第四十七話 騒ぎの現場
どうもHekutoです。
四十七話の調整が終わりましたので更新させていた開きます。今回のお話は少し視点を変更してお送りさせていただきます。それではワールズダストの世界へどうぞ。
『騒ぎの現場』
ユウヒが学園都市内で散歩を楽しんで? いる頃、グノー王国の各地では魔物災害が広がりそこに住まう人々に様々な影響を与えていた。その一つここはグノー王都から少し離れた森に隣接した中規模の村、そこには防衛能力の足りない小さな村々の住人が集まり避難している。
「おら! 気合入れて突けよ! 気のぬけた槍じゃ糞ネズミにもってかれるぞ!」
「「「はい!」」」
その村には外敵から住民を守る為、周囲をぐるりと囲むように高い壁が作られている。その壁は魔物災害の知らせにより強化され、さらに冒険者の手により現在進行形で暴走ラットから村を守っている。そんな冒険者達の中先頭に立ち鼓舞の声を上げる者、ユウヒと一時パーティを組んだガレフの姿があった。
「あはは、刺し放題だねガレフ!」
「まったくだぜ! あ? おいあっちの奴ら積み重なって上って来てるぞ!?」
楽しそうな声を上げているのはヒューリカ、その表情からは余裕が見られる。それもそのはず防衛方法自体はとても単純で、基本的に暴走ラットは只々目に入った物を襲い食べ物があるところを目指す習性があるので、食べ物を求めて村の外壁に集まったところを、外壁で足止めし上から長い槍で突き殺すだけなのだ。この方法は昔からとられてきた一般的な物で大抵の場合はこの作戦で民間や冒険者により駆除される。しかし今回は数も多く暴走ラットの思考も行動も少し違ったのか、まるで組体操のごとく積み上がり手の回っていない壁面から上ろうとしてるシリアルラット達が居たのだ。
「まかせて・・えい!」ビュン!
「・・・崩れたね」「・・・・・・」
「・・えへん」
しかし暴走ラット達の奇策もシェラの自信に満ちた声とビュン! と言う風を切る音を上げ飛んで行ったナニカによりガラガラと崩されたのだった。その光景にヒューリカがどこか呆れた声を出しシェラの方を見ると、そこには一抱えほどある漬物石を持ったシェラがいつもの表情で、しかしどこか嬉しそうに聞こえる声で胸を張るのであった。そんな娘の姿にガレフはなんとも微妙な表情を浮かべるばかりである。
「・・・ああ、まぁまた同じことになりそうだし知らせとくか」
「それがいいねっと! まったく刺し放題でおもしろいけど減らないねぇ」
ガレフはそんな自分の娘の姿を頭から振り払うように報告をするため槍をひっこめる。その間を埋める様にヒューリカが減らないネズミに愚痴を言いながら槍を振るう。一応説明しておくが、シェラは神性魔法を使う神官であり決して前衛を担うパワーファイターでは無いのだが、槍が使えず彼女の使える魔法では今の所やることが無いのか自分のできる事を探した結果がこれの様である。
「まったくだ、おーい! 北側が手薄だ! あいつら上ろうとしてるぞー!」
「なんだってー!? わかったー! おい、何人か北側に回れ! 中に入られるなよ!」
「「「はい!」」」
ガレフが村の中、外壁の下で指揮をしていた甲冑姿の男に大声で報告すると、その男もまさかこの高い塀を上ってくるとは思っていなかったのだろう、その報告に驚くとすぐに近くにいた冒険者に指示を出し自分も長槍を手にして駆け出すのだった。
「おらよっと! しっかしユウヒは今頃なにしてっかな」
「そうだね! よっと! ・・ユウヒの魔法ならきっとあっと言う間に終わるんだろうねぇ」
報告を済ませたガレフは勢いよく槍を下に突き刺すとユウヒの事を思い出したように話し出す。そんなガレフの呟きにヒューリカはユウヒの魔法を思い出したのだろう、楽しそうな顔をしながらそう言葉を漏らす。
「・・・襲われてないといいけど、えい」
「カステルは学園都市だしユウヒもどっか行ったらしいし・・今は自分の心配優先で行くか」
「学園都市側は今のとこ被害報告は無いらしいしねっ!」
シェラはユウヒの心配をしながら可愛い声を上げるとまた一つ組体操ラットに漬物石をぶつけ崩す。どうやらガレフ達の話によると現在カステルとは別行動中の様である。そんな風に話し余裕を見せるガレフ達の周りでは同じように冒険者達が槍で外壁の下の暴走ラットを突いている。しかしその顔には冷汗と恐怖が張り付いていた、それは時折聞こえてくる可愛い少女の声と漬物石が風を切り飛んでいく音が影響しているようだ。
「・・・えい」ヒュゴ!
