第四十八話 依頼内容変更のお知らせ
どうもHekutoです。
今回は早めに出来上がりましたので四十八話を更新させていただきます。楽しんでいただければ幸いです。
『依頼内容変更のお知らせ』
ユウヒが合成魔法でまたもやりすぎを感じて眠りについた次の日、日が昇り町に活気が出始める頃。ここは学園都市学園内教師棟の一室そこには3人の男女が話をしていた。
「そこをどうにかなりませんか?」
「むぅ・・」
目を閉じ腕を組んでいる男性に、必死な顔で何かをお願いする女性。
「あの子達も楽しみにしているんです!」
「む、むぅ・・」
「これだけ頼んでも駄目なんですね・・・うぅ」
必死に頼む女性は手にも力が入りぎゅっと握りしめている、しかし男性は片目を開けると唸る一方でまったく返事をしない、そんな男性の姿についには泣きが入り片手で顔を覆う女性、
「はぁ・・・とりあえずその突きつけている杖と気持ち悪い話し方を止めてくれマギー」
「・・・ふん、誠意を表して貴様の趣味に合わせた喋り方にしたのだが?」
そんな男性の疲れた溜息交じりの声に、マギーと呼ばれた女性は椅子に座る男性の喉元に先端が鋭く尖った杖を突きつけたまま、先ほどとは全く違う声色と話し方で不満を告げ、憮然とした表情で男性を見下ろす。
「先輩・・喉元に鋭利な杖を突きつける姿には一辺の誠意も感じれないのですよ・・」
「まったくだ」
マギーの後ろに控えていた女性は苦笑いを浮かべた顔でマギーを諌め、その言葉に男性も鋭利な杖から逃げるように深く椅子にもたれながらも同意する。
「うーん? 飴と鞭?」
「どこに飴があるんだか・・見た目はマシだが中身がそれじゃな、知っている奴は全力で拒否するぞ?」
ようやく杖をどけた女性は腕組みをし頭を捻ると、今までの自分の行為から生まれる誠意について疑問形で答えるが、男性は不満を述べながら椅子に座り直しマギーに容赦ない言葉をぶつける。そんな互いに毒を吐き合う二人の間には仲の良い悪友同士のような空気が流れていた。
「ふん、大体だな貴様が家のネリネの全身を使った懇願を断り続けるから私が来たんだぞ?」
「あ、あの先輩? 私普通にお願いしてただけなんですが? それだと何だか卑猥に聞こえますぅ・・」
「まったくお前は変わらんな、別に俺だって嫌がらせで断っているわけでは無いさ」
「・・わかっている、どうせそちらも集まりが悪いのだろ?」
マギーのどことなく意味深な発言に、ネリネと言われた女性は顔を赤くしながら否定する。いつもの事なのか特に気にした感じのしない男性は普通に受け答え、そんなやり取りにどこか不満が有りそうな顔をするネリネ。
「それだけじゃないんだよ・・ちと集まった冒険者パーティに難があってなぁ」
「ふぅん? 弱いのか?」
「・・・まぁ弱くは無いが強くも無いな、問題は手癖だな」
「手癖ですか?」
そんな表情もそこまで気にしてるわけでは無いのかすぐに元に戻り目の前の二人の会話に聞き入るネリネ、しかしその話の内容が良く分かって無いようで男性の言葉をオウムのように返す。そんな三人、実はグノー学園中等部の教師で冒険者科と魔法科の担当教官である。そしてマギーとネリネの受け持つ生徒とは昨日ユウヒを誤爆したあの生徒達であり、あの時ユウヒを授業に巻き込んだ教師はマギーなのであった。
「ふん、下種か確かにうちの生徒は皆可愛い娘ばかりだからな」
「一応そう言うことが無いように依頼を出しているがな、隠れて何をやるか・・」
「そんな連中に頼まないといけないとは・・ネズミの件か」
「まぁそう言う事だ、せめて抑止力になるような腕の良い冒険者が居てくれればな・・」
「あ、あの一応Dランク冒険者の知り合いは一人確保してるんです」
どうやら【暴走ラット】の発生は物資関係だけではなく、有能な冒険者の一時的な枯渇と言う事態も引き起こしているようだ。そんな冒険者不足に悩む男性にネリネは魔法士科でも一人冒険者を確保していて実力もDランクだと告げると男性は顔を上げ少し明るい顔をする。
「ああ君の後輩だったか? Dランクあれば十分だろう・・どうだ?」
「Cランクは欲しかったがなあいつらのリーダーがDくらいだからなんとかなるか」
「Cかそれに準ずる実力者が欲しかった、か・・まぁ欲張ってもしょうがあるまい」
