第百三十一話 トミル王城探索隊
どうもHekutoです。
修正作業終わりましたので投稿させていただきます。是非、お暇な時間やお昼休みにでも楽しんで頂ければ幸いです。
『トミル王城探索隊』
トミル王都の一角にある石造りの建物の中、そこは板張りの床だけしかない大きな部屋。かつては兵士達の詰所かそれとも仮眠室に使われていたのか、ベッドらしきものの残骸だけが当時の名残りであり、現在その部屋の中央からは四つの寝息が漏れ聞こえている。
「ふぉわ!?」
しかしそれも妙な奇声により過去形のものとなった。
「どど、どうしたユウヒ?」
「びっくりしたでござる」
「うわ、すごい汗だな」
大きな声を上げて飛び起きたユウヒに驚き目覚める忍者達、彼らにしては珍しく覚醒が早かったが確実に心臓に悪そうだ。そんな彼らが起きたのは早朝も早朝、普段ユウヒが起きる時間より尚早い時間で、どうやら悪夢でも見たらしいユウヒは三人が驚くぐらいに汗だくである。
「何か嫌な予感が・・・」
「え、ユウヒの予感とかマジで洒落にならんのだけど」
「むむむ、これは益々危険物探索に行きたく無くなるな」
「一人町に残るでござるか? 骨だらけの「NO!」」
寝起きから快調な忍者達は、これまでの経験上ユウヒが感じた予感を真剣に恐れている様で、首を傾げるユウヒに戦々恐々とした表情を浮かべるのであった。
「んーなんだろ、何かやったかなぁ?」
彼に迫る黒い影に、彼自身が気付くのはそう遠くないのかもしれない。
一方ユウヒにとって良い意味で暗躍しているアミールはと言うと・・・。
「緊急回収プログラム異常無し」
ユウヒの為に用意したシステム類の点検や、ステラに言われた対策の点検を行っているようだ。
「展開型防護シールド、装填数32発緊急射出問題無し」
真剣な表情で一つ一つ丁寧に点検していくアミールの見るモニターの中には、様々な装置が映し出されており、それは掌サイズの小さなものから人の身ではその全貌を把握出来そうに無い大きさの物まで、実に様々である。
「多位相閉鎖型防護フィールド展開装置・・・は、なるべくなら使いたくないんですが、これ後始末が大変なんですよね」
中には厄介な装置もあるらしく、その一つである巨大な装置の点検をしていたアミールは、苦虫を噛み潰したとまでは行かないものの、嫌そうな表情で点検項目をチェックしていく。
「はぁ・・・ユウヒさんにもお知らせ、ダメですね心配はなるべくかけたくありませんし」
装置が巨大なだけあり点検項目も多くあり、数十分かけてその装置の点検を終えたアミールは大きく伸びをして溜息を吐く。どうやら小休止を入れるようであるが、彼女の頭の中にはユウヒの事で一杯の様である。
「・・・・・・はぁ、ほんと余計な事しかしない糞虫ですね」
大きな背凭れに体を預けて目を瞑っていたアミールであるが、急に眉を寄せたかと思うと瞼を開き仄暗い光を灯した瞳をモニターに向け、ユウヒの前では絶対に見せない様な暗いオーラを洩らすのであった。
一方色んな意味で危機が迫って居そうなユウヒはと言うと、トミル王城正門前で整列した忍者達の前で背筋を伸ばして胸を張っていた。
「それでは諸君これよりトミル王城に入るわけだが」
しかしその表情は姿勢とは裏腹にやる気なさ気に歪められている。どうやらこれからの作業に対する感情は気合でどうにかなるものでは無いようだ。
「「「・・・」」」
そんなユウヒの前に並ぶ忍者達も似た様なもので、一列横隊で並ぶ彼らの顔も優れないものである。どうやらユウヒの嫌な予感発言が尾を引いている様だ。
「その前に念の為、俺の探し物は何処? 【指針】」
「王城に真っ直ぐでござる」
「完全に真っ直ぐだな」
「それじゃユウヒ、はいこれ」
昨日の時点で決めていたように、ユウヒは右手に持っていた枝を放り投げて自らの探し物の位置を調べる。ユウヒの意に従って落下した枝は、彼らの横に大きく口を開いた正門を真っ直ぐと指示し、四人の視線を誘導した。
