第六十二話 望まぬ戦い
どうもHekutoです
ようやく書けましたので六十二話をお送りします。想定外の出来事の連続に走るユウヒ、そしてその駆けつける場所では・・・どうぞお楽しみください。
『望まぬ戦い』
俺、元の世界帰ったら食肉解体の仕事でも探してみようかと思うんだ。だってこれだけ大量の大鼠を捌いてるんだから、経験値は最初からいっぱいだと思うんだ。もしくはリアル猟師になって獣肉でも卸そうかな。
「やっぱりこいつら策略を使ってないか?」
「それは、偶然だと思うけどぉ・・・ごめんね手助け出来なくて」
「大丈夫さこの位・・・それより急がないとみんなが心配だ」
脳内で現実逃避をしつつ、襲い掛かってくるネズミを時に素手で時に魔法で切り伏せながら休憩場に急いでいるのだが、何故か俺の進路を邪魔するようにネズミが現れるのだ、愚痴が出てしまうのもしょうがないだろう。俺の呟きに制約があるとかでネズミに攻撃できないモミジが申し訳なさそうにしているが、面倒なだけで別にキツイわけでは無いので気にしない様に俺はモミジに笑いかけておいた。
「うん「ギギギ!」また!? 予想より数多いかも・・・」
「はぁ・・・こっちは急いでるんだ! 手加減できないぞ! 【水弾】」
「・・・ユウヒの魔法は不思議ね」
またもネズミが跳びだしてきてその物量にモミジが叫ぶ。道なき道を魔法の力で跳びながら進んで時間短縮を図るも、度々ネズミが襲ってくるため思ったより時間がかかっている。槍は現在耐久度1で今にも壊れそうなため、数発の【水弾】で吹き飛ばす。そんな俺の魔法を視て背中にしがみ付いている重さを感じないモミジが不思議そうな声を漏らす。
「【ロックボルト】! ・・・不思議?」
「うん、何だろう、まるで元からそうあるべきと言うか・・・世界が認めてると言うより」
「より?」
跳びだしてきた最後の一匹に使い慣れてきた【ロックボルト】をお見舞いすると、ネズミは18禁指定確実なスプラッタな物体へと変貌する。俺はそのスプラッタを平然と横目で確認すると先へと足を踏み出し、そのまま背中のモミジと会話を続ける。
「まるでユウヒが世界に教えて、世界が学んでいるみたいな・・・とても不思議」
「良く分からんが? てそれはいいとして急がないと「ギギ!」邪魔だ! 「ギュン!?」」
モミジもよく理解できているわけじゃないのか、どこかふわっとした感じの説明に思わず足を止めそうになるも、意識を切り替え足を強く踏み込み前へ進む。しかしそんな俺の気持ちとは裏腹に目の前から跳びかかってくるネズミ、俺は踏み込んだ勢いのまま腹を見せ跳びかかってくるネズミを前蹴りして叩き落としたのだが。どうやらその一撃は男の象徴を的確に捉えたらしく、ネズミはちょっと切ない鳴き声を上げ心なしか青い顔で悶絶していた。
「・・・なんだか今日のユウヒはワイルド・・・ぽっ」
そんなネズミに俺は心の中で詫びを入れると先を急ぐ。その時背中のモミジが何か言っていた様だが、加速した俺には風の音が邪魔してよく聞き取れなかったのだった。
ネズミの息子に悲劇が起こっている頃、休憩場に作られた仮設本陣前ではなにやらカステルとマギーが話し合っていた。
「・・・しかし君は後衛魔法士じゃないか」
「はい、でも前衛が不足してるのも事実です近接用の魔法も使えないわけじゃありません」
「だが「だいじょうぶ」クラリッサ君?」
どうやら不足している前衛をカバーする為に前に出ると言う相談の様だが、マギーはネリネから聞いているカステルの情報では前衛に出すのは難しいと考えていた。如何に現在前衛を担っている生徒より場数を踏んでいるとは言え、後衛魔法士に前衛を任せるのは通常ありえない。しかし通例が通らないのも冒険者の常、その事を理解してかどうか分からないがマギーの言葉をカステルの後ろに居たクラリッサが遮った。
「クラリッサも一緒、だから大丈夫」
「クラリッサさん・・・」
「ふむ・・・いいだろ、しかしだ絶対無理をしない事! いいな」
