 明日は雨か、それとも季節外れの猛暑か!?」
瞬く間に少なくなるウォルラットに、罪悪感のあるラフィールはお詫びを入れなければと呟く。その呟きを聞いたウルは、度重なる驚きの連続で口が緩くなっていたのか不注意な言葉を洩らしてしまう。
「へぇ~そう言う事言うのねぇ?」
「ウル逃げろヤバい! あの眼は本気だ! 爆発じゃすまないぞ!?」
「しまった!? あまりの衝撃的な言葉に本音が漏れた!? 逃げるぞフーリー!」
「ちょま!? わたしをまきこまないでぇぇぇぇ・・・」
その発言にラフィールは表情を冷たいものに変えると、心臓の悪い者ならそのまま鼓動を止めてしまいそうな視線をウルに向ける。その視線を見たフーリーは冷や汗を流すとウルに向かって警笛を鳴らし、顔を青くしたウルは言わなくていい事をさらに呟いてしまうと、フーリーの襟首を掴みその場から全速力で逃げた。
「まったく失礼しちゃうわ・・・でも確かに人に直接会うのって初めて? そ、そんな事は無いわよね? たぶん?」
そんな二人の行動を冷たい目で見ていたラフィールは、その顔を少し怒ってます程度に戻すと再度地上のユウヒに視線を戻す。しかし、言われてみれば生まれて此の方人に直接会った事などあっただろうかと、首を傾げると自信なく否定するのだった。
「終わったみたいね、ん? どうかしたのかしら? あらあら水の精霊が・・・面白い子ね♪」
しばらくそのまま悩みつつも、ユウヒを目で追っていたラフィールは戦いが終わったのを確認するも、ユウヒが妙な事に気が付き、さらにそこへ水の精霊が仲良さげに話しかける様子を見て面白そうに微笑むのであった。
「厨二は完治しないんだな・・・自重は重要だね・・・」
この時ぽつりと呟いたユウヒの声は、神にも精霊にも人にも誰の耳にも入ることは無かったのだった。
いかがでしたでしょうか?
ちょっと痛い感じとか出てたでしょうか?スニールコンパニオンなんか設定に妄想が暴走しそうでしたが・・・その辺のお話も書けたらいいなとか・・え?先ずはワールズダスト完結させろ?・・・ですよねー
それでは今回はこの辺で、またここでお会いしましょう。さようならー




