第五十二話 ウルの森
どうもHekutoです。
亀さん更新ですが五十二話更新です。今回もユウヒの物語をお楽しみください。
『ウルの森』
ここはハウネ高地中央に広がるウルの森、その森の入ってすぐの所に作られた休憩場にユウヒ達の姿はあった。
「今言った班分けは学園帰還まで実習を共にする仲間だ! 互いに協力し実習を有意義なものにするように!」
『はい!』
オルゼの大きな声に元気よく答える生徒達、どうやら冒険者科と魔法士科を混ぜた班を作ったようで5つのグループに分かれた生徒達は、いつもと違う状況に楽しそうな声を上げていた。
「尚一班につき二人の護衛を付けるが実習を手伝ってもらうのは禁止する!」
『えー!』
そんな生徒達に注意事項を告げるオルゼ、その注意に魔法士科の生徒から苦情の声が漏れた。その理由は魔法士科だけの野外実習時は特化的な科である性質上不得手な部分は護衛などに手伝ってもらっていた為であり、今回の様な混成実習の場合は役割分担が出来る為の注意事項でもある。
「しかしアドバイスなどの直接的な事でなければ良い! 緊急時に関してはしっかり護衛してもらえるので安心しろ、プロと言うものを良く学ぶように!」
『はい!』
オルゼの追加説明で少しは安心したのか、元気よく答える冒険者科の生徒と一緒に魔法士科の生徒も返事をする。そんな生徒達から少し離れたところに護衛の人間は待機しており、ユウヒもカステルとクラリッサと共に待機していた。
「・・・・」
「? どうしましたユウヒさん」
俺達の居る場所から少し離れたところで少年少女の元気な声が上がっている、そんな若々しい声を聞き流しながら俺は森を左目で見詰めていた。
「ん? いや・・面白い森だなと思って」
「そうですね、こんなきれいな森私も初めてです」
「・・ウルの森は美味しい・・でも毒がこんなにあるの、知らなかった」
俺は先ほどから気になる事があって森を見詰めていたのだが、俺の返事にカステルは目を輝かせ紅葉を見ている。その後ろでは背中に哀愁を背負うクラリッサが肩を落として愚痴をこぼす。
「俺は何故そうもピンポイントに毒性のある物を採ってくるのか不思議でならないよ」
「むぅ・・」
「あはは・・」
クラリッサは俺に毒キノコを捨てられて悔しかったのか、それとも闘争心に火が付いたのかその後も色々拾っていたようなのだ。がその収穫物を見せられた俺はまたもや毒物を捨てる作業をするはめになり、クラリッサはその作業をしょぼんとした顔で見ていたという事がつい先ほどまで行われていたのであった。
「クラリッサ君」
「・・はい」
そんな俺の言動にどこか釈然としない感じで見詰めてくるクラリッサにマギーから声がかかる。
「君にはネリネ君と4班の護衛を頼む」
「カハーリヤさんよろしくお願いしますね」
「・・わかった・・ネリネ、クラリッサで良い、よろしく」
先ほどから班別に別れた生徒の所に2人づつ護衛が呼ばれているのを見るに、俺達も班分けが決まっているようだ。クラリッサはネリネと一緒に4班らしい、この流れなら俺は5班だろうか。
「はい! クラリッサさん、4班はこっちです」
「ん、ユウヒまたね」
「おーがんばれよー」
そんな事を考えながらだいぶ仲良くなったのだろう、楽しそうな顔のネリネと表情は乏しいがそれでも少し楽しそうにしているクラリッサを見送る。初対面らしい二人の仲良くなったのはたぶん、俺が毒キノコを捨てた時にネリネが励ましていたのでその時ではないかと思う。
「で、ユウヒ君はカステル君と5班を頼む」
「は、はい!」
「りょーかい」
予想通り5班だったがカステルと一緒か、やはり知り合いと一緒だと安心感の様なものを感じる。少なくとも偶に殺気のような敵愾心を飛ばしてくる人間とはごめんである・・【探知】の魔法に引っかかるほどの敵愾心って俺何かしただろうか。もう少し細かく調整してみようかな【探知】の魔法・・。
