第四十九話 実習護衛開始
どうもHekutoです。
時間かかりましたが四十九話無事更新です。今回はユウヒがグノー王都で受けた依頼がようやく開始です。きっとユウヒの事なのでまた一騒動起こしてくれる気がします。そしてユウヒの知らぬところでも・・・。 それでは四十九話をどうぞ!
『実習護衛開始』
冒険者科と魔法士科の合同野外実習が決まった次の日、夕食時までかかり日程を決めた各科の担任教師の3人は今、早朝の学園都市北門前のベンチに座っていた。魔法士科中等部担当教官のマギー副教官のネリネ、そして冒険者科中等部担当教官のオルゼである。
「何とか間に合いましたね・・」
「ああ、まったく人間やってやれないことは無いものだ」
「・・・・無理した分眠いけどな」
どうやら実習日程の調整などは夕食時までに終わったようだがその後の準備に結局遅くまでかかったようで、ネリネは若干顔色が悪くその隣でベンチに座っているマギーは人間の可能性について考えているようだ、オルゼは立ち上がりながらコキコキと首を鳴らすと眠そうに呟きながらベンチの二人に目を向ける。
「そうですねぇ・・道中が心配ですぅ」
「あーネリネ先生は道中荷台で休んでいてください」
「い、いえ! そんなそれは・・あう」
オルゼの言葉に苦笑いを浮かべるネリネ、そんな彼女にオルゼはこのまま行くと必ず起きるであろう未来を予想したのか移動中の休憩を勧める。しかしその提案に悪いからと遠慮しようとするネリネだが言い切る前にマギーの手が伸びる。
「ネリネ君・・君は休んでいてくれ、見ている此方が不安になる。現地に到着する頃には回復するだろうからそこからは働いてもらうよ」
「うぅすいません・・なんで二人はそんな平気なんですか?」
頭をポフポフと優しくマギーに撫でられるとしょぼんとしながらも了解するネリネは、何故か自分と同じいやそれ以上に動いていた二人から感じられる余裕ある気配に疑問を浮かべる。
「まぁ俺達は元々冒険者やってたからな、徹夜作業もよくやったものさ」
「ふん、全盛期に比べれば軽い物さ」
「はぁ・・あれ? 御二人って学園の教師になる前から知り合いなんですか?」
そんなネリネの疑問に何かを思い出すように二人で理由を答えるマギーとオルゼ、そんな二人にわかったような分からなかったような返事を返すネリネだったが、何かに気が付いたのか血色が悪く白くなった頬を少し赤く染めると目を輝かせ質問をする。
「お、おおまぁな?」
「ネリネ、君は変な勘違いをしかねないので行っておくが、ただ一緒のパーティだっただけだからな? 他に何もないからな? ただの、そう唯の戦友さ・・」
急に元気になったネリネに返事が吃ってしまうオルゼ、そんな姿にネリネの目はさらに輝くが彼女の考えていることが色恋な内容だと察したマギーは即座にそれを否定する。
「そ、そんなこと考えてませんよ?」
「(いったいどんな事を考えてたんだ・・)」
「ふん・・」
今度は自分の考えを見透かされたネリネが吃ることになり、ネリネの焦る姿にオルゼは疑問顔を傾げる。そんな二人の姿にマギーはふんっと鼻を鳴らすとそっぽを向いてしまう。その時マギーの頬が少し赤くなっていた事には誰も気が付くことは無かったのであった、オルゼは冒険者時代から一部で鈍感と有名であった事をここに記しておこう。
「早めに出たけど予定通りに到着、悪いのはコッケルの串焼きなんだ・・」
実習護衛当日、この日も朝早くから目覚めた俺は宿の主人に一言行ってくると声を掛け早めの予定より更に少し早めに出たのだが、途中の露店でコッケルの串焼きを見つけたので朝飯に一本買って歩きながら食べることにしたのだった。しかし予想以上にその味付けが美味しく途中でさらに二本欲しくなり来た道を戻ってしまったのであった。
「んーあそこにいるのが担任なのかな?」
道中ペロリと串焼きを完食した俺が集合場所に指定してあった北門まで来ると、すでにちらほら集まり始めているのか数人の子供と大人の集団を見つけた。その集団が護衛対象とその装備やなんかから当りを付け、一番近い場所に居た担任と思われる女性に確認の為話しかけることにした。
