第四十六話 ユウ散歩学園都市の魔法士科生
どうもHekutoです。
明けましてお久しぶりです。前回の更新からしばらくぶりですが、四十六話が出来ましたのでお届けさせていただきます。
『ユウ散歩学園都市の魔法士科生』
「ふぅ、研究区が危険と聞いていたが思わぬ所に罠があったな・・今度はもっと遠くから見ていよう」
溜息を吐きながら学園都市の学園訓練区を歩く男、その名はユウヒ。学園都市を見て回ろうと学園内にやってきたようだが、自分がどのエリアに居るのか全く把握しておらず完全に風の向くまま気の向くままに散歩をしている。そんな彼が今いるのは第三訓練区と呼ばれるエリア。
「おっと忘れる前に【身体強化】【探知】、とりあえずこれでいいかな。これからは常時使う癖を付けないといけないかな?」
「・・の・・とー! ・・げてぇー!」
そこは様々な学科の授業に使われ又、多少の事故や騒ぎが起きても問題無い場所として使われる事で有名で、それを知ってか知らずか迷い込む一般人が事故に巻き込まれる事が年に何度も起きる。地元民曰く、研究区に次ぐ危険地帯である。そして今また事故の発生を告げる叫び声が木霊する。
「ん? 接近するこの表示は? えっと高熱源体? ・・・あーーー!?」
その頃、騎士科の訓練場では、
「・・・ユウヒさんか・・」
「ぉーい」
ユウヒの飛び入り参加が良い刺激になったのか気合の入った声を上げ訓練に励む騎士科中等部の生徒達、一部頬を染め上の空な女生徒が居るのは言わぬが花か、そこへ声を上げながら歩いてくる人影が二つ、その姿は訓練中の生徒達より幾分大人に近い姿をしている。
「ん? おお! お前達戻ったのかどうだったオルマハールの騎士隊は?」
「はい! とてもすごかったです。特に蛇神騎士隊の遠征に偶然会えまして、とってもかっこよかったですよ!」
訓練場にやってきた二人は教官と知り合いなのか砕けた調子で応対する教官の男性、どうやら彼女達も騎士科の生徒でオルマハールに行っていた様で、先頭を歩いていた女性は教官に楽しそうに土産話をする。その後ろでは無口そうな印象のある女性が頭だけでコクコクと頷いている。
「・・・・蛇神の奴らかぁ」
「?」
「いやなんでもない」
そんな女性二人の土産話に何か思い出したのか、にこやかの表情が少し固くなる教官に不思議そうな顔をする二人の女性、そんな二人に対して教官は何でもないと言い生徒達の方を見る、それにつられるように二人の女性も訓練風景を見詰める。
「そう言えば何かあったんですか? みんな妙に気合入ってますね一部抜けてる子もいますけど?」
「ん・・ちょっとな、偶然居合わせた冒険者に訓練を手伝ってもらったのだよ・・そのせいだろ」
「はぁ? よくわかりませんが気合が入るのは良い事ですね」
その訓練風景に若干の違和感を感じたようで何かあったのかと聞く女性に、教官は頬を掻きながら簡単に何があったか説明する。どうやら予想以上の効果があったからか、それとも予想外の効果があったからか少しやりすぎた感を感じているようだ。そんな教官にやはり女性二人は不思議そうな顔をするのであった。
「教官、またあの人と訓練ってできるんでしょうか?」
「んー難しいだろうな、冒険者は渡り鳥みたいなものだ・・一度居なくなると捕まえるのは一苦労だ」
「あの人なら第三訓練場の方に行きましたよ?」
そんな風に話している教官たちの所へ小休止の為かやってきた数人の女生徒がまたユウヒが訓練に来てくれないかと聞いてくるも、教官は難しいなと腕組みしながら答える、そんな教官にこちらも小休止か歩いて来た男子生徒がユウヒの向かった先を教える。
「第三か、今日は魔法実習で一日使うはずだったが・・注意しとけばよかったな誤爆について」
「・・・大丈夫でしょうか?」
「まぁ彼の実力なら大丈夫だろ」