「・・・トミルで起った災害の原因は、何処? 【指針】・・・!・・・」
続いてヒゾウに渡されたもう一本の枝を放り投げたユウヒは、その軌道を目で追い結果を確認すると、そのまま視線と表情を枝に固定したまま動かなくなる。その枝が示した方向も位置も、最初に投げた枝とまったく同じ位置であり、以前と同じく最初に投げた枝を弾いて地面に着地していた。
「「「・・・帰らないか?」」」
一向に顔を上げないユウヒを、三忍は真剣な表情でじっと見詰めていたが、次の瞬間ふにゃりとした覇気のない声と表情でそう提案する。
「はぁ・・・確定だな、ついでに悪い話しがもう一つ」
「なんぞ?」
三人の声に、自然と入っていた力を溜息と共に抜いたユウヒは、諦めの入った様な苦笑いでもう一つの不幸な報せがあると言うと、首を傾げるジライダの相槌に頬を掻く。
「探知の範囲がさらに狭くなってる」
「さらに可能性が上がったでござるな」
「もう確定でいんじゃね?」
その報せとは、王都に入ってから不調であったユウヒの【探知】の状態が、さらに悪くなったと言う報せであった。王城突入前からテンションだだ下がりの三人に苦笑するユウヒは、すでにほぼ意味を成さなくなったレーダーをもう一度見ると、静かにその機能を停止させる。
「逃げる準備だけはしとかないとなぁ」
「・・・」
視界の確保を優先したらしいユウヒは、ヒゾウの言葉に視線を外すとどこか哀愁漂う表情で城の正門を見詰め頬をピクリと笑う様に引き攣らせた。
「ユウヒ今何考えた?」
「え? 聞くの?」
そんな僅かな表情の変化も目敏く感じ取ったジライダは、見てしまった以上聞かざるを得ないと言った表情で問い掛け、その問い掛けにユウヒは嫌そうに振り返る。
「フラグな気しかしないでござるよ?」
「それでも聞くのが俺等だぜ!」
「おう! その通り!」
何が彼らを駆り立てるのか、明らかに地雷と思われる物でも躊躇なく踏み抜きに行くその姿は、名は体を表すと言う言葉が良く似合う姿、いやその表情からは自棄になっている様な空気すらを感じた。
「いやぁ逃げる暇があればいいなぁ・・・と」
「「「あ、フラグっすね」」」
そんな彼らが見詰める、いつも以上にやる気を感じれないユウヒがふと脳裏をよぎらせたものは完全にフラグでしかなく、その言葉に全てを察した様な顔になっる三人。
そのまま数秒か数分か、沈黙の時間が流れユウヒの足元を力の感じられない風が、地面を撫でる様に流れていく。
「あーやんだやんだ、さっさと行くべ」
足元を流れた風が、自分を呆れた様に急かしている気がしたユウヒは、背筋を伸ばすとダラダラとして足取りで歩きだし、何処の方言か分からない言葉使いで正門へと進み出す。
「んだぁんだ」
「さっぷなる前におわらすっべ」
「どこの方言でござるか・・・」
そんなユウヒに、忍者達もやはり色々な方言が混ざって居そうな言葉を垂れ流しながらその後に続く。一人ボケ損なったためかツッコミにまわるゴエンモは、ヒゾウの後ろである最後尾に続きながら、背を撫でる冷たい空気に思わず背を丸めるのだった。
その頃、同じ冷たく乾いた風が地面を撫でる強欲の森外周部では、複数の人間がアルディス達の前に整列していた。
「第一次調査隊準備完了です!」
その整列する顔ぶれの大半は統一された装備のグノー王国兵士、次に多いのが個性豊かな装備を纏った冒険者達と数人しかいないエルフ族である。彼らはこれから強欲の森内部に入りより詳しい調査を行うのだが、その表情は等しく強張っていた。
「うん、決して無理はしない様に全員帰って来てね」
「はい!それでは出発!」
それも当然であろう、これまで何度も行われた調査において無事全員帰還した記録など存在しないのだ。言わば彼らは決死隊となんら変わりは無く、その任務に志願した彼らの士気はアルディスの言葉に頷く表情から高い事が良く分かる。
「・・・何も無ければいんだけど」