「おはようございますー実習護衛の依頼を受けた冒険者ですがー」
「ん? 早いな・・君は!」
「あれ? あぁと言う事は今回護衛するのは暴走の時の娘達ってことかぁ」
そんな風に話しかけ振り向いた女性の姿を見た瞬間、俺の脳裏にはあの日の出来事が鮮明に思い出され、今回増えた護衛対象の予想がついたのでだった。
「いやぁ! うれしいね君が護衛してくれるのなら心強い! まだ生徒も護衛も集まりきって無いが護衛の集合場所はこっちだ案内するよ」
「あ、はい」
そう、その女性とはあの暴走魔法襲撃事件(笑)の時に出会った魔法科の先生であったのだ、そこから導き出された答えは十中八九当っているのだろう、どこか見覚えのある少女達がこちらをチラチラ見ている気がするのだから。
「おっとすまないね、まさかこんな短期間でまた会えるとは思わなかったからね」
「まぁ元々冒険者科の護衛でしたしね?」
何やらテンションの高いその女性は、俺の反応に自分のテンションの高さに気が付いたのか少し照れたように片目をつぶるり頭を掻くと、少し前に出会った時と同じような落ち着いた調子で話し始める。そんな彼女が言う様に本来なら今日この場で会う可能性はあの時ほぼ無かったのだから、ある意味この出会いは運命の悪戯のようにも感じとれた。
「む、その件に関してはすまないと思っている。急な変更で悪かったね」
「気にしてませんよ? 特にやることも変わらないでしょうし、でもあまり期待しないでくださいね?」
「いや! 期待してしまうね君の戦闘が見れるかもしれないんだ! ネリネ君!」
特に他意は無かったのだが俺の言葉に彼女は、少しだけしゅんと申し訳なさそうな表情をすると謝罪してくる。俺は特に気にしてなくあまり期待されても困るので釘を刺そうと思ったのだが、その目と反応からは手遅れを感じたのだった。そんな彼女は少し離れた場所でベンチに座っていた女性を呼んでいるようだ。
「へ? はーいなんですか?」
「こちらは今回護衛してくれる・・・そう言えば名前を聞いてなかったな」
呼ばれた女性はキョトンとした顔で振り向くと、パタパタと足音を音をたてながらこちらに小走りでやってきた、たぶんこの女性も教師だと思うのだがその雰囲気は彼女を呼んだ女性とは真逆で幼さと言うかどこかほわほわした空気を感じるのだった。そんな感想を抱いていると俺の隣でしまったと言った感じの声が上がったのでとりあえず目の前までやってきた若干息の上がっている女性へも含めて自己紹介をすることにした。
「あ、どうも冒険者のユウヒです。今回護衛にあたりますのでよろしくお願いします」
「あ、はい! ネリネです。よろしくお願いします!」
「私の事はマギーと呼んでくれ、それで彼なんだがこの間話した魔法士が彼なんだよ」
この見た目立派なレディの女性はネリネと言い、俺の隣で腕を組んでいるクールな雰囲気に戻った女性はマギーと言うらしい。そんなマギーはすでに俺の事をネリネさんに話していたらしく、いったいどういう風な内容だったのか気になったが、
「え? すごい水魔法の使い手って言う?」
「そ「いやいやいや」う? どうした?」
マギーの説明に即座に反応した彼女の反応を見て何となく予想できたのだった。俺はそんな評価にどこか恥ずかしさを感じマギーの言葉を遮って否定してしまう。
「そんな使い手とかじゃないですから、あまり変な噂を広めんでください」
「謙遜も過ぎると嫌味だぞ? まぁいい、安心してくれこの話を広めるつもりは無いからな」
「あ、はい他言無用と言われてますので・・・あのぉ一つ質問良いですか?」
そんな俺の否定の声にマギーは眉を寄せるとそんな事を言うのだ。確かに結構な威力が出ていたし謙虚も過ぎればと言うのも分かる、しかし上には上がいるのだしその上アレは大半が精霊達の力なので自慢する気にはなれなかったのだった。そんな風に困った顔でマギーと見つめ合っているとネリネが広めませんと言ってくれた後、何故かそろそろと手を小さく上げ質問があると言う。
「どうぞ?」
「ユウヒさんは本当に冒険者さんですか? ・・あ、いえ! ちょっとそれっぽく見え、あ、悪い意味じゃなく!?」
