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ワールズダスト  作者: Hekuto


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第百二十六話 トミル王国カレル村 後編

 どうもHekutoです。


 修正作業と見直し終わりましたので投稿させて頂きます。楽しんでいただければ幸いです。



『トミル王国カレル村 後編』


 十数年前に起きた大災害により滅びた国、トミル王国。その国の中でも古くから存在した村の一つであるカレル村、村と言うには少しだけ大きなその村にはやはり似つかわしくない立派な神殿が置かれていた。


 それは古言い伝えを持つ神殿であったが、その口伝を伝えることが出来る者はもう誰もいない。


「完成だな」

「ああ・・・腹減った」

「台無しでござる」


 そんな謂れのある神殿の裏手にある小さな丘の上では、三人の忍者が枯れた倒木に腰を掛けて前を見つめてい居る。


「まぁそれっぽくなっただろ、しかし砂利から御影石っぽく出来る物だな」

 空に上った太陽もそろそろ寝床に付く準備を始めた時間帯、忍者達の正面に立ち忍者達と同じものを見つめるユウヒの目には、大きな石の構造物が自立していた。


「元が砂利と言わなければ解らないでござる」

「ユウヒ、帰ったら俺と石材屋やろうぜ!」

「うむ、我が通報しとくぞ」


「巻き込まんでくれ」

 多数の白骨が折り重なっていた神殿の裏手には、広大な穀倉地帯を見渡すようなに小さな丘があった。その丘を埋葬地としてジライダが穴を掘り、中にはカレル村の村人と一緒に動物の骨も並べられ四人は各々に祈った後、土をかけていったのである。


 しかし土を盛っただけではそこに何があるのかわからない為、ユウヒはきれいな砂利を合成魔法で一つの大きく太い石柱を作り変え、簡易な石碑を作ったのだった。その石碑が出来るまでに忍者達による古墳型案の議論がなされていたのだが、ユウヒは苦笑いを浮かべてすべて却下している。


「それはそれとして、確かにお腹が空いたでござる」


 妙に古墳に詳しかった忍者たちは悔しがったが、晩飯返上でやるのかとユウヒに聞かれると、笑顔でユウヒ案に沿って砂利を集めに走り、その姿にユウヒは苦笑いを深めた。そんな彼らは流石に昼抜きで働いたためか空腹感が精神力で抑え込めなくなってきているようだ。


「そだな、今日は教会の中の調理場借りるか」

 それはユウヒも同じようで、お腹をさすると石碑に頭を下げて厨房を借りるために神殿へと歩き出す。


「それじゃ薪拾ってくる」

「むしろ薪を狩ってくるじゃないか?」

「木の魔物も薪扱いじゃ浮かばれないでござるな」


 ユウヒが歩き始めると、倒木に腰を下ろしていた忍者達も立ち上がり薪を拾いに、もとい狩りを行いに動き出す。


「良く燃えるのは確かだしいんじゃないか?」

 ミズナの殲滅魔法を食らった場所ほどではないが、このカレル村の周囲にもカースツリーの姿を見かけられていた。大量の相手でなければそれほど脅威に感じない彼らにとって、カースツリーは良い薪でしかなく、実際にカースツリーは良く燃える為、この世界でも良質な薪や木炭などの代替品として広く流通している。





 忍者達が逃げるカースツリーを追い回し、ユウヒが教会内の厨房を借りて食事の準備をしている頃、グノー軍とエルフの調査隊が出発した緑の里では、


「シリー様」


「続報ですか?」

 静かになった里の執務室で、シリーが部下の報告を聞くために机の上の書類から視線を上げて居た。


「はい、と言っても既に精霊の気配はない為、遠距離からでは何も解らないとの事ですが」


「そうですか、セーナ達の報告待ちになるでしょうね」

 しかしその報告は報告出来るものがないという報告であり、シリーが強欲の森の状況を知るためには、セーナ達の報告を待つほかないようである。そんなシリーは、窓の外に見える日の落ちてきた空を見上げると、セーナの無事を祈るのであった。


