第三十三話 モトリ村の緊急依頼
どうもHekutoです。
三十三話完成したのでお送りします。
『モトリ村の緊急依頼』
警備隊の休憩所を出た後ビスクの案内で泊まった宿は、木造二階建て客室数40室の宿だったのだがこの規模の村では大きな宿らしい、なんでも学園都市の入学シーズンは空き部屋が無くなるくらい繁盛するのでそのおかげだとか。
「うーん今日もいい天気だな、おや?まだやってるな」
しかしシーズン以外は行商の商人や冒険者などがメインで半分埋まれば良いくらいらしく、今も埋まってるのは10室ちょっととか言っていた、そんな宿の二階に借りてもらった部屋の窓から外を見ると塀の周りを歩いている揃いの鎧を着た兵士だろう人影が見えた。
「いつもこの位なのか特別警戒中なのか・・何となく罪悪感、お疲れ様です」
昨日の夕方からシリアルラット対策で慌ただしかった警備兵の姿を思い出し俺は何となく拝んでしまうのであった。
ユウヒが朝の一拝みをしている頃、宿の一階にある食堂では何か話をする者達が居た。
「んーしかしだな、急にそう言われてもなこっちも偵察や警戒で手いっぱいなんだ」
「そこを何とかなりませんか?学園の子達が護衛してくれるとは言ってくれてますが、休憩所まででいいんです」
食堂のテーブルを囲むのは、ビスクとその目の前には困り顔の男性と若い女性が二人、男性の願いに難しい顔をするビスク、どうやら護衛を警備の兵士にしてもらいたいようだ、元々こういった依頼はよくあり互いの利害から護衛をするのはいつもの事なのだが今回は人が居ないようである。
「むぅ」
「我々では不安ですか・・」
ビスクが唸るのを見ながら女性の一人が男性に質問する。
「あーいや、そうではないのですが・・シリアルラットの暴走が確認されては食料の運搬に神経質にもなります」
「暴走ってたかがGランクのネズミ、私達で十分でしてよ?」
女性の言葉に慌てて説明する男性、その言葉からはシリアルラットの襲撃に酷く怯えてることが分かるが、それを見ていたもう一人の女性には良く理解できないようで頭を傾げながら言ってくる、そんな彼女らに男性は真顔で質問した。
「・・お二人は暴走ラットを知らないのですか?」
「「暴走ラット?」」
「どうやら知らないみたいだな、暴走ラットってのはだな・・」
ビスクが暴走ラットと言う言葉について説明しようとすると丁度食堂の入口の方から声がかかる。
「ん?ビスクじゃないか隊長殿がこんなところで、何かあったか?」
「ん?おお、ユウヒか昨日はよく眠れたか?」
椅子に座っていたビスクは自分の名前を呼ぶ声に振り向きユウヒを確認すると、二カッと歯を見せ笑うと話し始める
「おかげさまでな、町は厳戒態勢のようで何だか悪いことをした気がするよ」
「はっはっは気にしなくていいさこれも我らの務めだ!むしろ先手をうてるのだ感謝すれど不満は無い・・そうだユウヒ」
ビスクの言葉に礼を言ったユウヒは若干の罪悪感を感じていることをビスクに伝えると、ビスクは笑いながら問題無いと感謝をしたのだが何かを思いついたようにユウヒの名前を呼ぶ。
「ん?」
「もしよかったらだがこっちのダック氏の護衛を引き受けてくれないだろうか?彼は行商人なのだがこの先の休憩所まで行くのに護衛が欲しいらしくてな」
「冒険者ギルドに行けばいんじゃないのか?」
