第四十五話 ユウ散歩学園都市の騎士科生
どうもHekutoです。
もうすぐ今年も終わりますがその前に、四十五話完成しましたので更新させていただきます。
『ユウ散歩学園都市の騎士科生』
「うぅ・・・朝か、今日もまた無駄に早く起きてしまった」
ここは学園都市の宿屋、そこにはウィルニス湧水地から帰ってきて宿で一晩疲れを癒したユウヒがベッドから起き上がりまだ白み始めたばかりの空と町並みを窓越しに眺めていた。
「さて今日はどうしようか・・」
昨日はアリーネを研究区まで護衛した後、アリーネは水の採取完了報告にユウヒはギルドに依頼完了の報告に行くためにその場で分かれた、アリーネは若干名残惜しそうにしていたがユウヒのまたねーと言う明るい言葉に何故かまた会えそうな気がし元気を取り戻すと、その場でユウヒが見えなくなるまで手を振り続け別れたのだった。
「そうだな研究区はちょっと見たしあまりあそこをうろうろするのは・・危険な気がするし」
その後冒険者ギルドに着いたユウヒを、何故か目が合った瞬間リッテに両肩を掴まれて揺さぶられると言うハプニングが襲った。どうやらユウヒ達が出発した後王都からの魔物災害【暴走ラット】の発生報告が回ってきたらしく、報告では学園都市周辺での災害確認はされていないとの事だったが、そんな時に採取に出かけたアリーネの事が心配だったらしくユウヒの報告を聞いた後、少し顔を赤らめ謝罪するリッテの姿が冒険者ギルドで見られたのだった。
「なら学区かなぁ冒険者科以外も見てみたいし、でも学区内ってうろうろしていいのかな?」
その後念のために冒険者学科の護衛について何か決まったか聞いたが決まったか聞いてみたが、進展なしとの事でその場を後にし帰り道、屋台でコッケルの串焼きを見つけると数本買って宿へと向かい一夜明け今へと至る。
「まぁ駄目だったら町を散歩したらいんだし、とりあえず行ってみようかな」
そんなユウヒは今日の行動計画を大雑把に立てると、いつもの装備を身に着け立ち上がり宿の部屋を出ていくのであった。
ちなみに補足だが宿の部屋は長期宿泊でとっていたのだが依頼から帰ってくると、宿の主人から依頼で居ない間の料金は割り引いといてやると言われ、そんなんで大丈夫なのか聞いてみると部屋が埋まってないよりはマシだから問題ないと返された、ユウヒがそんなんで採算が取れるのか心配すると宿の主人にここでも冒険者っぽくないな発言をされるのだった。
時同じくしてここはグノー城、災害対策本部。
「現在ラットが到達している所主要都市では、門や橋を上げ城壁などの上から少しずつ駆除している状況です。また一部騎士隊が城壁街で討伐しようとしましたが負傷者が半数に至った時点で町の中に敗走しています」
そこでは複数の伝令兵と思われる兵士から王へ災害の状況と対応状況について報告がされていた。しかしその内容はあまり芳しいものでは無いようである。
「・・・討伐隊が編成完了するまで防戦に徹するように言ったはずだが?」
「どうも最初大した数じゃなかったため出たようですね、その後大量に表れたラットに返り討ちにあったようです」
「・・・・・わかった、その騎士隊には厳重に注意しておくようにそれから他国の様子は?」
伝令兵の報告に疲れたような顔をすると注意をしておくように言うと次の報告を促すバルノイア、その顔は若干の疲れが見えるも真剣なものであった。
「は! 各国とも警戒態勢に入っています、内オルマハールより遠征訓練中だった蛇神魔法騎士隊が現在援軍に向かってきているとの事です」
「ほう、それは心強い・・アクアリアは動かぬだろうが帝国はどうだ?」
蛇神魔法騎士隊とはオルマハールの信仰する神の一柱を守護神とする魔法士が主体の部隊である、万が一にもグノーが突破された場合サハールとオルマハールに暴走ラットが流れ込んでくる為、急遽遠征訓練中の部隊をグノーの援護に向けたようである。
「はい、アクアリアは国境の警備強化のみです。帝国はどうやら帝国内でも暴走ラットが発生しているらしく国境付近で駆除中の部隊が状況次第で対応するとの事です」
