第五十一話 紅葉と恵みの森 ~ウル~
どうもHekutoです。
今回も時間はかかりましたが無事更新できそうです。今話はユウヒ視点でお送りします彼らの旅を楽しんでいただければ幸いです。
『紅葉と恵みの森~ウル~』
この辺りの地域は9月にあたる月から次第に涼しくなり、11月中旬にあたる頃には雪がちらつく場所も出始める。エリエス方面はすでに白く色づいているのだがあそこはほぼ一年中雪があるので今回はカウントしないことにしておこう。そんな地域での紅葉の時期は短く9月が終り10月の始めから10月下旬ほどが紅葉の美しい時期である。
「・・・・」
「ふふ、綺麗だろ? この時期ハウネ高地は一番紅葉が美しいんだ」
しかしハウネ高地は標高が他より高くまた特殊な条件の為に少し紅葉の始まりが早く今が一番の見頃で、赤や黄色などの美しい紅葉を訪れる者達に魅せている。
「ほんと綺麗ですね・・みんなも連れて来ればよかった」
「ああ君のパーティメンバーか、うーん見ごろはあと半月も無いかなぁ」
マギーの観光案内のような説明と美しい風景にカステルは目を輝かせていたが、ふと今は離れている仲間の事を思い出し少し残念そうに呟く。そんなカステルを見てマギーが教えてくれるように紅葉が早い分見頃を過ぎるのも早いのがハウネ高地の特色である。と言っても見頃を過ぎるだけでウルの森周辺はこの辺りで一番冬の訪れが遅かったりもするのだが。
「難しそうですね・・」
「・・・ただいま」
「あ、お帰りなさ・・あれ?」
「んー? ずいぶん減ったな?」
カステルはマギーの説明を聞き頭の中で簡単に日数計算をするが、依頼や移動の日数を考えるとみんなで来るのは難しそうだと諦める。そんなカステルをマギーが楽しそうに見つめていると、どこかに行っていたのかクラリッサが戻ってくる。その両手には数本のキノコを持っているがクラリッサの両手を見たマギーは減ったと言う。
「・・ユウヒに捨てられた、9割毒キノコだって・・」
「あ、ははは・・(ユウヒさんが毒キノコ知ってて良かった・・)」
どうやらクラリッサはユウヒに道々採取したキノコの収穫成果を見せに行ったようだが、ユウヒの右目の力によってその9割が毒キノコと判明し捨てられてしまったようで、少しになったキノコを大事そうに持っているクラリッサからはいつもの通りの乏しい表情ながらもどこかしょぼんとした雰囲気を感じ取れるのだった。そんなクラリッサの言葉に苦笑いを浮かべるカステルは心の中でユウヒに感謝する。
「ふーむ流石ソロの冒険者だなキノコ鑑定に宝石鑑定・・共通点がさっぱりだよ」
「そうですねふふふ」
「・・・・」
二人の会話から新たなユウヒの情報を得たマギーは、カステルから得た情報と摺合せユウヒと言う人物について考察するも情報量が少ないのか又、共通性の無い情報の為か未だユウヒを図れないでいるのであった。そんなマギーの呟きに楽しそうに笑うカステルの後ろでは冒険者科の娘達が興味深げに見つめる中、食べれるキノコを大事そうに馬車に積むとまた獲物(山菜)を探し始めるクラリッサの姿があったのだった。
行軍を開始してから2,3時間経っただろうか、なんでもこの行軍実習冒険者科は休憩無しで目的地まで行くと言うのが毎年の通例らしくそろそろお昼頃だが休憩なく歩き続けている。こっそり魔法で身体能力を強化している俺は問題無いが、合同の為休憩有りから無しになった魔法士科の娘達はすでに何人か脱落し馬車の上である。
「あれ? ユウヒさんそれってカハーリヤさんが持ってきた毒キノコですよね?」
「ん? ああそうだよ、何かに使えないかと思ってね」
