第百三十六話 純粋魔力爆発
どうもHekutoです。
修正作業等が終わりましたので投稿させて頂きます。皆様のお暇のお供にでもして頂ければ幸いです。
『純粋魔力爆発』
様々なモニターが展開された机の前で、女性が力なく崩れ落ちる。
「な、そんな・・・」
その女性は女神アミール、彼女の見詰める先では枯れた森を覆い尽くす真っ白な光を真上から映し出していたモニターが、その光に耐え切れなくなったのか映像を乱したかと思うと次の瞬間には真っ暗になりそれ以降何かを映すことはなかった。
部屋の中をモニターから聞こえる電子音だけが響く中、アミールは真っ白になった顔で只々真っ暗になったモニターを見詰めること以外何も出来ないのであった。
そんな光は上空からだけではなく地上からもはっきりと見えていた。
「・・・なんだ、あれは!?」
「・・・竜が昇っている」
一瞬のうちに通り過ぎていった光の後には、真っ直ぐと上空に伸びていく雲が姿を現し、その姿がまるで竜が空に昇っていくように見えた兵士は、その場に崩れ落ちると空を見上げたまま放心してしまう。
「おいしっかりしろ! 全員伏せろ! 何が起こるかわからん!」
崩れ落ちた兵士の上官なのだろう男性は、崩れ落ちた兵士を強引に引き倒しうつ伏せにすると、周囲の人間にも声をかけて自らも身を屈める。彼は長い軍生活のおかげで理解することが出来た、規模こそ比較にならないものの、あの光が魔力爆発の光であると言う事を・・・。
「精霊が消えた!?」
一方セーナもその事に気が付き急いで精霊魔法で防御しようとするも、急に周囲から精霊の存在が消えてなくなり、慌てた声を上げる。
「母さん!」
「結界を最大に!」
セーナの声に反応したナルボは、すぐに彼女を抱きかかえるとテントの中に飛び込み、ナルボに身を任せたセーナは大きな声で指示を飛ばす。
「アルディス様後ろに!」
兵士や冒険者たちが次々と伏せたり魔法を使う中、バルカスは近くにあった大盾を片膝立ちで構えると大きな声をアルディスかける。
「メイこっちに!」
「は、はい!」
その声に頷いたアルディスは立ち尽くしていたメイの腕をとり、少し強引に引っ張り彼女を抱きしめるとバルカスに背中を預ける。
バルカスが背中の存在を認識し盾を持つ手に力を込めた瞬間、強欲の森外周部に展開されていたグノー王国軍野営地を膨大な魔力と衝撃波が襲い、粉塵で周囲一帯の視界をふさいだのだった。
強欲の森中央で発生した爆風が森全体に及んだ頃、森の周辺から一斉に消えた精霊達は各地に住まう大精霊達の下へと逃げ込んでいた。
「うん・・・そう、そうなの、わかったありがとう」
当然モミジ住処である揺り篭も避難場所の一つになっていて、とても広い揺り篭の中は数多くの精霊達で溢れ返っている。そんな場所で、いつもの定位置に座っているモミジは、様々な感情が入り混じった泣き顔の精霊達から何があったのか話を聞いていた。
「あなたの妹達も逃げて来たのね」
一通り説明を聞いたあとその小さな手で、尚小さな精霊の頭をモミジが撫でて慰めていると、水のゲートがすぐそばに現れる。その中からひらりと現れたミズナは、周囲の状況に苦笑を浮かべると、モミジの隣に腰かけそう言葉を洩らした。どうやらその話しぶりからはミズナの方にも多数の精霊が逃げて来たようだ。
「・・・トミルの森で恐ろしい力を感じたと言っていた」
「うん、かなり高密度な魔力爆発だと思うわ」
二人は既に精霊達から聞いた話で爆発の事を知っているらしく、またその爆発にユウヒが巻き込まれた事も解っていた。
「・・・ユウヒさん、だいじょうぶかしら」
「・・・信じましょう。私達にはそれしかできない」
