第六十話 増える騒動
どうもHekutoです。
亀更新に磨きがかかりつつありますが・・・六十話の更新出来ました。それでは今回もワールズダストの世界をお楽しみください。
『増える騒動』
深夜、人も鳥も寝静まりユウヒが木の上で身じろぎをしている頃、ここでは緊迫した空気と外から騒がしい喧騒が聞えてくる。大きく、また各所を鉄板で補強された馬車を囲むように緑色の幕が設置してあり、さらにその中央にはテーブルと椅子、それから立ったままの数人の人影があった。喧騒はそんな幕の外、少し離れたところから届いているようだ。
「・・・」
「アルディス様・・・」
「うん、まさか暗くなってから戦闘になるなんてね」
沈黙を破ったのはバルカスの声だった。魔石を使ったランプに照らし出されているのはグノー王国の王子アルディスとバルカスなどの騎士達、彼らの前にはテーブルを挟んで数人の褐色の肌の女性、どこか緊迫した表情の中にも妖艶な空気を感じるオルマハールの騎士シラーとその側近、さらにアルディスの後方にある馬車の近くにはメイが待機しているようだが、その表情は魔石の灯りでは光量が足りず窺い知る事は出来ない。
「やはり普通じゃないのでしょうね・・・」
「現在は各自迎撃しつつ守備隊形を構築中です」
アルディス達の話から現在進行形で暴走ラットの襲撃を受けているようである。、シラーの普通じゃないと言う発言からも分かるように、通常夜は行動しないと言うシリアルラット系暴走ラットの常識を覆す状況に、皆困惑を隠せないようである。
「私達は本陣から離れていて被害は無かったので、すぐに支援を出しましょう」
「うん、よろしく頼むよ」
「はい♪」
シラー達蛇神騎士団は、全隊の後方に布陣していたおかげか未だ被害は受けていないようで、グノー騎士の報告を聞いてすぐに支援を出すようだ。そんなシラーの言葉に心強さを感じたアルディスは、シラー達をいつもの笑顔で激励する。シラー達数人の女性騎士もまた笑顔で返事をするとその場を後にしたのだが、そこに残ったアルディス以外の男性陣は揃って微妙な表情を浮かべている。しかしそんな周りの様子にアルディスは気が付く事は無かったのであった。
「あと怪我した人は無理しないようにね」
「はっ! 伝えておきます」
シラー達を見送ったアルディスは、そのまま視線を幕の外側で待機していた伝令兵に移すと一声かける。そんなアルディスの気遣いに嬉しそうに敬礼をした伝令兵は、軽快な足音を立てながら駆けて行く。他の騎士達もどこか楽しそうな笑みを浮かべながら戦場に向かっていくのであった。
それからしばらくして・・・。
キュゥン・・・ドォォン!!
「あわわ!?」
「流石素早いな」
上空から風を切るような音が聞こえたと思うと、赤い光と続くように聞こえてくる爆発音が響く。急な出来事に待機していたメイはびっくりしたのであろう、不意に聞こえた風切り音に空を見上げた姿勢のまま爆発音に目を白黒させ慌てている。その隣では落ち着いた様子で、遠くに見える赤く燃え上がる火柱を見詰めながらバルカス感心したような声を漏らす。
「な、なにごとですか!?」
「大丈夫だよメイ」
目を白黒させていたメイはやっと声を出すことを思い出したのか、吃りながらも声を上げる。しかしメイもアルディスに仕えるメイド、主を守るように・・・もとい守られるような状態で、ニコニコと声を掛けるアルディスに頭を撫でられている。
「蛇神騎士団の連携魔法ですね・・・もう一発来ます」
ヒュゥン・・・ドォォン!