「一応他の科にもお願いしてますが、明日来てくれればいいのですが・・」
男性的には余裕を持ちたかったところの様だが、まともであろうDランク冒険者の存在は十分前向きになれる内容だったようで、魔法士科で行っている学園内求人の話にも先ほどより幾分明るい表情で頷いている。しかし、
「出来れば女性に集まって欲しいんだがなー」
「・・・・・貴様がそんなやつだったとは、やはり雄と言うことか」
そんな言葉を溢した男性に、まるで汚物でも見るかのような視線をおくるマギー、そんな先輩男性教師にマギーがおくる視線と表情に即座に言葉の意味を想像したネリネもまたマギーの背中に隠れながら視線を送る。
「まてまてまて!? お前の生徒は皆女の子なんだ護衛も女性がいいだろうが!」
「・・・はっはっはじょうだんだよじょうだんすまんすまん」
「お前絶対わざとだろ! しかもそんな棒読みで言われても謝罪の気持ちは伝わってこねぇよ!」
「ほっ・・・あの!? では明日の野外実習は合同で良いのですよね?」
男性は言葉の真意を伝えその言葉にネリネはホッとしたのか、言い合う二人の姿に声を殺しクスクスと笑う。そんな話の流れで何か気が付いたのか今回お願いに来た内容の了承についての確認をするネリネ。
「あーまぁ何とかなるだろ未確認情報だが一人頼もしいのが居るらしいからな」
「「頼もしい?」」
どうやら彼女らは魔法士科の野外実習の護衛が集まらなかった為、すでに集まっている冒険者科へ合同野外実習を持ちかけていたようで、冒険者科の教師である男性の中でもすでにその方向で考えているようだ。そうした理由の一つに頼もしいだろう冒険者の情報があるようで、その言葉に魔法士科の二人の女教師はキョトンとした顔をする。
「なんでもグノー王都のギルドが寄こしたやつでCランク冒険者が二人も勧めたやつらしくてな」
「ほう、それは確かに頼もしそうだ(何者か気になるじゃないか、ふふふ楽しみになってきたな)」
「頼もしい・・(Cランクの人が・・やっぱりゴツゴツなのかなそれとも大きいのかな・・あわわわ)」
男性もその冒険者に興味があるのか楽しそうな表情で説明し、その説明を聞いたマギーも面白そうな顔をする。しかしそれとは対照的に頼もしい冒険者像を頭の中で想像したネリネ顔を青くしブルブルと震えるのであった。
「ほれ、呆けてないで詳細を詰めるぞ、あとすまないがネリネ君ちょっとギルドに集合場所等についてだけでも知らせてきてくれないか?」
「あ、はい! 行ってきます!」
「・・・私のネリネを顎で使うとは良い度胸じゃないか」
「いやいやいやいや!? おま杖を構えるな詠唱しようとするな!?」
そんな対照的な表情の二人に苦笑いを浮かべると話しを進めるために仕切り直しネリネに言伝を頼む男性教師、しかしその行動が気に食わなかったのかネリネが部屋を出た直後杖を構えるマギー、どうやらその気配に本気を感じたのか逃げる男性・・・。
「ふんふん♪ <ドゥン!> はわぁ!? ・・・・あ、あはは・・ごめんなさーいぃ!」
すべてが上手く行き気分よく鼻歌を歌い廊下を歩くネリネだったが直後背後、今まで自分が居た部屋から強烈な爆発音とドアの隙間から漏れる黒煙に驚き何かを察したのか、苦笑いを浮かべると少し涙目になり何故か謝りながらその場を走って逃げるのであった。
それから数日後、マギーは何故か結構な大金を学園に支払うことになったのはまた別の話である。
そんな爆発と黒煙騒ぎから数時間が経ったお昼頃、ここは冒険者ギルド学園都市支部の中。
「ふぅん、集合場所は北門前で朝出発で日数は四日~七日・・・ってそれだけなの?」
「う、すまん・・色々あってな未だ詳細を決めている段階なんだ、あとな護衛対象に多少の変更が出るかも・・いや出るな」
そこには明日に控えた護衛依頼の詳細を聞きに来たユウヒの姿があった。しかしその詳細は詳細と言える内容ではなかったようだ、それもそのはず現在進行形で話し合いが進められているのだから、そして何故かその話し合いをしている男性が煤けているのだが、ユウヒは知る由も無い。
「んー? まぁ多少変わるのは良いがどう言うことだ?」
「魔法士科と冒険者科で話し合いをしているみたいでな・・・」