「そうか・・」
アクアリアと帝国に関しては予想の範疇だったらしく何か考えるような素振りを見せるバルノイア。
「又、手の回らない村には自由騎士団や冒険者が防衛に当っているとの事です」
「どうやら間に合っているようだな、討伐隊はどうだ?」
自由騎士団が予定通り動いてくれたことで少しホッとしたように表情を緩めるバルノイア、それだけでも自由騎士団の保有する戦闘力が頼りになるものだと言う事が分かる。
「はい、部隊の編成はもうすぐ完了しますが何分出没範囲が広く討伐計画に時間がかかっています。討伐開始は蛇神騎士団と合流後になりそうです」
「(時間がかかっているな)・・わかったなるべく急ぐように以上だ」
「「「は! 失礼します!」」」
「ふぅ・・ままならんな」
伝令が出ていき一人になると椅子に深く座り直し溜息を吐き苦い顔をするバルノイア、一人と言っても部屋の外周りには警備が居るので完全に一人とも言い辛いが、そんな部屋の中椅子に深く座りながら腕を組むとこれからの方針を考え始めるのであった。
そんなやり取りが有っている頃、ユウヒは学区の中をぶらぶらと散歩していた。学区の門番に聞いてみると共有部であれば自由に出入りが可能であり、それ以外の場所も学区の人間と一緒なら大半は入れるだろうとの事であった。
「んー自由な校風と言うか警備的に問題無いのだろうか?」
ユウヒの考えは最もであるが学区が出来て以来大小様々な問題が起きはするものの、それも人生経験と言う校風がこれらの自由性を生んでいる、事実このグノー学園都市を卒業した者達は強い精神力と社交性があると言われているのだ。
「しかし広いな、ん? あれは運動場? 訓練場? ちょっと行ってみるか」
フラフラと気ままに学区内を歩いていると、何か見つけたのか独り言を呟くとユウヒは少し開けている場所へと歩いて行くのだった。
「貴様らこの程度の事も出来んのかー! 気合入れろ!」
「教官これは無理ですよ・・・」
「馬鹿者! 無理な訳あるか! たった2分間攻撃を凌ぐだけだろうが! しかも刃を潰してあるんだぞ!」
ユウヒが到着したのは大きな広場で地面が土の場所もあれば草原も、石畳の場所もありと多目的な演習場の様だ。ユウヒが歩いて来たのはそんな広場の比較的きれいな石畳の一角で、そこでは軽装な鎧を身に纏い騎士の様な大きめの盾と両刃の片手剣を持った者達が何かやっているようであった。
「あんな教官の重い攻撃防ぎきれないですよ・・」
「貴様それでも騎士を目指しているのか! 盾を構えろ!」
どうやら騎士科の実技訓練中のようで数人の男女が打ち合いや話をしているようだ、その中一番大きな声を出している一角が気になったのかユウヒは少し近づき様子を窺っていた。
「あらら、教官に噛みつくから・・ん?」
「どうしたの?」
「あそこ誰か見てる」
そんな中、教官と呼ばれる男性と怒鳴られているまだ若い男性を遠目に眺めつつ小休止をとっている女性の一人が、興味深そうに訓練風景を見ているユウヒに気が付き近くに居た女性数人で固まり喋っていると、教官の目に付いてしまい怒鳴られるも教官もユウヒに気が付いたのか声を止めユウヒを見る、
「貴様ら何をしゃべってる!そんな暇が・・ん?」
「あ・・」
そんな風に一斉に視線を受けたユウヒ不味かったかと何とも抜けた声を出すのだった、それから十数分後・・・。
「どうしてこうなった・・」
ユウヒは石畳の上で騎士科高等部の面々に取り囲まれ教官の隣に立っていた。
「今からこの冒険者殿が手本を見せてくれる! よく見て置け!」
「俺盾使わないスタイルが好きなんだけどなぁ」
「私にはわかるぞ! 貴殿に心得があることが、お前たち! 冒険者に出来て見習いとは言え本職のお前たちに出来ない道理はない!」
何故か教官の目に留まったユウヒはあれよあれよと言う間に見本を見せる事になってしまっていたのだ、面倒なことになったと言う顔のユウヒだがそこまで危機感を感じてない様子である、それもそのはず実はユウヒそれなり?に経験が有ったりする。