「「「「・・・・・・(ガクガクブルブル)」」」」
そこから離れここはグノー王都外部城壁街、そこにはユウヒが休憩場で出会った冒険者パーティの姿があった。
「ロゥン急いで!」
「ちょ! 待てって重いんだよこれ」
「若いヤツが何言ってんだーほれ走れ走れ」
外部城壁街とは、グノー建国時に初期計画で作られた城壁の外側に出来たスラム街である。しかし今は犯罪や衛生状況の悪化を防ぐ意味もあり、バルノイアが外部城壁街計画を進め所得の低い者達でも住める街が作られている。当然そこにも町を守る外壁はあるのだが、やはり元がスラム街である為その壁には穴があり暴走ラット侵入を防ぐため、補強が行われているようだ。
「お前もさぼるなマイル」
「ぎゃ!?」
「うへぇ・・」
彼らはそんな補強工事手伝いの依頼を受けたのだろう、補強の為の資材を抱え運んでいるようである。そんな中マイルはやる気が無いのか何も持たずロゥンを弄って笑う、しかしそんなマイルにイーゲルは働けと背中に資材を置き、マイルはその重さに耐えきれずそのまま潰されてしまうのだった。
「はーやーく! 災害はまってくれないんだから!」
「いてて、はぁあんま金にならないと思うと力出ないんだよなぁ」
「ふむ、ならやる気が出る情報を教えてやろうか?」
「あ~? どんな情報だ?」
先に進んでいたキャスは皆が来ない為大きな声を上げるが、依頼報酬が安く割に合わない為かマイルはやる気が出ないようだ。そんなマイルの姿に仕方ないなとイーゲルは溜息を漏らすと、腰を屈め未だ立ち上がらないマイルにそっと魔法の言葉を告げる。
「今から行く外部城壁街は娼館の人間が多く住んでいる区域ら・・」
「おらイーゲル何やってんだ! 急ぐぞ! ほれロゥン行くぞ!」
「えぇ!? うわ! 早!? ちょっと待ってくださいよマイルさん!」
「はっはっは! ほれキャスも急げよ~~~」
魔法の言葉を聞いた瞬間、イーゲルが話し終わるのも待たずに立ち上がったマイルはロゥンの何倍もある荷物や資材を持ち上げると、とても今まで地面でへたっていた人間と同一人物とは思えない軽いステップと笑顔でキャスを抜き去り予め聞いていた補修現場へと走って行くのであった。
「・・・・男婦と言わなくて正解だったな」
「何の話ですか?」
「いや、さてと12番区画はマイルに任せて俺達は11番区画に行くとするか」
「あれ? 12じゃなかったんですか?」
そんな戦友の姿に呆れた表情を浮かべたイーゲルはあらかじめ伝えていた場所をマイルに任せ、駆け出し冒険者二人と共に比較的色んな意味で安全な区画へと向かう事にする。
「実は2区画頼まれていてな・・それとロゥン、キャス」
「「はい?」」
「今から行く区画では女の人に手招きされても絶対ついて行くなよ」
「「はぁ?」」
マイルの姿にキョトンとしていた二人にイーゲルはこれから行く場所について注意事項を伝える。しかし何の事だかよく分からない二人は顔を見合わせながら不思議そうな顔で頭を傾げあう。そのどこか子犬のような二人の姿にイーゲルは父親になったような気持ちになり、このままマイルみたいにならず真っ直ぐ育ってもらいたいと思うのだった。
その日外部城壁街12番区画、通称薔薇区画では男の悲痛な叫びが響いたとか響かなかったとか・・・。
「だましやがったなーーーイィィゲェェル!」
「あらぁん♪ かわいい子ねぇん遊んでかなぁい?(野太い男声)」
「いぃやぁぁぁ!?」
そんな悲痛な声が上がっている頃、グノー王城内のとある研究室には数人の人影があった。
「バトーさまーメリエラさまーお茶入りましたよー」
「ん? おおもうそんな時間かありがとうエラ、メリエラも茶にしよう」
「・・・ふぅ、そうですね少し休憩した方がいいですね」
それはグノー王宮魔術師のメリエラとバトー、それにエメラダである。
「何かあったんですか?」
「ふむ、今起こっている魔物災害の事は聞いておるの?」
その研究室の主であるバトーと相談に来ていたメリエラは難しい顔をしていたが、エメラダの姿を見るとどこか優しい顔になり休憩の為お茶の準備がされている席へと移動する。そんな二人の姿に何か感じたのかエメラダが心配そうに聞くと、バトーが良く聞かせるようにゆっくりと話を始める。