今俺の手元には先ほどクラリッサが嬉々として持ってきた毒キノコが数本、どうやら本人的にはいっぱい採れたことを自慢に来たようだが、俺が嫌な予感に従い右目で調べたのところ約9割が毒キノコと判明し、俺は慌てて食べれるキノコ以外は藪の中に投げ捨てたのだった。キノコの中には皮膚接触でも有害な物があると昔本で読んだ覚えあったからだ。そして今手元にあるのはその残りである。
「毒キノコをですか?」
「毒も使いようによっては薬になるからね・・と言ってもこれは使えなさそうだけど」
俺は不思議そうにしているネリネに説明しながら、鑑定済みの毒キノコを茂みに一本づつ投げ捨て最後の一個を右目で調べる。
【ビエンタケ】
菌界
ホコリタケ属
ビエンタケ種
暗い灰色や暗褐色の頭部を持つキノコ、大きさは3~4㎝で8割を占める丸みのある円錐状の頭部と短く太めの柄で構成されており、主に秋によく見られ森の奥の腐葉土などに自生している。
完熟した頭部内部には大量の胞子が入っており、この胞子は有毒で一度吸い込んでしまえば鼻や目の粘膜を刺激し酷い花粉症の様なクシャミと目のかゆみに襲われる。しかし死ぬことは無く症状は一週間ほどで完治する、が2,3日はまともに動けなくなるだろう。
この胞子が出てしまった後の頭部には毒が無いのと適度な歯応えで美味な為、食用として用いられることもある。
性質:有毒 E、歯応え D、旨み E
「なるほど、確かに昔そんな事を学園で習ったような・・薬と毒の境目はほんの少しの違いしかないとか」
「そうだよ、用法用量は正しくってね」
俺の言葉に対する反応を見るにそういった薬と毒の関係なんかも学校で勉強するようで、何かを思い出すような仕草をするネリネを横目で見ながら、俺は最後のキノコを食用として扱うか毒物として捨てるか悩むのだった。もし捨てるなら遠くに投げ捨てた方が良いだろう何故ならこの胞子のたっぷり入ったキノコは、一定以上の衝撃を与えると内部の有毒胞子を吹き出す仕組みになっているらしいからだ。
「でもちょっとかわいそうじゃなかったですか?」
「ん? クラリッサの持ってきたキノコを大半投げ捨てた事か?」
「はい」
思い出すのを止めたのかネリネが先ほどの俺の行動に関してどうなのか聞いてくる。俺は大量の毒キノコに慌てたのもあり、毒と判断した瞬間次々にクラリッサの腕の中から藪の中へと毒キノコを投げて捨てたのだ、全ての毒キノコを捨てた後クラリッサの手の中に残っていたのは当初の一割程度になっておりその時のクラリッサの表情を例えるならば捨てられた子犬だろうか・・。
「流石に猛毒のキノコをこれでもかと持ってこられたら・・・ねー?」
「?」
「まぁそうなんでしょうけど・・そんなに危ない物だったんですか?」
少し悪い気もしたが説明もしたので解ってくれただろう、そんなわけであれはしょうがないのだと、ネリネの後ろから顔をのぞかせていた行軍脱落魔法士科少女に同意を求めてみる。しかし話を聞いてなかった少女は、俺がねーと言いながら頭を傾げると同じように、こちらはキョトンとした顔で頭を傾げる。どこか猫っぽい雰囲気の少女で癒される。
「んー触っただけで即死は無いけど人齧りで致死量に至る物とか、あと食べたら確実に今回の実習中お荷物扱いになる物とか・・・イロイロと危ない物とか」
「・・・ユウヒさんの行動は正しいのです」
俺の説明にどんな毒なのか気になったようで聞いてくるネリネに俺は調べた結果をざっと説明をした。酷い物は人齧りで致死量の物や、軽い物は幻覚系や腹痛系に男的に危ない物とか一部の種族に興奮作用があったりと、流石は異世界と言いたくなるバラエティーに富んだ内容だった。そんな俺の表情と言葉から真実だと察したのか、最初より良くなってきた顔色を再度青くして呟くネリネと、話を聞いてネリネにしがみつく此方も青い顔で頭を上下に振り同意する魔法士科の生徒であった。