その情報に眉を寄せ教官はそう零す、生徒達も魔法実習と言う言葉で思い当たる節があるのか少し不安そうな顔をする。しかしユウヒの実力を高く評価している教官は、表情を元に戻し生徒を安心させるように大丈夫と告げるのだった。
「そんな凄い人だったんですか?」
「うむ短槍を持ったローブ姿の冒険者でな、あの盾捌き只者じゃない」
「・・んん?」
「・・・・?」
厳しい教官がそこまで他人を認める姿が珍しかったのか女性は興味深げに質問すると、教官は大雑把な人物像と手合せした感想を告げ顎に手を当てると満足げに頷く、しかしその情報に何か気になる部分が有ったのか二人の女性は首を傾げるのであった。
時間は少し遡り第三訓練場。そこは全体が芝に覆われ周りは木々に囲まれた訓練場で、いくつかの古代技術研究に使われた結果出来た場所であり又、魔法訓練に良く使われる訓練場でもある。その理由は、
「わぁ凄いですね! 昨日焼け焦げた芝生がもう青々と茂ってますよ!」
「ここはそう言う古代技術が使ってあるからな・・まぁ偶然の産物なんだが」
そうこの二人のやりとりから分かるようにこの訓練場の植物は普通では無い、昔あった災害の研究で古代魔法研究所と古代魔法技術研究所の人間が共同研究をした結果、偶然にも燃やそうが溶かそうが氷漬けにしようが、次の日には綺麗な芝生が生えると言う不思議な場所になってしまったのだ。ついでにまったく同じものを作ろうとしたが、未だに成功はしておらずどうやって出来たのかは誰も解っていないのであった。
「先生~全員揃いました」
「そうか・・では各自カカシを設置後、単数系魔法の試射とメディテーションを開始しなさい」
『はい!』
そんな場所はいくら壊しても怒られない場所として、今この場所に来ているような魔法系学科の人間に好まれ使われる結果となったのであった。そんな彼女達は先生と呼ばれた女性の指示に元気よく返事をすると楽しそうに動き出した。
ちなみにここで言う単数系魔法とは一度の詠唱などで一つの効果を得られる魔法の総称で一度に複数の同じ効果得られるものを複数系と呼んだり、一度に二つ以上の違う効果を得られるものを複合系などと呼んで区別している。
「先生」
「ん? どうした何か質問か?」
「はい、今の実習って実地実習の為でもあるんですよね?」
そんな中一人のまだ少女と呼んでも差し支えの無い背格好の生徒が残っており先生に質問をする。どうやら彼女達は近いうちに実地実習と言うものを控えているようだ。
「そうだよ、特にメディテーションはどこでもできるようにしないとね」
「・・・その実地実習って大丈夫なんですか?噂では中止か延期になるって」
「・・・・ふむ、まあいつもの事だが護衛の集まりが悪くてな、一応対応策は進めているがどうなるかな」
実はその実地実習はユウヒが受けた依頼の【冒険者学科中等部実地戦闘護衛】の魔法士科版で、冒険者科以上に人気が低く護衛が集まりにくい。どうやら今回は特に人が集まってないと言う、真実に限りなく近い噂が流れておりその噂に尾ひれが付いた結果、中止になるのではとなっているらしく数人の生徒が聞き耳を立てている。
「はぁ? 結局実地は出来ると言う事でいいのですか?」
「ああ、問題無い一人は確保してるし最悪でも実地実習はできるから安心しなさい」
「わかりました! それじゃ私も試射行ってきます!」
先生は不安そうな生徒を元気づけるように自信を持って中止はないと告げる、その声に目の前の生徒だけでは無く聞き耳を立てていた生徒もホッとしたようで、先生に質問した生徒は元気にその場を駆けて行った。
「・・・んー冒険者科は問題無いが護衛はどうだろうなー最悪あの子の知り合いの知り合いを紹介し「きゃー!?」・・暴走か、これが無きゃ集まるんだろうけどね・・マズイ!」
そう、魔法科中等部実地実習の護衛が不人気なのはこの【暴走】である。