「そうですね。あと別件なんですが、最近森の奥地に妖精族が増えているとの報告が―――」

 その後もシリーへの報告は続き、静かになった緑の里と対照的に森の深部は騒がしさを増している様であった。





 自分の果樹園の人口が増えていることなど知る由がないユウヒは、


「ユウヒ殿スープもよさそうなので持ってきたでござる」


「ここ置いてくれ」

 神殿の奥、女神像の前にある石造りのテーブルのような場所に料理を広げ、忍者達と共に夕餉の席についていた。


「また干し肉のスープか? たまには違うスープも食べたい所だな」

「だなぁ味噌汁が恋しいぜ」


 しかし飽食の国日本出身の彼らからしてみればその献立は寂しいようで、スープの香りを鼻で吸い込みながら、おいしいけどどこか物足りないその味を思い出し小さく肩を落とす。どうやら未だに味噌の開発は進んでいないようである。


「痺れる味噌汁なら作れるが?」


「あれは却下でござる」

「忍者が痺れる味噌ってもうそれ味噌じゃなくて毒物だからな」

「舌先だけとは言え、毒物耐性の高い忍者ボディが痺れるとか思わなかったわ」


 一応見た目も香りも味噌っぽい代物は出来ているのだが、ユウヒの鑑定結果及び、忍者達の体を張った・・・はらされた臨床実験は失敗していた。彼らがげんなりとした表情で不平を洩らすように、とてもその味噌は食べ物と呼べず下手をすれば一般人を殺しかねない物になっていたのである。


「流石異世界の麹菌だな」

 三人から忍者の毒耐性について聞かされていたユウヒは、それでも彼らを痺れさせる異世界の麹菌? に妙な関心を示すのだった。


「何が流石なのか分からんでござるが、とりあえず食べるでござる」

「だな」

「一応教会の中だし、この女神像に手を合わせておいた方がいいのか?」


 そんなユウヒに対して、実害を被っているゴエンモはジト目を浮かべるとお手製のお箸を手にする。そんなゴエンモに続いて懐からお箸を取り出す二人であったが、ヒゾウはちらりと女神像に目を向けると、ユウヒに向かって首をかしげる。


「ん? まぁ・・・実際に神様居る世界だしな」

 なぜそこでこっちに確認をとるんだと言った表情のユウヒであったが、同じくゴエンモとジライダもこちらを見ている事に気が付くと、脱力しながらも手を合わせて答える。


「それでは、手と手を合わせて」


『いただきまーす!』

 手を合わせたユウヒを見た三人はそれぞれ箸を持ったまま手を合わせると、ユウヒの言葉に続いて元気よく食事の挨拶をそろえるのであった。


「ずずぅ、うむ何時ものスープだ」

「こっちもいつもの固さだ」


 挨拶早々食事に手を付ける一同、しかし彼らは知らない。彼らが食事している場所が何なのか、そしていただきますという言葉がこの世界では誰に対するどういうものなのかということを・・・。


「まぁ保存食メインだしな・・・ん?」

 最初に気が付いたのはユウヒ、忍者達の後方で膨れ上がる光の存在に・・・。


「どうしたでござ・・・?」

「あん? なんだよって妙に明るく・・・?」

「ん? ほあ!? なんのひか、めがぁ!?」


 続いて反射してくる光にゴエンモが、次第にその光度を無視できない強さにしていく光にジライダが硬直し、明滅まで始めた強力な光源に振り返ったヒゾウが叫ぶ。


「女神像が光るって事はおこですか!?」


『アッ―――』


 ユウヒが発光する女神像から目を守りながら表情を引きつらせ叫ぶと同時に、女神像はそれまでの何倍にも明るく光り、目の前で腰を抜かす4人の目を焼くのであった。





 そんなユウヒ達の前に異常現象が起こる少し前、とある蛇神の社では、


「おお! すごい、力が戻ってくる!」

 急激に戻ってくる力に驚きと喜びの表情を浮かべたラビーナが、嬉しそうな声を上げていた。


「ほんと何してんだろねあの子・・・少しは私の事も信仰しなさいよね」

 それに反してメディーナは一向に増えることのないユウヒからの信仰に、不貞腐れた目で日の沈んだ大地を眺めている。


「すごいよメディーナちゃん! これなら限定転移までなら可能だよ!」


「まぁあんた魔力だけは多いからねぇ」

 喜びのあまり周囲の状況の見えていないラビーナは、ジト目を通り越して不貞腐れて目が死に始めているメディーナに向かって輝く喜びの表情を浮かべる。それに対してメディーナは窓辺に凭れ掛かりながら適当に返す。