馬車の屋根に上ったバルカスが状況を報告する。その言葉に今度は落ち着いて空を見る事が出来たメイの目には、空を飛んで行く炎の塊が映っており、しばらくしてまた遠くに赤い光が広がる。
「はぁ・・・あんな魔法あればすぐ終わっちゃうんじゃないでしょうか? 討伐」
「それはちょっと無理がありますね」
「ん?」
遠くに居ても感じる強力な魔法の力にメイは今回の討伐の早期終結を予想するも、予想を否定する声が後ろから掛かる。アルディスが声の発生源に目を向けるとそこには長いローブを身に纏った小柄な人の影があった。
「あ、これは失礼しました。魔法士隊所属の結界魔法士ベリルです。アルディス様」
「ああ、気にしないで」
「あの、どうして無理なんですか?」
声の主は自分の失態に気が付くと慌ててアルディスに頭を下げる。アルディスの方はさほど気にしていないようであったが、その後ろのバルカスの表情を見れば恐縮するのも仕方ない事だろう。そんな空気を読まず知的好奇心の虜となったメイは先ほどの話の続きを促す。
「えっとはい、あれは儀式魔法の一種で大量の魔力と集中力に儀式場それから触媒と神への信仰心と色々制限がきついのです。なのでそう何度も使う事は・・・」
「そうか、僕も一度見たことがあるけど制限があるからこそあの威力なんだね・・・」
メイからの質問に一瞬アルディスの顔を窺うベリル、その視線の先にはいつも通りのニコニコとしたアルディスがコクリと頷き説明を許可する。その説明によるとアルディスも一度見た事があるらしいこの長距離からの強力な魔法は、使用する為に複数の条件があり制限の厳しい魔法だと言う。
「はい、我々グノー魔法士隊もあのくらいやって見せたいところですが・・・申し訳ありません」
「だ、大丈夫だよ!? 焦らないで頑張ろう? ・・・ところで何か用があったんじゃないかな?」
アルディスの感心した声に何故か肩を落としたベリルは、自分達もあれくらいやってやりたいと言葉を漏らすも、現状自分達にはそれほどの火力を誇る魔法が無いのかアルディスに謝罪する。いきなり謝罪されたアルディスの方は、その気質もあり慌てて項垂れる彼女の肩をとって元気づける。しかしふと彼女がここに何をしに来たのか気になると要件を聞きだす。
「あ、そうでした結界石の強度を上げますので中に入ってもよろしいでしょうか」
「うん大丈夫だよ」
結界石とは、結界を維持するための基点となる装置であり、その結界石に様々な加工や操作を施す事で多種多様な結界を作れる物だ。簡易な結界ならただの石や木片でも基点に出来るが、兵器として運用するには色々な面で不具合が多い。その為、通常軍事行動を行う時は大小はあるものの、必ず結界石を運用することになっている。
「失礼します・・・あと推測ですが支援砲火はあと一発が限度だと思います。でわ」
「ふむ、流石魔法士ですな」
彼女の本来の目的は、アルディス達の居る幕を覆う結界の強度を上げる為である。そのことを思い出しはっと頭を上げると、了承を取って馬車内に設置してある結界石に向かうベリル。しかし馬車に入る一歩手前で振り返ると儀式魔法に関する予想を伝え、もう一度会釈をすると馬車の中に入って行った。そんなベリルの洞察力に感心するバルカス、しかしその隣ではアルディスが何かを考え込んでいた。
「・・・」
「どうしましたアルディス様?」
「あ、ごめんごめん・・・今の話を聞いてたらユウヒの魔法の凄さが良く分かるなぁと思って」
振り向き考え事しているアルディスに気が付いたバルカスは、どうしたのか気になり声をかける。するとアルディスは、表情をいつものニコニコとした明るいものに戻すと、どこか嬉しそうにユウヒの名前を上げる。
「確かに・・・ユウヒ殿の魔法はいったい何を代償にしていればあれだけの威力になるのか」