「いや、今村に居る冒険者はユウヒだけだよ、この間までは何人かいたんだけどなぁ・・うちからも今は人を割けない、シリアルラットの件つながりだ頼まれてくれないか?」
そんなビスクの依頼にユウヒは周囲の人物を見回した。苦笑いしながら頭を掻くビスク、顔の前で両手を組みこちらにキラキラした目を向けてくるダックと言うらしい行商人の男性、その隣の何故か不機嫌そうにこちらを見ている二人の女性、一巡り視線を向けた後ユウヒは何か考えるそぶりを始めたのだった。
どうしたものだろうか、現在俺の目の前には四対の瞳が俺を見ている。
「んー(依頼の内容は理解した暴走ラットからの護衛だな、行先も合ってるし問題は無いのだが・・)」
「「「・・・・」」」
ダック氏の目が言いたいことは分かる、がその隣の女性は何故に不機嫌そうな目で俺を見る?俺なにかしただろうか。そんな事を考えていると先に女性の方が動いた。
「護衛は私達だけで十分ですわ!冒険者が出てくる必要などありません・・・ダックさん私先に行って準備してますわ、失礼!」
長く赤い髪の女性は立上りそれだけ言うと立ち去ってしまう、もうひとりの女性はその後ろ姿を見送りながら何か呟いたが良く聞こえなかった。
「えーっと?俺何か悪いことした?」
「ごめんなさい・・」
俺の言葉に残ったもう一人の女性が謝ってくるが別に怒ったわけでは無く状況に付いていけないだけなので、
「あぁいや別良いけど・・どうします?俺は学園都市まで行くから休憩所なら通り道だし護衛してもいいけど?その代り移動が馬車なら乗せてくれ」
「なんと!ありがたい!えぇえぇどうぞ好きなだけ乗ってください!」
俺的には魔法で行っても良いんだがやっぱり自分の足で歩く分疲れるので馬車に乗れるのならありがたいと思い提案したのだが、ダック氏喜びすぎです。しかし彼女らとダック氏のつながりはなんだろう?去り際の言葉から察するにどうも冒険者じゃないみたいだし聞いてみるか。
「ところで彼女らはいったい?護衛の様ですが」
「はい、実はですな」
ダック氏曰く、彼女らは学園都市の騎士学科高等部の生徒らしく学園都市まで乗せる代わりにとサハール商国からずっと護衛してくれていたらしい、と言う事は後から俺が混ざるのが嫌だったのだろうか。
「・・ナディが失礼しました・・私は、騎士科高等部のクラリッサ・カハーリヤです。」
「ああ、俺は冒険者のユウヒだ・・えーっとカハーリヤさん気にしなくて大丈夫だよ?」
説明を一通り聞いた後、目の前の女性が謝罪と自己紹介を始めるがその喋り方はどこか固くどうもおしゃべりは苦手のようだ。
「・・クラリッサで、構いません」
「ああわかった、よろしくクラリッサ」
「はい、・・ナディはたぶん悔しいのかと、今回の旅でも冒険者と比べられることがありましたから」
そんな事を話し始めるクラリッサ、なんでも彼女達騎士を目指す者の中ではよく知られた話しらしいのだが、この世界の騎士や国の兵士などは個人戦闘よりも大きな集団での戦闘を主軸に置いているらしく、個人の技量をどこまでも追い求める冒険者とはどちらが強いのか度々対立するらしいのだ、そんなものだから互いに敵愾心を抱く者も多いらしい。
「それで今回の護衛の道中で冒険者に馬鹿にされてイライラしてると言う事か」
「はい、・・でも実際に戦いでは私たちも引けを取らないと、自負があります・・」
どうも、道中冒険者に騎士が冒険者の真似事やって務まるかと馬鹿にされて以来イライラしているようである。
