第三十一話 夜明けまた一人旅
どうもHekutoです。
ここのところ鈍足更新です・・でもちゃんと進んでますきっと!・・。そんなわけで三十一話『夜明けまた一人旅』はじまります。
『夜明けまた一人旅』
初めて遭遇したゴブリンとの戦闘の後、イーゲル達とたき火を囲み色々と話しをした。噂話や自慢話に今後の予定など、どうやらイーゲル達はこのままグノー王都に行くらしくそこでロゥンとキャスに王都周辺での依頼に慣れさせるらしい。
「駆け出し冒険者かぁ、ランク同じだけど・・そういえば学園の話したら変な顔してたな」
俺が依頼で学園に行くのを聞いたキャスがどんな依頼か気になったらしく聞いて来たので研究所に届け物と言った瞬間キャスとロゥンそろって嫌な顔をしたのだ、気になって聞いてみると何やらいつも怪しい実験をしていて爆発騒ぎなどが良くあるらしく、中には学園生が事故に巻き込まれ死人は出ないが数日動けない怪我を負ったや実験に付き合って酷い目にあったなど噂の尽きない場所だと言う。
「俺、依頼受け間違ったかな・・まぁ納品だし問題無いだろむしろその後だな、護衛かぁ俺ゲームでも護衛系のクエスト苦手なんだよなぁ」
攻めるだけなら目的はシンプルだが、護衛はどこから何が攻めてくるか分からない上に一方からだけとは限らない、他にも護衛は居るらしいのでまぁ大丈夫だと思いたい。
「さてまた一人になったわけだが、次の村まではそこまで遠くないみたいだし今度は合成魔法の素材でも探しながら行こうかな」
何故かあの休憩場に居た人達は皆学園とは反対方向に行くらしく、俺はまた一人旅となったわけなのだがまぁ気楽と言えば気楽なのだけどね・・。
「・・何か面白い物は無いかなぁ」
「なんて事を言ったばかりに、まぁいいんだけど・・さっ!」ズシュッ!
少し時間は進み休憩場からだいぶ離れた森に囲まれた街道、そこには複数の影が飛び交っていた。
「まったくなんだろうねっ!」ザスッ!
どこかなげやりな言葉と共に槍を振りかざすユウヒ、その槍に切り払われる体長80㎝ほどの大きさで汚れた毛の生えた生き物。その生き物は赤く血走った目でユウヒを睨みつけ、ごつごつとした太い爪を振りかざし跳びかかって来たかと思うと、今度はその長く鋭い前歯で噛みついてくる。
「この大きなねずみさん達は、そぉい!」ゴス!
勢い良く槍を回し石突でネズミを吹き飛ばすユウヒ・・そう、ネズミであるユウヒの世界の一般的なネズミより明らかに大きくかといってカピバラのような可愛さは一切ない、明らかな敵意剥き出しでユウヒに向かってくる。
そんなネズミが十数匹襲いかかってきたのだからたまらない、あらかじめ接近に気が付いていたユウヒもその数に若干引いたが持ち前?の精神力と【身体強化】で跳びかかって来るネズミを槍で振り払っていたのだ。そして、
「よし、動態反応把握!周囲安全確認完了、展開【グラン・ヘッジホッグ】!」
ユウヒは跳びかかってくるネズミを掬い上げるように時には袈裟に払いのけながら地面に手をつき妄想魔法を発動させる、それは【探知】の魔法で正確に位置を把握し安全も確認して放たれた為、ユウヒの周りを取り囲むように勢い良く飛び出た硬質な針は一寸の狂いも無くネズミ達を貫き、また不思議なほど周囲の木々に被害はなかった。
「・・・・・ふぅ、どうやら一掃できたみたいだな流石にびっくりしたなぁ」
槍を持った手を腰に当て反対の手で頭を掻きながら、ユウヒは串刺しにされながらもまだかろうじて生きている大きなネズミをその右目に捉えたのだった。
【シリアルラット(暴)】
ネズミ(齧歯)目
ビックラット亜目
フォレストラット科
シリアルラット種
体長70㎝~100㎝、体重20㎏~50㎏、少し緑がかった濃い茶色の毛をしており、主に森の中で群れを作って生活している大型のネズミ。
主食は穀物で何もなければ何でも食べる雑食、普段は森の縄張りで群れを作り静かに暮らしているが、群れが急激に増加すると一部が群れを離れ外へ移動を始める。この時のシリアルラットは獰猛になり手当たり次第に襲い掛かり暴走と暴食を繰り返す、一か月もしないで力尽きてしまうのだが、1年も暴走が続いた記録もある。