魔法とは、その性質上使用者の精神状態にとても敏感で魔法を本格的に習い始めたばかりの中等部は基本的なコントロールもさることながら、思春期特有の心の乱れにより自分の思ったように魔法を発動できない事が多々ある。
「そこの人ー! 逃げてー!」
その結果起るのが【暴走】である。通常の発動失敗であれば使用者の思う形にならずただの魔力として放出され大気に霧散するのだが、【暴走】の場合は自分の考えた以上に魔法に魔力が供給され想定以上の力を持った魔法が組みあがり、使用者のコントロールを外れ勝手に発動してしまう。これが【暴走】と呼ばれる所以である。
その為、中等部くらいの魔法士は暴走確率が高くそれに巻き込み、巻き込まれる事などを学園都市では【誤爆】と言い研究所の失敗に巻き込まれる事と同じように扱われている。
そして、ここに不幸な【誤爆】に会うものがまた一人・・・。
「ん? ・・!?」
俺はその時どんな顔をしていただろうか、きっと情けない顔だったと思う。
騎士科の訓練場から少し歩いて緑豊かな場所を見つけ歩いていた、これ以上何か騒動に巻き込まれる事は無いだろうが用心のためにいつも外を歩く時に使っている魔法を唱えると、【探知】の魔法で視界に映る三次元レーダーに見覚えのない表示が現れそこには[高熱源体接近]と言う赤い文字が点滅していた。
「み、【水の壁】! あーー!?」
そして訪れたのは火が勢いよく燃え盛る音と共に広がる爆炎と爆風・・。
「あいたた・・咄嗟だったから衝撃までは防げなかったか・・・はぁ、思いっきり吹き飛ばされたのに汚れ一つ付いてないローブが恨めしい」
俺が慌ててレーダーの指し示す方向を見ると赤く燃える炎の塊が空から落ちて来ていたのだ、俺は急ぎ適当なキーワードで妄想魔法を発動させるが、流石に慣れてきたとは言えいきなりの事で妄想が足りなかったのか単に時間が足りなかったのか、俺の目の前にその炎の塊が着弾する間に作れた水の壁は心もとない厚さであった。一応後ろに跳んでいたことにより爆風で吹き飛ばされただけで済み、丸焼きになることはなかったがそんな事がまるでなかったかのようなローブの姿に微妙に微妙な気分を感じるのであった。
「だいじょうぶですかー! 生きてますかー!?」
「火を消さないと! 水ー!?」
「落ち着かんか馬鹿ども!」
着弾地点と近くにあった木が結構な勢いで燃えているのを後目に頭やカバンに付いた土埃を払っていると、火の向こうから女の子だろうか慌てた様な声が近づいてくる。先ほどのよく聞き取れなかった声も彼女達だったのか、そんな少女達に凛々しい感じに注意する声も聞こえてくるので保護者? もいるのだろう。
「はぁ学園都市ほんと侮ってたなぁ」
「君! 大丈夫・・そうだな、うちの生徒が失礼した」
まさかここまで危険な都市だとは思わなかったとまだ燃え続ける炎を見ながら頭を掻いていると、火を避けるように回り込んできたローブ姿の女性が俺に気が付き駆け寄ってきて叫ぶも、こちらの無事を確認するとほっとしたような顔で謝罪してくる。どうやらこのスレンダーな青い瞳の女性は先生のようだ、第一印象はクールビューティーだろうか? できる女を感じる。
「あーまー怪我も無かったし、もしかしてここも訓練場ですか?」
「いや少し境目が解り辛いがこの辺は訓練場外だよ、しかし怪我が無くてよかった」
また俺は訓練場に迷い込んでしまったのかと思い聞いてみるもどうやらここはまだ訓練場ではないらしい、なら何が起きたのか聞いてみると良くある事らしいが、魔法の実技実習中に起きた魔法の暴走で制御不可になった魔法がここまで飛んできてしまったとか。良くあるのはいいのだろうか? でもそれを無くすのが学園なのだろうから問題無いのか。
「暴走ですか」
「うむ学園都市では誤爆とか暴発とかいろいろ呼ばれているが、どうしても未熟なうちはな」
「そう言うものですか」