「ありがとさん・・しかし良い森だな」
「はい、私は2回目なんですけどグノー学園ではここに来るの恒例行事みたいなものらしいですよ」
「・・・確かに駆け出し冒険者には良い訓練の場所かもね・・てい!」
顔色の悪くなったネリネと女の子の賛成票に礼を言いながら話を変えるため森の方を見ると、段々と紅葉した木が増えてきているようで無意識にそんな言葉が零れる。そんな俺に色々と説明してくれるネリネの話を聞いていると、誰も気が付いていないようだが先ほどから【探知】の魔法に引っかかっている敵性反応の一つがすぐ近くまで急速に近づいて来ていた。三次元レーダーで位置を確認すると、ネリネの説明と周りの状況それと【探知】に引っかかる獣の量で気付くこの実習の有用性について感想を述べた後、思い切り振りかぶると手の中にあったビエンタケを視認できない目標へと【身体強化】の力を活かし投げつけたのだった。
「おー・・そうなんですか?」
「猛獣が結構いるみたいだし・・」
「「「猛獣!?」」」
【身体強化】のおかげか綺麗に見えない目標に向けて飛んで行くビエンタケの姿に声を上げるネリネ、その後ろでは脱落生徒達が動けるようになったのか顔を出し始める。俺は強化された聴覚に届いた小さな「キャイン!?」という鳴き声と【探知】のレーダー上で急速に離れていく、敵性反応じゃなくなった反応を確認するとぼそりと呟いたのだが、どうやら馬車の上の娘達に聞こえたようで声を揃えて叫ぶとネリネにしがみ付く。
「だ、大丈夫ですよ!? このキャンプ予定地までの道には魔除けの結界石を設置してあるので早々有害な生物が寄って来る事はありませんから! 出発前に説明有りましたよね?」
「そういえば・・」
「ふぅびっくりした」
なんでもこの道は学園が独自に作った実習用の道の一つで、魔物や動物除けの結界が張られているらしく【探知】の魔法で見ても一定の距離から近づいてこないみたいで、先ほどの急速接近は珍しいケースだった様である。ネリネの説明に安堵の声を上げる生徒達だが先ほどの例もある為、ある程度の緊張感は持っていてもらいたいと思い一応釘を刺しておくことにした。
「だが気を緩めるなよ? 綺麗な風景に気を緩めて敵の接近に気が付きませんでしたーじゃ意味が無いからな、そう言う意味でもここは良い訓練場所になるだろ」
「「「「なるほど」」」」
「慢心や油断ってのが一番の敵だからなぁ」
俺の話を聞いて馬車の上の生徒も、俺の近くで歩いて話を聞いていた生徒も、どこか気の抜けた顔を感心したような表情に変え何故か俺の顔をじーっと見てくるのであった。しかし気のせいだろうか、なるほどと言う声の中にネリネの声もあったような・・・きのせいだよね。
「・・・・はっ!(思わず感心してたけど私先生だよ!? でもユウヒさんもベテラン冒険者なんだろうしそう言う意味では先生に・・うぅ)」
「どした?」
「な、なんでもないですよ!?」
「「「「?」」」」
妙な百面相をしているネリネが気になったので、どうしたのか聞いてみるも何でもないと言うが、その妙に吃った声に俺も周りの生徒も不思議そうな顔をするのだった。
ユウヒが不思議そうな顔をしている頃、その後ろの方では微妙な雰囲気を出している場所があった。
「・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
「「「「じーー・・・」」」」