「確かに・・・」
「結界強度補正終わりました・・・ん?」
アルディスの何気ない言葉に今度はバルカスも神妙な顔で考えはじめ、それに釣られる様にメイも又、難しい顔で考え始める。そんな場所に結界の補正を終わらせたベリルが現れるのだが、入った時と全く違う雰囲気に不思議そうに首を傾げるのだった。
深夜のグノー国内で大規模な討伐戦が開始された頃、ここは帝国国境と学園都市を結ぶ街道の一つ。そこでも暴走ラットと戦う者の影が・・・。
「ふはははは邪魔だ邪魔だネズミ共! 我前に平伏すが良い!」
「活き活きとしてるでござるな・・・」
「まぁ飯の恨みは怖いらしいし・・・」
その身に宿る忍者の力を遺憾なく発揮し、次々とネズミを蹴散らすジライダ、そんな彼を余所に樹の上にはゴエンモとヒゾウが口をもぐもぐさせながら暴れるジライダを眺めていた。彼らの居る樹の根元には串に刺され、こんがり焼けた焼き魚が置いてあった、しかし水溜りにでも落ちたのか泥だらけである。
「ジライダすぺしゃーーる!!」
「「「「ギギギーー!?」」」」
ジライダは己が糧を奪われた怒りにより、我を忘れた狂戦士のごとくその剛腕を振り上げ、大きな声と共に振り下ろす。すると拳が地面に触れた場所から亀裂が入りネズミを吹き飛ばし大地にクレーターを作る。
「ジライダエクスプロージョン!!」
「「「「ギッギギーー!?」」」」
そんな強力な一撃が繰り出されたにも関わらず、被害を受けなかったネズミ達はジライダに跳びかかる。しかしジライダは慌てることなく懐に手を入れ黒いナニカを取り出すと気合の声と共に周囲にばら撒く、その瞬間黒いナニカは閃光を放ちネズミを巻き込み爆発する・・・ジライダも巻き込みながら。
「ジライダがエクスプロージョン・・・」
「所謂自爆でござるな」
「誰がうまい事言えとふれあー!!」
「「「「ギギャーーー!!」」」」
目の前で繰り広げられる一般人が視れば腰を抜かしそうな戦闘が行われる中、ヒゾウは呆れゴエンモは地図を見たまま冷静にツッコミを入れる。そんなツッコミに爆炎の中から跳びだしてきたジライダはツッコミ返しなのか技名なのか分からない声と共に広範囲に先程と同じ黒いナニカをばら撒く。哀れネズミは爆炎に呑まれるのであった。
「もう技名として成立してるかもわからんな」
「楽しんでいるので良いのでござろう・・ん、こっちの道で正解でござる!」
「・・・」
爆炎で下の様子が分からなくなりヒゾウはゴエンモに声を掛ける。ゴエンモは地図を見ながら楽しそうに返事を返すと道順を確認し終えたのかヒゾウに目を向けながら嬉しそうな声を上げる。しかしヒゾウは微妙に嬉しくなさそうな顔をする。
「珍しく道を当てたのに嬉しくなさそうでござるな?」
「いや俺さ・・・最初はあっちの道だと思ったんだけど、ものすごく変な予感がしてさ・・・なんだったのかと」
「「変?」」
ゴエンモの言葉から分かるようにヒゾウは珍しく正解の道を言い当てたのだが、ヒゾウ曰く本当は間違った方の道だとお持っていたらしい。その事もあるが変な予感もあり二重の意味で気味悪そうな顔をするヒゾウ、そんなヒゾウに声を揃えて不思議そうにするゴエンモとジライダ
「なんだかいい事ありそうだけど、それ以上に何かに巻き込まれそうな・・・狩り終わったのか」
「ふっ・・・朝飯前にもならんわ!」
二人が不思議そうな顔だったので感じた予感をそのまま伝えるヒゾウだったが、いつの間にか戻っていたジライダに不安そうな顔を呆れた顔に変え呟く。その声にジライダは胸を張りながら尊大に答える、どうやら暴れたおかげか怒りは爆発と一緒にどこかへ飛んで行ったようだ。
「晩御飯だったしね、それじゃ行くでござるよー」