「5班集合!」
『はい!』
脳内の考えが脱線し始めた頃、マギーの声で5班の子達が集まり目の間で横一列に並ぶ、パッと見色々と個性のありそうな子達だが、表情や目から感じる印象は良い子達のようで何よりである。
「この子達が5班だ、そしてこっちの二人がお前達を護衛してくれる魔法士のカステル君とユウヒ君だ」
「え? 護衛が二人とも魔法士? 大丈夫なのか?」
「ちょっと! あんた失礼じゃない!」
「・・・(俺って魔法士だったのか・・)」
どうやら俺は魔法士になったらしく、5人の中で唯一の男の子であろう犬耳の子が不安を口にする、しかし即座に隣の女の子に頭を殴られていた。確かに護衛が咄嗟に動けない人間や前に出ない人間なら護衛される側は不安かもしれないな、と言うよりこの子大丈夫かな? 結構頭殴られた時良い音したけど。
「静かにしないか、先ずは自己紹介でもして親睦を深めるんだな、それが終わったら野営地実習だからな」
『はい』
少年はマギーの声に反応してすぐ立ち上がったのでたぶん大丈夫だろう・・涙目なのは見なかったことにしておこう。
「では私は失礼するよ、あとはよろしく頼む」
「あ、はい・・えーと私は冒険者のカステルです。とりあえず一人づつ自己紹介してくれるかな?」
装備から冒険者科の子と思われる少年少女のやり取りに、その腕力と打たれ強さに感心していると、カステルが自己紹介を進めてくれるようで生徒の子達に話しかけはじめた。
「はい! おれラッセル冒険者科の中等部です!」
「ラッセルここにいるのは、みんな中等部なんだから科と名前だけでも良いんじゃ?」
「あ、そうか他には?」
「え? えーと? 何を言ったら良いでしょうか?」
最初に元気よく話し始めた犬耳の少年、全体的には人と変わらないが耳だけピンと立った犬のものである。この世界の種族体系がどうなっているのか知らないが人体の神秘を感じていると、ラッセルと言う男の子は隣の少女に内容を指摘されキョトンとした表情で少女に何を言ったら良いのか相談する。しかし少女も特に何も考えてなかったのか、そのままカステルにその質問をパスする。
「え!? んーユウヒさん何かありますか?」
「そこで俺に振るのか・・そうだな冒険者科と魔法士科はよく合同で授業するのか?」
その結果質問が俺まで回って来るとは思わなかった。周りを見るとカステルも含め全員の視線が俺へと集中していて言葉を出すのに一拍おいてしまったのは仕方ないと思う。
「初めてですね、あ! 私キリノですよろしくお願いします!」
「ああよろしく、そうだなそれなら自分の得意分野とか使用武器や使える魔法とかその辺かな」
俺の質問に答えてくれたのはキリノと言う、たぶんだがあれは熊耳ではないかと推測する耳が特徴の少女で、ラッセルの頭を痛打したのもこの子である。そんなキリノの話からどうやら中等部では合同実習みたいな事はやらないようだ、確かにあの暴走は怖いからな。そんなわけでこれは実戦実習だと思われる為、冒険者パーティ等でも必要と思われるものをチョイスしてみる。
「それならおれはこの剣が得意で、剣しか使えないです!」
「・・興奮するのは良いけど少し声の大きさ押えなさいよねこの犬、あ私はこの斧が得意です」
俺の提案に少し力を抜いていた耳をピンと起すと腰に差していたショートソードを鞘から抜くラッセルと脇に置いていた両刃の斧を軽々と持ち上げるキリノ。俺の質問にラッセルが真っ先に元気よく答え、そんなラッセルの声に苦情を言いながらキリノが答える。
「犬って言うな! 一応狼も混ざってるんだからな熊女!」
「なんだろう間違ってないけど馬鹿にされてる気がする・・・」
「・・なるほどキリノは斧が得意ラッセルは剣・・片手かな、じゃあ次は君から順番に」
