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ワールズダスト  作者: Hekuto


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第五十九話 森と風と豊穣

 どうもお久しぶりのHekutoです。


 はい、だいぶ間が開いてしまいましたが五十九話更新です。言える事は一つ、体調には気をつけましょう。それでは、どうぞ異世界をお楽しみください。




『森と風と豊穣』


 深夜の静かな森の奥、毎日必ず訪れる静寂の時間。しかし暗闇に包まれる森の中にも関わらず、そこは神秘的な光が溢れ、木々は不思議なドーム状の空間を形成していた。


「ねぇ、どうしたらいかな・・・」


「薬瓶を確保出来た事に関しては褒めてもいいかもしれないが・・・」

 そこには二人の男女の姿があった。男性に何かを相談する女性は、背中に鈍色から純白へのグラデーションが美しい一対の翼を生やし、青と緑と白の三色で構成された活発な印象を与える意匠の服を着ている。


 また女性の対面に座り女性の話に答えている男性は、まるで緑溢れる森の様な多彩な緑の衣を纏っており、美しい白い肌と透き通るような金色の髪に緑の髪飾りが映え、その姿は見る者を男女問わず魅了するであろう美しさがある。


「いやー、たまたま通りがかった風の精霊と一緒にがんばったからねー」


「しかしなぜそのまま私の所に来たんだ? そのままラフィールのとこに持っていけばいいものを・・・」

 両者ともどこかの美術品のような美男美女なのだが、今はその眉間に皺を寄せたり苦笑いを浮かべたりと表情を崩しており、神秘的な光景にも人間臭さを感じ取れる。しかし二人の会話からは、普通の人とはどこか違う雰囲気が伝わってくる。


「・・・だって、ラフィール怒ったら怖いじゃん」


「怒らせるのは大抵貴方ですがね・・・」

 男性の疑問に少し間を置いた後、居心地悪そうな表情と姿勢でボソボソと答える女性、そんな彼女の言葉に間髪入れず呆れた声を零す男性、その男性の表情からは精神的な疲れが窺える。


「うぅ、いったい私がなに「してるでしょ毎回?」ぅ!?」

 男性の言葉に正座の状態から横に両手をつくと、今にも嘘泣きを始めそうなセリフを吐こうとする女性。しかしその行動は突如背後に現れた女性の声で遮られ、その声を聞いた羽の生えた女性は全身の毛を逆立て文字通り飛び上がった。


「ラフィール!?」


「あわわわわわ!?」


「・・・そんなに驚かなくてもいいんじゃないかしら?」

 男性は急に現れた女性の姿を確認すると驚いた様に相手の名前を叫び、飛び上がった女性は瞬時に翼をはためかせ、男性の背中にまわり急いで隠れると、青く染まった顔だけを男性の背中から出す。そんな二人の驚き方に、どこか釈然としない表情で不平を漏らすラフィール。そう、突然現れた女性とは豊穣の女神ラフィールその人・・・もといその女神である。


「いやいやいや・・・お前それ実体だろ!?」


「実体って・・・そう言う時は本人って言うべきよ?」

 ラフィールの不平を却下した男性は、何かを確認するように視線を動かすと驚いた顔のままラフィールに言い返す。実はここに居るのはラフィール本人なのだが、本人はいつも寝ている為、外に出てくるときは分霊と呼ばれる実体を伴った分身のような物に行かせたり、精神体として現れたりすることが多い。だとしてもその男性の言い回しが気に食わなかったのか、さらに眉をよせやはり不平を漏らすラフィール。


「まぁそうとも言うが・・・」


「分霊も実体は実体なのですぅ・・・ってそんな事は良いとしてフーリー?」

 そんな違いについて説明するラフィールに、こちらもどこか釈然としない感じで呟く男性。未だ納得の行かない様な男性にラフィールは再度不平を告げようとするも、何かに気が付いたような表情をすると、逃走を図ろうとしていた女性に細めた視線を向け名前を呼ぶ。


「うひゃお!? ぅぃえはい!?」


「落ち着け」

 名を呼ばれ奇妙な返事をし、男性に呆れた視線と言葉を向けられる女性、彼女の名前はフールブリーズと言い、風の一翼を司る女神であり、またフーリーとは親しい者が呼ぶ彼女の愛称である。そんなフーリーは男性に落ち着くように言われても尚、青い顔のまま震えており、気のせいか一対のグラデーションの美しい翼も今は心なしか青白く見える。