「ネリネ君・・君も以外に毒を吐くんだね「はぅ!?」」
俺の了承の声にネリネは最近俺がよく言われる事を俺に質問してきた、その容赦の無い一撃に思わず固まっているとマギーが恐ろしい子に掛けるような声と視線をネリネに向ける。そんなマギーと俺の姿に自分が言った言葉を再認識したのか慌てて口を押えるネリネであった。
「あははは、もう慣れました・・・ちゃんと冒険者ですよ」
「ご、ごめんなさい!?」
「おう、どうしたにぎやかだな?」
俺の渇いた笑い声と慌てるネリネの声が垂れ流しになっている場所に、新たに一人近づき話しかけてくる気配を俺は後ろに感じ振り向いた。
「良い所に、紹介しよう冒険者科の担当教官のオルゼだ、でこっちが護衛の冒険者でユウヒ君だ」
「お! そうか君がユウヒ君か、グノー支部のお墨付きだと聞いている。冒険者科教官のオルゼだ、今回はよろしく頼む」
「あ、ははは・・・ご期待に答えられるように頑張ります」
振り向いた先に居た男性は冒険者科の教官だとマギーが説明してくれる。どうやら名前はオルゼと言うらしいが一体俺に関する情報はどのくらい尾鰭が付いているのか、その期待に満ちた視線に俺は耐えきれなくなり渇いた笑いを溢すとつい視線をそらしてしまう。
「なんだ、謙虚な奴だな冒険者にしては珍しい! 気に入った!」
「(すまないオルゼは少し天然でな、悪気はないんだ)」
「(うん、もう慣れてるから大丈夫ですよ?)」
そんな俺の言動を見たオルゼはストレートな感想を俺にぶつけると、俺の右手を取りブンブンとシェイクする。そんな元気な姿に苦笑いを浮かべているとマギーが耳元ですまないと謝罪してくるが、もう冒険者っぽくないと言うのは気にしない方がよさそうである。
「それじゃネリネ君、ユウヒ君に予定を説明していてくれ、私は生徒が集まり始めたようなので行ってくる」
「はい! 解りました」
「こっちは寝坊組が集まれば全員だな、俺はほかの護衛が来てるか見てくる」
一通り挨拶が終わるとマギーは魔法士科の生徒が集まり始めたようでそちらの対応に、オルゼの受け持つ冒険者科では寝坊した生徒が数名居るだけで他は集まっているらしく護衛の案内に向かうようだ。
「はい! それではユウヒさん、今回の依頼の詳細を説明します。分からないことがあれば聞いてくださいね」
「了解した」
そんな二人に説明を頼まれたネリネさんは俺の方を向くと気合を入れて説明を始める。しかしやっと今回の依頼の詳細が知れるのは嬉しいのだが・・説明するのにそこまで気合を入れるものなのだろうか。
何とか噛まずに説明できました。
「・・・と言う事になります。以上ですが何かありますか?」
あ、どうも私はグノー王立学園魔法士科中等部副担任のネリネと言います・・・私誰に挨拶しているのでしょうか? まぁそれは良いとして、
「とりあえず大丈夫かな、また何かあれば聞くけどいいかな?」
「はい、その時は3人の担当教師に聞いていただければ大丈夫です」
どうやらユウヒさんは今の説明で理解してくれた様で一安心です。私はこの学園に勤め始めてまだ日が浅いためどうしても緊張してしまうのですが、優しそうな冒険者のユウヒさんのおかげで緊張も解れてきたので今回の実習は幸先がいいです・・若干寝不足できついですけど。
「おーい残りの護衛も集まったぞー」
「あ、はいこちらの説明も一通り終わりです」
どうやら護衛の人が集まったようですね、オルゼさんの後方で何人かの人に混ざって後輩ちゃんが手を振っているのが見えます。どうやら来てくれた様で嬉しくて手を振りかえしてしまいました。
「? そうか、ならこっちの護衛には俺が説明しよう」
「いいんですか?」
私の行動にオルゼさんがキョトンとした顔をしたので慌てて手を引っ込め苦笑いを浮かべます。そんな私を不思議そうに見つめながら話を進めるオルゼさん、そう言う何事もあまり気にしないでくれる姿勢は長所だと思います。
「連続で説明してもらうのもな、そのかわりうちの生徒の整列と点呼を頼む。煩かったら魔法を一発ぶち込んでくれて構わん」
「あ、ははは行ってきますね。それじゃユウヒさん失礼します」
