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ワールズダスト  作者: Hekuto


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第百四十七話 悪? の哀れな最期

 どうもHekutoです。


 修正作業終わりましたので投稿させて頂きます。是非楽しんで頂ければ幸いです。




『悪? の哀れな最期』


 月より尚巨大な建造物に対峙するのは、一般的な成人より少し小柄な女性、互いにぶつかったとして普通なら建造物の圧勝である。


 しかし今、ユウヒ達の目の前で起きている現象は全くの真逆であった。女性、乙女が哂いながら手を振ると、一拍遅れてコプレスの要塞艦表面で大きな爆発が起き、乙女がくるりと舞う様に回りながら手を広げると、球体の表面を撫でる様に連続的な爆発の光が拡がる。


「あはははははは」

 乙女の攻撃は熾烈を極め、次々と分厚い装甲を剥されて行く要塞艦。その影響は本来振動を伝え辛いはずの空間でも強い衝撃を振りまき、イリシスタとステラの艦隊が守る様に布陣し始めたアミールの居住艦を揺さぶる。


「ゆゆ、ゆれる!?」

「ごごご、ございた!?」

「むぎぃぃ!?」


 船が揺れれば中身も当然ゆれるわけで、衝撃波の到達により激しく揺れる展望スペースでは、振動に抵抗するジライダが最初に転倒、さらにジライダの転倒時にひじ打ちを喰らったゴエンモはよろめくと、既に俯せで頭を手で守っていたヒゾウの臀部へ、自らの右ひじを落下方向の頂点として、重力加速度に任せて落ちていくのであった。


「これは、すごいぬお!?」

 一方ユウヒは嫌な予感を感じるまま伏せていたおかげで、無様な醜態をさらすことなく片膝立ちで耐えていた。しかし運命の女神はその姿に不満があった様で、縦の振動を急に横方向へと変えると、踏ん張りの効かなくなったユウヒを跳ね飛ばす。


「ユウヒさん! きゃ!?」

 飛ばされたユウヒに気が付いたアミールはすぐ動いてユウヒを助けようとするも、運命の女神の悪戯か、足下に転がっていた何かに躓くとアミールも前のめりに転倒してしまう。


「アミール君ぶ・・・!?」


「おお、これはお邪魔じゃったかの?」


「あら、アミールがんばってるわね嬉しいわ」

 丁度その時、居住艦を囲み特殊な結界を張る事で、衝撃波からの影響を軽減することに成功したステラ達は、アミールと話をすべく通信画面を開いた。


 しかし、目の前の光景に驚き言葉を失うステラと感心した様な表情のイリシスタ、そしてニヤニヤとした笑みを浮かべるフェイトの前では、


「・・・ぁ」


「す、すまないアミール」

 互いにぶつかり合い、それでも互いに相手を守ろうとした結果、ユウヒがアミールの頭を守るように手を添えて倒れ、ユウヒの下では咄嗟の事だったからか思わずユウヒを抱きしめてしまったアミールが、まるで今から逢瀬が始まるような体勢で、柔らかな絨毯状の床でユウヒを見詰めながら仰向けに倒れているのだった。


「ユウヒがラッキースケベってる!」

「ふむ、まだまだライトスケベだな」

「そうでござるな、まだまだ経験値が足らないでござるな」


 一方色々体が痛い忍者達は、うつ伏せの状態で頭だけを上げると、目の前で床に倒れ込み至近距離で見つめ合う二人の状況を的確に理解し、無駄に悟った表情で評価している。


「あ、あのユウヒさんごめんなさい・・・」


「いや、むしろ俺が悪いだろ・・・助けてくれてありがと」


「はい、お怪我はないですよね?」

 しかし、彼らの評価も通信画面からの視線と声も二人には聞こえていないらしく、互いに至近距離で見つめ合うと、その頬を赤く染めながら互いの無事を確認し合う。


 二人だけ見て居れば、今からラブロマンスが始まりそうな状況であったが、周りの状況からそれが無理なのは明らかで、その最たる存在は、


「アミールのおか「貴様僕のアミール君になんばしょっとかーー!!」げ?」

 少し起き上がり、照れた様な表情でお礼を口にしたユウヒの言葉を遮る様に現れた通信画面と、その空中を自由に動き回れる画面に映ったステラの鬼の様な形相と叫び声であった。


