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ワールズダスト  作者: Hekuto


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第五十三話 ウルの森の晩御飯

 どうもHekutoです。


 五十三話完成しましたのお送りしたいと思います。ウル森に響いた叫び声それは一体!てなわけでどうぞお楽しみください。




『ウルの森の晩御飯』


 ユウヒに何かが落下した頃、ここは冒険者魔法士合同野外実習キャンプ地。そこでは5班の面々が和気藹々と野営実習に取り組んでいた。


「・・・・?」


「どうしたロップ?」


「今何か聞こえたような?」


 そんな中魔法士科の一人、垂れウサギ耳の少女ロップは急に立ち上がり片方の垂れ耳を少しだけ上げるとキョロキョロと周りを見回し始める。そんな彼女の挙動不審な動きに彼女の親友であるサワーリャは何かの作業の手を止めるとロップを見上げる。どうやらロップの耳にはユウヒの叫び声が僅かに届いたようである。


「獣だろ? それより焚火の準備はこんなものでいいのか?」


「・・それ積みすぎ」


「やっぱりそうか・・」


 そんなロップの様子に適当な返事を返すと自分の作業に戻るサワーリャ、そこには細い小枝を器用に積み上げたサワーリャ曰く焚火、と言う名の斜塔が出来上がっていた。そんな親友の姿に思わず脱力しながらも指摘するロップ、どうやらサワーリャも薄々感じていたようだがどうしたら焚火が斜塔になるのかは謎である。


「水汲み完了だよ!」


「太い薪も完了だ! ・・・それは積みすぎだと思うんだ」

 そこにキリノとラッセルが一仕事終えて戻ってくるも、目の前にある自分の身長ほどあるどこかの斜塔の様に積まれた枝に思わず呆れた声を出すラッセルとそれを突いて遊びだすキリノ。




「むぅ・・器用だな」


「そりゃ冒険者科だからなーこの位できねーと、こんなもんだな」


 それから少し時間が経ち斜塔はラッセルにより撤去され普通の焚火へと姿を変えた、その手際の良さにサワーリャは感心した様に呟くのだった。


「戻りましたー」


「今日の分の食糧貰ってきたよーって言っても固形スープとか塩とかで固形物が無いけど」


 今回の実習ではサバイバル技術も評価される為、食事として配給されるものは最低限の物しか用意されないのである。よって生徒達は必然的に食材の確保に走ることになるのだが。


「お、それなら戻ってくる途中カエル捕まえてきたぞ」


「あら美味しそうね」


 そんな食糧事情を聞いたラッセルは薪拾いの途中で見つけたのであろう、両手で持つほどの大きさの蛙を荷物に括り付けていた皮袋から取り出してみんなに掲げて見せる。両脇を持たれだらんと足を伸ばした蛙を、サワーリャは美味しそうねと言いながら腰を屈め正面から見つめる。その瞳孔は若干縦長に割れており、見詰められた蛙はガタガタと震え脂汗を出し始めるのであった。


「「食べるの!?」」


「「「「え? 食べないの?」」」」


 サワーリャの一言に抱き合い後退りながら驚愕の声を上げるレムリィとルニス、そんな二人の驚愕の声に不思議そうに首を傾げる残りの四人、その動きはぴったりと揃っていたりする。



「・・・(ユウヒさん遅いなぁ何かあったのかな)」


「あのカステルさん質問があるんですが」


「はい?」


 何やら騒がしい生徒達の近く、丸太に座りながらユウヒの帰りを両肘両膝を付けてさらに頬杖を付きながら待つカステル、そんな視線は空中を彷徨い心がどこかに行っている彼女の元にぞろぞろと集まる5班の面々、そして神妙な顔で質問をしてくるレムリィ。カステルは顔を上げると首をかしげながら聞く体勢を作る。