どうやらラッセルは犬と狼が混ざっていてキリノは予想通り熊耳で合っているようで、また仲良く? 取っ組み合いを始めようとしている。
「は、はい! ルニス・パスパントです。えっとえっとこ、口語風属性魔法を使えて特に補助魔法が得意です!」
「ふんふんルニスね、じゃ次」
取っ組み合いが怖いのか少し離れて固まる四人の娘達、見た目から魔法士科だと思うが一番端の子は指名すると、少し吃りながら自己紹介を始める。この少しおとなしそうな子はこの世界の人が言うところの人族の様でこの世界の人的に俺も人族なのだとか、そんな彼女は風属性の補助が得意らしいが是非その魔法を見てみたいと思う。
「はい! 魔法士科のレムリィと言います。口語火属性魔法が使えます。運動は苦手です・・」
「ふむレムリィ運動苦手ね・・次」
次にその隣の子レムリィと言う子は、少し小柄で確かに運動が得意そうな感じはしないが喋り方などからは明るい印象を受ける。
「はい、名前はサワーリャでラミア族と人族のハーフです。・・見た目ラミアの特徴はあまりないですが、えーっと口語火属性魔法使えます一応種族性も使えます」
「ふむ種族性ね・・次よろしく」
黒に近い紫色の髪を肩下の辺りまで伸ばしていて、すらっとした比較的背の高い女の子サワーリャ、ラミア族と言うと上半身が人で下半身が蛇と言うのが俺のオタク知識であるが、アミール知恵袋的でも同じようである。本人が言うだけあってパッと見と言うより、よく見てもたぶん人族とたいして変わらないと思うくらいである。あと気になるのが種族性魔法、魔法属性の一つらしいが詳しくは後でアミール知恵袋を参照してみようかと思う。
「はい! ロップはロップです! えっと・・お昼寝が得意です!」
「違うだろロップ魔法だ魔法! お前は何科だ」
「あ!? 魔法は口語地属性と種族性が使えます・・えへへ」
最後の子は自分の順番が来るのが待ち遠しかったのか元気な声で手を上げると素敵な自己紹介をしてくれた。
「・・・おっちょこちょい・・いや天然と」
「てん?」
お昼寝が得意で地属性と種族性の魔法が使えるようだが、それよりも印象深いのはその姿だろう。全体的に白っぽい服装に白髪にピンクのメッシュが入った髪は肩の辺りで切り揃えてあり、垂れたウサギ耳が非常に似合う愛らしいと言う表現が似合う空気を纏った女の子である。耳が良いのかぼそりと呟いた俺の評価が聞えたのようで、首を傾げている姿などまさに小動物的である。
「まぁこれでお互い何が出来るか分かっただろうから連携もしやすいだろう、あとは追々知って行けばいいしな」
「ふふふ、そうですね」
そんな兎娘に癒されとりあえず最初の自己紹介なんてこんなもんだろうと、カステルの方に目を向けると笑いなが答える。どうやら先ほどまでのやり取りが可笑しかったようである。しかしまだ何か足らなかったのかラッセルが手を上げる。
「はい! 先生の自己紹介がまだです!」
「せ、先生って・・」
「ごめんなさいこいつ馬鹿なんで、護衛の人が何で先生なのよ」
ラッセルの先生発言に少し恥ずかしそうにするカステル、キリノは妙な事を言いだすラッセル小突く、
「えーすごく先生ぽくなかったか?」
『・・・確かに・・』
断続的に頭を小突かれながらラッセルがキリノに疑問を投げかけ俺を見る。そのまま全員の視線が俺に集まりそんな事を宣う、カステルさん貴方まで同調しなくても・・。
「・・そうだな、俺は冒険者のユウヒだ得物は槍で、まぁちょっと魔法も使えるし薬とかも常備しているから怪我や体調の悪い時は言ってくれ」
「ん? 槍使いなのに魔法士? 薬師? ん?」
「あはは、私は後衛魔法士で口語火属性魔法が得意かな」
適当に俺が自己紹介をするとその内容にラッセルが不思議そうな顔で首を傾げる、そんな犬耳少年の姿に何か思い当たる節でもあるのか苦笑いを浮かべカステルも自己紹介の補足をする。やはり槍持って魔法って不思議なのかね?