「は! 呼んでる!? ちょっと行って来るね!」


「は? どこに?」

 溜息を洩らすメディーナの前で急に長い耳を真っ直ぐ立てたラビーナはきょろきょろと周囲に目を向けたと思ったら急にそう宣言し、光円盤を出現させメディーナを困惑させる。


「ユウヒキュンのとこ!」


「いや限定何だから無理・・・まさか」


 ラビーナが出現させた光の円盤は、ミズナが使った水の円盤である転移門と同じものであった。しかし本来今の彼女にできる限定転移ではある条件を除いては、目に見える範囲でしか転移できないはずである。


「そうなの! ユウヒ君が私の祭壇に供物を捧げてくれているみたいなの!」


「なるほどね、そ言う事かい」

 その条件とは、彼女を祭る祭壇に供物を捧げ彼女に対して感謝の言葉を捧げると言うものであった。その条件が揃った時のみ、少ない力で長距離を転移することが出来るのだ。


「それじゃ行ってきまーす!」


「アタシの信仰も上げろって言っときなさい」


「はーい」

 今にも転移してしまいそうなラビーナに、メディーナは困ったような笑みを浮かべると、自分の信仰も上げておけとユウヒに対する言伝をラビーナ背中に投げつけるのであった。


「・・・しかし供物ね、多分偶然なんでしょうね」

 光の転移門が消えると今まで騒がしかった部屋の中が急激に静かになり、その静けさにどこか寂しげな表情を浮かべたメディーナ、そんな表情もすぐに苦笑へと変わりすっかり暗くなった外へと向けられる。


「しっかしカレルに居るなんて、何をしてるんだか」

 その視線の先に、神族にとっても危険地帯と言って何らおかしくない場所となってしまった、ラビーナの神殿に居るのであろうユウヒ達を思い描き、呆れた様な笑みで小さく溜息を吐くのであった。





 蛇神の社からテンション高く転移したラビーナ、


「ユウヒきゅ・・・ユウヒ君」

 彼女は転移するとすぐにユウヒの名を呼ぶも、いつも自分の中で呼んでいる呼び名を言い改めると、明らかに猫を被った声でユウヒに呼びかける。


「メガー! メガー!?」

「ひかりが、ひかりが!?」

「めがぁぁいだ!? 「いてぇ!?」」


「・・・あ、あれ?」

 しかし彼女の目に映った光景はまさに阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。両目を片手で押さえたジライダは反対と手で周囲を探りながらふらふらと歩き、両手で目を抑えたゴエンモはごろごろと転がり、同じく転がりまわるヒゾウと衝突事故を起こしている。


「地獄絵図だな・・・【視力回復】よし」

 ユウヒは逸早く異常事態に気が付いたおかげか、片目だけは保護することに成功しており、光で潰された目を妄想魔法で治療しつつ、目の前の状況に表情を引きつらせている。


「あ、あのユウヒ君? これはいったい?」


「ちょっと待ってくれ、こいつ等を復活させないと」

 この状況を生み抱いた張本人は状況が分からずオロオロとするばかり、そんな半泣きなラビーナの姿にユウヒは呆れた視線を送ると、治療のため三人に近づき、


「涙が! 涙がとまらんのじゃぁぁあばた!?」


 一番近くで暴れまわるヒゾウを足蹴にして強制的に停止させるのであった。


「動くな! 魔法掛けられないだろ! 玉ねぎぶち込むぞ!」


『サーイエッサー!』


 ユウヒがどこからか取り出したこの世界の玉ねぎ片手に、三人の忍者を脅し止めてから数分後・・・。


「えっと、こんなことになるとは思わなかったんだよ?」

 ユウヒ達が並ぶ前には、十数分前までのテンションはどこへやら、正座で頭の上の長い耳を申しわけなさそうに前に垂らしたラビーナ姿があった。


「なぜに疑問形」

「テンションで発光具合が変わるとか」

「神が実は不思議生物だった件」


「不思議生物!?」

 しかしそんなラビーナの謝罪とも言い訳とも取れる言葉に、三人黒い忍者はその表情まで黒くしながらテンション低く愚痴の様なモノを吐き出す。特にヒゾウの不思議生物発言はショックだったのか、ラビーナは耳を跳ね上げ赤くなった眼を潤ませる。