「(いや、どう見ても無理だろあんなひょろいのに・・)」
「(ああ、しかもアイツの獲物短い槍だったぜ? 盾使えるのか?)」
「(確かに冒険者で盾の達人とかってあまり聞かないなぁ)」
ユウヒの嵌っていた【クロモリ】と言うゲームは様々な職と武器があったのだが、そのゲームにドップリと嵌っていたユウヒはなんと自分がゲームで使うキャラクターが使う武器防具を実際に自分でも使えるようになりたいと、様々な道場やコアな研究家果ては明らかに変人な鍛冶職人などと交友を深めゲームの世界の武器や武術剣術の再現に励んだ時期があったのだ、ユウヒ曰く黒歴史なのであまり触れないでくれとの事だが思いのほか両親には好評化で良いぞもっとやれと言っていたらしい。
「(どうみる?)」
「(んーわかんない見た目は弱そうだし冒険者ランクも低そうだし)」
正解である。事実女生徒達の言うとおり冒険者ランクは未だFなのだから、しかし今回は教官の打ち込みに対してユウヒは盾で防戦に徹すればいいだけとの事でユウヒ的には面倒なことになった程度にしか感じていないようだ。
「ユウヒ君だったな、それでは好きな武装を選んでくれ」
「んー使った事あるのはこれかな・・攻撃は無しで防戦のみで良いんですよね?」
ユウヒは教官に言われるまま何種類か置いてある武具の中からショートソードと呼ばれる両刃で60cmほどの刃が潰された訓練用の剣と、一般的な盾の中では小ぶりなバックラーなどと呼ばれる丸い形で表面が緩やかドーム状に湾曲している盾を取ると、感触を確かめるように数回素振りを始める。
「うむ、私個人的には君と模擬戦と言うのも心躍るのだが・・」
「あはは買いかぶりすぎですよ」
どうやら教官はユウヒから何かを感じるのか模擬戦をしたそうな目で見詰めてくる、そんな目にユウヒは苦笑いをしつつ心の中で【いいえ】を選択すると準備運動が終わったのか位置に着く。それを確認して教官も騎士盾と言われる体の半分以上を隠せる大きめの角ばった形でアーチ状に湾曲した盾とグノーの騎士が好んで使う両刃で少し長めの片手剣を手にし開始位置へと着く。
「それでは始めよう」
「いつでもどうぞ」
互いに位置に着いたのを確認するとそれぞれ構えを取り始め、教官の声にユウヒは苦笑いしていた顔を真剣な表情に変えると盾を前に出し剣を後ろにし姿勢を若干低く構えるといつでもと答える。
「では行くぞ!はあっ!」
「ふっ!」
ユウヒの声に口元をニヤリと楽しそうに歪めると気合の声と共に突撃する教官、その右手に持った剣から繰り出された初手は突き、ユウヒはその突きの中心から体を反らすようにバックラーの曲面を活かし、金属が擦れあう音を響かせ盾の表面で剣を滑らせるように受け流す。
「やはり出来る!(この手ごたえの無さは完全に流されているな)」
「そいつはどうも!(重いな、身体強化使っておけばよかったかな」
教官は突きの後も切り払い袈裟切り逆袈裟さらに突きと連撃を放つ、対してユウヒは盾から高い金属音と木の削れる低い音を出しながら、横に後方に重心を低くしその重い連撃を盾で反らし受け流し避け続ける。二人の攻防は休むことなく剣と盾による二重奏を奏で続け2分と言う短くも長い時間が経過しようとしていた。
「どうやら時間的に次で最後になりそうだな・・・行くぞ!はぁっ!(久しぶりに燃えさせてもらったよユウヒ君!)」
「ふっ! と(やっと終わりか・・ !これはシールドバッシュ!?)はっ!」
教官も2分が経とうとしていることに気が付いたのか、最後の一撃を繰り出すために構えを正すと気合の声と共にそれまでより早い動きで鋭い突きを放つ、ユウヒはその突きを正確に目でとらえると低い姿勢のまま踏込み突きの軌道を後ろに流すようにバックラーで受け流した、しかし受け流した瞬間相手の盾の動きに違和感を感じると自分の剣を相手の盾へと突き立てその反動を利用して後方に跳んだのだった。
シールドバッシュとは、盾使った基本技術の一つで単純に行ってしまえば盾で殴る行為だ。しかしこれは相手の視界を遮ることができ、また盾越しのタックルにより相手の体勢を大きく崩すことができる為、戦いの中でも非常に優秀な技である。