「あ、あの・・か、カエルは食材ですか?」


「うまいよな!」


「食べたことないですよぉ」


 ぷるぷると震えながら質問するレムリィ、おいしいよな? と恐怖で固まった蛙を抱きしめているラッセル、若干涙目のルニスそして・・。


「え? あーっと・・食べてみたら意外と美味しいよ?」


「「そんな・・」」


 そんな予想とは違ったカステルの返答に、まるで神は死んだと言わんばかりの表情をするレムリィとルニス、それとは対照的に明るい表情のラッセル達、どうやら人族のレムリィ達にとってカエルは食材では無く、獣人族やハーフであるラッセル達にとっては普通の食材の範疇であるようだ。小さなことだがこう言ったところにも種族間の壁と言うものがあるのかもしれない。


「まぁ私も最初は構えちゃったけどね、毒持ちじゃなければ大丈夫よ?」


「うぅ、女性でも冒険者ってたくましいのですね・・」


「あ、ははははは(たくましいか・・確かにいつの間にかこういうのにも慣れちゃったんだなぁ)」


 涙目のルニスを元気付けるカステルだったが、ルニスのまったく悪気のない尊敬の眼差しに乾いた笑い声が漏れてしまうも、初めて冒険者になった頃に比べ色々な事になれた自分に不思議な気分を感じるカステルなのだった。


「カステルお姉さまがそう言うのであれば頑張ってみます!」


「肉は手に入ったから後は、野菜があればちゃんとしたスープが出来そうね!」


 そんな様子に手を握り締めて決意表明するレムリィと、思ったより美味しい晩御飯が食べれそうでテンションの上がるキリノ。


「んじゃ山菜でも探すか? ・・食べれるやつとかキリノ分かるか?」


「・・ラッセルは分からないの?」


「・・・魔法士科の4人は?」


 どうやら山菜を探す流れになったようだでラッセルはキリノに山菜の判別が出来るか問うも、キリノは微妙な顔をした後少し間を置いてそのまま問い返す。ラッセルもまたできないのか微妙な表情で魔法士科の4人に顔を向ける。その表情からは一縷の望みを願っていることがありありと伝わって来たがしかし・・。


「うーん少しは分かるけどぉこの森はいろいろあるらしいから・・毒物と間違えるかも」


「ロップが駄目なら私も分からないよ」


「魔法士科で教えてもらうのって薬草とか触媒くらいだからねー・・」


「えっと、薬草スープでいいなら・・」

 上からロップ、サワーリャ、レムリィ、ルニスどうやら全滅の様だ・・。この多種多様な食材が実る森はその他にも判別の難しい毒物も実っているのである。実は不思議と死者こそ出ないものの毎年ここで食中毒になる生徒は後を絶たず、しかしそれも実学と古くから続く学園都市の伝統の一つなのであった。


「うむむぅ・・あの、カステルさんはどうですか?」


「え!? いや、えっと私もそっち系はちょっと・・ユウヒさんならたぶん」


 芳しくない現状に唸るラッセルは頼みの綱とカステルにそっと聞くも、カステルもどうやら苦手な様である。その後しばらく皆で小さな円陣を作り良い案は無いか考えている所にユウヒが若干フラフラしながら戻って来た。しかし何やらみんなが唸っている姿に気が付きキョトンとした表情を浮かべると、その小会議が行われている円陣へとそっと近づくのであった。





 予定外の大収穫と痛撃に戻るのが少し遅くなったユウヒです。今日の事で精霊はどんなタイプの子でも注意は必要だと言う事が分かった。今度精霊対処マニュアルでも作ってみるかな使う人少なさそうだけど・・。


「ふぅ・・ん?」

 そんな取り留めもない事をつらつら考えながらキャンプ地に戻ると、目の前では何故かみんなが小さな円陣を組みながら話し合いをしている。なにやら面白い事をしてるので邪魔しない様にそっと近づいてみることにした。


