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ワールズダスト  作者: Hekuto


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第百二十八話 廃都トミル王都 前編

 どうもHekutoです。


 修正作業終わりましたので、投稿させていただきます。楽しんで頂けたら幸いです。



『廃都トミル王都 前編』


 ある人が言った『元気があれば何でも出来る』と、事実肉体的にも精神的にも元気であればどんな一歩も踏み出すことが出来るだろう。そしてそれは、疲れていれば動く気にもなれないと言う理論を成り立たせるようだ。


「げんきですかー」


「「「・・・・・・」」」


 気分を引き締める様な空気で満たされた早朝の空の下、ユウヒの声に耳を傾けながらも無言で見返す事しかできない忍者達はまさに疲れ切った状態である。


「返事が無い、ただのぼろ布の様だ」

 虚ろな目で見返してくる忍者達の姿に、ユウヒは見たままに思い浮かんだ言葉をオブラートに包むことなく呟いた。


「それはひどいでござる」

「そうだそうだ! せめて雑巾ぐらいにしる!」

「それもいやだよ・・・」


 どうやらユウヒの心からの言葉には復活か目覚めの力でもあった様で、生気を宿して無かった忍者達の目に光が宿り、思い思いに不平不満を洩らし始める。


「しかし良く生きてたな」

 昨夜神殿内で突如始まったデスマッチは、最終的に忍者達も兎神も疲れて動けなくなったことでドローと言う結果に落ち着いたのであった。


「ほんとびっくりだよね。神殿が壊れない様に手加減こそしたけど普通もっと悲惨な事になってると思うの」

 そんなデスマッチが終わったのは今から2時間前、兎神であるラビーナは基本的なスペックが違うのか、単純に鈍器を振り回していただけだからか、既に立ち上がる元気が戻っている様だ。


「「「全力で逃げたからな!」」」


 それに対して、不思議そうな表情でユウヒの隣に立つラビーナに噛みつかんばかりの声をぶつけた三人は、まだその表情から疲れが抜けきっていない。実際は新人類忍者も立ち上がって一走り出来るだけの体力は戻っているのだが、今は少しでも休みたいらしく門の外まではユウヒの引っ張る長椅子に乗って運ばれて来ていたりする。


「みゅん」


「まぁ神も精霊も怒らせちゃダメって事だな」


「メモしとくでござるヒゾウ」

「最重要項目で一ページ目に書いとけ」

「もう表紙にメモ済みだお」


 三忍の威嚇にウサミミで顔を隠したラビーナに苦笑を洩らすユウヒの言葉には、駄目だと解っていてもついやりたくなる精神がこびり付いている三人も流石に懲りたようだ。その事を如実に語る様に、ヒゾウのメモ帳の表紙にはでかでかと『ラビーナ危険、怒らせるべからず。』と書かれていた。


「それじゃ行くけど・・・どうする?」

 そのメモ帳を見たラビーナとヒゾウの間で一悶着ありはしたものの、ユウヒの一声で三人は直ぐに立ち上がると機敏に動き始める。


「行くでござる!」

「ここに居たら今度こそ切られかねん」

「切るっつか撲殺? なんだっけ・・・ブラッドキャロット?」


「私の神器は血に飢えてないよ!」

 彼らの行動は一見ラビーナを危険視している事でこの場を速く離れたい様に見えるが、その実彼らの口元はラビーナの過剰な反応に、にやける様に引く付いている。


「これはいかん! またやられるぞ急げ!」

「逃げるが勝ちでござる!」

「ヤフゥゥ!」


 そう、つい先ほど学習したはずの神族の注意事項なのだが、その場のノリを大切にする彼等には、その注意事項以上に大切な何かがあるらしく、ぼろ雑巾の様にくたびれた三人の忍者は大声でラビーナを煽るような言動を見せながら、カレル村の壊れかけた門を背に走りだす。


「明らかに煽ってるだろ」


「むぅぅぅ! 失礼な子達だよまったくまったくまったく!!」

 その後ろ姿に呆れと予想的中による苦笑を洩らしたユウヒの隣では、どこから取り出したのか、真っ赤な人参型のヘッドが付いた長柄のハンマーを振り上げ怒りの声を上げるラビーナ。


