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ワールズダスト  作者: Hekuto


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第百三十三話 荒ぶる世界樹

 どうもHekutoです。


 修正作業等完了しましたので投稿させていただきます。楽しんで頂ければ幸いです。



『荒ぶる世界樹』


 忍者、それは耐え忍ぶ者。確かな殺意を持って闇に潜み息を殺し、時にその使命の為ならば闇を照らす月光の如き存在で在り続ける。


「大型モンスターの特徴はその巨体故の耐久性と鈍重な動き・・・」

 それが彼ら三人が進化した新人類忍者としての在り方・・・なのだが、


「ふおおおお!?」

「ちょま!? あべし!」

「!? ばっくすてぷろっ!?」


 現在の姿からは到底そのような存在には見えない。良いとこ、理不尽なアトラクションに挑まされる若手芸人である。


「うん、異世界舐めてたわ・・・つか、元々動くことのない固定兵器なら機動戦に対する対処もしてるよな」

 ユウヒに向かって自信に満ちた笑みを残し颯爽と駆け出した三人の忍者達は、数分と経たずに奇声と悲鳴を上げ、舐めきっていたファンタジーに翻弄されていた。


 彼らが想定したゲームでよく見る大型モンスターは遅いが動ける為追いかけてくる。しかし彼らが飛び込んで行ったファンタジーは、根本的な所が違う固定砲台タイプであった様だ。最初から動くことを想定していない相手が、動ける相手に対して何の対策もしていないなどありえないのである。


 数分前、三人が巨木に一定距離まで近づいた瞬間、彼らの足元からは大小様々な樹の根が飛び出し彼らを牽制した。思わず飛び退いた三人であったが、次々にその根は数を増やして行き、今も彼らを包囲殲滅すべく手数? 根数? を利用した絶え間ない連続攻撃を加えている。


「誰だ動きが遅いとか言ったの!おわたぁ!?」

「想定外すぎるでござるよこんなの!」

「ユウヒ援護援護!」


 想定と違った素早い攻撃の連続に、速度重視の忍者である三人も守りの姿勢を解くことが出来ない。さらに小さなダメージの蓄積と精神的圧力は彼ら三人をジリジリと追い詰め、最初は要らないとも思っていたユウヒの援護を、早々に要請する羽目になるのだった。


「は! そうだった、吹き飛ばしていくからそこを利用してくれ! 【マルチワイドショット】【アイスエッジ】【マルチショット】【アイシクルガスト】」

 目の前で起った珍事に思わず現実逃避を始めていたユウヒは、ヒゾウの助けを呼ぶ声に目を覚ますと、クロモリオンライン内でも使い慣れた魔法を口にして、次々と妄想魔法を撃ち出し始める。


 効果付加された氷の刃は、放たれた先から大きく複数に分かれて暴れる太い樹の根を切り落とす。またこちらも効果付加された冷気の風はユウヒの周囲から次々と放たれ、舐める様に大地を疾走して行き触れたものすべて凍らせ砕いて行く。


「うほ! これは良い広域殲滅ですね」

「空いた道に突っ込むでござる!」

「急げ急げ! また生えて来てるって!」


 三人を取り囲んでいた樹の根は、彼らのすぐ脇を巨樹に向かって真っすぐと切り開かれ、そこに活路を見出した三人は、ゴエンモを先頭に乾燥し凍てついた大地を巨樹に向かって走り始める。


 しかし樹の根も彼らを黙って行かせるわけも無く、次々と新しい根が地面から突き出してきては黒い忍者を捕えんと迫りくるも、


「【ターゲットマルチロック】【アイスエッジ】【ターゲットマルチロック】【ガトリングロックボルト】」

 予想していたのであろうユウヒの妄想魔法によって、太い根は氷の刃に薙がれ宙に舞い、忍者達を拘束しようとする細い根は石の礫に次々と撃たれ千切れ飛んで行く。


 そんな弾幕と言って良いような暴力に晒されているのは何も巨樹の根だけでは無かった。ゲームであれば味方に当たっても問題無い攻撃も、現実であれば当然敵味方関係なく同様の効果を及ぼすわけで、いくらユウヒが細心の注意を払っても当たる時は当たる。