先生さんが言うには未熟なうちは付き物らしいと言うわけであっても良いようだが、苦笑いを浮かべた彼女は無いなら無い方が圧倒的に良いのだがなと疲れた笑みを浮かべていた。それからこちらの事情などを話しながら彼女に訓練場内を案内してもらっている。
「休憩なら向こうに公園があるからそっちに行くと良い、どうしても訓練場エリアは事故に会いやすいからな」
「それはどうも御親切に」
実際案内されたがこの第三訓練場と言うのは訓練場とそれ以外の場所の見分けが非常に分かり辛く、基本木が有る場所は外らしいが訓練場内にもいくつか木が生えているのだ。そんなわけで休憩をするならこの先に公園があるそうで安全面からおすすめらしい。
「私の近くであれば訓練を見て行ってもかまわないが? 少し休んでからの方がいいだろ」
「あはは、そうさせてもらいます」
先ほどの騎士科と言い今のハプニングと言い疲れを感じていた俺はどうも先生さんに見抜かれていたらしく、そのお言葉に甘えてしばらくベンチで休ませてもらうことにしたのだが。
そんなユウヒが休憩をするベンチの前では先生と呼ばれる女性、その周りには思い思いの姿勢で座り目を閉じている生徒の少女達が居た。
「ほらそこ集中を乱すな、まったくそんなんじゃ合格点はやれんぞ」
「はい・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・(ふぅ、丁度いいからこっそり手伝ってもらっているがこの程度で集中が乱れるか、やはり共学制じゃないのが影響してるのか・・)」
「・・・うぅ」
何か集中しているようだが、見知らぬしかもこの女性ばかりの空間に一人だけいる異性が気になるのか思う様に集中できない様子の女生徒達、そんな様子の生徒達に先生は難しい顔をしていた
「これは何をやってるんです?」
「これはメディテーションって言ってなまぁ瞑想みたいなものだよ、心を落ち着け魔力の回復を促進する基礎技術だよ」
メディテーションとは、魔法の使用などで減った体内魔力を迅速に回復させるため、大気中の魔力を体に取り込み体内魔力に変換する技術である。
一般的な魔法は大抵が体内魔力を使い発動するので魔法を扱う者にとっては基礎となる技術である。また薬品類で回復する手段もあるが、これらは高価なものが多く緊急を要する時以外はそのコスト面から使われることは多くない。この辺について詳しく説明したい所だが少し長くなるのでこの場では割愛させていただく。
「なるほど、それであっちが口語属性魔法とかの練習か」
「ああそうだよ、彼女達はまだ中等部だから制御が甘くてねそれでさっきの誤爆さ・・それにしてもそれなりに心得はありそうだね?」
「まぁ俺も使うからね」
「・・・やはり君は魔法士か、なるほどそれでその背中の武器も納得かな」
ユウヒは視線を目の前から少し離れた場所でカカシに向かって魔法を行使している生徒達に目を向けるとぽつりと呟く、その呟きにも答える先生そんな話をしながらユウヒが魔法を使えることを知るとやっぱりと言った感じで話しだす。どうやら予想はしていたようだ。
「わかるのか?」
「私も教師だ多少はな、しかし君も好きだねぇそんな珍しい物を使うなんて」
「まぁ前衛もやるし一人旅だと前も後ろも無いからな」
ユウヒは背中に背負っている槍袋を外しながら袋の中に入れてるのに良く分かったなと感心する。そんなユウヒの感心する目に少し照れながら興味があるらしく生徒達からユウヒの方へと歩いてくる。その後ろではユウヒが魔法士であると聞いて興味深そうに聞き耳や薄目を開ける女生徒達、やはり年頃か学科故か話が気になる様である。
「君は冒険者なのかい?」
「まぁね・・あまり冒険者に見られないけど」
「そうだなあまり見えないな、しかしこれは魔法補助効果が低そうだな?槍としては中々だが」