調査隊が背を見せ移動を開始すると、アルディスの表情は自然と心配気な表情へと変わる。先ほどまでは気を張って表情を作っていたものの、気が抜けた瞬間隠していた表情が表に出てしまった様であった。
「アルディス様」
「あ、うん・・・でもやっぱり心配だよ」
「まぁそうよね」
その事をバルカスの言葉で認識したアルディスは直ぐに表情を元に戻すも、やはりその目から不安の色は拭えない。そんなアルディスの言葉にセーナも同意すると、肩を竦めアルディスとバルカスに微笑みかける。
「今までどれだけの人間が全滅したか分からないからね」
「昔は各国躍起になって調査員を出したらしいですからな」
「トミル王国か・・・何が皆をそうさせたんだろう」
寿命の長いエルフである二人は実際に当時の様子をその目で見て来ている。特にナルボは当時率先して調査に出たエルフの一人であり、そんな彼の言葉に、当時は前線に出る事を許されていなかったバルカスと、まだ小さかったアルディスは暗い表情で枯れた森を見詰めた。
「あの国は色々キナ臭かったけど技術力だけはトップレベルだったのよ・・・いろいろと欲する人間は多い筈よ」
様々な意味で滅びたトミル王国を知る者は少ないが、長命であるエルフの二人にとってはごく最近の事であり、特に隣国であるトミル王国については嫌でも知識量は多くなる。
そんなトミル王国は農業大国と言う他にも技術大国の側面も持っていた。国民の9割近くが魔法を使えないと言う事実がこの国をそうさせたのだが、その中には非人道的なものなども含め様々なものがあり、価値を知る者にとっては犠牲を出してでも手に入れたい物であった様だ。
「僕も昔はいろいろと試したんだけどね」
「精霊魔法だけではどうしようもないわよ、なにせ魔力がほとんど無いんだから」
トミル王国の機密を欲した者の中には、青の氏族であるナルボ達も居り、特に彼は様々な方法を試したようであるが、結局のところその大半は彼らが得意とする精霊魔法を基礎とする技術である為、当初魔力が希薄だと分かっていなかったこともあり、あまり良い結果は出せなかったのである。
「それだけじゃないと思うんだよね、何せ魔力内蔵型のゴーレムも帰って来れなかったし」
一応強欲の森の状況が解って来た頃には対策も講じた調査が行われたのだが、結局は空気中の魔力欠乏と夥しい数のカースツリーにより内部調査でこれと言った成果は得られなかった。現在の様な外周部や遠距離からの警戒と言う形に落ち着いたのは最近の事であり、それも各国間での様々な協議の上でようやく成立したものである。
「・・・いろいろ試したんですね」
「・・・まぁね」
様々な試みもすべて実を結ばなかったと説明するナルボの背中は、アルディスには哀愁の漂いまた心なしか煤けても見え、気遣うような言葉が彼の口から自然に出て来た。その姿をバルカスは同情の目で、一方セーナは当時を思い出したのか笑いをこらえるように目を伏せるのであった。
ナルボを中心に何とも言えない空気が支配する強欲の森外周部から遠く離れたトミル王城内部、そこではちょっとした事件が起きていた。
「こ、これは!?」
「なんてことだ・・・」
「まさか、何故こんなところに」
彼らの起こす事件であるのでそれほど心配することは無いのかもしれないが、忍者達の様子は珍しく狼狽えたもので、何か一点にその三対の視線は集中している。
「あん? どした?」
様々な白骨や調度品と思われるフルプレートの鎧が並ぶ長く広い廊下を、警戒するように間隔をあけて歩いていた四人。なのにもかかわらずいつの間にか一か所に固まっている三人の姿に首を傾げたユウヒは、走ることもなくゆっくり歩いて何かを注視する彼らに近づく。
「ユウヒ殿メイドさんでござる!」
彼らが無駄に熱の籠った視線を向ける先には、調度品の甲冑の足元に横たわった白骨があり、その服装からメイド、所謂使用人だと言う事が解る。しかしそれだけならこれまでにも三人は度々見かけては目の保養をしてきていた為、これほど興奮はしない。彼らが興奮した理由はそのメイド服の仕様にあった。