そこにいたのは4人パーティ【オニモテ】のモメンとテカリ、それからその後方を行軍する冒険者科の男子生徒達なのだが、何故か妙な汗を掻くモメンとテカリ、
「(な、なあさっきから妙な視線感じないか?)」
「(お、おう俺もさっきから妙な気配を感じてたんだきっとこれは女の子たちが俺の事求めてるんじゃないかと・・おもうんだ)」
そんな二人はこそこそとお互いに先ほどから感じる妙な視線について話している、テカリは普段から過剰と言える自信があるのだがこの時はどこか自信が持てないようであった。
「(珍しく自信ないな・・まぁ確かにこれは悪寒の類だしな)」
「(おふ! 分かったこれはきっとヤンデレちゃんの気配だ! しかし困ったなモテすぎるのも)」
「(ヤンデレかーロリっ娘ならありかな、ぐふふ)」
「(おふぅたまらん!)」
しかしモメンの言葉に何を察したのか、急に口元を緩め涎を垂らすと今感じる気配について自信満々に予測を立てるテカリ、その予想にモメンも先ほどまでの気味悪そうな表情を鼻の下を伸ばし気味の悪い表情に変えると気味の悪い笑い声を上げる。そのモメンの言葉に更なる妄想を駆り立てられたのか、恍惚とした表情でにやけるテカリ・・・正直二人して浮かべるその表情は無気味である。
「・・・・・(んーこれで行くか・・まぁ人の好みなんて人それぞれだしな・・俺は勘弁願いたいが)」
最後尾からそんな様子を見ていたオルゼは腕を組みながら何かを決めたように頷く、その視線の先には冒険者科男子の隊列先頭で肩を並べ歩く二人の護衛と、その後方からどこか熱い視線を送り息の荒い5人の男子生徒の姿があったのだった・・・。
オルゼの居る最後尾とモメン、テカリの二人の中間の隊列を両サイドから護衛する二人の冒険者オラウとニオウ、
「・・・(はぁ・・なんで男ばっかの場所の護衛なんだよ・・あの男は女ばっかの所なのによ!)」
オラウは現状が気に入らないのかそのイケメン顔を憎しみに染めており、そんなオラウが怖いのか冒険者科の男子生徒はオラウから距離をとって歩くのだった。
「・・・・(早く最終日の夜にならんか・・そしたらおでの魅力でメロメロになっだ娘を・・デュフフフフ)」
その反対側ではこの先の明るいピンク色? の未来の事を考えてか妙な笑みを浮かべ涎を垂らすニオウの姿、その隣には線の細い男子生徒がニオウの顔をじっと見つめていた。
「あのー」
「ん? なんだぁ?」
「涎垂れてますよ?」
「おっとすまねぇ気が付かなかったぜ、あんがとよ」
どうもニオウの口から垂れる涎が落ちそうで落ちないのが気になっていたのか、男子生徒は意を決してニオウに話しかける。そんな男子生徒の声にどこか別の世界に逝っていたニオウは正気を取り戻すと、涎に気が付きその男子生徒に礼を言う。
「いえ、あのこれで拭いてください」
「ぶははは、気にするなそれよりちゃんと前向いて歩けお前みたいにヒョロイとこけっちまうど?」
「あ、はい(・・・ワイルドで優しい人だな・・)」
男子生徒はハンカチを取り出すとニオウに渡そうとするも、ニオウは笑って自分の腕で涎を拭うと反対の手を男子生徒の頭にのせてあまりに線の細い男子生徒を心配すると手をどかし少し先を歩きはじめる。そんなニオウにその男子生徒は頬を赤く染めると何故か潤んだ瞳で先を進むニオウの背中を見詰めるのであった。
「!?(な、なんだぁ? 妙な悪寒が・・何故ケツがムズムズする?)」
この妙な悪寒に襲われて震えるニオウと言うイノシシ系の亜人に見間違われる人族の男は、色々と考え方がずれているが基本的にやさしい性格をしているのだった。見た目上色々と損をしているが一部の種族には人気があったりもする。
トタタタタ・・・パタパタパタ・・・てててて・・・とたたたた