このような現象は度々起り彼らの進路に入った村や町などは穀物倉庫を襲われたりする被害が発生している為、兆候が見られた場合冒険者ギルドや国で討伐隊が編成される。一匹の強さはGランク程度だが暴走時の群れは、Eランク相当になる場合もある為、単独で群れと出会った場合は齧られないように逃げる事をお勧めする。
「あーってことはこのネズミは暴走中だったと・・んー村に着いたらギルドに報告した方がいいかな?」
俺は右目に映し出される情報を見て自分の運の無さに苦笑いを浮かべてしまう、しかしこのグループだけとは限らない為、一応報告はしておいた方がいいだろう。
「あ、そうだ何か剥ぎ取れそうなの無いかなーっと」
一匹くらい証拠に持っていこうとすでに息をせず地面に横たわる一匹を見るとふと思い出した、剥ぎ取って何か使えそうな素材として持っていった方が効率的である。なので早速右目で使えそうな部位を探した。
【シリアルラットの毛皮】
少し緑の入った濃い茶色の毛皮、綺麗に洗浄した毛皮は光の屈折で綺麗な緑色が浮き出てくる為、素材としての価値は低くない。
【シリアルラットの門歯】
生きている限り永久に伸び続ける門歯、そこそこ固く加工もしやすいので主に鏃などに加工されることが多い素材。
【ぼろぼろな太い爪】
土の中にある穀物などを掘り起こすために発達した太い爪、しかし暴走状態だったためボロボロで使い物にならなそうである。
「使えそうなのは毛皮と門歯か、門歯の方は途中から切ればいいかな?毛皮かぁあーナイフも買っとけばよかったな、合成魔法で作るか・・ん?魔法?おお!」
対象のネズミを持ち上げながら右目に視界に映し出された情報を元に剥ぎ取る方針を決めていたのだが、俺はナイフ無しで毛皮を剥ぐ方法を思いついてしまった。
「ナイフが無ければ魔法を使ったらいいじゃない!んー妄想妄想・・・こんな感じ【剥げ】!」
思いついたら即実行、俺はネズミの毛皮がつるりと剥げる妄想をしキーワードを唱えたのだが・・。
「どうしてこうなった・・・」
そこには毛と言う毛が毛根から綺麗に抜けてスフィンクス(毛のない猫)もとい、毛のないネズミが出来上がってしまう。
「発想は悪くないはずだ、ただつるりと【剥げ】がハゲに繋がったのか・・おれは恐ろしい魔法を作ってしまった、これは世界中の悩める者達の為にも永久封印だな」
俺は自分で作った魔法の恐ろしさに身震いをしてしまい、この魔法の永久封印を誓ったのだった。とりあえずそれは置いておいて再度別のネズミで魔法を試す。
「次のヴィクティム(犠牲者)は君に決めた!妄想・・するりときれいに・・【剥ぎ取り】!」
俺が再度キーワードを唱えるとネズミの毛皮がするりときれいに剝れる、それは針で穿たれた傷口以外全く血が出ず綺麗な剥ぎ取り面だった、どうやら成功の様なので他のネズミや門歯にも試しに使ってみると根元でポキリと折れたのだった。
「よし、こんなものかな・・これ以上はかさ張るしなぁよいしょっと」
剥ぎ取ったものをまとめて風呂敷に包むと結構な重さになったが鞄に押し込むと嘘のように重さを感じなくなる、意外と荷物が入るこのかばんと今も着ているポンチョが一番貰って得したものな気がするのであった。
「これは元の世界に戻っても持ってたいなぁ返さないといけないのかな?」
そんな事を呟きながら軽い鞄を肩から下げ槍を右手に装備すると再度村への道を進み始めた、この先このような襲撃がない事を願いつつ・・。
俺はその日いつも通りに村の警備の為に東門に居た、仕事は午後からの担当だったので昼食をとって余裕をもって午前組と交代していた。
「今日はいい天気だな」
「本当だな、こんな日はのんびりしたいものだな」
俺の言葉に同僚のシュテンが伸びをしながら答える、どこか気だるげなのは昨日遅くまで飲んでいたせいだろう。
「そう言えばバウィンは知ってるか?なんでも王都の近くにアサルトボアが出たらしい」
「何!?本当かよ、最近ランクの高いヤツが多くなってるってのは本当なのか」
前から高ランク目撃情報の噂はあったがシュテンが話した内容にびっくりしてしまう、基本的に王都周辺や主要都市周辺は定期的な偵察や討伐が行われる為、滅多な事では大型の獣や魔物は出ない特に王都周辺は警戒が厳重なはずで王都周辺に出るのならこのあたりに出ても可笑しくないのだ。
「いやランク関係なく全体的に増えてるって話だぜ?」
「はぁせめて俺らの任期中は何もなければいんだけどな・・」
「今年までだもんな、そしたら今度はどこだろうな」