「・・・・そ、そこまで魔法の補助は求めてないからな(そこまであっさりばっさり言われるのも・・まぁいいけどさ)」
ユウヒの答えに冒険者であると言う事を察した先生は、ユウヒの取り出した槍を調べながらユウヒをズバリと冒険者に見えないと言い切る。そんな先生に苦笑いをしながら槍の品評に選んだ理由を答えるユウヒの背中には、どこか哀愁を感じるのであった。
「んん? 中々自身があるみたいじゃないか・・ちょっとこの子達にお手本を見せてやってはくれないだろうか? 迷惑ついでだと思って・・ね?(補助がいかに大事かしらない・・もしくはそれだけの実力があるのか・・気になるじゃないかふふふふ)」
「(あれ? デジャヴュ?)」
ユウヒの何気ない答えに敏感に反応する何故か微笑みが硬い先生とデジャヴュを感じるユウヒ、基本的に魔法士は裸でも魔法を使えるがその状態での精度は一般的魔法士でも失敗や暴走の可能性や効果の減少が出てしまうほどである。はっきり言って何も補助が無い状態で魔法をバンバン使えるユウヒが異常なのである。そんな背景があるからこそ、この先生の反応はある意味普通の反応とも言える。
ちなみに魔法の補助効果は、アクセサリーなどの装身具や服やローブなどの衣服、武器防具果ては生き物まで魔力を帯びたものや強い属性を宿したものなどに自然と現れる効果であり、例の世界のバグが変異と言う形で生き物自体に補助効果を付加すると言った例もある。
そして俺はこうなった。
「お前たち! 集まれー」
『はーい!』
「これからこのお兄さんが単数系魔法のお手本を見せてくれる! 良く魔力の流れや動きなど見て置くよう
に!」
『はい先生!』
「うんうん」
先生さんに連れられて魔法の練習をしている子達の所まで行くと、目の前でどこか教育番組的なノリでどんどんと俺の魔法お手本披露が決められていく・・・なぜだ。しかし俺は諦めないここは一言物申さねば。
「せんせーいお手本なら先生がやればいいとおもいまーす」
「なぁに色々な魔法士を見てこそ意味があるんだよ! 特にそんな珍しい武器で魔法士をやれてるんだ興味深いじゃないかぁ・・それと君の先生になった覚えはないぞー?」
見事にかわされた、しかし何故だろう先生さんの言葉に棘があるような? そんなに俺気に障るような事言ったのか? むぅ。
「むぅ、しょうがないなあのカカシに当てればいんだよな?」
「ああ頼むよ」
俺は諦めて少し離れた場所に移動しつつやり方を確認する。その間も先生さんはニコニコと笑っている、しかし先ほどまでの不機嫌っぽい感じはせずどこか楽しそうである。
「(え? あそこから? 遠くない?)」
「(遠距離向きの属性なのかな?)」
「(風ってこと?)」
良く聞こえないが何やら小さい声で話をしている魔法科の生徒達と腕組みしている楽しそうな顔の先生さん、俺はそんな興味深そうな視線を背中に感じながらその場を少し離れる。一応危ないので離れた方が良いのと、その場からでは射線上の生徒達が練習していた場所に杖や荷物などが置いてあるのだ、彼女達が練習していた距離が大体100メートルで俺が立っている場所で200ちょっとと言ったところだろうか。
「うむ今回も水かな大地にやさしいな俺」
(手伝おうか?)
位置に着いた俺は魔法槍を片手に使う魔法について考えた、【ロックボルト】でもいいが練習にもなりそうだし水で行こうと思う。流石に人前で新しい魔法の練習と言うわけにもいかないので風や火はお預けだ、水なら大地にも比較的優しいだろうし。そんな事を考えながら槍の先端をカカシに向けて構えると急に見覚えのある青い物体Xが現れ話しかけてくる。
「(・・・お前ら何でいるんだよ)」
(((ついてきちゃったー!)))
「(はぁ・・手伝いは要らんが地面とか木に被害が行きそうだったら守ってやってくれ)」
(((あいあいさー!)))