「あ! あのお話しさせてもらっても良いですか?」
「わたしもしたい」
「え? あぁ魔法のね、暇な時間があればね」
カステルの自己紹介にルニスとレムリィが声を上げる。どうやら魔法士の先輩に話を聞きたいようだ。二人を見るからに後衛魔法士の様だから同じ後衛魔法士のカステルの話を聞きたいのだろう。
説明しておくが後衛魔法士とは、言わば固定砲台のようなもので高い集中力とそこから生み出される強力な魔法が特徴で、集団戦闘時には前衛中衛などに守られる形で高火力攻撃を繰り返すのが仕事だ。魔法の使用方法や方向性から大半が近接戦闘が苦手な者が多い傾向にあるらしい。
「んーとりあえずこんなもんかな、それじゃ野営地実習とやらを頑張ってくれ」
『はーい』
「何やるか知らんけど」
俺がこの場の解散と激励をすると元気よく返事をした生徒達は早速作業を開始したようだ、そんな元気な子供たちを見ながらぽつりと一言溢す。実際実習内容に関しては大体のは聞いたが詳細は聞いてないのだ。
「私聞いてますよ? えっとですね今日は野営地作成の実習でテント張りや焚火に結界張りなど野営に必要なスキルを一通りやるそうです」
「ふーんなるほどキャンプ設営みたいなもんか、結界はよく張るのか?」
「そうですね、魔法士が居れば魔物除けや獣除けに結界を設置しますね・・ユウヒさんは使わないのですか?」
カステルは詳細を聞いていたらしく説明してくれる。どうやらキャンプの設営作業と言った感じだが、ファンタジーっぽいと言えばいいのか結界と言う言葉が気になり聞いてみると、どうやら野外のキャンプ時には比較的ポピュラーの様だ。しかしこの世界に来てから一度も結界と言う物にお目見えしたことが無いのが事実である。
「んー使った覚えが無いな・・今度使って(作って)みるかな」
「そうなんですか(んーやっぱりユウヒさんは学園系の魔法士では無いのでしょうか・・もしそうなら直系か個人指導・・んーわかりません)」
俺の返事が不味かったのか何か気になるところがあったのか、少し俯くと何か考え事をしだすカステル。丁度いいので俺も気になっている事を調べようと思う。
「・・・カステル俺ちょっとぶらついて来るからここ宜しく」
「うーん・・てえ? ユウヒさんどこに・・いっちゃった」
「カステルさーん!」
「え? はーい」
ふむぅやはり冒険者科は設営に慣れているな、これが魔法士科への良い刺激になると良いのだが・・。とりあえずは仲良くやっているようだし問題無いか。
「各班ごとになるべく距離を離して設置するように! 設置が終わらないといつまでも飯が食えんぞ!」
「腹減ったな・・おい! 手伝ってやるからさっさと終わらせて食事に・・」
「そこ! 護衛は手伝い禁止! そこも! 生徒がどうしても無理な場合以外は手伝い禁止!」
私の指示を素直に聞いている生徒達、しかしそんな中護衛の・・テカリと言ったか男が焚火の準備に手こずっている生徒に近づくと設営の手伝いを始めようとするではないか、実習なので手伝いは禁止と言ってあったはずなのだがな。
「はぁ!? 腹減ってっしどうすんだよ!」
「護衛は別に個人個人で食べても構わんぞ?」
「なんだよそれならそうと早く言ってくれよ、照れてるのか?まいったな・・しばらく俺の仕事も無さそうだから飯食って来るぜ」
手癖が悪いとか以前に何も話を聞いてないのかあの男は、さっきも私の説明中心ここに非ずと言うより、ずっと遠くにいるネリネ君を見ていたようだしな。ネリネ君には極力近づけないようにした方がよさそうだね・・・まったく生徒だけでなくネリネ君の心配もしないといけないとは、妙な言動と言いもし手を出そうものなら切り取ってやろうか。
「せ、せんせい?」
「ん? どうかしたか?」
「何だか怖い顔してましたよ?」
「はっはっは大丈夫だ、ほら急がないと寝る場所も地面の上になるぞ?」
「はーい」
ふむ、どうやら顔に出ていたようだ気を付けなければ生徒達が心配するな。他の班もちゃんとやれてるかな・・・ふむ早速一仕事する必要がありそうだな。
「少し離れるがちゃんとやっておくように!」
『はーい』
そこには荒い息を上げながら茂みの中から何かを観察する視線があった。
「ハァハァなんてすばらしい光景だ・・少女達が汗を流しながら共同作業・・はぁはぁ」
「何をやっているんだ・・そんなに暇だったらちょっと食料調達行ってきてくれるかな?」
その後ろに音もなく近づく人影、マギーである。離れた場所からこそこそと物陰に隠れる男の姿に気が付き様子を見に来てみたマギーだったが、そこで目にした物は藪の中で尻を突き上げる様にして地面に伏した姿で息を荒げながら生徒達の作業を見ている変態、もといモメンと呼ばれていた護衛の一人の姿だった。実害は起きていないもののあまりにその姿が気持ち悪かったのだろう遠回しに注意を促すマギー。
「はぁはぁ・・誰だってなんだ年増かっとばぁ!?」
「・・何か言ったか?」
「い、イエス・ノー・マム・・」