「どうしたんだみんな、そんな小さな輪になって唸ってたら怪しいぞ?」


「わ!? ゆ、ユウヒさんびっくりさせないでください」


「ユウヒさん! 解りますか!?」


「・・・とりあえずそれだけで何か分かったら凄い事だけは分かるかな」

 そっと近づいた俺はカステルの背後から傍から見た感想を伝えたのだが、その瞬間カステルはびくっと飛び上がり、その横に居たロップは普段垂らしている耳を普通の兎のようにピンと立て固まる、どうやら俺の接近に気が付いてなかったようで、少し可哀想な事をしただろうか。そんな中ラッセルが俺の顔を認識するや否や俺に何かを聞いて来るが、その内容からは何が聞きたいのか分からないことしか分からなかった。


「それじゃ分かるわけないでしょがこの駄犬」


「んだと脳筋熊!? いらいれふごめふなふぁいきふぃろはま・・」

 そんな俺達の様子に飽きれたような声を出すキリノにラッセルは文句を言おうとしたようだが、禁句でも言ってしまったのだろうか話しきることなくキリノに力いっぱい両頬を引っ張られている・・・。とりあえずラッセルの両足が宙に浮いているのは幻覚と言う事にしておこうと思う、恐るべし熊族である。


「で、何があったんだ?」


「えっとね? 山菜とかキノコを晩御飯に使いたいんだけどぉロップ達じゃこの森の自生してる植物の見分けが難しいの」


「それでカステルさんに聞いたらユウヒさんなら出来ると聞いて・・」


「なるほど・・・カステル」

 夫婦漫才は視界の端に置いておいて何があったか聞いてみると、落ち着く為か自分の垂れ耳を撫でるロップと、一緒におずおずと言った感じで説明するルニス。どうやら食材判別の出来る者が居なかったようだ。俺は一つ頷くとカステルに視線を向けたのだが何故か俺の視線に慌てはじめるカステル。


「い、いや別にユウヒさんに押し付けたわけでは!?」


「あははそこは気にしてないから、俺が直接食料を渡すのって禁止なんだよな?」

 どうやら俺に押し付けてしまったと悪く思っているようだ、そこまで気にすることでもないだろうに良い子である。


「え? そうですね直接は実習の内容的に無理かもしれません」


「そうか・・ふむ(なぁ木の精霊の御嬢さんや)」

 俺の質問にキョトンとしながらも答えてくれるカステル、やはり実習上駄目なようで他の方法にする為に後ろを降り向くと、みんなから数歩離れ後ろから着いて来ていたとある御嬢さんに呼びかけてみる。


「(・・・・何でしょうか?)」


「(この子達が安全に山菜を採れそうな場所はあるか?)」


「(それなら向こうの少し開けた場所にある窪地が良い。今日は空気も綺麗)」


「(あっちかわかった、ありがとな)」


「(わたしもたのしいから・・またね)」

 御嬢さんとは先ほど俺の頭上に大量の毬栗や胡桃などを落としてくれた木の精霊である。ついでに傷つきやすい物は後から抱えて持ってきてくれたのだが、そこに広がっていた惨状に罪悪感を抱いたのかここまで心配そうに着いて来ていたのだった。


「あの?」


「ん、じゃ山菜を採ってこい鑑定は俺がやってやる」

 こっそり精霊と会話していたのだが、どうしたのか気になってかカステルが呼びかけてくる。俺はそれに一つ返事をすると、生徒達の願いを承諾する。


「やった! それじゃ早速行こうぜ!」


「行くのならあまり時間も無いだろうから、向こうにある窪地の辺りを探すと良い」


「あっちだな! いってきまーす!」

 俺の承諾の声にラッセルがいち早く反応し駆け出そうとするが、俺が精霊のくれた情報を伝えると急停止し慌てて向きを変えると元気に駆けて行く。


「あ! ちょっと待ちなさいよ!」


「ロップも行く! まってー」

 目的地目指して走って行くラッセルに慌てて立ち上がり追いかけるキリノとロップ。そんな少年少女の楽しそうな姿にこのくらいの子は元気があっていいなぁと、俺は若くエネルギッシュな子供たちの姿にどこか爺臭い考えをしてしまうのだった。