「あ、こら!? 引っ張るなおちる!? あぁぁぁぁ!?」
地図を仕舞い立ち上がったゴエンモは、いつまでも胸を張ってポーズをとっているジライダの襟首を掴むと、そのまま荷物のように持たれたジライダの悲鳴を残し4メートルほど下へと飛び降りたのだった。
「なんだったのかなー? 背筋を氷が滑り落ちる様な氷漬けになるような・・・」
「ふむ、軽い風邪だろ・・・」
しばらく道を進む三人だったが、やはり先ほど感じた予感が気になるのかぶつぶつと呟くヒゾウ。そんな最後尾を歩くヒゾウに、未だ襟首を掴まれずるずると引きずられているジライダが適当に返事をする。
「なるほど、それは症状を軽く見て重病に陥るフラグでござるな」
「・・・俺、学園都市着いたら病院行くんだ」
そんなジライダの言葉に口元に笑みを浮かべながらネタをヒゾウにパスするゴエンモ、そして神妙な雰囲気はどこへ行ったのか楽しそうにネタで返すヒゾウ。
「「死亡フラグ乙www」」
そして起るゴエンモとジライダの笑い声、それに釣られて笑うヒゾウ。このやり取りもまた彼ら同士のコミュニケーションなのだろう。その証拠にさっきまで彼らの中にあった暗い雰囲気はどこへやら、いつもの彼等らしい明るい道中に変わっていたのだった。
木々がひしめく大きな森の奥深く、しかしその一部には不思議と木が一本も無くただぽっかりと空に口を開いていた。
「ギギ・・・」
その中央には無数のシリアルラットが、どこかイライラした空気を出しながら集まっている。
「「ギチュー!」」
まったく動かない集団のさらに中央、どこか他と違う雰囲気を出す一匹のシリアルラットが不意に頭を勢いよく上げると、一匹なのにもかかわらず同音の鳴き声が重なり合った鳴き声が響かせると、次の瞬間単細胞生物が分裂するように二匹目のシリアルラットが現れる。
「ギギギ!」
「ギギ?」
増えた一匹は何が起こっているか分からない様で、フラフラと周りのシリアルラットにぶつかりながら歩いて行く。しかしその行動が引き金となりとある現象を引き起こす。
『ギーギーギー!!』
爆発するように一斉に鳴きはじめたシリアルラット達は、その目に狂喜を浮かべ一斉に移動を始める。そう、群れは暴走ラットへと変貌したのだった・・・その場に二匹とさらに一匹増え3匹になったシリアルラットを残して・・・。
人々が寝静まる深夜の村の中、その村に焦ったような鐘の音が鳴り響く。
「うぅ~?」
「・・・非常事態の鐘?」
その音は二人の親子の耳にも届いたようで、男性がベッドから飛び出しその鐘の音に耳を澄ませる。その隣では少女だろうか、眠そうに眼を擦りながらのそのそと起き上がる。
「起きてるかガレフ! 暴走ラットだ! すぐ準備してくれ!」
「たく・・・ほんと異常だな今回のネズミ災害は・・・」
鐘の音とドア向こうからの知らせ、昨日終わったと思われた暴走ラットがまたも襲ってきたと言う事実にガレフは疲れたように独り言を零す。
「ぁーぅーじゅん<ゴツ!>・・・いたぁい」
「・・・はぁ、シェラ急がなくていいから目覚ましてから準備しなさい」
「・・・ぅん」
しかしそんなガレフの真剣な雰囲気も、愛娘のシェラがベッドの上で繰り広げる格闘戦の前では陳腐なものに変わる。口元を緩めベッドに目を向けると、そこにはどこでぶつけたのか頭を押さえて閉じた目尻から小さな涙を流すシェラの姿。ガレフはそんな微笑ましい娘の姿にやさしく声を掛けると、返事を待たずに部屋を出て行った。一人になった部屋の中では、やっと目を開いたシェラがキョトンとした顔で小さく返事をするのだった。
宿の一階にある酒場にやってきたガレフは先に、と言うより酒を飲んでいたらしいヒューリカの下までやって来る。
「状況は?」
「はぁやってらんないわよねぇ、数はそう多くは無いらしいけど・・・シェラは?」