その声に振り向いたモメンはマギーの姿を見るなり嫌そうな顔で暴言を吐き始める。しかしその言葉が最後まで告げられる事はなかった、何故ならば途中まで告げられた言葉を聞いた瞬間マギーが何も言わず右足を上げ、そのままモメンの顔を踏み抜いたからだ。底冷えしそうな笑顔を浮かべたマギーはぐりぐりとモメンの顔を踏みつけたまま質問をすると、モメンからはまるで軍隊の様な返事が返ってくる。
「そうか、それじゃ君は何がしたいのかな?」
「おうふ・・食料調達とかしてみたいです・・」
そんなモメンにマギーは頷きながら満面の笑みで、今度は足の爪先でモメンの右頬をぐりぐりと踏みモメンの顔を半分土に埋めながら更なる質問をする。
「ならばみんなの分も頼むよ」
「イエス・マム!」
モメンの返答は正解だったようでその顔面から足を退かされると、即座に直立し軍人もびっくりするほどの切れの良い敬礼で返答し、そのまま森の中にダッシュで消えて行ったのだった。
「ふん、命拾いしたな・・ほらお前達何こっち見てるんだ手が止まっているぞ」
『イエス・マム!』
「んん?」
そんな恐ろしい情景を目の当たりにしてしまった生徒達は、浮かべていた冷笑を元に戻し自分たちの方を見たマギーの注意に怯え、まるで軍隊の様な敬礼と返事で答えてしまうのであった。そんな返事をされたマギーの方はキョトンとした顔で頭を傾げるだけであった。
「はぁはぁ何だこの胸のドキドキは、あんな年増に・・これはもう少し調査が必要だな・・お? このキノコ食べれるかな」
そんな場所から少し離れた森の中では、先ほど顔面を踏まれていたモメンが頬を少し赤くしながらキノコを探していた。しかしその発言はどこか妙で、どうやら新たな扉が開きかけているようだ。
さらにそこから離れてオラウとニオウの護衛する冒険者科の男子ばかりで構成されたグループ、どうやらこのグループはいち早く準備を終わらせて談笑しているようだ。
「はっはっは、そうだろうそうだろう!」
「流石オラウさんです!」
「素敵ですオラウさん!」
どうやらオラウが自分の武勇伝を語っているようで、周りの生徒もそんなオラウをもてはやす為オラウも機嫌が良いようである。しかしそれだけでもなさそうだ。
「なんて美味しそうなお尻なんだオラウさん」
「「まったくだな流石オラウさん!」」
「はっはっは・・ん?」
上機嫌で笑い武勇伝を語るオラウと褒める生徒に交じって妙な言葉が混じっている。その言葉に気が付きそうで気が付いていないオラウ、周りの視線の中に憧れとは違ったそれ以外の怪しい光も含まれていると言うことに・・・。
そんな空間の近く、どうやらまだ一人テントを張り終えていないらしく組立中のテントには二つの人影があった。その一人はニオウと呼ばれた護衛の一人である。
「はぁまったくおめさっさとしろよな」
「す、すみません・・あいた!?」
今回の実習で使っているテントは骨組みと布地で作る1~2人用の簡易テントの様である。その骨組みを組み立てるのには以外と力が必要の様で、この生徒は他の子より力が足りないらしく手間取っているようだ。今も手が滑り骨組みの棒で頭を打っている・・・どちらかと言うとただのドジな子なのかもしれない。
「・・・おめぶきよだなぁ、ほれここ持っててやるからさっさとテント張っちまえ(早く飯食いてぇだ)」
「ありがとうございます(やっぱりニオウさん優しいなオラウさんよりずっと・・)」
そんな小柄な男子生徒に付き合っているニオウ、根は良いようだが今その頭の中を占めているのは食事の事だけだ。実は二人の分の食事は彼らが率先して用意すると言い出し、テント張りが終わり次第全員で食材探しに出かける予定なのだ。その為さっさと飯に労せずありつきたいニオウは、急がせる意味も込めて不器用なこの少年に付き合っているのだった。
「!? なんだ? やっぱ風邪ひいだかな・・・?」
しかし少年はそんなニオウの内心など知る由も無く又、ニオウはこの少年の中で膨れ上がる自分への好感度に気が付くことも無く、さらに少年がニオウを見るその瞳に憧れ以上の色を灯り始めていることなど誰も知る由は無かった。しかしそんな視線にニオウは思わずお尻の辺りに悪寒を感じ首を捻るのであった。
綺麗な紅葉が溢れる木々の下、葉擦れの音と木漏れ日の共演を楽しみながら生物の気配のしない方へと歩いている。この秋らしい風景を独り占めするのも悪くはないが出来るなら妹にも見せてやりたいものだ。最近はあまり遊んであげてなかったからな・・。
と言っても別にただ散歩がしたいわけでここまで来たわけでは無い、俺の左目があんな目に合いこんな厨二病の悪化と言う結果になった時からなのだろう、俺の【探知】魔法に新しい機能が追加されていた。今までの探知機能に加えて注視した対象の大まかな分類なども出来るようになりそれは【人】や【魔物】や【動物】と言った感じである。しかしとある対象にはこう表示される・・【精霊】と、
「ふむ、ここまで来ればいいかな・・で何か用かな精霊の御嬢さん?」
「!?!?!?!?」ガサガサ!