「まぁ多分悪気は無いと思うが・・・お手柔らかにな」


「・・・しょうがないなぁ、ユウヒ君がそう言うならそうするよ」

 不機嫌オーラが目視できそうなラビーナの姿に、ユウヒは顔面の筋肉を全力で使い微笑む。その言葉に先ほどまでとは違う意味で頬を赤く染めたラビーナは、胸元までハンマーを下ろすと、不承不承ユウヒの言葉に頷いてみせた。


「・・・・・・うん、じゃまたな」

 しかし少し機嫌のよくなったはずの彼女がもつハンマーは、彼女の隠された感情に反応してか禍々しい色合いに染まっている。


「いってらっしゃーい」

 目の前の状況に、ユウヒは忍者達の前途を想像し頬を引き攣らせると、明るい声のラビーナに見送られながら、先を走って行った忍者達を追いかけるのであった。その背中に凶器を頭上で軽々と振るう兎神の狂喜を感じながら・・・。





 ユウヒが先を行ってしまった忍者達を追いかけている頃、アルディス率いるグノー王国軍及びエルフの混成部隊はエリノマ平原を南下していた。


「やはり人族の騎兵隊は早いわね」


「まぁ平原だしね、僕達森の民と違ってここは人族の方が慣れているだろうし」


「あはは、風の精霊魔法の力が無ければ僕らもこんなに早く安全には行軍できないですよ」

 移動に適した隊列を組み行軍する長い列の中央には、最も守らなければいけない総大将のアルディスが乗る馬車。寒風吹き荒ぶエリノマ平原にも一応の街道はある為、馬車での移動も可能なのである。


 しかし所詮一応の街道であり、その荒い道を進む馬車の中では普通に会話を交わす事は本来出来ない。アルディスと、同乗しているセーナとナルボが会話をできるのは、エルフ達の精霊魔法によるところが大きく、元より整地されていない場所を移動することが多いエルフ達にとっては、比較的有り触れた精霊魔法のようだ。


「あら、そう言ってくれると嬉しいわ。がんばった甲斐があったと言うものね」


「・・・母さんは何もして無くないかな」

 そんな会話が交わされる馬車の内部は一般的な馬車より広く、揺れが少ないこともありメイによってお茶の準備が行われている。魔法の話と言う事もあり、彼女もアルディス達の世話をしつつ興味深そうに耳を傾けているようだ。


「あら、そんな事言う御口はこれかしらぁ?」


「いはいれふおはーはま!?」


「お母さん何言ってるか分からなぁい」


「くすくす」


「あはは・・・」


 しかしその会話もいつの間にか微笑ましい親子の会話に変わってしまったようで、メイは抑えきれなかった笑い声を洩らし、アルディスはどこかで見たことのある光景に乾いた笑いを洩らす。


「アルディス様、この調子で行くと今日中には強欲の森の境界部に着けると思いますが」


「そんなに早いんだね」

 アルディスがグノー王家のワンシーンを思い出していると、馬車の外で周囲警戒を行いながら馬を歩かせているバルカスからアルディスに声がかかる。どうやら彼らの行軍工程は予定していたよりも早いようだ。


「その後はどうしますか? 調査で今日は潰れると思いますが、早ければ明日にも内部調査に入れるかと」


「内部か・・・正直あまり気乗りはしないんだけど、内部から精霊の反応があったんだよね」

 当初の予定では、強欲の森外周部に到着するのは日が落ちる頃であった為、そのまま野営の準備に取り掛かり調査は明日であった。しかしこのままいけば到着地で遅めの昼食を摂れるほど早く、予定を繰り上げて進めることが出来る事でバルカスはアルディスに声をかけたのであった。


「その「そうよぉ」ようですな」

 バルカスの話に頷くアルディス、しかし内部調査にはあまり乗り気ではないのか表情を曇らせる。そんなアルディスとバルカスの会話に、ナルボの両頬から指を離したセーナが楽しげな声で割り込み、バルカスを心なしか呆れさせた。


「イタタ・・・そうだね、かなり大きな精霊力だったから大精霊クラスでも上位の魔法が使われたんじゃないかな」

 視線に呆れを含ませるバルカスであったが、内部で発生した精霊の反応などに関する情報はセーナ達の方が詳しいため、その説明を聞くために前方を確認しつつ馬上で聞きの体勢を整える。


「その、大精霊クラスと言うのを詳しく教えてほしいのですが」


「むふふそれはだね! 精霊魔法にも君達人族が使う魔法の様にランク分けを試みた結果、最近基準が出来て来たばかりなんだが、先ず小精霊クラスと言うのが守備兵などが使っているレベルになりそこから小中級、小上級。さらに中位精霊クラスも同じように三段階に分かれておりいだだだ!?」