「・・・先輩」

 目の前に現れたイケメンにきょとんとした表情を浮かべ、アミールから離れるように起き上がるユウヒ、そんなユウヒの離れていく姿に少し残念そうな表情を浮かべたアミールは、目の前の人物を認識するとどこか暗く濁った色の瞳で見詰め、相手の敬称を恨めしそうに呟く。


「空気の読めんやつめ」


「ちょっと、今良いとこだったでしょう! 邪魔しないでよ!」

 さらにイリシスタの残念そうな視線と声に、さりげなく頬を赤くしていたフェイトからのお怒りまで受けるステラ。


「ええ! 僕が悪いの!?」

 予想もしない方向からの怒りに驚くステラは、周囲にきょろきょろと視線を彷徨わせ、その端正な顔を困惑に染めるのだった。


「なんだろう、あの人・・・不憫臭がする」

「奇遇でござるな、拙者もそう感じたでござる」

「イケメンなのにイラッとしないな・・・」


 その様子をうつ伏せのまま伺っていた三人は、ステラの状況に相手がイケメンにも関わらず、なぜか優越感を感じないことに不可解そうな表情を浮かべ首を傾げる。


「言っとくが僕は女だからな!」


「「「・・・なんだか急に可愛く見えて来た件」」」


 そんな三人の不思議そうな声が聞こえていたのか、勢いよく画面を忍者達に向けたステラは、溜まったストレスを吐き出すように叫び、叫ばれた忍者達は相手が女性であると分かった瞬間納得したように頷き、ポッと頬を染めると慈愛に満ちた表情でステラを見詰めた。


「っ・・・う、うるさいよ!?」

 三人の言葉に頬を引く付かせたステラ、すぐに忍者達からだけではなく周囲からも同じような視線を受けている事に気が付いたステラは、羞恥か怒りか両方なのか、顔を赤すると大きな声で叫ぶのであった。





 ステラが叫び、忍者が頬を染め、アミールが心なしかユウヒとの距離を近くしている事にフェイトとイリシスタがニヤニヤとした同じ表情で笑みを浮かべている頃、要塞艦の目の前に浮かぶ女性は、


「・・・なんだか、背中に疎外感を感じるのだけど」

 釈然としない表情で一人寂しくつぶやいていた。


「知るか! くそ、化け物め」

 独り言のつもりで呟いた言葉であったが、その言葉に反応してくれる人物も居た様で、彼女の目の前に現れたモニターには弛んだ顎を揺らしながら叫ぶコプレスが映し出されている。


「・・・まぁ褒め言葉ね、お礼に一気に逝かせてあげる」

 しかしその言葉に嫌そうな表情を浮かべた乙女は、満面の笑みを浮かべると瞳の奥で仄暗い怒りの感情を揺らし楽しそうな声で手を振るのだった。


「第30区画周辺消失!」


「第15区画消滅! 続いて第12第23区画も通信途絶!」

 その瞬間、爆発ではなく何かを磨り潰すような音が要塞艦内に響き、巨大な船の巨大な区画がまとめていくつも消失や消滅を起こし、報告をするコプレスの部下達の顔に絶望的な表情を浮かばせる。


「・・・乙女、恨むなら我を追いつめた自分を恨めよ」


「?」

 余裕の表情を浮かべながら傷一つ負う事無くコプレスを追いつめる乙女、その姿を歯ぎしりしながら睨みつけていたコプレスは、ドロドロとした恨みの籠った眼を彼女に向けると、今までと違う様子で乙女を睨みつけ、その違和感に乙女は首を傾げて見せた。


「秘匿第一第二射出口発射準備!」


「は、発射準備ぃ!」


「ゴミ諸共消滅しろ諸悪の根源! はぁっしゃあ!」

 眉を寄せて不思議そうに首を傾げる乙女に、コプレス自らの切り札を着る為に大きな声で指示を出し、その指示に応えた部下は手を震えさせながらも言われた操作を完了させていく。