そう水の精霊、そして俺の左目に水をぶち込んでくれた奴らだ、どうやら遺跡から憑いてきたようである。別に手伝いの必要は無いが地面が抉れたり木が吹き飛ぶようなことがあると嫌なのでお願いしてみるが、なぜだろう・・その明るい声と満面の笑みを見ているとまったく信用できないのだが。
今私と生徒達の前、少し離れた所で遠く離れた場所にあるカカシに向かって槍を構えている男が居る。
「ねぇ何か集中長くない?」
「緊張してるのかな?」
私の願いで魔法の手本を見せてくれる事になった魔法士だ、冒険者らしいがまったくそれっぽく見えない、言うなれば威圧感が無いと言うのだろうか。見た目は二十代前半から十代後半くらいの両目の色が特徴的な人族で、サービスの良い飲食店店員と言った方がまだ説得力があると言うもの。事実うちの人見知りな生徒もあまり怖がっていないようで先ほどからこそこそと話をしながら見ている
「えーでも先生がプロだって言ってたよー」
「・・・(何だ? 何か彼の周囲に強い力を感じたが・・精霊か?)」
彼女達が言う様に魔法槍だろう槍を構えてからの時間が長い、しかし魔法が使えないわけじゃないだろう、魔力の流れを感じるしそれに彼の周辺に強い力の流れを感じる。どうやら彼は一般的な魔法士ではないようだな、この力の動きは精霊を使役してるかエルフ族の使う精霊魔法に似てるな・・・ふむ。
「先生が何か険しい表情なんだけど・・」
「え? 何か不味い事でもあったのかな?」
「実は魔法使えな・・あ!」
生徒達の声に私は険しい表情になっていた事に気が付く、それもしょうがないだろうあれだけの力だ、私とて集中しなければ気が付かないだろうが気が付けばその力の大きさに冷や汗を流すのも無理はないと言うものだ。生徒の声で少し冷静になった私が見たモノは明らかに口語属性魔法では無いだろう、もしあれが普通の口語属性魔法と言うならばあの一発にどれだけの魔力を練り込んだのか、しかし精霊魔法などの特殊な魔法ならあり得るかもしれない。
「うぇ!? 何あれ!?」
「嘘! あれって水属性・・」
「すごーい! カカシ吹き飛んだよ!」
一般的に口語属性魔法にはそれぞれ向き不向きがある。それは威力だったり範囲だったり距離だったり風は距離向き、火は威力向きと言った具合にだ。その中で水はあまり距離向きでは無いそれがあの距離でも問題無く当て、さらにあの威力だこれは普通の口語魔法にすら当てはまらない可能性がある。今ある情報だけで分析するなら一番可能性としてあり得るのは精霊絡みだ、あれは不安定だが魔法の威力は折紙付きだ。
「あれ? 何か頭抱えてる? どうしたんだろ」
「むぅ(・・・やはり精霊の加護を受けてるのか? それにしてもとんでもない威力だな)」
頭を抱えている? 何か代償かそれとも魔法の反動が大きいのか・・あれだけの魔法だ何も無いと言うことは無いと言う事か、これは無理を言ってしまったようだな。少し申し訳ない事をしただろうか。
これはアレですねこいつら何かしやがった、俺は普通にカカシに当る程度に威力を絞り命中重視で使ったはずなのだ、しかし実際魔法を使った時に何かが流れ込んでくるような違和感が有りあの結果である。
「おぉい・・何もすんなって言っただろうに」
(わ、わたしじゃないよー)
(私だけでもないよ!?)
(わ、わ!? だめそれじゃみんなでやったのがバレちゃ・・あ)
俺は頭を抱えると精霊達にクレームの声を出す、その声に精霊達はわたわたと可愛く慌て出しボロを出す、そんなどこか憎めない精霊達の姿に何となく怒る気力を失った俺は微妙な視線を精霊達送り溜息を吐くのであった。
「・・・・・・はぁ」
(((ご、ごめんなさーい!)))