「・・・あーそう言う事か魔法士科、冒険者科共に人気が無いと言う事か」
「おー良く分かってるじゃないか! 特に中等部魔法士科は暴走が多いからな!」
特に気にした風では無いものの不思議そうなユウヒにギルド職員件教師の男性は今の状況を説明する。その内容に現状を察するユウヒ、その勘の良さに感心してさらに説明する男性。
「・・・・・・・確かにあれは怖いかもな」
「お前さんまさか・・よく無事だったな」
「まったくだよこんがりウェルダンにされるところだった」
その言葉に嫌な物を思い出したユウヒは顔を若干青くしてぼそりと告げる、それだけで何があったのか察した男性職員はユウヒの肩に手を置き励ますのだった。
「良く生きてたな・・まぁ今回の依頼で一番頼りにしているから怪我はせんでくれよ」
「なんでさ・・」
一通り励ました男性は腕を組み二カッと歯を見せ笑いながら頼りにしていると言う。そんな男性職員の発言にユウヒは微妙な顔をする。
「なんでってお前、Cランク冒険者二人からお墨付きを貰ってるんだ頼りにもする! あまり良い冒険者が集まらなかったからなぁ」
「ガレフと・・ヒューリカか? やっぱり集まりが悪いのか?」
そんな評価にユウヒは某筋肉斧使いパーティメンバーの名前をこぼし、実際に集まりが悪いのかと聞いてみる。
「数は集まっているんだがな、ちょいと質の悪い連中でな」
「質ねぇ? どんなふうに?」
「毎回女絡みでいろいろやってる奴らでな、まさかロリの気まであるとは思わなかったが」
「なるほどね、そっか女の子もいるんだよな・・」
腕を組み困った顔をする男性職員、どうやらここでも手癖所謂女癖の悪い冒険者達が話に上がっているようで、まさかこのくらいの女の子にまで手を出すのかと学園やギルド側でも要注意対象になった様である。そんな話にユウヒは護衛対象について良く考えて無かったなと思いぽつりと呟く。
「・・まさかと思うがお前さん」
「ロリじゃねぇよ、知り合いに頼めば即座に来てくれそうだが連絡つかないからなって思ってさ」
「・・・それは大丈夫なのか?」
「んー? まぁ紳士だし腕も確かなんだけど、今頃何してるのかね?」
そんな言葉にまさかお前もと心配になった男性職員、ユウヒの返事にホッとするも続けて話す知り合いと言う人物に不安を感じ微妙な顔をする。
こんなことをしてました。
「何と勿体ない奴だ! けしからん!」
「そうだ! なぜそこで行くとこまで行かなかった!」
「おまいら最初と言ってることが矛盾しているでござる! てか手出したらダメだろ! 紳士的に!」
そこは草原にある一本の大きな樹、その太い枝にはミノムシのようにロープでぐるぐる巻きにされ逆さに吊るされたゴエンモと、その横には手に細い木の棒を持って地面に立つジライダとヒゾウが居た。どうやら二人はゴエンモにフラグが立った件について話を聞きながら砦に向かていた道中、その内容に不満があったのか再度尋問に掛けているようだが、ゴエンモの正論すぎる答えに二人は、
「「ぐっ! 正論を・・ゴエンモのくせに!」」
「いたいいたい! 痛くないけど突くなでござる!」
行き場の無い怒りを感じ、手に持っていた細い木の枝でゴエンモを突きだすのであった。そんな本当に残念な三人の黒装束の姿に偶然通りかかった風の精霊が楽しそうに笑っていたとかなかったとか。
(くすくすくすくす)
「そんなわけで今解っているのは集合場所と時間あとは、一応食事は通例通りなら最低限は学園側で用意しているくらいなんだ、すまん」
「いえいえ問題無いですよ、身軽な一人旅ですし予定は特に入ってませんし」
「そう言ってもらえるとありがたい、その代りに何か知りたいことがあればなんでも聞いてくれ」
今日はお昼を出店で済ませ学園内にある冒険者ギルドに明日の詳細を聞きに来たのだが、どうやら詳細は明日の朝知らされるそうである。そう考えると明日は早めに出ないといけないだろうか、そんな事を考えながら話しているとなんでも聞いてくれとの事なので本来の目的についても何か分かればとあることを聞いてみる。
「そうだなー・・じゃな何か危険なモノが有りそうな場所知らない?」
「危険なモノ? あんたも根っからの冒険者ってことか、冒険者っぽくは見えんのに・・あ、すまん」
「もう慣れました」