「あ・・レムリィ頼んだ・・」


「あはは、じゃこっちは二人でお願いね? 三人共まってー!」

 しかしこちらではサワーリャが元気に駆けて行くロップの姿と暖かい炎が燃える焚火を交互に見た後、座ったままの姿で隣に立っていたレムリィに上目遣いで助けを求める。そんなサワーリャの姿に心得ていると言った感じのレムリィは手を振りつつ三人を追いかける。どうやらサワーリャは寒いのが苦手らしく、日も暮れずいぶんとひんやりとした空気が流れはじめた現在、焚火の前から離れられない様子である。


「元気な子達ですねぇ」


「そうだなぁ・・よいしょっと俺らも飯を用意するとしますか」

 カステルが駆けていく元気な子達の姿を微笑ましそうに見つめている。そんな姿を後目に俺は精霊に貰った食材の詰まった風呂敷を広げ選別を始めた。そのラインナップは精霊が奮発してくれただけあり、市場価値こそ分からないが右目で見るかぎりどれも一級品以上である。


「・・・それ、全部採ってきたんですか?」


「・・少々痛い目にもあったがな、この森の食材はほんと色々と面白いな」

 広げた風呂敷には食材の山ができており、カステルはその量に驚いている様である。そんな食材は栗や胡桃にリンゴ、ブドウ、洋ナシ、人参、キノコ、イチゴなどなど多種多様で、解り易い様に元の世界の名前で説明したが元の世界だとおかしい物が多くある。


「へーこんなものもなってるんですねーあ! これとか市場で結構な値段付きますよこれもっ!? ・・・・・・ユウヒさん凄いですね」


「すごいのはこの森だと思うがな? とりあえずその焚火を借りて焼くかな」


「あ、はいどうぞここ使ってください!」

 風呂敷に山と積まれた食材を見ていたカステルはそのいくつかに珍しい物でもあったのか驚愕で固まっている。確かに一部ランクが凄いのがあったのは確かなので流石は精霊と俺も感動している。でも結局は食材なので美味しく食べるのが礼儀だろうと思い、右目で調べた調理法で調理するつもりである。


「うわ・・すごい」


「・・・ふむ、同じ焚火を使っていたら偶然料理が混ざってしまうのは、しょうがないよなカステル」

 ルニスが焚火のそばに丸太を置いて座る場所を用意してくれたので、ありがたく座り食材の調理を始める。と言っても串に刺して焼くだけなので、帰ってくる途中切り取ってきた枝に食材を刺しはじめると何か好物でも入っていたのかサワーリャがじっと食材を見詰め始める。その視線を見て思いついた案をカステルに提案してみる。


「あぁ、そうですね良くありますよねぇ気にしなくてもいいですよね」


「え? それって」


「良いの?」

 俺の案はカステルに笑顔で承諾され、その意味を理解したサワーリャとルニスはキラキラした目で見詰めてくる。


「そうだな混ざってしまってはしょうがないな、ふむ私もここで食べようか・・いやしかし」


「「先生!?」」

 そんな二人の背後に現れるマギー、彼女はうんうんと頷きながら何やらぶつぶつつぶやいているようだ、いったいいつから見ていたのやら近くに誰かいたのは気が付いていたのだが。特に注意をする気は無いようなのではあるが食材も余っているし賄賂でも渡しておこうか。


「量が多いから少し持って行っていいぞ?」


「何!? 本当か、これとかこれとか持っていくぞ?いいのか?」


「結構あるからはい、どうぞ」

 その俺の言葉にすぐに俺のそばまで小走りでやってきたマギーは幾つかの食材を指さしながら本当に良いのかと聞いて来る、特に断るつもりもないがそんなキラキラした目で見詰められたら今更誰も断れないだろう。彼女のいつもと違ったそんな行動にルニスもサワーリャも苦笑いを浮かべている。