「・・・ゆっくり準備させてるよ、戦闘になる前に怪我しそうだったからな」
「はっはっはっはあの子らしいねぇ」
後ろからかけられたガレフの問いかけに、木のカップに入ったエールを片手に持ちながら愚痴と情報を話し出すヒューリカだったが、もう一人の姿がない事にキョトンとした顔をする。そんなヒューリカにガレフは頭を掻きながら微笑ましそうに話し、その内容にヒューリカは楽しそうに笑いエールを傾ける。
「おうガレフ来たか! 早速で悪いが長槍を頼む」
「ああ、それで数は? 多くないと聞いたが」
「それがよく分からん、2~3匹で現れたかと思うとまた別の10匹くらいのグループで現れたりと散発的に出て来るんだ」
「なんだそりゃ?」
騎士姿の男性が部下を伴い酒場に入ってくると、すぐにガレフの所へとやって来る。そんな騎士姿の男性にガレフは状況について質問するも、帰って来た内容に妙な顔をする。
暴走ラットは基本的に偶然遭遇する時は少数だったり大勢だったりするのだが、何故か村や町を襲うときは纏まって行動すると言う習性がある。ガレフが妙な顔をするのもこういう理由があるからだ。
「なんだか嫌な出方だね、んー? 昔似たような事無かったかね?」
「・・・あーいつだかの砦攻めに使った作戦に似てるな」
「そうそう! 何とかって言った軍師様が相手に休ませない様に一日中代わる代わる攻撃しかけたっけね?」
そんなネズミの行動に、ヒューリカは何か覚えがあったようでガレフに話を振る。ガレフはしばし考えると思い出したようで、その内容は以前盗賊の砦を攻める依頼の時に国の軍師が実行した計略であった。
「おいおいまってくれ、それじゃ何か? ネズミ共が俺らに計略を練って来たってのか? 勘弁してくれよ」
「まぁそりゃ無いだろうが、このまま散発的な攻撃が続くなら不味いってこった」
「そうだねぇこっちも何か考えないと、まさか暴走ラット相手にこうもしてやられるとは思わなかったねぇ」
騎士姿の男性はあり得ないような話に本気で嫌そうな顔をする。そんな男にガレフは肩を竦めながら予想される事態に頭を巡らせ、ヒューリカも胸の前で腕を組みながら唸る。
「誰だって思っていなかったさ・・・。一応討伐隊が出たらしいからな、その到着迄交代で頑張るしかないだろう」
「それじゃローテーションの計画は頼んだよ?」
誰だってこんな異常は予想できないと言い立ち上がるガレフ、その後ろに続くヒューリカは騎士姿の男性の隣を通り抜けざまに後は頼んだと声を掛ける。
「ぅえ!? 手伝ってくれないのかよ!」
「なぁに言ってんだ、そう言うのは騎士様の仕事だろ?」
「そうだねェ、アタシらはちょっと眠気覚ましに運動してくるとしようかね」
「俺一人かよ!? おーい!」
そんな口元をにやりと歪めたヒューリカの無情な一言に、慌てて振り返る騎士姿の男性だったが、ガレフとヒューリカの連携口撃に反撃する事叶わず空しく右手が空を掴む。
「はっはっはがんばれよー」
ガレフの楽しそうな笑い声の中、二人の兵士はそっと逃げ出そうとしたのだが。しかしこのすぐ後、流石にこれ以上戦力(考える仲間)を減らしてなるものかと、必死な表情で騎士姿の男性に追い掛け回されることになるのだった。
「・・・?」
それから小一時間後、やっと目が覚めて準備を終えたシェラが一階の酒場に降りてくると、そこには二人の部下と頭を抱えながらローテーション計画を立てている騎士が居た・・・。
「・・・」
シェラはその姿をチラリと視線に入れると、すぐにガレフとヒューリカを探したが居ない様なので外に出ようと、騎士達の座るテーブルの横を通りすぎる。
「「「・・・・・・」」」
その時騎士達はシェラに気が付き助けを求める視線を送った!