「正確には、騎士学科生なので・・騎士ではないのですが?」
「こだわるのはそこなんだ・・」
「そんなことが!?私ちょっと行ってきます!護衛よろしくお願いします!」
どうやらクラリッサには彼女なりのこだわりがあるようだ、そんな中俺らの会話をじっと聞いていたダック氏だったのだが目元に涙を溜めたままそれだけ叫ぶとバタン!と扉を開け宿を飛び出していったのだった。
「・・なんだ?」
「・・慣れました」
俺が呆気にとられて呟くとクラリッサは冷めた視線で一言だけ呟く、その目からは何か苦労が感じ取れた。
「はっはっはまぁそんなわけでよろしく頼む、ユウヒお前の実力なら安心できるぜ」
「俺の実力はブラフかもしれねーぞー?」
「はっはっはっは」
話は纏まったと見たのかビスクは笑いながら席を立ち俺の言葉を笑い飛ばしながら頼んだぞと宿をで行った。
「・・・・」
「あー・・準備してくるから待っててくれないか?集合場所が分からない」
微妙な雰囲気の間に耐えられず準備をする為立ち上がったのだが集合場所が分からないのでクラリッサにお願いすることにしたのだが、
「わかりました、待ちます・・あと、でいいので暴走ラットについて教えてほしい」
どうやら今回の護衛でなんで冒険者を雇うことになったのか、まだその理由を彼女たちは知らないようであった。
それからしばらく経ち俺は、クラリッサに集合場所まで案内されながら暴走ラットについてさらっと実体験も交え説明していた。
「と言うわけで暴走中のシリアルラットはまさに死兵のごとく喰らいついてくるのでできれば逃げる方がいいだろうな、まぁ俺は律儀に倒してたけど」
「なるほど・・それはおそろしい、我々騎士を志す者にとっても死兵とは恐ろしいもの・・大変勉強になりました。」
「まぁ暴走ラットばかり気にしてもしょうがない、索敵は俺に任せて君らはダック氏の近くで護衛してくれ」
「心得ました」
クラリッサに今回の懸念事項である暴走ラットについて説明していたのだがこの子は表情こそ若干乏しいもののちゃんと聞いてくれるので説明しやすくて助かった、そんな風に会話していると俺の目の前に異常事態が展開されていた。クラリッサもソレに気が付き唯でさえ乏しい表情が完全に消える。
「ん?」
「・・・・」
集合場所と思われる広場には二つの人影があった一人はクラリッサがナディと呼ぶもう一人の駆け出し騎士見習い、もう一つは先ほど宿から駆け出して行ったダック氏、そこまではおかしくないしかしその体勢はおかしかった。
「わ、わかりました!?わかりましたからいい加減にしてくださいまし!」
「いいえ!私が気がつけなかったばかりに!お二人に嫌な思いをさせるとわ!」
何故かナディの足首に両腕を絡め膝を地面に付き涙を流し何かを謝罪するダック氏、それを顔を真っ赤にし周りを気にしながら立つように説得するナディ、まさにカオスである。
「これは私たちの問題です!そんな気にしてもらっても困りますわ!?と言うかお立ちくださいまし!っ!?」
「取り込み中のようだな・・」
「面倒・・です」
悲痛な叫びと共に俺たちと目が合い益々顔を赤くするナディ、どうしようかとクラリッサに話を振ってみるがその表情は眉を顰め全力でめんどくさがっていた、仕方ないので俺は槍を抜くと石突が先になるように持ちダック氏の方に歩いて行く、
「はぁ・・」
「しかしですなべし!?」ゴスッ!