「逃げた・・」
どうやら第一次接触は失敗したようである。実はウルの森に近づいたころから俺の後方を一定の距離を保ちながら付けてくる気配があったので、最初は隊列を狙っているのかと思ったのだが【探知】の魔法には敵愾心を示す反応は無かったので放置していたのだ。しかしみんなと離れてここまでやって来ても俺の後方に居るみたいなので俺に用があるのは確かな様である。しかし話しかけた結果がこれであった。
「あはー木の精霊は基本恥ずかしがり屋だからー」「ユウヒが見えることも知らなかったみたいだしねー」
「いつも唐突に現れ・・・うん、またえらく斬新なファッションで」
接触失敗で頭を掻いていると俺の周りに水球が集まり、<ポン!>と言う音と共にいつもの騒がしいあいつらが現れる。いつも急に現れる精霊にしょうがない奴らだなと呆れながらも笑みがこぼれてしまう、しかし現れた水の小精霊達の姿を見た瞬間思わずその姿を凝視してしまい声がすぐに出なかった。何故ならば彼女達はいつもの青を基調にした服がボロボロで、体の彼方此方に白い包帯を巻いたり腕を首から吊るしていたりと言った様相だったのだ。
「違うから!?」「普通に怪我だからね!?」「姉さんのご乱心で傷だらけだよ・・」
そんな怪我人もとい怪我精霊、精霊も人間みたいに怪我をするのかと感心しつつ三匹の話を聞くと、俺の魔力を貰ってテンション上がったままミズナに会いに行って魔力を分けてもらった事を自慢したらしいのだが、その話を聞いたミズナは驚愕の表情のまま固まった後、<ぶちっ!>と言う音が聞こえたと思ったら、次々と仲間が禍々しい渦潮に呑まれて行ったのだとか・・。この三匹は命からがら逃げて来たらしく、しばらくは帰れそうにないので俺に憑いて行く事にしたそうだ。
「なるほどそれでいつもより少ないのか」
「ちょうきりょうようちゅうなの」「まぁ分けてもらった魔力あるから消滅はしないね」
「荒れてるならしばらく呼ばない方が良いか?」
「「「・・・・」」」
いつもなら10~20くらいで現れては代表で何人かが喋るのだが、今は3人しかおらず人数のせいか怪我のせいか大人しく感じる精霊達、どうやら他の娘達も生きてはいるようだ。しかしなぜ俺の結論に揃って微妙な顔をするのだろうか・・。
「ん? ・・・お?」
「隠れて見ているようだが!」「丸見えだ! お前はもう完全にほういされている」「大人しくでてきなさい!」
水の小精霊トリオの微妙な表情に首を傾げていると、ガサっと言う葉擦れの音がしたのでそちらを見てみると、先ほど逃げたと思われる全体的に緑っぽい服装でフワッとした若葉色の髪をした少女が一人立っていた。そしてその少女に構えをとる3匹・・怪我をしててもこいつらは変わらないようだ。
「なんでだよ・・とりあえずこっちに敵意は無いのだが、この森に入る前くらいからずっと着いて来てたろ?」
「・・・うん」
「何か用があったんじゃないのか?」
「かんし・・あなたは森に悪い事しない?」
どこか喋り慣れていない感じの喋りだしだったが最後はしっかりとした声で問いてくる。この少女はウル森の守り人なのだろうか? よく分からないが俺を監視していたようだ。
「わるいこと?」「どんな?」「森で津波起こすとか?」
「それは、とてもわるいこと」
「しねーよ、俺はグノー学園都市の野外実習の護衛だ山の恵みを分けてもらうくらいはするけど森を傷つけるつもりは無い」
水トリオが少女の問いについて相談し始め何故か津波を起すなどと言ったためか、表情のあまりなかった少女は眉をきゅっと寄せるとこちらを注視しながら少し身構える。こちらとしては全くその気はないのだが・・・できないことは無さそうだけど。