「なに? 鈍いたま・・・あなた」

 コプレスの指示に従い現れたのは、直径4メートルほどの大きさをした二つの丸い砲弾の様なモノであった。それは乙女の前方に突然現れると、ゆっくりとした動きで彼女の、そしてアミールの居住艦を目指して進み始める。


「これがどういうことか、解っているの?」

 最初こそ、その遅い砲弾に首を傾げて見せた乙女であったが、何かしらの方法でその存在が何であるかを知ると、即座にその顔を険しく歪め今までと違う怒りに満ちた目で砲弾とコプレスを睨むのだった。





 コプレスが切り札を切ろうとしていた頃、ユウヒ達に微妙な変化が起きていた。


「お、探知の調子が戻ってきた」

 ユウヒの目の前でボロボロになって行くコプレスの要塞艦、そしてその姿に反比例するように調子を良くしていく【探知】の魔法。その調子も本調子に近い状態にまで改善されたのか、声を洩らすユウヒの視界では『邪魔者激減!』『スムーズな走査開始!』『見える! 見えるぞ!』などの表示が踊っていた。


「ジャミングが途切れたみたいですね」

 どうやら先ほどの磨り潰すような乙女の攻撃により、ユウヒの魔法を妨害していたジャミングも消滅したようで、ユウヒの魔法やアミールの見せるモニターに精細さが戻ってきている様だ。


「ボロボロでござるな、あのイゼル○ーン」

「あんな事出来る人をおちょくった過去の自分をビンタしたい」

「ビンタしたところでやっぱり言いそうな自分が怖い」


 より詳しく相手の様子が解るようになったことで、コプレスの要塞艦の被害もより詳細に解る湯になり、その情報を見ていた忍者達は自分たちの行いに恐怖し、また同時にどうしようもない事であることを悟り、何とも言えない表情を浮かべている。


「言いそうだな、ん? 丸い砲弾?」


「なんでしょうかあれ?」

 忍者達の様子に苦笑を洩らしていたユウヒは、様々な情報を表示し続けるモニターに現れた新たな映像を見つけると、目を凝らして丸い球体を見詰め、その様子にアミールも首を傾げて見せた。


「えーっと、なになに? 対界用多次元崩壊爆弾『ワールドボム』?」


 モニターに映る球体を右目の力で解析するユウヒ、ジャミングの影響で右目の力も妨害されていたユウヒであったが、その妨害も弱まった今なら球体の謎も解ける様で、ようやく表示された内容を読み上げるユウヒ。


「おい待て」


「ユウヒ君や、今なんと」

 しかしその読み上げられた言葉を聞いた管理神達は表情を凍り付かせ、モニターを見詰めるユウヒに真剣な顔で声をかける。


「え? あぁワールドボムって書いてあったから読み上げたんだが・・・なんぞこれ?」


「それは本当なのですか!?」

 真剣な目でユウヒを見詰めてくるステラとイリシスタに、若干腰が引けながらもそう説明すると、頭を抱えだした二人に変わりアミールが驚きの声を上げた。どうやら『ワールドボム』と言う割とありそうな言葉は、その手軽なネーミングに反して非常に厄介な物のようだ。


「お、おう? 詳しい内容はまだ見てないけど【ワールドボム】って書いてある。あれ? 詳細が出ないぞ? 魔力の籠め方が悪いのかな・・・むむむ!」

 アミール達管理神の様子に首を傾げながらも、再度球体に目を向けたユウヒ。しかし彼の目の前には、妨害が無くなったことで荒ぶる【探知】の魔法による表示、それと一緒に表示されるはずの右目による詳細な表示がなされていなかった。


「・・・そうね、奴らが持っていてもおかしくないわね」


「そんな、今から避難しても・・・それにこの世界が」

 ユウヒが気合いを入れて目に魔力を満たしている一方、『ワールドボム』について詳しく知るフェイトは、驚きながらもこの場に存在する理由に見当がついているらしく、納得したように頷き、蒼い表情で目を白黒させるアミールに優し気な視線を向けている。