そして復活の儀式(斜め45度から頭を叩く)を行ったのだった。
「ダックさん早めに出ないと夕闇の中シリアルラットにケツ齧られることになりますよ?」
「は!そうでした、一刻も早く休憩所まで荷を運ばねば!すぐ準備しますのでお待ちを」
俺の優しい心遣い?に正気を取り戻したダック氏は慌てて立ち上がると走り出していった。
「はぁはぁ・・・ありがとう、ですわ・・」
「あれは何だろうな、新手の変態か?」
馬車の方に駆けていくダック氏の後ろ姿を見送っていると、ナディが息を整えながらお礼を言ってくる。
「・・・悪い人ではないのですが、それよりも先ほどは失礼しました・・あれを見たら少し頭が冷えました」
「いや人間色々あるさ俺は気にしてないから問題ない」
疲れた顔のまま先ほどの事を謝罪してくるナディ、まぁ理由も聞いたし特に気にしないので問題は無い。
「・・ありがとうございます、申し遅れました私はグノー学園騎士科高等部のヴァナディス・ナブリッシュと申します」
「ご丁寧にどうも、俺は冒険者のユウヒと言う少しの間だけどよろしくな、えっとヴァナディスさん?・・・?」
「あ、呼び辛ければナディとお呼びくださいまし・・・どうかされました?」
息も整い姿勢を正すと丁寧に自己紹介を始めるナディ、すでに心の中では呼んでいたのだがナディと呼ぶ許可ももらえた、しかしナブリッシュ・・。
「ナブリッシュ・・どこかで聞いた名前だなと」
「ああ、ナブリッシュ公爵家はアクアリアの由緒有る貴族ですから、どこかでお聞きになられたのでしょう」
「んー・・あ、ナルシーも同じ家名だったな」
どこかで聞いた名前だと思っていたらナディのアクアリアと言う部分で思い出した、アサルトボア討伐の時に会ったカステルのストーカーとか言うナルシー君も同じナブリッシュだった気がする。
「・・・・・・まさか、それはナルシーブ・ナブリッシュの事でしょうか・・」
「そうそう、そんな名前だ確かアイツもアクアリアの貴族とか言ってたような?」
どうやら知り合いなのか妙に神妙な顔で詳細を確かめてくるナディ、その質問で過去の記憶が鮮明になってくる。そんな俺の反応に表情を険しくしてさらに聞いてくるナディ、これは完全に知り合いだね、もしかして・・。
「あの、それはいつ?どこで?何をしてたかお知りでしょうか・・?」
「おう?そうだなあれは数日前の・・」
妙に顔を強張らせナルシーと会った時の事を詳しく説明要求してくるナディ、その様子に若干押されながら特に隠す必要の無いことなので詳しく初めて会った時の事から教えてあげた。
「そんなことが・・申し訳ありませんわ、この場を借りて我が家の愚兄のご迷惑をお詫びいたします」
「いや別に謝罪の必要はないけど、やっぱり家族だったのか」
一通りの説明を終えるとものすごく疲れた表情で深々と頭を下げ謝罪してくるナディ、どうやら予想通り家族だったようだが・・愚兄って。
「はい、私の上の兄ですわ・・アクアリア魔法学校を卒業後どこに行ってるかと思えば・・ストーカーなどと・・あの恥さらし」
「?まぁグノー王都で分かれてからは見てないけど、カステル達も知らないって言ってたし」
頭に手を当て苦虫を噛み潰したような表情でボソボソと呟くように話ナディ、しかし最後の方は小さすぎてよく聞き取れなかった。
「はぁ、カステルお姉さまにも謝らなければいけませんね、しかし家出中と言うのは本当でしたのね」
「カステルと知り合いなのか、しかも家出中ねぇ」
「はい何度かパーティーでお話しを、とてお優しい方でした」
「ってことはカステルも貴族なのか、まぁ隠してたみたいだから聞かないけどねー」
どうやらナディはカステルと知り合いでカステルは貴族の様である、まぁ確かに言われてみればそんな気もしないでもないかな?と言ったところで俺にはあまり関係なさそうだなアクアリア王国のこともあまり知らないし、そんな風に話し込んでいるとクラリッサが近づいてくる。
「・・・ナディそろそろ」
「あ、そうですわねそれではユウヒさん道中よろしくお願いします。」
「みなさーん!準備できましたのでーいきますよー!」
どうやら出発の様である、この村を少し見て回りたかった気もするがそれはまたの機会にし一路休憩所に向けて護衛を開始するのであった。
「(護衛かぁ何もなければ・・無いわけないか)」
どうでしたでしょうか?
一度生まれたキャラクターは出来るだけ生かして活かたいと思い繋がりを作ってみたのですが、するとどうでしょう新たにキャラと世界が生まれてしまいました。
なんだかこの先どんどん増えていきそうですがこれからもよろしくお願いします。それではこの辺でさようならー