「ふぅ・・・・どうやら私の負けかな、素晴らしい技術だった(まさかあれまで避けられるとは、歳をとったかな? しかし初めて見る構えだったが、この違和感やはり模擬戦で刃を交え・・・)」
「あはは、こっちは受けただけだし勝ち負けは無いでしょ(なんだろうこの獲物を狙うような気配・・)」
「ふっ・・・歳をとったかな」
距離をとって構えたままでいた二人、2分の経過を離れた位置で見ていた騎士科の生徒に告げられると互いに構えを解き、どちらからともなく握手をした。互いに健闘を称え合う姿やその表情からは、長い付き合いのある友人同士のようにも見えた。しかし教官の瞳に宿る揺らめきについ苦笑いを浮かべてしまうユウヒであった。
「(・・・あれ教官が手加減してたんだよな? な?)」
「(現実を見ろって明らかに俺達相手より剣速が速かっただろ? 捉えるだけでも大変だったよ)」
「(教官のやらせで実は現役騎士とか・・)」
「(それは無いと思うけどなぁ教官だし、それにしてもあんな小さな盾で・・)」
目の前で展開された濃密な2分間に騎士科の者達はこそこそと様々な感想や憶測を話し始め俄かに騒がしくなり始めるが、
「貴様ら! これがプロの技術だ! この技を真似しろとは言わんが向上心ある者ならやる気は出てきただろう!」
教官の声ですぐに静かになる。しかしその中の一人が教官の言葉に疑問を抱いたのか手を上げ発言の許可を求める、その姿に教官が目だけで許可を出すと。
「教官、真似ろとは言わないのですか?」
「んむ、ユウヒ殿の技術は相当のものだが一般的な騎士の盾ではないからな」
「んー確かに騎士って言えば堅い守りとか集団による城壁の様な守りとかそんな感じがするしね」
生徒の質問に対して自らの発言の真意を答える教官、その言葉を聞いてユウヒは自分の盾の使い方と教官や騎士の盾使用方法の違いを考えると顎に手を当て頷きながら教官の言葉の後に続ける。
確かにこの世界においてグノー騎士や一般的な騎士が使う盾は比較的大きな盾を使い集団戦による壁と威圧の意味合いが大きくその為、受け止めると言った使い方が主流である。それに対してユウヒの使い方は小さめの盾で相手の攻撃を反らし受け流すことにより生まれる隙を突く一対一又は、一対多やパーティに措ける敵の攪乱と陽動などゲームの世界が元になった技術の為、大きな集団同士での戦いを主眼にした騎士の盾と呼ばれる物とはズレがあるのだ。
「はぁ、ではユウヒさんの技術から私たちが学べる事は無いのでは?」
「んー?確かに盾の本職じゃないし騎士でもないからね?」
「ふむ、ならば・・」
そんな二人の返答に騎士科の女生徒は学ぶことが無いのかと疑問を投げかけ、その言葉にユウヒは確かに・・俺ってここで疲れた意味あまりないのか? と首を傾げつつ考える、その姿に何か思う所があったのか、教官は更なる提案をするのであった。
そう、ユウヒにとってはありがたくない形で・・・。
「どうしてこうなった・・」
「よろしくお願いします!」
なぜだろうか同じセリフを少し前にも吐いた気がする。教官殿との手合せ?の後俺はさっさと帰る気で使用した武装を元有った場所に片付け、別れの挨拶をしようと思っていたのだが騎士科の女生徒から投げかけられた疑問について考えていたら何故か教官殿が装備していた物と似たような武装を施され、疑問を投げかけてきた女生徒の前に立たされていた。いったい何がどうなってこうなったのか見当が・・まぁ着くけどね。
「おっきい盾って苦手なんだよなぁ重いし動きづらいし」
「はっはっは騎士見習い相手には良いハンデではないかな?」
今俺の左手には大きな逆水滴型の盾、一般に騎士盾と呼ばれるらしい盾を付けている。これは最初俺が使った盾の様な中心に着いている取っ手を握って使うのではなく、取っ手は中心からズレた位置にいくつかついておりさらに中心近くに付けられたベルトで盾を腕に固定して使うようで、大きさもさることながら金属の量も多いので重い。
「「「「「「・・・・・」」」」」」ゴゴゴゴ!