「・・・フーリー?」


「・・・・・・はぃ」


「私に何か言う事はないかしら?」

 ラフィールが妙にゆっくりとしたテンポでもう一度名を呼ぶと、彼女は観念したのか男性の隣に顔を俯かせたまま正座し、搾り出すような返事をする。そんなフーリーの姿にやさしく微笑むと質問を始めるラフィール、まぁ微笑んでいると言ってもそれは口元だけであり、目は細められたまま全然笑っていなかったりするのだが。


「あぅ・・・ぃ!? すいませんでしたー!!」


「ふぅ、別にそこまで怒ってないから普通にして頂戴」

 フーリーはその質問にそっと視線を上げ、ラフィールの口元を見て少し表情を緩め、目をみた瞬間言葉を詰まらせ硬直すると、そのまま土下座へ移行するのだった。そんな彼女の姿に、今度は困った子に向ける様な本当の微笑みで普通にするように告げるラフィール、その微笑みはあの時揺り篭の中で娘達に向けていた物に近いだろうか。


「・・・ほんと? 怒ってない? 爆発しない?」


「なにがあったんだ爆発って・・・」

 フーリーは土下座からそーっと顔を上げると、上目使いでラフィールを見上げ真意を探るも、その発言の物騒さに男性はつっこまざるを得なかった。


「うふふ、知らない方が身の為よ? それで、やっぱりあなたが持ってたのね?」


「えーっと、うん、あの時に間違ってアタシの荷物に紛れ込んでて・・・」

 男性の発言にニコニコと微笑むラフィール、その微笑に男性は言い知れぬ圧力を感じ表情が引きつる。そんな事はどうでもいいと、フーリーの方に視線を戻すとラフィールは質問を続け、フーリーはまだ若干怖がっているもののゆっくりと事情を話し出す。


 既に気づいている方も居そうではあるが、先ほどからラフィールが言っている物、そしてフーリーと男性が話していた薬瓶、それは過去あの揺り篭内に保管してあり、現在紛失中で兎と蛇の姉妹も探している危険物である。


「だからってこんな事態にはならないわよね? 何があったのかしら?」


「えーへへへ、帰る途中風の精霊と遊んでたら・・・荷物ばらまいちゃってぇ」

 さらなるラフィールの質問に苦笑いと渇いた笑いを零すフーリー、その話の内容から伝わる彼女像はアレの様である。


「・・・おまえ馬鹿だろ」

 どうやら男性が代弁してくれたようだ。


「バカって言うなー!?」

 馬鹿と言われたフーリーは両手と翼を振り上げ襲い掛かるも、男性に頭を押さえられながら頭を撫でられている。ラフィール曰く「バカは馬鹿でもあの子は愛すべきおバカさんよ」との事である。


 神族は基本手荷物を持たない、それは神の持ち物には年月と共に力が宿るためで、そんなものを落とそうものなら地上にどういう影響を与えるかわからないからだ。それ故、何かを取り出すときは魔法で呼び出すのが一般的であり、手荷物を持つ神は細心の注意をしているわけだ。かと言ってこういった落し物は、まぁ毎年何件かあるのも事実である。


「それで運悪くネズミに・・・でもアレ封してたはずよ?」


「開けちゃいましたー♪ アイタァ!?」


「バカだろお前本当馬鹿だろ!? 普通封印してある物開けるか!?」

 しかしラフィールは腑に落ちない事があるのかさらに質問を続けると、フーリーは右手で後頭部を掻きながら明るく答える。その瞬間フーリーの頭を押さえていた男性の手は素早い動きでフーリーの頭を叩いていた。


「しょうがないじゃないか! 香水か何かだと思ったんだもん! だから開けて香りを嗅いだけど無臭だったから興味なくしてポイしただけだもん!」


「「・・・・・・」」

 頭を叩かれ若干涙目で頭を押さえるフーリーは、理由にならない言い訳をしだし、その内容に二人の男女は頭を抱えると無言になる。


「・・・・・・やっぱ鳥だからか」


「そうね鳥だから・・・」


「うわぁぁん! 二人がいじめるー!」

 そのままフーリーの事を可哀想な子を見るような暖かい目で見詰めながら、落胆と慈愛に満ちた声を零す。ラフィールに至っては目元に涙を溜めて口元を押えている。そんな二人の表情に本気泣きに移行しそうなフーリーであったが、