 魔法大好きなアルディスも初めて聞く言葉である『大精霊クラス』、これは最近エルフの間で行われている精霊魔法の整理統制計画で作られた精霊魔法のランク指標の事であった。これはまだ出来て間もなく、アルディスが知らないとしてもまったくおかしいものではない。


「ながいのよあなた。そうね解りやすく言うならあなた達で言う戦術魔法くらいの事ね」

 そんな説明を嬉々として始めたナルボであったが、その説明はウンザリした表情のセーナから伸びた手によって、言葉の羅列を吐き出す顔面事握りつぶされる。


「せ、戦術魔法ですか!?」


「それって要塞攻略戦で使うような魔法だよね」

 エルフ青の氏族に見られる説明好きの血を色濃く受け継いだナルボの説明を簡略化し、大精霊クラスを説明すると、人族で言う戦術魔法と言うレベルの魔法になるのだが・・・。


「要塞攻略だけとは限りませんが、そうですね・・・我々の部隊規模でしたら魔法の種類にもよりますが、一度でも受ければ大損害でそのまま撤退でしょうな」

 これは要塞攻略などで城壁の破壊や広範囲に展開した敵を一掃するためのなどに使われる大規模魔法の一種の事であった。ちなみに、以前暴走ラットを焼き払っていた巨大な火炎弾を飛ばす蛇神騎士団の儀式魔法は、この広範囲魔法を簡易化した縮小版の魔法である。


「そんな規模の魔法が・・・」


「あ、でもこれ最低でよ?」


『え?』

 実際の攻撃用大規模魔法は着弾地点からかなり離れていないと巻き込まれる危険性もあり、さらに使うにはそれ相応の高コストが必要な為、滅多に見ることが出来ない魔法の一つだ。しかし驚きの声を上げたメイや、表情を険しくするアルディスとバルカスの想像は、セーナの軽い調子の声により悪い意味で否定される。


「無駄に放出された精霊力と魔力から算出しただけで、これが精霊本人による力の行使なら伝説級かもしれないわ」

 エルフ達が遠距離から精霊魔法の発動を感知した方法は、魔法具製のセンサーみたいなもので、離れた場所で放出される特定の魔力波を検知するものであった。この検出対象は無駄が多く不安定な魔力であれあるほど反応が強く現れる特性があり、これは魔力の暴発や暴走を感知するための魔法具を流用したことに起因する。


「ゆ、ユウヒ大丈夫かな」


「生きてると良いのですが」


「はわわわわ」

 まさかの新事実を聞かされた三人、アルディスはユウヒを心配しその顔を蒼く染め、バルカスは手綱を握る手に力を込めながら神妙な表情を浮かべ前方の空を見上げた。メイに至っては想像を超えた事態が起きている事で、今にも倒れそうなくらいに血の気を引かせている。


「・・・母さん」


「あら? 驚かし過ぎたかしらうふふふ」

 そんな重い空気を前に、セーナはジト目を向けてくる息子に楽しそうな笑い声を聞かせ、呆れさせていた。


『・・・(絶対わざとだ)』


「うふふ」

 どんな思惑があってそんな話をしたかはナルボにもわからなかったが、確実楽しんでいるであろう事は、人を超える長い寿命の中で学んだ母親学なるナルボのオリジナル学術により理解できるのであった。





 一方その頃、心配されているユウヒの方はようやく忍者達に追いついた様である。


「おーいお前らおいてくなー」

 なぜか大きく腕を振り競歩で競い合っている忍者達に苦笑を洩らしながら、大きな声を上げて駆け寄るユウヒ。


「ふあ!? ってユウヒか」

「ユウヒ殿ぶじでござるかー」

「ユウヒなら大丈夫だろ、昨日のあの暴風の中でも怪我一つ無かったんだし」


 あまりに白熱していたからか、ユウヒの接近に気が付かなかった三人は肩をビクつかせると勢いよく振り返る。しかしすぐにそれがユウヒだと気が付くとほっと息を吐き、近づいてくるユウヒに大きな声で返事を返す。


「やっと追いついた。置いて行くなよなぁ」


「いやしょうがないだろ」

「そうでござる・・・ところでラビーナ殿のご機嫌は?」

「おこ? 激おこ?」


 立ち止まり待っていた三人に追いついたユウヒは、小さく溜め息を吐くとその口から苦情を吐き出す。それに対してジライダは真面目な表情で首を振り、ゴエンモも同意するように頷くと、自分達が怒らせておきながらラビーナの機嫌を心配する三人。