そんな妙な空気の溢れる後方と違い女性ばかりの最前列、時間もだいぶ経ちそろそろ目的地に到着する頃、そこでは疲れの見え始めた冒険者科の生徒達と違い軽快な足音をたてる人物がいた。
「く、クラリッサさん・・」
「・・なに? カステル」
「い、いえその護衛なのですから少しは・・」
「くくくくく、面白いな」
「・・? 大丈夫、頑張って集める・・ご飯は期待してて」
そう、クラリッサである。どうやら食べれると教えてもらったキノコを道すがら採取し続けていたようで、馬車の中やクラリッサの手の中にはキノコや山菜などが溢れていた。そんなクラリッサの行動に真面目なカステルは依頼主の一人であるマギーの方を気にしながら、どうにか自重してもらおうととするもどこか噛み合わない会話が流れるばかりでマギーの笑いを誘うだけだった。
「あ、いやあのあー・・」
「あっはっはっはっはっくっくっく・・・あー君達は素晴らしいよ」
そんな先頭を軽快に歩く騎士科のクラリッサと、まだクラリッサを気にするだけの元気のある冒険者のカステル、それから楽しそうに笑う魔法士科教師のマギー、その三人の様子に疲れを見せ始めた冒険者科の女生徒達は、自分たちと三人との間に大きな壁を感じ様々な感情で三人を見つめるのであった。
「はぁ・・マギーさんも笑ってないで少しは」
「大丈夫だよ、この辺りはまだ結界内だからね結界から抜けるのはもう少し先、ウルの森に入ってからだよ」
「それは聞きましたが・・うーんいいのかなぁ」
この道に張られた結界についてはすでに聞いていたカステルだったが、その真面目な性格からか釈然としない感じである。その感情の中にはフラフラとあっちに行ったりこっちに行ったりしているクラリッサへの心配も含まれていた。
「ふふ、郷に入ては郷に従えだよ」
「それはなんですか?」
「うむ、古代文明の遺跡から出土した物に書いてあった言葉で、なんでもその地その地のやり方に合わせるとか従えと言った意味らしい、古代文字翻訳をしている友人が教えてくれたのさ・・良い言葉だろ?」
「なるほど・・そうですねそう言うことも必要ですよね」
そんなクラリッサにとある言葉を教えるマギーだったが、マギーの言った言葉の意味が分からずクラリッサはキョトンとした顔で意味を聞く。どうやら古代遺跡の調査で出てきた言葉らしいのだが・・・なぜユウヒの住む世界の諺が古代遺跡にあったのか、その謎が分かればこの世界の謎の深い部分が分かるのかもしれない、しかしこの場にそのことについて気が付く者は誰も居なかったのだった。
「ユウヒに見せてくる」
「わ! あ、ちょっと・・」
諺の意味に何か深いものを感じたカステルは真面目な顔でその意味の指すところについて考えていたようであるが、急にすぐ隣までやってきたクラリッサに驚くと、走り行く後姿を止める事叶わずクラリッサは隊列の後方へと軽快な足音をたてていった。その顔はいつもと変わらない表情の少ない顔だったが、どこかリベンジに燃えている様にも感じたカステルであった。
「ふふふ、君も一緒に行って来たらどうだい? 気になるんだろ?」
「そ、そんな事・・それにもう少し行ったら結界も無くなるのですから持ち場を離れるわけにはいきません」
「・・・ふむ、それもそうか」
「そうです」
「ふふふ、お! 見えてきたぞあそこがウルの森の入口だ!」
そんなカステルをからかおうとその表情から丸解りなマギーだったが、返ってきた正論に何も言えず同意してしまう、そんなカステルの真面目な顔に微笑むと目的地であるウルの森その入口が見えてきたので、疲れてきている生徒を鼓舞する意味も込めて声を大きく上げると森の入口を指差したのだった。