どうやら残りの護衛の方にはオルゼさんが説明してくれるようで、私は冒険者科の事を任されましたが流石に生徒にぶち込むと言うのはどうなんでしょうか・・。そんなわけで私はユウヒさんに一言挨拶をするとガヤガヤと賑やかな一角へと向かうことにしたのでした。
「おう、あんがとさん」
「「・・・ユウヒ(さん)?」」
「おやぁ?」
その時、私が冒険者科の方へ向かう瞬間カステルちゃんの声がしましたが何かあったのでしょうか? まあ後で聞けばいいですね、先ずは冒険者科の子達を整列させないと。
びっくりした、依頼の詳細な説明をベンチに座りながら聞いた後、別の仕事の為に席を外すネリネさんと挨拶を交わした直後、後ろから俺を呼ぶ声がしたので振り向いて見るとそこには見知った二人の女性が立っていたのだ。
「はぁ・・そんな事があったんですかお疲れ様です」
立っていたのはカステルとクラリッサであった、クラリッサは学園の生徒だから会う確率はあったがカステルがこっちに来ているとは思いもしなかったので驚くのもしかたないだろう。
そんなわけでオルゼの説明の後、お互いに別れてから何があったのか話し合ったのだがカステルはネリネさんの後輩らしく、今回は直接護衛をお願いされたらしい。尚カステルの言ったお疲れ様と言うのは俺とネズミの楽しい一時に対する労いである、どうやら他のメンバーはそっちの討伐に行っているとの事だ。
「あはは、カステルはネリネさんに頼まれたのか・・じゃあクラリッサは?」
「・・・・単位がたりない」
「「・・・・・・」」
その後の説明を要約すると、寝坊や遅刻などで足りなくなった単位を今回の護衛を実習の一つとすることで補填できるようにしてもらったとか、しかしこれは普段の成績がよかった為の措置らしく、毎回こんなことが許されるわけじゃないらしい。それでも毎年こういった形で単位取得する人は珍しくないようであり、貴族や特殊な環境の生徒が多数在籍しているのが影響しているとも言っていた。
「・・・えっとクラリッサさん? 頑張ってね」
「ん、ありがと」
カステルはクラリッサの話を聞き、何か思い出したのかのように苦笑いを浮かべるとクラリッサを応援する。どうやら彼女の学生時代にも苦笑いを浮かべるだけの似通った思い出がありそうである。そんな応援の声にクラリッサは首だけコクリと動かすとお礼を言うのだった。
そんなユウヒ達の居る場所から少し離れた場所に四人の男達が何か話し合っていた。
「クソ! なんだよアイツは!」
この悪態をつく男の名前はオラウと言って今はその顔を嫉妬と怒りで歪めているが所謂イケメンである。
「集まっで早々二人も囲い込みやがって!」
その隣にはイノシシ系の亜人に間違われそうな姿の男が怒りに鼻息を荒くしユウヒを睨みつけている。
「まぁまぁリーダーもニオウさんも、知り合いみてぇだしほらほらあっちのまだまだ青い少女達もたまらんですよぉ・・ハァハァハァ」
そんな二人の後ろには、鼻息の荒いニオウと呼ばれた亜人に見えるが普通の人族の男を宥めている、見た目は普通だが十代の少女達を見るその瞳は明らかに普通とは違う物が含まれている男、その名をモメンと言い。
「やべ! あの子俺の事見詰めてるぜ! こりゃ完全に惚れたな、ふふふふ」
さらに彼等3人の事など我関せずと言った感じの男が、複数の少女達から送られる奇異の視線に何を勘違いしたのか自分に一目ぼれしている、困ったなと言いながらクネクネと身悶えている男、テカリ。
そう、この男達こそオルゼが問題視していた冒険者パーティ『オニモテ』の4人であった。彼らは女性問題(一方的な)をよく起こすことで冒険者ギルドのブラックリストに入っているのだが、彼らは全くそのことに気が付いていない上に自分達の非についてまったく気が付いていなかったりする。
「・・おい、俺が手出す前にヤッたらゆるさねぇからな」
「わがってるさ兄弟! まぁおでの魅力でこてっと逝っちまったらしょうがないけどな! ぐふははは」