彼女達の周囲に集まった小精霊の幾人かが、ミズナの呟きを聞いて同意するように寂しそうな表情を浮かべると、モミジは少し上を見詰めながらそう言葉にする。彼女達精霊は、生きようと思えば永遠を生きることが出来る存在であり、既に人よりずっと長い時間を生きていた。
「そうね・・・いつもと同じ、信じるしかないものね」
その中で何度も人間と出会いと別れを繰り返しており、自分達が人にしてあげられることの限界も理解出来ている。その理解の末にたどり着いた結論は、信じる事である様だ。
一方精霊に信じられたユウヒと三人の忍者はと言うと・・・。
「「「「――――!!!?」」」」
高速回転するドラム式洗濯機の中が生易しく感じられるほどの空間で、言葉に出来ない叫びを響き渡らせていた。一つ救いがあるとするならば、それは遠心力で各々壁に押し付けられている為、トラウマになりかねないハプニングは起きそうにない事であろうか・・・。
その頃、爆発の光は遠く離れたグノー王国でも多数確認されており、光を確認した人間達は慌ただしく走り回っていた。
「陛下! 強欲の森方面で巨大な光の柱を確認しました!」
「なんだと!? ・・・アルは? 調査部隊は無事なのか!」
その一報はグノー国王にも宮中伝令兵により届けられ、執務室に飛び込んできた男性兵士の言葉に勢いよく立ち上がったバルノイアは、何よりも早く息子の名を口にし、同時に部隊全体について口にする。彼らしい反応であるものの、王とは言え人の子である故に当然とも言えた。
「分かりません、現在急いで情報を集めていますが・・・その」
「む?」
バルノイアの問いかけに対し歯切れの悪い返答を返した伝令兵に、彼は眉を寄せる。
何故なら本来彼らグノー王国の宮中伝令兵は、ある程度纏まった情報を精査したのち報告に来るはずなのだ。どんなに急いでいてもある程度の質問に答えられる準備はしているはずで、歯切れが悪い返答をすると言う事自体珍しいことであった。
「すべての長距離通信魔道具が、現在故障なのか使用不能になっていまして・・・まだどことも確認が取れていません」
「なんと・・・」
その歯切れの悪さは、城にある長距離通信魔道具と言う電話の様な道具がすべて使用不能になったことが原因で、その通常なら考えられないような状況には、流石にバルノイアも言葉を失う。
「現在は塔の最上階でバトー様が観察しておりますので何か「行くぞ」は?」
通信が出来なくなるならまだしも、何重にも不測の事態に対する対策を講じてある最重要施設の故障に険しい表情で言葉を失うバルノイア、そんな王に対して伝令兵は恐る恐る報告の続きを口にするも、その報告はすぐに遮られる。
「塔の最上階だな、ついてこい」
「・・・は、はい!」
驚く兵士の目の前を強い足取りで通り過ぎたバルノイアは、顔だけ振り返ると短く命令を与え、手に持った豪華なマントを羽織りながら執務室から出ていく。驚いて固まっていた伝令兵は言われた命令を理解すると慌てて返事をし、国王の後を急いで追いかけるのであった。
グノー王国でも確認されたのであれば、もっと近いエリエス連邦国でも当然爆発の光は確認されている。むしろ木々が生い茂り薄暗い森が、一瞬とは言え眩しいほどの光で照らし出されたのであれば、驚きはグノー王国民以上であったのだろう。
「赤の氏族にも連絡して人を出させなさい。編成は移動速度重視で」
それを如実に表すようにエリエス国内に多数存在する里では上に下への大騒ぎとなっており、それは緑の氏族長シリー・グリュールの周りもまた同様であった。
「救護の準備整いました!」
「先遣隊の編成が済み次第出立するように」
次々に指示を出すシリーと駆け出すエルフ達、さらに駆け込んで来たエルフに対しても即座に指示を出すシリーの姿は、やはり氏族長と言う重役を担うだけあり堂々としたもので、その姿は周囲の動揺を治め円滑な指揮を可能にしている。
「はぁ・・・無事ならいいのだけど、セーナ」
