第三十四話 護衛開始
どうもHekutoです。
三十四話完成しました!最近亀さん更新ですが見放さず読んでくれてありがとうです。それでは三十四話をどうぞ。
『護衛開始』
あの後俺達はダック氏の荷馬車に乗り込み休憩所までの護衛を開始した。俺は荷馬車の一番後ろに腰掛け、過ぎ行くモトリ村を眺めながら【探知】の魔法で辺りの警戒を始めたのだが。
「しかし・・日に日に高性能化していく自分の妄想魔法に若干の恐怖を感じるな・・」
前回、ゴブリンとの遭遇時に発覚した【探知】の赤外線機能、他に何か無いのかと魔法を発動させた後色々試してみると今回新たに発見した機能が『三次元レーダー化』である。
「んー便利は便利だけどなー」
今までは円形の二次元、所謂平面的なレーダーだったのが球体状に進化し地形や各反応の高低差まで分かるようになり範囲も拡大されているようだ、しかしこれほどの範囲の三次元レーダーが使えても地面を歩く人類たる俺には微妙に宝の持ち腐れ感が否めないのであった。
「んーどう考えても使用頻度による妄想の慣れと経験値アップでレベルアップって感じだよなぁ・・」
「・・どうかした?」
なんだかなーっと独り言をつぶやいていると、前の方に座っていたはずのクラリッサが近寄ってきて話しかけてきた。座っている俺に視線を合わせるために前かがみになるクラリッサ、その動きについてくるように黒に近い紫色の髪がサラサラと彼女の褐色の肩を滑り落ちてくる。こうしてみると俺の世界で見たら確実に違和感を感じる色なのにこの場で見るその色はどこまでも自然に感じ取れるのが不思議だった。
「ん?いや世の中の不条理について考えてたんだよ」
ここで馬車の構造とみんなの位置関係を説明しとこう、ダック氏の馬車は馬二頭引きの中型荷馬車で帆などは無く、乗せた荷物に防水布をかぶせロープで固定した簡単な構造だ。
「それはとても難しい話・・?」
荷物は中央に寄せて置いてある為、その脇を歩いて前の御者台と後方の俺が座っている所とを行き来できる、ちなみにサスペンションなど無い為道の凸凹がダイレクトに体に伝わり乗り心地は良くないがまぁ荷馬車だしね。
「そうだな、考えてもしょうがない事だな」
「あの、ユウヒさん」
クラリッサと良くわからない会話をしながら馬車の構造について考えていると、今度はクラリッサと反対側からナディが話しかけてくる。一応周囲警戒はしてるけど二人してこっちに来るとかいいのか?
「ん?どうした?」
「クラリッサから索敵はユウヒさんが担当するので、私たちはダックさんの護衛に集中してるだけで良いと聞いたのですが索敵は大丈夫なのですか?」
どうやら出発してからずっと後方に座ってボーっとしている俺を見て少し不安になったようで不安気に聞いてくる、確かに【探知】の魔法で索敵していても傍から見たら何もしてないようにしか見えないからな。
「あはは、大丈夫だよ今も特に何か近づいて来る感じは無いし少し離れたところにいくつか反応はあるけど特にまだ問題は無いね」
「え?」
「・・・どうして分かる?」
俺が若干の苦笑いを浮かべながら現状を説明すると二人は不思議そうな顔で聞いてくる。
「それは企業秘密にしたいなぁ」
「きぎょうひみつ?冒険者の感ですか?」
特に隠す必要もないのだろうが、面白そうなので何となく誤魔化してみたのだが、
「いやぁちょっと違うな?どっちかって言うと個人技能?」
「・・魔法?」
「あら?即ばれてる?」
即ばれてしまう、でもクラリッサの顔を見る限り言った本人が驚いた顔をしているのでどうやら当てずっぽうだったようだ。
「え?ユウヒさんは魔法士なんですか!?」
「ん?魔法も使えるだけで魔法士ってわけでもないと思う?んー近接戦闘もできるし魔法も使えるし索敵もできるし・・まぁ器用貧乏?ってところかな」
「はぁ・・」
「・・すごい」
俺の説明に二人は呆れたような感心したような微妙な表情で見ているのであった、そんな感じで特に何も無く進みお昼、休憩のために馬車を止めてみんなで昼食をとる。
「なんと!ユウヒ殿はそんなに多芸なのですか!ふむぅ流石一人で冒険者をするだけあるのですな」
「・・・やっぱりこういった護衛には複数の種類のスキルが必要なのでしょうか・・」
「んーそれは適材適所だよ偶然俺は複数できるだけでやっぱり何人かで分担してやった方がいいさ、一人ですべて熟そうなんて流石難しいからそのためのパーティなんだし」
「適材適所、なるほど勉強になる・・」
「・・騎士には騎士の仕事と言うわけですね、頑張ります!」