そんな突拍子も無い俺の質問に一瞬キョトンした彼は面白そうに口元を歪めると、毎度言われるあのセリフを最後に言い放ち、しまったと言った顔をする。こう何度も言われると慣れてしまうもので今では軽く流せる・・それでも残念なのには変わらないのだけど。
「あはは、そうだな有名どころじゃ強欲の森とか、今ネズミの発生源と言われてるウィルニス大森林とかかな? 調べれば遺跡関係でゴロゴロ出てきそうだけど」
「ふむ、強欲の森ってどこ?」
俺はネズミの発生源にわざわざ突っ込みたくなかったので、もう一つ名前が上がった強欲の森と言う厨二心をくすぐるような名前の森について聞いてみる事にした。
「おいおいやめとけって、あそこは本当にヤバいらしいからよ」
「まぁ聞くだけでもさ」
「・・しょうがないな、強欲の森はここからずっと東の大山脈の麓から広がる大きな森なんだが。聞いたこともあるかもしれないがあそこは元々国があったんだ・・・」
どうやら危険な所らしいのだが、ここで止められても気になると言うものだ。仕方ないなと話し始める内容はこんな感じである。学園都市からずっと東に行くと北から南の海の先まで連なる山脈があるらしい、その麓に問題の森があるのだが昔は森に囲まれた王国があったとか。
「かなり肥沃な土地で農業と古代技術で秀でた国だったんだよ、それが昔いきなり森に浸食されほんの数日で滅んだんだ、その影響は各国にも広がってな酷い有様だったよ・・お前さんくらいなら赤ん坊の頃になるのかね?」
「そんな事があったのか」
「ああ、城も町も村も全部だ・・今は各国の協力もあって落ち着いてるみたいだが、また何かの拍子に浸食が始まるか分からないそうだ・・」
山脈からの肥沃な雪解け水による農業が盛んで遺跡なんかもあったらしく、古代技術や古代魔法などの研究も盛んに行われていたようだ。それが数日で城も村も滅ぶか・・そう言えば俺が住んでいたことになってる村って滅んだんだよな、ふむ・・しかし原因か。
「何が原因なんだろうな?」
「さぁな・・一部では古代魔法か古代技術かって話だが、今は良く分からない物はみんな古代の仕業にする風潮があるからな真相は分からん」
「ふぅん・・それなら近づかない方がよさそうだな」
強欲の森に滅びた王国滅びた村、そして原因不明で古代遺産か・・・気になる事が多いがどの道それだけの被害を出した物ならアミールから頼まれた危険物と言えるだろう。ただそれが完全に眠ってしまっているのなら、無理に起こす必要もないのかもしれない。もっと詳しく聞きたいところだったのだが、俺の目の前には『俺全力で心配してます』と言った感じの顔が俺を見ている為、これ以上聞くことには憚りを覚えると言うものだ。
「ああ、そうしてくれ・・次来た時の為に他に何か聞いたら覚えておくさ。冒険者にとって危険は飯の種だからな!」
「ありがとそれじゃ俺は行くよ(ふむ、強欲の森ねぇ森の浸食がどうして強欲なんだろうねぇ)」
「おう! 護衛頼んだぞー」
俺の返事に心底ほっとしたと言った感じの職員さんはとても良い人なのだろう、表情を元の二カッとした笑顔に戻すと次来た時の為に何かあったら覚えとくと言って、俺が立ち去る時も手を振ってくれるのだった。暑苦しい感じもするがああいうタイプは生徒に慕われるのだろうとか考えながら俺は冒険者ギルドを後にしたのだった。
「あ、そう言えば風邪が流行ってるのか聞けばよかったかな? 最近妙にクシャミ出るんだよなぁ」
「それはぜったい」「カゼとかじゃないとおもう」「・・・・・しかし自慢に行ったら撃墜されるとはおもわなかった」「「まったくだ!」」
宿に帰る前の寄り道の道すがら最近クシャミが多い事を呟いていたのだが、そんな俺の姿を遠くの屋根の上から見て突っ込みを入れる妖精達が居たことを俺は知る由もなかった。ましてやその姿が包帯であっちこっちをぐるぐる巻きにしたり腕を吊っていたりと痛々しい姿になっていたことなど、理由も含めて・・・後日知ることになるのだが。今は知らない。
いかがでしたでしょうか?
そんなわけで依頼内容が変更になりそうなユウヒのお話でした。そしてあの三人組はどこまで迷走していくのでしょうか?
次回も楽しみにして頂けたら幸いです。またここでお会いできることを楽しみにしております。それではさようなら~