「うーん・・・」

 彼らに呆れつつ考え込むユウヒに、音の少ない周囲はより一層静かに感じられ、忍者達が唾を飲み込む音は一際大きく感じられた。


「うん、ぷんぷんドリーム的な?」


『・・・死んだ』

 しかしユウヒの口からは、彼らが望む回答は聞こえて来る事が無く、むしろ予想を超えた怒りをその言葉とユウヒの表情から感じ取った忍者達は、その場に立ち尽くす。どうやら己の最期を幻視したようである。


「見送る時に妙に禍々しい人参型の槌を振ってたし」

 苦笑いを浮かべたユウヒは、別れ際に見たラビーナの姿を思い出しながら伝えるも、それは三人にとって追い打ちにしかならず、


「・・・俺、この戦いからかえった「「ストップストップ!」」」


 ヒゾウは半開きの口から思わず死亡臭の似合うセリフを洩らしかけ、ジライダとゴエンモに止められていた。


「不用意なフラグ立てんなよ、これからが本番なんだから」


「そ、そうだった。まだ俺達の戦いははじ「「ダメダメダメダメ!?」」」


「・・・打ち切り間たっぷりなフラグもいろいろと危険だなおい」

 ジライダとゴエンモに口を押えられたヒゾウは、呆れ顔のユウヒに頷き返すとジライダとゴエンモの手から逃れ再度危険な言葉を吐きそうになるのであった。


「とりあえず急ぎめで行くとして、王都に着いたら先ず何をするでござるか?」

「え? 原因探しだろ?」

「それ何処あんだよ」


 その後も妙なフラグを洩らし続けるヒゾウを正気に戻した一行は、古惚けた街道を歩きつつこれからの予定を話し合う。本来ならこの辺の予定も昨日のうちに立てるはずだったのだが、忍者達が余計なイベントを開催してしまったためにお流れになっていたのだ。


「王都のどこかまでは解ってるわけで、町中かそれとも怪しい研究所でもあるかってところか?」


「あぁそっか、王都だもんな広いのか」

「当ても無く探すには少々キツイでござるな」

「最低でもグノー王都を想像しとかないとなぁ」


 ユウヒの魔法により王都のどこかに目的の危険物があるであろうことは解っており、最悪もっと遠くにあるとしても、ユウヒの魔法で再度探すだけである。それよりも王都と言われるだけの広さと複雑さがあるであろう場所で、どんな物かもわからない危険物を探す事の方が難しい作業であるのは確かだ。


「学園都市みたいじゃなきゃ良いが」

 広さはユウヒの知る中で一番大きなグノー王都を想定する彼等であるが、街並みの複雑さを彼らが知る中で最大にすると、それは学園都市になる。


「あそこはごちゃごちゃ入組んでござったからな」

「無計画都市ってああ言う街の事なんだろな」


 学園都市の中で当初計画されていたのは中央の学園部分とその周辺の商店街と教職員や生徒用の宿舎くらいであった。その周りに乱立する研究施設や様々な専門分野ごとに増えた学園塔、それらの集客率に目を付けた商人達がこぞって建てた商館やバザーなどは、誰も統制する者が居なかった当時の学園都市で無計画に建設され、学園都市を一種の迷路のように変えてしまったのである。


 今では毎日のように迷子が出る事で有名な学園都市には、迷子対応専用の兵士が各所に常駐しており、それは日本の交番の様な扱いで市民に親しまれているのだった。


「俺もあそこは探知の魔法があっても迷いそうだったからな」

 そんな街でもユウヒが真面に出歩くことが出来たのは、偏に【探知】の魔法による正確な立体地図のおかげである。


「ヒゾウは諦めて屋根走ってたよな」

「あぁ、いきなり窓が開いて落された時はびっくりしたぜ」

「むしろびっくりしたのは住民の方でござる」


 立体地図のおかげで出歩くことが出来たユウヒに反して、ヒゾウは早々に道を歩くことを諦め建ち並ぶ家々の屋根を駆け抜けていたらしく、その際突然開いた窓に押され落下するなどの迷惑な事故を何度も起している。


「・・・何やってんのさ」

 ユウヒに呆れた視線を向けられている彼らは知らない、黒い姿をした怪しい影の噂は学園都市中に広まっており、その話に尾ヒレがついて学園都市怪奇談の一つにラインナップされたことに・・・。