しかし彼女とて機械では無い、執務室に自分以外居なくなり一息つける様になると同時に、椅子に深く座って溜息を吐くと親友の安否を気遣い小さくつぶやく。
「ユウヒ様、いったい何が起こったのですか」
それと同時に、この事態の中心人物だと彼女の勘が告げる人物の名前を洩らすと、窓の外に見える空を見上げ憂いを帯びた表情でここにはいない人物に問いかけるのであった。
族長としての勘かそれとも乙女の勘か、鋭い勘を働かせているのは何も彼女だけではない。
「親方がピンチな予感がする!」
ユウヒの危機を感じ取ったらしく突然叫ぶどこか子供っぽい女性の声、それはユウヒ農園などと呼ばれている場所で額に汗して働くゴーレムの長女一号さんである。ゴーレムに汗が流れるかは別として、突然叫んだ巨大なゴーレムに、姉妹達はまだしも精霊たちや移住してきた妖精族は驚いて蜘蛛の子散らすように逃げていく。
「お姉さま急にどうしたのですか?」
作業中に急に立ち上がったかと思うと握りこぶしを両手に作り叫んだ姉に、全体的にスレンダーなシルエットのゴーレムが資材を手に近づくと、一号さんを見上げながら小首を傾げて見せる。
「うん、なんだかね? 親方の身に何かあったような気がして」
「救難信号は出てませんが?」
空を見上げて叫んだ一号さんは妹の声に我を取り戻し、少しでも目線を合わせるように屈むと嫌な予感を感じたと説明し、その説明に首を傾げる妹達の後ろからは2号さんと呼ばれるゴーレム姉妹の次女が、歩いてくるなり一号さんに対して疑問を口にした。
彼女達ゴーレムには、主人であるユウヒの危機に瞬時に駆けつけることが出来るシステムが搭載されている。しかしそのシステムもユウヒが助けを呼ばないと働くことは無く、首を傾げる彼女達はユウヒからのヘルプコールは受信していない様だ。
「うーん、でもさっきの爆発光を見てから予感が・・・」
「予感ですか?」
それでも嫌な予感が拭えない一号さんは悩むように腕を組んで目を閉じる。悩む一号さんも首を傾げる姉妹達も知らない、そんなゲーム内システムまで再現されているなどユウヒは思ってもいないのでこの先そのシステムが起動するか未知数だと言う現実を・・・。
「・・・そうですね、いつでも出れる準備はしておきましょう」
「そうだね!」
そんな事になっているとは知らない二号さんは、思い悩む一号さんを見上げてアイランプを瞬かせると、どこかいつもより優しく感じる声色でそう提案し、一号さんはその提案に目を開くと無邪気で元気な声で返事をするのであった。
一方その光は、地上の人でも精霊でもない存在にも確認されており、確認した女性は綿毛の様に柔らかそうなベッドから起き上がると、ゆっくりと時間を掛けて目を開く。
「・・・すごい力ね、ユウヒ君生きてるかしら?」
そして少し間を置くと僅かに引きつった笑みを浮かべ、頬に手を当てると首を傾げて心配そうな声を洩らす。彼女は女神ラフィール、神々からは眠り神と呼ばれる豊穣の女神である。
「ラフィール!」
眠る事で世界中どこにでも自らの分け身を向かわせることのできる彼女は、その力を使い様々な祝福を多くの人々に与えて来た。そしてここはそんなラフィールの仕事部屋であり寝室なのであるが、そこに大きな声を上げて闖入者が姿を現す。
「聞いて聞いて! 何か凄いよ!」
その闖入者とは、暴走ラットの原因をこの寝室から持ち出し、さらには森の上空から落とした風の女神であった。そんな彼女はなにやら興奮しているらしく、ラフィールの寝室に入ってくるなり満面の笑みで大きな声を上げる。
「あなたの言葉からは、何がどう凄いのかさっぱり理解できないわねフーリー」
興奮しているせいか元からか、内容の全くない感情だけ先行した言葉に、ラフィールはニッコリと不機嫌な微笑みを浮かべながら棘が多分に含まれた返事を返す。