マギーが声に反応し向けた視線の先には、いつも無表情でどこかぽやんとしたクラリッサは居らず、そこには一人の騎士の姿があった。クラリッサの言葉に嬉しそうに微笑むカステル、そんな二人の姿を何か懐かしむように見ていたマギーは、無理をしない事を条件に許可を出すのであった。
「「はい!」」
マギーの許可に元気よく返事をすると、二人は前衛で一番人数の少ない場所へと駆けて行く。その後ろでは二人を見送るマギーにオルゼが何か呟き、何故かマギーに殴られているオルゼの姿があったとか。
そしてこちらは前衛、その中でも支援の手が薄い一角でそこからはボロボロになった5班キャンプが見える。
「くそぉ! こいつら早いぞ!?」
そして心情が反映されているのか、自分たちのキャンプが近い場所でネズミと戦っているのはラッセルとキリノの二人、そんなラッセルは片手剣を手に連撃を繰り出すも素早い動きのウォルラットに手こずっているようだ。
「えぇぇい! はぁ、アタシも遠距離系とっとけばよかったうわぁ!?」
「はっ! 気を抜くなよキリノ! 近接とってるの少ないんだから!」
ラッセルの隣ではキリノが振り上げた斧を思いっきり振り下ろし、その衝撃で土や石と共に斧を避けたネズミを吹き飛ばす、しかしその一撃も致命傷にはならない上隙が大きくそこを狙われるキリノ。しかしそこはコンビプレイ、キリノに跳びかかたネズミをラッセルが背後から切り裂く。
ラッセルがキリノに行ったように近接装備の人間は少ない、グノー学園の冒険者科は武器選択制である。兵士科のように何でも扱えるように平均的に訓練する科もあるが、冒険者科では個人の特技を伸ばす為使用武器は選択制で、特に遠距離系や中距離は人気で、それはやはり敵と接近して戦う事は勇気が必要な為であろうか。
「わぁかってるわよ! ・・・何よちょっとかっこつけちゃって」
「よっと! 何か言った?」
「ギギギ?」
キリノを助けたラッセルはチョロチョロと逃げ回るネズミと追いかけっこをするも、キリノが何か言ったような気がしたためネズミを前にしながらキリノを振り返る。そんなラッセルに釣られる様に追いかけられてたネズミもキリノに視線を向ける。
「な、何でもない!!」
「こわ!?」「ギュ!?」
しかしキリノはラッセルの問いに顔を赤くしたまま何でもないと叫ぶと、近づいて来たネズミに向かって斧を振りおろし、その強力な一撃はドゴン!と言う鈍い音と共に地面を抉り、ネズミ達に鳴き声を出す暇さえ与えず丘の下へと土砂ごと吹き飛ばすのであった。その姿にラッセルは恐怖を感じたのか後退り、隣のウォルラットは同意するかの様に情けない鳴き声を漏らす。しかし次の瞬間、
「ファイ・ア・ランス!」
「「ほえ?」」
「ギ? ギギー!?」
離れた場所から口語魔法を唱える声がしたと思い、二人が着弾確認の為声のした方向を振り返ると、ラッセルの隣に居たウォルラット目掛けて炎の槍が高速で飛来し、明るさに気が付いて振り返ったネズミの顔面を直撃したのだった。
「二人とも無事!?」
「「カステルさん!」」
「二人とも後ろ!」
どうやらその一撃はカステルの放ったもののようで、すぐに二人に駆け寄り無事を確認する。二人も心強い援軍の姿に駆け寄るも、カステルの視線の先ラッセルとキリノの背後から先ほどキリノに吹き飛ばされたと思われる二匹のネズミが跳びかかる。
「はぁ!!」
「「ギィー!?」」
「・・・気を抜かない」
しかし二匹のネズミによる奇襲攻撃もカステルの背後から現れた騎士、クラリッサの重い騎士剣の切り払いにより両断され、二匹のネズミは四つの肉塊に姿を変えクラリッサの足元に転がる。
「うお!? すげぇ・・・」
「私たちが前に出るから打ち漏らしをお願いね」
「は、はい!」
まさに一瞬の出来事とクラリッサの冷静な声に、キリノはポカンとラッセルは目を輝かせ感嘆の溜め息にも似た声を漏らす。カステルはそんな二人の無事な姿に微笑むと、彼らの負担を減らす為前に出ながら指示を出す。その声にラッセルとキリノは慌てて返事をすると、武器を構えその場で待機する。