「まぁ話は分かったが、そうか・・・丁度いいテーブルだと思ったら供物を捧げる祭壇だったのか」


「そ、そこは気が付いてほしかったなぁ」

 そんなラビーナの説明により判明したのは二つ、彼らの目を焼いた光はテンションの上がったラビーナの制御しきれなかった、と言うより制御し忘れた力が漏れたものである事。


 二つ目はユウヒ達が食事をしていた場所が、ラビーナに供物を捧げるための祭壇であり、『いただきます』は彼女の様な豊穣神に呼びかける祭事の祝詞であるということだった。


「無理だろ、大分風化してたし」

「つかこの女神像ってウサミミ神様だったのか」

「確かにウサミミ付けたら似てなくもないでござるな」


 それらの話に対して彼らは、祭壇と呼ばれた場所はところどころ風化によりひび割れてしまっており気が付けず。またこの神殿がラビーナを祭っているなど、彼らが見上げる大きな女神像からはとてもわからない、なぜならその女神像にはラビーナのトレードマークとも言えるウサミミが存在しないからである。


「え? ああ!? 私の耳が壊れてる!」


「俺等がここ来た時からこうだから風化してとれたんだろ」

 どうやらラビーナの驚き様から、元々はちゃんと女神像にはウサギの耳が付いていたようであったが、今はその頭に耳らしきものは存在しない。


「・・・しゅん」


「声に出しちゃったよ」

「我も初めてリアルで聞いたわ」


 今更気が付いた事実に心底、それこそ目に見え聞こえるほどに気落ちしたラビーナには、先ほどまで恨みがましい視線を注いでいたヒゾウとジライダもこれ以上は何もすることが出来ないようで、気遣わしげな表情を浮かべている。


「ユウヒ殿、女神像の後ろに壊れた耳っぽいのが落ちてたでござる」


「んー確かにウサミミっぽい破片だな」

 一方姿の見えなくなっていたゴエンモはと言うと、会話の途中でいろいろ察したらしく、女神像の裏側から明らかにウサミミの破片であろう形をした物を両手に抱えて現れ、ユウヒもその石の破片を手に取ると苦笑いを浮かべて頷く。


「わ、私の耳が・・・兎族の誇りが」

 ゴエンモが祭壇の上に広げ、ユウヒが手に取った石のかけらを見たラビーナは、完全に涙が零れる寸前と言った顔でそっと石片を拾い上げると、震える手で愛おしげにその欠片を撫でながら落ち込みのどつぼに嵌るのであった。


「ウサミミは誇りっと」

「何メモってんだ?」


 そんなラビーナの横では、ヒゾウが懐から取り出したメモ帳に今聞いた言葉を書き込み始め、隣のジライダは不思議そうにそのメモをのぞき込む。


「いや本にする時のネタに」

「諦めてなかったでござるか」

「以外に豆だな」


 どうやら以前言っていた異世界本の話は真面目な話であったようで、ヒゾウのメモ帳には様々な事がメモされていた。そんないつものやり取りをした後、彼ら三人はそろってその視線を負の空気渦巻く方向へと向け、


「・・・」

 肩を落とす。


『・・・・・・(ユウヒ タスケテ)』


 どうやら三人の忍者は彼らなりに空気を変えようと試みたようだが、心底落ち込んだラビーナの耳には届かなかったようで、今度はその視線をユウヒに向けたかと思うと目で助けを求めるのであった。


「・・・はぁ、どれ貸して見ろ」


「へ?」

 重い空気を纏って落ち込むラビーナと、そんな空気に耐え切れない忍者達、そんな二つの圧力によって頬に汗を伝わせるユウヒ。妙な圧力にいろいろと考えたユウヒは、疲れたように溜息を吐きラビーナに掌を広げて見せるとそう声をかけ、声をかけられたラビーナはきょとんとした幼い表情で不思議そうな声を洩らす。


「直せるか試してみるから、とりあえず繋ぎ合わせてくっ付ければいいだろ?」

 そっと元はウサミミであった石の破片を渡したラビーナは、石片を見ながら話すユウヒの言葉を聞いて何をするのか理解したらしく嬉しそうに耳を小刻みに動かしている。


「お? パズルか」

「パズるのでござるな」

「おーし、俺が前衛的にしあげてやんよ」


「ぜんえい?」

 しかし妙な緊張から解放された忍者達がユウヒの周りに集まり始め、聞きなれない言葉を耳にすると彼女は再度きょとんとした表情でオウムの様に聞き返す。


「アバンギャルドでござる」

「マカセロ!」


 ヒゾウがユウヒの持っている以外の破片を集め、ゴエンモがラビーナに親指を立てながら祭壇に風呂敷を敷き、ジライダはユウヒの手から一番大きな欠片を奪取するとすべての欠片を風呂敷の上に並べてラビーナに自信に満ちた視線を向けるのであった。