昼食をとりながらの雑談は楽しくあっと言う間に過ぎたのだった、荷馬車に乗車しながらダック氏に予定を聞くと後は休憩無しで行けば暗くなる前には休憩所に着けるとの事で、このまま何も無く行けるかなと思ったのが悪いのかその考えがフラグになったようで。
「・・・駄目か、着いてきてるなぁ」
「・・何かあった?」
昼食後しばらく何事も無く街道を走ってる途中、森の中に居た敵性を示す赤い反応がこちらを追いかけるように移動を開始したのだ、それに気が付いた俺の反応にクラリッサも気が付き真剣な表情で聞いてくる。
「あー何かが馬車を追いかけてきてるみたいだ、これはシリアルラットかな少しずつ近づいてる」
「・・どうする?」
「・・ダックさんちょっといいですか?」
乏しい表情だがその感情が伝わる真剣な表情をしたクラリッサの問いに、視界のレーダーを確認しながら少し考えダックさんに現在の進行状況を尋ねる事にした。
「は?どうされましたかな?」
「んーどうやらシリアルラットが追いかけてきてる可能性があるんだけどスピード上げられます?」
「そ、それは本当ですか!?うぅむ・・一時的には上げられますがそれでは休憩をとらねば馬が・・」
「そうですか・・わかりましたではダックさんは休憩の必要が無い程度にスピードを維持してください、追いかけてくるヤツは俺が馬車の上から迎撃します」
俺の言葉に慌てるダック氏の話からどうやら振り切るには難しそうな為、俺は現状のスピードの維持をお願いし迎撃体制に移ることにした。
「あ、あの私達は何をしたらいいんですの?」
「ダックさんを左右からガードしてください万が一にも跳びかかってこないとも限らないし、あとはなるべく馬も守ってやって」
「了解・・」
「了解ですわ!」
ナディが自分達の行動方針を聞いてくる、こう言うことはあらかじめ決めて置くべきだっただろうかと思いながら近接主体だと思われる盾と剣を装備した二人にはダック氏と馬の護衛をお願いした。とは言ったものの馬車の上から迎撃かぁ地属性は全部今のとこ地面や石が無いと使えないし、他の属性か・・火、は周りが森だから使えないし風は、まだまともに練習してないしなら水か・・木を圧し折るくらいだし迎撃には十分かな?最初に使って以来だけどいけるよね。
「ふぅ・・妄想開始先ずは、弾数確保・・圧縮、高圧、衝撃優先・・【水弾】」
俺は貫通力より衝撃力を優先した複数の圧縮された水の球を妄想しキーワードを唱えた、すると俺の手元にピンポン玉サイズの水の球がギョオォォォ!と言う異質な音と共に集まり始めそれは十数個現れると音も無くふわふわと俺の周りを漂い出した。
「いけるか・・(妄想通りならこの水は1個当たり2,3リットルくらいの水のはず・・これが当った瞬間圧力を開放して爆散したら成功だな・・しかし日本語?漢字?で構成すると何故か安定性が上がるんだよなぁ)」
「すごい・・あんな沢山ウォーターボールを・・」
「・・・・」
何か後ろからの視線を感じるが久しぶり且つアレンジを加えて作った妄想魔法の為、暴走しないように集中しているのでそちらまであまり気が回らない、それと今回は魔法を使うときに漢字をイメージしてキーワードと唱えると何故か全体的に効果が安定する事から、漢字で構成してみたのだが予想通り安定してくれた様だ。
「・・・来た、やっぱりシリアルラットだな・・・12匹か」
「多いし早い・・」
「あれが暴走ラット」
「さて、うまく当れよ!」
後ろの二人声を上げる中俺は視線の先、馬車の少し後方を血走った目で追いかけてくるシリアルラットを確認すると接近された時用に背中の槍を取出し片手で持つと反対の手で狙いを定め水の球が狙い通りに飛んで行く事をイメージする。
シュッ・・・ズパァァン!「!!」
「おー予想外の威力」
「「・・・・」」
すると俺の意思に反応するように、周りをふわふわと浮いていた水球の一つが急激にベクトルを変え目標に高速で飛んで行く、さらに目標に当たった瞬間発射方向に大きく弾け二匹のシリアルラットが天高く吹き飛ばされて行った。視界に映るレーダーを確認すると赤い光点が二つ灰色に変わったので気絶したようである。
「・・・うん少し地面が抉れた気がしたけど問題無くいけそうだな・・次!」
「あんなに小さなウォータボールでどうしてあそこまで威力が出るんですの?」
「・・・・わかりません」
なにやら後ろからの視線がさらに強くなった気がしたがシリアルラットはじわじわ近づいているので二射三射と水球を放っていく、そのたびにシリアルラットが吹っ飛んでいき気絶していくを数回続けると慣れてきて地面が抉れなくなってくる。
「結構使い勝手良いな、いろいろ改良できそうだ・・ん?」キキッ!ギ?プッ!?