「本当の事だしな?」


「そうね」


「酷い!? 二人のきちくぅぅ!」

 二人の更なる追撃に怒りが悲しみを超えたのか、手に持っていたナニカを思いっきり男性の方に投げつける。この時のスピードは一般的な人間ならば目で追う事も出来なかったであろう。


「うわ!? あぶな!」

 しかしそこは人ならざる者、男性は間一髪謎の物体の軌道を見切ると紙一重で避ける。その動きはまるでどこかの映画や、フィギュアスケートの選手を彷彿とさせる動きであったことを記しておく。


「・・・・・・ねぇ貴女、今何投げたのかしら?」


 しかしそんな笑ってしまいそうな出来事にも、何故かラフィールは無表情になりフーリーに問う、今投げた物は何かと・・・。


「へ? それは返そうと思って握りしめてた・・・」


「握りしめてた?」

 ラフィールの問いにキョトンとした表情のフーリーは、今まで何かを握り締めていた手をわきわきと動かしながら思い出すと、その顔の血色を悪くしていく。そんなフーリーの事など気にせず、何故か影のかかった顔で問い詰めるラフィール。


「・・・薬瓶・・・」


「封はちゃんとしたのかしら?」


「してません・・・ひぃ!? ゴメンナサイ! モウシマセン! ダカラソンナコワイカオシナイデクダサイ」

 その問いに、自分がやってしまった失態に気が付きぽつり呟いたフーリーは、そっと自分の手元からラフィールへと視線を移すも、視線の先にあった美しくも凍てつくような笑みにガタガタと震えはじめると、片言になりながら命乞いをする。しかし・・・、


「うふ♪ 天誅♪」


「ぎにゃあぁぁぁ!!」


 ラフィールの呟きに逃げ出すフーリー、しかし女神まおうからは逃げる事など叶わず。そこで起こった惨劇に、男性はそっと目元の涙を拭うのであった。


「・・・フーリー乙」


 その日、とある森の奥から女性の声で乙女に有るまじき悲鳴が、聞こえたとか聞こえなかったとか・・・。





 そんなフーリーが悲鳴を上げている頃、ここはウルの森にある精霊の寝床と呼ばれる、精霊信仰者にとっては聖域とも言える場所。そこは不思議な淡い光りが溢れ、木で出来た広いドーム状の空間の中央には、とても大きな切り株がまるで踊り子の舞台のように鎮座し、その中央には一人の少女が足を伸ばし座っていた。


「ん? 何か音がした気がするけど・・・気のせいね」

 その少女とは、ユウヒが出会った木の精霊のモミジである。モミジは誰かさんの悲鳴に気が付いたのか、顔を上げしばらく耳を欹てるも興味を無くしたのか、視線を手元の紙袋に戻した。


「気のせいじゃないわよ!」


「あれ? ミズナこんなところに珍しいね?」

 しかしその瞬間、真後ろからモミジに向かって叫ぶように声がかかり、モミジが驚いて振り向くとそこには、彼女も久しぶりにその顔を見る人物が肩を怒らせ、子供が見たらひきつけを起こしそうな視線で睨んでいた。そこに居たのは、とある遺跡でユウヒが出会った水の精霊のミズナであった。そんな彼女にモミジは不思議そうな顔で首を傾げる。


「まぁ確かに珍しいけど・・・じゃなくて! 何であなたまでユウヒさんに! しかもプレゼントまで!」


「・・・そんな事言わなくても分かるでしょ?」

 本来精霊とは、自分のテリトリーから離れる事が少なく、それは強い力や自我を持つ物ほど顕著である。故にモミジのテリトリーであるこの場所に、水の精霊であるミズナが居る事は非常に珍しいのである。かと言って別に来る事が難しいわけでは無く、風の精霊のように世界中を飛び回っている精霊もいる。


 そんな珍しい行動に出た水の精霊ミズナの目的は、どうやらユウヒ関連であるようだ。その表情はまさに「夫を泥棒猫につまみ食いされた嫁の様だった」とは、水の小精霊談である。しかしそんな猛ミズナに対してモミジは、一瞬だけ視線をミズナに向けた後、顔を背けると簡素に答える。


 しかしその時、モミジが隠すように背けた頬が若干朱に染まっていた事は、水の小精霊トリオがしっかりと確認していたのだった。


「姉さんパナイわー」「まさか報告早々ここまで来るとか、予想外デス」「だから言ったのに・・・」


 そう、この一連の騒ぎの原因はこの水トリオの仕業であった。モミジのユウヒに対する昨夜の行動をミズナに報告したのだが、彼女らも姉がここまで直接乗り込むとは・・・若干一名予想していた様である。