「ほんと? 森に火を放ったり泉に毒を撒いたり津波とか起さない?」
「しねーよ・・てか何で俺だけを監視してたんだ? 俺ってそんなに悪人面か?」
「・・・一番魔力を持ってたから十分森にとって脅威になるくらいに・・ほかはたいしたことなかった」
何故かこの少女の中で俺は相当物騒な人物に見られているようで、悪人に見えるのかとちょっぴりショックを受けたがどうやら問題は魔力らしい、確かに詳細は知らないけどアミール曰く無限に魔力があるのと変わらないと言っていたので魔力に敏感な者にとっては恐ろしいのかもしれない。
「あー魔力か・・ん? どうした? 握手か?」
「・・・・わかった、あなたは悪い人じゃない」
「ん?」
今更どうしようもない現実に苦笑いを浮かべていると、トコトコと歩いて来た少女が手を差し出してきたので、仲直りの握手かなにかかと期待しその小さな手をそっと握る。元の世界なら国家権力が飛んできそうな構図だなと言う電波を受信していると、少女は小さく微笑み喋り出す。
「直接触れることで善悪をたしかめたんだよぉ」「精霊はほぼ精神体だから」「触れれば相手の心が見えるの」
「そらまた便利だな・・」
「見えるのは少しだけ、悪い事が好きかどうか分かるくらい」
それって趣味趣向程度なのか深層心理なのかで意味変わるよね・・。しかし悪い事かぁどの程度が悪い事なのかね。
「ふむ悪い事か、森で色々採取したり獣を狩ったり食事や猛獣に襲われた時に火を使ったりするのは悪い事に入るか?」
「? ・・別に? 森の恵みをもっていくのは森の為にもなる、獣を狩る狩られるのは生命の循環、少しくらい火で燃えてもそこから新たな生命が芽吹く・・特に問題無い」
「偉く寛大だな人とは考え方が違うと言うことか?」
俺の質問にすこしキョトンとした少女はスラスラと答え始める、喋り慣れてきた感じだろうか。しかしかなり寛大な考え方だな・・やはり精霊とは人の身では計り知れないのだろうか。
「・・全焼したら流石に怒るし水を腐らせても怒る、根こそぎ奪われても怒る・・でも少しくらい別に良い」
「まぁ水に関してはあたし達が何とかしちゃうしね」「汚れた水も」「津波で一掃!」
「森が無くなるから却下」
寛大だが怒らせるような事をした時は大変なんだろうな、と言っても目の前で水トリオとボケツッコミを披露している可愛い姿からは想像できないが。
「そうかわかった数日騒がしいがよろしくな、それじゃちょっと山菜でも狩って戻るか」
「山菜欲しいの? ちょっと待ってて」
「ん?」
とりあえず良識の範囲で居れば問題無い事を確認できたのでホッとし、山菜でもお土産にして戻ろうと思ったのだが、精霊は俺に待っているように言うとスッと消えて居なくなる。俺は何が起こるのか良く分からなかったが水トリオは何かに気が付いたのか機敏な動きで、
「総員退避!」「回れ右して前進!」「これは退却にあらず!」
の声と共に一目散に俺から離れ始める。
「おいどうしたんだ? ・・ん? ・・・ぁ!?」
そして俺の視界に表示される注意を促す赤く点滅する複数の文字文字文字・・。
「ぎゃーーーー!」
そこにはこう書かれていた。【落下物注意】【頭上注意】【毬栗】【胡桃】【山菜】【あ、もう無理】
いかがでしたでしょうか?
自分精霊とかそう言うの大好きですから・・キャラクター増えれば自分が苦しくなるだけなのにね。
そんなわけで?次回のワールズダストも楽しんでいただけるよう頑張りますのでまた読みに来てやってください。それではまたここでーさようなら~