「おや? 何やら不穏な空気だぞ?」

「かなりまずい感じだな」

「避難が必要なレベルでござるか、もしかしなくても拙者等死んだ?」


 ユウヒの一言から俄かに騒がしくなり始める周囲と通信画面の向こうの状況に、事情を把握できていない忍者達も、雰囲気で良くないことが起きたと察する。しかし詳しい内容が分からない為、床に座って互いに話し合う彼らは、傍目から見ると割と余裕があるようにしか見えない。


「えーっと、世界一つを原料にしたばく・・・はい?」

 そんな忍者達が情報を求め、ようやく詳細を見ることが出来たらしいユウヒに目を向けた瞬間、


「アミール、ちょっと彼氏借りてくわね?」

 三人の目の前で、いきなり現れた乙女によりひょいと脇から手を入れられ持ち上げられるユウヒ。


『乙女様!?』


「「「ふお!?ユウヒが軽々と!?」」」


 何が起きたのか把握できていないユウヒは、宙に浮いている乙女の細腕で軽々と持ち上げられた状態で、きょとんとした表情を浮かべており、その姿に驚いたアミール達管理神と忍者達はそれぞれ別の意味で驚き声を上げるのだった。


「流石にちょっと厳しいから手伝ってもらうの」


「ちなみに拒否権の方は?」


「無いけど、手伝ってくれたらご褒美あげちゃう」


「ガンバリマス」

 背後から胸にまわされた細い腕と、背中に感じるほど良い感触、さらに耳元から聞こえてくる声と甘い香りに、自分の状況を理解したユウヒは、目の前で困惑するアミールや驚く忍者達を見ながら背後の乙女に問いかける。


 問いかけられた乙女はユウヒの希望を切って捨てると、しかし鞭の後の飴なのかユウヒの耳元で囁くようにご褒美がある事を告げた。普通の女性にそんなことをされれば喜ぶところだが、相手が乙女だと恐ろしい想像しかできず、思わず恐怖で片事になるユウヒ。


「・・・あら? ふふふ、それじゃねぇ」


 ユウヒの反応に釈然としない表情だった乙女は、ふと顔を上げるとアミールが困惑しながらも頬を赤くしている事に気が付き思わず笑ってしまう。しかし彼女自身時間がない様で、その事に関してアミールを弄ることなくユウヒ共々姿を消してしまう。


「ちょっとま、行ってしまいました・・・」


「勇敢なる我らが同士である勇者ユウヒに、敬礼!」

「「ビシ!」」


 その場に残ったのは、慌てて駆け寄ったものの間に合わず、心配そうな表情を浮かべるアミールと、モニターに映った乙女とユウヒに気が付いた忍者達による、見送りの敬礼であった。


「・・・乙女、何を考えているの?」

 モニターの前で忍者達と共にユウヒを見守るアミール達、その後ろでは通信画面に映ったフェイトが訝しげな表情で小さく呟いていた。





 一方連れ去られたユウヒはと言うと、


「どお? 良い眺めでしょ?」


「ハイ、クウキトカ、アルンデスネ」

 乙女の手から離れると無重力空間で胡坐を掻いて固まっていた。


「もっとリラックスしなさい? あなたには怪我一つさせないから」


「はい」

 明るい宇宙にしか見えない空間で空気が吸えると言う非日常の塊に、驚きと恐怖で思わず片事になってしまうユウヒは、頭に僅かにかかった重みと細く小さな感触が乙女の手だと認識すると、彼女の言葉を信じようと思ったのか肩を落としながらも返事を返す。


「貴方にやってほしいことは魔力の放出だけ、その代わり全部出し切る感じでお願いね?」


「えーっと、はい・・・ガンバリマス」

 そんな乙女がユウヒに求めてきたことは、どうやら自分の魔力タンクとして魔力供給源になれと言う事の様だ。いままで慎重を期し自分の中の魔力を出し切る行為などやろうとも思わなかったユウヒは、初めて行う全放出と言う状況に若干の緊張を覚えていた。