「あーはい、えっとシリアルラットの大量発生による暴走ラットですよね?」
「うむそうじゃ、しかしその発生量が異常での原因がさっぱり分からんのじゃ」
「そうなのですか・・えっと、ユウヒさん何か知ってたりしませんかね?」
どうやら魔法の才能だけでは無くこの少女は頭も良いのか、その口からはスラスラと現状について出てくる。そんな少女の姿に嬉しそうに微笑むも直ぐに困った顔になるバトー、そんなバトーの様子に元気付けようとしたのか、エメラダは咄嗟にユウヒの名前を出す。
「どうじゃろのぅ博識ではあったが・・ふむ一応検討しておこうかの」
「ふぅ・・神官団の方にも当ってみましょうか」
「まさに神頼みか・・そちらはワシから話しておこう」
エメラダの言葉に真剣に考え始める二人、そんな中メリエラはあまり気に入らない案件なのか眉を寄せながら別の提案もし、バトーもその提案に難しい顔をしながらも了解する。
「あ、あのぅお二人とも休憩の時くらい仕事のことをわすれては?」
「・・ふふふふそうね、あなたはとても賢いわ」
「ほっほっほそうじゃのそしていい子じゃ」
「????」
またも重い空気を出す二人にエメラダは焦ったように新たな提案をすると、二人の大人は必至な少女の姿に顔を見合わせるとどちらからともなく笑みを溢し少女を褒めるのであった。褒められた本人は今一つ状況が読めないのか、急に変わった二人の雰囲気に不思議そうな顔で頭を傾げるのであった。
妙に微笑ましい空気の流れるグノー城内から少し離れ同じくグノー城内アルディスの執務室、そこには真剣な顔で机に向かうアルディスの姿があった。
「バルカス、蛇神騎士団の受け入れ準備は整ってる?」
「はっ! 問題ありません、すでに人員も把握し受け入れ準備も完了しています」
アルディスの執務室は質素であるも、部屋の中にはグノー周辺国家をまとめた物だろうか大きな地図や書類、それに本棚には高価な物であろう紙の本などが整然と並べられている。そんな部屋の主であるアルディスもやはり魔物災害に係る仕事をしているようでバルカスに準備について聞いている。
「ん、医療団と処理部隊の準備は?」
「あ、はいそちらも完了してると先ほどカシスさんが書類を持ってきました。これです」
部屋の中、ドア付近にはメイも待機して仕事の手伝いをしているようである。こう見るとメイの仕事はすでにメイドの範疇を超えているようにも感じるがそれを咎める者は居ないようである。
また医療団とは、そのまま今回の災害で出た怪我人や討伐任務の部隊へ派遣される医療系魔法士や医師の団体で、処理部隊は疫病などの原因である死骸の駆除や糞尿の処理などを行う専属部隊である。一般的な暴走ラットではその役割を討伐部隊で行い特別編成はされないのだが、今回の様な異常な量では手が回らない為専門で編成するようである。
「そうか、うん大丈夫だね・・」
「アルディス様、心配なのはわかりますがもう少し落ち着きましょう肩に力が入りすぎです」
「・・・そうだね、ちょっと力みすぎてたみたいだありがとう。ふふこれじゃユウヒに笑われるかな」
どれが欠けても作戦に支障が出る為入念にチェックをしている険しい顔のアルディス、そんな姿に見かねたバルカスの諌めごとにキョトンとした顔をしたアルディスは、何かに気が付いた様に少し微笑むと、肩の力を抜いて椅子に深く座り直しユウヒの名前を出す、その顔には先ほどまでの険しい表情は残っていなかった。
「そうですな、あの者なら笑ってどうにかしてしまいそうですな」
表情の変わったアルディスの姿に男らしい笑みを浮かべ冗談で返すバルカス、その姿は依然見かけた時よりも良い方向に丸くなったように感じられた。
「あはは、頼りになるからね・・・さてとちょっと父上の所行ってくるよ」
「お供いたします」
「あ、私もお供させていただきます!」
アルディスは楽しそうに笑い気持ちを入れなおすと、先ほどとは違う余裕を感じる真剣な顔で立ち上がるとどうやらバルノイアの所へ向かうようだ。そんなアルディスの姿に嬉しそうな顔をするバルカスとメイは部屋を出ていくアルディスの後ろに付きお供をするのであった。