「うんあのね! こうピカッってなってすごい音が鳴って吹き飛ばされてね、そのあと雲が真っ直ぐ空に昇てすごいんだよ!」
「・・・あなた、強欲の森の空を飛んでたのね」
しかしそんな棘など気が付く風の女神ではないらしく、背中の羽を揺らしてラフィールの座るベッドに飛び乗ると、身振り手振りを交え何があったのかを必死に説明するフールブリーズ。その説明を解読したラフィールは、何があったかすぐに理解出来たらしく軽く額に手を当てると呆れた様な声を洩らす。
「あれ? 何で分かったの? あ、ラフィールも見てたんだねあれ」
「ええ、ユウヒ君を見守ってたらね」
ラフィールの言葉にきょとんとした表情で首を傾げ、さらに自己完結した彼女は、どうやら爆発の発生時に強欲の森上空を飛んでいたようである。さらには爆風に巻き込まれた様であるが、その姿には特に怪我らしい怪我も乱れも見受けられない。
「そうなのか、実は私もユウヒ君とやらに会ってみようと探してたんだけどね、中々見つかんなくてさーあはは」
仲の良い神々からフーリーと呼ばれる彼女がなぜ強欲の森の上空で爆発に巻き込まれたのか、それはすべてユウヒの存在が関係している様である。
「・・・何を、する気かしら?」
「え? うわこわ!? 別に悪い事なんてしないよ!」
彼女の口からお気に入りであるユウヒの名前が出たことで、目を鋭く細めたラフィールに対して、フーリーは慌てて後ずさると目を見開き首を横に振り、顔の前でわたわたと手を振って必死に弁明を始めた。
「本当かしら?」
「本当ですぅ! 知ってる? あの子人なのに空を綺麗に飛べるんだよ! それだけで十分会うにあたいするね! それに一応・・・お詫びもしたいし、迷惑かけたみたいだし?」
訝し気な視線で見つめられたフーリーは、唇をかわいらしくとがらせたかと思うとすぐに楽しそうな笑みを浮かべ、ユウヒを探す理由を話し出す。どうやら彼女なりにユウヒに対する罪悪感があるらしく、しかしそれ以上に風の精霊から聞いた話を確認したいと言う感情の方が大きい様にも見える。
「・・・それだけ?」
「まぁ精霊があんなに気に入る人間も珍しいからねぇ」
フーリーの説明にどこか納得いかない表情のラフィールであったが、ベッドの上で足を延ばし楽な姿勢をとったフーリーの付け加えるような言葉には納得したように頷く。
「まぁ生きてたら会えるんじゃない?」
「え?」
だが表情を戻したラフィールにフーリーがホッとした表情を浮かべたのも束の間、少し困った様な笑みを浮かべたラフィールの言葉に思わず疑問の声を洩らす。
「貴方の見た爆発、その爆心地にあの子居たのよ?」
「うぅわはぁ・・・死んでるよねそれ? 生きてたらそれはそれで怖いかなぁ」
分け身を通してユウヒ達の動向を見守っていたラフィールの説明に、フーリーは大きな口を開けて驚くと、溜息なのか驚愕の声なのかよくわからない空気の抜ける様な声を出し、乗り出していた身をベッドにあずけてガッカリした顔だけラフィールに向ける。
「選ばれた者だし、生きてるかも知れないわ」
半ば諦めの表情を浮かべるフーリーと違い、ラフィールは苦笑こそ浮かべているが心配そうな雰囲気はない。それは別に神だから人の生き死に鈍感や無関心と言うわけではなく、管理神に選ばれた人間と言う特別な存在に対する期待と信頼によるものの様だ。
「ほんと? 選ばれた者ってそんなにすごいのか、益々興味が出て来た!」
「しまった・・・」
しかしそんな信頼から洩れだした言葉は、彼女のお気に入りの注目度を増やす結果となったらしく、フーリーはガッカリしていた表情を明るい笑みに変えると急な動きで飛び起きる。その風の女神らしい気侭な姿に、ラフィールは苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべるのであった。
