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ワールズダスト  作者: Hekuto


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第百四十五話 境界の乙女 前編

 どうもHekutoです。


 修正作業等終わりましたので投稿させて頂きます。まったり楽しんで頂ければ幸いです。



『境界の乙女 前編』


 地上でユウヒのネーミングセンスが忍者達の駄目だしを受けている頃、アミールの仕事部屋が存在する閉鎖空間と言う広大な空間では、ユウヒ達の目の前以上に未来的な戦闘が行われていた。


「SS三番艦に被弾、左舷砲塔で爆発!」


「だっからなんでうちの艦ばかり狙ってくんのさ! 四番艦前へ三番艦の後退を支援」

 空想上に出て来るような様な巨大な戦艦を中心に、大小様々な戦艦が球形の戦列を組む中、どこから攻撃を受けているのか二つある戦列の内何故か片方にだけ、あちらこちらで火の手や爆発が起っていた。


 その戦列の中心にある戦艦の中では、艦隊の長であるステラが悔しそうな声を上げている。この艦隊は中央の巨大戦艦以外は無人艦であり、すべては彼女達の乗る艦からコントロールされていた。


「次元弾の接近を感知! 発射元特定出来ました!」


「良くやった! 聞いたな? 全艦目標地点に集中攻撃開始! 三番艦無理するなよ」

 一方的な攻撃を受けているように見えるステラ達であったが、彼女達が何もしていなかったわけでは無い。


 複数の次元や空間を折り重ねる様にして作られている閉鎖空間内に攻撃するには、本来なら折り重ねられた複数の次元を全て突破しなければいけないのだが、それらの技術を持っている管理神には外側から攻撃を加える方法も存在する。


「見つかったようじゃの?」

 それは最も内側にある強固な次元の外まで侵入し、そこから特殊な砲弾で攻撃を加えるアウトレンジとも言える方法なのだが、この方法には一つ欠点があった。


「イリシスタ様やりましたよ! 今度は外れじゃないです」


「その様じゃの、出来ればもちっと早くやって欲しかったところじゃが・・・出て来おったな」

 その欠点とは、折り重ねられたパイ生地の薄皮を一枚めくる様に、次元の壁に傷を入れる事で隠れていた次元から強制的に内側に引っ張り込まれる事である。そんな風に一度引き込まれれば、外に逃げる事は困難であり、その捲る場所を探す為にステラ達は一方的な攻撃に耐えていたのであった。


「・・・あれがAの氏族所有の要塞艦ですか」

 ステラ達の集中攻撃、実に地球の地表を二桁は焼けそうな火力を持って引っ張り出されたコプレス達、爆発により生まれた粉塵の雲を突き破り出て来たのは、地球の衛星である月よりも大きな球体であった。


「艦と言って良いのか解らんが、悲劇の遺産をサルベージして改修したようじゃな」


「・・・」

 ステラ達の戦艦が可愛く見えるコプレスの要塞艦、その艦にはなにやら曰くがあるらしく、溜め息交じりの声を洩らすイリシスタも黙り込むステラも、また周りで息を飲んでいる乗組員も一様に表情が暗い。


「・・・ふむ、さてさて引き籠りを引っ張り出したはいいが、どうするかの?」


「そうですね、破壊するのが一番なんでしょうけど・・・難しいですよねぇ?」


「難しいと言うより無理じゃな、元のままならまだしも・・・色々手を加えておるじゃろうしのぉ」

 周囲の重くなる空気に困ったような笑みを浮かべたイリシスタは、少しだけ大きな声で肩を竦める。その言葉は場の空気の入れ替えの意味もあったが、それと同時に言葉通りの意味も含んでいた。


 目の前に存在する巨大すぎる物体は、彼女達の知る限り大きさもさることながら装甲もまた分厚く、生半可な攻撃では貫くことは出来ない様で、さらにコプレス達が手を加えているならばその防御性能は計り知れない。


「内部破壊も無理って連絡在りましたし」


「いくらあやつが無事でもほかはのぉ・・・ん? 外部からの通信?」

 また内部に侵入している仲間からも、内部からの破壊は無理だと言う連絡が入っている、その為目の前に引き摺り出したは良いが、予想以上の難物に一同は揃って難しい表情を浮かべる。そんな重苦しい空気を再度打ち払ったのは、イリシスタのコートから聞こえて来た電子音の音楽であった。