「ふむ、これはヴィクトリア様式をベースにしたミニスカ仕様のようだな」
「グノーはロングオンリーだったのに・・・くっ! この国が残っていれば本物のミニスカメイドさんが見れたと言うのに!」
メイド服を知っている人にとって正統派などと呼ばれるシンプルなヴィクトリア様式、しかし今目の前にあるのは、ヒゾウが冷静に鼻から赤い劣情を垂らしつつ解説した通り、スカートの丈が非常に短いミニスカタイプなのである。
「・・・・・・仏さんにそんな目向けてたら罰あたんぞ?」
彼らがこの世界で見て来たメイドはどれもロングスカートだったらしく、もしこの国が無事であれば本物のミニスカメイドが見れたものを、と血涙を流すほど悔しがるジライダにユウヒは冷めた視線をむけつつそう言葉をかけた。流石のユウヒも仏様相手に目を血走らせるジライダには引いた様である。
「いやいや罰だなんて迷信、うむぅこの布地の肌触り・・・高級品だな! 劣化も少ないぞ」
冷めた視線を向けてくるユウヒの言葉を笑い飛ばしたジライダは、メイド服の手触りを確認しその品質に感嘆の声を漏らす。
「まじか、こだわりを感じるな! ・・・ん?」
「あ、ジライダ上! 上!」
「あ」
メイド服に集中していたジライダ、この時彼はとある失敗をしていたのだがその事にまったく気が付かず、またいつもなら気が付きそうな危険の接近にも気が付いていなかった。その危機を知らせる仲間の言葉も冗談と受けとったのか、
「は? なんだよそこは後ろ後ろだ・・・ろ!」
いつもの冗談を言い合うような声色でゆっくりと上を見上げた。その瞬間彼の顔すれすれを銀の光が軌跡を描き、さらには石畳にその鋭利な刃を突き立てたのだった。
「罰かな」
甲冑に引っかかっていたメイド服は、ジライダにスカートを持ち上げられた瞬間小さく甲冑を傾け、その傾きはハルバード保持していた甲冑の手を胸の高さから腰の高さへと下ろすことになった。
「罰でござるな」
「罰だお」
その結果、まるでメイドに悪戯をする悪ガキを懲らしめるように、甲冑紳士はその手に持った銀色のハルバードを振りおろし、その鋭く尖った槍の様な先端を悪童の息子に突きつけたのである。
「・・・スイマセンデシタ」
悪童、もといジライダはあまりの恐怖に硬直すると、手からメイド服のミニスカ部分を放し、心から謝罪の言葉を口にするのであった。
それから小一時間後・・・。
「しっかし広いなぁ」
しっかりミニスカメイドの供養を済ませたユウヒ達は、さらに城の奥へと歩を進めていた。未だに城の反対側にたどり着かない事実に、ジライダは高い天井を見上げて思わずそんな言葉を洩らす。
「流石王城ってところだな、グノーと同じくらいありそうだ」
ジライダの言葉に頷いたユウヒは、その広さにグノー王城を思い出し唯一の比較対象と同規模ではないかと予想する。
「ふむ、グノーもそうでござったがこの造り、戦闘を念頭に入れた造りでござるな」
「だな、隠し部屋とか隠し窓とか・・・なんて言ったかな」
「日本の城で言う狭間ってやつだな、弓とか銃を撃ったりするんだが・・・この世界だとクロスボウみたいだな」
そんなトミル王城、様式はグノーと違えど共通する部分も多く見られ、その一つが城内での戦闘を視野に入れた造りであった。城内の壁に要所要所に隠し扉や隠し窓が設置されており、それらは日本の城でも見られる狭間と呼ばれる設備である。
「飛距離は必要ないからか、そういえば銃とか見ないなこの世界」
それらの特徴的な窓がある隠し部屋には、小さめのクロスボウと呼ばれる弓が壁に掛けられており、大量に纏められた矢同様に厚くホコリが堆積していた。そんな隠し部屋の事を思い出していると、ユウヒはふと有る事に気が付き首を傾げる。
「一応あるらしいでござるが、魔法を上回る性能は無いらしいでござる」