「うわぁ・・・綺麗」
呆けるカステルと、疲れの見えていた表情を明るく変えていく生徒達の目の前に広がっていたのは、そこだけ明らかに別の森だと言った感じに背の高い木々が存在感を主張し、その強い生命力の息吹を感じる木々はまるで秋色のドレスを纏うかのように生い茂らせた色取り取りの紅葉で、見る者に幻想的な雰囲気を与えている。
「ふふ・・ほらお前達もそんなに騒ぐんじゃない紅葉は逃げないし後でうんざりするほど見れるんだ! ちゃんと行軍できないと到着が遅くなるだけだぞ!」
『はーい!』
「冒険者科の女の子は元気だねぇ」
「そうですね」
そんな絶景を目にした冒険者科の女生徒達はどこに残してあったのか元気を取り戻すと、マギーに元気よく返事をしその行軍のスピードを上げたのだった。そんな姿を見ていたマギーは魔法士科ではあまり感じる事の無い雰囲気に、嬉しそうに微笑み率直な感想を述べるとカステルもそんな生徒達の姿に何かを思い出しているのか微笑み、マギーに同意するのだった。
そんな明るい雰囲気の流れる場所から北に向かった場所では・・。
「・・・・ゴエンモ我らの目の前に見えるのは何だろうか・・」
「・・・拙者の知識が正しければあれは川でござる・・結構広い川でござるなぁ」
「・・・・」
そこにいたのは3モブ忍者、そして目の前に広がるのは美しい水が流れる大きな川、渡るなら渡し船が欲しい所である。
「我らの楽園に向かうには川を渡る必要があるのか?」
「拙者の記憶が確かなら必要無いでござる」
「・・・・・・・・・」
しかし彼らの居た砦から学園都市まではこの川を渡る必要は無く、また見ることも無かったであろう。
「そうか、ところで我は地図を持っていないのだが今回のマッパーは?」
「なんでも今回は予習済みとのことで前回のリベンジとヒゾウが買って出たでござる」
「・・・・・・・・・・・・・・正直すまんかった」
どうやら前回のリベンジにとヒゾウが地図係をやったようだが、またやってしまった様である。そこ、ジライダとゴエンモが見つめる先には四つん這いになり項垂れるヒゾウの姿があった。
「我が任命するゴエンモ道案内頼む・・」
「了解でござる・・・ヒゾウ元気を出すでござる」
「なぜこうなった」
ジライダは美しい川に視線を移し水面を見詰めながらゴエンモを地図係に任命する。ジライダがヒゾウに何も言わないのも彼なりの優しさなのだろうか? ゴエンモもヒゾウがここまで大変な病を患っているとは知らなかったため思わず慰める。
「ふっ・・方向音痴だからさ」
「うわぁぁぁん」
しかしヒゾウの悲痛な声に悪心を刺激されたジライダはニヤリと口元を歪めるとぼそりと真実を告げ、現実から顔をそむけていたヒゾウの胸に鋭い言葉のナイフを突き刺す。どうやらネズミなどの件で弄られ続けたお返しの様である。ヒゾウはその痛みに耐えきれなくなったのか涙を流しながら走り去る。
「元気でござるなぁ・・ってヒゾウ! そっちは反対方向でござる!?」
「我らは楽園に行けるのだろうか」
そんなヒゾウに苦笑いを浮かべるゴエンモはヒゾウが目的地とは反対側に走っていることに気が付くと慌てて追いかけはじめ、そんな二人の姿を横目で見送るとジライダは自分たちの行く先に不安を感じるのであった。
いかがでしたでしょうか?
一見辛いだけの行軍もユウヒは楽しんでいるようですね、一番楽しんでいるのは騎士科少女かはたまた一部の男子生徒か・・。彼らの行く先に何が待っているのか、そしてユウヒはどんな事を起こしてくれるのか・・・そしてあの三人は・・。
そんなわけで次回もここでお会いしましょう!さようならー