「え? 作戦中なのに封鎖してなかったんですか?」

 どうやらそれはイリシスタの携帯電話からの様で、古めかしいデザインの折り畳み携帯電話を取り出したイリシスタは、驚くステラの前で携帯を開く。


「いや、これは姉上からじゃから無理矢理、もしもし姉上? どうし「あんたすぐに其処から逃げなさい!!」は?」

 しかし、それは見た目こそ一時期流行った折り畳み式携帯ではあるが、その中身はスマホですら追いつけないハイテクの塊であった。イリシスタが慣れた手付きで携帯を開き現れたのは、空中に浮かび、どの位置から見ても同じように見える立体映像、そしてその中に映し出されたのは切羽詰った表情のフェイトの姿であった。


「へ?」


「そこのあんたも! さっさと逃げないとやばいのよ!」

 電話をかける時の常套句も無く、またイリシスタの声を遮る様に叫ばれた言葉にキョトンとした表情を浮かべるイリシスタと、呆けた声を洩らしたステラ。イリシスタだけでは無くステラの存在にも気が付いたフェイトは、その表情のままやはり切羽詰った様な声を張り上げるのだった。





 一方その頃、引き籠りと呼ばれたコプレスはと言うと、


「温い! 温いぞ! 暴き出した程度で勝ったつもりか! 全砲門攻撃開始しろ!」

 自分達を暴きだしたにも関わらず攻撃を始めない艦隊に向かって怒りの籠った言葉を、飛散する唾と共に吐き捨てると、即座に攻撃の開始を告げる。


「一番から六万二千十一番まで全砲区画攻撃開始!」


「ふはは、なんと美しい光景だ・・・このままこの閉鎖空間諸共ゴミを焼却してやる!」

 コプレスの号令と共に忙しなく動き出す部下達、そして部屋の中に聞こえて来る重い物が駆動するような重低音や高速で回転する歯車の様な甲高い音。それらの音をまるでオーケストラの演奏を聞く様な表情で楽しんでいたコプレスは、モニターに映る自らの居城が変貌していく姿を見て優越に表情を歪める。


「第一陣、空間跳躍弾頭の到達まで残り10秒!」


「ふ、どれもこれも我一族の力で強化してあるのだ・・・これだけで終わるかもなぁ? ふ、ふはははは」

 さらに聞こえてくる声にこの先の未来を想像したのか、一族の技術の粋を詰め込んだ兵器群の花開く瞬間を待ち遠しそうに口元を歪め、我慢しきれずに攻撃が着弾する前に笑い声を上げるコプレス。しかしその優越の時間は短いものであった。


「く、空間跳躍弾頭が位相空間内で爆発! ぜ、全弾消失しました」


「ははは・・・はぁ?」

 慌てた様な部下の声に笑い声を驚愕の声に変えた彼は、椅子の上で前のめりになりながら目の前のモニターを注視する。


「通常空間外でだと、ばかな!?」

 すると部下の男性が口にしたように、空間跳躍弾頭と言われる敵に向かってワープする兵器が、特殊な空間から出てくる事無く、破壊されたことを示す『LOST』の文字で、発射した数と同じだけモニター上に表示されていた。


「つ、続いて第二陣の光学兵器群の攻撃も・・・次々にロストしています」

 この感覚がおかしくなるほど広大な空間では、海上での魚雷とも言える空間跳躍弾頭がもっとも早く着弾し、その後に光学兵器群の攻撃が続くのだが、第二陣として突き進んでいた膨大な数の光はステラ達の艦隊へたどり着く前に次々と消失していく。


「おのれ小娘なにをした!」

 まるで元からそこになかったかの様に消失していく光の線に、コプレスは顔を怒りで真っ赤にしながら、原因と思われるアミールに対し感情のまま叫ぶのであった。





 そんな戦いの少し前、駄目出し後も地上で爆弾とロボットの雨に襲われていたユウヒ達はと言うと、


「全敵の排除を確認、脅威となる存在確認されず。ミッションコンプリート、マスターお疲れ様でした」

 多少の焦げ跡こそ見当たりはするも、傷一つないボディに太陽の光を鈍く反射させた二号さんから戦闘終了の報告を受けていた。


「お疲れさま、と言っても俺は隠れていただけなんだけどな」

 ユウヒの周りに集まるゴーレム達は、それぞれに労ってくれるユウヒに目を向け瞳のライトを瞬かせながらも、武器を構えたまま周囲を警戒している。


「・・・酷い有り様だな」

「クレーターどころか一部地面が溶けているでござる」

「その割に教会と石碑は無事とか・・・」


 そんなユウヒの後ろでは、物理的な要因によりに小高くなったばかりの丘に登った三人の忍者が周囲に目を向け、驚きながらもなぜか無事な神殿と石碑の姿に呆れた様な声を洩らす。