「あ、危ないですわ!」
改良の案を考えていると急に一匹のシリアルラットが仲間を踏み台にして俺の方に跳びかかってくる、荷馬車との距離はまだ2メートル以上あったと思ったのだがどうやら予想以上に暴走ラットの能力は高いようだ、それに気が付いたナディが叫ぶも俺は焦ることなく異様に冷静な心で槍を下段に構えた。
「近づかなければ斬られずに済んだものを・・はっ!」ズパッ!ギィィ!?
「な!」
「早い・・」
「み、みなさん大丈夫なのですか!?ユウヒさん大丈夫ですか!?」
「大丈夫だ、問題無い」
事前に【身体強化】もしていたおかげもあり右手に構えた槍で体ごと回転し、シリアルラットの軌道に沿うように切り払いその突撃を切り交わす、ダック氏は御者に集中していて後方の様子が分からず心配しているようで、テンションが上がっていることもあり若干ネタで返答してしまうが実際問題は無かった。
「あと数匹一気にいくぞ!」ドパパパパァァン!「!!??」
周りをふわふわと漂っていた水球らは俺の声に反応するように急激なベクトルの変化を伴い、一斉に残りのシリアルラットへと曲線を描くように殺到し膨大な水の爆風となってギーギーキーキーと煩かった暴走ラット達を叫ぶ暇も与えず空高く打ち上げたのだった。心なしかその水弾の動きは俺の妙に上がったテンションにあてられてか歓喜しているようにも感じたのは気のせいだろうか。
「すごいこれがプロの冒険者・・」
「・・・魔法すごい」
「な、なんですか!?今の大きな音は!?」
「ダックさん!もう大丈夫ですよシリアルラットは殲滅しました。他に近づくモノも居ません!」
「本当ですか!はぁぁよかったぁ・・このまま休憩所まで止まらず行きますのでどうぞゆっくりしていてください」
とりあえずの脅威は過ぎ去ったので俺はまた定置に座り索敵しながらその後を過ごした、ダック氏は安心した為か鼻歌を歌っていてその後ろで騎士科の二人はなぜか俺を見ながら疲れたように座っていた。
「(やっぱ緊張したのかな?でもなぜそんなにこっちを見る・・魔法の威力上げすぎたかな?)んー?」
「じー(やはり騎士では冒険者には・・い、いえ違いますわ!きっとユウヒさんが規格外なのですわ!)」←当たり
「・・・(魔法もすごかった、でもあの槍捌きも上手かった・・でも魔物を斬る時とても悲しそうだった、優しい人)」
なんだか視線が気になるがとりあえず索敵を広げても特に危険なモノは無かったので、ゆったりと休憩所までの道のり過ごしたのであった。
一方その頃、ここは世界間管理委員会の事務局そこにはフェイトとアミールが何かしているようだ。
「なるほどねー昨日飲んだお茶はそのユウヒて子が作ってくれたのね」
「はい!力を手にして数日しか経っていないのにこれほど力を使いこなすなんてすごいですよね」
二人は受付の前で雑談をしているようで、その話の話題はどうやらユウヒの作った茶葉のようである。実は昨日アミールが持ってきていたお茶の葉はユウヒがアミールに送ったものだったのだ。
「まったくね、昨日のお茶は本当に美味しかったわ・・マーリンも関心しっぱなしだったし、でもこのことはマーリンには秘密ね」
「ほえ?」
しかもその評価はユウヒが考えていたレベルを遥かに超えた評価を貰えたようだ。しかしその評価とは別にこの時フェイトは別の事に気が付いたらしく今の会話の内容をマーリンには秘密にするように告げる。
「ふふ、いいわね?(どう考えても彼の事説明する時の目は恋する少女の目でしょうに、マーリンが知ったら暴れるのが目に見えてるわ・・)」
「はぁ?解りました」