「ふふ、死んだりしないから大丈夫よ」


「・・・でも、なんで俺なんでしょうか?」

 しかしそれでも、乙女が大丈夫だと言うのであればそれを信じる事にした様で、心配よりも疑問をぶつけてみる事にしたユウヒ。それもそうであろう、神様すら恐れる相手がなぜ人である自分に手伝いを求めるのか、ユウヒには理解しがたい事柄であったからだ。


「うーん・・・うん、その事もあとで説明してあげる。先ずはあれをどうにかしないとね、はい始め」


「うっす!」

 一方ユウヒに問いかけられた乙女は、人差し指を自分の顎に当てて首を傾げると、にこっと聞こえそうな笑顔を浮かべて説明を後回しにして、手を叩きながらユウヒに魔力の供給を要求する。


 まるではぐらかす様な行動であったが、そういうつもりがなさそうだと感じたユウヒは、気合いの籠った返事を返すと、全力で魔力を放出し始める。


「あらあらすごいすごい! あなた素質あるわよ?」

 ユウヒから溢れる膨大としか言いようのない魔力に燥ぐ乙女と、ユウヒがはぐらかす気がないと思った一つの要因が周囲を明るく照らす中。高出力のビームやレーザー、巨大なミサイルの爆炎からユウヒを守る乙女は、ユウヒからの魔力を受け取り始めると満足そうに頷き、ゆっくりと近づいてくる二つの球体を見詰めるのであった。





 一方ユウヒを見守っていたアミール達は大混乱であった。


「ユウヒさんからすごい量の魔力が・・・」


「何よこの量、まるで星・・・いや、まさかこれは・・・!?」

 何故なら人の体から神すら驚愕する量の魔力が次か次へと溢れてくるからだ。ぽかんと口を開けて顔を蒼くするアミールの隣では、ようやく乙女がユウヒを選んだ理由に合点が行ったフェイトが、しかし同時にユウヒの魔力に納得のいかない表情を浮かべている。


 しかしそれも束の間、すぐに何かに気が付くと顔を上げて今度こそ驚きの表情で動きを止めた。


「ん・・・?」


「これは、アミールちゃんよいかの?」


「はい?」

 一方何かに気が付き始めているステラを他所に、フェイトと同じ考えに至ったイリシスタは一番何か知っているであろうアミールに声をかける。


「ユウヒ君の体に何かしてあげたかの? 加護とか」

 きょとんとした表情で振り返ったアミールが問われたのは、ユウヒに何かしらの加護を与えなかったかと言う内容であった。


「え? はい、先輩からもらった道具で加護を与えましたけど」


「ほう、そうかそうか」


「・・・え、まさか」

 問いかけられたアミールは少し驚いた様に目を見開くと、正直に頷いてとある道具でユウヒに加護を与えたと言う。その言葉に笑みを浮かべて頷くイリシスタに、アミールはユウヒに魔力関係の加護を与えたことを思い出し、同時に与えた加護ではこんな魔力出ないはずだと首を傾げる。


「ぁ・・・え? うそ? いやいや・・・ん? そんなことが・・・いやあり得ない・・・」

 そんなアミールと違い何か心当たりがあるらしいステラは、顔を蒼くし対照的にダラダラと汗を流すと、ぶつぶつと人に聞こえない声を洩らしていた。


「姉上、ちょいと尋問の手伝いを頼めるかの?」


「あら奇遇ね? 私も頼もうと思ってたの」

 ステラの姿にジト目を向ける周囲の者達、そんな視線に気が付かず顔を蒼くする彼女の姿を見て、イリシスタが溜息を吐きながら姉に声をかけるとフェイトは綺麗な笑みを浮かべて通信画面ごと姿を消す。