「・・・・・・(知らない人にはついてっちゃダメ・・・うん、知らない人)」
しかしシェラはヒューリカの言葉を思い出すと、その視線を無視しガレフを探しに外に出て行くのであった。
「・・・神官にも見捨てられるとは」
「隊長無信仰でしたっけ?」
「一応信仰神はいるのだが・・・まぁいい頑張るか」
「そっすね・・・」
その後彼らは、今回の討伐依頼に登録されている冒険者リストを片手にローテーションを作る事3時間、その頃にはもう空は白み始めていたのだった。
単なる順番を決めるだけならばそこまで苦労も無いように思われるが、冒険者は自分で自分の身を守らなければならない為、基本的に依頼を受ける時に様々な条件など交渉をする。夜はダメ朝はダメなどの簡単な物から、妙に細かい条件までいろいろである。
特に今回の様に、様々な冒険者やパーティを集めた中規模依頼の場合その条件は多岐にわたるのである。しかし逆に国から発行される大規模依頼と呼ばれる依頼になると、交渉は難しくある程度国の意向に沿う形となる。かといって人数が増えるため楽になるわけではない。
「・・・時間かかりすぎじゃないかい?」
「こいつ腕だけで騎士になったからな・・・頭はほら、な?」
「・・・・・・馬鹿なの?」
「「「ぐふ!?」」」
そんな背景もあり、なんとかローテーションと作戦を立てた三人に辛辣な感想を漏らすヒューリカ、そんな彼女に察してやってくれと言葉を濁すガレフ、そしてその濁った言葉の中から真実を拾い上げるシェラ・・・素晴らしき連携プレイである。
「これが神官の精神攻撃か・・・」
「シェラだめだよ? 本当の事でも言葉にしちゃいけないこともあるんだから、わかったかい?」
「・・・うん」
恐るべき連携と神官少女から放たれた精神口撃に、思わず机の上に倒れ呻きにも似た声を吐きだす騎士姿の男性。そんなシェラにまるで母親が子供に言い聞かせるようにヒューリカが言い聞かせるが・・・、
「いや、ヒューリカそれ止めになってるからな?」
「「「・・・・・・」」」(しゅ~~)
「あら? あはは態とじゃないんだよ?」
後ろからガレフがつっこんだ言葉が表すように、頭を上げたヒューリカの目には机の上で真っ白になり、口から何か湯気のようで煙のような物が出ている気がする三人の男たちの姿あった。
「・・・(止め・・・)」
「あーシェラ、今のは覚えなくていいからな?」
色々な事を聞いて視て学ぶ御年頃のシェラは、今の状況から止め(とどめ)について興味を示したようだ。しかし流石は実の父親か、分かり難いシェラの瞳に宿る好奇心の色に気が付いたガレフは苦笑いを浮かべながら娘の頭を撫でると若干引きつった声を掛ける。
「・・・ん」
「「「・・・・・・」」」
しかし小さく分かっているのか良く分からない返事をするシェラの目には、机に突っ伏し涙と一緒に口から何かを漏らし続ける三人の男が映っていたのであった。
いかがでしたでしょうか?
今回は増え続ける暴走ラットの被害のお話でした。異常な状態でも逞しく戦い続ける者達、そして少女の口撃に沈む者達、彼らに幸あれ!
そんな人達の無事を祈りながら次回をお楽しみにしていただけたら幸です。それでは今回もこの辺で、またここで会いましょう。さようならー