「さぁな?しばらく王都でそのあとはどっかの村か国境部隊か想像できないな」
シュテンの追加情報に頭が痛くなるのを感じて思わず愚痴をこぼしてしまう、今年までで我々の小隊はこの村『モトリ村』の守備任務を終え別の小隊に引き継ぐ、それまで何も無い事祈ってしまうのはしょうがない事であろう。
「王都に帰ったら何するよ?休暇溜まってるんだから遊ぶよな、付き合えよ?」
そんな事を話しながら時間は過ぎていって夕暮れ時、そろそろ日が落ちる日が落ちれば俺たちの今日の任務は終わり門を閉めた後に夜の担当と交代する。
「さてとそろそろ門を閉めるが、今日は特に何もなかったな」
「本当だよなだれも通らないってのも珍しい・・ん?」
「どうした?ん?」
俺たちは門を閉める為に門周辺の片付けと閉める準備をしながら話していたのだが、その途中でシュテンが何かに気が付いたようで街道の方に目を凝らしている、俺も片付けの手を休め同じように街道の方を見るとどうやら人影の様だ。
「遠くて良くわからんが本日午後の部初通過者のようだな」
「ああ、そうみたいだな・・ん?」
次第に近づいてくる人影にシュテンは門番の仕事の一つである門通過者の確認作業の為人影の方へ歩いて行く、しかし俺はその人影に違和感を覚えた。何故かそれはその人影は何か持っていたのだそれは。
「(武器?槍か、しかも抜き身で)ちょっと待てシュテン!そこの者止まりなさい!」
すでに近くまで来ていたその人物は、こちらの声に反応したのかその場で止まった、表情は陰って良くわからないがその姿は良くわかった。
「な、なんだお前!?血だらけじゃないか!」
シュテンが驚いた声を上げる・・そう血だらけ、黒い髪に焦げ茶色っぽいローブを着て肩から下げた鞄と反対側には、短めの槍を持っている。その槍は刃も柄も血だらけで槍を持つ手も血に染まっている、表情の分からない顔も頬に血しぶきが散った跡がある、ただ着ているローブには血らしきものは付いていないのが余計に違和感を呼ぶ。
「だいじょうぶか!?怪我してるのか?」
「シュテン!」
その人物の目の前まで行ったシュテンが心配そうに話かける。武器を構える様子は無いが用心することに越したことはないだろう、そう思った俺は腰に差した剣に手を添えると警戒しながら近づいて行ったのだが、
「だいじょうぶです、冒険者ギルド・・いやそれよりどこか洗い場はありませんか?」
「洗い場?ああ、井戸ならすぐそこにあるぞ?」
聞こえてきたのは疲れ切ったような覇気の感じられない声だったチラリと見えた表情も疲れを感じさせた。
「すまんバウィン俺案内するけどいいか?」
「あ、ああそうだなこっちの作業は俺がやっておく、それと後で話しを聞くがいいか?」
門を閉める作業を引き受け話を聞かせてもらわないとと思い、その人物に問うとやはり疲れた覇気の無い返事が返ってくる、
「あーはい大丈夫です」
「そいじゃ井戸はこっちだ付いてきてくれ」
俺がその返事を聞いてシュテンに向かって頷くとシュテンとその謎の人物は井戸に向かって行った、戦闘の意志は感じられないし危険な感じもしないが一体何があったのか気になるがそれも聞けばいいだけの事、そう考え直すと俺は門を閉める為の作業に戻ったのであった。
どうもユウヒです。現在私はモトリ村の警備兵詰所休憩室の椅子に座っています、そんな私の周囲は非常に慌ただしい空気に包まれております。
「おい!橋は上げるのか?」
「いや橋は上げなくていい、それより塀に穴が無いか再点検だ!」
そんな中、井戸を使わせてもらい血みどろだった体もスッキリしまして、え?なぜ血みどろだったのかって?それはですね。
「わかった何人か付いてこい!二手に分かれて点検するぞ!」
「「「了解!」」」
実は休憩場を出発してから今まで妙に敵対的な獣とのエンカウントが連続しまして、それを切り抜けた結果まぁ返り血を浴びてと言うわけなんですが。
「すまないユウヒだったな?俺はこの小隊の隊長で王国騎士のビスクと言う、疲れている所悪いが詳しい話を聞かせてもらっていいか?」
「あ、どうも冒険者のユウヒです。こちらこそなんだか俺の発言のせいで慌ただしくしてしまったみたいで?」
「いや、それだけ暴走したシリアルラットは厄介ってことさ」