それはこの世界に来てから一度も銃と呼ばれる武器を見た事が無いと言う事であった。日本なら早々見る機会の無い銃であるが、ここは異世界であり魔物との戦いに武器は必要不可欠である。そんな世界でも見る事の無かった銃であるが、実は存在自体はしているのだ。
「あぁ自由騎士団の倉庫に置いてあったな、多分フリントロック式じゃねぇかあれ」
「大砲も置いてあったけど触らせてもらえませんでした」
しかしそれらの銃はまだまだ発展途上にあるらしく、正直多種多様な魔法が発達したこの世界では、まだまだその有用性が発揮されることはないらしい。確認した三人が見た銃も比較的最新のものであるが、火縄銃に少し毛が生えた程度であったようだ。
「ふぅん? 魔法が便利すぎるのかね」
「だろうな、その分魔力補充の方法は色々あるからな」
「薬品に補給専用の魔石とか魔力を回復する魔法もあるらしいぞ?」
「遺跡には居るだけで魔力がどんどん回復する施設も有るらしいでござる」
一方魔法に関してはかなり便利に、そして有用に使える土壌が出来ているらしく。銃で言うところの弾薬である魔力を補充する方法も、何種類と研究されており、様々な戦場で活躍することが可能である。
「瞑想しても回復早まるらしいし、銃は流行らんか」
その結果、銃などの武器の進化はユウヒ達の世界ほど進んではいない様で、そのことに若干の物悲しさを感じつつ、それはそれでいいのかも知れないとユウヒは肩を竦めるのだった。
「あ、でも古代文明の遺跡から出る銃らしきものは研究してるとか言ってたな」
「なんかとんでもない威力が出る銃らしいけどほとんど壊れたまま動かないんだとさ」
そんなユウヒの表情を見て何か思い出したのかヒゾウが声を上げる。この世界には遥か昔に栄えた古代文明が存在したが、今では遺跡が残るだけとなるもその遺跡から出土する物はどれもオーパーツと言ってよい物ばかり、その中にはユウヒが係ったような魔法的遺物も有れば科学的な遺物も存在しているのだ。
「古代文明かぁ今度アミールに聞いてみようかな?」
ヒゾウとジライダの話を聞いて興味がわいたのか、珍しく目がに輝きが増したユウヒは、興味深そうに声を漏らすと窓から見える青く澄んだ空を見詰め、この世界で最も博識と思われるアミールの名前を出す。
「確かにアミール殿なら知ってそうでござるな」
「まぁ管理者が知らんと言うのも無いだろうしな」
その言葉にゴエンモとジライダも頷くと賛同する。実際管理者なら調べようと思えば調べられるのだが、その作業がどれだけ大変なのかは神では無い彼等に知る術は無かった。
「公式チート天の声だお、セーブデータがいっぱいですね解ります」
「どこのゲーム機だよ」
もし、彼らが交わす楽しげな会話をアミールが聞いていたとしたならば、きっと顔を蒼くしで否定しただろう。管理神だからと言って世界のすべてを把握している訳ではないと、管理神は別に全知の存在では無いのだと言って・・・。
その頃、予期せぬ危機が近づいているとも知らないアミールはと言うと、
「へっくちゅん! ・・・何やら良くないクシャミのような」
一仕事終えた後の小休止なのか、仕事机から離れてティータイムを堪能していた。しかし噂をされたからか、それともまた室温の設定を間違ったのか可愛いクシャミをだして首を傾げている。
「・・・はぁ、余計な仕事が増えすぎてデータの整理が終わらないですね」
手に持っていたカップから辛うじて中身を零さなかったアミールは、カップをテーブルに置いて口元をハンカチで小さく拭うと、遠くに堆く積まれた資料の山を光の無い瞳で見詰めて疲れた様な溜め息を漏らす。
「近代分までは終わりましたが、古代文明とか超古代文明とかまったく手付かずなんですけど・・・まさかユウヒさんに聞かれたりしないですよね?」
彼女達管理神は全知の存在では無い、しかし人を超越する能力は有している為、調べる事で無限に知識を蓄えることが出来る。しかしそれは膨大なデータを丸暗記するようなものなので、必要な情報だけを抜きだしたりそこから統計的なデータとして整理するのには人同様時間と労力が必要なのだ。