「は!? 殺気!」

 それとほぼ同時にステラの映る通信画面には、ゴスロリと言われる衣装を着た人影が彼女の後ろに現れ、次の瞬間にはステラも通信画面ごと姿を消すのであった。


「・・・消えたな」

「消えたでござるな」

「何が起こっているのか怖くて想像もしたくないお」


 いつの間にか消えていたイリシスタの通信画面も合わせて三人がいなくなったその場では、忍者達が何かを察したような表情で静かになった部屋に薄ら寒差を感じ背中をふるえさせている。


「あの、何があったんでしょうか?」


「「「・・・さぁ?」」」

 またアミールも何か言いし得ぬ不安感を感じたらしく忍者達に問いかけるも、彼ら自身アミールと同じ状況である為、首を傾げるほかないのだった。





 忍者と女神が互いに首を傾げ合う奇妙な空間が出来上がっている一方で、


「いいわよユウヒ君! そのまま魔力放出させててね!」


「うっす!」

 ユウヒは依然と魔力を放出し続けていた。


 どうやら最低限必要な魔力は達成できている様だが、安全の為にまだ魔力を用意しないといけないようだ。攻撃のために構えた乙女の後ろでは、明らかに減っていく魔力に戦々恐々としながらも、同時に回復し続ける魔力の感覚に、自分の体ながらユウヒは驚きを隠せない表情を浮かべている。


「さぁ消えなさい、愚かな神の遺産よ【還元しなさい】」

 構えを取ったまま笑みを浮かべた乙女、彼女が手を前に突き出し魔力の籠った声を出した瞬間、彼女の手から目にもとまらぬ速さで何かが飛び出すと、二つの球体を挟み込むように真っ黒な光が渦巻き始めた。


「おお!?」


「ふふ、綺麗でしょ? あれはこの世界の根源、世界になる前の純粋で高次元なエネルギーよ」


「見てるだけで吸い込まれそうな気分になりますね」

 広く大きく渦巻く円錐状の渦の中には、まるで命そのものの様な輝きが無数に存在し、その輝きが球体に接触するたびに、『ワールドボム』の中から何かが抜け出ていくのが見える。


「それはそうよ、あの姿こそ存在が最も安定する状態だから本能とかそういうレベルで引き込まれるの、でもあなたは還っちゃダメよ? まだまだ手伝ってもらうんだから」


「あ、はい・・・」

 思わずその光に意識を吸い込まれそうになるユウヒであったが、両肩を乙女に掴まれるとすぐ正気に戻り、同時に後頭部に感じる柔らかな二つの曲面に顔を赤くすると小さく返事をするのであった。


「ふふ、良い子良い子・・・あなたもこのくらい良い子ならよかったのにね」

 態とか偶然か、それとも気にすらしていないのか、自らの胸にユウヒの頭を抱いて彼の頭を撫でる乙女、その行為にユウヒが絶えるように固まっていると、乙女は何もない空間に声をかける。


「何が良い子だ!」

 そこに現れたのは通信画面越しに弛んだ顎を揺らすコプレスであった。


「良い子は良い子よ? 私の子供たちは皆良い子ばかりなのに、どうしてその後は続かないのかしらね?」


「え? さぁ?」

 コプレスの怒りに染まった赤い顔を見て不満そうに頬を膨らませる乙女。そんな彼女はユウヒの肩に手を置きながら疑問の表情で彼に問いかけるも、問いかけられたユウヒは首を傾げるほかない様だ。


「だいたいだな貴様、その小僧に何をした! どう考えても人の、いや神だとしてもその魔力は異常だ」


「私じゃないわよ? アミールのおっちょこちょいが出ちゃったみたいね」


「むぁたかぁ・・・あの小娘今度は何をやりおった!」

 場違いな様で居心地悪そうなユウヒの前で、乙女とコプレスの話はヒートアップしていき、その矛先はユウヒにも飛んできたが、アミールの名前が出ると急にコプレスは頭を抱えすぐに怒りの表情で叫び出す。