「うひょーここはどこも地獄だぜ!」

「あいた!? 掠った! 掠ったよ!?」

「ゲームと違ってフレンドリファイヤ対策なんてないでござるからなっと!」


 巨樹に向かって只管走るテンションの上がったジライダの耳には、至近を掠めて飛んで行く石の礫が風を切る音が聞こえ、先頭故に被弾率の低いゴエンモの後ろでは、お尻を掠めたらしいヒゾウの悲鳴が上がる。


「おし、もう少しだ!」

「と言っても距離はまだあるけどな」

「高いでござるな」


 ユウヒの支援もあり無事? 根の包囲を抜けた三人は気が付けば巨樹の足元まで到達していた。しかし横方向では近づいてもまだまだ目的の場所までは縦に大きく距離が開いており、ある意味ここからが本番と言って良いだろう。


「この程度高いうち入らないぜ! うおおおお!」

「負けてたまるか!」


 巨樹を見上げていたヒゾウは、更なる気合の声を上げると二本の足で巨樹を駆け昇り始め、それを追いかける様にジライダが続く。しかし彼らは気が付くべきであった、それは何故本体に触れる距離まで近づいたにもかかわらず根の攻勢が止んでいるのかと・・・。


「まつでござ「「あべし!?」」る?」


 その理由は別にユウヒが根を全て殲滅したわけでは無く、単に別の攻撃方法が用意されていたからなのであった。





 地面から湧き出る樹の根を駆除し、駆け進む三人を見送ったユウヒです。


「・・・枝が急に生えたな、つかこっちも狙われ始めたわけだが」

 三人が根の包囲を抜けたあたりから攻撃対象が俺に移った様なのですが、どうやらあの巨大樹木は取りつかれた時の為に近接兵装も用意していた様で、樹の幹から突然生えて来たらしい枝は二人の鳩尾へときれいに入り、勢いよく二人を宙に跳ね飛ばしていた。


 ただ幸いな事に威力は低かったらしく、二人は落下しながらも放送できない様な言葉で罵って怒りを表している。


「大丈夫だよな? と、こっちもうっとうしいから【インターセプト】【グラン・ヘッジホッグ】」

 地面に着地するとすぐにまた駆け出す二人と後から付いて行くゴエンモを眺めていると、周りを囲む根の群れから一本細い根が飛び出してくる。一応危険予知に関する機能は生きている【探知】の効果で難なくその蔦の様な根を相棒で切り裂いた俺は、クロモり由来の効果付与がされた妄想魔法を使う。


「効き目は今一みたいだけど阻害には十分なってるか」

 【インターセプト】は付加対象の魔法で敵からの攻撃を自動で迎撃してくれる効果があり、俺の想像した通りに地面から跳びだした細長い棘は這い寄る根を串刺しにし動けなくしていく。


「これだけ盛大に魔法使ってるけど未だに合成の時ほどの消失感は無いな」

 自分の迫ってくる根の迎撃をしつつ、巨大な樹に必死で駆けあがる三人に援護射撃をしている俺の周りには、妄想魔法で現れた複数の魔法が俺の指示によりその力を振るい続けている。


 しかしその大量の魔法を生み出す源になっている魔力は今の所あまり減った気がしない、合成魔法の時はどんな小さなものでも必ず消失感が有るあたり、合成魔法の燃費の悪さを再認識させらたのだった。


「しかしどれだけ出て来るんだろこの樹の根は、三人も攻めあぐねいて・・・ん?」

 現代人には未知の力である魔法を振るいつつ、動くことも出来ないので遠くで跳ねまわる三人を眺めながら色々と思考していると、足の裏に僅かな振動を感じて思わず視線を地面に落す。特に地面が崩れたりするわけでは無いようだが、俺はどうもその振動に嫌な予感を感じざるを得ないのだった。





 ユウヒが地面の僅かな振動をスニーカー越しに感じている頃、アミールはその目に疲れを感じていた。


「ふぅ・・・やはり量が多いです」

 床に座り込み目の前に山と積まれた資料に目を通していたアミールは、手元の資料を閉じて顔を上げると目頭をその細い白魚の様な指で揉みこみはじめる。どうやら管理神も長時間の読書をすると人同様に目が疲れるようだ。


「と言うか何なんでしょうかこの時代は、急激な技術発展からの度重なる動乱、身に余る技術の発展に人の文化レベルが追いついてないんでしょうけど・・・」

 ユウヒが気にしていた古代文明の資料を読み解いていたらしいアミールは、さわりだけ調べただけでも色々とツッコミどころが多い内容に思わず一人ごちる。それほどに古代文明とは荒れた時代であり、理解に苦しむ時代の様であった。