いつも通りの見た目に合わないどこか大人びた微笑みを浮かべ内心面白くなってきたとフェイトはアミールに念押しし、念押しされたアミールはどこか腑に落ちない表情をしながらも了承する。そんな二人に受付の向こうから女性が一人一抱えほどの書類をもって近づいてくる。
「お待たせしましたすべての承認が完了しましたこちらがその書類になります。これから大変でしょうけど、がんばってくださいねアミールさん」
「はわ!?あ、ありがとうございます頑張ります」
基本的に事務局での受け渡しは事務的なものでこう言った激励は珍しく、アミールも予想してなかったらしく変な返事になってしまう。どうやら事務局的にも今回の事は珍しかったらしく受付の奥の職員も慌てるアミールを微笑ましそうに見ているようだ。
「ふふ、これで名実ともに特別管理神になったと言うわけね励みなさい」
「はい!ありがとうございます!」
「・・それとね?お願いがあるんだけど・・」
フェイトもそんなアミールに激励をする。しかし何故か少し間を置いてモジモジすると上目使いで話を切り出す。
「はい?なんでしょうか」
「その、ユウヒって子にね?茶葉のオーダーとかきかないかしらぁ?」
「オーダーですかぁ」
「あと他に何が作れるか聞いてほしいのよ、あんな高品質な品中々手に入らないしあれだけ作れるのなら他にもってね」
オーダーと聞きアミールは少し考えるような素振りを見せる、どうやら想像以上にユウヒのお茶は気に入られているようだ。
それもそのはずユウヒは色々とゲーム的な思考も相まって勘違いをしているのだが、アミールに渡したAランクの茶葉などユウヒの世界でも製造不可能なレベルなのだ、さらに言うとランクB+とランクA-の間にはかなりの差がありランクA-とランクAの差に関しては途方もない差があるのだ。
「わかりました、一応聞いてみます・・でオーダーって言うのは」
「ふふふ、もうここに書いたものがあるからはい♪」
特に今回アミールが持ってきた3種類の茶葉の内の1種類はユウヒの認識上A+でAより一つ上程度にしかユウヒは考えていないが、正確にはAランク以上の測定不可と言う意味なのである。実際にはその上にもランク付けがあるのだがユウヒの右目に宿った力ではそこまでが測定限界なだけだったのだ。
「わわ!?・・ちょっとした書類並みの量ですね・・」
「本当は直に注文したいところだけど・・連絡を取る口実があった方があなたもうれしいでしょう?ふふふ」
そんなわけでフェイトがこれほどの反応をするのは当然と言えば当然の反応と言えた、しかも何時の間に用意したのかわからない書類を渡しながらアミールを弄ることを忘れない辺り流石である。ちなみに一般的な管理神が食に求める水準は日本人の一般的な求める水準と大した差は無いことを記しておく。
「なぁ!な!なんでですか!?わ、私はそんな!?」
「冗談よぉ、もうそんな怒らないのスイーツ奢ってあげるから~さぁ行くわよ~」
そんな背景もあり上機嫌のフェイトは書類の束(オーダー表含む)を胸に抱えたアミールの手を取るとぐいぐいと引っ張っていく、それに書類を落とさないように慌ててついて行くアミールそんな彼女らを事務局の職員たちは微笑ましそうに見送ったのであった。
「ちょ、ちょっとまってください~!?」
「ごゆっくり~」
尚、事務局の職員の中に【新米管理神アミールを暖かく見守る会】と【女帝フェイト様に罵られ隊】と言う秘密組織のメンバーが居るのはここだけの秘密である。
どうでしたでしょうか?
やはり戦闘描写は苦手な為か短くなっている気がしてならない今日この頃・・・そのうちも少し長めの戦闘シーンも書けるように頑張りたいです。
それではまた次回ここでお会いしましょう!さようなら~