「胸をお借りします!(ハンデ、ハンデですか・・・負けません)」
「あのー何故か非常に視線が痛いと言うか怖いのですが・・」
俺が盾の具合を確かめ終わり前を見ると、教官殿のハンデ発言が気に障ったのか騎士科の生徒達から無言で睨まれていて目の前に立つ女生徒も似たような表情である、冒険者ってだけでも騎士見習いには受け悪そうなのに・・これが騎士の集団戦法かと現実逃避をしつつ気を紛らわせるため、右手に持ったこちらも騎士が好む両刃の剣らしいが素振りをして感触を確かめる。どうやらこの剣は大きいだけあり重心が少し前になっているようなので重い一撃を出しやすそうである。
「はっはっは元気があっていいではないか? それではこの石が地面に着いたら開始だ!」
「りょうかい・・でも大振りになるよねぇ」
そんな考察をしながら位置に着く間も感覚を掴むため素振りをしてみたが、教官殿が両者位置に着いたのを確認すると、開始の合図について説明をし目配せをするので微妙にやる気の出ない返事と懸念を呟き構えをとると、教官殿が投げた宙を舞う石とその向こうに構えをとった女性騎士の姿が見え、その背中には闘志が燃えていそうで一層俺のテンションを微妙なものへとするのだった。そして石はカツンと言う音と共に地面と再会を果たした。
「はぁぁぁ!(相手は盾の重さに慣れてない!ならば速さで翻弄する!)」
「む!(重い!・・盾が、身体強化使いたいけどどうしようかなぁ)」
石が地についた瞬間女生徒は盾を構え突撃してくる、こちらが慣れない盾で機動性を欠いていると見たのか速さで来るようだが正解である。実際上手く動けない為その初撃の突きを盾でまともに受けてしまう、この盾はベルトで腕に固定されている分手だけで保持する盾に比べて受け流す動きに向いていないが、その分受けるには力が入れやすい利点があるようだ・・しかし重いのは変わらず彼女の攻撃が重くなくて助かったと言うのが正直なところである。
「くっ!(守りが硬い、でも手数で押せば!)はぁ!セイ!ハッ!」
「む、く!(むむむ攻撃は重くないけどこっちも動きづらいな。しかし連撃は早いが荒くなってきている・・ここは一つ教官殿に倣って)」
彼女はパワーよりスピードの方に自信がありそうでその動きは中々に早い、こちらは何とか受けているがやはりバックラーの時のように受け流すには至らないが、カン!キン!と乾いた金属音を上げ受けている間に大体の分析はできた、スピードは良いが剣筋は正直で解りやすいそれに疲れてきたのか脇が開いて動きが荒くなっている、それにそろそろこちらも攻撃しないと授業にならないと思いそれならばここは教官殿に倣ってアレで行くしかないだろう。
「はあ! 避けてばかりですか! はぁっ!(どの攻撃も有効打には程遠い・・)」
「(早いは早いけどね・・今!)」
「え?<ガァン!>くっ!」
姿勢を低くし相手の攻撃を受けて隙を探すそしてその時が来た、俺が一歩踏み込んだ時シールドバッシュが来たのだ、そこでその一撃を一瞬だけ強く盾で受けるとすぐに後ろへ小さくステップをする。すると彼女は押し込もうとしたのだろうが対象が居なくなり前方によろめいてしまい自分の姿勢を元に戻そうと後ろに重心をとる、これを狙っていた俺は空かさず相手の盾で出来た死角からシールドバッシュを叩き込んだ。
「はぁぁ!せい!」
「きゃぁ!」
予想外の事態に驚き動きが止まり体勢を崩す彼女に、俺は後ろにまっすぐ伸ばしていた剣を遠心力の力を使い相手の盾を思いっきり斜めに切り上げた。すると体勢が崩れたことで脇が開いたのだろう、力が込めきれていなかった盾は剣戟により金属の枠と木の部分が削れる音と破片を飛ばしながら力なく浮く、俺はさらにそこへ切り上げにより少し飛び上がった体勢から振り上げた剣を重力と共に力の限り盾に向かって切り下した。その一撃は切り上げた時より大きな音と破片を飛び散らせ盾に深い傷つける。