「あ、あばんぎゃ? ・・・う、うん? まかせた?」


「・・・まかせるんだ」

 困惑しながら小首を傾げているのか、それとも頷いているのかわからないラビーナと、三人で風呂敷を囲んでパズルを始める忍者の姿に苦笑を洩らすユウヒ。なんとなく嫌な予感を感じつつも、それでもとりあえずは彼らの作業を見守ることにしたようである。





 第一回大パズル大会がカレル村のラビーナ神殿で行われている頃、エリノマ平原ではグノー王国軍と冒険者、さらにエルフからなる混成部隊が野営を行っていた。


「・・・」


「アルディス様ここに居られましたか」

 通常なら強風が吹き荒び、とてもではないが野営などできないこの時期のエリノマ平原。しかしそこにあって穏やかな宿営地の一角では、アルディスが平気な顔で一人夜空を眺めている。


「あ、バルカスどうしたの?」


「あまりお一人になられますな、また陛下に怒られますぞ?」

 どうやらアルディスは護衛を誰一人付けずにテントから抜け出してきていたようで、探しに来たバルカスの顔には呆れと疲れが混ざった表情が浮かべられていた。


「えー宿営地の中くらいならいんじゃないかな?」


「兵士達が困るのですよ」


「そうなの?」


「失礼でもあればと気が休まりませんからな」

 いくらアルディスの性格が知れ渡っているとしても、そこはそれ王族と一般兵士の間には隔絶した壁があり、本能的の緊張してしまうものである。いくらアルディスが良くても、対面してしまった兵士の気が休まるわけがなく、あまり彼にふらふら歩かれるのはバルカスもいろんな意味で困りものの様だ。


「ユウヒみたいに気にしなくていいのになぁ」


「・・・」

 理解していてその言葉なのだろうどこか不満そうなアルディス、それ故に気安く接してくれるユウヒは、彼にとって得難い出会いだったのだろう。そんなアルディスの言葉に、バルカスは何と言えばいいのか解らないといった妙な表情で肩を落としていた。


「それにしても不思議だよね」


「精霊魔法ですか?」

 しばらく無言で夜空を眺めていたアルディスであったが、その視線を闇に包まれた遠くの草原に向けると、荒れ狂ったように靡く草原の草木を見つめそうつぶやく。先ほども言ったが、本来この時期のエリノマ平原において、この様にゆったりとした会話は風が強すぎて出来ない。


 そんな会話を可能にしているのは、セーナ達エルフの行使する精霊魔法による結界が、平原の強風を遮っているからである。


「うん、僕等の使う結界魔法とは根本的に違う感じだね」

「そうですな、無理が無いと言ったらいいのでしょうか」

 この結界の中においては、外からの風は一切内部の人間に影響する事無く、また結界の内部は緩やかな空気の流れを感じることが出来て、息苦しさなどの閉鎖感も感じない。


 もしこの魔法と同じように、外の風を完全に遮断する結界を人族の使う一般的な魔法で再現したとすれば、それは空気を完全に遮断してしまい長時間は窒息の危険性がある結界になってしまうか、安全でもとんでもなく高いコストがかかってしまう。


「魔力消費も少ないんだって、ただ使う場所で効力も変わるとか言ってたね」

 人が使う一般的な魔法と、エルフの使う精霊魔法とでは性質が根本的なところで違うことがこの結界一つからでも分かり、魔法好きのアルディスにとってこの場にいるだけでも感慨深いのであった。


「一長一短ですな」


「魔法は奥が深いなぁ(でもそれならユウヒの魔法は精霊魔法? それとももっと何か別の・・・)」

 バルカスとの会話で、精霊魔法と人の魔法とを再認識したアルディスであったが、夜空を見つめるその瞳の奥には、ユウヒの使う魔法に対する疑問が燻り続けているようだ。





 そんな精霊魔法以上に異質な魔法を使うユウヒの目には、


「あばんぎゃるど、奥が深いです・・・」


「いや、これは浅はかなだけだろ」


『ごめんなさい』

 真っ白に燃え尽きてしまったラビーナの姿と、祭壇の上で綺麗な土下座をする忍者の姿が映っていた。そして彼ら三人の忍者の土下座する頭の先には、最初よりもさらに細かく割れた石の欠片(元ウサミミ)が散乱している。