「・・・ふふふ、しかしこれだけの量売れば一月は食べるのに困らないな、今回の実習は豪華な実習になったものだユウヒ君には感謝しなくてはな!」


「俺より森の恵みと精霊に感謝だな」


「精霊か・・なるほどな、では貰って行くぞ特にこれはネリネ君の好物でな」

 手持ちの皮袋いっぱいに食材を詰めたマギーは嬉しそうに笑みを溢してそんな事を言うので、それなら感謝は俺じゃなく精霊と森にしてくれと言うと何かに気が付いた様に目を細め、ぼそっと何か呟くとまた表情を笑みに戻し軽やかに去って行く。その姿にルニスとサワーリャは苦笑いを深めるばかりであった。


「良かったんですか? ギルドでも卸せばそれなりの金額になると思いますけど」


「まぁ今は金にも困ってないしみんなが喜んでくれればいいさ、必要なものは確保してあるし」

 マギーを見送った俺の後ろからカステルが心配そうに聞いて来るが、あまり物欲にはいい思い出が無いので、特にセンサーが付くものとか・・それはいいとして欲張りすぎもしょうがないしね。そう言いながら俺はここを離れる時より少し膨らんだ自分のバックに一瞬目を向け問題無いと答える。


「はぁ、ユウヒさんらしいと言えばいいのでしょうか」


「ふむ、最近よく冒険者っぽくないとは言われるな」


「・・・・・」


「・・・・・」

 良く分からないが肩を落とし溜息を吐くカステル、そんな何か困った人でも見るような笑みを向けてくるカステルに最近よく言われる事を告げる。そして訪れる静寂・・・焚火の音だけが良く聞こえた事を覚えている。


「ソ、ソンナコトオモッテナイデスヨ?」


「無理は良くないぞ?」

 片言で焦るカステル、俺はそんな彼女を無理は良くないと優しく声をかけた。


「う・・まぁ確かに見た目もゴツゴツしてませんしガツガツしてませんし少しは・・」


「・・・(やはり冒険者男=ゴツゴツなのか? ガツガツも入ったな、ふむ)」


「あ、でも良い意味でですよ!? 本当ですよ!?」

 どうやら無言で居た俺が機嫌悪くしたのかとさらに慌てるカステル、しかしこれだけ何度も言われると慣れるもので今では全く気にならない・・まぁ少しは思うとこもあったりなかったり・・。


「気にするなもう慣れた・・ほれそっちの二人も手伝ってくれ」


「「は、はい!」」


「うぅぅ~・・」

 俺が声を掛けると妙に焦ったような返事をするルニスとサワーリャ、どうやらこの二人も考えていたことの様だ。それにしても女の子が顔を赤くして恥ずかしがる姿は可愛い物である。そんな感想を抱く俺はおかしいだろうか? 否! 普通だと思います。





 そんな風にユウヒが癒されている? 頃、軽やかに歩くマギーはネリネが担当する4班の所に来ていた。この班もまた食料調達に何人か出ているようで生徒の人数は少ない。


「ネリネ君問題は無いかい?」


「あ、はい今の所問題ありません」


「そうかそうか、ではそんなネリネ君にご褒美としてこれをあげよう」

 後ろからマギーに話しかけられたネリネは振り向くとニコニコと楽しそうに返事をする。その様子からはまだ特に問題は起きていないことが良く分かる。その向こうではクラリッサが魔法科の女の子の力仕事を補助している。そんな問題の見当たらない4班の状況に満足そうにうなずくとマギーは皮袋から栗を取出し始める。


「ほえ? わぁ! ビィクィーンマロンじゃないですか! 採ってきたんですか?」


「いや、流石に私もこれを採ってくる気にはなれないよ・・」


「そうですよね・・てことは持って来てたのですか?」



【ビィクィーンマロン】

 ビィクィーンマロンとは、自然に自生する赤栗と言う食用栗の中でもミツバチの仲間の薄紅蜂が巣を作った木になる栗で、一つの木から約一割ほど取れるのがビィクィーンマロンで残り九割はハニーマロンなどと呼ばれる。