「また・・・今度・・・」


「ユウヒ君は勘が良いわね、あの子って結構抜けてるところがあってね? まぁあの子だけの責任ではないのだけどよくやるのよ」


「おっちょこちょい?」

 二人の会話の中で出てくる言葉になんとなく状況を察し始めたユウヒに、乙女は苦笑を浮かべた表情で説明を始める。そう、コプレスがアミール毛嫌いする理由は、アミールが度々引き起こしていた、乙女の言う『おっちょこちょい』のせいであった。


「おっちょこちょいで済むか! アイツのせいで私がどれだけ苦労したか!?」


「あなたが自分から抱え込んだんでしょうに」


「ぐっ・・・」

 しかし、それらも含めて自らの野心の為にアミールと言う爆弾を抱え込んだのは、乙女の指摘に表情を歪めるコプレス本人である。


「おう、ぐうの音も出ないな」

 そのあまりに見事に言葉を詰まらせる姿を見て、ユウヒは妙な関心を示し、さらにコプレスの表情を歪めるのであった。


「そうね、あの子は策士策に溺れたのよ・・・暗躍好きもほどほどにしてもらいたいところだけど、まぁ更生所に入ってもらいましょう」


「だ、誰があんなところに!?」

 ユウヒの言葉で何も言えなくなったコプレスにため息を吐いた乙女が、呆れた様に話しはじめ『更生所』と言う言葉を使った瞬間、それまで真っ赤だった顔を蒼くしたコプレスは後ずさる。


「うっふーん、残念もう手遅れよぉん?」

 しかし後退ったコプレスを待っていたのは、ごつごつとした太い筋肉で出来た黒光りする腕による拘束と、耳元から聞こえてくる野太い男の声であった。


「貴様何を!? お前らこいつを捕まえ・・・は?」


「あら? 内部に工作員も居たのね」


「え?」

 両腕ごと体をがっちり拘束されたコプレスは、異常事態に周囲の人間を呼ぶも、そこにはすでに気を失ったり拘束された部下たちと、白い制服を着た見知らぬ人間達が居るだけだった。


 どうやら彼ら彼女らは今回コプレスを捕まえるために投入されたイリシスタ側の工作員らしく、驚いた表情を浮かべる乙女の言葉に、ユウヒは彼女が内部工作員の事を知らずに攻撃していた事実を知り、大きく見開いた目で思わず彼女を見詰めていた


「そうなのぉ、だからこれ以上の破壊は止めていただけますか乙女様」


「しょうがないわね、ちゃんと捕まえてよ?」


「は! 更生所副所長の私が責任をもって送り届けます!」


「よろしく~♪」

 ユウヒに見つめられてなぜか照れた様に科を作った乙女は、筋肉お化けと言われても可笑しくない肉体を持つ更生所副所長と言う男性に後をお願いすると、急に声色を変えた男性の体に女性の心を宿した人物に手を振る。


「ひ!?」

 その様子をいろんな意味で呆けた表情を浮かべたユウヒが見ていると、その事に気が付いた副所長はユウヒに向かってウィンクを飛ばし、そのあまりの悍ましさにユウヒは聞いたことのない悲鳴を上げて乙女の後ろに隠れるのだった。


「ひぃ! 嫌だ! 止めろ離せ!?」


「あらぁんそんなに暴れて刺激するなんて、誘ってるのね? ・・・じゅる」


「ひ・・・い、イヤァァァ!?」

 乙女の後ろに隠れるユウヒの目の前では、副所長に拘束されたコプレスが最後の足掻きをみせるも、なぜか腰を突き出し始めた副所長の声に絶叫を上げると、泡を吹いて気絶する。


ユウヒはあまりの光景に怯えながらも、コプレスの冥福を祈るほか無く。アミールの下に戻るまで、彼は困った様な微笑みを浮かべた乙女に励まし続けられるのであった。


 ちなみに、これらの映像はアミール達は見ることが出来ず、突然モニターが綺麗な絶景を映し出しはじめ忍者とアミールを困惑させていたが、どうでもいい話かもしれない。



 いかがでしたでしょうか?


 どんなに強い精神を持った者でもあれに勝てない様ですね。このままラストまで頑張りますのでお付き合いください。


 それではこの辺で、またここでお会いしましょう。さようならー

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