時刻は夕暮れ時、そこには無数の人工的な岩が一定の規則で置かれている。そんな場所に二人の人影といくつかの生物の気配があった。
「メディーナちゃん」
「んー? どうしたんだい?」
そう、あの二柱の女神ラビーナとメディーナである。岩に腰掛ける二人の周りには数匹のもこもこと柔らかそうな毛皮のウサギ、それとメディーナに寄り添うように蜷局を巻く大蛇が横たわっていた。
「あのね? お友達のうさぎさんから今聞いたんだけどね? 最近ネズミさんが大発生してるんだって」
「・・・ふ、ふーん? それで?」
どうやら二人はあの揺り篭と言われる場所から出てきた後、その場でしばらく休憩していたようだ。そしてその周りにいる生き物は所謂眷属と言われる生き物達だろう、そんな眷属の中の一匹がラビーナに何かを伝え終わった後ラビーナはそんな事を報告する。その言葉にふと先ほどまである人物と会話していた内容が頭を過ったメディーナは変な返事をしてしまう。
「うん、それでね増えすぎて大暴れしててね? 人間さん達が大変なんだって・・・」
「・・・・増殖・・・・関係無いと言いたいところだけどねぇ」
「ど、どうしよう」
メディーナに説明をしながら何かに気が付いたのか顔色が悪くなるラビーナ、二人とも考えが同じなのか見つめ合う顔には苦笑いが浮かんでいた。そう、彼女達の予想とは某女神が無くした物の効果がネズミの大発生と言う状態を生み出す可能性があると言う事である。二人の様子がおかしい事に眷属達も不安そうに二人の顔を見詰めている。
「んーうーんんー・・あの人の所は行きたくない、かといって人に介入するのも問題が・・」
「あはは・・」
頭を抱えいつになく悩むメディーナ、その悩んでいる内容に渇いた笑いを漏らすラビーナは不安な気持ちを誤魔化すように眷属の一匹を抱きしめている。
「一応管理神に渡そうと思っていた物なんだし話しておいた方がいんじゃないかい?」
「・・・それってまるないひゃいいひゃい!?」
「報告・連絡・相談! 大事な事だよ!」
しばらく考えた結果メディーナは管理神に投げる事にしたのか提案する。そんなどこか悪い顔をしている蛇の女神にラビーナは不用意な言葉を漏らすも、即座に両頬を引っ張られ発言を阻止される。真剣な顔で重要性を説明するメディーナだがその真剣な表情はどこか引きつっていた。
「・・・うんそうだねユウヒ君の事も気になるし連絡入れてみるね」
「アタシは眷属使って少し調べてみるよ・・・まぁもう遅いし明日だね」
柔らかく良く伸びる両頬を開放されたラビーナは頬を擦りながら了解するも、その目元には痛かったのか若干涙が滲んでいる。メディーナはそこから少し離れた場所で遠くを見つめると自分の行動方針を立てる、しかしその視線を自らの眷属に向けると眉間に皺を寄せ明日からと言いなおす。メディーナは蛇の女神で眷属も蛇そして季節は段々と寒くなってきており結果、二人の視線の先に居る大蛇は丸まり完全にスリープモードであったのだった。
「そうだねーへびさんは寒いと動かないもんね」
夜の帳も落ちた頃、学園都市研究者専用集合住宅地のとある一室。
「そうですか・・連絡が来た時は心配しましたよ」
「うふふ、ありがとう・・今回は災害の発生情報が早い段階で入ったみたいだから」
「へー不思議な事もあるものですね」
「そうね、まぁそちらも上手く行ったみたいで何よりだわ」
通信用の魔法具を使い話をしているアン・ヴェール、相手はミューゼルで双方共に今回の災害による安否等の情報交換をしていたようだ。
「はい! ユウヒ様のおかげですでに一種類ですが実用段階に入りそうです・・と言いたいところですがぁ」
「何かあったのかしら?」
「それが意気込んだは良いんですが・・必要な素材が暴走ラットの影響で入ってこないんですよ」
二人は直接的には被害を受けていないようだが、災害の影響はすでに周辺国家を巻き込んで様々な所に出ている。物流の混乱もそんな被害の内の一つで、生活必需品は優先的に輸送されているものの高級品や嗜好品さらに各種生産ギルドなどが使用する素材などは入手困難な状況になっている。アンが欲する素材に関しては現状での入手は絶望的な状態なのであった。