 かれこれ数分前まで必死にウサミミの復元作業に没頭していた忍者達であったが、欠片が足りなかったのか、それとも単純にパズルの才能がなかったのか一向に元の姿を見出すことが出来なかった。終いには無理やり合わせようとして石の破片をさらに細かくする始末、その元ウサミミの無残な姿にはラビーナの目も虚ろになるばかりである。


「はぁ・・・後は何とかするさ、とりあえずそのバラバラ破片を材料にするとして」


「ま、まだ希望は有るの?」

 しかし、まだ望みは立ち消えていなかったようで、テンション高くパズルしていた忍者達の後ろで、終始傍観者に徹していたユウヒがようやく動き出す。動き出したユウヒの声に、真っ白で虚ろな目をしていたラビーナは振り返り潤んだ眼をユウヒに向ける。


「まぁ石の繋ぎ合わせは昼間にやったし、何とかなったら・・・いいなぁ」


「やばいユウヒの目が白い」

「くっ! 我らに美的センスがあれば!」

「それ以前の問題でござったが?」


 すわ希望が現れたかと顔を上げた忍者達が見たものは、呆れを通り越した白い眼をしたユウヒが、見事に粉々になった石片を砂の山を作るように掻き集める姿であった。


 いったい何をどうしたら手のひらサイズはあった石片が文字通り粉々になるのか、小一時間ほど問い詰めたいユウヒであったが、心の中で『忍者だからしょうがない』という謎の呪文を唱えながら同時に合成魔法で粉々になった石を粘土の様にまとめ始める。


「ふむ、ふむふむ」

 そして手元に膨大な魔力を集め合成魔法を使いながら、ラビーナを見詰め始めるユウヒ。


「えっと、どうしたのかなユウヒ君、そんなに見詰めても出てくるのは体しかないよ?」

 すると、半放心状態であったはずのラビーナは、見る見るその顔に生気を取り戻し、さらに頬を高揚させると照れたように耳をいじり始めると、何を考えたのかそんな言葉を洩らしだす。


「もういっそ全部じゃねそれ?」

「最終選択肢だな、何と言うヌルゲ」

「これは酷いとしか言えないでござる」


「ええ!?」

 その言葉に一番反応したのは忍者達、先ほどまで申し訳なさそうな表情で土下座していた人物と同じとは思えないほどに冷めた表情を浮かべており、その口から飛び出す言葉には明らかな棘が付いていた。どうやらあまりにちょろいラビーナに、いろいろと思うところがあったようだ。


「ラビーナ、自分が一番カッコいいと思う形で耳を立てたまま維持してくれる?」


「みゅん?」

 そんな忍者達の事など気にせず、と言うか集中しているため目に入っていないユウヒは、ラビーナに妙な指示を出し始め、その指示にラビーナはキョトンとした顔で首を傾げる。


「僕が、いや『わたしがかんがえた いちばんかっこいいみみ』ってことだな!」

「ごろが悪すぎでござる」

「3点だな」


 一方完全にいつもの調子に戻った三人は、好き好きに発言をしながらユウヒ達の様子をうかがっている。


「こ、こうかな」


「うむ・・・カメラがあれば撮るだけでいんだがな、しばらくそのままで」

 どうやらユウヒは目の前に実物を参考に、合成魔法で新たな耳を作るつもりでいるようだ。普通ならそんな魔力の無駄遣いをする人間など存在しないし出来る者もいないが、ユウヒの膨大な魔力と、妄想によっていくらでも精度を上げられる合成魔法はその問題をものともしない。


「なるほど、実物見ながら捏ねるわけか」

「デルモですね」


「なんだその土曜の朝に出てきそうなキャラみたいなのは」

 合成魔法を使い始めテンションが上がってきたことで集中力も増し、忍者達の声に受け答えする余裕の出てきたユウヒは、目の前の兎耳に集中しながらも忍者達に突っ込みを入れる。