 どうやら彼らの中では、この世界の神殿とユウヒの作った物は未来でも通用する耐久度があるように思えた様だ。


「マスターのにお・・・活動の反応がありましたので、重要拠点と認識し守らせましたが・・・ダメだったでしょうか?」


「え? あぁむしろありがたいかな、良くやった!」

 しかし実際には二号さんの指揮の下で戦ったゴーレム達の細心の注意により無事だっただけの様で、その報告を聞いたユウヒは一瞬きょとんとしながらも、あの激戦の中でそこまで考えて行動してくれた彼女達に心の底から感動したようで、明るい表情で彼女たちを褒め称える。


「!! お褒めに預かり光栄ですマスター」

 ユウヒの言葉に一瞬固まった二号さんであったが、すぐに首を垂れると臣下のようにひざを折り頭を下げた。ユウヒから見えないその瞳はショッキングピンクに輝いており、周囲のゴーレム達もピンク色の光を目に灯しており、どうやらその目の光は彼女たちの感情で色を変える様である。


「おい、今匂いって言わなかったか?」

「犬でござるな」

「有能な指揮官んぽいが・・・中身は怪しいな」


 彼女たちの活躍にユウヒが嬉しそうな笑みを浮かべる一方、忍者達は彼女の言葉に含まれた可笑しな部分を聞き逃すことなかったようで、一見有能な二号さんの内側にある本性に生暖かい視線をおくるのだった。


「しっかし穴だらけになったなぁ・・・整地するのは一苦労どころじゃねぇぞ? まぁ元から廃墟ではあったんだろうけど」

 一方ユウヒは、そんな二号さんの本性に気が付いていないようで、熱い視線に気が付くことなく周囲の状況に目を向け、その有様に困った表情で腕を組んでいる。


「あぁ・・・私とユウヒきゅんの村が」


「マスターの?」


「なんで俺も入ってんだよ」

 その隣では、村があったと言う痕跡すらなくなってしまった神殿の周りの状況に、ラビーナが悲しそうな表情で項垂れていた。しかしそんな彼女の言葉にゴーレム達は揃って反応を示し、ユウヒは呆れた様にラビーナの方に振り返る。


「え? だってここは元々私の信者さんの為に作った村なんだから、私もだけど当然たった一人の信者であるユウヒ君の村でもあるんだよ?」

 元々、カレル村と言うのは女神ラビーナの信者が作った村であり、女神ラビーナを祀るための村であった。しかし今では彼女の信者はユウヒだけになってしまい、そういう意味ではこの村がユウヒの村、と言う事も出来ないわけではない。


「なるほど!」


「そこ納得しない」


「いや! むしろ私にはもうユウヒ君しかいないんだから、ここはユウヒ君の村で良いんだよ!」


『おお!』

 むしろ、妙な納得を示す一号さんにツッコミを入れるユウヒの後ろでは、テンションが上がってきた神様自らがユウヒの村だと認めてしまっており、その言葉に周囲のゴーレム達は驚きと歓喜の声を上げる。


「土地持ちから村長への大躍進だな! やったねユウちゃん!」

「むしろここは領主まで一気に駆け昇るでござるな」

「と言うよりこの国って治める王様がもういないんだから・・・いっそ王様でよくね?」


 また空気を察した忍者達は、口元を楽しそうに歪めると悪乗りを開始したようで、周囲の空気を悪魔のささやきを持て煽り始める始末。


「うぉいちょっとま「それいいね!」まてい!?」

 忍者達の明らかに悪意の籠った声にユウヒが慌てて振り返るも時すでに遅く、忍者達の言葉に同意したラビーナの長い耳には、すでにユウヒの制止は聞こえていない様である。


「ここを中心にユウヒ君の国を、そして私はその国を守る美しい女神! 良い、良いよそれ!」


「ちょ、まてって!?」


「は! こんなことしてられない! すぐにこの国の中心となるユウヒきゅんと私のあいのsげふん! 象徴となる中心的な場所を作らないと!」

 一度上がり始めた兎神のボルテージは忍者達の煽りが無くとも勝手に上がっていく、またその声は周囲のゴーレム達のテンションを引き上げた様で、暗躍していた忍者達とゴーレムを引きつれラビーナは走り出してしまう。