「少し休憩しましょう。どうもヒントはもっと前の時代にありそうですし、焦ってもしかたないですからね」

 急激に発展した技術レベルが何処から来た物なのか、そしてその力が生み出した数々悲劇に思い悩んだアミールは、チラリと視線をある方向に向けると疲れた様に脱力しながら立ち上がる。彼女が休憩の為に背を向けた場所には、先ほどまで格闘していた資料の山の数倍の山がそびえ立っており、どうやらその存在が彼女のやる気を削いだ様だ。


「先ほどは暖かいお茶でしたし、今度は冷たくしましょう。えいっと」

 僅かに引き攣った笑顔を浮かべ、少し前まで休憩をとっていたテーブルの戻って来たアミールは、ティーポットを目の前に浮かせると指先で小さくつつく。つつかれたティーポットは空中で小さく揺れると、その表面を急激に霜が覆い始め中身が十分に冷えたことを知らせる。


「ふーふふ~♪ ・・・え?」

 ティーポットを手に取り冷えた事を確認したアミールは、上機嫌に鼻歌を歌いながらアイスティーをガラスカップに注ぐ。しかし青いガラス製の可憐な器は、その身に適度な量のアイスティーを受け止めた瞬間、僅かな音と共に小さく振動してアミールの鼻歌を停止させる。


「え? あ、あわわ!?」

 アミールが見詰める前で、ガラスカップは小さな振動の後急激にその身を二つに割り、受け止めていたアイスティーをテーブルいっぱいに溢れさた。ティーポットを持っていたアミールは、予想もしない現象に如何する事も出来ず只々慌てるのだった。


「あぁぁ・・・お気に入りだったのに」

 それから数分後、テーブルの上には流れ出たアイスティーの姿は既になく、あるのは真っ二つに割れてしまったアミールお気に入りのカップだけである。そのカップを見詰めるアミールの顔は、悲しそうに歪められていた。


「それにしても、どうして急に割れてしまったのでしょうか?あ、一応床拭きもお願いしますね」

 急に割れてしまったカップを手に取り繋ぎ合わせては、元に戻らない現実に溜め息を漏らすアミールは、割れた原因が分からず首を傾げている。すると、丁度首を傾げた事で足元に寄って来ていたお掃除ロボットに気が付き、お茶の沁み込んだ後のある短いモップを持つロボットに床の清掃も頼む。


「リョカイ!」


「・・・何か良くない事でもあるのでしょうか? は! そうですユウヒさんの身に何かあるのでは」

 人とは違うどこか外れたイントネーションの変事を聞いたアミールはニコリとロボットに笑みを浮かべ、今度は訝しげな表情を浮かべたかと思うと、はっと顔を上げて表情を蒼くしユウヒの心配を始める。


「こ、これは心配だからであって、いえでも急に連絡はあれなので・・・先ず着信音からですよね」

 この妙に勘の働くところは神だからか、それとも乙女故の特別な感覚なのか、


「どんな着信音がいいでしょうか? 自然音? 音楽?」

 しかし確実に解る事は、アミールと言う優秀な管理神の性格はどこか致命的にズレていると言う事であった。





 アミールがどうでもいいことで悩んでいる頃、地上では奇妙な事が起き始めている様で、


「ん?」

 その兆候の一つを見つけたのは、強欲の森で調査隊の護衛をしていたベテラン冒険者の一人であった。


「どうした?」


「いや今あそこの岩が動いたような」

 調査隊が安心して自分の仕事を出来るように周辺の偵察に出ていた三人の冒険者のうち一人が、視界の端で岩が動いたように見えたのである。


「岩が? ふむ、おいちょっと手伝ってくれ!」


「はい!」

 この世界には岩に擬態するような魔物も存在するため、発見した男性の話を聞いて少し思案するように顎に手を当てた中年の男性冒険者は、彼らの後方を警戒していたまだ年若い青年を呼び寄せた。


「何かあるかもしれないから後方から警戒を頼む、お前はあっち俺はこっちからだ」


「おう!」

 男性が駆け寄ってきた青年に簡単な説明をすると、その青年はどこか緊張した面持ちで頷く。それなりに慎重な青年の見せる表情に満足そうな笑みを浮かべた彼は、仲がいいのであろうか、慣れた様子で両刃の片手剣を抜いて準備していた男性に指示だすと、岩の両側からゆっくりと歩を進める。