「業界風用語でござる」

「風が重要だな」

「ただの似非ですがwww」


「まぁいいや、ふむふむ・・・ウサミミって言っても色々違うもんだな」

 突っ込みを入れられ妙な返答を返す三人に、ユウヒは横目で苦笑するとさらに集中し始め、ウサミミの細かい部分にまで集中し始めると以前に何度か見たウサミミとの違いに気が付きそんな言葉を洩らす。


「ええ! 誰と!? 誰と違うの!? 「動くな!」みゅん!」

 その言葉に一番早く反応したのは忍者達ではなくラビーナであった。どうやら同じウサミミを持つ者として、ほかの耳と比べられることにはいろいろと複雑な気持ちがあるようで、それ以上の感情もありそうであるがすぐにユウヒの声で元のポーズに戻される。


「そ、ソムリエじゃ!」

「ウサミミソムリエ・・・だと!?」

「まさかユウヒ殿が伝説のウサミミソムリエだったでござるか!?」


「どこの伝説だよ、グノー王都とかあと学園都市で護衛した学生の子がウサミミだったんだよ」

 当然ユウヒの言葉には忍者達も反応を示す。一拍の間を置いて驚愕の表情を浮かべる忍者達に、ユウヒは呆れた表情を向けると簡単に出会った経緯を話す。これまでの旅でユウヒは意外と兎の獣人と出会っている。


「そそ、その子とはどんな関係だったのかにゃ!? 「はい動かない」みゅん」

 それがユウヒの注意でしょんぼりとした表情を浮かべる神様の影響かどうかはわからないが、よくよく思い返せば知り合っていないが見かける事も多かったなどと首を傾げるユウヒ。


「ウサミミ少女とかレベル高いな・・・」

「拙者学園都市で何をしていたでござるか・・・」

「けも耳を拝み忘れるなんて・・・」


「いやマジ凹みかよ、まぁその子垂れ耳・・・あ、だからロップって名前なのか?」

 忍者達はそんな話を聞き、自分たちが獣人と言う種族と接点がほぼないことに気が付くと、本気で落ち込み始める。


 確かに多種族が比較的平和に暮らせるグノーと言っても、全体から見て獣人の数は人族に比べ圧倒的に少ない。しかしまったく見ないのもおかしければ、特に少ない兎族をよく見かけるユウヒの目もおかしいのかもしれない。


「ロップ? 兎族では割とポピュラーな名前だね」


「なんだロップイヤー繋がりだと思った。まぁそれもそうか異世界だしな」

 そんなユウヒは、ウサミミを作りながら学園都市で出会った元気な兎少女の事を思い出す。ラビーナ曰く、兎族の名前でロップと言う名前はありふれた名前らしく、元の世界で兎を飼いたくて多少の知識があったユウヒは、想像が外れるも異世界だし当然かと肩を竦める。


「確か垂れ耳の可愛いウサギでござるな」

「お前ら詳しいな」


 どうやらゴエンモもユウヒと同じ知識を有していたらしく、兎の姿を思い出し頬を緩めていた。


「垂れウサミミ少女・・・マジでカメラ持って来たかった」


 一方兎の種類はよくわからないものの想像力は人一倍なヒゾウは、頭の中で妄想したウサミミ少女に頬をだらしなく緩め、毎度ながらカメラを持ってきていなかった事に後悔するのであった。


「犯罪起すなよ? ほい出来た」


『おおお!』


 そんな混沌とした空気の中でも、ユウヒは合成魔法で女神像に取り付けるウサミミを作り出しラビーナの前に掲げる。その耳は実際のラビーナの耳より一回り大きく、しかし石像の頭には丁度いい大きさに出来ていた。


「後はこれをくっ付ければいいだろ?」

 一通りラビーナに耳を見せたユウヒは、ひょいと立ち上がりウサミミを片手に女神像の前まで進むと、そう言ってラビーナに笑いかける。


「なんてユウヒ君は良い子なんだ! これなら信仰が上がっても当然だったんだね・・・うんうん!」


『信仰?』

 その姿にいたく感激したラビーナは、目元に感激の涙を滲ませると、首を傾げるユウヒ達を置いて一人納得したように何度も頷き続けるのであった。




 いかがでしたでしょうか?


 皆さんは強烈な光を直視しないように注意しましょう。あと作者は割と兎が好きです。

 それではまたここでお会いしましょう。さようならー

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