「クラリッサ! 複数行きます援護を」
「了解、行く」
前に出たカステルの声にクラリッサは盾を前に、その横に剣を備え前方に突きつけるように構えると言葉少なにネズミへ突撃する。
カステルが力ある言葉で口語魔法を詠唱し魔法を完成させると、囮になっていたクラリッサは素早く後方に身を引く。急に下がったクラリッサを追いかけるウォルラット達だったが、次の瞬間彼らを少し前までクラリッサが立っていた場所ごと赤い炎が飲み込み燃え盛った。
「すげぇ・・・」
「カステルさんって後衛魔法士だったよね?」
「おれ、後衛魔法士の事間違って考えてたかも・・・」
目の前で起った短い戦闘しかしその中にある技術と、その後も騎士と魔法士は位置を前に後ろにと交互に入れ替えながら戦い続ける姿に目を離せない二人は、戦闘中にも関わらずどこか気の抜けた声で呟き合う。
「うん・・・って新手来たよ!」
「考え直すのは後だな!」
しかしネズミは彼らにそれ以上の暇を与える気は無いようで、クラリッサとカステルの攻撃をかいくぐった一匹がキリノ達目掛けて突撃してくる。先に気が付いたキリノが斧を構えると、慌てて片手剣を構え直したラッセルが気合を入れ直し前に出るのであった。
流石は騎士科の生徒だけあってなのか、クラリッサは連携の基礎が出来ている。冒険者だと初めての相手とでここまで上手く立ち回る人は稀だろう。
「はぁ!」
「ギーギーギフュ!?」
いや騎士でも少ないかもしれない、彼女は目の前の敵を翻弄しながら私の詠唱も聞いているのだろう。そこから次に発動される魔法を想定して動いているとしか思えない。
「ふっ!」
「「ギギー!?」」
今も私を守るように前に出ているけど、次第にネズミ達は離れた場所に集められていくのだから。やはり今私が詠唱している魔法の知識もあるのか、一瞬こちらに目配せをしてくれる。ならば私は魔法士としてその信頼に答えなくてはいけない。
「行きます! 敵陣を貫け! ファイ・レ・ランス!」
『ギィィィィ!?』
私が詠唱していたのは複数の火の槍が地面に突き刺さり爆炎を上げる魔法、クラリッサより少し高い位置に居る私から放たれたソレは、放物線を描き後退したクラリッサを追って一塊で移動するウォルラットの集団に次々と突き刺さる。
「カステル、すごい」
「いえ、まだまだ発動までに時間がかかるのが難点です・・・」
「・・・私もがんばる。ふっ!」
クラリッサはそのまま私の横まで戻ってくると少しキラキラした目で褒めてくれますが、問題点もまだまだあるので苦笑いで答えてしまいます。若干照れもありますが、そんな私を見て気合を入れ直したクラリッサは盾と剣を構えまた切り込みます。
「ぎぎー!?」
私も先ほど前で戦ったのですが、やはり本職とでは比べるべくも無く現在は今の連携に収まっています。少しだけ嫉妬の様な羨ましさも感じますが、目の前でネズミが跳ね飛ばされる姿を見ているとそんな気持ちが馬鹿らしくなってきます。
「「ぎぅぎー!?」」
切り込んで切り上げて空を舞うネズミ、跳びかかって来たところをシールドバッシュで撥ね上げられるネズミ達、
「「「ぎぃ~!?」」」
先程の一撃で構えが解けるクラリッサ、その動きを隙と見たのか跳びかかるネズミ達、しかし次の瞬間クラリッサは体を回転させて遠心力の力でもう一度シールドバッシュを叩きつける。そんな飛ばされるネズミ達を見てちょっと面白いと思ったのはナイショです。
「あはは、ラットが飛んでる・・・。それにしてもいったいこれだけの量がどこから」
少し緩んだ意識を引き締めて次の詠唱の準備をします。どうしても魔法と魔法の間にはクールタイムと言うものが必要です。無理をすれば連続詠唱も出来るのですが、私の実力ではまだ軽度の魔力欠没を起す心配がある為実戦では使えません。