そう、この慌ただしい空気を作った原因は俺が井戸でスッキリして一息ついたあと、最初に説明した暴走シリアルラットの話が原因なのである。その話を聞いたバウィンさんと言う警備兵の方は話し終わる前に立ち上がり走って行ってしまい、その数分後今のような状態になってしまったわけだ。
「あー確かにいっぱいいましたからねぇ」
「いっぱいか、どのくらいかわかるか?」
「そうですねー休憩場からこの村までの街道で7回は遭遇して」
ビスクが真剣な顔で説明を促すので俺は今日あった戦闘について説明し始めたのだが段々とその真剣な顔が崩れていく。
「な、に・・」
「どのグループも十匹以上居たし、簡単に計算して100匹は殺したのかなぁ?そのせいでこっちは返り血でどろどろですよ」
そうなのだ、街道で遭遇したのはシリアルラットだけでそれも単純計算で100匹そりゃー血みどろになってもしょうがないだろう、ただポンチョはその効果で血が付いた先から弾かれるので非常に綺麗なままでその下に入れていた鞄も難を逃れたのだった。
「まて、ちょっとまて・・お前王都方面の休憩場からここまで100匹もシリアルラットに遭遇したのか?」
「はい・・?」
そんな俺の説明に頭を抱え問いかけてくるビスク、確かに異常な数だろうしそれを倒した俺も異常かもしれないが事実である。
「で、それを全部倒したのか?」
「はい・・?」
「・・・・うそ、では無いのだろうなその顔は、しかしよく生きてたなそんな連戦で」
俺の返答にじっとこちらを見た後呆れたような顔で見てくるビスク、まぁ体力的にも魔力的にも特に問題無かったが流石にあそこまで血だらけになると鬱陶しくて疲れたな、そういえば気にしていた【身体強化】の反動だが特に今の所問題無いようで、流石は神様印の妄想魔法である。
「まーなんとかなりましたね」
「そうか、流石は冒険者だな・・しかしそれだけのシリアルラットが現れたとなると複数の群れで同時期に暴走しだしたかそれとも相当大きな群れか、とりあえずありがとう情報感謝する」
「いえいえ成り行きなので、そうだ宿取りたいんですけど場所知りません?」
こちらとしては、成り行きなわけで特に思う所は無いが感謝されるのは嬉しいものである、後はゆっくり休むだけと考えていたら宿をとらないといけないことを思いだした。
「・・そうだな、よし貴重な情報のお礼にタダで宿に泊めてやろう!なに気にするなどうせうちの予算から出すからなはっはっは!」
その言葉と共に俺はビスク引きずられるようにしてその場を後にしたのだった、ところで隊長殿が指揮しなくて問題無いのだろうか。
一方その頃グノー王都のとある屋根の上、そこには三つの人影が・・・。
「城で確認したでござるが、やはりユウヒ殿はすでに王都を発たれてござった」
「一足遅かったか、我々は未だに体術忍者と言うことか・・」
「由々しき事態だな・・?ところで王都を発ってどこにいったんだ?」
どうやら休みを貰いユウヒを探しに来た3モブ忍者のようで、ユウヒに一足遅れで会え無かったようである。そんななかヒゾウが最もな疑問を上げる、その疑問にゴエンモが急に顔をキリッとさせ話し始めた。
「・・実は拙者すごい情報を手に入れたでござる」
「「すごい情報?」」
そう言うとゴエンモは二人に耳を貸せと言うジェスチャーをしヒソヒソと話し始めるのであった。
「な、なんだって!?グノー学園都市だと!?」
「どう考えても美少女美幼女の楽園なのは確定的明らか!?」
「そうでござる!きっとユウヒ殿もこの情報を手にいれ学園都市に向かったのでござるよ!」
おお!流石我らが勇者ユウヒ!考えることが先進的!と騒ぎながら彼らの行動方針は決まったのであった、奇しくも彼らの斜め上を行く妄想はユウヒの行き先を正確に言い当てることとなったのであった。
「「「いざ!夢の桃源郷(学園都市)へ!!」」」シュシュシュッ!
「・・・・・」
夜の闇と冷めた目をした黒猫が見送る中、月を背にした黒い影達は王都の空を疾走するのであった。その胸にあらぬ妄想を抱きながら。
「・・・にゃー(・・・アホだニャ)」
どうでしたでしょうか?
誤字脱字に気をつけて何度も見直ししてるんですがよくそのまま寝てたりします今日この頃、風邪もよくなってきてますので更新スピード上がったらいいな(希望)
それでは次回もお楽しみにしてくれたら嬉しいですさようなら~