 一方グノー学園都市に関する治安維持会議を終え、執務室で手紙に目を通しているグノー国王バルノイアは、妙な怪奇談が増えて百物語が作れそうな学園都市に呆れていた顔を、深刻な表情に変えていた。


「・・・・・・」


「陛下?」

 その表情に、目の前で控えていた文官長の男性は心配そうに声をかける。


「すぐに緊急通達を・・・いやまだ早いか、何が起こっているか調べてからでも遅くは無い、か?」


「あの、何か変事でも?」

 男性の声に気が付き顔を上げ言葉を口にしようとしたバルノイアであったが、また直ぐに考え込み始めると、独り言の様な呟きを洩らし始める。その行動に妙な胸騒ぎを感じた文官の男性は、どこか恐る恐ると言った声で再度バルノイアに問い掛けた。


「うむ、強欲の森に動き有りだ」


「なんと! それでは直ぐに動かねば」

 その胸騒ぎは正しかったが、同時にバルノイアの口から飛びだした内容は、彼の予想をはるかに超える事態であり、慌てた男性は顔を蒼くすると慌てて体を翻す。


「待て! アレは起っておらん・・・しかしな」


「は、はい・・・しかし?」

 今にも走り出しそうだった文官の男性は、バルノイアの大きな声に動きを止めると、続くバルノイアの言葉に少しだけほっとした様な表情を浮かべたが、その後を言いよどめたことに何か感じ取ったようで表情を引き締める。


「冒険者一名と自由騎士団員三名が森に入った可能性がある」


「また無謀な」

 バルノイアが眉に皺を寄せながら告げた内容は、当然ユウヒ達の事でありアルディスからの手紙にもそう書かれていた。その言葉に文官の男性は呆れと驚き、そして僅かな憐みの籠った表情と声を漏らす。これはこの男性に限った事では無く、少しでも強欲の森ついて知っている者なら同じような表情を浮かべるであろう。


「・・・無謀か、すぐに自由騎士団に連絡し詳細を聞いてくれ」

 そんな死地に向かったユウヒ達に、思うところがある様な表情で口元を緩めたバルノイアは、詳細を知る為に自由騎士団と連絡を取るように指示を出した。


「失礼、その必要はございません」


「む? おお良い所に!」

 しかしその指示に文官の男性が返事をするよりも早く、執務室の入口から凛とした女性の声が聞える。それは忍者達が姐さんと呼んで慕う女性で、その姿を認識した文官の男性は嬉しそうに明るい声を上げた。


「森へ侵入することについては此方で許可を出していましたので、特に問題はありません」


「バカな!? あなた方は仲間を見殺しに、いやまさか生贄にするつもりか!」

 入口からバルノイアの前まで進み出た彼女は、一礼するとそう簡潔に述べ、先ほどまで明るい表情を見せていた文官の男性を驚かせる。


 生贄、この言葉を使うのには強欲の森が一定の間隔で見せる特性に理由がある。その特性にはカースツリーが関係しており、森に生物の侵入が無い期間が長く続くと、原因は解明されていないが大量のカースツリーが森から出て来て周辺の生物を無差別に襲うと言った現象が起っていたのだ。


 この災害と言ってもいい現象を押さえるために、定期的に森に生贄となる人間を送り込むことが昔はなされていた。しかしそれは昔の事であり、今はカースツリー発生の兆しを捉える事で、あらかじめ各国が軍を派遣することで対応している。


「・・・どちらでも無く、最良の選択と考えております」

 そんな負の歴史を繰り返すつもりなのかと驚愕した男性に対して、女性は冷静に受け応え、その目には一切の迷いがなかった。


「ふむ、それほどの手練れか・・・」

 誰が強欲の森に入ったか知っているバルノイアであるが、戦闘力や諜報能力に長けた自由騎士団が問題無いと判断した事には少し驚いたようである。それは彼女達が忍者達だけでなくユウヒの情報も揃えていると考えられたからだ。


 バルノイア自身色々と調べはしているものの、ユウヒの能力を量りきれていないことも有り、改めて自由騎士団の諜報能力に感心するのであった。


「理由は、侵入するからには何か理由があるはずだが」


「彼ら曰く神託であると」


「馬鹿な、どこの神がそんな神託を・・・」

 そんな彼女達が彼等を強欲の森に入らせた理由はどれほどのものなのか、気になったバルノイアの問いに返って来た言葉は神託。神族から人類への依頼と言う意味でよく使われる言葉であるが、今回の依頼はあまりに危険であり、そんな神託を下した神族に文官の男性は眩暈を感じ始めていた。