パーティメンバーの勝手言い分にあることを念押しするオラウ、そんなオラウに笑いながらわかっていると言いながら何か想像しているのか楽しそうに笑うニオウ。このパーティにはいくつか決まりがありその一つが女に手を出すときはリーダーのオラウから、それから他の三人が各々好きにやる事となっている。なんともがっかりな内容の決まり事であるが彼らは本気でそういった決まり事を作っているのだ。
「・・・あぁその時は勝手にしろ」
そんなニオウの言葉にどこか力の抜けたような表情でニオウを見詰めどうでもいいように返事を返すオラウ。彼とニオウはパーティ結成時からコンビを組んでいる仲であるが、その理由も自分の美しさをより引き立てる為に一緒に居るのである・・お互いに。美的感覚とは多様なのであった。
「まぁ今回の障害はあの男教官だけだな、後は女にヒョロイのしかいねぇし」
「そうだなぐふふ、いまから夜が楽しみだ」
先ほどまでクネクネと妙な動きをしていたテカリが護衛対象や教師陣、ユウヒなどを見て今回は楽勝だと言いながら三人の所に戻ってくる。そんなテカリの観察結果に賛同しながら涎を垂らすモメン、しかしそんな二人に厳しい声でオラウが注意する。
「ばっか焦んなヤんのは最終日あたりの夜だ、疲れてきて判断能力が落ちた時が勝負だからな」
そう、残念だが彼らにとって一連の会話内容は本気なのである、そこに悪意などまったくなく彼らの共通認識として自分達に選別され目を付けられた女は幸せなのだと言う根拠のない自信があるのだ。
「ふふ、おでの焦らしテクニックでメロメロにしてやるだ、ぐふふふ」
「・・・そうだな、おまえらもいいな!」
何を想像しているのか口から涎を垂らしながら奇妙な笑い声を上げるニオウに、やはり疲れた御座なりな返事をしたオラウはモメンとテカリに今回の作戦? を念押しするのだった。
「「了解ですよ」」
その作戦の声が他の人間達、ましてやオルゼにも聞こえていると知らずに・・。
「・・・・(早々にこれか、聞かれてないとでも思っているのか? こりゃ居ない方がマシなレベルになりかねないな)」
「先生どうしたんですか?」
「いや、なんでもないそれより準備は良いか? 今回は色々と特殊だからな」
オルゼがオニモテの四人を険しい表情で見ていると生徒の一人が不思議そうに話しかけてくる。そんな生徒の姿に表情を優しい教官のものに戻すと生徒と話し始めるオルゼ、
「はい! こんな合同実習滅多にないですから楽しみです! 帰ってくるまでが遠足ですよね!」
「・・・・・不安だ」
しかし返ってきた生徒の返事に思わず笑みを硬いものに変えると、その楽しそうに燥ぐ生徒達の姿に心の底から不安を口にするオルゼなのであった。
「オルゼこっちの準備も終わったぞ? どうする班分けで行くか?」
「・・いや、行軍時は科別で到着後混成班分けにしよう。行軍隊列は中央に魔法士科で前後をうちの奴らにやらせる」
きゃっきゃと騒ぐ生徒に困った奴らだといった表情でその口元だけ楽しそうに緩ませるオルゼに、準備が終わったマギーが実習内容について相談に来る。オルゼはすぐに教官の表情に戻すと若干難しい顔をした後、行軍実習時の隊列についてマギーに伝える。その二人のやり取りはやり慣れた感じがし、見るものが見ればそれだけでも付き合いが長いことがわかるだろう。
「ふん、心配の種か」
「ああ、うちの生徒含めてな」
オルゼの表情から考えていることを読み取ったのか鋭い目つきでオニモテのメンバーを睨むマギー、オルゼは頭を掻きながらぽつりと呟くと未だに騒がしい生徒達をチラ見する。
ちなみにこの時マギーの視線に気が付いたテカリは、教師まで虜にする自分の美しさは罪だなとまたクネクネしていたのだった。
「それはこっちも同じだな、それなら中央はユウヒ君に頼もうかな」
「ネリネ君と一緒にか・・それがいいな、あいつらと俺は後ろにつくのでマギーは前を、えーとカステル君と騎士科のクラリッサだったか」
「了解だ、ユウヒ君と話しながらいけないのが少し不満だがしょうがないか・・」
「はぁ・・これより行軍隊形を組む! 指示通りに並ぶように!」