爆発の影響により世界各地で様々な騒ぎが起きている頃、騒ぎの原因となった爆発の爆心地では爆発の影響により現れた大きなキノコ雲の下に、動くものは一切存在しない。
「・・・」
爆発の影響ですべてが吹き飛ばされた大地には草木一本生えていない。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
生命を感じるものは、それまでの荒廃した大地以上に感じることが出来ない。
ある一点を覗いて・・・。
「・・・【部分開放】」
爆発の影響ですべて消し飛んでしまったトミル王城、そしてトミル王都を含む強欲の森中心地、何もなくなったその地には地面以外の存在がただ一つだけ存在した。人工的な光沢のあるそれは、風の流れる音だけが聞こえるその場に小さくくぐもった音を響かせる
「・・・なんてことだ」
音が聞こえるとその光沢のある表面に丸い穴が開き、中からフードを目深に被ったふらつく人の頭が姿を現す。その頭は開いた穴から周囲をぐるりと見渡したかと思うと、絞り出すような声を発した。
「光が見えるぅ」
「うぅ・・・忍者の三半規管でもこれはきつい」
「ここではくなよぉ」
「生きてるな・・・体はあっちこっち痛いけど動く、問題は無い」
さらにその頭が現れた穴の奥からは、地の底で呻く様な声が三つ漏れ聞こえ、その声を聴いた頭はどこかホッとしたように頷くと穴の中から這い出し始める。
「よっと、いてて」
黒く人工的な光沢のある大きな球体、そこに開けられた穴から出て来たのは疲れた表情を浮かべたユウヒであった。三分の一ほどが地面に埋まった球体の頂点から滑るように降りたユウヒは、汚れ一つないポンチョの内側に感じる複数の痛みに表情を歪めるも、我慢できないほどではないらしく表情を引き締め背筋を伸ばす。
「うぅユウヒ殿無事で・・・・・・は?」
「ゴエンモ狭いんだから早くで・・・・・・は?」
「何止まってんだよ、俺も外の空気吸い・・・すい・・・はぁ?」
ユウヒに続くように素材が分からない球体に空いた穴から這い出てきた忍者三人は、外の光景を目にした瞬間次々と思考を停止させて目を見張る。
彼等の周りの光景は、少し前まで戦っていた王城の広場ではなく、ましてや王城でも王都の街中でもなかった。三人が目を見張る周囲には瓦礫一つ無い更地と、彼らを遠くからぐるりと囲む様な山脈が存在するだけである。
「【探知】うん、良好だけど・・・これはひどいな、うわぁ、えぇ・・・」
「なんじゃこりゃぁ」
「予想以上でござる」
「俺生きてんのか?」
ユウヒの開けた穴から頭を出した三人の目には不可思議な山脈にも見えたそれらは、正確には大きく丸いクレーターの地面から繋がる窪地の縁であった。【探知】の魔法を使って広範囲を調べたユウヒの視界には、丸く抉られた強欲の森が映し出されており、自分たちの居る場所を示す表示に海抜でマイナスの数値が記されていることに気が付き、そのほかにも明らかに可笑しい数字が出てくるたびに表情が引きつっていく。
「・・・熱は無い? 気温の変化もあんまり無さそうだな、燃焼性の爆発じゃなかったのか?」
ユウヒはバッグから取り出した回復薬(三色マール味)を舐めるように飲みつつ、視界に表示される様々な情報を整理している。その時に感じた頬を撫でる風の冷たさに顔を上げたユウヒは、気温の変化がないことに首を傾げ魔力爆発について考えはじめた。
「単純な衝撃波? しかしだいぶ深く抉られたな・・・大きめの隕石衝突並みか?」
魔力とは、特殊な性質を持った非常に高次で安定したエネルギーである。魔法とはこの魔力を低次のエネルギーに変換することで効率よく大きな力、熱や電気などを生み出す技術を指し、その為純粋な魔力だけの爆発に熱などは存在せず、只々強力な力で周囲を破壊するだけなのであった。