「ぐぬぬぅ、でもそれはズルいですモミジ!」


「・・・だっておいしそうだったんだもん」

 そんな乗り込んできたミズナは、モミジの言葉に言い返すことが出来ず悔しそうにするも、ビシッと紙袋を指さすと咆えた。その指摘に対しモミジは恥ずかしそうに身じろぎし紙袋を抱きしめる様に隠すと、ボソボソと呟くように話す。


「だもんとか!?」「まぁ見た目ロリだからもんだいヴぁ!?」「まさかここでも撃墜されるとは、生きてるか?」「こ、効果はばつぐ・・・ぐふ」


「・・・はぁ、まぁ属性相関的にはそうよね。治療してあげるからおいで?」

 そんなモミジの可愛い行動に水精霊トリオは騒ぎ出すも、禁句に触れてしまったのか一名がどこからか現れた木の根に叩き落とされる。この世界の法則上、水と言う属性は木と言う属性に強くはない様である。


 ミズナは騒がしい妹達の姿に毒気と怒気を抜かれたのか、苦笑いを浮かべると治療の為にやさしく手招きをする。しかしここで素直に終わらないのが水トリオ、


「姉さんが優しいだと!?」「明日は槍が降る!?」「おま・・・まて、それは・・・フラグ」


「うふ♪」


「「ぎゃぁぁぁぁ!?」」「無茶しやがって・・・」


 建ててはいけないフラグを建てた二人の水精霊は、倒れ伏す水精霊の注意空しく他の同胞同様に、冷笑を浮かべたミズナの操る、禍々しい渦潮に呑まれてしまうのであった。


「騒がしい・・・はむ、美味しい」

 そんないつもなら静かな精霊の寝床に響く騒がしい声に、いつの間にか離れた木の上に移動していたモミジは口元を少し嬉しそうに緩めながら苦情を言うと、ユウヒから貰った飴玉を一つ、大事そうに口に入れ表情を綻ばせるのであった。





 精霊達の姦しくも微笑ましい? 声が森に響いている頃、こちらではとある異常を前に三人の男女が相談していた。


「で、あれはどうしようかしらね・・・」


「ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ」


「狩ればいいのでは?」

 困った顔で困った声を漏らすラフィール、その右手にはフーリーの頭が鷲掴みされており、フーリーは壊れた機械のように同じ言葉を口から垂れ流していた。目の前の二人に引きつった笑みを向けながらも、不思議そうに首を捻り案を出す男性。そんな三人の目の前、少し離れたところでは細胞分裂よろしく増え続ける大きなネズミがいた。


「無理よ、アレって元は豊穣の概念を魔力で濃縮した物なのよ?」


「あぁ、それはラフィールには無理な訳だ」

 そう、ラフィールの持っていた危険物は、フーリーがしでかした失態により、シリアルラットを増殖させ暴走ラットに変貌させた。それでもなんとか薬瓶の回収に成功したフーリーだったのだが、なんとおバカな事にしっかり封をしないまま男性に投げつけてしまい、まだ残っていた問題の液体を全て目の前のネズミに振りかけてしまったのである。


 しかし、分裂しているのは最初に薬品を被った一匹だけであり、細胞分裂のごとく倍々に増えることが無いのは、不幸中の幸いと言っていいかもしれない。


「そ、豊穣を司る者が豊穣を狩るなんて・・・できないことはないけど自傷行為と一緒よ」


「かと言って私も自分の森の生き物を無暗に狩ると言うのも・・・」

 そんな分裂速度とは別に、ラフィールが悩むにはもう一つ理由があった。ラフィールは豊穣女神である。そして問題の薬品は変質しているとは言え、元は豊穣と言う概念そのもの、その薬品に侵されたネズミを殺すと言う事は自分自身を傷つける行為に等しい。


 万全な状態のラフィールならば、苦い顔をしながらネズミの駆除をしたかもしれないが、今はアミールの居る場所に行った為、平然な顔をしているものの体に蓄積したダメージは相当重く、分霊一体作ることも出来ないほど弱っているのだ。


 さらに目の前で増えているネズミは、ウォルラットと呼ばれるネズミでこの森の固有種である。その存在は男性にとって狩りの対象に出来ない、本来なら護る対象であるのだから・・・。