「・・・そう、落ち着くまで待つしかないわね」
「はい・・」
「ふふふ、そんなしょげちゃだめよ? 元気の無い姿・・あなたは・・く・・・あら?」
肩を落とすアンに画面の向こうのミューゼルは優しい笑顔を浮かべると、優しく慰めの言葉をかける。しかしその会話の途中ミューゼルの映っていたアンの魔道具にノイズが走り音声が途切れる。
「はうあ! ど、どうしたんですか!?」
「んー? 駄目ね通信魔法具の調子が悪いみた・・、今日はここまで・・ておくわね」
「はわわわ!? え? あ、はい! お休みなさいミューゼル様!」
「はぁいおやすみなさいアン・・・」
アンの画面に映ったミューゼルは困った表情で近づいて来ると画面いっぱいに映り込みガタガタと映像が揺れる。そんな映像に慌てるアン・・なぜそんなに慌てているのか、実はミューゼルが魔道具のカメラ部分に近づいた為に、アンの魔道具の画面にはミューゼルの女性らしい胸の谷間が画面いっぱいに映っていたのだ。その場にはアン一人ではあったものの、思わぬ事態に混乱したアンはその小さな体で一生懸命画面を隠すのであった、そんな事をしているうちにミューゼルの魔道具は直らなかったのか途切れ途切れで別れの挨拶をするとそのまま通信が切れる。
「・・ふぅ、私も何かお手伝いした方が良いかな災害対策・・護符で? ・・って作れないんじゃ無理か」
通信を終え溜息をつきながら額の汗を拭うと、椅子に座りながら照明の魔石を何となく眺めながら独り言を呟くアン、どうやら現在進行形で広がる災害の被害に何かできないか考えさせられているようだ。
「ほかの研究室の子に相談してみようかな・・するとしても明日ね、もう暗いし」
席を立ち窓辺に歩いて行きながら相談できそうな相手を思い浮かべるも、すでに真っ暗になった空を見ると就寝の準備をするためにフラフラと奥へ消えていくのであった。
「今日は疲れたなぁ・・まさか公園もあんな騒がしいとは、そうだこんな時は合成だね!」
夜の宿、何があったのか疲れ切った顔のユウヒが宿のベットに倒れ込んでいた。しかし疲れた声で呟くとがばりと起き上がり合成の準備をしだす、こういう姿を見るとこの男に合成魔法の力が宿ったのは運命だったようにも感じる。
「・・あ、これ忘れてたなぁもう魔力飛んでそうだ」
「あれぇ? それって泉の水?」
バッグの中から素材などを取り出していたユウヒは、ウィルニスで汲んできていた水を見つけ目の前でちゃぷちゃぷと揺らす。そんな揺れる陶器製の瓶の向こう側からどこから現れたのか水の精霊がその中身を言い当てる。
「ん? ああそうだよ、良く分かったなってまたお前達か」
「えへへ~私たち水の精霊だもん簡単簡単」「水ソムリエって呼んでー」
「ふぅ・・で? そのミソさんは何の用かな?」
「「「それは略しすぎだと思います!」」」
そんな精霊達の声に気付かず答えてしまうユウヒはまた疲れた表情になる。しかし嬉しそうに騒ぐ精霊達を見るユウヒの目は優しい色をしており、精霊達をからかう声はどこか楽しげであった。
「注文が多いな・・」
「むぅ昼間は悪い事したなと」「それで何かお詫びと」「思ったりして」「みたんだよ」
「別に過ぎたことだし気にしないけど、そうだなこの水って元に戻せるか? なんでも薬品の品質を上げるとか聞いたけど」
どうやら精霊達は精霊達で昼間の魔法の事を反省しているようで、そのお詫びに来たようである。ユウヒはキョトンとした顔でどうやらすでに許しているようだが、どうせならと瓶を揺らしながら提案する。
「んー魔力が抜けて普通の水だね」「薬品? んー水の力たっぷりだから水薬ならヤル気上がるかも」「魔力分けてくれたら籠め直せるよ?」「「おまえ良い事言った」」
「ふ~ん? 魔力を分けるってどうやるんだ?」
ユウヒから瓶を受け取った精霊達は抱きしめる様に瓶を持つと中身を確認しだす、そんな中一人?の精霊が案を出すと精霊達は急に燥ぎだす。若干訝しむように頭を傾げるユウヒだがどうやらその案に乗る様である。
「ぶわっと出してくれれば回収するよ」「まかせろどんとこい」