「結界が、流入量が増えてきた・・・ユウヒさん無事だと良いんだけど」
詠唱準備を完了させた私は目標を確認する為、今もネズミが跳ね飛ばされている方向を見る。するとその視界に結界の解れが酷くなってきているのが見え、その揺らめく結界のせいか戦闘中にも関わらずユウヒさんを心配する気持ちが私の心の中で大きくなるのでした。
カステルが結界の揺らぎに心のもやもやを呼び起こされている頃、ロップとサワーリャの守る場所でも次第にネズミの流入が増えていた。
「うわぁ・・・気持ち悪いね」
「よくこれだけ居たもんだな・・・でも索敵実習では気が付かなかったのになんで」
「なんでだろうねぇ? あ! また結界越えて来た! 今度は多いよ!」
目の前の結界に立ち往生している大量のネズミに、気持ち悪そうに小さな眉を寄せて顰めるロップ、その横では急に現れたネズミに不思議そうな表情のサワーリャ、そんな二人が居るのは中距離支援用の土嚢壁だ。布袋に土などを入れて積まれた簡易の壁で、たいした耐久力も無いが何も無い良りマシとニオウチームによってあちこちに作られているものの一つだ。そんな壁に隠れて顔を出していたロップがネズミの結界内への侵入を見つけ叫ぶ。
「先に行くよ! 我等は蛇の血流るる者、故に我らが一撃は蛇の顎! ファイ・レ・サーペント!」
ロップの声にサワーリャはすぐに反応し前衛に到達する前に間引きをする為、縦に割れた瞳孔で目標を確認すると声高く世界に魔法を宣言した。
この時サワーリャが使った魔法は種族性と呼ばれるタイプの口語魔法である。この魔法は一般に獣人族などが好んで使う魔法で種族固有の魔法として認識されている。種族性魔法には特徴的な魔法が多く、またその種族にあった相性の物であれば使用者の体に与える負担も少なく、連続使用や詠唱破棄など比較的容易に可能な魔法なのである。
「あ、こけた」
「なんで味方の援護にびくつくのかねぇ・・・当てやしないのに、信用無いのかね?」
サワーリャの手から放たれた複数の炎は、長い蛇の形になりながら放物線を描くように飛んで行き、その口のような先端を大きく広げると、ネズミ達に噛みつくように着弾し爆炎を広げた。その決められた対象に向かって飛んで行く姿から、どうやら命中重視の魔法の様だ。しかしそんなサワーリャの支援に、前衛の生徒はびっくりしたのか後退りして足元にあった倒木に足を取られていた。
「しょうがないよぉ中等部なんだもん、あちこちで迷惑かけてるし・・・」
「・・・そだな」
サワーリャの呟きにロップは苦笑いしながら答え、その返事の内容に覚えがあるのだろうサワーリャもしょぼんとした顔になる。この時二人の思い出していたのはつい最近誤爆してしまったユウヒの姿であったのは彼女達だけの秘密である。
「じゃ次ロップ行くね! 我、兎族にして大地の加護を受し者! 大地よ我思いに応えよ! ホップ・ロック!」
「調子良いみたいだね」
なんだかテンションの下がる空気に、ロップは頭を振って気分を変えると元気な声を出す。こちらも種族性魔法を詠唱なのだろう、その魔法は発動すると足元にあった一抱えほどの石を複数個浮かび上がらせ、そのままロップが手を翳した方向へと綺麗な放物線を描き跳んで行く。サワーリャ曰くどうやら調子が良い様である。
「美味しい物いっぱい食べたからね! 豊穣神ユウヒに感謝だよ。続けて行くよー! ホップロック!」
「ほうじょうしん・・・食べ物で魔法って強くなるんだね。私もなってるかな? もっと本気でやってみよ」
その調子もどうやらユウヒの齎した美味しい食事のおかげらしく、ユウヒの事を神と呼び今度は詠唱を破棄した魔法で足元にあるこぶし大の石を次々と発射するロップ、そんなロップの姿に感化されたのか自分も強くなってるかもと、サワーリャは土嚢壁に上ると気合を入れて魔法を放ち始めるのであった。
「うひ!?」
「ほあ!?」
自分たちの後方でそんな会話がされているのだ知るわけがない二人の男女、彼らはロップ達の前衛を務めているのだが、前方のネズミより後方の味方の魔法支援に恐怖していた。