「いちにの「三!」」

 何も見つからないまま岩までたどり着いた二人は互いに目で合図を送り頷き合うと、息の合った動きでいつでも攻防に入れる体勢をとって死角となっていた岩の後ろに飛び込む。


「「・・・」」

 離れた場所で青年が固唾を飲んで見守る中、岩の裏側で彼らが見たものは、緊張した互いの顔であった。


「・・・何もな、ん? 穴が開いているな」


「何の穴だ?」

 しかし見つけたのはそれだけではなかったようで、何も居ない事に肩の力を抜いた中年の男性は、思わず下した視線の先に真新しい穴を見つける。その穴は岩と地面の隙間に空いており、一見すると動物の巣穴の様にも見えた。


「うわ!?」


「「!?」」

 しかし彼らが地面の穴を調べようとした瞬間、聞きなれた若者の大きな声が聞こえたことで慌てて立ち上がり岩の影から飛び出す。


「どうした?」


「なんかあったか?」

 彼らが飛び出し戻った場所では、青年が剣を両手で構えて呆けたような表情で一点を見詰めており、その様子に首を傾げ合った二人は肩の力を抜いて青年に問いかける。


「・・・き、木が消えました」


「木が消えた? カースツリーでも居たか?」


「違うんです! 何か動いた気がして振り向いて・・・そしたら地面に沈んで消えたんですよ!」

 青年曰く、彼ら二人が岩の裏を調べている時、何かが動いたような気配に振り向くと目の前の立ち枯れた木が地面に吸い込まれるようにして姿を消したのだという。


「何? 木が沈んだだと・・・すぐに戻るぞ」


 青年の説明に、きょとんとした表情を浮かべ首をかしげていた男性冒険者と違い、中年の男性冒険者は険しい表情を浮かべ、手に握っていた片手剣を腰の鞘に戻すと、二人に声をかけて足早に歩き始める。


「え? あ、おいどうしたんだよ」


「何か起きてるのは確かだ、戻って撤退を提案するぞ」


「はぁ? いやまぁ反対はしないけどよ、どうしたんだお前らしくない」

 急ぎ気味で歩く中年の男性に、二人は少し驚きながら後を追いかけはじめ、男性冒険者は不思議そうな表情で彼に問いかけた。どうやらこの中年男性が今見せたような行動は彼にしては珍しい行動だったようで、男性だけでなく後ろからついてくる青年もその表情を見るに驚いている様だ。


「・・・知らないのか? 大災害の時にいきなり樹が地面から出現した事を」

 訝しむように問いかけて来た男性に、中年の冒険者は眉を寄せて首をかしげる。


「あ、いやでも地面に沈んだって、まてまてそうか沈んだって事は、今まで・・・」


「あぁそいつは災害の樹だったってことだ。それが今消えたって事は動きがあったて事だろ」

 彼が言ったように、トミル大災害では各国の様々な場所で謎の大木が突如として地面から出現し、ある現象を引き起こしている。そのことがこの周辺の国でトミル大災害を知らぬ者の居ない災害にした大きな要因なのであるが、その通称『災害の樹』と呼ばれるものは、出てくることもできればその反対の事も出来るのであった。


「やべぇ・・・急ぐぞ!」


「は、はい!」


「・・・精進が足りんな」

 その事に気が付き、今の今まで傍に『災害の樹』が存在したことを気付かされた男性は、後ろからまだよくわかっていない顔でついてきていた青年に声をかけると慌てて駆け出す。後に残ったのは、置いて行かれた説明途中な中年冒険者と、その口から洩れ出た呆れが多分に含まれた呟きだけなのだった。





 彼らが駆け出したのと同じ時刻、彼らからそれなりに距離の離れた場所にある、強欲の森外周部に設営されたセーナのテント内でも、異変は起こっていた。


「・・・」


「セーナさん?」

 ほんの少し前までアルディス達と談笑していたセーナは、急にその顔から笑みを消すと、どこか冷たさすら感じる真剣な表情で虚空を見詰めている。その表情を見たアルディスは首をかしげてセーナに呼びかけるが、まったく反応すら見せない。