彼らの中では一番当てにしているのがユウヒと冒険者ランクD+のカステルで、次点で集団行軍等の知識があるであろう騎士科高等部のクラリッサであり、護衛戦力として一番不安なのが現状疲れ切っているネリネである。さらに護衛対象で緊急時一番不安なのが魔法士科の娘達であり、オニモテに対する対応能力的にも魔法士科が心配な様でこういった隊列になったのだった。
『はい!』
「護衛の者達は行軍時の配置を伝えるので来てくれ」
オルゼの指示で動き出す生徒達を確認するとマギーは護衛依頼を受けた者達に指示を出すために歩き出した。
そんな朝の学園都市から北上してここはグノーの帝国方面国境砦、その門の前には門番に敬礼されている3モブ達の姿があった。
「任務完了だ」
「うむ、ご苦労」
「ジライダって無駄に偉そうなキャラ作りだよな」
どうやらこの三人、愚だ愚だしていたがやっと暴走ラットの報せなどを済ませた様である。
「キャラとか言うなし」
「ふむではロールプレイでござるな」
「いやコイツネカマだからリアルロールプレイやったら放送事故になっちまう」
簡単に説明するならばロールプレイとは、キャラクターに成りきる事でネカマとは、ネットの中で女性に成りきる男性の事である。それにしても彼らの会話はいつも通りどこかずれている、しかしそんな会話をキリッとした真面目な顔でしている為か、門番達はその姿と難しい? 言葉の羅列に流石自由騎士団の方々だ、とかモーブ忍者は一味違うなど勘違いを深めていくのであった。
「おまえらなぁ・・・それよりこれからどうする?」
「うはww無理矢理話そらしやがったwwwうぇ・・」
「そうでござるな・・とりあえず任務は果たしたわけでござるし楽園・・・ユウヒ殿に会いに行っては?」
どうやらジライダを弄りすぎたようでヒゾウはジライダからネックハンガーをくらっている。そんな姿を後目に、ゴエンモは劇画調に表情をつくると南を向きながら彼ら本来の目的を語る。
「楽園とかww本音漏れてるしwww・・・行くか楽園へ」
「我らの真の目的の為に!」
「「おう!」」
そんな劇画調の渋い顔つきで南の空を見ながら締まらないことを言いだす三人、そしてその後ろ姿を眩しそうに見つめる砦を守る門番達、どこかそこだけ映画のワンシーンを切り抜いたかのような空気が流れるのであた・・・。
「ん? 何かが近づいて来るような・・」
「どうしました?」
3モブ達のズレた気迫を感じ取ったのかふと北の空を見上げるユウヒ、そんなユウヒに不思議そうな表情を馬車の上から向けるネリネ。現在ユウヒは実習目的地である森まで行軍をする行軍実習の護衛中の様である。
「いや、なんでもない」
「えっと、やっぱり私だけ馬車の上と言うのはやっぱり駄目ですよね・・」
キョロキョロと周りを見て歩いているユウヒの姿にネリネは自分だけ馬車の上に居るのが気に障っているのかと勘違いをし不安そうに聞いてくる。
「いや気にしないが? 疲れているのなら休んでてくれ、それもまた団体行動時は重要な事だろ?」
「そう、ですね・・先ほどはすみませんでした。そう言う考え方が出来るって、ユウヒさんはベテラン冒険者なんですね」
キョトンとしたユウヒの返答に、自分の考え方が恥ずかしくなったのか少し顔を赤くしながらしょんぼりとするネリネ、中々に器用である。そんな二人の会話に気が付いた魔法士科の生徒が面白そうな空気を感じ取ったのかネリネに近づき、
「なかなか疑り深いよね先生って」「流石ネリネ先生だよね!」
「ち、違いますよ!? ってみなさん変な事言わないでください!」
「「「「あはははははは」」」」
ネリネを弄り出す。このどこか慣れた流れを見る限り魔法士科の生徒にとってのネリネの立ち位置が何となく予想できる。そんな風に言い合いを続ける生徒とネリネのやりとりを、どこか暖かいものを見る様な目でユウヒは見ていた。
「ふぅ・・ほれほれちゃんと前向いて歩かないとこけるぞ」
『はーい』
しかし彼女達は列からズレさらにネリネの方を向いて歩いている為、その足取りは危なっかしくユウヒはその姿に見かねて、可笑しそうな溜め息を一つ吐くと元の列に戻るように促し、促された魔法士科の少女達は元気よく返事をするとパタパタと軽い足音をたてながら元居た仲間達の所へと戻るのだった。