 薄紅蜂は赤栗の木内部に巣を作り、その巣から零れた蜂蜜が栗に濃厚な甘みを与えている。その中でも特に甘い物には表面に薄いピンクの筋が入るのでハニーマロンと見分けるのは比較的楽である。

 しかし採取は困難で先ずこの時期の薄紅蜂は気性が荒く攻撃的になり、さらに毬栗は蜂蜜からの豊富な栄養で鉄のように固く鋭いので落ちてきた毬栗で負傷する話は良く聞かれる。その為市場にも数が出ず高級品の一つに数えられている。 



「ふふふ、ユウヒ君が森で採って来たらしくて分けてもらってきたのさ」


「ええ!? け、怪我とかしてませんでしたか!? と言うよりくれたんですか? ・・・まさかうばうみゃみゃみゃ!?」


「ふふふふ、何を言うつもりだったのかなぁ? この可愛い御口わぁ?」

 そんな採るのに苦労する栗である、ネリネの驚きようと二人の反応も納得できるものだろう。そんな物を快く譲ってくれるだろうかと、ユウヒの心配をするネリネは別の心配も口にしようとしたがそれはマギーに頬を摘み上げられる事で発言することが出来なかった。


「うぅぅひどいです・・でも本当にくれたんですか? 高級品ですよ? しかもこの短時間で採ってこれるなんて」


「そうだな私も驚いているよ、ユウヒ君は森の恵みと精霊に感謝しろと言っていたからそう言うことなのだろ」


「では精霊に頼んで? そんな事出来るのでしょうか・・」

 若干涙目で自分の頬を摩るネリネ、それでもまだ信じられないと言った感じである。その疑問に今しがたユウヒと話した内容をふまえ予想を立てるマギーその話を聞いて神妙な表情になるネリネ、この娘コロコロと良く表情の変わる子である。


「ただ精霊と交感できると言うわけでは無いのかもしれないな・・まぁ悪い子ではないのだ余計な詮索はやめておこう」


「そうですねこんな良い物貰ってしまっては」


「いやーネリネ君は物欲が深いねェ」

 こちらも神妙な表情で考え込むマギーだったが口元を緩めるとネリネに詮索しない様に言う。ネリネもまた表情を緩めると皮袋に入れてもらった栗を抱きしめながらそう答える。しかしマギーはその返事を聞き緩めた口元をニヤリと意地悪そうに曲げるとネリネ弄りを始める。


「そ、そんなんじゃないです! それに先生他にも貰ったんでしょ! その袋の中に!」


「あ、こら!? やめないかネリネ君! あぁ!?」

 しかし今回は反撃のチャンスを見出したのか焦りながらもマギーが大切そうに持つ皮袋を奪取し中身を見るネリネ。思わぬ反撃の速さに慌てるも皮袋を奪われてしまうマギーは何時になく慌てた声を上げる、その理由は・・。


「・・・・・き、キングマッシュルームにアカネイチゴ・・」


「・・・・それでは私は失礼するよ」

 中身を確認して驚愕で固まるネリネとマギーとの間に流れる何とも言えない静寂、その静寂を振り払うようにマギーは皮袋を奪い返すとくるりと身を翻しその場を逃げる様に小走りで去って行った。


「あ、マギー先生! ・・・どっちが物欲あるんですか、もぅ・・」


「・・どうした?」

 そんな普段見れないマギーの姿に怒りなどほとんど感じられない可笑しそうな声で呟くネリネ、そんなやり取りが気になったのかクラリッサがとことこと歩いて来て頭を傾げる。


「何でもないですよ? 差し入れが入ったので後で食べましょ」


「これは・・晩御飯の準備も出来てるデザート楽しみ」


「ふふふ、そうですね」

 そんなクラリッサにネリネは何でもないと言うと皮袋の中身を見せながら食事の話をする。その皮袋の中身に気が付いたクラリッサはいつもより流暢な喋りで返事すると目を輝かせる。どうやら休憩所の時と言いこの娘は結構な食いしん坊の様である。