「・・・ナルボ」


「え!? なにでしょうか?」

 しかしそんな無反応も数秒の事、表情こそ変わらないものの顔を動かしたセーナは隣に座るナルボに声をかけ、声をかけられたナルボは普段と空気の違う母親の行動を畏れたのか背筋を伸ばし返事をする。


「・・・すぐに周囲の精霊力を調査出来るかしら?」


 そんなナルボの緊張した表情を見て、自分の出す圧力に気が付いたセーナは、肩から少し力を抜くといつもより少しだけ真剣で、つい先ほどまでより柔らかい表情を浮かべなおす。


「うん、出来るけど?」


「ならすぐ開始、でも結界からは出ないでね、良い絶対出ないで」


 セーナの見せた表情の変化に安心したナルボは、いつもの調子で頷いて答える。どうやらこれからすぐに、精霊の密度指数とも言える力を計測してもらうためナルボに働いてもらうようだが、なぜか結界から出ないように念押しするセーナ。


「う? うん、出ないで調査だね、分かった行って来る」

 妙な念押しをしてくるセーナを不思議そうに見つめながらも素直に頷いたナルボは、よくわからない機材の入ったバッグを片手にテントから出ていく。


「セーナ様どうされたのですか?」


「メイちゃんはここでアルディス様と居てね?」


「え? はい・・・あのアルディス様」

 新しいお茶の準備をしていたメイは、セーナの前に置かれたお茶のカップを入れ替えると不思議そうに問いかける、そんな状況が全く把握できないメイに微笑んだセーナはいつも以上に柔らかな笑みでメイにそう伝えると、同時にアルディスにも目配せでここに居るように伝える。


「・・・何か気になる事が?」


「そうなの、グノー兵の人も結界の中に、もちろん冒険者さん達もね」

 セーナからの目配せとその意味をすぐに理解したアルディスは、真剣な表情で頷き問いかけた。どうやら今、彼女にしかわからない何かが迫ってきているらしく、どこか遠回しに全部隊の結界内避難を要請するセーナ。


「・・・バルカスお願い」


「はっ!」

 その表情こそ柔らかでどこか苦笑めいたものであるが、アルディスが見詰めるその目だけには、歴戦の勇士の見せる臨戦態勢の火が揺れていた。その気迫に思わず一度だけ唾を飲み込んだアルディスは、後ろに控えていたバルカスに短い指示を出し、グノー軍が動き出す。


「アネッサ!」


「はっ!」


「結界の強度をいつでも上げられるように、運が良ければ調査隊が撤退してくると思うけど、間に合わなかった場合の防護魔法もお願いね」


 アルディスの姿に満足そうな笑みを浮かべたセーナは、外に控えていたのかとあるエルフの女性を呼ぶと簡潔な指示を出し始める。


「はい、皆にも警戒させます」


「お願いね」

 この道中で一度もエルフ達に指示を出してこなかったセーナ、そんな彼女が指示を出す姿に父親の姿が重なって見えたアルディスは、掴みどころのない彼女の本質の一端に触れた気がしたのであった。


「あの、何かを感じたのですか」


「解らないけど、急に精霊が騒ぎ出したみたいなの、でもその声に違和感があって」

 数分前までとはだいぶ見る目の変わったセーナに、アルディスは真剣な表情で問いかける。何かを感じたとは、エルフが持つ特有の感覚の事であり、それは周囲の精霊を感じ取ることで精霊魔法を使いこなすエルフ独自のものだ。


「・・・」


「アルディス様・・・」

 その精霊を感じる感覚がエルフの中でも特に鋭い彼女は、その事でいち早く周囲の異変を感じ取ったのであった。その事実にアルディスは顔を小さく俯かせると難しい表情を浮かべる。きっと彼の頭の中では様々な事が巡っており、その中には少なくないユウヒへの心配も存在するのであろう。


 強欲の森を中心に、感覚の鋭い者や勘の働く者が感じ始めた僅かな違和感は、いったい何の前触れなのか、神を含め未だその未来を知る者はどこにも居ない。



 いかがでしたでしょうか?


 忍者は期待を裏切らない、彼ら三人はきっとそんな忍者だと思います。颯爽と飛び出してあれですからユウヒだって現実逃避したくもなるでしょう。そんな彼らがこの後どうなるのか、続きをお楽しみに。


 それではまた次回ここでお会いしましょう。さようならー

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