「あ、あの二人の魔法すごくない? めちゃ怖いんだけど・・・」
「たぶん種族系の魔法かな・・・もう少し後退するか、巻き込まれたら怪我じゃすまないぞ?」
後方支援の爆炎に怖いと恐怖を洩らす冒険者科の女の子、槍を握る両手は若干震えている。その隣では冒険者科の男の子が両手剣を最後のネズミに突き立て、すぐ目の前に降り注ぐ二人しかいないはずの後方支援の弾幕に恐怖し、剣を引き抜くと無意識に後ずさる。
「それじゃいくよ、後退時は姿勢を低くして仲間の射線に注意してっと」
「よし、先に行け後ろは任せろ」
「ちゃんと付いて来てよ?」
二人は目を合わせて静かに頷くと、女の子は授業で習ったのであろう後退の基礎を呟きながら姿勢を低くして後退を始める。その後ろでは男の子が女の子に心配されながらも、低い姿勢を維持し後方を警戒しながら進む、そんな二人のどこかぎこちなくも慣れたような動きからは冒険者科の授業内容が垣間見れるのだった。
ロップ達がまだ戦線の維持に余裕が持てている頃、その反対側は若干押されていた。
「おおおお!! はっ!」
「「先生!」」
そんな中ネズミに囲まれ今にも跳びかかられそうな状況に追い込まれた冒険者科生徒の前に、気合の声と共にオルゼが飛び込んでくると、その両手で握りしめた大剣を振りおろしネズミを吹き飛ばす。
「どうやら無事な様だな」
「はい、なんとか・・・」
良くない状況に歪んでいた顔も、オルゼの余裕の笑みと声に明るい表情を取り戻す。その表情からは生徒達からの信頼を感じとれオルゼも少し嬉しそうである。
「ふむ、少し後退しよう。そろそろ第一結界ももたないだろう」
「先生大丈夫でしょうか・・・」
「大丈夫だみんなで力を合わせれば何とかなる」
「「・・・はい!」」
オルゼの放った一撃は、数匹のネズミを吹き飛ばすに止まらず後方に居たネズミごと縺れてネズミ雪崩を起したようで、そのため後退するだけの時間が稼げていた。生徒の疲労度とその様子からオルゼは後退を決めると生徒に告げる。その後退指示と結界の状況に不安そうな顔をする生徒だったが、オルゼの返事に顔を見合わせると元気に返事をするのであった。
「それじゃ後退する。あそこの土嚢壁まで下がるぞ! ちゃんと援護も入るから焦らず行け」
「「はい!」」
元気の出てきた二人の生徒にオルゼは男らしい笑みを零すと指示を出し、オルゼの指示に元気よく返事をした生徒達は姿勢を低くしながら後方を気にすることなく駆けて行く。
「む、また漏れたか」
「ギギギギ!」
「ふん! 邪魔だ!」
「ギビュ!?」
生徒達を見送り殿を務めるオルゼの視線の先には、新たに結界を抜けてきたネズミが一匹猛然とオルゼ目掛けて走ってくる。二体の距離はすぐに縮みネズミが跳びかかってくるも、オルゼが気合を入れて大剣を構え大振りに振り抜くと、鈍い打撃音と共にネズミは呆気なく撥ね飛ばされる。
「大丈夫とは言ったものの・・・不味いな、結界もう少し良いの用意しとけばよかったか?」
安全を確認したオルゼは後退する生徒を歩いて追いかけるが、目に見えて衰退していく結界に今更な事を呟き苦い顔をするのだった。
オルゼが今にも結界が壊れそうな状況に苦い顔をしている頃、カステル達は少しづつ後退しながらも前線を維持していた。
「は! えぇい!」
「クラリッサ下がって! ファイ・ド・ボール!」
しかし、クラリッサとカステルの連携は現状前線を維持できているものの、無傷と言うわけではなさそうだ。今もカステルの放った魔法により発生した大きな爆炎により、照らしだされるクラリッサの露出した褐色の肌には、ところどころ血が滲んでいるのが見える。
「・・・行く」
「待って! ・・・結界が持ちそうに無いですね」
「・・・あ」