「だからちょとま「ユウヒさん無事ですか!」うお!? アミールか・・・」

 思わず呆気にとられそうになったユウヒであったが、すぐに我を取り戻すと制止するべく足に力を入れる。だがユウヒの行動に対する横やりは思わぬところから飛んで来たのだった。


「ど、どうしたんですか? そんなに疲れた顔をして・・・は! 何かあったんですね!」

 それはやっとのことでユウヒとの回線を普及させたアミールである。


 目の前に現れたアミールの顔に驚き足を縺れさせ躓いたユウヒに、アミールは心配そうな声かけるも、ポンチョ以外の部分があちこち薄汚れたユウヒの姿に、戦闘が始まってから途切れた映像の後に何かあったのだと察すると、ユウヒの周りをモニターでまわって心配そうに気遣い始める。


「え? まぁあったと言えばあったが、疲れている理由は奔放すぎる神のせいと言うか」


「・・・すいません。私がもっとしっかりしていればこんなことにならずに済んだのですよね」

 そんなアミールに首を傾げたユウヒは、遠くに走って行ってしまった兎神に目を向けるとそう愚痴を洩らす。しかしその言葉を聞いたアミールは、ユウヒがコプレスの攻撃で迷惑を被り疲れているのだと勘違いした様で、目に見えてその表情を落ち込ませると、申し訳なさそうにユウヒへ頭を下げて見せる。


「ええ!? アミールは何も悪くないから!」


「・・・ありがとうございます。やっぱりユウヒさんに出会えたのは幸運でした」


 目の前でいきなり落ち込み始めたアミールに驚いたユウヒは、慌てて彼女に向き直ると状況が呑み込めないながらもアミールを責めるつもりがなどないことを全身でアピールし、その姿にアミールは笑みを浮かべる。


「うん? よく分からんが、まぁ俺もアミール会えてよかったけどな」

 表情が戻ったことにホッとしたユウヒは、自然と力の入っていた肩から力を抜くと、少し背を丸めて首を傾げ、何でもない様な表情で本音を洩らすのであった。ここにもし忍者達が居合わせて居れば、今頃ユウヒは彼らの格好の標的になっていただろう。


「・・・・・・は! そんな事より今は急いでいたのです」


「むしろそっちで何かあったのか?」

 ユウヒが何気なく洩らした言葉に顔を赤くして固まっていたアミール、しかしモニターの向こうで振動音が聞こえたかと思うと正気を取り戻したように話し始め、いつも以上に感情の動きが激しい彼女の様子に、ユウヒは不思議そうに問いかける。


「はい、以前話したくそむs・・・屑上司がちょっかいを掛けてきまして」


「アミール殿の毒舌は今日も鋭利でござるな」


 ユウヒの問いかけに黒いオーラを漂わせたアミールは、少し言葉を選びつつ答え始めた。丁度そこへ戻ってきた忍者達であったが、戻って来て早々にアミールの毒を聞いてしまい、ゴエンモは思わずそう呟いてしまう。


「戻って来たのか?」


「そりゃあなぁ? あんな巨大兵器と凶暴兎が暴れてる場所に居たら命がいくつあってもたりねぇぜ」


「・・・あれ、何やってんだ?」

 ラビーナと共に駆け出して行った忍者達であったが、どうやら色々あって戻ってきたようである。その理由は、ユウヒが目を向けた場所で暴れているようにしか見えないオレンジ色の巨剣を持ったラビーナと、地面に重い足音を響かせているゴーレム達の姿に命の危険を感じたための様だ。


「ん? ユウヒの家を建てるとか言ってたぞ?」


「マジで?」


「「「超マジで」」」

 なぜそんなことを神殿の前でやっているのかと疑問の声を洩らしたユウヒに返ってきたのは、忍者達の同情と言う生ぬるい感情を感じる説明であった。曰く、あの場所に愛の巣改め、ユウヒのカレル村での家を作るため、地面を固くするのと同時に地均しを行っているとの事である。