「少し触れる程度に調べておきましょうか」
あまりに情報量が多く難解なデータだった為、保留に保留を繰り返していた古代情報、しかし嫌な予感を感じたアミールは漸くそのデータ群に手を付けるようである。アミール・トラペット、彼女は夏休みの宿題を最後の三日間で時間に追われながら終わらせるタイプであった。
「触れるな!」
アミールが嫌々データ群に触れている頃、外周部に近い強欲の森内部ではグノー兵士達による調査が続けられていた。しかしそんな調査する兵士やエルフ達の手は、突然発せられた冒険者の声で急停止する。
「うお!? びっくりしたぁ脅かさないでくださいよ」
「馬鹿かお前は、何が原因かわからないんだから不用意に触るんじゃない」
どうやら護衛に付いた若い冒険者が、堆く積もったカースツリーに手を触れようとした為、リーダーと思われる男性が注意したようであった。
「触っちゃダメな原因って?」
しかし注意された若い冒険者の男は今一注意された意味が分かっていない様で首を傾げ、渋みのある年配の冒険者を呆れさせる。彼らの目の前に広がる現象は全くの未知であり、不用意な行動は時として死を呼び、最悪は部隊の全滅にもつながりかねないだ。
「そうですね、毒か病気かそれとも呪いか・・・即死の呪いもあるかも?」
「うげ」
その事を経験から理解している者達は、まだ年若い冒険者の男に苦笑いを浮かべ、困った子供に向ける様な笑みを浮かべたエルフの女性は、簡単な説明をする事で彼が浮かべた表情に笑みを浮かべる。
「くすくす、調べてみないと解りませんけどね」
しかし、予想以上にその男が見せた表情が面白かったのか、抑え気味に笑い声を洩らしてしまった彼女は、口元を押えながら安心させるように説明を追加し、調査の続きを始めるのだった。
「俺等の仕事は護衛なんだ、余計な事で足は引っ張れんだろ?」
「うす、毒くらってお荷物とか後で隊長になんて言われるか・・・」
年配男性の諭す様な言葉に頷いた男は状況を正しく理解したらしく、もしあの場で不用意に触った結果起きかねない事態を想像して顔を蒼くさせている。
「お願いしますね? 私達の精霊魔法はここで使えないので、無力とは言いませんが戦闘は出来るだけ回避したいのです」
「了解であります!」
事切れて動くことの無くなったカースツリーの破片を慎重に採取するエルフ女性は、顔だけで男性の方に振り返ると、エルフらしい整った顔で微笑む。エルフと人との間で美醜間隔の違いは無く、揃って美形揃いのエルフに優しく微笑まれれば発奮しない男は居ないのであった。
「はぁ、しかしこれ何があったんだ?」
「山ですよねぇ」
そんな若い男の姿に溜め息を漏らした年配の男性は、周囲に堆く積りちょっとした山を形成しているカースツリーの姿に呆れた様な声を漏らし、デレデレと鼻の下を伸ばしていた若い男性冒険者も口を開けながらそれを見上げるのであった。
強欲の森内部で見上げる様な黒い木の山が調査されている頃、ユウヒ達も冒険者同様に何かを見上げていた。
「山だな」
「山でござる」
どうやらこちらも山を見つけたのか、どこかで聞いたような言葉を呟くヒゾウとゴエンモの二人。
「うむ、やま・・・ってこんな真っ白な山があってたまるか!」
その言葉に思わず同意しそうになるも正気? を取り戻し叫ぶように声を上げるジライダ。
「冬山登山の気分で行って来れば?」
「やだよ!」
城の奥へと進んでいた彼らの前に広がっていたのは、横にも縦にも広いホール内ギリギリまで使い聳え立つ真っ白な白骨の山であった。涙目のジライダでは無いが、流石に冬山登山気分で上りたいと思える様な代物では無い。
「しかしこれは今までで一番酷いでござるなぁ」
「あれだな、ラスボス前臭がするよな」
「貴様毎回フラグ立てるのどうにかならんのか?」