「うー・・・なんだかユウヒさんの方が先生見たいですよ」
「勘弁してくれまだ護衛の方が楽そうだ」
「くすくす、私は体力無いので冒険者は無理ですねぇ」
そんなユウヒと自分の生徒達のやり取りを見ていたネリネは眉を寄せると、どこか釈然としないのかそんな事を言いだす。そんなネリネの反応にユウヒは自分が教師になった姿を想像したのか嫌そうな顔をして答える。その嫌そうな表情をつくるユウヒを見て、可笑しそうに笑ったネリネも冒険者をしている自分を想像したのか苦笑いをしつつ無理だと答える。
「・・・ふむ、そんなお疲れな先生にはこれをあげよう」
「これは?」
「飴玉だ体力回復効果があるからそれでも舐めて寝てるんだな」
「ありがとうございます・・んん! 甘くていい香りですぅ」
「そら飴だからな」
だいぶ顔色も良くはなってきたネリネだが、ユウヒは確かに見た感じ体力がある様には見えないなと考えると、バッグの中から陶器の瓶に入ったユウヒ謹製の赤い飴玉を取り出しネリネに渡すと睡眠を勧めた。渡された赤く透き通った飴玉を宝石を見るかのように見ていたネリネは、ユウヒの説明を聞いてじっと見つめた後ぱくっと口に入れるととろけた様な声を出す。
ネリネの反応もしょうがないだろう、ユウヒの今いる地域は周辺国家も加えて甘味の発展が乏しく甘い食べ物=高価な物であり、甘い物も大半が只々甘いだけで現代日本の様な美味しい甘さの物と言えば一部の職人の作る最高級品か果物くらいであり、ユウヒが全力妄想で作り上げる飴などはそれこそ王室献上品クラスになってしまう。職人がそんな秘伝とも言えるレシピや調理技術を公開するわけも無く、そういった理由も発展が乏しい原因になっているようだ。
「あー!」「いいなー」「先生だけずるーい」
「ふむ・・・そうだな、俺は真面目なやつは嫌いじゃないな」
「ほえ?・・・は!? 私真面目に行軍します!」「え? あ! 真面目です」「「「私も! 私も!」」」
「なら前向いて歩けー」
『はーい!』
またどの世界の女性も甘い物は好きなのか、気になるワードが耳に入った魔法士科の生徒達がユウヒ達の居る馬車の周りに隊列ごと近づいてきて会話に入ってくる、どうやらユウヒと言う異性を今まで遠くから観察していたようだが、その観察の結果ユウヒはめでたく? 危険じゃない人と言う評価を付けられたか、ただ甘いものに釣られた為か、行軍開始時より物理的又、心理的距離が近くなったようである。
「やっぱりユウヒさんの方が先生みたいですぅ・・・」
「飴と鞭ってやつだが・・ネリネさんは十分慕われてるだろ」
欲望に満ちた感情を隠すことなく楽しそうに行軍する少女達、それとは裏腹に馬車の上で両手を付き項垂れ愚痴るネリネ、そんな負を背負ったネリネの姿に苦笑いを浮かべるユウヒだがすぐにその表情を戻すと今感じたままの感想を告げる。
「えへへ、そう言ってもらえると嬉しいですねぇ・・あ! あとさんとか付けなくて呼び捨てで良いですよ? カステルちゃんも呼び捨てみたいだし」
そんなユウヒの感想に素直に喜ぶネリネ、こう言うところが生徒に好かれる要因なのだろう。しかし喜んでいたネリネは何かに気が付いた様にはっとするとカステルと同じで呼び捨てで良いと言いだす。もしこの時マギーが居合わせていればきっとニヤニヤしながらネリネを弄るのだろう、と言っても後日しっかりと弄られることになるのだが。
「わかった、そういえばネリネはカステルの先輩なんだったな」
「はい! かわいい後輩ちゃんです」
未来で弄り倒される事など知るはずの無いネリネは、ユウヒの了解の声に嬉しそうにすると可愛い後輩カステルの話を始めるのであった。
そんな会話が行われている前方、行軍の先頭ではマギーを先頭にカステルとクラリッサさらにその後ろには、冒険者科の生徒が隊列をちょこちょこ歪めながら初々しく行軍実習を行っていた。
「は・・くちゅん」
「おや、可愛いクシャミだね」
「あ、すいません何だか急に・・」
「あっはっは、目的地は少し標高が高くなるしこの辺りはもう涼しいからね」
寒さの為かそれとも噂話の為か、可愛いクシャミを披露してしまったカステルはマギーの可笑しそうな声に少し恥ずかしそうな表情を浮かべる。