「それは、自由騎士団への神託なのか? それとも・・・」


「ユウヒ殿が受けていた神託との事です。今回は彼等三人の同朋であるユウヒ殿支援の為、我々騎士団とは関係なく個人的な援軍と言う扱いにしております」

 文官の男性が蒼い顔を晒しているのを横目に、バルノイアは再度問い掛けると、その返答に対して腕を組んで考え始める。それは今の言葉に様々な情報が詰まっていたからなのだが、どうにも引っかかる部分があったようで顔を上げるバルノイア。


「なんと・・・しかし正式に援軍としないのはなぜ?」

 それは文官の男性も感じていたのか、バルノイアが問いかけようと思った言葉をそのまま彼が代弁する。


「あの三人は元々モーブ所属、自由騎士団には客将として滞在しているだけなので」


「地下帝国・・・モーブ」

 モーブ帝国、遠い過去にその武力に置いて並ぶ者無き国として君臨した巨大国家。しかしその国は突然姿を消し、城のあった場所に残された石碑とその石碑に刻まれた文字以外は忽然と姿を消した伝説の国である。


 国の存在こそ確認できないが、時折モーブ出身の冒険者や旅人、商人などが現れることから実在すると考えられており、その事実に文官の男性は等々眩暈で膝を折ってしまう。


「それと、ユウヒ殿はラフィール様の願いで動いているものかと」


「「!?」」

 そこに更なる追加の爆弾が落され、文官の男性もバルノイアも驚きで思わず言葉を失ってしまった。


「それはまさか、もう教団へ?」


「いえ」


「それが良かろうな」

 絞り出す様な声で問いかけた文官の男性と、女性の返答に目を閉じて頷くバルノイア。


 何故彼らがこれほど驚き狼狽えたかと言うと、女神ラフィールは広く信奉されている事により派閥も多数存在する。その中には心の中で慕うだけの者も居れば、人生すべてを女神ラフィールの為に尽くす者もおり、一部の信徒は歪んだ教義で女神ラフィールを信奉する事で、ラフィール教以外の者を迫害する者まで存在していた。


 過去にそのことが理由で何度も紛争が起っており、その仲裁を平和的に行うため設立されたのが教団と言われる各派閥の代表により構成される組織である。ただ、この教団は内部に対する制御能力しかない為、万が一信徒でも無いユウヒ個人にラフィールからの神託が降りたと知れれば、戒めであるはずの教団は瞬く間にその本質を嫉妬心から変質させてしまう可能性があるのだ。





 自分がそんな微妙な立ち位置に居ると言う事を知らないユウヒはと言うと、


「お、見えて来たな」

 どうやらトミル王都が見える所までやって来たようである。


「見えてきたは良いでござるが、色んな意味で大変そうでござるな」

「うわぁひろいおぉぉ」

「予想以上の広さだがどうするユウヒ?」


 小高い丘を越えた先には、風化していても尚頑丈そうに見える石造りの防壁、その中に広がるのはグノー王都より広く見える街並み、さらに遠くに見える城と城壁からなだらかに下っている王都の全容は、彼らを色々な意味で立ち尽くさせた。


「そうだな、指針で探せば早いけど・・・先ずは探索拠点を町中にでも確保したいから、その為に安全の確認かな?」

 どのくらい立ち尽くしていたのか、少し疲れた様な表情で喋り出したユウヒは小さく肩を落とすとバッグの位置を調整してまた歩き始める。


「まぁ安全第一ってことか」

「風化してんなぁ」

「十数年でござるか、それにしては風化が早い気もしないでもない様な?」


 彼らの足であれば、遠くにあっても大きく感じてしまう王都の門まで十分程度で付くであろう。しかし内部が安全か分からない為、門から先は慎重に調査を進めるつもりのようだ。


「とりあえず全周囲警戒しながら行くとするか」


『らじゃー』


 しかし、この四人が揃った状態でどれだけその『慎重』と言う言葉通りの行動が続くのか、普段の彼らを見ている身としては甚だ疑問である。



 いかがでしたでしょうか?


 彼らはどこまで行っても彼らなままな気がします。それでは後編もお楽しみに・・・してくれたらうれしいです。


 ではまたここでお会いしましょう。さようならー

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