ジライダだけではなく二人もその光景には表情を引きつらせている。しかしそれでもいつもと変わらない空気がそこには流れており、いつも通りにヒゾウが危険なセリフを吐いてジライダを呆れさせるのであった。
「ラスボスかぁ・・・うん、探知が全く働かなくなてんだけどこれって当り?」
「え・・・」
そして建てられたフラグはしっかりと機能したようで、確認の為にと【探知】魔法のレーダー機能を確認したユウヒの言葉によってその場の空気は凍り、ヒゾウは目を大きく見開きユウヒを見詰める。
「ヒゾウ責任取ってラスボスにファーストアタックでござる」
「ほんとお前色んな意味で持ってるよな」
持ってる男ヒゾウのセリフが原因ではないのだろうが、実際ユウヒのレーダーはこれまでに無いほど不調であり、その砂嵐の様な状態にユウヒは再度レーダー表示を閉じた。
「いやいやそんな、え? マジで?」
「さぁ? とりあえずこの先に言ってみないとわからん」
きょろきょろと三人に忙しなく視線を彷徨わせるヒゾウは、背中に変な汗を流しながらユウヒを見詰めると頬を引きつらせる。そんなヒゾウの姿にユウヒは肩を竦めて見せると、特に気にする事無く白い白骨の山を迂回して先に進み始めた。
「ん? 明るいってことは外か?」
「奥まった場所にある大ホールの次は外、中庭でござろうか?」
ホールの中央に鎮座していた白い骨の山を迂回すると、その先には入ってきた扉と同様の大きな扉が解放状態で見え、その扉からは明るい日の光が差し込んでいた。
「忍者がファーストアタックとか無いわぁそこはメイン盾の仕事だろ」
「いやここにそんな屈強な騎士はいないだろ」
そんな日の光とは対照的に暗い顔のヒゾウは、ぶつぶつと不平と不安を洩らしながらユウヒの隣を歩いており、隣のユウヒはヒゾウの言葉に苦笑すると三人を見回しそう告げた。実際彼らの姿はどれも屈強とは程遠く、どちらかと言えば痩せ形から中肉中背の間位で、いわゆる普通の体形である。
「そういえばそうでござるな」
「ふんふんふん、あれ? 全員アタッカーじゃね?」
「バランス悪いパーティ編成だお」
さらに付け加えるならば4人とも布製の服を着ただけで、この世界の冒険者が着ているような金属製どころか革製の鎧一つ着ていない。体にかかる重量を軽減して速さで戦う軽戦士と言われて納得できないほどではないが、普通の冒険者なら生存性の低さからそんなパーティは組みたがらないであろう。
「ゲーム脳乙。ほれ警戒してくれここは忍者の出番だろ?」
改めて自分達の事を評価しなおし微妙な表情を浮かべる三人に、ユウヒは御座なりな突っ込みを入れると先に進むよう促す。最近のゲームや漫画ではバリバリの前衛として描かれることが多いが、実際忍者と言えば偵察や工作などを行うことがメインの斥候役なのである。
「おう、むーぶむーぶ」
「ごーごーごー」
「ヤル気ゼロでござる・・・」
「・・・まぁあれでちゃんと出来てるから流石忍者なのかね?」
その忍者と言う概念により新人類へと進化した三人は、どんなにやる気がなくとも最低限忍者としての力を発揮できるのか、御座なりな突っ込みでテンションの下がった状態でもその動きは非常に機敏で、ユウヒに感心されるのであった。
「ゆ、ユウヒ殿! 何か凄いでござる!」
「「ほへー」」
三人が軽い身のこなしで、どこかの特殊部隊宛ら扉の中に入るのを確認し、後を付いて行くユウヒ。しかしすぐに扉の向こうからゴエンモの大きな声が上がり、ユウヒはすぐに駆け出す。
「なにがあった・・・んだこりゃ?」
駆け出し大きな扉を潜ったユウヒが見たものは、驚きで呆けた表情を浮かべる三人の姿と、ユウヒ自身も同様に驚いた表情を浮かべる何かであった。
いかがでしたでしょうか?
若干修正作業の密度に不安がありますが、少しは楽しんで頂けたのではないかとオモイタイ・・・。それでは次回、ユウヒ達が何を見たのかお楽しみにと言うわけで、またここでお会いしましょう。さようならー