「と、止めないと」


「ユウヒさん待ってください!」

 説明を聞いて外堀を埋められている様な錯覚を感じたユウヒは、慌てて彼女たちを止めようと一歩足を踏み出したのだが、その行動をアミールに止められてしまう。


「あ、そうだアミールの要件もあったね、で? 何がどうしたんだ」


「はい、すぐにユウヒさん達をこちらに転送させます」


『ええ!?』

 なぜか少し不機嫌な気配を感じるアミールに呼び止められたユウヒは、若干急かすように要件を聞いたのだが、その問いに対して返ってきたアミールの言葉にユウヒは忍者達と一緒に驚きの声を上げる。


「急がないとまた糞虫のジャミングで連絡が付かなくなってしまいます」


「おぅ、もう訂正もねぇ」

「相当嫌われてんな、上司乙www」

「声に殺気すら籠ってそうでござる」


 僅かな不機嫌さと焦りを感じるアミールの言葉に、驚きはしたものの真剣に耳を傾ける為居住まいを正すユウヒ、一方忍者達はアミールの気迫に怯えながらも茶化すことは忘れていないようで、鋭利さを増すアミールの毒に不用意にも茶々を入れてしまう。


「当たり前です!」


「「「はいごめんなさい!?」」」


 そんな茶々に対して間髪入れず返ってきたアミールの大きな声に、三人はユウヒを盾にしながら即座に謝罪の言葉を口にするのであった。


「あ・・・すいません。こちらに残った場合、最悪元の世界に帰れなくなる可能性もありまして」


『は?』


 大きな声で怒鳴ったアミールは目の前で苦笑するユウヒの表情で我に返ると、顔を赤くして謝罪する。その謝罪に忍者達がユウヒの後ろから顔を出し始めると、アミールは真剣な表情でユウヒ達を見詰めてそう告げた。


「強力なジャミングのせいであちこち損壊してしまっているのでしばらくは・・・、今は緊急用の転送ゲートを維持するだけでも難しく、お願いしますユウヒさん」


「・・・帰れなくなるのは不味いな、ここには・・・また来れるのか?」


「まだ、手伝ってくれるのですか?」


「ん? まだ終わってないんだろ?」


「それはそうなのですが・・・」

 顔を見合わせ合う忍者達に目を向けたユウヒは、難しい表情を浮かべると戻ったとして再度この地に戻ってこれるのかと口にする。


 この質問には二つの意味があり、一つはこの世界を楽しんで知り合いも増えた忍者達への配慮、二つ目が同様に知り合いも増えた自分と、仕事が大変そうなアミールへの配慮であった。


 ユウヒ自身、この世界でやってきたことはどれもこれも新鮮で、やりがいのある事ばかりであったのだ。ただ生きるために漫然と働き続ける毎日など、アミールの手伝いの為なら辞めて良いとも思っていた。


「何となくだが、またここに来るのにもそれなりに時間が必要になる事態の様だし」


「え、マジで?」


 しかし帰れなくなると言うのは、自分にとっても三人にとっても失うものが大きすぎる為、一度戻る事も前提に考えた言葉の様である。


「はい、通常の転送ゲートは既に使用不可能でして、緊急用のゲートも回収専用なので」

 ユウヒの考えていることが分かったのか、とても悲しそうな表情を浮かべたアミールは、現在の状況を簡潔に説明し、その言葉にユウヒは表情を変えずに頷く。


「そかー」

「帰宅フラグだな」

「まぁユウヒ殿と一緒に居ればまた来れるでござるよ」


 一方忍者達は特に悲しんだりすることは無く、どちらかと言うと困った様な苦笑を浮かべ、しかしここに戻ることを諦めたと言った感じではない。むしろ再度この地に舞い戻る気は満々の様で、ユウヒの肩に手を置きながら問題無いとばかりに親指を立てて見せている。


「そいじゃまちょっと待っててくれ、一号さんに後を頼んでくる」


「なるべく急いでください!」

 四人は意見が纏まったと見て頷き合うと、ユウヒはアミールに声をかけて未だ地均しを続けるゴーレムと兎神の下に駆け出すのであった。そんなユウヒの後ろ姿と、ユウヒに茶々を入れて笑い合う忍者達に目を向けたアミールは、その光景に暖かさと羨ましさを感じ、小さな笑みを浮かべるのであった。



 いかがでしたでしょうか?


 このままいくとユウヒが王様になる日も来そうですが、なかなかそうはなりそうにない様です。忍者達の暗躍次第ではわかりませんが・・・。


 それではまたここでお会いしましょう。さようならー

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