「狭いんだから無理すんじゃねえよ!」
「ぐえ!? つぶれるでござる!」
「ケツがつっかえて抜けねんだよ!」
結果として摩擦などで熱量が発生することもあるが、今は彼らの居る場所すべてが吹き飛ばされた後である為、周囲の空気は圧力差によって入れ替えられている。唯一入れ替えられていないのは、いろんな意味で摩擦を発生させている三人の黒い忍者がつっかえている、二層だけ削られず残った【核シェルター】の球体内部だけの様だ。
「何やってんだよ・・・先行ってるぞ!」
外に何があるかわからなかったユウヒが開けた一人分の穴に、三人して器用に詰まり暴れる忍者の姿はなんとも奇妙なものであったのか、ユウヒは呆れと疲れの混ざった表情で肩を落とすと、回復薬のおかげで楽になった体を翻し歩き始める。
「ちょま! そこは助けようぜ」
「くそ! 服が引っかかって後退もできない!」
「だから押すなでござる!」
「元気だなぁ・・・爆心地はこっちか、なんだか景色が変わりすぎて別世界みたいだ」
とんでもない目にあった直後であるにも関わらずいつも通りの三人は、大きな声を上げながら騒ぎ爆心地へと向かうユウヒの苦笑を誘うのだった。
「結構移動してるな、王都入口辺りまで移動してるのか【飛翔】って・・・こいつは、ラビーナ大丈夫かな?」
背後の声を気にする事無く歩を進めるユウヒは爆発前との比較を済ませ、大分遠くまで飛ばされた事に驚き、さらにクレーターの範囲がカレル村に半分かかっていることに気が付くと険しい表情で首を傾げる。
「探知も効いてるし一応の問題は解決かな? でも、爆発した樹はどこ行ったんだろ」
人の目が無いと考え低空を低速で飛んで進むユウヒは、希望的観測でラビーナの無事を願いながら周囲の状況を一つ一つ確認していく。
「おっと、ここが中心か・・・何もないな?」
それからしばらく、魔力の吸収現象や極端に魔力の薄い場所などが無いことを確認しながら中心を目指したユウヒが、逆に魔力が濃い事に首を傾げながらも特に問題がなさそうなので考えることを止めた頃、ようやく爆心地であり最も海抜の低い場所に辿り着く。
「ユウヒどのー」
「置いてくなー!」
「ん? おお早いな」
これまでと変わらず殺風景な更地が続く中心地にユウヒが悩んでいると、遠くから忍者達の声が聞こえ振り返る。その振り返った先からはレーシングカー並みの速さで走ってくる忍者の姿が見え、飛び上がったかと思うとあっという間にユウヒのすぐ目の前に降り立った。
「忍者は足が命だからな!」
ユウヒに駆け寄ってきた忍者達は、ユウヒの洩らした驚きの言葉にどこかイラッとする表情を浮かべ親指を立てる。
「怪我も無いみたいだし何とかなった・・・ん?」
「あるよ! あっちこっちいてぇよ!」
「いや、それさっき負った怪我でござるから」
「暴れすぎなんだよお前は」
改めて忍者のポテンシャルの高さに感心したユウヒは、無事な三人の姿にホッと息を吐くも、よく見ると彼らはつい先ほどよりもボロボロになっており、それが穴詰まりにより勃発した小さな戦争によるものだと分かると、先ほどまでの感心がまったく感じられない呆れた表情を浮かべた。
「どんだけ暴れた・・・ん?」
呆れついでにツッコミも入れようとしたユウヒであったが、何かに気が付くと言葉を止め、その動きに忍者達も口論を止めるとユウヒに注目するのだった。
無事生き残った彼等ではあるが、彼らがこのまま何もなく終わるとは思えないのは私だけであろうか・・・。
いかがでしたでしょうか?
いついかなる時も彼らの平常運転は止まらないようですね。そんな彼らの身にさらに何か起きそうな予感がしますが、何が起きるかは次回までお待ちください。
それでは今回もこの辺で、またここでお会いしましょう。さようならー