カステルの隣で爆炎が晴れるのを待っていたクラリッサは、短い言葉で再突入の意志を示す、しかしその突入もカステルに襟部分を掴まれ止められる。クラリッサは気にしていなかったのか、カステルの言葉に結界を確認すると状況を理解し短く声を漏らす。単純な戦闘能力は優秀なクラリッサだが、状況判断能力ではカステルに一日の長があるのは仕方ないのだろう。
「後ろは・・・ラッセル! キリノ!」
「「は、はい!」」
「第二結界まで後退して! 結界がもうすぐ壊れるの」
「「りょ、了解!」」
現在、前線の維持が出来ているものの、一度結界が壊れてしまえば後は物量に飲まれてしまうだけであり、ここを引き際と判断したカステルは後方を確認し、第二結界外に居る二人へ後退を指示する。その判断と指示する姿からは彼女の冒険者としての経験を感じる事が出来る。
「カステルがきりっとしてる」
「もう、茶化さないでよクラリッサ・・・私も柄じゃないのくらい分かってるの」
「ん? かっこよかった、よ?」
「うぅ・・・ほ、ほらまた来たわ! 私達も下がりましょ」
そんなカステルの姿にクラリッサはキラキラした瞳で、率直な感想を告げる。クラリッサの瞳に照れてしまったカステルは赤くなった顔を背け、更なる追撃に耳まで赤くすると自分達も下がると言ってクラリッサの手を引っ張る。
「殿は騎士の仕事・・・行く」
「大丈夫よ、距離もまだあるから行きましょ」
「・・・わかった」
しかし結界の綻びから流入してきたネズミを確認したクラリッサは、騎士の仕事を遂行しようと構える。そんな彼女の姿に困ったような笑みを向けると、腕を取り引っ張り歩きはじめるカステル。自分を引っ張るカステルとネズミを交互に見比べたクラリッサは、小さく返事をするとパタパタと足音を立てながらカステルに付いて行く、その姿からは先ほどまでの猛々しく戦っていた姿など想像できず、どこか微笑ましい空気を纏っているのであった。
どうもあと少しで休憩場にたどり着くユウヒです。【探知】のレーダーによればまだ結界は維持されているようですが、壊れるのも時間の問題の様で進める歩にも力が入ります。
「・・・(急いで行ったとして物量に抵抗するなら広域殲滅だろうな・・・)」
「・・・心配?」
かと言って急いで俺が駆け付けたとしても、今ある手札でどれだけ出来るか不安です。まさかアニメのヒーローの如く奇跡が起きたりしないでしょうし、ぶっつけ本番で大きな魔法を作るなんてリスクが大きすぎてとても推奨できない。そんな俺の考えは表情に出ていたのか、モミジが少し心配そうに声を掛けてくる。
「ん? まぁな・・・どんな戦いも物量の前では苦戦を強いられるからな」
「結界はまだ消えていないみたいだから、大丈夫だと思うよ?」
「心配してくれてありがと(いきなり広域殲滅とか自重しないと最悪の結果を招きそうだしなぁ)」
基本的に戦いに置いて防御側が有利なのだろうがこの物量である。敵対反応を示す赤い表示は一個の大き何かのように蠢いていて不気味で、モミジの優しさに癒されるも解決案は中々浮かばない。
「・・・(ゲームの中なら・・・現実にゲームの世界を持ち込むなんて末期かね?)」
「・・ユウヒはこんな戦い前にも経験あるの?」
「どうして?」
「そんな感じがした」
「まぁ、無い事は無いな」
良い案が浮かばない俺の頭は現実逃避を開始したのか、オンラインゲームの事を思い出し始めた。そんな俺の表情を目敏く読み取ったのか、モミジがそんな質問をしてくる。
「聞いても良い?」
「ああ、あれはギルドのメンバーと希少な素材を狩りに行った時だったな・・・」
何も良い案が浮かばないならば、この際ゲームの話でもして良い案が浮かべばと言うどこかズレた考えが思い浮かび、俺はゲームの世界で遭遇した出来事を、モミジに話し始めたのであった。
いかがでしたでしょうか?
今回は戦闘描写を書く必要のある回でした。はい、正直苦手です。それでもキャラクター達の戦う姿を楽しんでいただければと頑張らせていただきました。
それでは今回もこの辺で、次もまたここでお会いしましょう!さようならー