「ラストォ!」
「くぅ!・・嘘、盾が!?」
そして最後に切り下しの反動により左手の盾を突きだし剣を持った右手を後方に伸ばした半身の体勢から渾身の突きを相手の盾の中心へ打ち込んだ、ここまで上手く行くとは思わなかったが予想以上にこの連撃は上手く行ったようで、完全に体勢を崩し尻餅を付いた女性の盾は破壊音を響かせながら傷痕に沿う様に斜めに割れた、その割れた盾の隙間から見えた彼女顔はまるで信じられない物でも見た様であった。
「勝負ありそれまで! 勝者ユウヒ!」
「あー重かった・・ほれ、大丈夫かお疲れさん」
「あ、ありがとう・・ございまし、た」
突きの姿勢を解くと同時に教官殿の終了の声が上がる、俺はその声で今まで張っていた気を一気に抜き右手の剣を左手で持つと、未だに倒れたままの女生徒に労いの声を掛けながら起き上がるのを右手で引き起こし補助する。そんな彼女は詰まりながらもお礼を言うが、やはり負けて悔しいのか顔を赤くしてそっぽを向いている。
「やはり私の見立ては正しかったな・・ユウヒ君どうだね? 騎士を目指さないか?」
「はっはっは勘弁してください。(目が怖いよ目が・・)」
何かここに来てから騎士科の子を怒らせてばかりのような気がする。現在も彼女の応援をしていた騎士科の子達の中には怒りからか顔の赤い子がいるのだ、そんな状況に不味いことしたかなと思っていると後ろから嬉しそうな教官殿が鼻息荒くやって来て妙な提案をしてくる、振り向いて見たがその目は確実に獲物を狙うハンターの目であった。
「あの、教官・・」
「ん? うむ、君も良い連撃だったな少々重さが足りなかったようだが今のところ十分だ、替えの盾を取ってきなさい」
「は、はい!」
そんなハンターに狙われていると後ろから壊れた盾を両手で抱えながら女生徒が少し俯き気味にやって来る、しかし教官殿的に彼女の動きは合格点だったらしく、お褒めの言葉を貰った女生徒は嬉しそうに顔を上げる。
「あぁ盾壊しちまって悪かったな」
「あ、いえその・・失礼します!」
そんな壊れた盾を両手に抱える彼女を見ているとふと昔知り合いが騎士にとって盾とは特別な物なんだ、と熱く語っていたことを思い出し壊したのは不味かったかと思い謝罪するも、赤い顔をしたまま走り去ってしまう・・どうやらかなり怒らせてしまったようだ、
「むぅん・・(次会うことがあれば何かお詫びをした方が良いかもしれん・・騎士だから闇討ちなんて卑怯な事はしないだろうが後が怖い)」
「ふふふ、訓練用の盾だ壊れたとしても一向に構わん」
「そうか? それじゃ俺は行くよ(とりあえずどこかゆっくりできる場所を探そう、流石に疲れた。あと身体強化も使っとこう)」
俺の考えを察してくれたのか教官殿が大丈夫だと言ってくれるので、若干の不安が残るものの怒りで顔を真っ赤にした騎士科の前から早々に撤退するべく、また疲れを癒すために俺はその場を後にすることにした。
「そうか、今日はこちらの急な願いを聞いてくれてありがとう。気を付けてな」
「そっちもなそれじゃ」
そう言って俺はフラフラと癒しを求め緑が多そうな方へ向かってその場を離れたのだった。
いかがでしたでしょうか?楽しんでいただけたら幸いです。
今回は学園都市がどんなところか見ても貰う感じの話でした。そしてユウヒの意外?な過去にも少しふれて見ましたが、別のお話としてユウヒの過去とか家族とか書きたいですねふふふ・・・。
あぁすいませんつい妄想がヒートアップするとこでした・・え?もうしてた?(;・ω・`)オカシイナ・・。そんなわけでこれからもよろしくお願いします。また来年もここで会いましょう皆様良いお年を~