「・・・ハウネ高地、久しぶり」
「ふむクラリッサ君は騎士科高等部だったね、なら中等部の時お世話になっているのか」
「うん・・ハウネは美味しい」
「美味しい・・ですか?」
マギーの言う様に目的地に近づくにつれて雰囲気や気温が変わってきている。そんな周りの変化に何か思い出すようにクラリッサぽつりぽつりと話す。グノー学園中等部の生徒は内容は違えど大半がこの野外実習を行う、その為高等部のクラリッサもこの実習の経験者なのだがそのどこかおかしい感想にカステルは不思議そうに聞き返す。
「くっくっく確かに美味しいな、なんだ騎士科にも面白い子がいるじゃないか」
「はぁ?」
「?」
そんな二人のやり取りを見て楽しそうに笑うマギー、そんな楽しそうなマギーを見て首を傾げ互いに見つめ合うカステルとクラリッサ。
「今の時期ハウネ高地にあるウルの森には秋の味覚がいっぱいなるのさ、だからこそこの時期に実習をしてサバイバルスキルも鍛えたりするってわけだよ」
「はぁ噂には聞いてましたが面白い学園ですね・・少し楽しみかも」
ハウネ高地とはグノー王国にある緑あふれる丘陵でありその中でもウルの森とは、精霊や神々が住むとも言われる森で豊富な山の恵みを手に入れる事が出来る。特に秋は美しい紅葉と秋の味覚で溢れ、ウルの森を中心にし次第に丘陵の周りへと紅葉が広がる為、現地民には秋の始まる森と呼ばれていたりもする。そんな情報も他国民のカステルには初耳だったのか、まだ見ぬウルの森に思いを馳せている様である。
「そうか君はアクアリア魔法学園の出だったな、あそこは固いからなぁ・・・そうだな到着後時間があれば山菜狩りでもするといいし、通り道にも色々生っているだろうから採りながらでもいいな、うむ」
「え、そんな護衛中なんですけどいんですか?」
「はっはっはそんなあたりアクアリアだな、いいのさこれがグノー流ってやつさ」
「はぁ・・」
カステルのリアクションを見て、マギーは顎に手を当てながらネリネに聞いていた情報を思い出すと、アクアリアの魔法学園について何か嫌な思い出でもあるのか苦い顔をする。しかし少し何かを考える様に目を瞑った後、カステルの方を見ながらそんな提案をしだす。そんな楽しそうなマギーの提案に驚くカステルは、クラリッサとマギーを交互に見ながらグノー学園の自由な校風に驚きを隠せないでいるのだった
「・・・ちょっとユウヒに、教えてくる」
「え? ユウヒさんに?」
「ん・・ユウヒは、旅をしながら、色々採取してるって・・言ってたから」
クラリッサは何か閃いた様に少し口を開けると、二人に対し一方的に説明するとそのまま後方に向かって歩き出すのだった。
「あ・・うーん確かにユウヒさんは色々出来るけど・・・料理もできるのかしら? むむむ」
「ふふふ、色々と興味深いねぇ」
「そうですね、私もちょっとしか付き合い無いんですけど」
「ほう? どうかな道中は暇だ、話でもしないか? 彼の事について」
「え、ええ良いですけど私もあまり話すことないですよ?」
ユウヒの多能さを知っているカステルはクラリッサの説明から料理もできるのかと予測すると眉を寄せ難しい顔で唸り出す。貴族の家出娘カステル、彼女の料理の腕は・・・少なくとも期待しない方が良いようである。そんな様子を見て楽しそうなマギーはカステルにもっと話さないかと提案する。
「いいよ、彼の事だどんなことでも面白そうだ(なにせ彼についての情報は少なすぎるからね・・・)」
どうやら短時間ではあるものの彼女なりにユウヒの事を調べていたようだが、大した情報が手に入らなかったようである。
そんな風に各々楽しい会話をしつつ、グノー学園都市中等部合同野外実習の行軍実習は平和に進んで行くのであった。一部を除いて・・・。
「「「「(何で俺らの周り男しかいないんだよ!?)」」」」
いかがでしたか? お楽しみいただけたでしょうか。
まだ護衛依頼は始まったばかりですが、何か起こりそうな予感を匂わせる事が出来ていればいいのですが。
次回もまたここでお会いできることができれば幸いテです。それではさようならー