【キングマッシュルーム】

 掌サイズの大きく肉厚なマッシュルームに王冠がのったような形からそう呼ばれる食用キノコ、うまみ成分が豊富でその王冠の様な窪みに溜まった朝露は、それだけで美味しいスープになると言われる。

 群生はせず又、生育する条件が厳しく市場でもなかなかお目見えできない希少なキノコで、その為価値も金貨の準備が必要なレベルである。しかし一度食べれるように成熟すると何十年と腐ったりしない為、意外とコレクターなどが溜め込んでいる事がある。ただし水に付けると味が抜ける為、保存状態の悪い物は味がしない。


【アカネイチゴ】

 秋が旬の野イチゴで、その糖度は高くまた酸味もあり非常に美味。見た目は3~4㎝ほどの球体だが野生の為若干歪で、色合いが表面から中心近くまで夕暮れ時のような茜色で名前はそこから来ている。

 比較的手に入りやすくはあるもののあまり日持ちせず、最もおいしいのは収穫から8時間ほどでそこから急激に味が落ちる為、鮮度の良い美味しいアカネイチゴは高値で取引される。



 強かな女マギーであった。





 そして時も過ぎ日も暮れ焚火を囲む5班は食事時、しかしその食事風景は大変なことになっていた。


「うまい! うますぎる!」

 具沢山スープを食べながら涙を流し感動している犬耳少年ラッセル。


「ハグハグハグハグハグハグ!」

 具沢山スープを一心不乱にかきこむ熊耳少女キリノ。


「確かに山菜とか食べて意外と楽しい実習だって聞いてたけど・・これは異常・・だよね? あ、美味しいこれ」

 みんなの食事風景と目の前に並ぶ高級食材のバーベキューに戸惑いつつも舌鼓をうつ御嬢様のルニス。


「美味しい美味しいよ~・・あぁお母さんにも食べさせたいなぁ」

 ユウヒが焚火で作った焼きリンゴを食べながら幸せそうな表情を浮かべる母親想いのレムリィ。


「はぐはぐむぐむぐむぐっ!? うー! うー!?」

 ユウヒ作スイートキャロットの串焼きを一心不乱に頬張るウサミミ少女のロップ・・どうやら急ぎすぎて喉に詰まったようである。


「ロップ落ち着けほらスープだ少し熱いから気を付けろ」

 具沢山スープとは別にユウヒが作ったキングマッシュルームの澄し汁を飲み物代わりにと、もがくロップに渡すサワーリャ、この二人なんだかんだと仲が良い様である。


「うーうーんぐ・・熱いよ!?」


「気を付けろと言っただろ!?」

 だがそのやりとりも自然と漫才のようになるところは、どこかの二柱の女神を彷彿とさせる。




「「へっくち! ・・・ん?」」




「賑やかですね・・グノー学園はみんなこんな感じなんでしょうか」

 生徒達の楽しそうな様子に微笑みながら暖かい澄し汁を飲むカステル。 


「んー・・楽しいことは良い事だよ、とりあえずこの辺は安全の様だし結界もしっかり機能してるし・・今は楽しもうじゃないか」

 どうやらユウヒの【探知】魔法は周囲警戒の他に結界の状態まで分かるように進化している様である。恐るべしはユウヒかそれとも神様印の妄想魔法か・・。


「・・・そうですねありがとうございます」

 そんなどこかで女神がクシャミをした夜、ウルの森の夜は騒がしくも楽しい空気の中深まって行くのであった。




 いかがでしたでしょうか?


 読み返せば読み返すほど修正点が増えて行くので時間がかかってしょうがないです。でも良い物を作るのなら必要な事ですよね。


 そんなわけで次回もユウヒの旅をお楽しみに!それではさようならー

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