「良く分からんな? とりあえず魔力を出せばいいんだな? ・・・【放出】」
「おおお! すごいすごい」「これなら逝ける!」「魔力パラダイスだひゃはー」
しかしユウヒは魔力を感じると言う事は出来ているが基本的に魔法を使う時は妄想頼みの為、本来なら魔法の基礎である魔力の放出をしてくれと言われてもピンと来ず、とりあえず新しく妄想魔法を作って放出する。これは非常に効率の悪いものなのだが、魔力がほぼ無限と言っていいユウヒにとっては然したる問題ではないようである。
そんな魔力放出にユウヒは全く気が付いていないが、この時放出された魔力量は一般的な魔法士なら一瞬で干からびる量であり魔力量の比較的多いエルフ族などでも気を失うほどの量なのだ。そんな高濃度の魔力が充満した部屋は、魔力に敏感な精霊族にとってはワイン風呂に飛び込んだ様な物で、一気に酔っぱらったようになった彼女達は普段もテンションが高いが、さらにテンションが変な方向に上がり瓶をもって空中で踊り始めるのであった。
「で籠ったわけか・・少し青く光ってるかな? これで水薬を作ればいいんだな」
「いい仕事した」「余った魔力はお駄賃ですよね?」「まさかの払い戻し?」「マジカ!?」
一通り終わったのか渡された瓶の中身を見ると仄かに青い光を発している、それはあの遺跡で見た光景を彷彿とさせる色合いであった。そんな神秘を起した精霊達はどこか満たされたような表情をしているがどうも俺のあげた魔力が余っているのかそんな事を言う。別に出してしまったんだし特に節約の必要性も無いので、
「ん? 別良いけど?」
「やったー! ちょっと自慢してくる!」「だれにー?」「そりゃ」「「「姉さんに!」」」
と言うと一斉に燥ぎ出し窓の外へ飛んで行くのであった。
「騒がしい奴らだな・・まぁ悪い気はしないけど」
この世界に来て最初から人と接する機会が多かったのであまり寂しさは感じなかったが、それでも一人になると向こうの事を思い出してしまう。そんな俺にとってはあの騒がしさもこの世界の優しさのように感じるのだ。
「・・・さてと何を混ぜるか、水だし水物と相性がいいわけだよな? それならまず茶葉と普通の水で・・それにこの水を足して・・濃縮? ほどほどに・・今回は紅じゃなくって青、いや緑を」
夜の暗闇に消えていく騒がしい奴らを見送り、静かになり落ち着いて合成に集中できると、材料に向かってぶつぶつと呟きながら素材と作る物の方向性を決めていく。しかし気のせいだろうか窓の外に出ていった精霊達はどこかいつもと雰囲気が違ったような・・まぁ気のせいだろうと気持ちを切替、小一時間ほど合成に費やした。
【魔力浸透緑茶】
ユウヒが製作したマジックハーブティー(緑)とウィルニス湧水を使い製作された薬茶。ユウヒが自重を忘れ作った為その効果は非常に高い。しかし効果優先で作った結果少し苦く色も抹茶のような色になり好みは分かれそうである、が美味しい飲み物の範疇に入る程度の品質は維持できているようだ。
品質 味C 香りB 見た目C
効果 体内魔力回復(中) 体内魔力持続回復(長) 抗魔力(小) 長期保存可
そんな風に集中した結果がこれだよ。
「しまったやりすぎた・・・てかこれ俺には必要無いな、やっぱクレアザミの方でやればよかったかも」
予想では小+1とか少しだけ上がるのかと思ったら跳び越えてしまったようだ、予想だけど売ったら金貨さんと対面できるかもしれない性能である。
「・・・・片付けて寝るか」
自分で使いようが無く下手に売ったら目を付けられそうな物を作ってしまい、またも処理に悩むことになりそうだと嫌な未来ばかり頭を過るのを感じ、きっと疲れてるんだなと思った俺は散らかした材料やついでに作った物などをバッグに詰めるとごそごそとベッドに潜り込んだのだった。
・・・いかがでしたでしょうか?
誤字脱字の修正をすると何故か良い言い回しを思いつき良い表現が降りてきた文字数が増える今日この頃、ですが。今回は暴走ラットの騒ぎを通してこの世界の人々について書いて見ました。
それでは今回もこの辺でまたここでお会いしましょう。さようなら~