「いやぁ素晴らしい! まさかこれほどとは思わなかったよ、うちの子達にもいい刺激になっただろう」
俺の溜め息に怒ってると思ったのか精霊達は謝りながらどこかへ飛んで行く、その後ろ姿を見送っていると後ろから先生さんが先ほどまでよりテンションが高い声で話しかけてくる。言葉の棘は無くなっていたので喜んでもらえた様である。
「あーいや、カカシを吹き飛ばして悪かったな・・」
「気にするな、おまえ達! カカシを回収してくれ『はーい』それで君・・精霊って知ってるかい?」
想定以上に威力の出た【水弾】に吹き飛ばされたカカシは、逆さまになり木に寄り掛かっている。気のせいか水で濡れたカカシは目から涙を流してるようにも見えた、それについて謝罪したのだがあまり気にしてないのか生徒達に回収を命じると先生さんこちらを振り向き少し真剣な顔で爆弾を落とした。
「アハハハ、ナンノコトデショウカ?」
「ああ、別に言う必要はないよあまり知られてないけど勉強してる人は知っている程度の事だ、それに言いふらしたりはしないよ、しかしこれで君のその自信も良く分かったよ」
「あははは、ありがとうございます・・えっとそれじゃ俺はこの辺で」
どうも精霊が何かしたことについてそこまで問い詰める気は無いようである。実際に見えたのか解ったのか聞きたい所ではあるが、ここは藪から蛇どころか藪に突っ込むような事になりそうだと思い早々に退散することに決め別れの挨拶を告げ歩きはじめる。
「うむ、実に有意義な時間だったよありがとう」
「いえいえこちらこそ・・それじゃ」
『お兄さんまたねー!』
「・・・・悪くは無いが、うぅむ」
若干やりすぎた感もあり先生さんの目にヒヤリともしたがたぶん問題無いと思いたい、それにこういう見送りと言うのも嬉しい物で何か若さを分けてもらっているようだ、と爺臭い考えを抱きながら手を振ると俺は教えてもらった公園へと足を向けるのだった。
そんな風にユウヒが騒動を起こしている頃、グノーの帝国国境近くの村ではいきなりもたらされた魔物災害の知らせに慌ただしく対策がとられていた。しかしそんな中とある家の窓辺では、一人の少女が一枚の小さく薄い木の板を持ち空を眺めていた。
「ゴエンモさん・・」
「エル・・彼にはやるべき事があるのさ、また彼がここを訪れたら歓迎しような?」
「うん、わかった」
憂いを帯びた瞳の少女エニィルは、その声に父の方を向き返事をすると木の板に視線を落とす。そこには墨で【急ぎ故、挨拶なく出て行く事を許されよ。 ゴエンモ】と簡潔に書かれていた。どうやらゴエンモはエニィルが寝ている夜の間に次の目的地の国境砦に向かった様である。
「そうねぇ歓迎しないとねリボンとか生クリームとかエプロンも捨てがたいわ」
「おとうさん、おかあさんの言ってること私わかんない」
「お前はそのまま純粋で居てくれ・・は!?」
エニィルの母親であろうどこか活発な印象を感じる女性は、エルの後ろに立つと自らを抱きしめクネクネと妙な動きをしながら妙な発言をする。そんな母の発言にキョトンとした顔で若干助けを求める様に父を見るエニィル、そんなわが娘の純粋な瞳にそっと涙を流すガァスだったが何かに気が付いたのかその表情を緊張で染める。
「あなたーちょっとおいでー」
「ゴエンモさん・・」
ガァスがそ~っと振り向いた先では、妻がニコニコと美しい笑顔で迎えそのままガァスの顔面をアイアンクローのごとく鷲掴みにすると、ずるずると恐怖で震えるガァスを別の部屋へと連れて行くのだった。そんないつものやりとりをする両親を見届けたエニィルは、窓の外に見える青く晴れた空を見上げると想い人の名前をつぶやくのであった。
そんな事があっている村から離れた場所でゴエンモは国境砦へと向かって歩いていた。
「へぶし! ・・もったいなか・・いやいや」
「「・・・・・・・・ぉ」」
誰かが噂をしたか単なるクシャミか少し大きなクシャミしたゴエンモは、村での事を思い出し少し勿体なかったかと呟きそうになるもその鋼の心(笑)で考え直すとギュッと胸の前で握りこぶしを作る。