「・・・失敗したわね、この子なら問題無く狩れたのだけどこれじゃ」

 その最悪な状況を打開できる人物、もとい神物は現在アイアンクローをされ壊れかけているフーリーだけである。彼女は風の女神、自由気ままに空を遊ぶように流れるそよ風、そんな彼女なら目の前のネズミを狩ったといても然したる問題は無く、二人もネズミが狩られる分には何の問題も無い様である。


「んー試しに・・・フーリーよ、今あのネズミ共を残らず退治する事が出来れば、ラフィール殿は許してくれるらしいぞ?」


「・・・!? わかった! やるます!」


「「おお!」」

 現在進行形で壊れ続けているフーリーの耳元に、男性は口を近づけるとボソボソと魔法の言葉を唱える。するとなんという事でしょう! 今まで壊れたレコードプレイヤーの様だったフーリーは、目に輝きを取り戻すとすくっと立ち上がり、気合の入った声を上げ復活したのです。若干噛んでしまったがそんな事は気にしない、ラフィールと男性は後ろに下がると超戦士フーリーに期待の眼差しを向けた。


「我、フーリーの名において! 風よ狂い踊れ!狂風爆葬!」


「・・・」


「・・・・・・」

 雄々しく世界に宣言し、膨大な魔力をもって風を操るフーリーの姿は輝いていた、そして巻き起こる狂風・・・。その素晴らしい結果にフーリーが風に向かって仁王立ちをするも、その後ろのふたりの表情は何故か固まっていた。


「退治しました! 許してください!」


「ねぇ、あれって死んだと思う?」


「どうですかね? 運が悪いと生きているかと・・・」

 くるりと振り返り笑顔を向けるフーリー、彼女が犬なら今頃尻尾を全力で振り、褒めて褒めてと甘えた鳴き声を出していることであろう。しかし現実とは時に残酷である。


 彼女は確かにネズミを退治したが、確実に息の根を止めたとは言えない。何故ならば、彼女の使った風の魔法に対してウォルラットはあまりに軽かったのである。そう、ネズミ達は狂った風に切り裂かれ押しつぶされる前に、強風でどこかに飛ばされてしまったのである。


「あるぇ?」


「はぁ、良いわ許してあげる・・・でも完全に退治したのを確認するの手伝ってちょうだい」

 フーリーはその想定外の反応にしょぼんとした表情でラフィールを見上げていた、唯でさえ小柄な彼女はどんなに背伸びをしてもラフィールの背には勝てないのだから尚更である。そんなフーリーの姿に何か言う気も無くなったラフィールは、フーリーの頭を撫でながら彼女を許すのだった。


「はい!」


「あれ? 視線がこっちにまで?」

 嬉しそうに返事をするフーリーの後ろでは、何故か自分にまで手伝えと言う意志の籠った視線が届いていることに疑問の声を漏らす男性。


「あなたの森なんだからあなたが一番詳しいでしょ? ウル」


「まぁそうだが・・・。とりあえず一つ言える事は、今この森には複数の人間達が来ていると言う事だが」


「・・・そう、先ずはその人間達の詳細把握からかしらね」

 このどこか釈然としない表情をしている男性は、この森に住まう神族で名をウルと言う。そう、ユウヒ達が来ているウルの森とは、この神族の男性が住む森であり、この森の全てはウルの守護対象なのである。それは森を訪れた者も住まう者もすべてが対象である。


「しかしもう暗い、明日の早朝から動くとしよう。あのネズミも夜は行動しないからな」


「・・・しょうがないわね、フーリー次は確実に仕留めるのよ?」


「はい! ・・・多少森が傷ついても良いよね?」


「・・・ほどほどにな」

 今三人の神族が存在する森『ウル』。その森ではひっそりと、しかし確実に騒動の足音が聞こえ始めていたのであった。それは当然ユウヒ達にも・・・。





「ん? ・・・・・・なんだか嫌な予感がするな、何も無ければいんだけど・・・」


 夜、ユウヒはふと目を覚ましじっと虚空を見つめた後、それだけ言うと抱える様に持っていた槍を胸に抱えなおすと、また夢の世界へ旅立つ。その時、大事そうに抱かれた魔法槍が微かに音を発していたが、誰もそのことに気づくものは居なかった・・・。




 いかがでしたでしょうか?


 今回はユウヒの出番は少なかったですね。その代わりこの世界の空気を感じれるような話だったと思います。しかし、こんな・・・神族なら一度会ってみたいものです。


 それでは今回もこの辺で、次回もまたここでお会いいましょう。さようならー

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