「拙者は紳士でござる・・」
「「・・・・ぉぉぉぉぉ」」
そんな微妙な決意をキリッとした顔で空に向かって告げる、しかし何か違和感を感じたのか辺りを見渡し始め、
「ん?何処からか怨念の様な声が」そんな言葉を漏らす。
「「ごぉえぇんもぉぉぉぉぉ!!」」
「ぶは!? 黒いものすごく黒いナニカでござる!?」
そんなどこか恐怖を煽るような声で自らの名前を呼ばれたゴエンモは声のした方を見て驚愕のあまり噴く、その視線の先には黒いオーラを纏ったナニカが二体急速に接近してくるのである。そのあまりの恐怖に体の動かないゴエンモにその二体の黒いナニカは飛び上がると、
「「つぅいぃぃぃん! どぅぅえぇぇもぉん! すとらぁぁぁぁいくぅぅぅ!!」」
「ぶるあぁぁぁぁ!! でござるぅぅ!」
妙な技名を叫びながらゴエンモ蹴り抜き、そのあまりに強力な一撃はゴエンモを地面でバウンドさせ空高く跳ね上げたのであった。その数分後、そこには清々しい顔で肩を組むジライダとヒゾウ、それからボロボロになりながらも一応生きているのかぴくぴくと動いているゴエンモの姿があったとかなかったとか・・・。
【ついん・でーもん・すとらいく】
負の心(笑)に侵されたジライダとヒゾウの連携技。負のオーラを全身に纏い高く飛び上がった後、上空から対象に向けて蹴りを放つ技。飛び上がった後負のオーラを後方に吹き出すことで加速装置の様に使い、僅か一秒で音速に達する。
そんな事になっていると知らない御頭達自由騎士の面々、ここは自由騎士団アジト。
「あれ? 御頭あいつらはどうしました?」
「あぁ仲間の迎えに行かせたよ」
そこでは防衛任務に当っている以外の非戦闘員やアジト内の仕事の為残ったメンバーが休憩をとっているようで、その中に報告とアジトの様子見の為戻ってきた御嬢が姿をあらわした。
「・・・何かあったんですか?」
「ん? なぁにちょっとあいつらの絆に妬けただけさ・・あんたも飲むかい?」
御嬢は報告の為御頭の所に来たが、ここにいるはずの二人が居ないことに不思議な表情で聞くもいつもと違う様子の御頭の進める酒に何かを察したのか少し考えると、
「・・お供いたします」
と一言言って御頭の横に座る御嬢、その二人の美女の姿は窓辺で風に揺れるカーテン越しの柔らかい太陽の光に包まれ、まるで一枚の絵画の様でその空間だけどこか落ち着いた雰囲気が流れているのであった。
それと対照的に・・。
「むふー(光の帯の中に御頭と御嬢が! 最高っす!)」
「はぁはぁ(これが芸術なんっすねヒゾウのアニキ!)」
「ハァハァ(あたし一生ついて行きます御頭!)」
御頭達から離れた席では自由騎士団の面々がはぁはぁと荒い息を殺しながら二人の姿を見ていた。実は本来この部屋にはアジトの防衛上窓は無かったのだが、3モブが体に悪いと言い防御面でも問題無く採光も換気でき雨も降り込まない無駄にハイスペックな窓を一夜にして作り上げたのだ。
しかしそこには裏の計画があった、このアジトは全体的に暗くその為団員の素顔も暗くよく見えない。そんなある日いつも外では覆面をしている御嬢の素顔を外で見た3モブは、その美少女っぷりに衝撃を受けた結果勿体ないと、アジト内では素顔で居る御嬢をより美しく鑑賞する為と言うアホな理由から作られた窓なのだ。その理由を知らないのは御頭と御嬢だけで他の団員は副次効果と言う建前で知らされているのだった。そんな団員達は明らかに3モブに毒されていた・・。
窓設計 ジライダ
窓作成 ジライダ,ヒゾウ
特殊構造作成 ゴエンモ
カーテン作成 女性団員
鑑賞席作成 男性団員
いや潜在的な物だったのかも・・知れない。
いかがでしたでしょうか?
今回は魔法士科についてとユウヒの異常性やこの世界の認識レベルなんかに触れてみました。某三人組も暗躍(笑)を始めるようです。
それでは今回もこの辺で、またここでお会いできることを願ってさようなら~